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遠い遠い、遥かな昔
猿から分岐し、道具を手にすることで独自の進化を遂げた万物の霊長。ホモサピエンス。
だがその進化は、発展は、袋小路に入り込んでいた。
人間の作り出した文明。社会秩序。それはヒトの作り出したものでありながら逆にヒトを支配するようになっていった。
ヒトの暮らしを支えるため、より安全な営みのため作られたはずの社会秩序。だが肥大化しすぎた社会システムは、それを維持するために他ならぬヒト自身の犠牲を要するようにまでなってしまった。
言うなればそれは、ヒトそのものが社会というシステムの歯車となってしまったかのように。
そしてそれによって疲弊したヒトが関わり合いを諦めた時、それは起こる。
風船のように膨れて膨れて、発展しきった先にあるもの。泡沫のごとくに弾けて吹き飛ぶ……破滅。
社会を支える次の世代が生まれてこない。人生そのものを表すような老衰の時。
刻一刻と迫る滅びを前に、各国首脳もまた悩み続けていた。
そして迎えた、2045年。各国の社会インフラ維持がいよいよ限界を迎えようという時……人は禁忌に向かって歩み始めた。
旧世紀から議論の対象となっていた、人間そのもののクローニング技術。細胞培養による人造人間の製造。
さる大国が他国の制止を振り切ってそれに踏み切り、明確に国力を増強したことがきっかけとなって、世界規模の大きなうねりが巻き起こった。
無作為に選びだされた国民の遺伝子を組み合わせて作ったクローン人間。その脳にナノマシンから為る思考制御ユニットを搭載した生体サイボーグ。
それは人間が当然持つ恐怖に支配されることなく、人間が肉体を壊さないために有する痛覚もものともせず、人が嫌がる全ての仕事を押し付ける人類最大の「パートナー」。
それは人間の類似品を意味する「アンドロイド」と掛け合わせてこう呼ばれる事となる。
「ついに来る……!今日っ!この日っ!!!」
「冴えないモテない退廃独りのこの私のもとに!!クールでビューティで言うことなんでも聞いてくれちゃうペァートナァーーーがっっっ!!!パートナーとなんたらロイドだかを組み合わせたパトロイドが!!!!」
「インマイドリーーーーイィイイイイイィム!!!!!!私の夢!!それは私を裏切らない美っ少女と!!シルクの!!ベッドで!!!朝まで!!!!」
「I can`t get enough your looooooooooooooooove!!!!!!」
まあ、ンなしち面倒なあれこれは知ったこっちゃないんだけどねーーーーー!!!!
なんか倫理だのなんだのあるらしいけどさ、少なくとも個人レベルで言えば割とみんなパトちゃんたち受け入れてるらしいし?昔のリーマンたちよりよっぽど大事にされてること多いし?
やっぱアレね。人造人間だろうとなんだろうと、人間やっぱり自分のことを好きでいてくれる自分好みの外見の人が好きってことよね。
好きになったらそりゃあ大事にするよね。建前的な側面もある名称だけれど、それでもぶっちゃけその辺の人間より信頼できる「パートナー」だし。
かく言う私もそう。これまで?人間から?愛されたことねえし?つか話すこと自体怖いし?
なら怖いことしてこないパトロイドちゃんとまる一日しっぽりしてえじゃん?女同士ぬっぽりしてえじゃん?
あーーーーーー早く来ないかなーーーーーーパトちゃんーーーーーーもう色々とまちくたびr
ピンポーン
ガチャ
『時刻10:00ちょうど。ただいまからこちらでご奉仕させていただきます、個体ナンバー「IRS-4788」です。どうかよろしくお願いいたします。マスター……御佐倉 和 様』
「アッ……ッス……」
「アッ……ナカ……ハイッテ……ドウゾ……」
『ありがとうございます。それではお邪魔いたします』
……………………うん
まあ……あれね。うん。
綺麗すぎんだろっっっ!!!!!!!!!!
なんだよそのサラッサラの銀髪!!!!風になびく髪のひとつひとつがなんかきらめいて見えるわ!!!!!!
つーかその目もなんだよ!!!!!サファイアか!!!!!
そりゃあ銀髪碧眼でとは言ったけど!!!!
そう!!!
注文!!!
したけど!!!!!
100点のクールメイド出力してんじゃねえよ!!!!呼吸困難なるわ!!!!なったよ!!!!!
あと肌!!!!!
スキン!!!!!!
