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スケバン
それは学校や地域の不良を束ねる番長の、その女版とも言うべき存在で、主に昭和から平成の初期において存在が確認されていた。
不良行為に対する世間の目が変わってくるにつれてその数は激減したものの、未だ絶滅したわけではなく……
「二度とウチらのシマ荒らすんじゃねェぞ!!!」
バリバリの金髪に長ラン、膝下よりも長いスカートのストロング・スケバンスタイル。
踏みつける脚の下に累々たる屍を築き上げる彼女こそ、この地域の女ヤンキーをまとめ上げる伝説的スケバンなのだ。
血まみれ釘バットがこの上もなく似合う彼女の名は……
『さすがッス八ツ木のアネゴ!名字からしてヤンキー!ヤンキーの申し子!』
『腕っぷしじゃ適うものなし!顔も黙ってりゃ意外とカワイイ無敵の姉御!一生ついてくッス!』
『おざーっす姉御!姉御の好きなジュースいっぱい買ってきたッス!』
「お、気が利くじゃねェか!」
八ツ木(やんぎ)ちはる。日本でも相当に珍しい部類にはいる名字の彼女は、舎弟の言う通りヤンキーの申し子とも言うべき存在であった。
釘バットを己の手足のように使いこなし、無双の強さを発揮するちはる。擦り寄ってくる舎弟たちの様子からは人望の厚さもうかがえる。
ニコニコと笑いながらジュースの回し飲みをしている様子は、血まみれの釘バットと数十からなる痙攣した敵ヤンキーの姿がなければ微笑ましくも映る。
きゃんきゃんと騒ぎながらしばらく遊び歩いたちはる達は、30分ほどかけてそれぞれの帰路につくのだった。
そして、その帰り道……
「……っ」
(あーーーーークソっ!ヤベェヤベェヤベェ……!あのクソ共、最悪のタイミングでカチコミかけやがってよォ!)
(仲間がいっつもくっついてきやがるから、一度も行けてねえってのに、クソ……!)
(家まで持つか……?いやいっそのことその辺の店で……?)
いつもの鋭い目つきをさらに鋭く、焦った様子でちはるが駆ける。
それは人間離れした強さの彼女でも避け得ない、当然の生理現象。
舎弟の手前行くに行けず、適当に学校をサボってトイレに行こうとしたところで敵対しているヤンキーチームの襲撃を受け……
そしてそれからジュースを飲み歩き、募り募ったそれはとっくに危険水域だ。
家まで耐えるか否か。迷った末に彼女が下した決断は……
(……クソッ!)
正直家まで耐えられるか不安。故に彼女は選んだ。
その辺りのトイレで済ませることを。
しかしちはるの地元は残念ながらそこまで栄えている部類ではなく、駅前と言えど建物はまばら。
商店街こそあるにはあるが、個人商店には客が使えるトイレなど基本的にない。
誰でも入れるトイレを完備した複合商業施設というのは、ある種の憧れでもあったのだ。
苛立ちを露にしながらもひたすら町を捜し歩き、ちはるはいつしか怪しげなビルの麓にたどり着いた。
それはしばらく前から建設が始まった得体の知れないビルであり、どんなものが出来上がるのか地元民ですら誰も知らない謎のビル。
企業のオフィスなどではないらしく、誰でも入ることはできるようだが得体の知れない店に予備知識もなく入る剛の者はそう多くない。
だが、いないわけでもない。
(……行くしかねェ!なんかあったら全員ブッ飛ばす!)
地域でも有数の腕っぷし。多くの舎弟を連れ歩くカリスマ。
剛の者と言うのであれば、それは彼女こそふさわしい。
何かあったとしても己で道を切り開く。その覚悟と強者の自負を以て少女は謎のビルへと踏み込んだ。
ビルを!!!!!!
登り切れ!!!!!
忍耐でぃぁぁああああ!!!!!
説明ッッッ!!!!!!
てっぺんにある黄金のトイレを目指してビルを登り切れ!
道は二つ!謎解きエレベーターと!!30階まで続く非常階段でぃあ!!
