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貴族と異世界人の後日談になります。3000字くらいです。
トゥーリングとして脱臭したり懸命に役に立とうとするも、エレノアには着けてることすら忘れられて、自我が崩壊していく話や、左足用にもう一人トゥーリングとなってしまうお話しを書いてみました。
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あの日以降、指の間の蒸れ、汗、摩擦、圧迫、臭気ーーそれが自分の世界の全てだった。
エレノアが歩けば、その重みに耐え、臭いを吸収し、ただ役目を果たす。
彼女はもう、話しかけてさえくれなかった。
かつて小人だったころ、弄ぶように口にされていた命令や皮肉、笑い声や視線。
今では一言すら与えられず、存在そのものが空気のように扱われていた。
彼女は毎朝、靴下を履き、靴を履いて授業に出かけ、帰宅後に自室でリラックスし、寝る時になって靴下を脱ぎ、疲れた足を布団の上に投げ出す。
その日常の中に、俺の存在は一度たりとも意識されていなかった。
会話も、命令も、感情の込められた視線すらない。ただ、指に固定された銀の装飾品として、日々が過ぎていった。
カズヤは、その変わり映えのない日常の中で、人間に戻るという願いすらもう手放していた。
ただ、彼はせめて、自身の存在意義であるトゥーリングとしての機能を果たそうと、足指の臭いを吸収したり、所有者の疲れを癒すことで、ほんの少しでもエレノアの役に立つ存在であろうとしていた。
だが、言葉を発することもできず、表情も変えられず、ただただ足の指にはまり続けるだけの時間が数日、数週間と経ちーーーー自分は何なのか、よく分からなくなっていった。
(俺はなんだ……?)
その問いが何度も意識の中を巡った。
今までの記憶は朧げだがある。だが、それを語る相手も、理解する相手もいない。
やがて彼の中から、思考する機能が抜け落ちていった。名前も、顔も、声も、自分の過去すらも――曖昧になっていった。
意思を捨て、記憶を捨て、自我を捨てた先にあるのは、ただの少し役に立つ金属の指輪というだけ。
カズヤという自我は、エレノアにただのトゥーリングとして扱われ続けていく中で、少しずつ、静かに……….崩壊していった。
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ある朝。
差し込む柔らかな光の中、静かな寝室。
起床したエレノアは、軽く体を伸ばそうと床に座り、両足を揃えて前屈を始めた。
そのとき、ふと視界に映った“それ”に、彼女の視線が止まった。
右足の人差し指――そこに嵌っている銀の指輪。
「……あら、そういえば」
エレノアが無造作に呟いた。
「この異世界人の指輪……臭いを吸いとってくれてるのよね……。朝すぐに靴下履いちゃうし、着け心地も悪くないから、着けてること忘れてたわ。」
エレノアは足指をじっと見つめる。
銀色の環は、汗や汚れの一切を寄せつけず、今日も変わらず足に馴染んでいるようだ。
「うーん……どんなやつだったかしら……」
どれだけ記憶を手繰り寄せても、その姿も、声も、顔もぼんやりとしている。そもそもこれが小人だった時のことも、もうあまり覚えていなかった。
でも役に立たないままだったら、せっかく召喚したのに潰して捨てていたかもしれない。けれど、物品化の魔法のおかげで、今こうしてずっと使えている――エレノアにはそれで十分だった。
「今どんな気持ちなのかしら……まぁ、役立たずなら潰してたし。便利にしてあげただけマシよね」
そう言って、彼女は苦笑した。
足指を大きく、くにっくにっと曲げてみる。
カズヤは装着時と同様に意識が歪められるような苦痛に襲われ、たまらずピクンと震えた。
「ふふっ。ちょっと震えてる。なぁに?久しぶりにご主人様に気に掛けてもらえて、嬉しいの?」