しっっっっっっっろい!!!!!!!!
なめらか!!!!!すべすべ!!!!!見ただけでわかる!!!!!
あーーーーーーー触りてぇーーーーーーーー肌撫でまわしてえーーーーーーーーー一晩中なーーーーーー好きにしてええんよなーーーーーパトロイドやもんなーーーーーーー
『なにかご指示はございますか、マスター』
「アッ……ヒュ、トリアエズ……スワッテイインデ……」
……………………うん
まず…………あれだ
慣れよう…………
家の中に私じゃない人がいるというこの事実に……
私がまともに喋れてないということをしっかり受け入れて……
少しずつ……慣れていこう……
_____________
11:00
『洗濯タスクの完了を確認。次のご指示はございますか、マスター』
「あ……うん。ありがとう、とりあえず休憩してていいよ。アイリス」
個体ナンバーIRS-4788。仕方のないことではあるけど、とても人間らしい名前ではない。
これにはまあ色々と事情があって、出荷する側が下手な情を移さないためだったり受け取った側が好きな名前を付けることでより愛着を持ってもらうためだったりなんだとか。まあもっとぶっちゃけるなら、たくさん造っているそのひとつ……ううん、一人一人に全部つけていくのは大変だからなんだろう。
要するに、面倒くさいのだ。
だけどそれは造る側の事情。迎えた側としては、そんな番号なんかで呼ぶ方が面倒だし……
何よりなんだか、もやっとする。
というわけでこの度このIRS-4788ちゃんには私から「アイリス」という名前を進呈する運びとなった。
…………まあ、安直ではあるけど。
IRSだからアイリス!以上!
『了解。休憩タスクを開始。水分補給を行います』
「冷蔵庫に麦茶あるから、それ飲んでていいよ。ほどほどにね」
『……質問いたします。ほどほど、というのはどのようなものでしょうか』
「あー……うん。まあ……コップ一杯くらいかな?」
『了解しました。それではコップ一杯分の水分補給タスクを開始します』
さて、そんなアイリスだけれど、まあ恐ろしく一般常識がない。
高級グレードのパトロイドなら出荷前にそういった情操教育なども行うようだけど、私が迎えたこの子はグレードの中では一番下。だって金ねえんだもん。
とはいえ情操面以外のスペックは変わりないし、見た目はなにしろマジでド好み。あとはそうした一般常識を他ならぬ私自身が教えてあげることで、一人前のパートナーへと成長していくのだ。
そんなわけで彼女を迎えてから1時間ほどは、世間の常識をあれこれレクチャーしていて……
で、コミュ障丸出しだった私もその間にちょっとは慣れてきたのだ。
……まあ、コミュ障陰キャが世間を語るなって言われたらその通りなんだけどね。
「さて、それじゃあアイリス。悪いけど私はこれから仕事を始めるから、その間ここに纏めた家事をやっておいてくれるかな」
『スケジュールを確認。部屋の掃除、昼食の準備、食材の買い出し……』
「休憩についても1~2時間おきに取るよう書いてあるから、それに従ってやってくれるかな」
『了解しました』
とはいえ最低限の常識は教えられたし、あとはこれからの生活で足りないところを補っていけばいい。
あとのことは同居人に任せて私は私の仕事をしないと……
「……締め切り近いもんなあ。頑張らないと」
アシスタントも何もなく、デジタルの力ひとつで乗り切るしがない月刊漫画家。それが私の世間での顔。
めちゃくちゃ売れてるわけではないけど、さりとて全く売れてないわけでもない、とりあえず辛うじて専業で食っていける程度の漫画家。
もしもこの仕事でさえ稼げなくなってしまったら、大学以降バイトもロクにしていないアラサーで髪ボサボサで猫背で目にクマのあるド陰キャが生きていくあてなんかない。
せいぜい胸だけはまあぼちぼちだけど、お水で稼ぐにはまあ余りにも華ってものがない。
人間ってより、貧乏神とか疫病神とか名乗った方がしっくりくるようなビジュアルだもの。私って。
下手すればアイリスが働きに出たほうがよっぽどマシなんじゃ……
「……………………」
「…………がんばろう。そこまでいったら、ほんとにダメになる」
ごみ屋敷数歩手前の部屋の掃除をさせて、日々の家事ぜんぶを押し付けて、その挙句にお仕事まで?
