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天界と魔界の戦争の歴史は、数百年にも上る。
まだ世界という概念がなく、何もない『無』であった時、一人の『神』がそこに生まれた。
『神』は何もないその世界に、一つの世界を創った。
しかし、作れたのはそこまでで、自分一人の力では、その世界を維持するのが限界であった。
その為、神は二人の更なる『神』を生み出した。
そして最初の神『原初神』は二人の『娘』にこう言った。
『貴方たちの好きに世界を創りなさい』
その言葉のままに、二人の『神』は世界に降り立ち、最初に『地』と『海』と『天』をそれぞれ作った。
『天界』と『魔界』の始まりであった。
原初神の最初の誤算は、二人が協力して世界を創造することなく、それぞれで好き勝手に世界を創り始めてしまった事だった。
一つの世界に二つの新たな世界を創り出した二人の『神』は、まるで鏡のような世界を創り上げていった。
天使と悪魔、聖獣と魔獣、聖と魔―――それぞれが対となる存在をそれぞれ創り出し、多くの命を生み出し、多くの環境を作り出した。
そうして世界を広げて言っていると、ふと、二つの世界の間に、さらにもう一つの世界が存在している事に気付いた。
そこは、二つの世界が生まれた事によって、境界線のように生まれた、二つの世界の影響を大きく受けた世界であり、二つの世界の性質を併せ持った生物が生きる世界であった。
その世界に対して、二人は直接の手出しは出来なかったが、その世界に自分たちが生み出した生物を送り込むことは可能だった。
しかし、そこで二柱は初めて片割れと向き合う事となった。
初めは、最初に送り込んだ『天使』と『悪魔』の邂逅だった。
それだけならまだ良い。しかし問題なのは、出会った双方が衝突し、言い争いから殺し合いに発展した事だった。
二人は、自分が生み出し愛しく慈しんでいた命が互いに傷つけられた事に怒り、激しく言い争った。
しかし両方どちらも不滅の神にして互いに干渉し合う事が出来ない。
その為、二柱の神は自分が生み出した生命にこう告げた。
『奴らはお前たちを脅かす敵だ。殲滅し、敵の世界を滅ぼしてやりなさい』
これがその世界に千年以上も続く『天魔大戦』の始まりであった。
天界と魔界、双方の生まれた知的生命体がその力を全力で使い、殺し合い、狭間の世界を破壊し尽くした。
殺せばその分だけ憎しみが拡がり、戦火は燃え盛り、多くの命が消滅していく。
『神』たちも、自身の現身を世界に生み出し、戦いに参加し、凄惨な殺し合いを繰り広げた。
そのあまりにも凄惨な戦いを目の当たりにした原初神は酷く悲しみ、世界を維持するので精いっぱいであるために、命が消えていく様をただ見る事しか出来なかった。
しかし、後に『聖王』と『魔王』と呼ばれた二人の神は、原初神が最後の力で見出した『勇者』によって討たれ、二度と転生する事も出来ず狭間の世界に干渉できなくなった事で、戦いは終結した。
そうして戦争は終結し、争いの無い世界が訪れた。
しかし、数百年も続いた戦争の禍根は深く、今でもどこかでは小さな小競り合いが繰り広げられている。
これは、そんな事とは関係ない、とある家庭での話である。
「シルヴィア」
一人の母親が、娘の名を呼んだ。
黒い長髪と紅の赤い眼を持った、小さな少女が、母親に呼ばれて笑顔で走る。
「ママっ!」
そんな少女が向かう先にいるのは、彼女の母―――
太陽のような金色の髪と輝くような白い肌。そして宝石のような青い瞳を持つ女性。
たゆんと揺れる爆乳とぷるんと揺れる爆尻を持った、透けるようなドレスに身を包んだ熟母である。
そのおっとりとした雰囲気を持つ母と、そんな母と似ても似つかない容姿を持った娘の二人。
そんな彼女たちがいるのは、人の寄り付かないような、草原のある辺境の田舎であった。
母親の名は『セレスティア』
かつてこの世に存在していた『聖王』の娘である。
―――そもそもの始まりは、勇者と呼ばれる男との出会いであった。
その当時までは魔界の全てを滅ぼすべき世界であると信じ、暴虐の限りを尽くしてきた天使であり、魔界側の連中からは『虐殺天使』と呼ばれていた。
そんなある日、ある悪魔との対決中に割り込んできた一人のどちらにも属さない人間の介入によって、セレスティアは魔界側の連中にとらえられてしまい、しばらくの間魔界で過ごす事となってしまったのである。
それから、辛い拷問や意味のない暴力を振るわれる日々を過ごし、日に日に魔界側への憎悪が募っていた頃、再び『勇者』が現れ、セレスティアを救出。
それから勇者と共に魔界を旅する事になり、そこで生きている者たちの現状を目の当たりにしたのである。
その魔界と、自身の過ごす天界の状況が全く同じだったのである。
戦争によって疲弊した民、広がる荒野、二度と帰らない家族を待つ人々。
その嘆きや叫びが、天界で聞いたものと全く同じだったのである。
その現状に、セレスティアは自身が信じてきたものが揺らいだ。
