Previous Post

【第三話】仲間も敵もボスもNPCも背景に映っているだけのモブにすら片っ端から爆乳むちむち高身長美女化MODを適用したせいで自分以外の全ての生き物が豊満抱き枕体型なくせに自分の体格に無自覚な無知むちお姉さんになってしまったRPGゲーム世界に転生する話

Next Post
no preview
DESCRIPTION

──女性に、抱っこされている。

僕と比べたら、幼児と母親ほどに身長差のある、とても大きな女性が、まさに愛し子を抱くように、自分のおっぱいが潰れるのも気にせず、僕の身体を胸元でしっかり抱きしめていた。


僕は、その胸元で、もぞもぞと力なく藻掻いては、時折ぴんと足を伸ばし、絶頂に至る。

自分が、天国のような処刑場に向かわされていることを知って、なんとかこの乳肉の檻から抜け出そうとしているのだ。

しかし──足も地面につかないよう、しっかりと身体を持ち上げて抱っこされては、もう駄々をこねても女性にはその意図すら伝わらない。

もぞもぞ、すりすり、身体を撫でまわし、おっぱいに頬ずりして、桃色に染まった吐息を吐いて──うっとりと、至福の射精を繰り返すことしかできなかった。


──その女性の身体は、オスの性欲をぎとぎとに煮詰めて、ちんぽをシコるためだけに描いた裸婦像のように。

ひどく豊満で、乳が殺人的に大きく、お尻が人を踏み潰せるほどデカく、そして太ももは僕の腰と同じくらい、非常識に太かった。

それでいて、そのお腹は適度に弄べるほど肉がついているのに、いやにくびれていて、女性的な美しさを損なわない。

胸から腹、腹から尻へと、極端に強調された曲線が猥雑にくねる、砂時計のような身体をした女だった。


そして、その身体に纏った衣服は、ビニールでできたラップのように、素肌にやたらぴとぴと張り付き、自分の身体のシルエットを強調する、うっすいスケスケのドレスだ。

そんなものを、自分の裸体に巻き付けているのだから、それはもう裸で歩いているのと、ほとんど相違ない。

その高級そうな服から与えられる、シルクの肌触りも、適度に汗を吸って湿り気を帯びた、ぷるつくような潤いも。

抱きついた時のこってりとした満足感も、頬ずりの心地までも──生の乳肌に、思いっきり吸い付かれているのと、ちっとも変わりは無いのだ。


──女性が一歩歩くごとに、巨大すぎる乳肉が、ぱふ、ぱふ、身体中を舐め回すようにしっとりと、ずりずり雑巾がけするみたく身体を磨りつぶす。

むき出しにした快感神経を、ちんぽごと肉臼に挽かれるその感覚は、到底人間に耐えきれるものではない。

強烈なのに、うっとりと眠気すら呼び起こすような、ひたすらに甘ったるい快楽拷問。

恍惚の塊である乳肉に、ひたすら全身をいじめられて──僕は助けを求めるように、喉を引きつらせ蕩けきった声を上げる。

しかし、実際に出たのは、あまりにも弱々しくマゾ臭い、小さな甘え声でしかなく。

それ故に、その声は誰にも届かず、僕は結局、愛おしそうににんまり頬を綻ばせた女性に、頭を撫でてもらうことしかできなかった。


僕はこんなに必死こいて、爆乳による監禁から逃れようとしているのに、これではまるで、おっぱいを揺りかごにして、ちんちんをあやされる、赤ちゃんだ。

そんな、人間としての尊厳をかなぐり捨てたような、情けない姿を──僕は、この国で、いやこの世界で、最も人通りが多く、最も栄えている大通りに、晒されている。

毎日のようにバザーが開かれ、人の雑踏と威勢の良い商人の声で、話し声すらも聞こえないほど賑わっている、この場所で。

端から端まで行って帰ってくる間に、誰ともぶつからず歩くのは不可能とすら言われているここで、僕は──大きな女性に抱っこされて、おっぱいにしがみつきながら、精液を漏らしている姿を、何人もの人に見せつけられている。


ひどく情けなく、人権を一切放棄したような姿を、民衆に晒されるこの状況は、さながら古くから見られる刑罰である、引き回しの刑のようだ。

本来なら僕は、こうして羞恥にもだえている姿に後ろ指をさされ、石を投げつけられ、一生『女の乳に一方的に敗北する変態』という汚名を着させられて、二度と表を歩けないほど馬鹿にされるのだろう──そう、本来なら。


ひそひそと、周囲から噂をするような声が聞こえる。

真っ白な大福餅のようなおっぱいに、丸ごと埋め尽くされた視界の端で、こちらに指をさしながら、横目で内緒話をする人影が見える。

いやだ、やめて──と思いながら、周りから聞こえるひそひそ声に、耳を傾けて。

僕はまた──ぞくぞくと腰を震わせて、また精液をとびきり濃くすることしかできない。


何故なら、彼女らが後ろ指をさして、僕に向けて吐き捨てる言葉は。


──うわ、あの人、赤ちゃんみたい、すっごくかわいいっ……♡

──あ、ちんちん漏らしてる……♡男らしくて、かっこいい……♡あんなの、惚れちゃう、一目惚れしちゃう、赤ちゃん産ませてほしくなっちゃう~っ……♡

──あの女の人、いいなぁっ……♡クソ、アタシもあんな風に、あの子をおっぱいで抱いてやりたいっ……♡柔らかお肉で包んで、守ってあげたいのにっ……♡

──なんだよアイツ、あんなに可愛い男の子様を抱っこできるとか、前世で世界でも救ったのかよ……♡


羨望。好意。恋慕。執着。

すき、かわいい、かっこいい、いいなぁ──といった、歪な偏愛に溢れたものしかないからだ。


誰も、僕に対して、白い目を向ける人はいない。

それどころか、僕に向けられる目線はすべて、ハートマークの込められた、ギトギトのネオンのように彩られた、ショッキングピンクの目線だけ。

憧れの的であるアイドルを、あるいは恋してやまない異性を、一挙手一頭足に至るまで、その目に焼き付けるように、ただ見つめているだけだ。


そう、異性──。

到底納得なんてできないが、今だけは一万歩譲って、異性である女が、僕にそんな感情を抱くことには、納得したとする。

では、男はどうなる?

