「へっへっへっ・・・」
如何にもな、下卑た笑い声。
油圧ショベル車の運転席で、私を見下ろす子分の男。
「へぇ・・・」
間近で見ると意外、というか大きかった。
工事現場なんかを通り掛かった時に見掛ける、油圧ショベル車。
私から向かって右、車体左側に運転席があって。
運転席の高さだけでも、『2m』超えな私より大きい。
右半分は基底部から『アーム』が伸びていて、先端に『バケット』が付いている。
人間の腕を模したかどうかは知らないけど、肘があって手がある感じ。
「どうしたぁ?」
「逃げる事も出来ねぇぐらい、ビビッてんのかぁ」
油圧ショベル車の前でジッと動かない私を、外野が煽って来る。
コイツら、私の肉体を見ても“デケェ図体”程度にしか思ってないんだっけ。
「取り敢えず、その辺に転がしてやれ」
髭男が、運転席の子分に指示。
「へい」
子分が器用にレバーを操作すると、バケットが私に向かって伸びて来る。
「きゃー」
ワザとらしい演技をしつつ、ガシィッと。
両手でしっかりと、バケットをキャッチ。
「・・・え」「・・・あ?」
男たちは一瞬、我が目を疑った。
「な、何でっ・・・だっ」
多分だけど、運転席の男はアクセルをベタ踏みしているようで。
ギギィ、ギッ・・・ギギャッ。
と、キャタピラが砂地を削りながら空転していた。
「こわーい」
我ながら下手糞な演技を続けながら、バケットから続くアーム全体の感触を確認。
アームは、前腕部だけで人間一人分はあろうかと言うぐらい大きく長い。
基底部から肘までも同じぐらいあるので、単純計算で人間二人分の鋼鉄機構という事になる。
「重ーい・・・」
重いという演技も、決して嘘ではない。
少なくとも、車を持ち上げた時ぐらいの重量感はある。
軽く見積もって、アーム全体で数トンの重さがある・・・筈。
“筈”という曖昧な表現になるのは、普通に誂(あしら)える程度の圧力だったから。
正直なところ、『6t』を挙げ下げする私の超筋力の前では、大した事は無かった。
「・・・けど、えいっ♪」
私はおもむろに、バケットを持つ両手に力を込めると。
グギャッ!
「「「・・・っ!!?」」」
鋼鉄製のカゴは、砂時計みたいに両サイドから潰れてしまった。
「くそっ、マジかよっ!」
運転席の男は、直ぐに気を取り直したのか。
一旦、距離を取ろうとギアをバックに入れたようで。
ギャリギャリッ、ギャリギャリリッ!
「きゃっ! ちょ・・・っ」
キャタピラが逆回転したせいか、私に向けて砂埃が舞う。
「んもぅっ!」
アッタマ来た。
花も恥じらう乙女に砂をブッ掛けるなんて、許せない。
「うぬぅ・・・どっ、せい!」
そんな私は、乙女に似つかわしくない踏ん張り声を上げつつ。
アームを、力任せに思いっ切り振り回す。
ドッズゥゥンッ!!!
と、油圧ショベル車が綺麗に横倒しになった。
「「「・・・・・」」」
男たちは口をあんぐり開けて、言葉を失う。
“アームだけ”で数トンは有ろうかという油圧ショベル車を、人間が転がしたのだ。
ただ“図体がデカい”だけの女が到底、出来るような真似ではない。
「お、おい! 出せっ、出してくれ!」
油圧ショベル車は、左側の運転席が下になるように倒れていた。
つまり、運転席の男は完全に閉じ込められた格好。
ここからは解体ショウならぬ、『圧壊ショウ』だった。
メギ・・・バギィッ、バギョッ!
私は先ず、アームを無理やり折り曲げ、運転席に巻き付けて行った。
万が一にも、ガラスを割って逃げ出したりしないように、だ。
メキメキ・・・メゴッ、グギョガッ!
