「アナタ。もっと、ちょうだい・・・」
艶のある、女の声。
「・・・ふぅっ。ふぅっ」
それに応えるような、男の籠(くぐ)もった吐息。
ダウンタウンの郊外に在る、豪奢な大邸宅。
一部屋が、普通の家のリビング数個分はあろうかという広さ。
その内の一室、寝室と思しき部屋に男と女が向かい合っていた。
「ジョージ。全然、足りないわ・・・」
「キャシー、そうは言っても・・・」
ジョージと呼ばれた男は、既に汗だくになっている。
肩で息をしていて、呼吸も乱れている。
男は大柄で、身長は『6フィート(182cm)』と言った所か。
かなり逞しい身体付きをしていて、鍛えられていることが伺える。
「なぁ。いい加減、もう“こんな事”は辞めにしないか・・・?」
「何言ってるの。続けてちょうだい」
ジョージは“見上げる”も、キャシーことキャサリンの表情は伺えない。
それは何も、部屋の照明が薄暗くなっているから・・・ではない。
むしろ、照明類は新聞を読めるぐらいには明るく調整されている。
ジョージの目線は、身長から換算して『170cm』ぐらいの高さ。
そのジョージの目の前に、分厚い“壁”が在った。
正確には、壁と見紛うようなキャサリンのお腹だった。
ジョージの拳よりも大きな、ブロック状に六分割された腹筋。
只でさえ分厚いキャサリンのウェストの上には当然、それより広く大きくて。
自己申告で『8フィート(259cm)』『Qカップ』という、凄まじいデカさの胸元。
「・・・・・」
片方の乳房だけで、バランスボール大はあろうかという“BigBoobs”は。
普通に向かい合って立っているだけなのに、夫婦間の視線交換を不可能にした。
「わ、わかったよ・・・」
仕方ない、と諦めたジョージは気持ちを改めて。
手に嵌めた“グローブ”を、強く握り込む。
「ふぅっ! くぅっ」
右、左と綺麗なワンツーパンチのコンビネーションを放つ。
ドゴムッ、ドゴン!
衝撃音からも、腰の入った重いパンチであることは直ぐにわかる。
・・・が、それを無防備で喰らったキャサリンの腹筋は微動だにしなかった。
「・・・ふぅ。全く、効いてないわよ」
「いや、でも俺は・・・」
キャサリンのダメ出しに、ジョージは反論する。
ジョージは数年前まで、ヘビー級ボクシングのチャンピオンだった。
三年ほど王座を防衛した後、“拳の怪我”で引退。
直ぐ様、トレーニングジムの経営者に転身し、事業者として成功しつつある。
「最近、トレーニングをサボってるんじゃないの?」
「キャシーに言われたメニューは、ちゃんとやっている」
ジョージは引退してから更に、自身を追い込むような鍛錬を続けている。
それは勿論、“必要に迫られて”だ。
「むしろ、現役時代よりパワーが付いたぐらいだよ」
太い腕には力瘤が盛り上がり、広背筋も大きく発達している。
明らかに、人を殴る事を目的として鍛え上げられた肉体。
「“このぐらい”は・・・」
キャサリンは、利き手とは逆の左手をギュッと握り込む。
軽く握っただけで、手首から肘に掛けての『前腕屈筋群』がボコッと盛り上がる。
前腕の筋肉の大きさだけで、既にジョージの力瘤より大きい。
「・・・威力、出せないものかしら?」
更に、“発射タイミング”を知らせるかのようにゆっくりと腕を曲げる。
ググ・・・モゴゴォッ!
「お、おい・・・っ」
腕を曲げただけなのに『Qカップ』バストが横から圧迫され、潰れる。
子供の身長ほどもある、『5フィート(152cm)』もの超特大の力瘤。
キャサリンはかつて、『ストロングマンコンテスト(男子の部)』に出場し。
この剛腕で大型トレーラーを持ち上げて見せ、周囲を盛大にドン引きさせた。
「やめ・・・」
キャサリンとしては、“手打ち”のつもりでテイクバックしなかった。
それが却って、ジョージにとっては災いとなった。
キャサリンの片腕は、それだけで『200ポンド(90kg)』もの重量がある。
『90kg』のハンマーで殴られれば、どんな屈強な男だろうと無事で済む筈もなく。
ドゴォッン!!
