◆
(ああああああっ゛っ!!あぁあ゛ああっ゛ッっっ゛!!!!いやあああああああぁああああ゛あああ゛ああああ゛あ゛あああ゛ッっっっ!!♡!!!!♡♡♡♡♡!!)
そこは、時の牢獄。
何も見えず、何も聞こえず、喋れず、動けない。
(イぐっ!いぎっっ…………っがうぅうう゛うう゛ッっッ゛?!?!!♡♡♡)
封印術を掛けられたシオンは、通常の何万倍もの速さで時間経過を知覚していた。
実時間の1秒で、数十時間が経過する程の。
対象の精神を擦り切れるまで閉じ込めておく為の、残酷で、攻撃的な封印術式。
(ぁぐあぁ゛あああぁあ゛ああああああ゛ああア゛ああ゛あ!?!?!♡♡♡!?!?!!)
そして、この術はただ無の空間に相手を閉じ込めるだけではない。
これまで経験した快楽感覚を、順番に追体験させる魔術が組み込まれていた。
封印対象が快楽の中で朽ち果てられるように編まれた、悪質な善意の官能魔術。
自室で初めて経験した自慰行為から、教材としてあらゆる官能魔術を掛けられて味わった快楽の記憶を、シオンは延々とループしていた。
(あ゛たまが狂う゛ぅううっッ゛♡♡♡もう何回っ゛!?いづまでっ゛♡♡♡っぐぎいぃいい゛いぃいいい゛い゛い゛ッっ゛ッ♡♡♡)
一周や二周では済まない。
外部刺激を断たれたまま、何日も、何週間も、不眠不休で快感だけを詰め込まれ続ける。
体の感覚も失せていく。
不随意的な生体反応まで封じられ、体の動かし方もわからなくなっていく。
(出してぇえ゛っっ♡♡おねがいもう終わってぇっ゛♡!!♡♡誰か助けてぇっ゛ッっ♡♡!!!!!)
回復されたばかりの精神に、再び亀裂が入る。
快楽に溶かされ、元の形が失われていく。
二度目の精神崩壊。
それは、或る閾値の超えた瞬間に訪れるようなものではなかった。
ゆっくりと真綿で首を絞められて、そのまま首が縊り落とされ、それでも意識を保ったまま、体が死んでいくのを感じるような。
日が落ちていくように遅い、生殺しの最期だった。
◆
「んー、そろそろいいかな………いや、もう少し待とうかな?もう十分、死ぬ程の快楽は味わってると思うけど。どうしようかなー?」
棒立ちで固まっているシオンの周りを歩きながら、ほんの数分、時間を潰す。
それだけで、凶悪な官能魔術が、最低最悪の効果を発揮し続ける。
赤髪の生徒の術の発動条件は、自分の体由来の成分を一定量以上、相手に摂取させること。
既にこのクラスの全員が、微量ながら揮発した汗や体臭を体に取り入れている。
その気になればいつでも即座に封印術を発動し、意識を永遠の牢獄に閉じ込められる。
教官以外全員の生殺与奪の権を握っている彼女は、序列一位の座を盤石にしていた。
そして今、彼女に逆らえばどうなるのかが、シオンの体を使って実演されている。
「これまで感じたことのある快楽を全部反芻してるからねー。慣れると思うかもしれないけど、実際は逆。どんどん弱体化していって、繰り返せば繰り返す程辛くなっていくの」
シオンの背後から手を回し、火照った肌を弄ぶ。
乳房に指を喰い込ませ、乳首をギュッと摘まんで、手慰みに転がす。
下腹部に手を這わせて、トロトロに茹で上がった陰唇に指を沈ませて、ヌチュヌチュと音を立てる。
それでも、シオンはピクリとも動かない。
一切の反応が封じられている。
「気持ちいいコトだけはわかるけど、他の事はなんにもわからない。封印されている間にこうやって好き勝手されたら、その快感も、何百回も繰り返し味わうことになるの」
シオンの口に指を突っ込み、舌や歯茎に触れる。
普段、他人に触れられる事のない場所を蹂躙される。
性感帯と化した口内を犯される。
喉の奥まで指が這入り込んでも、嘔吐く事さえない。
「私が術を解くまでは、ずーっとこのまま。気を失う事もできない。心がゆっくり潰されて、精神的に死んじゃうの。普通はね」
攻撃としてこの術を用いるなら、わざわざ術を解く必要は無い。
そのまま意識を封印し続ければ、生身の体は死体同然。
現実とは比較にならない膨大な永夜の末に、死を迎えることになる。
発動条件さえ満たしてしまえば、致命的で抵抗不能な官能魔術だった。
「どーしようかなー?この術に耐えられる相手、今まで会った事ないんだよね。もう何か月経ったかな?もう少しだけ……待ってみようかな?」
ほんの少し。
現実での1秒が、数万倍。
赤髪の生徒の気まぐれな逡巡の間に、シオンは数週間焦らされる。
「術を解いた時、どんな顔するのかな?愉しみだなー」
赤髪の生徒に、シオンが味わっている苦しみに釣り合うほどの悪意や害意は無い。
虫を遊び殺すのと同様に、子供が無邪気な興味本位の生贄として、シオンは悶え続けるしかなかった。