もしも僕が、僕と同じような目に遭っている男を見たら、きっと嫌悪を抱くだろう。

そうして、睨み付けたりそっとその場を離れるならまだ良いが、人によっては罵詈雑言を浴びせたり、石を投げつけることがあっても、何らおかしくはない。


しかし、今の僕に、悪意や嫌悪なんて、ほんの少しだって向けられはしない。

何故か。その理由は、これ以上無く簡単だ。

──この世界に、男など、僕以外に誰もいないからだ。

いや、もっと正確に言えば、本来は居たのだけど──それらは全員、一切の例外なく、爆乳むちむち王子様系イケメン高身長になるよう、女体化してしまった。

それどころか、恐ろしい人食いのモンスターも、そこらで昼寝している野良犬すらも、しらみ潰しに、女体化済み。

それ故に、この星の上に存在する生物は、全てむっちむちの高身長で、バストもヒップも百二十センチ超えが当たり前の、アイドルやモデルも顔負けな美女のみになってしまっている。


元々は小さな子供だった女の子も、容赦なく身長もバストも盛られて大人化し、今は歩く度にどたぷんと重々しく乳肉が揺れる、ずっしり乳牛ボディに変化。

路地裏にはびこる薄汚い男盗賊も、少女漫画に出てくるような、学内にファンクラブを持っていて毎日女子から告白される、典型的な王子様の顔面に──それに全く似つかわしくない、もっちり豊満な脂肪を、乳にたっぷり盛り付けた、ちんぽを受け止めるオナホボディのマゾメスに変えられて。

馬車付き場に手綱を巻き付けられている、あの馬でさえも、今は──がっしり頼りがいのある骨盤に、筋肉と脂肪が混じり合った、極上のもちもち霜降り肉をこしらえた、汗の映える安産型のデカケツ美女でしかない。


この世界に存在する、何億という数の生物は、全て。

例外なく、ちんぽ好みする身体の、どうしようもなく美しい、雌になっていた。


視界が、だっぷんだっぷん、柔らかい乳脂肪のように、弾んでいる。

おっぱいに乗せられ、歩行と共に揺すられているから、仕方ないのだが──それ以上に、目に映る人間全てが、ただ呼吸をするだけで雌肉がたぷつく、全身が嫌になるほど柔らかな爆乳美女なのだから、当然だ。

脚をただ前に出すだけで、目に毒なほど艶々な乳肉や太ももが、茹でたての白玉団子のように震えて、今もこんなにおっぱいの沼に沈み込んでいるのに、更にむしゃぶりつきたくなって堪らない。


でも、それ以上に。

僕が、道行く彼女ら、一人一人に対して、浮気の情念を抱くよりも強く──すれ違う彼女らは、僕を甘やかしたいという、歪んだ性欲を抱いてしまうのだから、この世界は、もう。

──ひときわ熱く、大きなため息を吐きながら、たっぷりと時間をかけて甘やかされきった精液を、ことさらに甘ったれながら、尿道からとぷとぷ乳内に注いだ。


そして、そんな姿を見て、周りからはまた、あぁ……♡とかうわ……♡とかいう、惚れ惚れする様な声が聞こえる。

狂っている、としか言い様がないが、僕がおっぱいに埋もれる姿は──これ以上無く、女性を惹きつける、勇ましくて男らしく、可愛らしくて愛おしいものだと、誰の目にも映ってしまう。

僕が、女性の魔乳に溺れて、柔らさかと甘い匂いに蕩け、はふぅ──♡と息を吐いてちんぽを乳内に泳がせるたびに。

周りの女性達もまた、はぁ──♡♡♡と、僕の百倍は甘い吐息を出して、頬に手を当て、恋をするようにぶるりと身体を震わせる。

そして僕が、たっぽんたっぽんと乳を弾まされて、ちんぽを上下に押しつぶされ、その甘ったるい重みに、音を上げるように射精するたびに。

周りの女性もまた、ぼうっと棒立ちになり、その様子に釘付けになるほど食い入って、僕が絶頂に達するのと同時に、心臓が甘く跳ねて苦しくなり、胸をぎゅっと握りしめて、股ぐらをしとどに濡らしてしまう。


──この世界は、どこまでも、僕にとって都合が良くなるように、狂っていた。

そう、今僕がいるこの場所は、比喩でも何でも無く、僕というたった一人の人間が、ちんぽを気持ちよく射精するためだけに作り替えられた、自分勝手な楽園なのだ──。


どこを向いても天国で、どこに行っても極楽。

そして当然、この世界が丸ごと僕のための雌肉ハーレム箱庭なのだから、どこに逃げても出口なんかなく、ひたすら果ての果てまで、ちんぽの快楽にまみれた、雌肉の遊園地が続いている。

そんな中で僕ができることといえば、ちんぽを雌肉の隙間で泳がせることだけで、辛く厳しい冒険なんてする暇もなく、ただただ生ぬるく神経を貫く、幸福があるだけ。

果てのない堕落を繰り返しては、絶望するほどの多幸感に、あっぷあっぷと溺れ尽くすことしか、できない。


そんな世界で、僕は今から、処刑場とも言うべき場所に、連行されようとしている。

おっぱいの隙間から顔を上げ、見上げてみれば、明らかに天を貫いている、荘厳で高級感のあるビル。

現代のように、重機や機械が発達していない、この中世の世界において、一体どれほどのお金と労力を使ったのか、という高層の建物が、僕の真正面にそびえていた。


──思わず、溜息が出る。

自分が今、行くあてもない異世界にいるという現実も忘れて、しばし感動に浸るほど、それは立派な塔だった。


外観からして、街にある建物の群を抜き、一本突き出るように高く、天に向かって建てられている作りは、豪奢の一言。

原作のゲームにおいても、ここは全世界のセレブが憧れの的にしており、世界中の大富豪たちが海を越え空を越え、わざわざここに入るだけに脚を運ぶ場所とされていた。


その外壁は、古代ギリシャの神殿を思わせるような大理石製の、厳かで古風な雰囲気の作りだが、真っ白な壁は磨き抜かれていて、決して古臭さを感じさせない。

むしろ、施すところには細かく緻密に彫刻を拵えつつ、ごちゃつかないよう無駄な装飾をそぎ落とした、全体のバランスを重視する造形は、現代にも通じるモダンなお洒落さがある。


普通、中世のファンタジーものの生活水準と言えば、当たり前だが現代のそれとは比べものにならないほど低いものだ。

特にその中でも、娯楽や食事、それに衛生面ではその傾向は顕著であるものだが、目の前のこの建物に関しては、そんな印象は抱かない。

むしろ、これが現代の日本にそのまま建っていても、現存する日本有数の高層タワーマンションなどと比べて、遜色ない絢爛さを誇っていると思えるだろう。


ぎゅっと、女性の身体に手を回して、より深くしがみつく。

──僕は今から、そんな、明らかに天上界を模して造られた、竜宮城のような場所に、叩き込まれるのだ。

その幸福は、もはや今の自分には想像もつかず──ぴゅっと精液を漏らし、おっぱいの間でいやいやと、首を横に振ってわがままをした。


彼女の乳肉は、ひたすらに、大きい。

僕が両腕をいっぱいに広げて、彼女の身体に抱きつこうとしても、その爆乳に阻まれて、背中まで指が届かないほど。

こうして、抱っこされてしまえば──全身でおっぱいにしがみつく体勢になってしまうほど、ひたすらに、巨大だった。


けれど、何より恐ろしいのは、大きさだけではない。

こんなにも、たっぷり重く乳脂肪をこさえているのに──その質感は、決して大味ではなく、むしろ極上の繊細さを誇っている。

おっぱいの柔っこさ、乳肌の吸い付きを、味わえば味わうほど、更に強く抱きついて、より谷間の深いところで、ちんぽを挟みたくなってしまって。

まるで、このおっぱいに、どんどん沈み込んでいく自分の身体が、このおっぱいに精神まで堕落させられていくのと、連動しているような気分にすらなってしまう。


そんな風に、思考も理性も、金玉の中に溶かし込み、精液として垂れ流す姿を──ちらりと隣を見てみれば、これまた乳と尻がでっかくて、そのくせ凛々しく厳しそうな眼をした騎士様が、まるで要人の警護をするように、守ってくれている。