「……………………はァ?」
ビルに入った途端のちはるを出迎えたのは、異様にテンションが高いアナウンスだった。
何が何だか事態を把握できていない彼女をよそに、出入り口のドアがシャッターによって封鎖される。
「あァ!?んっだよコレ!出らんねェ……!」
「……ックソ!!行くしかねえのかよ!」
ヤンキーとはいえ集団を取りまとめるだけはある思い切りの良さで、ちはるは唐突に始まったゲームを攻略するためずんずんと前へ歩み出る。
ろくに説明も聞いていなかったが、なんとなくわかることはある。それはこの上に行くための道は二つあるということだ。
何かがあるエレベーターか、ひたすら体力を消耗するであろう階段か。
正直あまり頭がいいとは言えない彼女にもわかるほど前者は胡散臭いが、かといって今の彼女に階段を上るだけの余裕があるかは疑わしい。
普通なら少しは悩むところだが、彼女の思いきりの良さはそんな常人のレベルにはなく……
ちはるは颯爽と、陰謀渦巻くエレベーターへ乗り込んでいった。
_______________
「……さて、何が出てくる……?」
エレベーターに乗り込んだちはるは釘バットを手に辺りを見回す。が、見えるのは当然壁だけであり……
このままいてもらちが明かない。ひとまずエレベーターのボタンを押したその瞬間、エレベーター内のモニターに文字が映し出された。
そこにはこのエレベーターの利用に関する、ひとつのルールが表示されていた。
「なに……『このエレベーターは謎解きをしないと動きません。問題の答えを入力することで、一問につき1フロア動きます』」
「『問題の答えがわからない場合、10分待つかペナルティを課すことでヒントが表示されます』……ねェ。なるほど……」
「………………しゃらっくせェなちくしょォ!!!!!さっさと上に行かせろっての!!!!」
「まァいい……んで、第一問目は……」
『田所先輩の有名なセリフを数字になおせ』
「………………………………………………」
ズガンッッッッ!!!!!!!
「舐めっっっっっっっってンのかちくしょォオオオォオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!」
「誰だッッッ!!!!?どこのッッ!!!どいつだッッッ!!!!!!誰なんだ田所ってよォ!!!!!問題!!!!出すなら!!!!!誰でも!!!!解けるのに!!!!しろよ!!!!!!」
釘バットでがんがんと壁を殴りつけるちはる。それも無理はなく、あまりにもこの問題は質が悪すぎる。
回答者が普通に解くことを前提としたものではないこれは、恐らく明確な狙いがあるのだ。
それは恐らく、ヒントを得るために必要なもの。
「舐めやがってクソが……!!要するにペナルティ受けろって事だろ!?いいよ受けてやんよそんなモン!!!上等だオラァ!」
ペナルティ。それを彼女に課すことこそ、この謎のアトラクションを仕組んだ者の目論見であるのだ。
怒りに燃えながら叫ぶ彼女の声に応えてか、エレベーターの扉の下部分がぱかりと開き……
その下から、飲み物が現れた。
それは一見して何の変哲もない、ただのコップに入った水。
「…………あァ、なるほどねえ……」
それを見た時、ちはるは全てを悟った。
トイレに行きたい彼女と、その前に立ちはだかるアトラクション。そしてそのゴールにあるらしい、黄金のトイレ。
そしてこのペナルティとを照らし合わせば、嫌でもその結論にたどり着く。
誰かもわからない「仕掛け人」は、尿意に悶える彼女を見たいがためにこんな大それた仕掛けを作ったのだと。
(まあ、ケツ持ちがいるチームも何個かブッ潰してっからなあ。心当たりったらいくらでもあらぁ……)
「……なめんなボケが!!この八ツ木ちはる様を辱めようなんざ100年早ェってんだよ!!!」
顔も見えない誰かの目論見になど負けないと、威勢よく吠えるちはる。
しかし彼女の前に待ち受ける苦難は、まだまだ始まったばかりだ。
14:00
〈問題をクリアしました。10階へ参ります〉
冷静な機械音声によるアナウンスが鳴ると共に、エレベーターは1フロアだけ上に上がっていく。
昼過ぎから問題と戦っていたちはるは、全30フロアあるうちの10フロアまでを制覇していた。
しかしそれと引き換えの代償は大きく……
「…………っ」
(クソ……クソが……っ!)
