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サイラの意識が戻ったとき、そこは闇と粘液に包まれた閉鎖空間だった。
ぬるりと湿った肉の壁に囲まれた、脈打つような空洞――
先ほどまで死闘を繰り広げていた、バスリブ・クロッカーの胃袋の中だ。
「っ……ヤツの……体内か……? ……クソ、なんだこれ」
尻もちをついたような体勢を直そうとするが、床も壁も一体化していて区別がつかず、どこも柔らかく、ぬめっているせいで、立ち上がることすらできない。
腕に力を込めても、滑る肉壁が肘を受け止め、ぐにりと押し返してくる。
粘液は肌にまとわりつき、熱を帯びた圧迫感が、じわじわと逃げ場を奪っていく。
周囲の肉がわずかに収縮するたび、背中や腕、太ももにぴったりと貼りついてくるような感触――まるで空間そのものに絡みつかれているようだった。
「……気持ち悪い……これ、胃液か? でも……消化はされてない……?」
足元には、得体の知れない透明な液体が溜まり始めている。
そこから立ちのぼる蒸気を吸い込んだ瞬間、肺の奥がじわりと熱を持ち、胸が早鐘のように打ち始めた。
「はっ……なに、これ……頭が……ぼーっとする……」
鼓動が速まり、息が浅くなる。
体は重く、動かせない。それなのに、全身に妙な高揚感だけが駆け巡っていた。
そのときだった――
頭上から、“ぽとり”と何かが落ちてくる音がした。
「っ……!」
見上げれば、ぶよぶよとした黒い影。
拳ほどもあるオタマジャクシのようなものが、ぬめる音を立てながら、サイラの肩に落ちてきた。
「っ……ちょ、やめっ……!」
すぐにもう一匹、そしてまた一匹。
天井からぽとぽとと落ちてくるそれらが、サイラの身体に這い上がり始める。
「なにこれ……気持ち悪……!」
粘液まみれの生き物が這う感触に、身をよじろうとするが、狭さとまとわりつく壁のせいで満足に動けない。
そして追い打ちのように、オタマジャクシたちが一斉に震え始めた。
“ポォン……ポポン……ポォン……”
クロッカーの重低音を模した、歪んだ反響音。
一つひとつは小さいが、数が多い。皮膚を通してじわじわと神経に染み込んでくる。
「くっ……うるさい……何匹いんだよ……!」
だがその音は、確実にサイラの集中力を削っていた。
思考がまとまらない。何かを振り払おうとする意思が、ノイズに掻き消されていく。
「……やめろ……私は……」
歯を食いしばるサイラの体に、さらに数匹のオタマジャクシが重なっていく。
ぬるぬると這う感触と、無数の音の圧力。抵抗は、わずかずつ、確実に削がれていった。
「っ……ダメだ……ここ……までなのか……」
思考がふっと白くなる。何を考えていたのか、何を言おうとしていたのかすら曖昧になっていく。
闇の中で、粘液に埋もれ、音に支配され――
蛇野・ヴァイパ・サイラの心は、静かに、軋み始めていた。