そこまでいったら本当にダメだ。情けないとか、そんな事よりも……なんというか……
迎えてからわずか1時間しか一緒にいないけれど、そのわずかな時間でも好きになれたこの子の、その横にいる資格を失うような、そんな気がする。
私の「好き」を全部詰め込んだこの子の横にいられなくなる。そんな気がする。
私にとってのまばゆい光。その光の横にあるのが、闇なんかであっちゃいけない。
光にかき消される闇なんかじゃなくて、光を覆う闇なんかじゃなくて
目立たなくても光の傍にある、影でありたい。
影と闇とを分かつ最後の一線。それを守るためにも。
___________________________
17:00
「うおお……なんだかすっげえ筆が進んだあ……」
アイリスという張り合いがあるからだろうか……いつ以来かというほど作画に没頭できた気がする。
というかもう今月分のネームは出来上がったから、後は仕上げるだけだったりする。はっきり言って一日の進み具合としてはあり得ないレベルだ。
このパフォーマンスを維持さえできるなら週刊でも行けなくはないくらいに。
……まあ、アレは私の体力だと無理だろうけど。とりあえず肩が凝って仕方ない。
というか時間も、いつの間にか夕方になってるし……ほんと夢中になってたんだなあ。
『お仕事は終わりましたか、マスター』
「ぅひゃあっ!?……あ、アイリス……後ろからいきなり声かけられるとびっくりするなあ……」
『申し訳ございません。昼食をご用意して以降、お食事の機会をずっと伺っておりまして』
「……え?あ、ああ。そういえばお昼食べてなかったっけ。というかもう夕方だけど……」
『マスターの健康状態を勘案しまして、少々早いですが昼食を取り下げ夕食のご用意を致しました。よろしければ召し上がってください』
ぐくぅぅぅぅぅ~~…………
「…………今の音は……」
『……大変失礼いたしました。ロールアウト以後、一度も食事を摂っておらず……』
「そ、それは大変!一緒に食べよう、アイリス!」
そうだ。当たり前のことではあるけど、忘れていた。
アイリスは人造人間。ロボットと違って、人と同じく食事を必要とする。
水分補給までは私も覚えてたし、ちゃんと指示もしていたけど……
なにしろ食事の方は、自分自身でも時々すっぽかすくらいにずぼらだったのが仇になった。
こんなにお腹が鳴るくらいぺこぺこなのに、私に付き合ってくれた同居人を、これ以上飢えさせちゃいけない。
「それじゃ、いただきます」
アイリスの作ってくれた食事は、それはそれは完璧だった。
見た目、味、量、栄養価。どれも一流と言っていい完璧なもの。
パトロイドは生まれてくる前から脳内ナノマシンにあらゆる知識をインプットされていて、それを肉体という器にインストールするイメージで完成するらしい。
だからアイリスも、その最後のピースである一般常識を除けば誕生時点でパーフェクトなのだ。
そんな完璧な料理を前に、お腹ぺこぺこの状態で私の為に待ってくれていたことを思うと……
もう………………最高だよね!!!いじらしい!!!!けなげ!!!!!
っていうか私が食べる機会を待ってたって言ったじゃんさっき?それってアレだよね私が食べるまで自分も食べられないっていうのもあるよね確実にそのくらいお腹ぺこぺこだったんだよね絶対
これ多分アレだわーーーーーークールなあの顔の裏側で絶対涎だらっだらだったりするわーーーーーーそういうの好きだわーーーーーー
属性がメカだからさーーーーー絶対服従だからさーーーーーーーー
お腹ぺこぺこで今すぐかぶりつきたいのにそれを言えないのさーーーーーーー
いいよねーーーーーーーーーーーー
『…………………………』
もぐ もぐ もぐ もぐ もぐ……
「はう……!」
すっっっっげえ勢いで食ってる。
表情変わってないし
ひと言も言葉を発してはないけど
なんかものすっっっっげえ勢いでもぐもぐしてる
こういうのいいわーーーーーーーーー
なんかうまく説明できないけどーーーーーーーー
こういうのいいわーーーーーーーーーー
表面上クールなのにものすっげえ勢いで食うのいいわーーーーーーー
17:30
「……ご馳走様でした」
さて、アイリスを心の中で愛でていたらいつの間にか食事が終わっていたわけだけど……
しかし今日の夕食は、大きな課題も浮かばせてくれた。
アイリスは情操教育がされていないので、自分がどんな状態であっても私に迷惑がかかるのでもない限りそれを言葉にする事がない。
なのでそれを教えてくれるよう、これから教育していかないといけない。
人間だったらお腹が空いたらそれを言うし、そうでなくても勝手に何かつまんだりするけどそれが無いとなると管理はかなり大変だ。
早い話「自分のため」の行動を一切しない。それがアイリスをはじめとしたお求めしやすいパトロイドの特色であり弱点ということ。
対処する方法は恐らくただひとつ。私が気をつけること……それしかない。
大事な同居人に何か起こる前に、私が気づいてあげなくちゃ。
『……マスター、少しよろしいですか』
そんなことを考えていると、アイリスの方から私に話しかけてきた。いったいなんだろう?