(トイレ……行きてェ……!だいぶ飲み物も飲んじまったし、腹がもう……タプタプだ……!)
「……っ、こんなんであと20階も登んのかよ……っ!」
頭がいいとは言えないちはるに容赦なく投げかけられる、意地の悪い質問。
最初の問題ですら彼女には知る由もないマイナーな知識に関する問題が出されたのだ。それ以外の問題についでも相当なものであり、彼女が受けたペナルティは相当数に上っていた。
しかもペナルティと引き換えに得られるものはあくまでヒント。そのヒントを貰ってもなおわからなければ追加でペナルティを受けるしかない。
何度もペナルティを受け続けると、最終的には答えを直接教えてくれるようだが……当然そんなことにならない方がいいのは言うまでもない。
これまではおおよそ3杯で答えにたどり着いていたが、それによるダメージはかなり大きい。
たぷたぷとお腹の中で揺れる大量の水。これが下へ降りてきたらどうなるかなど、考えたくもない。
ちはるに出来ることはただひとつ。これ以上ペナルティを重ねることなく、それでいて極力時間をかけずにクリアしていくしかないのだ。
「オラ次だ次!さっさと問題よこせオラァ!!」
威勢よくモニターに向かって吠え、次の催促をする。
その裏に、一抹の不安をひた隠して……
〈2023年度日本の国家予算は何兆円?〉
「……………………………………」
(まともな……問題じゃねェか……!!?そして、これ……!)
(ちッとも……わからん……っ!!)
(ッていうか兆ってなんだ!?国の金ってなんかこう、何億とかそんなんじゃねェのか!?なんなんだ兆って!?何に使うんだそんな金ェ!?)
(……て、適当に行ってみっか……?1とか2とか、たぶん10より上ってこたぁねェだろうし……)
「……ん?そうだ、考えてみりゃ普通に検索すりゃいいんじゃねェか。なんでこれにきづk……」
「………………あれ?スマホ……あれ?」
「……つーか、カバンは……?」
ここに至り、ちはるは二つのことに気が付いた。
難しい問題はスマホで調べればペナルティなど受けずに済むのではないかということと、もう一つ……
ケンカで壊してしまわぬよう普段はカバンにしまってあるスマホ。そしてそのカバンは、カバン持ちの舎弟に預けてある。
その舎弟から、カバンを返してもらった記憶がない。
「………………やらかした……!」
「……まァいい!俺の度胸なめんなコラァ!!行ってやらァァ!!!!」
スマホのないちはるは果敢にもヒント無しで問題に挑み、そして当然のように撃沈した。
これまでは一切何もわからなかったが故、ヒントを貰ってから回答していた。つまり不正解というのは今回が初めてのこと。
不正解に対して何があるというのか。身構えるちはるに対し、差し出されるのは……
ヒントを得る時と同じ、扉の向こうからやってくる飲み物だった。
しかも今回やってきた飲み物は、これまでの水とは異なり……
小さいコップに注がれた、カフェオレになっていた。
これが問題を間違えた故なのか、それとも10階を過ぎたせいなのかはわからない。
だがこれの意味するところはひとつ。
これからはさらに問題もペナルティも重いものになっていく。そういうことなのだ。
_________________
14:30
〈問題をクリアしました。15階へ参ります〉
「……っ、う……っ!」
(や……べえ……!ほんとに、これは……!)
(あれからペナルティが全部カフェオレになりやがるし……カフェオレって確かアレだよな、飲むとションベンしたくなるって……それを俺、何杯飲んだよ……?)
(ああだめだクソ、頭はたらかねェ……!トイレ……!)
膝下まであるロングスカートをきつく握りしめ、前傾姿勢で耐え忍ぶちはる。
まだ押さえてこそいないものの、それも時間の問題だろう。
これまで胃袋に収まっていた大量の水が、彼女自身の代謝とカフェオレの利尿作用によって分解されるのも、もう間もなくだろうから。
朝からずっとできていなかった尿意と合わせるなら、もうこれ以上我慢するのは厳しいレベルになってくる。
だがそれでも、まだ半分なのだ。今後のことを見据えるなら、こんなところで時間をかけてなどいられない。
(はやく、終わらせねえと……!)
