(今日もレベリングか……)
私は駅の階段を下りながら憂鬱になった。最近、ずっと10階層のボスに挑めず足踏みしてる。ハッキリ言って、挑むのが怖い。5階層でオーガに殺されかけた記憶はそうそう忘れられるものじゃない。でもいつまでもダラダラやってても、前に進めない。融合先固定でやることも同じ雑魚を同じやり方でしばくだけの配信なんて、見てくれる人はいない。リアタイ視聴者は急下降し、もう3人しかいない。……ピーク時でだ。だから、私は配信はやめてしまった。一人で黙々とレベリングをしている。自分が何のためにダンジョン潜ってるのかもわからなくなってきた。まー、そもそも潜る意味なんてないけど。引きこもりニートだった……いまもそうだけど……私にユニークスキルがあるとわかっちゃったから、それに縋ってるだけだ。人気だったり功績上げたりしたダンジョン探索者は有用なユニークスキル持ちが多いから、何となくユニークスキル持ち=才能アリみたいな風潮があって、人生詰みの私にとって救いの糸、逆転の秘策、栄光への階段のように思えてしまったのだ。
でも現実はこれ。ただただ痛い目にあって恥をさらして……でもやめてしまったら本当に何もなくなってしまうし、何度も死にかけたのも無駄な痛みだったことになっちゃうから、なんか続けてるだけ……な気がする。「ボス戦楽しみにしてます」ってファンメ送ってくる人もいるけど、お届けできるかわからない……。そも論、レベル上げても多分それほど意味ないんだよねぇ……。私の攻撃手段、素だと金属バットだから……。ボスモンスターを殺しきれるとは全く思えない。でも攻撃スキルないし……。とればいいんだけど、多分あんま火力でない……。
ダンジョン受付に着いた私は、死んだ目とボソボソ声で入場申請した。
私のスキルは現状、自前のユニークスキル「セルフュージョン」のみ。いい加減、他のスキルを取るべきなんだろうと思う。私のレベルは10まで上がった。スキルポイントが9溜まっている。入口でステータスオープンしてスキルポイントを振り分ければ、スキル習得ができる……。今までしていなかった理由は、振り直しはできないから。スキルは一度決めたら一生だ。そのせいで私は今まで踏ん切りがつかなかった。セルフュージョンだけで雑に対応できたのも悪かった。
一応、調べればお勧めスキルは出てくるし、運営が推奨するスキルもあるけど、なんか勿体ないというか、「ミスる」のが怖くて決定できない。
ダンジョン入り口に降り立った私は
「ステータスオープン」
とつぶやき、スキルの習得画面を開いた。いっぱいある……。人によってとれるスキルも変わるらしい。正解があれば楽なのになあ。人生も。いや正解の人生あったのに辿れなかったからこうなってるんだよねえ……。
ボーっとしていると、突然後ろから声をかけられた。
「あの……セルフュージョンの人ですよね?」
「ぉっ」
声と呼びたくないうめき声を小さく発して、私は振り向いた。そこには、若い女の子が立っていた。高校……か大学生……? わからない。私もう人の年齢わかんない。
「ぁっ……何か……」
「すいません、急に。私も配信じゃないけど動画上げてて……これです」
彼女のスマホに、ダンジョン動画が並んだチャンネルが映し出されていた。見覚えある。たしか……そうだ。私を出汁にプチバズった人!
「あのハーピー、あなたなんですよね?」
「……」
「すいません、ここの9階層でモンスター襲ってるハーピーを以前撮影して」
「……っはい、だと思います……」
そう。レベリング中の私を面白おかしく動画化したやつが小バズした。私自身の配信は一向にバズらないのに。いっつもそうだ。
「今日は配信を?」
「っいぇ……」
「あ、そうなんですか」
怖い。なんかグイグイくる。若い女の子と話すの怖い。なに? ……そういえばリアル凸されたの初めてだ……。
その後、私のカスみたいなコミュニケーション能力のせいで長引いたけど、ハーピー動画の件で私にたどり着き、配信のアーカイブもちょっと見てくれたらしいのがわかった。
「もしよかったら、今日一緒に潜りませんか?」
「へぇっ!?」
そそそ、それって……パーティー、組みたいってこと……? 私と!?