情けないマゾオスが、白昼堂々女性に侍ってもらい、ちんぽを女体に甘えさせ、腰をぐりぐり練りつけている、浅ましく汚らわしい姿を。

大真面目に、槍を片手に周囲を牽制し、僕に一切の危害が与えられないよう、忠誠を誓うように片時も離れず僕の盾になってくれているから──僕はその姿があまりに愛おしくなって、不躾に騎士さんを呼びつけ、ベロキスをねだった。


正直に言って、僕はこの人の名前も、よく知らない。

確か、この目に負えないほどの速度で文字が流れる、眼下のダイアログボックスのようなものに、名前が書いてあったと思うが、すぐに他の人の名前に上書きされて、押し流されていってしまったから、もう僕には分からないのだ。


視界の一部を占領する、ゲームによくあるような、チープな四角の文字盤。

ここには、さっきから延々と──誰彼が僕に一目惚れした。誰彼が僕に魅了された。誰彼の好感度が最大になった。誰彼の好感度はもうこれ以上上がらない。

そんな文字が、エラーを吐くようにして、高速で書き込まれている。


──ここは、元々ゲームの世界だったのだから、それ自体は不思議なことではない。

それよりも気にするべきは、書き込まれる内容だ。

道行く全員、眼すら合わない極上の美女たちが、きゅんきゅんと胸を高鳴らせ、僕に一目ぼれしてくれている。

例えば、名前も知らない、あのお堅そうな釣り目の美女に、今すぐ結婚を申し込めば、返事もなく飛びついてくれるぐらい。

もっと言えば──そこに居る騎士様に、他の女性にお洋服赤ちゃんにしてもらい、全身をみっとりパイ肉でコキ落とされながら、その上で浮気ベロキスをせがむという、最低のセクハラをしても。


ぶっぢゅるるるるううぅぅぅ~~~~~っっっ……♡♡♡


と、無表情のまま目にハートを浮かばせつつ、ぷりっぷりの厚い唇で、奉仕をするように卑しく、舌を絡めて恋人べろちゅーをかましてくれるぐらい。

この人も、あの人も、みんなみんな、僕のことが心の底から大好き。

もう魂にまで恋心が擦り込まれているから、百回生まれ変わっても、ずっとずっと永遠に、僕にぞっこん。

勝手に尻肉をひっぱたき、太腿を撫でまわし、乳首に吸い付いて母乳を飲んでみても、その男らしさによりベタ惚れしてしまうぐらい、どうしようもなく恋していて、もう何をしても好感度が上がってしまう、盲目な魅了状態に陥っている。

しかも、この世界にはどうせ、男なんて僕しかいないのだから──人間もモンスター娘も含めれば、ここには何億という女性がいるが、それらは永遠に誰にも取られることなく、僕が絶対に独り占め。


こうして、爆乳の谷間を玉座にして、王様みたいにふんぞり返り、乳内射精を繰り返しては、人間世界では死ぬまで目にすることもできないような、二次元のエロ漫画から飛び出てきた洋ナシ体型なデカパイくびれの、曲線まみれな極上美女たちを太鼓持ちにして、きゃあきゃあと持て囃される。

それだけを、永遠に繰り返す、天国。


──やはり、僕が転生してしまった世界は、歪んだ楽園なのだ。

騎士様の、潤いたっぷりなぷるつく唇を貪りつつ、性感に茹った頭で、それを再認識した。


そんな、道を歩くだけで、死んでしまいそうなほど気持ちいい思いをする、この世界において。

更なる楽園があるとすれば──それは、僕を抱いて歩く、この女性が向かう先に他ならない。


たふ、たふ、と女性は静かに歩みを進める。

たったそれだけのことで、僕の身体はこれ以上なく深い淫蕩に叩き落されるのだから、この世界の女性からすれば、僕をめろめろに惚れさせるのは、きっとこれ以上なく簡単なことなのだろう。


だから、もしも僕が──この道の先にある、世界最高峰のサービスを持った、この世の桃源郷と名高い王族御用達な最高級の三ツ星ホテルに叩き込まれたら。

豪華絢爛なVIP用の超スイートルームに入れられて、城下町の往来を見下ろしながら、天蓋ベッドにどっかり腰をかけ、乳を揉みつつちんぽをしゃぶって貰ったなら──もう、あまりの快感に、気を失ってしまうに決まっている。

そんな簡単なことも分からずに、僕はついさっき、近くのホテルに連れて行ってくれ、と口走ってしまったのだから。

もう僕が二度とまともな人生に戻れないよう、快楽地獄の底の底まで叩き落されることは、確実であるのだ。


女性は、そんな事を露ほども気にすることなく、進んでいく。

出店が連なり、商店街のような様相になっていた先程の通りとは違い、ここいらは明らかに閑静な、高級住宅街となっている。

すれ違う人々の身なりも、あからさまに高級で、鼻を澄ませば素晴らしく心地のいい、香水の匂いが漂っていた。


──男を誘惑し慣れた、べっとりとシロップのようにへばりつく、流し目が身体に刺さる。

貴族の世界においては、有用で地位の高い男を射止めることこそが、宿命であり悲願。

つまり、この辺りに住む女性というのは──その容姿を磨くこと、そして男に媚びていい想いをさせることを、幼少から学んで身に着けた、魔性の美女ばかり。

それも、見てくれのいい男女ばかりが交際することで、最高級の遺伝子を煮詰めて煮詰めてできた、神秘的なほどの美女ばかりなのだから、見ているだけで目の保養になりすぎる。

まあ──この世界においては、美人というものは全く珍しいものでも何でもないのだが、その中でもここの人たちは、顔立ちも肉付きも派手派手で、表現はあまり良くないが、まさに最高級の娼婦のよう。

こんな人が娼館にもし居たら、破滅してもいいから、全財産をなげうって、一晩だけでも抱かせて欲しいという男が続出してしまうだろう。


そんな、花魁級の美女の横にいるのは、白馬の王子と見紛うほど顔の整った、白銀色のウルフカットが似合う、マニッシュな女性。

これもまた、男も女も放っておかない、生まれついて人を魅了することを生業とした淫魔のような顔立ちで、一度目線を合わせたらどうにも引き剥がすことができなくなる。

そのままウインクでもされたら、魅了を跳ね返されたように、ぽうっと惚けたまま求婚してしまうだろう。


結婚というものが、家柄に関わる一世一代の大勝負になる貴族社会では──どうしても、位が高くなればなるほど、顔が整い、身体が豊満に肉付く。

皇帝級の男には、世界で上から数えて一番美しい女が寄ってきて、至極当然に子種を仕込まれるからだ。

そして、その次に偉い男が、二番目に綺麗な女を抱いて子を産ませ、その次の男が──という繰り返しで、カーストのある社会は回ってしまう。

もちろん、多少の例外はあれど、権力のある人間は、孕ませたいもしくは孕みたい異性を選べるから、それを繰り返しどんどん遺伝子が綺麗に整って、最後は絶世の美少女もしくは美少年しか生まれなくなるのだ。