〈中国の人口、何兆人?〉
「…………っ、」
(だめ……だ……っ!なんも、かんがえ、らんな……!)
(の、飲むしか……ねえ……っ!)
飲み過ぎた水分はちはるのお腹を膨らませ、不快な圧迫感をもたらしてくる。
一口ごとに戻してしまいそうになるのを根性で耐え、身体を震わせながらも水分を体内へ押し込んでいく。
もはや思考も回らなくなりつつある中で、複雑化していく問題と尿意の二つの敵と戦い続けなくてはならないのだ。
15:00
〈問題をクリアしました。20階へ参ります〉
「ぅ……っぷ、…………んぐむっ……!……っふー、っふー……!」
(いま……なん、かいだ……?にじゅ……っかい……?あ……と、じゅっかい……)
ぞくぞくぞくぞくっっっ!!!
「ひっっ!!?」
あれからずっとペナルティを重ね続け、辛くも20階までたどり着いたちはる。だがもう、その肉体は限界だった。
飲み過ぎた水分がお腹を圧迫し、スカートのホックすらちぎるほどにその腹部を膨らませ……
ヤンキーらしからぬ純白のかわいらしい下着を露にしていても、それを気にする余裕さえもなく。
上から下から噴き出そうな水分をこらえるのに精いっぱいだった。
身体はもうすでに新しい水分の供給を硬く拒んでいて、少しでも気を抜けば口から戻してしまうのは避けられないだろう。
そんな状態でさらに10回分進むのは、いかに彼女の頭が回らなくなっていようとも無謀であるのは明白で……
一瞬頭をよぎってしまった「それ」が、耐えがたい排泄衝動を誘発する。
ぞくぞくと背筋に響く衝動。それをもたらす彼女の望むそれは……
(……っ、だめだ、だめだだめだだめだ……っ!なに考えてんだ俺は……っ!)
(……こ、こんな……こんなとこで、する、なんて……っ!)
(で、でも……誰も見てねえし……漏らすより……)
「……………………~~~~~~~~~っっっっ!!!!!」
頭をぶんぶん横に振りながら、よぎってしまったそれを必死に否定しようとするちはる。だがもう、心も身体も限界なのは明らかで。
このままいてもクリアできそうにないなら、いっそ漏らしてしまう前に、誰も見ていないだろうこの密室で。
決意を固めたちはるは隅の方に駆け寄り、下着を脱いでしゃがみこみ……
そして溜まりに溜まった尿意を、エレベーターの床に解き放つ
ビー!!!!ビー!!!!
「っっっぅひゃあああぁ!!?!?」
その直前、けたたましいアラートが鳴り響いて彼女の小便は始まる前に阻止され……
何事かと辺りを見回すちはるの前で、エレベーターのコンソールにあるものが表示された。
それはこのエレベーターの中を映していると思しき映像で、そこに映っているのは……
壁に駆け寄り放尿しようとしている、先ほどまでのちはるの姿。
「…………え?は?え?うそ、まさかぜんぶ、みられ……!?」
その映像は実に多角的に撮影されていて、全体が映る上からの構図に、横からの構図、あるいはしゃがみ込んだ彼女を真正面から捉えたものさえあった。
こんな状況で放尿しようものなら、その様子は流れる水流と舞い散る飛沫、あるいは大きく広がる水溜まりまでをも克明に記録されてしまうだろう。
当然真正面で捉えたカメラには、排泄をしているまさにその瞬間の彼女の最も恥ずべき秘所が大写しで……
「……なんだよなんだよなんだよっっっ……!なんだよこれぇっ……!」
「なんで……っ、しっこさせてくんないんだよぉっ……!」
襲い来る恥辱の大きさと絶望は、強いはずの彼女の心にさえも大きな傷を作っていた。
子どものようにだだをこね、瞳の端に涙さえ滲ませてしまうほどに。
だが泣いてばかりもいられず、カメラがある手前下着を引き上げたちはる。そんな彼女に、救いとなるアナウンスが……
〈ここまで進んできた利口なるあなたに、一度きりのチャンスを差し上げます〉
〈今ここで「特別なペナルティ」を受けていただけるなら、問題を解くことなく一気に10階駆け上がることができます〉
