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登場人物:
・橘 晴斗(タチバナ ハルト)22歳
・橘 壮亮(タチバナ ソウスケ)26歳
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(4)
「――ッは……」
テレビの音で目を覚ました。
俺はソファから上半身を起こして頭を抱え、「はッ、はッ、はッ、はッ、」と短い呼吸を繰り返した。眠っている間に呼吸が止まっていたかのように胸が苦しかった。
ケツの穴から冷たい精液がドロッと流れるのを感じ、兄に犯された昨日の記憶がフラッシュバックした。
手がわなわなと震え、ますます息が苦しくなり、憤怒とも恐怖とも困惑つかない感情が込み上げた。テレビの笑い声に神経が逆撫でされ、そこに映っているニヤケ面のコメンテーターのオッサンの首を絞め殺したくなった。
俺は兄に噛まれた首筋に触れた。傷はどこにもなかった。あんなデカいイチモツを突っ込まれて肛門が裂けるような激痛が走ったというのに、尻の穴に傷はなく、ただ違和感だけが残っていた。
「あれ……?」俺のチンポは、朝勃ちのように硬く反り返っていた。「何か、デカくなってね……?」
心なしか、自分のそれが昨日よりデカくなっているように感じられた。
チンポを握ると、長さと太さが増したのがはっきりと分かる。手の平にズシッと響くような存在感がある。握っただけで足先からぞわぞわと快感が走り、兄に犯されたケツが疼いた。俺はそんな自分自身に嫌悪感を覚え、ぱっと手を離した。
背中にひいやりした風を感じた。
なぜかベランダの窓が開いていた。
夕刻だった。夕陽を浴びたカーテンがかすかに揺れている。頭がうまく回らず、乗り物酔いと似た気持ち悪さがした。壁掛け時計を見ても、昨日の出来事から何時間が経過したのか簡単な計算も出来なかった。
焼肉……だろうか……? ふと開け放たれた窓から肉の濃厚な匂いが鼻を突き、俺は凄まじい食欲に駆られた。いや、それは食欲というより、飢餓感に近かった。俺はリビングのテーブルに残っていた昨日のデパ地下の総菜を手掴みで掻き込んだ。
それから俺は、台所の冷蔵庫の中身を貪った。
もはや味は分からなかった。生肉なんてヤベェだろ、腹を壊すどころじゃ済ねェよ、と怯えながらも、片っ端から口の中に放り込んでいった。自分であって自分でない何かに取り憑かれているようだった。生の豚肉、生の鶏肉、生卵、ヨーグルト、納豆を平らげ、更に炊飯器に残っていた白米、更にキッチンストッカーに入っていたカップラーメンを湯も注がずにバリバリと食べ尽くした。
それでも、飢餓感が満たされることはなかった。このキッチンに置いてあるようなメシでは決して満たされないことがないだろう。ああ、そうか、と俺はリビングの窓を振り返った。
リビングの窓から漂ってくる、何だか分からない肉の濃厚な匂い――。
それだけで、ジュワッ、と涎が溢れる。
俺はきっと『肉』を求めているに違いない。
……外に、出よう。
「あーッ、クソッ、」
喰いてェッ! 喰いてェッ! 喰いてェッ! 喰いてェッ! 俺は自室へと走った。シャワーを浴びる時間さえ惜しく感じられた。俺の身体は兄の精液でドロドロに汚れたままだったが、そんなことさえどうでもよかった。
引っ越し業者の段ボールから、淡い桜色のオーバーサイズのボタンダウンシャツ、白色のタンクトップ、白色のボクサーパンツ、紺色のタイトめなジーンズを取り出した。生地の硬めのジーンズを穿いても、」股間の盛り上がりは誤魔化せなかった。オーバーサイズのボタンダウンシャツはゆとりがあったはずなのに、なぜか胸元が苦しくなっていた。
俺は玄関を開け、街に出た。
駅前。
学校帰りの学生や、会社帰りのサラリーマンや、居酒屋のキャッチや、宗教勧誘など、さまざまな人間で駅前はごった返していた。陽が落ち始め、俺はなぜか自分の時間が訪れたような気持ちになった。
人がごった返す場所で、『肉』の匂いは耐えがたいほど濃厚になった。
おびただしい肉、肉、肉、肉、肉、肉――。
すべての人間が『肉』に見え、歯茎の疼く感覚とともに、涎が止まらなくなった。
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ。心臓がぎゅうっと締め付けられ、全身の毛穴から汗が噴き出す。
その時、駅のデパートの壁に設置されたディスプレイが視界に入った。