──それを指し示すように、住宅地の奥へと進めば進むほど、家の作りが豪勢になり、それに比例して、おっぱいがよりデカく、太ももがより太い女ばかりが現れる。

顔立ちは更に妖艶に、爽やかなマスクはもっともっと甘く。

あっあっ、と顔を見るだけで甘勃起が止まらなくなる、至福のランウェイを進んでいると──ふと、異国情緒のある顔立ちが、通りに混ざった。


褐色肌に、踊り子のような飾り付きの服を着込む、目元に紫のアイシャドウを引く女。

こちらの世界に来る前に見慣れた、日本人らしい橙色の肌に、仰々しい着物を着た女。

それに、エキゾチックな民族衣装に、フェイスペイントを施した、腹筋の眩しい健康的な女。


それらの女性たちは、どれも傍に御者を付けたり、後ろから馬車を引かせたりしており、明らかに国の要人といった態度を取っている。

もしかすると、一国の王女だとか、あるいは王子だとか、そんな人間が混じっていても、何ら不思議ではない。


──目の前にあるホテルを、見上げる。

最上階まで視界に収めようとしたら、ほとんど真上に向かないといけなくて、首が痛くなりそうだ。

そこから目線を下ろして正面を見れば、凱旋門を思わせるような、白くて巨大な門構えが僕を出迎えており、多分怒られはしないだろうと分かっていても、こんなボロの服を着て入ることを戸惑わせる。

そんな堅牢な門の向こうには、まず隅々までよく手入れされている、広々とした庭園があり、そこだけで一日過ごせるほど豪勢で美しい。

もちろん奥には、ボディガードやお付きの人間を含め、多人数の王族グループをまとめてもてなせる、馬車の着き場まで存在していて、まるで一つの町のようだ。


──つまり、ここはそんなものが必要になる場所。

他国の貴族や王族を城に招く前に、この国の威光を見せつけるため作られた、まさに威信のかかった第二の王宮に他ならないのだ。

それでも一応、ここは表向きは一般にも開かれたホテルとされているが、ここで泊まるためには、平民が一生貯め込んでも買えるかどうかという、やたら高価な会員権利書をまず買わないと、そもそもロビーにすら入ることができない。

その上で、一般客室を予約するのにも、また莫大な費用がかかるという、貴族や王族以外を排除するためのシステムを作られた、ふざけた場所なのだ。


──本来ここは、そういうサブイベントをこなすためだけの場所だった。

確か、原作のゲームでは、主人公に敵対する悪徳貴族が、この中を絶対に安全な避難所として使っているから、それを仕留めるために、高いお金を用意させる、という話だっただろうか。

これをクリアするために、店で売られている中では最強の装備である、オリハルコン製の武具を買うほどのお金が飛ぶので、かなり面倒なイベントだったと記憶しているが、だからと言って警備を強行突破して中に入ろうとすると、最終ダンジョンの敵より強いガードマンがわらわら沸いてくるから、どっちにしろゲーム終盤までクリアできなかったのだ。

どうでもいい話だが、ネットの掲示板では、よくこの警備員を丸ごと連れてくれば、人類の敵である魔王も余裕で倒せるだろうと専ら話題だったのも懐かしい。


まあ、ここの警備が手薄では、各国のトップが暗殺し放題なのだ。

むしろ事前に話を通している王族ですら、ここを通る時には一人一人の身分を提示させ、内部に不正に侵入する輩が居ないかと厳格にチェックされるのだから、よっぽどのことがなければ平民を中に入れたくないのは当然だろう。

逆に言えば、お金さえ払えば中に入れてくれるというのは、かえって有情な方なのかもしれない。


──そんな場所に、僕は今から、アポもなければコネもなく、会員証すらもない状態で、中に入ろうと言うのだ。


「お待ちを」


だから、僕を抱き上げたままの女性が、門の前で止められるのは、これ以上無く当然のことだった。

燕尾服を着て、流麗な仕草をしつつも、圧倒的な強者の風格を漂わせる、執事風の極めて脚が長い女性が、入り口の前に立ちはだかる。


「申し訳ありませんが、当ホテルの会員証をお持ちでない方は、中に入ることができません。どうか、お引き取り願います」


僕を抱いたままの女性と、隣にいる騎士様も、不服そうな顔をするけれど、流石にSP並みに訓練された門番だ。

彼女は一歩も引いたりすることなく、毅然とした態度で、二人が入るのを押しとどめている。

僕は、赤ちゃんが抱っこされるような体勢で──つまり、女性と抱き合うように、反対を向いて持ち上げられているので、二人の執事さんの顔は見えないが、やはり彼女らはそこらの人とは違うようだ。

もしかすると、単純にステータスが高いから、魅了が効きにくいのかもしれない。

やはり、給仕をさせても戦闘をさせても、何もかもが一級品のスタッフだけを集めたこのホテルは、一筋縄ではいかないらしい。


確か、ゲームのフレーバーテキストによれば、この人たちは王国の近衛兵とほとんど同じ強度の訓練を乗り越えた人たちだとか言われてたな──。

そんな事を、ぼんやりと考えながら、僕は中に入ることを諦めた女性に、そっと地面に置かれる。

久しぶりに、自分の足で地面を踏んだから、腰が砕けて少しよろめいてしまった。


ああ、結局宿無しになってしまったから、またどこかで休める場所を探さないといけないな──。

そう思う前に、よろめいた体が、汚れ一つない白手袋に支えられた。


振り返ってみれば、平然としていたはずの執事さんが──無表情のまま、恭しく膝をつき、手の甲に口づけを一つ落としてから、僕の手を握ってくれている。

仕事も役目もどうでもいい、この後で怒られようがクビになろうが構わないから、この子の命令に逆らうことだけはあり得ないという目つきを、僕に向けながら。


──違う、甘かった。

どれだけステータスが高かろうと、魅了が効かないなんてことは、そもそもあり得ない。

だって、彼女らは──魅了するまでもなく、最初から好感度が最大になっているのだから。


「……おや、お召し物が濡れていらっしゃいますね。着替えを持って来させましょう」


もちろん、今まで僕を連れてきてくれていた二人は、ぶうぶうと文句を言っているが、執事さんは素知らぬ顔だ。

二人の言葉を聞き流しながら、さっきまでおっぱいの谷間にいたせいで、乳汗に濡れた顔を、純白のハンカチで丁寧に拭く姿には──警護の心得を無意識にまで染みつかせた、鉄の門としての誇りと、狂信的なまでの恋心が、同時に垣間見える。