〈その代わりこのペナルティはとても重いものt〉
「や、やる!やるからはやくっ、しっこさせろおおぉおぉっっ!!!!!」
流れてきたアナウンス。それは20階まで進んできたご褒美か、あるいはもうこれ以上の水分摂取が物理的に不可能であることへの助け舟のように聞こえる。
事実、これ以上正攻法で攻略していくのは不可能だ。今までのようにヒント任せでクリアしていくだけの余裕はもうないし、かといってどんどん難しくなっていく問題に応えることもできない。
ただでさえあまり良くない頭は今、オシッコのことでいっぱいになっているのだから。
アナウンスの途中を遮って、迷いなくその提案を受け入れるちはる。そんな彼女の前に現れたのは、皿の上に乗せられたいくつかの錠剤と小さなコップの水だった。
水分であることには違いないが、それでもこれまでと比べれば圧倒的に少ない。これで10階も駆け上がれるのなら得だと、そう思った。
しかし彼女は知らない。この錠剤がどのようなもので、どのような企みでもたらされたものなのかを。
「の、飲んだぞっ……!だからはやく、しっこっ、しっこさせろぉっ……!」
〈確認しました。それでは上に参ります〉
〈なお、ここから最上階までは揺れを抑えるため最徐行で参ります。時間は10分程度を見込んでおります〉
「はあっ、はあっ……!しっこ……しっこ……!」
アナウンスが聞こえているのかいないのか、ぶつぶつと下品な言葉を口走りながら室内をうろつきまわるちはる。
そんな彼女をよそにエレベーターは極めてゆっくりと、大雑把に数えて1フロアにつき1分程度の長い時間をかけて上へと登っていくのだが……
そのうちおよそ半分を過ぎたあたりで、異変が起きた。
「………………え?」
ぞくん、恥骨を撃ちぬくような衝撃がちはるを襲う。
それはこれまでも感じていたものが、これまでだって十分大きかったものが、一瞬にして極大化したおぞましさすら覚えるほどの痛苦。
下腹部を圧迫し、そこから溢れ出さんと殺到する怒涛の流れ。
「いぁ、はっ?え?なっ……!?」
何が何だかわからないと言ったふうに目を白黒させるちはる。確かにお腹を膨らませるほどの水分を摂取してはいたが、それにしたって増加が急激すぎる。
これだけ急激に尿意が増大するのは、明らかにおかしい。
その原因は、先ほど彼女が飲んだ錠剤にあった。
あの錠剤を飲むと腎臓が通常の数倍にまで活性化し、その働きが恐ろしく強化されるのだ。
腎臓の役割は体内にある余分な水分をろ過し、尿へと変換するというもの。
つまりあの錠剤は、超強力な利尿剤なのだ。
「はぁ、あっ!あ、あっ……!!」
もはやなりふり構っていられず、カメラの監視があるにも関わらず思い切り股間を押さえつける。そうでもしなければたちどころに漏らしてしまうと、本能で理解できた。
白の下着にしわが寄るほど強く出口を押さえつけ、その部分を強調するように前傾姿勢をとった全力のオシッコ我慢ポーズ。
これまで胃袋に溜まっていた水分が、恐ろしい勢いで膀胱へと流れ込んできている。一分毎に、これまでとはケタの違う尿意が襲い掛かってくる。
だというのにエレベーターの進む速さはいじわるなほどに遅く、25階から26階までをのろのろのろのろと……
「た、たの……はやグ、はやぐ、ぢでぇ……!もっ、もれ……!」
1分、2分、時間が経つごとにお腹のふくらみが下へと移り変わっていく。
胃袋にあった数リットルもの水分が、膀胱へと殺到していく。
3分、4分、フル稼働した腎臓が体内の水分全てを尿に変え終わり、彼女のお腹はまるで臨月のようにぽっこりと大きく膨れ上がる。
そして、最後の5分……
チーン、と軽い音と共に扉が開け放たれた。その少し前を見ると、そこには金色に輝くトイレが。
「はァ……っ、あ、あっ……!」
(ゆ、ゆらす……と、だめだ、も、でる……!そっと、そーっと……!)