「……あいっ……!」
頭が真っ白になって、反射的に頷いてしまった。
「へーっ、レベル10!? すごいですね……」
「へ、へへ……」
彼女……鳥飼さんは、レベル7だという。やっぱり私の進行スピードはかなり速い方らしい。リアルで人に褒められたのが久しぶり過ぎて、キモイ反応しかできない。
「やっぱ毎日潜れるといいですねー。私大学あるからなー」
……死にたくなってきた。
「スキルは何を?」
「えっ……せ、セルフュージョンを……」
「ああいや、他の通常スキルは」
「……」
「?」
「って、ない、です……」
鳥飼さんが無言で目を見開き、信じられないものを見るような視線を向けた。あああごめんなさい馬鹿ですいませんああああ……死にたい。
「……何か取りたいスキルが?」
「……いえ……」
「……」
女子アナみたいだった声と表情が崩れ、ドン引きし始めている。私は俯いて目を右往左往させるばかりだった。
その後、彼女の勧めでスキルをいくつかとることにした。
「常識の生存スキルはとっといた方がいいですよ。根性Lv1とか」
「はい……」
あっはい。非常識ですみませんでした。
根性Lv1は即死するようなダメージを受けた時、一回だけそれを致命傷に変換してくれるスキル。説明だけだと無意味に聞こえるけど、回復ポーションや魔法があるダンジョン内だと実質、一回だけ死ぬのを免れるスキルということになるのだ。ネットだと残機とも呼ばれる。
私はなけなしのスキルポイントを割り振った。こうして私の初スキルは根性Lv1ということに。みんなそうらしいけど。
「まだまだポイントありますね。あとは体力とか攻撃とか防御とか……。何か魔法とっといてもいいかもしれませんね」
うーん……その辺ってネットだと意味ないとか悪口多いから二の足踏んじゃう。けどあくまで高レベル帯だと相対的に無意味になりがちなだけで、普通だと有用ともきく。……けど最終的に無駄になるのはもったいない気がする……。
魔法も種類があって、どれが私にあってるかわからない。マジモンと融合した時ファイヤーボール使ったけど、あんま役に立たなかったし。
「まあ、とりあえず行きましょうか」
「あっ、はい」
鳥飼さんと一緒に、私は6階層へワープした。
相変わらずの森。鳥飼さんがセルフュージョンを見たいというので、私はあたりを見まわしたけど、モンスターがいない。入口近くはいないことが多い。
「ぁっ、じゃあ、ちょっと進んで……」
私が気持ち悪い笑みを頑張って浮かべながらそう言うと、鳥飼さんが叫んだ。
「サモン!」
白い光が彼女の胸元に現れ、そこから何かが飛び出した。ピンク色の……ハートだ。バルーンアートみたいな、膨らんだハートの物体。その背面から、天使の翼のような白い羽が生えている。
「あ、私テイマーなんです」
「あ、はい……」
テイマー……嫌なこと思い出しちゃった。
ステータスを確認。ハートモンスターレベル8。魔法で戦うみたい。
「じゃ、お願いします」
「?」
「セルフュージョン」
「え?」
「この子と」
「えっ……」
それって……できるの? 人のモンスターと……いやテイムされちゃったことあるけど、テイム済みのモンスターと……どうなるんだろ。
彼女は瞳をキラキラさせて私を見ていた。期待の眼差しだった。彼女的には野生よりずっと安全な融合先を提供したつもり……なんだろうな。
「わ、わかりました……」
私は召喚場所から動かず浮遊しているハートに近づいた。
「せ……セルフュージョン!」
私とハートモンスターが瞬時に引っ張られ、衝突の瞬間光に飲まれて感覚が消える。次の瞬間……。
「……」
私は大地に立っていた。どうなったんだろう……。ハートと融合って。
恐る恐る目を開ける。目線は変わらない。体の感覚も変わらない気がする。いや……肩甲骨の先に何かある。両手を伸ばして触ると、羽毛の感触とこそばゆい感覚があった。翼だ。
「あの……」
振り返ると、鳥飼さんがプッと噴き出し、すぐに慌てて言った。
「すっすいません。すごいスキルでs」
「あの……私、どうなってます……?」
感覚的に人型みたいだけど。彼女はニコニコしながらスマホを構え、一発写して私に見せた。
そこには地獄のような痛い女が映し出されていた。まっピンクの長い髪と、足元から胸元までをピチッと覆うピンクのタイツ。そして背中から生えるピンクの翼。
「……っ」
「っぷぷ……あ、いや、すいません……」
あああああ。普通にモンスター化する方がよかったああああ!