そうして執事さんは、手のひらを口元にあてて、ぼそぼそと何かを呟いたと思うと──どこからともなく、また別の執事さんが、風のように現れる。

恐らく、何らかの魔法を使い、服を持ってくるよう別の人に話を通してくれたのだろう。


流石に、パンツまで濡れていて気持ちが悪いので、恥ずかしながら濡れタオルも借りつつ身体を拭かせてもらい、ありがたく着替えを頂戴する。

不思議なことに、サイズは上下とも、ぴったりだ。

二人に対して、ありがとうございますとお礼を言うと、その二人もまた、寸分たがわないタイミングと体勢で、深く一礼をする。

そして、お得意先にそうするように、慣れた手つきで僕にカードを渡すと──。


「それはそれは、勿体なきお言葉です。当ホテルの、大切な”お客様”をお守りするのは、当然のことでございますので」


──するりと身体を横に退けて、何事もないように、門を僕に開けてくれる。

驚いて、渡された黒いカードを見れば、そこに書いてあるのは、メンバーズ・セレクションの文字。

それはつまり、会員証の中でも、限られた人間しか持つことのできない、招待制のカードを渡されたという意味で。


恐る恐る、一歩、門の中に足を踏み入れてみても、門番である執事さんは、僕を追い出そうとしない。

──泊っていけ、という意味だろうか。


怯えながらも、夢みたいに華々しい庭園を、そろそろと泥棒みたいな忍び足で歩く。

前世では見たこともない、煌めく水晶のような花びらをつける、この翡翠色の花畑は、果たして自然のものなのか、それとも鉱物でできた人工のものなのかも分からない。

いかにも宗教画やフィクションで描かれる『天国』の様相の中で、これまた天使みたいに綺麗で大きな女性が、優雅に談笑しながらドレスをはためかせていて、まるで僕は本当に死んでしまったんじゃないかと錯覚する。


周囲に見える人々は皆、あからさまに従者を引き連れていて、格好もまさに豪族といったところか。

中央にある道を、堂々と進んでいるあの一行なんか、何に使うのか分からないが、十数人の付き人を使って、山ほどの荷物を運んでいる。

そして、その先頭に居るあの女の人など、地面につきそうなほど長いマントの裾を、二人の従者にわざわざ持たせて、やたら腰が高くて目立つ長身の胸を張り、谷間の空いたデカパイを放り出してゆっさゆっさと見せつけていた。


それに比べて僕といえば──このホテルから貸してもらった、高級そうなシルクのローブに巻かれながら、いかにも服に着られているという様子で、ぽつんと一人ぼっちのまま、木々の間にまぎれている。

やっぱり、中に入れてもらいはしたけれど、僕はどう見てもこの場にふさわしくない。

この世界において、そんな事を気にする人は誰一人として居ないだろうけど、他でもない自分が気にしてしまう。

このVIP専用のカードを持っている、という意味では、ここに居るほとんどの人よりも上の立場とすら言えるのだろうけど──僕はこそこそと、生垣の陰に隠れるようにして、エントランスの中へと向かっていった。


それにしても──ここは、何もかもが、立派だ。

身を屈めて、ロビーの中に入って見れば、シャンデリアのぎらついた光がまず眼を刺す。

それに続いて、ピカピカに磨かれた大理石に、やたら高そうな絵画に、宝石の埋め込まれた大きな柱に、果ては全て純金でできた噴水が目に飛び込んだ。


フィクションだからこそ実現できる、侘び寂びもへったくれもない、下品なまでの高級志向。

けれど、逆に言えば現実には実現しようもない、ひたすらに金銀財宝をあしらわれたホールは、思わず目を奪われる昂揚が確かにあった。


──しかし、そんなフロアの中に、あからさまに雰囲気から浮いている、簡素な木箱が置いてある。

そこらの民家で使い古されているような、ところどころ汚れた、何の変哲もないチェストボックス。

一瞬、誰かの荷物をそのまま置いているのかとも思ったが、それにしても床に直置きすることはないだろうし、何より置いてある場所が場所だ。

よく目立つ、吹き抜けとなるメインの階段の隣。

人の目が多い場所だから、盗まれることはないだろうが、だからと言ってそんなところに、わざわざこんな汚い箱を置きたがる人間もいないだろう。


しかし、誰も邪魔に思ったりはしないのだろうか。

そう思い、しばし観察してみるけれど、その箱に注目する人も、ましてや退かそうとする人もどこにもいない。

それどころか、誰にも見えていないようにすら感じる。


不思議に思い、近づいて見てみると──ふと、このチェストに見覚えがあることに気が付いた。

あまりに場所にそぐわないから、初めは違和感があって分からなかったが、これは原作のゲームで幾度となく使ったものだ。


アイテムボックス。

RPGなんかではよくある、余った装備やアイテムなどを入れておくための箱だ。

ここに一度荷物を入れておけば、世界に点在している、これと同じデザインの箱から、また同じものが取り出せる。

普通これは、セーブポイントの前や、休憩できる施設に置いてあるものだが──体力を回復する目的で、このホテルを使うプレイヤーはいないだろうが、言われてみればここもホテルではあるのだ。


確かに、ここにボックスがあってもおかしくはないか。

懐かしいな──と思いながら、現実で使ったこともないくせに、我ながら妙に慣れた手つきで、箱を開ける。


言ってみれば、僕はゲーム始めたての初心者だ。

ステータスも初期のまま、装備も何もなく、この世界にほっぽりだされた一人の冒険者に過ぎない。

それは、最初にオープニングとなるイベントを見させられた時から、了承済みだ。


しかし、ゲームで百万回は開けたこの箱を、今度は自分の手で直接開くことができるというのは、ゲームのファンとして感慨深い。

中が空っぽである、という事を改めて確認するという意味も込めて、特に何かが手に入るということは期待せず、ただ箱を開くことそのものを目的として、僕はそれに手を掛けたのだ。


──だから、その中から、山ほどの金貨と、伝説とも呼ばれる武具の数々が顔を出して。

僕は、自分でやったことなのに、思わず驚き腰を抜かして、その場にへたり込んでしまったのだ。


見間違いじゃないかと思い、眼をこすって、もう一度中を覗く。

けれど、何度見直したって、中身はちっとも変わらないので、僕は諦めて、箱の一番上にある怪しげな刀を持ち上げた。

すると、途端に身体の奥底から力が沸き上がり、今なら岩でも素手で砕けるだろうというほど、全身の筋肉が鳴動し始める。

僕は、なんだか怖くなり、慌てて手を放すと、それと同時に見慣れたウィンドウが目の前に開いた。


──ああ、これ、見覚えがあると思ったら、裏ボスからドロップした武器だ。

メッセージウィンドウに書いてある、武器の名前と効果を読み、納得する。

装備した時に、力の値を馬鹿みたいにプラスするから、あんな風になったんだ。


だが、これがアイテムボックスの中に入っているという事は。

嫌な予感を全身に巡らせつつ、僕はボックスの中の金庫部に手を掛ける。


──いくら引き出しますか?

