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【この作品は『童貞卒業権利争奪戦』の続編へと繋がる間章になります。先にあちらの作品を読んでいただけると幸いです】
勝負の日。俺の「初めて」を賭けて岡田先輩と茅野先輩が果たし合いを繰り広げる、運命の日。夜の公園で待つ俺に会いに来たのは、茅野先輩だった。
正直、これに関してはどっちでもよかった。岡田先輩も茅野先輩も、どっちも可愛いし上手そうだ。先に誘ってくれたのは茅野先輩だけどだからといって優先しようとは思っていなかったし、どっちが勝ってもやることは同じだ。だから茅野先輩が来て嬉しいとかの感情はない。
迎えにやって来た茅野先輩の頬は微かに火照っていた。髪も若干濡れているし、いつものようにセットもされていない。きっと勝負後にシャワーでも浴びたのだろう。
「お待たせ、田中君」
「・・・・先輩が勝ったんすね」
「そうだよ、当然でしょ?私が勝ってほしかったんだよね?」
まるで俺がそう思っているのが当たり前だというような決めつけに、少し嫌な気持ちになる。今の茅野先輩の姿は、普段見る姿とはかけ離れている。普段のバイト先で見せる甘々しい女の姿ではなく、セックスに夢中になった野生の女の姿だ。俺なんかの「初めて」を賭けて同僚のバイト仲間との逝かせ合いに挑むぐらいには性欲が強く、我も強い。これが茅野先輩の本当の姿なのだろう。
正直言ってこのギャップは嫌いではない。にこやかな笑顔を振りまく甘い系の女の本性が、実は性欲も性格もキツい激しい女でしたというのは、あまり女に興味のない俺にとってもかなり興奮するものがある。
シチュエーションに関しても文句はない。2人の女が俺を巡って勝負するなんて、男としてはこれ以上に無い状況だろう。だからこそ、これでそんな興奮するシチュエーションからもさよならするのかと思うと、少し勿体なく感じてきた。
茅野先輩や岡田先輩にも言った通り、俺は童貞だ。だからこそ2人は俺の「初めて」を奪い合った。だが、ここで茅野先輩と「初めて」を終えたら、そのチャンスは二度と無くなる。
それは少し、というか滅茶苦茶、もったいないのではないだろうか。
「さ、早くやろ。ホテルでいいよね?」
茅野先輩は俺の手を取って歩き出そうとする。さっきまで女同士でセックスしていたというのに、早速俺ともやる気のようだ。認識的には逝かせ合いはセックスとはかけ離れているのだろう。そこらへん未経験の俺にはさっぱりだが、やっぱり、異性とのセックスは特別なのだろうか。
それが相手にとって「初めて」なら、なおさら特別に感じるのかもしれない。そう思うと、ますますここで「初めて」を手放すのが惜しいと思えてきた。
これを使えば、これからももっと興奮するシチュエーションを作れるのでは?
それは、明らかに誠意に欠けた考えだった。だが思えば思うほどそういう思考が膨れ上がっていく。
「やっぱり初めてだし緊張してる?でも大丈夫だよ、私がちゃんとリードしてあげるから。とりあえずゴムは──」
「あの、先輩」
俺は先輩の言葉を遮ってその場に立ち止まった。茅野先輩は怪訝な表情でこちらを見てくる。
「え、どうしたの?」
「すいません先輩。実は俺、ちょっと調子悪くて」
「え、体調悪いってこと?」
「まあ、そんなとこっす」
そう言うと、茅野先輩は露骨に気を悪くしたように顔をしかめた。勝負に勝ったご褒美を取り上げられた子供のような反応だ。
「・・・・じゃあ、また今度にする?」
「そうしてもらえると助かります。・・・・すいません、もしかしたら緊張してるのかもしれないです」
「緊張?」
「はい。なにせ初めてですから」
「・・・・へえ、意外と初々しいこと言うんだね。まあ私も最初はそうだったかな。・・・・いいよ、じゃあ延期しよ」
「すいません」
「いいよ。でも覚悟してね?その分やるときは激しくするから」
そう言って小悪魔のように笑う茅野先輩を、俺は初めて恐ろしく感じた。
茅野先輩と別れた帰り道、俺は自分に自問自答しながら考えていた。
なんであんなこと言ったんだろう。
もしかしたら本当に緊張していたのか?・・・・いいや、そんなことはない。初めてだからと言っても、俺にセックスに対する特別な感情は無い。
ならば、やはり俺は自分の「初めて」を手放すのを惜しいと思ったのだろう。この状況を使えば、今回の茅野先輩vs岡田先輩のような、興奮するシチュエーションを作れるのではないかと、その可能性に気付いてしまったのだ。
だが、ちょっと延期したところで何というのだろう。もう一度「初めて」をエサにして岡田先輩を惹きつけて茅野先輩と再戦させるか?それも悪くないが、茅野先輩が他の子とバチバチしている状況を作りたい。
しかし、それには新たな女の子が必要だ。今回の2人のように、俺の「初めて」を狙う3人目の女の子が。だがそんな都合よく新しい子と会えたりなんて──
「ねえお兄さん」
声をかけられてハッとした。足元ばかりを見て歩いていたから気が付かなかったが、知らないうちに目の前に女の子が立っていて、話しかけられたらしい。
「えっと・・・・俺っすか?」
「そうだよ、お兄さん以外に誰がいんのさ」
俺と同年代だと思われる女の子は、そう言ってニコッと笑った。笑顔の可愛い子だと思った。やや幼い顔立ちをしながらも我を強さを感じさせるようなメイク。明るめの長い金髪をピンクのリボンでツインテールで纏めている。
「何か用ですか?」
「いやさー、お兄さん暇そうしてたから今からちょっと遊ばないかなって。ダメ?」
「・・・・ナンパっすか」
「あはっ、まあそうかもね。どう?私と良いことしない?」
「良いことって?」
「そりゃあ、年頃の男女が夜にやる良いことって言ったら、ねぇ」
女は誘うような表情をして顔を近づけてくる。・・・・なんだこれは。これじゃあまるで、神様が俺に言っているみたいじゃないか。
もう少し楽しめって。
「・・・・いいっすけど、一つ言っとかないといけないことあって」
「なになに?」
「俺、童貞なんです」
「・・・・へ?」
「お姉さん、俺の「初めて」、欲しいっすか?」
これが新たな幸福の始まりだった。