『我々共生支援生体アンドロイド……通称パトロイドが出荷される際、所有者側の管理を簡潔にするためのツールがございます』
『私の身体の各部には生体反応を記録するためのマーカーが存在し、そのデータを閲覧することのできるアプリケーションです』
『マスターが私の管理をより簡易にすることをお望みであれば、私の身体データを提供いたしますがいかがしますか?』
「ぜひお願いします」
ということで端末にアプリを導入すると、そこには大事なところだけを見えないよう画像処理された裸のアイリスの姿が……
「おっふ」
あかん、これはあかん。刺激が強い。
大事なところは見えないとはいえ、全裸の姿を服を着たド無表情の本人の前で拝むというのはなんというか、新しい扉が開きそう。
…………と。裸ばっかり見てる場合じゃねえ。
大きくはないけどちゃんと存在を主張する慎ましいお胸とかすらりとした脚とかばっかり見てる場合じゃねえ。
そのアプリには彼女の詳細なデータが記されていて、まずは身長と体重。これは彼女のためにも内緒にするとして……
他には彼女の体温や発汗量、心拍数や血圧などよくある健康診断で使うようなデータがずらりと。
確かに体温が高ければ病気がわかるし、発汗量が多ければ熱中症を疑う。心拍数や血圧なんかも大事な情報だ。
それらの情報は、現在のものと彼女の平常時の値とが並べられていて、今の状態が普通か異常か一目で見分けられるようになっている。
正直、とてもありがたい。
「……あれ、ちょっと汗が多い?ごめんねアイリス、ちょっと暑かったかな。冷房下げるね」
そしてさっそく、アイリスの発汗量が普段より多いことがこのアプリのおかげでわかった。
どうやら私より暑がりらしい彼女のため、冷房の温度を少し下げてあげる。
…………なんだか、ネコの為に外出中もエアコンつけっぱなしにする飼い主の気持ちになる。比べちゃいけないんだろうけど。
いやなにしろさ。私、どうも血圧低いらしくて寒いのダメなんだよね。
そんな私がアイリスのため、寒いの我慢してエアコン下げるのは偉いと思いませんか?
「…………あれ、なんだろうこれ」
アプリをじっと見ていると、奇妙なボタンがあることに気付く。
それはどうやら彼女のより深いところの情報が見られるようにするためのもので、月額課金と年齢確認をすることでアイリスのより深い情報や画像処理なしの姿を見ることができ……
…………………………いやいやいやいやいやいやいやいや!!!!!?!?!?!?
これってあれじゃよな!?エロ同人とかでよくあるやつ!!!
アイリスの!!!!えっちな!!!!!ステータス!!!!!
たぶんアレだろ!?いろんなとこの感度とか出るヤツだろ!?
あとなんか!!性感帯とか!!!!!
性経験はないだろうけど!!!これから経験積んでったらそれも出るヤツだろ!!!?
おさわり同居系エロ同人ゲーじゃねえんだぞ!!!?開発データとかなんでそんなモン積んでんだこのアプリ!!!!?公式で!!!!!
いやまあ実物見てないから想像にしか過ぎないけどさ!!!!
絶対それしかありえねェだろ!!!!!!
ふむ…………
まあ………………あれだね
さすがにこれは…………あれだ
見ちゃいかんでしょ…………さすがに
『いかがでしょうかマスター。使い方の説明等は必要でしょうか』
「えっ、あ、ううん、大丈夫……」
おっと……いけない。目の前にまだ本人いるんだった。
見るにしろ見ないにしろ、この状況はないわ。
まあ、後で考えよう。じっくり
「ああそうだ、アイリスさあ。人間を理解していく上で、必要不可欠なものがあるんだ」
『必要不可欠なもの……』
「そう。それはね……娯楽!」
エロステータスも気にはなるけど、今はそれよりも……
パトロイドを迎えたら絶対にやりたかったものがある。それは……対戦ゲーム!