そんなシステムメッセージに目を通して、試しに限度額まで数字を書き込んでみると──桁を読み上げるのにも時間がかかるような、数字の羅列が現れた。


一、十、百──たぶん、五十億、ぐらい。

店で売っている、普通の鉄の剣が、だいたい千ゴールドだから──いや、おおよその価値を日本円に直そうとしたが、それすらできない、想像もつかない。

だが、少なくともここに入っているお金だけで、小さい国ぐらいなら経済戦争ができるぐらいのお金を、僕は持っていることになる。

さっきまで、自分は一銭も持っていない貧乏人だから、このホテルに入るのは相応しくないとか言っていたくせに。

ここにある、目も眩む大金の山は、全部僕のものだと言うのだから──いよいよ、意識が遠のきそうになった。


装備欄と合わせて、これで証明された。

これは、多分──最後に起動した時、つまりクリア済のデータが、丸々ここに残っている。

何故だ、と疑問にも思うけれど、その理由は考えても仕方がない。

そもそも僕は、異世界に転移するという、超常現象に巻き込まれているのだから、合理的な理由なんて探す方が無駄だ。


ともかく、アイテムボックスの中から、まず限度額いっぱいのお金を引き出してみる。

この金貨が、一枚でどれぐらいの値打ちになるのかは分からないが、少なくとも五億も引き出せば、この部屋がいっぱいに埋め尽くされるほどの量になることは間違いないだろう。

だと言うのに、不思議なことに、いつの間にか持っていた革袋の財布の中へと、金貨の山は何事もなかったかのように大人しく収まってゆく。

まるで、異次元のブラックホールに、吸い込まれてしまったみたいだ。

ポケットに入るくらいの大きさの巾着袋を、きゅっと紐で縛れば、特に重さも感じない。


──今、僕は、このホテルに十分泊まれるだけのお金を、持ち合わせている。

現実に起きたことに、脳の働きが追いつかないが、それならここで休憩できるということは、間違いない。

脳みそを沸騰するほど茹らせながら、宿泊の予約を取るために、ふらふらと、ロビーの受付に向かった。


──もう、いっそ、一番高い最上階の部屋に、泊まってやろうとすら思う。

本来この世界は、軽々と人の命が失われるような、危険で理不尽な異世界なので、どんな状況であろうと必ず何かの役に立つ金銭を、湯水のように溶かすなど自殺行為にしかなり得ない。

だが──こんな、使い切れないほどのお金があるのなら、話は別だ。

いや、というよりは、お金の使い道がないと言った方が、正しいかもしれない。

さっきも見た通り、装備やアイテムは、もう新しく買いそろえる必要がないので、それ以外にお金を使うなら、いくらか生活費の足しにするぐらいだが、それもたかが知れている。


つまり──あそこにあったお金は、全て、遊ぶことぐらいにしか、使いようがない。

こんな、一生どころか、百生あっても半分使えるかどうかという、莫大な資産は全部、娯楽や美食、それに娼館通いか身請けでもして使わないと、しょうがないのだ。


僕の憧れていた、このゲームの世界は──どう進んでも歯ごたえがあり、骨太な難易度だからこそ、好きだった。

だと言うのに、今僕がいるこの世界は、初心者向けのチュートリアルどころか、死にようのないデバッグモードみたいな、何もかもが僕にだけ都合よくて、生きるのが簡単すぎる楽園のような箱庭でしかない。

そんな、自分を傷つけるものがない、簡単なもので遊んだって、どうせすぐに飽きてしまう。

子供用の知育玩具で、大人は楽しめないように──実際に僕は、このMODを導入した後、一度か二度だけ起動して、それからすぐに飽きて遊ばなくなってしまったのだ。


何事も、程々の苦難とスリルがあるからこそ、それを乗り越えるのに躍起になる。

逆に言えば、乗り越えるもののない遊びなんてものは、ただの単純作業でしかなく、暇つぶしにだってなりはしない。

どうせ、すぐに帰りたくなる。

こんな世界には、せいぜい一週間と居たら嫌気が差して、またあの大変な現実に戻りたくなるに決まっているのだから。


──などという、小賢しい理屈は、いまさら通用しようはずもなかった。


受付のお姉さんに、予約を取りたいと話したところ通された、王城の舞踏会でもするのかというほど絢爛な、ウェルカムラウンジ。

そこにある、腰がまるごと沈んでいきそうな、ふっかふかのソファーに腰かけて、手入れの大変そうなぴっかぴかのガラステーブルの上の、燻したナッツを口にする。

程よい塩気と、鼻の奥まで吹き抜ける濃い薫香に、ぼんやり夢見心地で舌鼓を打った。


ちらりと、ホールの方を見れば──氷の敷き詰められた金色の器に、幾つものシャンパンボトルが突き刺さっており、隣には流水によってこれまた冷えたグラスが用意されている。

その傍には、幾つもの果物が、薔薇の形に美しくカットされており、添え物に生ハムまで置いてあって、その気になればここで一日は過ごせそうだ。

もちろん、あれらの飲食物は、ここに居る間は勝手に食べて構わない。

それどころか、スタッフを呼び立てて欲しいものを伝えれば、自分で動く必要もなく持ってきてくれると、受付の女性は言っていた。


──”退屈”とはつまり、何も起きないという事だ。

液晶画面の外から、操作しているキャラクターが、こんな寛いでいるだけの姿を見ているだけなら、そりゃあ退屈に思うことだろう。


けれど、今の僕にとって、これは紛れもない現実なのだ。

涼しい室内で、甘く熟れた果物を好き放題に食べつつ、窓の外の庭園を眺めて、その気になれば昼間から酒盛りすることだってできる。

それには確かな感覚が伴い、ソファーに身体が沈んで気持ちいいのも、眼に入る何もかもが美しいのも、適当に持ってきてもらったものが全部美味しいのも、全ては現実。

何もしていないどころか、常に心地よい刺激に包まれているからこそ──このままここに居続けてしまえば、飽きるどころか、もう一生このままでいい、このまま死ぬまで暮らしたい、と骨抜きの極楽蜻蛉になることは確実だ。


これは、良くないかもしれない。

あんまりにも快くて、疲れからうとうとと船を漕いでしまうが、ここで居眠りなんかしてしまったら、いよいよ心まで堕落して、この世界に根を張ってしまうかもしれない。


せめて、少しその辺りを、散歩でもしてこようかな。

そう思って、立ち上がろうとした時──後ろから、突然、ソファーの後ろから、声を掛けられた。


「失礼、一人かな?」


透き通るようなハスキーボイスに、少し演技がかった、抑揚の濃い口調。

それを、耳が蕩けるほどの至近距離で浴びせられ、僕は腰を跳ね上げながら、恐る恐る後ろを振り返る。


すると、そこに立っていたのは──座っている僕の肩に、気安く手のひらを乗せて、古くからの友人かのように、親しく話しかけてくる、ブロンド髪の美女。

その顔を見れば、麗涼な目筋鼻立ちに、長い睫毛と鋭い目尻、薄いグロスの唇にくっきりとした二重瞼と、いわゆるイケメンと呼ばれる要素を何もかも揃えている。

きらきらと、その周囲にはバラのエフェクトすら見えそうなほど、まさに漫画から出てきた典型的な王子様だった。


そんな人に、突然話しかけられて、僕は生返事を返すことしかできない。

ああだの、うんだの、そんな音が喉から出た気がするが、それすらも自分自身ではっきり分からない。


「そうかそうか、それはまた……他の女は、見る目がない。こんなに綺麗な人を、放っておくなんて」


そんな煮え切らない態度の僕にも、女性は動じることはない。

まるで芝居のワンシーンを演じるかのように、わざとらしく指を顎に当てて、僕に流し目を送る。

そのキザな態度の、まあ──似合うこと。

人類の99パーセントは、そんなコテコテの仕草をすれば滑稽に映るだろうに、あろうことか目の前の女性は、そのやりすぎなぐらいの顔の良さのせいで、どこまでも僕の目を奪わせる。