足指に巻きついた銀の環。もはやそこに人間の痕跡など存在しない。ただの、便利で、足に心地よいアクセサリー。
震える反応が面白くて、暫く足指をくにくにと動かす。
「はい、おしまい。これからもちゃんとそこで役割をこなしてれば、またいつかご褒美に、足の指で遊んであげるわ♪」
そう言いつつ、いつも履いているお気に入りの黒のニーソックスを履く。
「…..そういえば、今日は久しぶりに召喚の授業だったっけ。また異世界人召喚できるかしら♪」
そんなことを呟きつつ、授業に向かうのだった。
そして授業の時間。
魔法陣の中心に現れたのは、怯えた目をした、つま先程度の大きさの異世界人だった。
エレノアはにやりと笑う。
「ふふ……今度は左足用ね。早速躾けなきゃ」
そう言いながら、男を指先でつまみ上げ、持ち帰ったのだった。
――ー
その日の夜。
自室のベッドに腰を下ろしたエレノアは、靴下を脱ぎ捨て、両足をゆっくりと前に投げ出した。
震える小さな異世界人の前に、左足をそっと下ろす。
「さて……仕組みはわかってるし、今度の子には、魔力回復の効果がついてほしいわね」
彼女は棚からガラス瓶を取り出す。淡い緑色の液体――それは、魔力回復ポーション。
ぽたり、と液が左足の指の間に落とされる。
粘性を帯びた液体が、汗の残る指の股を伝って流れていった。
「ほら、これからあんたはここで、汗とポーション飲んで生きていくのよ。」
エレノアは小人を摘まみ、ためらいもなく、粘ついた足指の間へ押し込む。
必死に抵抗する小人。
足指の圧。足の汗。粘りついた液体。それらに包まれ、小人は必死に息をしようともがいていた。
だが、指の圧力は容赦なく、汗と薬液に包まれた空間に沈められる。
「暴れるな。さっさと飲みなさい。」
彼女の冷たく淡々とした命令に、小人は次第に観念し、
つま先に滲む汗とポーションを吸い上げるように舐めはじめた。
「よし。これでいいわ。これから毎日飲ませるからね。日中もそこで汗とかちゃんとなめとるのよ。」
そういって、エレノアは全て飲み干して、指の股から動けない小人を摘み上げ、今日履いていた黒のニーソックスの中に落としたのだった。
――数日後。
夜。
「うーん、やっぱり靴下の中異物感あるし、そろそろいい頃合いね。」
就寝前、素足となった彼女の口から、左足のつま先に挟んでいる小人に向けて、あの言葉が紡がれた。
『異世界人よ、この世に物として固定されよ――トゥーリング』
指先で魔法の印を描きながら、鮮やかな魔法陣が浮かび、小人だった男の身体が淡く輝き出す。
「そ、そんな。あ、あんだけ頑張って奉仕したのに…うわぁぁぁぁ………」
ーーカズヤは、右足のつま先からその光景を見ていた。
自分が味わったあの変化。身体が硬くなっていき、金属へと変えられていく感覚。
肌が固まり、口が消え、指輪の形となり、けれど意識や感覚だけは残る、あの、地獄の瞬間を――。
(……あぁ、また一人……)
やがて、小人の絶叫は金属音に溶け、足指に嵌る銀の輪へと変わった。
「うん……見た目、右と同じ銀色で、シンプルで悪くない。さて、ステータスは……ふふ、脱臭と魔力回復、ちゃんとついてる。」
彼女は満足げに笑い、左足の人差し指に、それをそっと嵌めた。
ーー右足と左足の人差し指にはまる、かつては人間だった2つの指輪。
同じ苦痛を経て、同じように存在を閉ざされた仲間。
だが、言葉は届かない。視線も交わらない。
エレノアは笑みをうかべながら、両足の指をくにくにと動かす。
その動きに、俺たちは苦痛で身体を震わす。
「ふふっ、どっちも震えてる…仲間ができて嬉しいのかしら……私も嬉しいわ。これで体力回復と魔力回復で、バランスよくなったし。」
彼女の無邪気な笑顔。
それは――俺たちに対する感謝などではなく、ただの実用品としての評価だった。
ーーあぁ…..せめて、壊れるその日まで、臭いを吸い、疲れを癒やし続けよう。
カズヤは左足で震える新しい指輪を横目で見ながら、彼女にとって、心地よく、便利なままでいられるよう、決意を固めるのだった。