◆
「ん、そろそろいいでしょ。解いてあげまーす」
───パチンッ───
「っ……か、ふっ…!?………………は、う゛っ♡♡」
指を鳴らした瞬間。
シオンの体はグラリと脱力し、痙攣し始める。
魔術で無理矢理立たせている為、倒れる事はない。
しかし、封じられていた意識に掛けられていた負荷が、生体反応として一気に表出し始める。
汗が噴き出し、愛液が溢れ、失禁する。
「どう?まだ喋れる?それとももう壊れちゃった?」
数年分の時間経過が、一気に体に反映されているシオンに話しかける。
正気が保たれている筈がない。
今この瞬間も、これが夢か現実か。
時の牢獄の延長で、視界に戻った光が自分の妄想なのかどうか、シオンは判別できていなかった。
「どれくらいの時間、気持ち良くなってたの?どれくらい気持ち良かった?」
闇の中から引き摺り出されたばかりの囚人に、無遠慮に問う。
禁偽の淫呪が刻まれているシオンは、直立不動でそれに答えるしかない。
「っ゛わ…………わかり、ませんっ♡………んぐっ♡…………わ、わからにゃっ………っ゛ッ♡♡♡」
喋るだけで愛液が滴り落ちた。
喉が震え、舌が動くだけで、腰が抜けそうになる。
「じゃあ、もう一回試す?今度はしっかり時間を数えて、どれくらい気持ち良かったか説明できるようにしてね」
「……~~~っ!?!」
再び、シオンに杖が向けられる。
「なーんてね♡冗談だよぉ。また待つのも面倒だしね。これで私の番は終わり。少し早めの術を解いちゃったけど、これからゆーっくり、記憶が追い付いてくるからね。先生の術があるから、多分死なないで済むと思うよ」
闇の中で経験した、数年分の快楽記憶。
それが、封印を解かれた体にフィードバックされ始める。
「あ゛……………ぅ゛♡?…………へ♡」
ビクンッ、と一際強く体が跳ねて、絶頂下限を超えて絶頂した事を、数瞬遅れて理解する。
表情が崩れ、呼吸が荒くなり、圧縮されていた快楽記憶と、今現実で体感している感覚が入り混じる。
「っ゛ッっ………………………………………――――――――――――~~~~~~っ゛ッっ゛っっっ゛っっ?♡!?!?!♡♡♡♡!?!?!!」
シオンの心の器が、粉々に砕け散る。
しかし、教官の魔術で補強されている精神は、いわば密閉されたガラス瓶の中に詰め込まれているようなもの。
元の形を失っても霧散することなく、ビンの中で保存され続ける。
「ッ゛っ♡♡♡♡っっっ♡♡♡♡――――ッ゛っっ♡♡♡♡♡♡!!!!」
精神崩壊と快復。
何百周も反芻した快楽の記憶が体に反映され終わるまで、この状態が続く。
体の感度は更に鋭敏化し、何度か心臓が止まる程の絶頂を味わい、柔らかい体をより一層蕩けさせていく。
「よろしい。イレーネの術は相変わらず強力だね」
教官が口を開く。
赤髪の生徒が下がり、全員が官能魔術の実演テストを終えた事を確認して、教官は教壇の上に戻った。
シオンは気を付けの姿勢のまま、白目を剥いて震え続けている。
「全員終わったね?それぞれの得意分野を見せてくれてよかったよ。全員合格。細かい評価や今後の方針は後日伝えよう」
もしここで官能魔術の精度が低く、不合格を言い渡された生徒は、居残り授業が決定する。
その生徒は、教官の手によって、自分の体で自分の術を、より高度なレベルで味わうことになる。
このクラスのほとんどの生徒が、一年生の頃から幾度となく居残り授業を経験しているからこそ、彼女らの扱う術は特別な領域に達する程練磨されていた。
「では、今日の授業はこれで終了とする。次回に備えてしっかり研究を進めておくこと」
―――キィィンッ―――
教室に掛けられていた術が解ける。
13人全員が時間の経過を気にせずに術を試せるように、教室の時間を外界と切り離していた強力な術。
それが解かれた事で、教室の時間が正常に流れ始める。
赤髪の生徒が、体液の摂取という特殊な条件の元でやっと行使できる体感時間の操作とは比較にならないレベルの、高位の時間操作。
それは、この学院を統べる《時空の魔女》にしか扱えない術だった。
「さて、それじゃあ君は、これからメンテナンスだね」
「っ!?……………っ!!………~~~~~っ゛ッっ♡!♡♡♡」
生徒達が楽し気に笑い合いながら教室を出ていく中で、教官がシオンの前に立つ。
やっと、途方もなく長い時を経て、今日の授業が終わった。
しかしそれは、シオンがこれから味わうことになる、想像を絶する地獄の日々の1日目に過ぎなかった。
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