金糸を薄く引き伸ばした髪が、ぱらりと解ける様子も、切れ長の瞳が、こちらを射止める視線も、何もかもがサマになりすぎていたのだ。


それぐらい、彼女の美貌は、どこを見たって美しい女性しかいないこの場所であっても、頭一つ抜けている。

この人と比べたら、周りの人になんかちっとも目が向かない、何か人を惹きつけるカリスマ性。

そんな、不思議な妖艶さが、目の前の女性から確かに溢れ出ていた。


そんな女性が、こつこつと踵を踏み鳴らし、ソファーの裏から回って、僕の前に来るのを、唖然とただ眺める。

歩き姿一つとっても、彼女は背筋を立たせるどころか胸を反らすほど堂々と張り、ピアニストのように細い指までぴんと真っすぐに伸ばしていて美しい。

その姿はまるで、今にも歌いだしそうな、ミュージカルの女優のようだ。


そんな、歌劇の花形を務めるパリジェンヌのような、メイク次第で男服でも女服でも着こなす、完璧に綺麗な顔形をした女性であっても──この世界は、残酷なまでに平等だ。

僕の目の前に立った彼女を、見上げようとして、絶句する。


「……ああ、これはまた、私としたことが失礼。自己紹介もしないまま、一人でぺらぺらと喋ってしまっては、貴方も困ってしまうね」


そんな僕の様子を見て、彼女はきっと、見知らぬ自分が突然話しかけて、驚かせたと思ったのだろう。

申し訳なさそうに、眉を困らせてから──この時、僕は彼女の顔が見れなかったが、多分声のトーンからして、彼女はそんな顔をしていたはずだ──自分の胸に手を当てて、宣誓するかのように堂々と、息を吸い込み言った。


「お初にお目にかかる。私の名はルーク・ヴァレンシュタイン。妖精の血を継ぐエルフの王、ヴィジャ・ヴァレンシュタインが第一子……つまりは、エルフの国の、第一王子だね」


その立場を誇示することもなく、かと言って卑下することもなく。

ただ自然に、自分のあるがままの立場を話すように、彼女は言う。


エルフの国の、王子。

それも第一子となれば、王位継承権の最上位に立つ人であり──つまり彼女は、このまま順当にいけば、次期国王となる人である。


彼女の言う通り、エルフとは妖精の血を引くものだ。

その身には、並大抵の魔物では到底かなわないほどの魔力を秘めており、そんな彼女らのことを「生きた兵器」と称して恐れる人たちも多い。


そんな種族の王子──もちろん身体は女性だが──であることを告げたルークは、二の句を継げない僕を見て、驚かせてしまったかな、それとも疑っているかな、と不安そうにしているが、そうではない。

僕が茫然としながら黙っているのは、そんな事が理由ではないのだ。


そもそも、僕は彼女の姿を見た瞬間──直感的に、この人はきっと、生まれつき人の上に立つ、王族の人なのだと確信していた。

そう思うのは、彼女の類まれな美貌もそうだし、一言囁かれたら脳髄まで痺れるような美声もそう。

何より、ルークが羽織っていたジャケットに描かれた紋章は、エルフ王家の人間しか着けることができないとされたものだから、その正体ははっきり言ってバレバレだ。


じゃあ、何故僕は、彼女の姿を見て絶句したのかと言えば──その、体型。

こんなにも格好よくて、こんなにも美しい人であっても、改変されたこの世界では──いかに草食主義のエルフであろうと、むっちむちのたっぷたぷ、男の下半身に直撃して、精子を根こそぎ吸い尽くす、グラマラスな淫魔ボディになってしまうのだから、その恐ろしさに震えてしまっていたのだ。


それはそれは、下から顔を見上げようとすれば、おっぱいに視界が全部遮られて、首から上が全く見えないほどの、呆れた爆乳っぷり。

よく肥えた牛の擬人化みたいな、山ほどミルクを出しそうな乳肉をぶら下げ、そのくせほっそい腰を中継してから、尻から太腿にかけて、肉感の極致のように瑞々しくて吸い付く艶々下半身が現れる。

エルフというものは、種族そのものが清貧と潔白を象徴し、淫らなものなど何より嫌う、神秘的で美しいものの代名詞なのに──その王となるべき女性が、こんなオスから精子をびゅる抜きするためだけに生まれた、サキュバス臭い身体になっているなんて。


諦めにも似た絶望的な気分と、限りない期待をない交ぜにしたような、途方もない興奮が背筋を突き抜ける。

彼女の涼し気な、王子様みたいに格好いい顔立ちは、それこそエルフのような、スレンダーな体型がよく似合うはずなのに。

そんな、清水のように上質で繊細で、ほんのりと甘みのある、儚げでどこか陰のある美貌に──ドカ盛りのホイップクリームとハチミツをぶっかけて、ひたすらに甘ったるくし、何もかもを台無しにする暴挙。

ケチのつけようもない、完成された美しさを、まるっきりミルク臭いもっちんもちんな霜降り脂肪が汚して、どこまでも下卑た性欲を搔き立てる。


こんなに、よく磨かれた宝石みたいに綺麗なのに、見るに堪えないぐらい下品。

そんな雌肉まみれの盛られまくった女体を、どうにか抑えつけようと、王家の紋章を刺繍された、彼女のジャケットとパンツスーツが、ぱっつんぱつんのみっちみちに、涙ぐましく乳尻太ももを閉じ込める。

それでも、ボタンを閉じきれなかった上着から、乳肉の上半球がこんもりと溢れっぱなしになっているのが、性欲の芯を強くブッ叩いた。


「ああ……そんなに、怯えなくってもいいんだ。今日、貴方に声をかけたのは、そう大した用事じゃない。私は確かにエルフの王子だが、貴方が畏まる必要など、どこにもないのだからね」


確かに、僕はこの人に、怯えの感情を抱いている。

けれどそれは、僕とルークの間にある、身分の差が原因なのではない。

このまま上から落とされたら、頭ごとひしゃげて潰れるんじゃないかというほど、破滅的に重たく、どっぷんどぷんに柔らかく実った、ずっしりおっぱいに。

正面から見ているのに、腰幅からはみ出して、尻たぶがたぷつくのが見えるほどの、見るからに貪欲に精子を吸い上げて来る、寝バックでパコつきたい巨尻に。

もっと言えば、乱暴なほどやたらと長く、丸太みたいにどっしり太い、このまま抱き着いて舐め回し屈服したくて堪らない、あのおみ足に、僕はすっかり怯えている。


だって、これを見せつけられた途端、僕は──ああ、今まで振りまいてきた”一目惚れ”という状態異常は、きっとこういう感覚なのだと理解したのだ。

今の僕には、彼女に何かをねだられたら、断れる気がしない。

例えば、文字通りに僕の全財産が詰まった、そこの財布を寄越せと言われたとしても。

このまま私のものになれ、一生私の傍にいろ、結婚して子供ぽこじゃか産ませろ、永遠にベッドから出るな、朝から晩までエルフを孕ませることしかできない愛玩ペットになれ──と言われても、この人が相手なら、逆らいたくもない。


