no preview
DESCRIPTION
松重 泰海(まつしげ ひろみ)
西山 虎太郎(にしやま こたろう)
私立××高等学校、器械体操部――。
高校三年生の春だった。
「あー、まじで理不尽だよなァ」西山虎太郎は床に散らばったペットボトルを拾いながら、やや釣り気味のクリッとした目を細めて溜め息をついた。三年生のなかでは背が低かったが、廊下を歩いていると「え、あの人デカくね?」と下級生が振り返るほど身体つきががっちりしていた。
「こっちの台詞だよ。全部お前のせいなんだからな?」松重泰海は箒とちりとりを持った手を止め、虎太郎を睨んだ。泰海はクラスの女子の支持率の高い端正な顔立ちの持ち主で、虎太郎より頭ひとつぶん背が高かった。
今回の発端は、三十分前にさかのぼる。
顧問が日頃の練習について長々と語っている時に、虎太郎が泰海に話しかけたことで注意された。「お前らはたるんでいる、三年生は一年生と二年生の模範であるべきなのに何をやっているんだ!」と叱り飛ばされ、ペナルティとして二人だけで部室の掃除を命じられたのだった。
「いやァ、俺のせいでごめんなァ」虎太郎はふざけた調子で謝罪の言葉を述べ、ペットボトルの入ったゴミ袋を床に置いて泰海に近づく。虎太郎は泰海の背中に手を回し、ぐっと腰を押しつけた。
「何、お前、勃起してんだよ」泰海は小声で言って、虎太郎の身体を突き放そうとした。
泰海は虎太郎が本気なのを覚ると、溜息をついて箒とちりとりを手から離した。溜息をついたわりに、表情はまんざらでもなさそうだった。部室のドアの近くの壁に設置された小さな鏡に、唇を重ねる二人の横顔が映り込んだ。
男同士でイチャつくことの背徳感。誰かに見られたら学校生活が終わるというスリル。それらが虎太郎と泰海の性欲を掻き立てるスパイスになっていた。盛り上がった股間をジャージ越しに押し付け合い、ハッ、ハッ、と息を荒げた。唇と離すと、それぞれの唾液が糸を引いて顎に垂れた。
二人は恋仲だった。高校一年生の夏休みに付き合い始め、クラスメイトや部活の仲間にバレないように秘密の関係を続けてきた。校内では、ボディタッチはもちろん、コミュニケーションそのものを控えていた。
三年生になってから、虎太郎が大胆な行動に出るようになった。校内の人目につかない場所を探し出して泰海にイチャつくことを求めた。泰海は誰かに見られるのを恐れ、はじめは虎太郎にNOを突き付けていたものの、やがて積極的に受け入れるようになった。このままではヤバい、絶対いつかバレるだろう、と泰海は若干の恐怖心を抱きつつも、虎太郎から欲情した眼差しを向けられると「今回限りなら……」と自分の中で言い訳を並べて快楽を貪ることを選んでしまう。
虎太郎はジャージの裾から手を入れ、泰海の軽く汗ばんだ腹筋と脇腹をなぞった。
「やめろって」泰海は小声で言った。その声にはどこか甘えたような響きがあった。
虎太郎はそれには答えず、「泰海って、一年の頃と比べるとガタイ良くなったよな。ほら、胸の厚みが全然違う」と言い、泰海のジャージを捲り上げて乳首に舌を這わせた。泰海は乳首責めに弱く、ァ、ァ、と熱っぽい息を洩らした。
「そんなこと、ねェよ。俺は、お前みてェなカッケェ身体になりてェよ」泰海はやや赤らんだ顔で言った。器械体操部で練習を重ねてきただけあり、二人とも平均的な高校生の男子と比べるとガタイが良い方だったが、虎太郎は特に恵まれた才能を有していた。
その時、ロッカーの上から真っ黒い何かの塊が落ちた。
二人は他に誰かが部室にいたのかと勘違いしてビクッと震えた。一瞬で興奮が冷めた。振り返ると、真っ黒いアンダーウェアとタイツが落ちていた。何かの拍子でロッカーの上から落ちたらしい。