ささいな衝撃が決壊を誘発する極限状態の中、ちはるはそろそろとそこへ向かって歩み始めた。
まるでそれは満杯のコップを乗せた盆を運ぶ如くに、細心の注意を払って。
だが限界を通り越した身体は、そんな彼女の歩みを待ってはくれなかった。
ぶじゅじゅじゅじゅうううっ!!!!びしゅしゅしゅしゅるしゅしゅしゅううううっ!!!!!
「イ゛っ!?あ゛っ……!?」
っじゅじゅじゅじゅじゅいっ、びちゃびちゃばちゃっ!!
「んグあっ、あっ、あ、が……っ!」
「あ、ああああああっっっああぁぁあああ!!!!!!!」
トイレに入るのを待たずして、限界の水門から噴き出してしまう先走り。
出口にも、押さえる指先にも渾身の力を込めているのに、それすら突き破る圧倒的な水勢。
もはや揺らさぬように、などと気にしていられる余裕もなく、ちはるは夥しいおちびりをまき散らしながらトイレに向かって突進していく。
じょろじょろと熱いオシッコを大量に漏らしながら扉を開き、ぐしょぐしょの下着を乱暴に剥ぎ取って……
がん!と音がするほど乱暴に、お尻を便座に叩きつけた刹那……
半日我慢して、さらに大量の水分を摂取させられた彼女の限界オシッコが始まった。
ぶっっっっっっっっっしいいいいぃいいいいいいいいぃいいいいいいいーーーーーーーーー!!!!!!!!!っばしゅうししししいいいぃいいぃいいっっっっっ!!!!!!!しゅいしゅいしゅいいいいいいいいいいいーーーーーーーーー!!!!!!
「……クはあっ!?はあっ、はあっ、はあっ……!」
「っつぁ、ああああぁ……!」
部屋中に響くほどの盛大な音と共に放たれる、ちはるの限界オシッコ。それはかくも熱く激しく便器を叩きつけ、飛び散る飛沫はまるでスプリンクラーのように荒々しく飛び交う。
角度次第では天井にすら飛んでいくほどの途轍もない圧力のそれは、ちはるの排泄孔をぱっくりと押し広げて人差し指くらいは入りそうなほどに拡張していた。
そこから放たれる極太の尿線。それは噴射している当人にも、それに見合うだけの感覚をもたらしていて。
びくびくと身体を震わせながら、ちはるはオシッコの快感に浸るのだった。
3分以上もこのままの勢いを放ち続け、それが終わるとばかになった水門からしょろしょろと少しずつ残った小便を垂れ流して……
実に10分以上もの間、彼女は便座にくたりと身を預けたままオシッコをし続けるのだった。
_________________
それからしばらくが経ち、忘我の境地にいたちはるの意識が戻ってくると、彼女はこの惨状に大いに落ち込んでいた。
なにしろ下着は壊滅状態。スプリンクラーの如くに跳ね返った飛沫によって上半身もずぶぬれで、髪からでさえもアンモニアの臭いが漂ってくる。
ついでにスカートはエレベーターの中であり、このままでは全裸で帰る羽目にすらなりかねない。
全身オシッコまみれのこんな状態では、どこにも行けないのだ。
「……だったら、やるしかねェな……!」
そしてちはるは、心に決めた。
帰ることができないのなら、帰らなければいいのだと。
このビルにいる黒幕をとっちめるまで、帰らなければいいのだと。
それからの彼女はまさに修羅のごとく、小便まみれの身体を躍動させて戦いに挑んでいった。
ビル中を探し回り、あるいは釘バットで壁すら打ち破って、どこにいるかもわからない黒幕をしらみつぶしに探し回り……
とうとうその喉元に食らいついた彼女を、このビルの運営者はこう語っている。
あれは悪魔だ。と……
悪魔に打ちのめされた黒幕。ちはるの予想した通り、かつて潰したチームの関係者であった者を倒したちはるはその黒幕に衣服をオーダーさせ、いつもより少しきれいな身なりで帰っていくのだった。