「では次のニュースです。都内の××区における連続殺人事件について――」
なぜか、ヒトの肉に喰らい血を啜っている兄の姿が脳裏を過ぎった。
――『なあ、仮に俺が凶悪犯だったら、お前はどうすんの?』――
ステーキハウスでの兄の冗談っぽい言葉を思い出した。
直感が働いた。
もしかしたら、あれは冗談ではなく、本当のことだったのかもしれない、と。
目を瞑ると、瞼の裏にヒトの肉に喰らい血を啜っている兄の姿が浮かび上がった。それはまるで現実で目の当たりにしたような生々しさを感じた。気がつけば、俺は、ヒトの肉に喰らい血を啜っている兄の姿に自分自身を重ねていた。
ハッとした。これじゃあ、俺が犯罪者予備軍みたいじゃないか。
――いや、違う。
俺は犯罪者なんかとは違う。俺が、犯罪者を殺せばいいんだ。
「犯罪者に制裁を下す」、そうすれば、俺はただ快楽のまま殺人を繰り返す凶悪犯とは違うことが証明できる。
「殺してやる……殺さねェと……俺が……犯罪者どもを……」俺はぶつぶつと呟きながら立ち上がった。
それにしても、どいつもこいつも似通って見える。せいぜい男か女かという区別しかつかない。あー、犯罪者なんてどうやって見つけ出せばいいんだよ。とりあえず全員ぶっ殺したら犯罪者に行き着くんじゃねェだろうか?
どけ、と言っている訳でもないのに、周囲の人間は勝手に俺を避けているようだった。
「……あ?」
デパートのショーウィンドウに映り込んだ自分の姿が視界に入った時、それが俺だと気づくのに時間が掛かった。
誰だ、こいつ?
「お、れ……なのか……?」
俺は、兄とよく似た嗜虐的な冷たい笑みを浮かべていた。
興奮のあまり頬は紅潮し、眼は血走って赤く染まっていた。
さっき歯茎が疼いた原因はこれに違いない、口の端には獣のように鋭く伸びた犬歯がぬらぬらと輝いていた。
俺の肉体は急激な成長を迎え、昨日までの自分と比べ物にならないほどデカくなっていた。
胸が、背中が、肩回りが、腕が、窮屈過ぎて苦しかった。オーバーサイズのボタンダウンシャツは今やパツパツに膨らみ、盛り上がった筋肉のシルエットをいっそう際立たせていた。長袖のシャツは、もはや七分丈のように縮んで見える。
股間に張ったテントもまた、明らかに存在感を増していた。ググッ、ググッとチンポがかすかにヒクつきながら硬さを増すにつれ、ジーンズのチャックは内側から押し上げられるように開いてしまっていた。そこから白色のボクサーパンツに覆われたチンポが顔を出している。ジュクジュクと先走りが溢れ続けるせいで、白色のボクサーパンツはうっすら中身が透けていた。
「……スッ…………ゲッ……」
ハアァッ、と思わず嘆息が洩れた。
ドックッンッ!! ドックッンッ!! ドックッンッ!! ドックッンッ!! 心臓の鼓動が激しくなり、自分の中に眠っている得体の知れない何かが目覚めるようだった。
マンションで目覚めたばかりの時は、兄に対して憤怒とも恐怖とも困惑つかない感情を抱いていたのに――
それが、打って変わって、俺は兄に対して激しい情欲を覚えていた。
「壮亮ッ、壮亮ッ、壮亮ッ、壮亮ッ、」俺は兄の名前を呼びながら、心臓の鼓動ではち切れそうな胸をぐっと押さえた。兄のことを考えるだけで、クスリの禁断症状のように手がぶるぶると震えた。
腰から背中に向かってブルッと快感が走ったかと思えば、ビュクッ!! ボクサーパンツの薄い生地を貫通して、白濁した液体がショーウィンドウに飛び散った。
兄を思いながらイッた瞬間、俺は《橘 晴斗》という自分の輪郭がドロドロに溶けるような、そして兄の輪郭と混ざり合うような背徳感に襲われた。
ビュルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!! ビュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッッ!!!!
強烈な快感に貫かれ、膝がかくかくと笑った。ショーウィンドウに映った俺は、歪んだ笑みを浮かべていた。
(続く)
お待たせしました。
今月は更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
月の途中でコロナに感染して寝込んでいました。
まさか自分がコロナになるとは…(・_・;)
幸い、症状は大したものではありませんでした。
不謹慎ですが、「あ~感染モノが書きたい」と思いましたw