「何だこれ、こんなん誰か使ってたっけ? OBのかな?」虎太郎は目を細め、ジョイントマットの敷き詰められた床から、アンダーウェアとタイツを人差し指と親指でつまみ上げた。それは黒っぽい魚の鱗のような汚れに覆われていた。「汚ねェな、捨てちまおっか」
「いやいや、他人のを勝手に捨てるのはまずいだろ」泰海は言った。
「はッ、じゃあお前が片付けてくれよ」虎太郎は鼻で笑い、アンダーウェアとタイツを泰海にむかって投げつけた。
泰海の顔面にアンダーウェアとタイツが当たった瞬間、黒い粒子のようなものが散った。
精液のような、雄の体臭のような、グルマン系の甘ったるい香水のような、体操着や下着に滲みついた汗の臭いを何十倍にも凝縮させたような、種類の異なるさまざまな臭いが混ざったそれが泰海の鼻孔を刺激した。
泰海はがつんと頭を殴られたような衝撃を受け、床に膝を突いて項垂れた。
何かのギャグかと虎太郎は思い、膝を突いて項垂れたまま動かない泰海を無視した。しかし、一分経っても、二分経っても、泰海はその場から動こうとしなかった。異変に気づいた虎太郎は、泰海の横に屈み込んだ。
「急にどうした? 大丈夫かよ?」声を掛け、ぽんと軽く肩を叩いた。
「アァッ!!」泰海は虎太郎に肩に触れられたと同時に、身体をびくっと震わせた。
泰海は、自分に何が起きているのか理解が追いつかずにいた。天井がぐるぐると回っているような目眩。足元の抜け落ちそうな不安感、焦燥感。皮膚には鳥肌が立ち、脂っぽい汗が噴き出した。
――虎太郎の心配そうな声が聞こえたが、泰海に返事をする余裕はなかった。頭がガンガンした。胃の内容物が逆流するような気持ち悪さを覚え、口からだらだらと涎が流れた。
そして、自分でもよく分からない行動を取っていた。泰海はアンダーウェアとタイツを拾い上げ、顔に押しつけ、腹を空かせた犬のような貪欲さでもって何度も何度も得体の知れない黒い粒子を吸い込んだ。
得体の知れない黒い粒子を吸い込めば吸い込むほど、さっきまでの息苦しさが薄れた。それどころか、頭の中が冴え渡り、身体じゅうに力が漲る。いつのまにかジャージの股間が大きなテントを張っていた。
泰海の胸の内で、真っ黒いアンダーウェアとタイツに袖を通したいという欲望がムクムクと膨らんだ。虎太郎の怪訝な視線を感じながらも、泰海はジャージをボクサーパンツと靴下を脱ぎ捨てていく――。
「お、おい、やめろって――」急に脱ぎ出した泰海を見て、虎太郎は焦った。普段の泰海からは到底考えられない行動だった。だが、虎太郎の声は、真っ黒いアンダーウェアとタイツの虜になった泰海の耳には届かなかった。
真っ黒いアンダーウェアとタイツに身を包んだものの、泰海にはサイズが大き過ぎた。胸の隙間は空いていたし、手足も大きく余り、だらしのない印象を与えた。
しかし、だらしのない印象はすぐに払拭された。真っ黒いアンダーウェアとタイツは何かの生き物のように動き出し、泰海の身体に密着した。密着するだけでなく、泰海の身体をぎゅうぎゅうと締め付けた。皮膚と同化したように身体のわずかな凹凸やシワまでもが再現され、汗に濡れて鈍い光沢を放った。
(あれ? 俺、何やってんだろ――?)泰海が自分自身の行動に違和感を覚えたのは、真っ黒いアンダーウェアとタイツに身体を乗っ取られた後だった。ドクンッ!! ドクンッ!! ドクンッ!! ドクンッ!! 首の太い血管が震えるような勢いで心臓が大きく脈を打つのが聞こえた。
「ゥッ――ッ――ッッ――ァッ――」泰海は血走った目を剥き、ジョイントマットの敷き詰められらた床に膝を突いた。