今まで、人の心を持たない怪物であると断じて殺してきた者たちだけでなく、見掛けた集落も滅ぼした事のあるセレスティアは、彼らの現状を知り、一つの事件を経て絶望し、自分が酷い重罪人であると自責した。
しかし、勇者の献身的な世話のお陰でどうにか立て直したセレスティアは、この戦争を終わらせるべく天界で出来る事はないかと思い、しばらく一緒に旅をしてきた勇者と名残惜しくも分かれ、そして天界で戦争を終わらせるべく奮闘してきた。
しかし、長く続いた戦争の影響で止まれなくなった同胞だけでなく、母である聖王の狂気に染まった姿を見て、再び絶望し、この戦いがもう終わらない事を悟ってしまった。
全てに絶望したセレスティアは、そのまま勇者の元へと逃げるように向かった。
再会した勇者の表情は、どこか覚悟を決めたもののように思えた。
しかしセレスティアはとにかく勇者に自分を慰めてほしかった。
だから勇者とセレスティアは一晩を共にし、三日三晩まぐわった後、セレスティアが起きる頃には勇者はどこかへ旅立っていた。
それが勇者との最後の邂逅である事を、彼女はこの時思いもよらなかった。
そしてその一年後―――戦争は終結した。
夜、広大な草原にぽつんと建つ、彼女たちの過ごす小さな民家にて。
未だ幼い六歳の少女が、母の手料理を美味しそうに食べていた。
「ふふ」
その少女の口元についた汚れを拭い取り、セレスティアは幸せをかみしめる。
しかし、その裏ではとてつもない不安がその胸中に過っていた。
(この生活が、いつまでも続きますように・・・)
そう願う事には、理由がある。
「ママ、これ、美味しいね」
「そう?嬉しいわ、シルヴィア」
ふと、セレスティアは突然、胸をはだけさせた。
「飲む?」
「飲むー!」
すると少女は母の胸に飛びつき、そのピンク色の乳首に吸い付く。
「噛まないでね」
「んちゅ~♡」
まるで赤ん坊のように、セレスティアの乳を吸うシルヴィア。
ここまで子供が大きくなっても、セレスティアの乳房は母乳を分泌し続けている。だから常に張り続けており、何度か絞らないとすぐにきつくなる。
そんな彼女の母乳を、娘のシルヴィアは美味しそうに飲んでいた。
「んちゅっんちゅっ」
「ふふ、いっぱい飲んでね」
シルヴィアの頭を優しく撫で、セレスティアは慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
仲睦まじく、夜を共にする母娘。
しかし、そんな二人の様子を、窓の外からじっと見る影があった。
「ママ・・・どこぉ・・・?」
子供の興味というのは際限を知らない。
一度、興味を持ったり楽しいと思った時は、飽きるまで止まる事はなく、その元気は体力の続く限り、続いていく事だろう。
しかし、それが度を過ぎて、森の中で迷子になるのは必然なのかもしれない。
思わず森の深くまで入ってしまったシルヴィアは、帰り道が分からず、途方に暮れてしまっていた。
母セレスティアは近くの町へ買い物へ行っており、シルヴィアは今回はお留守番する為に家に残ったのだ。
だが、存外母のいない家の中は退屈であり、シルヴィアは外出。
家の裏手にある森に足を踏み入れたのだ。
だが、その慣れた森の中で迷子になってしまったのである。
「ママぁ・・・ママぁ・・・」
もう既に泣き出しているシルヴィアは、あてもなく歩き続け、やがて動けなくなってしまう。
「うう・・・かえりたいよぉ・・・」
涙を流し、蹲るシルヴィア。
そのまま、日が暮れてきた頃、その女は現れた。
「大丈夫かしら?」
「え?」
見知らぬ女だった。
闇のような黒髪と、焼けたような黒肌。真紅の宝玉のような瞳。
なにより、セレスティアと似た母性感にあふれた顔立ちと、セレスティアそっくりな豊満な肉体。
透けるドレスを着たその女性は、優しい笑顔でシルヴィアに微笑みかけていた。
「だれ・・・?」
「私はテラスティア。貴方は迷子?」
「うう・・・」
その時、ぐぅうう・・・とシルヴィアのお腹が鳴る。
「あら、お腹空いてるの?」
「うう・・・うん・・・」
「どうしましょう・・・ああ、そうだわ」
そう言って、テラスティアと名乗った女性は、自分の胸元をはだけさせ、その爆乳を曝け出す。
頭以上のサイズを持つセレスティアと同じサイズの乳房を晒し、シルヴィアへと向ける。
「飲んで」
そう促すテラスティアに、シルヴィアは一瞬ためらう。
だが―――
(この人、なんだか、懐かしい・・・)
シルヴィアは、思わず母ではない女の胸に飛び込んだ。
そして―――その母乳を吸い、あっという間にその虜になる。
(なんだろう、どこかで飲んだことのあるおっぱいだぁ・・・)
「あむっんちゅ・・・ママぁ・・・」
「っ・・・!・・・ええ、ママよ」
テラスティアは、自分の乳房に夢中でしゃぶちつくシルヴィアの頭を、そっと撫でた。
「シルヴィア?シルヴィア・・・!どこに行ったの?」
夜遅く、月も上がった頃、セレスティアは森の中を歩いていた。
その目的は当然、消えた娘を探しに、である。
「一体どこに行ったの・・・?」
不安が胸中に満たされる。
(もしかして・・・もしかして・・・!)