「うぼぉっ!」
ジョージは、寝室の端から端まで吹っ飛んだ。
不幸中の幸いだったのは、寝室がかなりの広さがあり。
硬い材質の家具は無く、大型のキングサイズベッドがあるのみだった事。
ドガァッ!
「うぎゃ」
ベッドでバウンドするも、衝撃が吸収され切らず。
ジョージは寝室の壁に打ち付けられ、ようやく止まった。
「ちょっとっ! ジョージ、大丈夫っ?」
流石に、拙いと思ったのか。
キャサリンが巨体を揺らしながら、慌てて駆け寄る。
ドンッ、ドンッ。
『300ポンド(136kg)』もの体重のジョージが、床の振動でフワッと浮き上がる。
「うっ、おっ・・・やめ」
無事だったのか、ジョージはキャサリンを制止する。
『ストロングマンコンテスト』時代。
キャサリンは『7フィート(213cm)』『800ポンド(362kg)』と、公称していた。
「だ、大丈夫だから・・・っ」
ジョージは再度、改めてキャサリンを落ち着かせる。
ジョージは現役時代、一つだけ誰にも負けない特技を持っていた。
相手の身体サイズ、強さを見抜く審美眼。
「キャシー。最近、“測った”事はあるかい?」
「何、突然。コンテストも出られないし、測ってないわよ」
『ストロングマンコンテスト』は、トレーラーの件で殿堂入り。
有り体に言えば、“出禁”にされた状態である。
「そう、か・・・」
ジョージは改めて、自身の審美眼で以ってキャシーを見遣る。
身長:8フィート(259cm)
体重;900ポンド(408kg)
これが、ジョージの見立てだった。
実に、『1フィート(30cm)』『100ポンド(45kg)』ものサバ読み。
「何かもっと、他の方法を考えないか?」
厄介なのは、キャサリンが『被虐性欲者(マゾヒスト)』だった事。
『ストロングマンコンテスト』に出たのも、“超ウェイト”に出遭える事を期待したからだ。
一般人では用意出来ないようなウェイトで、それこそ骨でも折れてしまって良い、と。
結婚してから、キャサリンは“夫婦生活”でも“痛み”を求めるようになった。
「何か、って。具体的には?」
「それ、は・・・」
これだけの巨体を持つ、キャサリン。
多くの対戦相手をマットに沈めたメガトンパンチですら、全く意に介さない。
それどころか、引退の直接の原因がそもそも、この“夫婦生活”なのだ。
妻の顔面を殴るのは、流石にジョージが拒否。
かと言って、脂肪が詰まり過ぎな『Qカップ』バストでは、“痛み”を感じず。
腹筋が隆起しているとはいえ、最初はお腹を殴るのも難色を示した。
その代わりとして、太腿を殴っていたのだが・・・。
「・・・・・」
ジョージは、キャサリンの太腿に視線を送る。
ハードパンチャーで自慢だった、自身の拳を破壊した超極太な太腿。
公称ではなく、ジョージの目算で『6フィート(182cm)』というビッグサイズ。
想像通りなら、自身の全身の筋肉を搔き集めても、キャサリンの太腿には足りない。
大腿四頭筋の一本の筋だけで、自分の太腿と同じぐらいの太さがあるのだ。
もしまた、“夫婦生活”を太腿で、となれば。
自分は二度と、拳を握れなくなるかも知れない。
「少し、時間をくれないか」
「そう? わかったわ」
キャサリンが何かを思い付く前に、代替案を挙げなければ。
・・・と、ジョージは内心、焦っていた。
キャサリンがお手本とばかりに、自分へ新案を実践すれば。
また、先程のように壁まで吹っ飛ばされ兼ねない。
次の“夫婦生活”までの時間は、ジョージ自身のタイムリミットでもあるのだった。