ピキッ、ピキキッ。真っ黒いアンダーウェアとタイツの下で、首筋や肩や腕や背中や腹や脚に細かな血管が浮かび上がる。
ギシギシッ、ゴキンッ、ゴキゴキッ、ミシミシッ――。
骨の軋む音、筋線維の切れる音が続き、泰海の肉体は爆発的な勢いで成長をはじめた。常人であれば失神するほどの激痛だったが、異常なほどドーパミンが分泌されているせいで痛覚が麻痺していた。それどころか、泰海の興奮はいよいよ最高潮に達しようとしていた。
「……ッ……グウッ……ウッ……ゥゥウッ……ァッ……」泰海は両手で頭を抱えて身を捩りながら、下腹部に反り返ったチンポから白濁した精液を盛大に飛び散らせた。
泰海の首はずっしりと太くなり、肩は丸味を帯びてパンパンに迫り上がり、腕はまるで太腿と見紛うような迫力を持ち、胸筋は濃い陰影を落とすほど分厚く盛り上がり、腹筋は厚みのあるシックスパックを魅せ、背中は筋肉の束と束とがうねうねと蠢くさまを描きながら見事な逆三角形に広がり、太腿や脹脛の筋肉はごつごつと角ばるほど大きくなり、尻は引き締まって左右に窪みをつくる。
……その間、泰海は自身の肉体に白濁した精液をぶッ放し続けた。太い血管の絡んだチンポの竿を震わせながら凄まじい量の精液を打ちまくり、全身がどろどろに汚れる。
キモチイィ!! キモチイィ!! キモチイィ!! キモチイィ!!
足の爪先から頭の天辺にむかって快感が駆け抜け、射精を繰り返すほどにチンポはぐんぐん長さと太さを増した。睾丸も重さを増してずっしりと垂れ下がった。
爆発的な勢いで成長する肉体から熱気が立ち昇り、強烈な雄臭さが部室に充満した。それは、当の泰海自身でさえも頭がクラクラするような雄臭さだった。泰海は自分の肉体が取り返しのつかない一線を越えようとしているのを覚った。
泰海の背丈は二メートルを優に超え、立ち上がると天井に頭がぶつかった。汗をぐっしょりと吸い込んだ真っ黒いアンダーウェアとタイツに包まれた、高校生の一切の面影のない圧巻のバルク――。
「あー、どうしよ、止まんね」泰海は言った。鳩尾の近くにまで反り返った立派過ぎるイチモツを片手で押さえ、指の隙間からドビュドビュッと濃い色の精液を溢れさせながら、尻餅を突いて硬直している虎太郎を見下ろした。
泰海は、自信に満ち溢れた恍惚とした表情を浮かべていた。眉は太く凛々しく、目付きは鋭く、顔の輪郭はいっそうシャープになっている。耳に掛かるほどの長さだった髪はサイドを刈り上げたベリーショートで、そのモミアゲと繋がるように顎髭がチクチクと生え揃っていた。
かつての女子の支持率の高さそうな端正な印象はどこへやら、今ここにいるのは性欲を押さえきれない野獣そのものだった。
「虎太郎、俺、どうなってる? お前の目から見えることを教えてくれよ。これ、現実だよな? なあ?」泰海はそう言いながら、ずっしりと前に迫り出した分厚い胸筋、見事なシックスパックの割れ目に指を這わせ、そのまま腰、引き締まった尻の窪みをなぞった。下腹部に反り返った逞しいイチモツをバチンと弾き、筋肉のボコッとしたラインの浮かび上がった太股を撫で、またすぐに上半身に手を戻し、丸みを帯びて盛り上がった肩、ぶッ太く血管の浮かび上がった腕、幾重もの筋肉が犇き合いながら広がりを見せた背中を確認した。
(続く)
あとがき:
いつも応援ありがとうございます!
大変遅くなって申し訳ありません。
久しぶりの小説に苦戦しまくり、何度も何度も書き直していました。
サトーは、小説に関してすっかり自信を喪失しており、「これでいいのだろうか?」と自問自答を繰り返してしまいます…。絵を描くのと違って、物語をつくることの難しさを痛感しました(…小説、まだ需要ありますかね!?汗)。