いやあなにしろね。オンライン対戦とか鬼クソ怖いからね、できないんだよね。他人こわい
煽られたりとか暴言チャットとかマジ無理
だから1回やってみたかった。そういうのを気にせずにできる、穏やかな対戦を。
このアイリスとなら、それが出来ると思うから。
「ふふん、プレイを始めてン百時間の私に勝てるかな?」
そんなこんなで、アイリスと出会った初日を締めくくるゲーム大会が始まった。
___________________
21:00
「えぐ、うぎゅうぅぅぅ……!」
『……マスター……ハンディキャップは必要でしょうか……?』
「いらない……!」
『しかし、マスター……』
「い゛ら゛だ゛い゛っ…………!」
………………ボッコボコにされた
ボッコボコに…………された
ボッコボコに……!!!された!!!!
なんなのこれ
私が勝ったのはアイリスが完全初見の一戦だけで、あと全部ボロ負け。
そもそものスペックが違うとでも言うん?最初の一戦で操作から何から全部覚えられてそれからずっと一方的にボコされてんだけど?
こっちのクセも見切られてるのか、何かやろうとするとその先を読まれて全部潰される。ヤバい。勝てない。
このクソほど実力が離れた相手に、気を遣われて勝ったってそんなん虚しいだけですやん……
というかハンデ使っても負けかねないよこれ。それこそ立ち直れんわ
「ごめんアイリス、ちょっと寝る……」
決して、断じてふてくされてる訳じゃない。
ただほら、連戦で疲れている時だといい方法も思い浮かばないしね?
だからこれは戦略的撤退。そういうこと。
_____________________
7:00
「くぁぁぁぁ……!」
よく寝た
ああ、よく寝た
ここ数年ないくらいよく寝た
なにせ不健康な生活だったから、寝る時間も不規則だし……
こんなに早い時間に寝て、こんなに早い時間に起きたことないよこの数年
やっぱあれかね。同居人がいると無意識にしゃんとするのかねえ。
『おはようございますマスター。昨日は入浴をなさっておりませんが、よろしければこれからいかがでしょうか。支度をいたしますので』
「んぁ……うん、そうだね。お願いできるかな」
『かしこまりました。それでは湯沸かし器ノっ……』
「……?どうかした?アイリス」
『…………………………っ、いえ、失礼しました。只今より準備を致しますので15分ほどお待ちください』
さて、その同居人であるアイリス。さも当然のように私の寝起きを出迎えてくれて……いつ寝てるのかっていう疑問はまあさておくとして。
それはそれとして、なんだか少し様子がおかしい。
喋っている途中で、まるでフリーズでもしたかのように動きが止まる。ロボであるなら分からなくもないけど、あいにく彼女は生物学上人間だ。
調子が悪い……にしたって、お迎えしてすぐにというのは考えにくい。体調不良が確認されたならその段階で発送を遅らせるはずだ。
いくらグレードが低いといっても、そこまで雑じゃないだろう。
だとしたら……?
『失礼しますマスター。湯温はいかがなさいますか?』
「ああ、うん……あまり熱いのは苦手だから、39度あたりがいいかな」
『承知しました。今しばらくお待ちください』
考えていると横からアイリスが割り込んできて、今の様子を見るに割と普通そうだ。
心配しすぎ、だったらいいけど……
「……う」
そんな時、ぞわりと湧き上がる感覚が。
そういえば昨日の夜、アイリスにボロ負けした後そのまま寝たんだっけか。トイレにも行かず……
ゲームやめた時間が確か夜の9時でしょ?その前からだいぶ熱中してたんで……あれ、いつから行ってないのよ。そりゃしたくもなるわ。
お風呂入る前に行っとこう……
ガチャ
「………………っっっっっ!!!?!?!?!!?」
バタンッ!!
いた
いた
居たっっっ!!!!!