「ホーリーライト」
「おおーっ」
ハートモンスターが覚えている魔法が使える。私はそれでエンカしたモンスターを攻撃しつつ、二人で先に進んだ。私は可及的速やかにこの融合を解いて他のモンスターと融合したかったけど、
「えー、かわいいですよー。せっかくですしぃ」
という彼女に押し負け、ピンクのタイツ姿でダンジョンに潜るというこれ以上ないほどの恥ずかしいプレイを余儀なくされた。
「異形のモンスターになるよりいいじゃないですか」
と彼女は言うし、そう思う人は結構いると思う。けど、私としては正直、半分人間辞めた姿になる方が一周回って恥ずかしくないんだよ。だってこういうのだと、コスプレ女にしか見えないし。私が自分の意思でおかしな格好してるかと思われるじゃん。
(これは魔法の練習、これは魔法の練習……)
必死に自分にそう言い聞かせながら、私は魔法を打ち続けた。いろんな属性の初級攻撃魔法が揃っており、どれを習得するか見極めるのにちょうどいい。……ってことにしないと無理。
以前、マジモンと融合した時は魔法当てるの難しくて金属バットで殴ってたけど、今はその時より何故かエイム上がってる。融合元のハートモンスターの経験が生かされてるんだろうか。
道順覚えてるのであっさりゴールに。鳥飼さんは確認したいことがあると、私に提案した。
「テイムしたモンスターって、命令きかせられるんですよ」
「はぁ」
「今の材本さんて、どういう扱いなんでしょうね」
「……っ」
以前の醜態を思い出して、嫌な汗が出てきた。
「命令できるかどうか、試してみてもいいですか?」
「……っぁ、はい」
卑屈すぎて断るという選択ができない。あの時は命令強制だったけど、融合後にテイムされたからなあ……。テイム済みモンスターと融合した時って、確かに初……。
「こほん、じゃあ失礼して……いきますよ。材本さん。バンザイしてください」
「……っ」
両腕が勝手に動き、バンザイしてしまった。あの時と同じだ。腕が下ろせない。逆らえない。悔しいのと恥ずかしいのとで、すぐに顔が紅潮してしまう。
「ターンしてください」
私の身体はクルッとその場で一回転した。うう……やっぱこうなるんだ。今の私、テイムモンスターなんだ。
「あっ、すいません、もう大丈夫ですよ」
「はい……」
私はシナシナになりながら、融合を解いた。ピンクタイツから解放され、元の服……中学の時買ってもらったヨレヨレの普段着に戻った。……どうあがいても恥ずかしい気がしてきた。しっかりした登山用の服を着た、綺麗な顔の鳥飼さんと並ぶと。
7階層には進まず、入り口に戻った。そこで、彼女から改めてパーティー結成の打診を受けた。一緒に10階層のボスに挑もう、と。
「へっ……」
驚いた。まさかこの私がそんなお誘い受けられるなんて……。いつもペアや班組めなくて余ってた私が。
「この辺って同じ年代の女の子なかなかいなくて。特に配信とかしてる人」
ああ……。
キラキラ女子の圧に負け、私はまだテイム化にあるかのようにあっさりオーケーしてしまった。「あ、はい」を言う機械になってる。
「そうだ。今日の探索、動画にしていいですか?」
「それはっ……ダメ……です」
「材本裕子です……今日はっ、その……ボス……じゃなくって、コラボ配信……ですっ!」
「はーい! みなさんこんにちはー! 『道東ダンジョン噂のニュースチャンネル』、トリッチャーでーす」
次の週末。私と鳥飼さんは遂に10階層へ挑んだ。私が初めて人と組むということで、久々に視聴者が多い。……いや鳥飼さんの視聴者かな。
『コラボおめ』『友達おめ』『フュージョンはよ』『かわいい』『芋』
久しぶりにあふれるコメントに、ちょっと涙がでちゃう。
「今日はなんと! ユニークスキル持ちの友達と一緒に、釧路10階層のボスに挑んでみたいと思います!」
『ユニークスキル!?』『マジ!?』『はよいけ』『誰?』
あっ、やっぱ知らない人いる。
「そう! 材本さんはね……なんと、ユニークスキルを持っているんです!」
鳥飼さんが慣れた様子で話し続ける。私はモジモジしながらチラチラ彼女とカメモンを交互に見ていることしかできない。どう喋ればいいんだろう……。
「その名もセルフュージョン! その効果は……モンスターとの融合! サモン!」
彼女がハートモンスターを呼び出し、期待の眼差しで私を見た。なるほど……ここでサッと融合すればテンポよく新規に説明しつつ盛り上がるんだ。……でも……。
「進んでぇ……行きたいとぉ、思います……」
ピンクタイツは無理。
「セルフュージョン!」
蜘蛛と融合してアラクネになると、ドン引きコメントが流れた。下半身が八本脚の蜘蛛で上半身も黒い毛に覆われて目が複眼いっぱいだと、まあ、普通そういう反応になるよね。
『きたー』『エッロ』『これよ』『何度見てもモンスター』