──ルークの美貌は、毒そのものだ。

そのくせ、彼女は、この世界に一切の例外がないように、ごく当然なこととして、僕のことが死ぬほど大好き。

これ以上気に入る方法がないほど、脳みその100%が僕への好意でいっぱいな、ベタ惚れ半奴隷なのだから──もう、恐ろしくて、仕方がないのだ。


そんな彼女が、呼吸をするような自然さで、僕のソファーの真隣、身体が密着するぐらいの距離感の場所に、どっかり座る。

そして、その身体のふくよかな豊満さを、これでもかと叩き付けるように、肩を抱き寄せて顔を乳に埋め、指で軽く顎をくいと持ち上げ、目を奪おうとするのだから──なに、なんですか、と震え声を出すことしか、僕にはできない。


そんな僕の態度に、ルークは動じることもなく、女性をエスコートするように優しげで、けれど獲物を視界に収める猛禽のような、獰猛で食欲に溢れた目を向ける。

なんで、どうして。

もう、この世界で何度も思い知らされて、分かり切ったことを、それでも僕は聞くしかない。


──そんな僕の言葉に、ルークはトドメを刺すように、ぱちんとウインクをしてから、答える。


「ふふ……。いや何、こうして公務の合間を縫って、王国随一のホテルを観光してみれば、天使と見紛う可憐な男性が、一人でぽつんと座っていたものだから、果たしてこれは私の目に映る幻かと思い、つい声をかけてしまったんだ♡」


今時、漫画のキャラでも言わないような、ベッタベタなセリフ。

つまるところ──自分の好みにぴったり合う、可愛い可愛い男の子を見つけたから、ナンパをしに来た。

彼女は、そう言っていた。


ぞくぞく、と胸の奥から、恋愛感情が引きずりだされる。

真っすぐに好意をぶつける求愛の、この顔が、この声が、そしてこの身体が行うという暴力。

ほんのちょっと気を抜けば、いや気を抜かなくても、あと二、三言ほど殺し文句を囁かれたら、もうそれだけで相思相愛にされてしまう。


だが、それに乗ってしまえば、もう人生の墓場行き。

絶対に逃れることができない、むっちりとした女体でできた、愛玩と肉欲のアイアンメイデンに放り込まれて、全身をむちむちむちむち、舐めるような快感が這いずり回る、エルフの王族のハーレムに四六時中犯されることになる。


これは、ナンパなどという、軽いものではないのだ。

その目が、そう言っている。

これは求婚だ。我が王家の血筋に、貴方という優秀なオス様の子種を、腹いっぱいに賜るまで、絶対に逃がさない。

その態度が、密着した身体から伝わる温度が、耳元の乳腺から聞こえる、ごぽごぽと母乳を煮詰める音が、全てがそう言っている──。


助けを、助けを求めないと。

そう思い、ちらりとロビーに目を向ける。

けれど、そこから見えるのは──同じように、ぎらぎら欲望の火をともす、負けず劣らず肉感に溢れた、ルークと同格の美女ばかり。


どうせ、どいつもこいつも王族だと一目で分かる、馬鹿みたいに顔のいい女たちが──いい感じのところで、困っているのを助け出し、今度はこっちがナンパする。

あの男の子は渡せない、刺し違えてでも、あの子と結婚してやる。

そんな、独占欲に濡れた無数の視線が、引き寄せられるように集まっている──。


──貴族は、優れた異性、優れた遺伝子、そして優れた小作りの相手を射止めることに、これ以上なく貪欲なのだ。

何故なら、それが自らの家に繁栄をもたらすことへの、一番効率的なことだから。


だから、貴族は異性をエスコートする術を、代々子に伝えていっていって、イイ女を逃さないよう教育する。

冗談でもなんでもなく、帝王学の一つとして、女をナンパする方法を、幼少から叩き込まれるのだ。

特に貴族が相手する女性というのは、好きな男をより取り見取りに選び放題の、魔性の女である。

そんな、山ほど求婚を迫られる女性から、たった一人出し抜いて、唯一の勝者としてハートを射止め、その上で目移りさせないよう心を鷲掴みにし続けながら、ゴールラインにまで持っていくのは容易ではない。

実のところ、恋愛というものは非常に高度な心理学であり、マインドコントロールにも似た心理掌握だ。


そして、それが王家の人間であれば、受ける教育は超一流。

その国で最も優れた教師により、能力を洗練されて、一人前の為政者となるのだ。


──だから。

目の前にいるこのエルフにとって、一度も異性から口説かれたことのない、平民以下の童貞を堕とすことなんて、あくびをしながらでも出来るほど、簡単なことなのだ。

あれよあれよという間に、言葉やボディタッチで心を引っかき回し、その話術で虜にして、自分にメロメロの夫として囲われる。


彼女が、本気になって、僕を堕とそうとしたら、僕は抗いようもなく、堕とされる。

冒険することすらなく、王家送りになって、何不自由ない溺愛生活を送り、たくさんの子供に囲まれる、幸せな生活を送ることになる。


──よしんば、それに対して何とか、天文学的な確率の奇跡が起きた末に、抗うことができたとして。

このロビーにいる貴族が、僕がフリーになったことを知って、放っておくだろうか。

横恋慕も略奪も辞さないという、ぎらついた目をした色ボケ貴族たちが、また僕をこうしてソファーに抱き込み、延々と脳が溶けるハスキーボイスで、僕が頷くまで愛の言葉を囁くだけなんじゃないだろうか──。


「ね……♡もし、よければ……私と共に、一杯、お酒でもどうかな♡」


──もう、手垢のつききった、口説き文句。ナンパのセリフ。

それを聞かされた時点で、僕の人生は、詰んでいる。


むんにゅうり、デカ乳に身体を預けさせられ、逃げられないように腰を抱かれて、余った手で首筋を撫でられて、逃げられない。

脳みその奥は既に、ちりちり焼けるように熱く、ルークさんに強い恋心を抱かされていて──僕はここで娶られることを、もう半分諦めているように思う。


もう、抗おうという気すらも、起こらないのに。

耐えなきゃいけないから、無意味だと分かっていても、ルークさんの声から逃れようとする。


「ふふ♡じゃあ、私と貴方との、素晴らしき出会いを祝して、乾杯をしようじゃないか……♡」


だが、この世界において、与えられる快楽と幸福を、拒むことなどできはしない。

ルークさんの、エルフらしい花のような香りに包まれて、もう僕は、何も考えることはできなかった──。

daikon PIXIV FANBOX 167 favs
VIEWS1
FILES1 file
POSTEDSep 28, 2025
ARCHIVEDJun 10, 2026