ある可能性が過り、セレスティアの不安と恐怖が更に掻き立てられる。
少し小走りで、更に森の奥へと歩を進めていくと、ふと月明かりに照らされた場所を見つけた。
その中央にある小岩に座り込み、一人の少女を抱きかかえている女性を見つけたセレスティア。
その姿を見て、セレスティアは驚愕する。
「テラス・・・!?」
セレスティアは、思わず彼女の名を呼んだ。
それに気付いた女―――テラスティアはセレスティアの方を向いて、目を細めた。
「久しぶりね、セレス・・・」
「テラス・・・そんな・・・」
セレスティアは、その顔を生涯忘れる事はないだろう。
テラスティア。
セレスティアが、聖王の娘であるならば、彼女は魔王の娘である。
彼女の経歴は、ほとんとセレスティアと変わらない。
彼女もまた勇者と出会い、その価値観を変えられた者であった。
魔界で過ごし、魔界側で戦い、そして、セレスティアと幾度となく死闘を繰り広げた。
しかし、勇者と出会い、天界に行き、その現状を知った事で戦争そのものに疑問を持ち、やがてこの戦争は止められないと絶望し、勇者の子を孕んだのである。
そして、セレスティアが育てていたシルヴィアこそが、テラスティアの娘なのである。
そもそも、何故こんな事になってしまったのか。
セレスティアもテラスティアもお互いの勇者の子を孕み、そして一年後にその子供を産み、育ててきた。
その当時は魔王と聖王のどちらも消え、天界も魔界も大混乱に陥っていた頃だったため、二人は一時的に狭間の世界へ逃げ込んでいたのだ。
だが、そのせいでそれぞれの世界から裏切り者と呼ばれ追われる生活をしており、誰にも見つからないよう逃げ回っていた。
そうして、子供を育てながら追手から逃げ回る生活を続け三年が経ったある日、二人が逃げ込んだ町でその追手同士による戦闘が勃発。
町は火の海となり、セレスティアもテラスティアも子供を連れて、群衆の中を逃げ回った。
だが、そこで不運が起きた。
二人の娘が、同じ場所で瓦礫の中に消えたのである。
それを見た二人は、必死に娘たちを探した。瓦礫をかき分け、爪が剥がれてが血塗れになろうとも、子供の生存を願って娘を探し続けた。
そして、セレスティアが、互いの娘の姿を見つけた。
それはまさしく不運としか言いようが無かった。
セレスティアの娘は、瓦礫に頭を打たれて死んでおり、代わりにテラスティアの娘が、気絶した状態でそこにいたのである。
セレスティアは目の前が真っ暗になると同様に、髪と眼の色が違う娘シルヴィアとそっくりな少女を目に留め、セレスティアは、生きているその娘を自分の娘と思い込み、その子供を連れ出した。
だが、その後に聞こえた、テラスティアの声に理性を引き戻され、だがそれでも、腕の中の温もりを手放せず、セレスティアはその場を立ち去ったのである。
つまり、セレスティアはテラスティアの子を誘拐し、そして自分の子として育ててきたのである。
「お願いよテラス、その子を返して・・・」
「貴方の気持ちは理解できるわセレス。私も、貴方と同じ目にあったのなら、同じ事をしたでしょう・・・だけど、やっぱりこの子は私の娘よ。だから、返して貰うのは私の方」
「いや・・・いやよやめて・・・私から、その子を取らないで・・・!その子がいないと、もう、生きていけない・・・!」
「だったら、あの時貴方も一緒に死んでおくべきだったわね」
テラスティアは魔法でシルヴィアを浮かべる。
セレスティアは立ち上がった彼女を睨みつける。
「それでも・・・その子は渡さない・・・!」
「絶対に返してもらうわ。三年も、探し続けたんだもの・・・!」
二人の母が、激突する―――。
―――To be continued