私の不倶戴天の敵。この世で一番嫌いなアンチクショウ
黒い汚い速いの三拍子そろった「イヤ」という感情の権化。
あの黒いクソ虫が、トイレの中をカサカサカサカサと
入れるわけねェだろうがよ、こんな状況で。
ごみ屋敷手前の部屋にいたっつってもな、それは捨てるのがめんどいだけであってな、別に「私の彼はコックローチ」みたいなあれじゃあねぇんだよ。普通に嫌いなんだよ、虫は。
これはもう……仕方ない。
まあまだ我慢できなくもないし……普段からめんどくさいのが理由で行きたくても行かないこと多いし……慣れてるし……
まあアレだ……最悪……
最悪アレよ……お風呂で……
『マスター。お風呂の支度ができました』
ちょうどお風呂も沸いたみたいだし、行こうか。
淑女入浴中…………
7:30
「あーーーすっきりしたーーーー。ありがとうねアイリス」
『ド……ゥいたしまして。お食事になさいますか、マスター』
「……あ、うん、そうだね。トースト食べたいな」
『かしこまりました』
身体の外側と内側の老廃物を除去し、二重の意味ですっきりした。それはいい。
それはいい……んだけど……
なんかまたアイリスの様子がおかしい。今も少し言葉が詰まったし、なんだか汗もいっぱいかいてるようだ。
確かに今は朝なんでエアコンつけてないけど、朝なのでエアコンなしでもそれなりに過ごせる気温だ。
よっぽど暑がりというのも考えられなくはないけど、雪国仕様でもなければそんな性質を付け足すことはないし……
ぶっちゃけそんな、本州においては不便でしかない体質を付与するとは考えにくい。
だったら……
「あ」
そうだ。こういう時の為にあれがあるんじゃないか。管理アプリ。
ということで端末を起動してみると、そこには……
健康状態アラート あなたのパトロイドの健康状態に問題があります
アプリを開き、直ちに状態の改善を行ってください
エラー内容 生理反応
健康状態アラート あなたのパトロイドの健康状態に問題があります
アプリを開き、直ちに状態の改善を行ってください
エラー内容 生理反応
健康状態アラート あなたのパトロイドの健康状態に問題があります
アプリを開き、直ちに状態の改善を行ってください
エラー内容 生理反応
________
_____
___
ずらりと100件近く、アラートの通知が。
私の端末、普段は全然使ってないんで完全サイレントにしてたから気づかなかった……
ということで開いてみると、そこには真っ赤な数字で普段より爆増した発汗量と、心拍数の数値が強調されていて……
そして裸のアイリスの姿を見ると、何やら少しお腹が不自然に膨らんで見える。
だけど、肝心なところがまだわからない。
発汗量が増している。心拍数も上がってる。なんだかお腹も膨れている。
……なら、その原因は?
どうも原因まではこのアプリも教えてくれないようなんで、こっちで考えるしかないんだけど……
まずアレだ。お腹が膨れているのが彼女の異変の理由だとしよう。
日常でお腹が膨れるような理由ってなんだ?食べ過ぎ?
いや、確かにいい食べっぷりではあったけど量で言えば普通に一人前だ。膨れるほどじゃない。
妊娠?それこそあり得ない。
なら…………
……………………ん?あれ
そういえば私はさっきしたけど、アイリスは?
…………そういえばトイレ言ってるの見たことないし、指示もした…………覚えが…………
「ああああ!!!」
そうか!そういうことか!!
アイリスは指示がなければ休憩も取らないし、その休憩の内容だって指示が必要だ。
いわゆる「水分補給タスク」の実施。そういった形でしか休憩を取ることができない。
「休憩」という、水分補給も身体を休めるのも、もちろんトイレも全部含めたこの単語の、ふわっとした曖昧さみたいなものを理解することができないのだ。
まあつまり、アイリスはこの家に来てから一回もトイレに行ってないっていうわけで……
…………あれ、それってヤバくない?来てから何時間経ってんの。私の比じゃないよ。
それで泣き言のひとつも言わず、じっと耐えてるのって…………
すっっっっっっげえかわいい
なによそれ、あの無表情の裏には漏らす寸前の尿意があります???????
ンなもん愛しくないわけないじゃん。そんな状態でもご奉仕してくれてんだよ?????
あれか、たまにフリーズしてるのはあれだな。波が来てるな?動くとヤバいんだな?
そんな状態でもじもじするでも抑えるでもなくそのままで耐えてるんだな??もう涙ぐましいわ。
いやあ…………見てえわ
そんなアイリスがさ……おしっこ我慢できなくてさ……
お願いしてくるようになんの……見てえわ
「ちょっと暑いねー。早いけど冷房付けちゃおっか」
それなら善は急げ。下ごしらえ的に冷房を下げて……
ちょうど今は朝食。ブレックファスト。
トーストと一緒に嗜むものといえば?当然モーニングコーヒー。
コーヒーと言ったらもちろんアレだよね。
「アイリスも一緒にどう?目が覚めるよ」
『ありがとうございマっ………………』
『………………ありがとうございます。いただきます』
んっっっっふーーーーーーーー
今来たね?波来たね?