古参気取りの私の視聴者コメに、なんか初めて配信者になった気がして、赤い目が熱くなった。
その後、6階層はアラクネ化した私が股間から出す糸で敵を絡め、鳥飼さんのハートモンスターが攻撃する連携で進んだ。糸出すたびに新規視聴者が『キモイ』とコメントしてくる。もしハートモンスターと融合してたらどうなってただろう……。ピンクタイツとピンク髪の陰キャが出現した時の様子を想像。……そっちの方が絶対、いたたまれない空気になってた。うん。これで良かったんだ……。
8階層からはハーピー化した私が空からゴールを探し誘導。モンスターが出れば私とハートモンスターで倒す。その連携でだいぶ早く進めた。そしていよいよ……。
「10階層ゴールでーす!」
入り口へ戻るワープゲートと、ボスへの扉。その二択の場に到着した。
「ふう……。それじゃあ、一旦休憩しましょうか」
「あ、はい」
私は緑の羽毛に包まれ、手ではなく翼を生やしたハーピーのまま。融合は解かない。空から攻撃する。万一の場合、逃げ続けられるし。
10階層のボスってなんだろう……。5階はオーガだったな……。
数分後、いよいよ時が来た。
「それでは! 10階層ボス、挑戦です!」
私と鳥飼さんは、共に扉を開き、その中へ足を踏み入れた。
中に入ると自動的に扉が閉まり、消滅した。後戻りはできない。
(うっ)
オーガに殺されかけた時の記憶がフラッシュバックし、吐き気が襲う。私は飛び上がった。大丈夫……大丈夫……。
ボス部屋は低い草で地面が覆われ、草原のようだった。遠くに壁が見える。壁に影が落ちる。視線を上げると、巨大な影の主がその輪郭を現した。
「グリフォン引きましたー!」
鳥飼さんが後ろのカメモンを向いて叫んだ。余裕だなあ……。死にかけたことないのかな。
まるでライオンのような四本足の身体。鷹のような翼と顔。茶色い躯体と白い顔、黒い翼を持った大きなモンスター。3メートルはありそう。
(ひぃ……)
私は空中ですくんでしまった。これに……どう戦えと?
「ファイヤーボール!」
いつの間にか盾を突っ立てていた鳥飼さんがその影に隠れながら叫んだ。ハートモンスターが炎の球を吐く。グリフォンに命中したが、グリフォンは意に介さずハートモンスターに突進した。
(はわ……)
ハートモンスターが車に轢かれた猫のように吹っ飛ぶ。コメントが私を叱責した。
『見てんなよ』『はよいけ』『傍観で草』
あ……そうだ。私も、何か……しなくちゃ。
急降下してグリフォンに足のかぎ爪を突っ立てた。うっ、硬い……。あんま刺せない。
グリフォンが羽ばたいた。私は生まれて初めて、下から轢かれた。
「あぎっ」
跳ね飛ばされた私は地面に落ちた。痛い。左足の骨が痛い。
「ファイヤーボール!」
生きていたハートモンスターがグリフォンを追って上昇。再び火球を放ち、胸に命中。私も左足の痛みに耐えながら飛び上がった。大丈夫……まだいける。人と一緒だという状況が、不思議と私を勇敢にさせているようだった。一人だったらもう泣き叫びモードだったかもしれない。
他のモンスターと融合していた方が良かったかもしれない。そう思いつつも、また右足の爪でグリフォンの背中を急襲した。今度は変に掴もうとせず、ダイレクトに刺しにいった。前足の爪が刺さり、グリフォンの茶色い毛がじわっと赤く染まる。
(よしっ)
と思った瞬間、その場で一回転したグリフォンの翼に叩かれ、私はまた落とされた。
(いっ……)
「どんどん打ってー!」
ハートモンスターの火球がグリフォンを襲う。効いてるのかなアレ。地面に横たわりながら、私はグリフォンのステ確認をしようとしてしまった。
「逃げて!」
鳥飼さんが言った次の瞬間、グリフォンが右前足で私を力強く踏みつけた。
「ぐえ」
潰れたカエルのような声と共に、口から内臓が飛び出すかと思うような衝撃と圧だった。
ヤバい。死ぬ。レベル10まで上げてきたからか、まだ体は形を保ってくれているけど、ものすごく気持ち悪い。生まれて初めての種類の気持ち悪さ。内臓が平たくされかけている。
ハートモンスターの魔法がグリフォンに命中。しかしグリフォンはまず私を圧死させることに決めたらしく、ヘイトをそっちに向けようとしない。
(うっ……ぐぇ……)
し……死ぬ。やば……。ジワジワ潰されたんじゃ根性Lv1あっても意味ない……。息が……。
『救難出して』『融合解け』『カメモン救難』
一つのコメントが目に留まる。それだ! 私は融合を解除した。
カッと白い光が瞬き、グリフォンが少しバランスを崩す。右前足でとらえていた獲物が突然消失したからだ。その前後に、二つの存在が現れた。私と……ワシモンスターだ。
「っはぁ……」
息ができる。私はなけなしの回復ポーションを鞄から取り出して自分に使った。お手手って超便利!