更に念押しでキャタピラを剥がし、中の車輪は丁寧に潰して回る。
大型コンテナをタイヤサイズにまで“捏ね捏ね”出来る、私の怪力が有ったればこそ。
「「「・・・・・」」」
人間が素で、いや素手で油圧ショベル車を圧壊させて行く。
それは正(まさ)に、異様という他ない光景だった。
「・・・ふぅ」
前衛的な機械オブジェと化した油圧ショベル車を前に、私は一息付いて。
「さて、と」
敢えて、メインディッシュに残した運転席に向き合う。
「え? ちょ、何を・・・っ」
ガラスがいつの間にか、バリバリに割れて中が見えているけど。
脱出する隙間が全くない運転席で、男と目が合った。
「・・・♪」
言葉は発さず、微笑みを投げ掛けるだけに留める。
勿論、それはあくまで表情だけの話。
「え。ちょ・・・っ」
私はガバァッと、長く逞しい剛腕を広げ。
「う、うそ! 何を・・・っ」
運転席に巻き付けたアームの、更に外側からガシッと抱き付いた。
メギャッ、ガゴンッ!
「マジで・・・や、やめっ」
アームごと、運転席目掛けて力を込めて行く。
『122cm』という特大の力瘤は、プロレスラーの胸板並みの太さ。
そこから生み出される純粋な腕力は、『6t』をリフトする。
ゴギョ、ギョギョッ!
そんな私の腕力で直に男に抱き付けば、一瞬で抱き潰してお終い。
それでは、“詰まらない”。
「や、やめ・・・っ」
男は恐怖に顔を歪めるも、とっくの昔に逃げ場なんて無い。
もし仮に、私をコロそうとするだけなら他にも手段はあっただろう。
なのに、わざわざ油圧ショベル車を持ち出したのは、甚振(いたぶ)る目的があったから。
だったら、これは因果応報。
「~~♪」
・・・なんてのは、建前で。
私は小声ながら、鼻歌を唄っていた。
人間なんて、簡単にコロせてしまえる大型機械に対して。
私の怪力が何処までヤレるか、試してみかったかっただけなのだ。
ゴギョギョギョッ、バゴンッ!!
「や・・・めっ、ぶぼ」
運転席の容積が、“男の体積”より小さくなったのを境目に。
男の声は消え、肉が潰れる音と赤い鮮血が“中”を埋め尽くした。
「て、てめぇっ! 何、しやがったっ」
ずっと、一部始終を目の前で見ていた筈なのに。
余りにも非現実的過ぎる状況に、男たちは理解が追い付いていないみたい。
「このぉっ!」
錯乱した男は、まさかの素手で殴り掛かって来た。
「・・・・・」
いつもながら、相手は私との上背の差を考えてなくて。
吸い寄せられるように、パンチは私の胸元辺りに向かう。
「ほい」
慣れた手付きで、胸タッチはさせまいと平手で払う。
バギャッ、ボギボギボギィッ!
「う、ぎゃあぁぁぁっ!!」
「あ、あれ?」
いつもの感覚で払っただけ、なのに。
軽ーく、手首ぐらいは折れるかなー、と思いきや。
男の腕は、肩の先から全体がボキボキに折れてしまっていた。
「こんの、クソアマァッ!」
今度は別の男が、その辺に転がっていた鉄パイプで殴り掛かる。
ガィン。
これまた、私の首より上を捉えるには至らず。
盛り上がる僧帽筋の斜面に打ち下ろされるに留まった。
「ちゃんと狙わないと、ダメじゃない」
私は、自分の右腕を鉄パイプに準(なそら)え。
握った右拳を、男の頭部に振り下ろした。
「・・・あ」
つい、手が出てしまった。
ドグチャッ。
「「ひ、ひぃっ!?」」
残り少なくなった外野が、言葉少なに悲鳴を上げる。
男の頭部は、消失していた。
正確には、頸部ごと胴体に埋没してしまったのだ。
「ば、ばけものっ!」
パンッ、パンパンッ!
「・・・?」
私は背中にチクッとした痛みを感じ、振り返る。
「あー。また、“それ”なのぉ・・・」
私が引き寄せてしまう【不逞の輩】の、必須装備なんだろうか。
そろそろ見慣れて来そうな、拳銃だった。
「な、何で・・・っ、効かねぇんだっ!?」
何で、って。そりゃあ、ねぇ。
「そんな豆鉄砲じゃ、私の筋肉は通らないのよね」
今の私の頑丈さだと、頭に喰らっても大丈夫な気さえして来る。
流石に至近距離で戦車砲、とかはダメかもだけど。
「・・・ん? あー!」
私は背中を擦(さす)って、大声を上げてしまう。
幾ら身体が何とも無くても、“着ていた服”は無事で済む訳もなく。
私の巨体を覆える数少ない超特大タンクトップが、穴だらけになっていた。
「んもぅ・・・」
ムカッと来た。
「ひぃっ!」
髭男は握った引き鉄をずっと、カチカチやっている。
アンタが全弾撃ち尽くしたから、私の一張羅に穴が開いちゃったんだけど?
「“同じ目”に遭わせてあげる」
私は、髭男の右肩を左手でガッチリと掴んで固定し。
『貫き手』にした右手を、胸元目掛けて突き刺した。
ドゴンッ!
「あ、れ?」
てっきり、バトル漫画みたいに突き刺さるとばかり思ったんだけど。
私の『貫き手』は、パワーはあるけどスピードはなかった模様で。
髭男の胸元に、大きなクレーターを作るに留めた。
髭男は悲鳴を上げる間もなく、大量の血を吐いて斃れた。
「残る、は・・・」
ドクン。
「・・・っ!?」
私は突然、お腹辺りに迸る熱いモノを感じた。
「あ、れ」
残った男は、二人。
右腕を破壊されただけで、生命としてはまだ無事な男。
それと、コイツらに詰められていた男。
てっきり、そのどちらかが私に何かしたのか、と思った。
「これって、ひょっとして・・・」
既視感のある、熱い胎動。そして、鈍痛。
「何で、今・・・」
いや、正確には“もう”と表現すべきだろうか。
そうだった。
すっかり、忘れていた。
【魔人】が消えた日も、確かにこんな感じだった。
【魔人】に向かう筈だった分の【魂】が全て、私へ。
余計な経由先のない直行、私への直通。
タイムラグなんて無い。
頭では、理解したつもりだったんだけど・・・。
「“今”は、ヤバい・・・」
男三人を屠ったとはいえ、まだ“二人残っている”。
ここでもし、着ている服が弾け飛んだりしたら・・・。
何を思ったか、残る二人の頭をそれぞれ右手と左手で掴み上げ。
タンクトップの上から、『173cm(K137)』な爆乳バストに圧し付けた。
ズブ、ズブゥ。
「うぷ!?」「ぶあ!?」
我が『Kカップ』は、片方の乳房だけでボウリング球ぐらい大きくて。
人間の頭程度なら、簡単に埋まってしまう。
後から考えると、この時の私こそ、錯乱していたのかも知れない。
人前で、【魂】を吸収する様を見せるのは初めてだったせいもある。
男たちの顔を塞ぐだけなら、幾らでも手段はあったのに。
アイアンクローでも良いし、何処か遠くに放り投げるでも良かった。
もしくは、私自身が何処か物陰に隠れる、でも良かった。
ただ、男たちとの身長差のせいか。
ちょうど、男たちの顔面の高さに私のおっぱいが在った。
クッションとかで顔を塞ぐ感覚、とでも言えば良いだろうか。
ドク・・・。
「・・・ぅ」
そうこうしている内に、徐々に。
全身へと広がって行く、快感。
丹田から解放されて行く力の奔流を、実感する。
おっぱいに宛がった頭二つの感触は、その為の捌け口・・・なのかも。
ドッ・・・ク。
「うぁ・・・あ、んっ♪」
つい、嬌声が漏れてしまう。
ゴリッ。
「~~っ!!」
既に、右腕一本で男二人の頭を抑え付けていて。
右手で持っている方の男の頭に、指が食い込んで行く。
「ん、ぐ・・・んぅっ」
力む度に、身体がモコッと一回り大きくなる。
バギギィッ!
「~~~っ!?」
左腕は、いつしか男たちの腰をガッチリと固定していて。
力瘤の隆起で、二人の背骨は一瞬で圧迫骨折。
ドック、ン。
「うぅ、あぁ・・・ぁっ」
嬌声の間隔が徐々に、狭くなって行って。
タイミングを計るように、私の両腿は男たちの下半身を挟み込む。
おっぱいプレスなんて、男たちにとっては過ぎたサービスかとも思ったけど。
やはり、私の締め付けは生易しいモノではなく。
大蛇のように、男たちの身体を覆い隠して行った。
「もうっ、だ・・・めぇぇんっ!!」
モリモリ、モリリッ! モゴゴゴォォッ!!
私の筋肉が肥大化するメインメロディーに。
メギョッ、バギャッ! バギバギ、バギギッ!!
圧し潰される男たちが奏でる、バックコーラス。
ビリビリビリッ、ビリリィッッ!!
そして、それを追い掛けるように服破りの、アンコール。
―――。
「はぁ、はぁ・・・っ」
抱き締めた男二人が、完全に赤い染みだけになった頃。
ようやく、私は落ち着きを取り戻した。