グリフォンはワシモンを新手と思ったのか、襲いだした。私は後ろを回って、鳥飼さんの元に駆け寄った。
「大丈夫!?」
「あ、はい」
鳥飼さんが血相変えている。ハートモンスターが戻ってくる。
「あの……次、あれと融合していいですか」
「ごめん! もう、MP切れちゃって……」
「私のMP、残ってますから……」
そう。体力とかは私持ちになる。だから……。
「セルフュージョン!」
私はハートモンスターに向かって叫んだ。お互いが磁石のように引き合い、一つになる。
そして空中に、ハートガールレベル10が誕生した。長いピンクの髪に、ピンクのタイツと天使の翼をつけた、ヤバい格好の女が……。
『草』『うわ』『oh……』『格好やば』
予想通りのコメント群。やっぱり死ぬほど恥ずかしいけど、おかげでちょっと落ち着ける。
私は白い翼を羽ばたかせ、飛んだ。ハーピーと同じように、ハートガールも飛べるみたいだった。
「ファイヤーボール!」
ワシモンを血まみれにしているグリフォンに、火球が命中。よろけた。効いてる。
そこからは空中戦だった。空を飛びまわり捕まらないよう逃げつつ、MPが尽きるまで私は魔法を放ち続けた。時折ダーンと銃撃音が鳴った。十数分に渡る死闘ののち、あちこちから血を垂れ流すグリフォンが地面に堕ちた。
(あ……)
勝った。そう感じて緊張が切れかけた瞬間、鳥飼さんが呼んだ。
「よーし、とどめさそう! こっち来て!」
彼女の元に戻ると、爆弾を渡された。弱ったグリフォンの元に置いてこい、と。
(えぇ……)
身体が勝手に動き、私は疲労困憊のグリフォンに近づき、爆弾をそっと置いて飛び上がった。
「距離とってー! ……ヨシ!」
それなりの爆発がグリフォンを抉った。爆音が上空にいた私を震わせる。グリフォンは右の翼と脚がパックリ割かれて、真っ赤な断面を覗かせ、断末魔を上げぐったり倒れた。
「ぁ……」
『おめ』『やったぜ』『勝った』『88888』
今度こそ、勝った。グリフォンの身体は泡になって消えていき、あとには大きな宝石のような結晶が残った。
「いよっし!」
鳥飼さんが盾から出てきた。自らのカメモンに向かって、
「10階層ボス、撃破で~す! 皆さん応援ありがとうございましたー!」
とVサインを決めた。
「はーい、というわけで、本日はここまで! ご視聴ありがとうございました!」
「っした……」
配信終了後、私は鳥飼さんに何度も背中を叩かれ、激賞された。カッコよかった、材本さんいないと無理だった、とか。
「いやっ……私はその……」
鳥飼さんいないとガチ無理だったのは私の方だ。ていうか、普通はあれくらい準備や武装整えていくんだよね……。改めて自分のチャランポランぶりを思い知らされたようで、むしろ針の筵な気分だった。
「じゃあ、また機会あったらコラボしようね!」
結晶の換金後、鳥飼さんと別れた私は、事実上初のボス討伐を成した達成感がようやくこみ上げ、年甲斐もなく泣いてしまった。嬉しい。私でも……私にも、できるんだ。こんなこと……。
上機嫌で帰宅した後、私はハートガールが『ダンジョンに魔法少女現るw』と存分に弄られているのを知って、布団に包まり悶えるのだった。