そんな膀胱ぱんぱん状態でコーヒーなんて自殺行為を、表情ひとつ変えずになんて……すごいね♡
さて、それじゃあアイリスおしがま計画……スタートといこうか
_________________
8:00
「ふう、ごちそうさま」
『お粗末様でした。食器をお下げいたします』
「ああ、そのことなんだけどねアイリス。お皿は私が洗っておくから、アイリスには別の事をお願いしたくて」
『かしこまりました。ご用件をどうぞ』
「お風呂の掃除をお願いできる?ここしばらくやってなかったから水垢がひどくて……時間かかると思うけど」
『かしこm………………』
『かし、かしこまりました。道具類をごyっ……………………ご、ご用意いたします』
あらら、あらあら
一回の会話中に二度も来たね?波。もうだいぶヤバいね?
そんな中でやるお風呂掃除は地獄だよ。まず周りが水だらけ。ぽたぽた、とかしゃあーとか、そんなイヤな音ばっか。
足が水で冷えたりするし、しゃがむこと多いし
そんな状態でお風呂掃除なんかしたら大変だね?やってもらおうか。
『風呂掃除タスクを実行します』
そう言ってメイド衣装(コスプレ用 私の趣味♡)を捲り、お風呂場に膝をついてお掃除を開始するアイリス。
お尻が突き出されて、まーーーーいい眺めに。
アイリスが動く度、締まったお尻が左右にふりふり。かわいい。
『っ…………』
あ、止まった。波が来たね?
このスカート一枚隔てた向こうでは、アイリスが渾身の力で出口を閉めつけているわけで……
そう考えると、なんだかものすっげえ興奮する。
でもこれからだよ、アイリス。
さっき飲んだコーヒーが消化されてからが本番なんだから。
9:00
さて、お風呂掃除開始から1時間。
汚れがひどいのはまあともかくとして、それでもアイリスの手際ならこれだけ時間あれば終わっててもおかしくない時間。
だけど進み具合としては、ようやく半分くらいってところだろう。
なんでそんなにかかってるのかって?
当たり前だよ。だって半分以上、止まってるもん。
『~~~っっっ…………』
ああ、今も来たね。尿意の波。
もう今では一分おきに30秒くらい停止してる有様。ほぼまともに動けてない。
頻度もこれまでとは比較になってないし、時間も長くなってるし……
すり…………
あ、今!
脚すり合わせた!
それだけじゃない!めっちゃ太股ぎゅってしてる!
がんばれアイリス!尿意に負けるな!
『っぁ…………!』
え?今、声が……!?
声出ちゃうくらい限界なの!?やっべえ!!
っていうか身体中ぶるぶるしてる!ほんとにもう出口に全力傾けてる!!
パトロイドの本能で平静装おうとしてるのに、おしっこした過ぎてそれもできなくなってる!かわいい!!
『………………っ』
あれ、アイリスが急にこっち見て……?
『ます、たー……!タスクの最中に、失礼、します……』
『僭越ながら、はいニぉっ……!!?』
『は、はい、はいにょ、排尿の、ご許可を、いただきたく……』
~~~~~~~~~~~~~っっっっっっ
来た!!!!!
ついに来た!!!!!!
アイリスのおしっこ我慢できない宣言!!!!!
もうまともに喋れなくなってるね!そんなにしたいんだね!
「排尿……つまり、おしっこしたいってこと?」
『もウ、しわっ、け、ありません……!ロールアウト以後、一度もしておらず、貯尿量の限界を、遥か超えており……!』
『こ、このまま、では、自宅を汚してしまうことが、予想され……ェっ……!』
ロールアウト以後……?確かアイリスが来たのは昨日の10時だったね。
でもロールアウトというと、確実にそれより前だ。アイリスがパトロイド工場で目を覚まして、ここに来る……それにどれだけ時間がかかったかは知らないけど、何時間かはかかってるだろう。
つまりアレだ。まる一日は軽く通り越すくらい、アイリスはおしっこをしてないのだ。
それでうちに来てから1、2時間おきに水分補給してるんだから……
うん!そりゃ限界も遥か超えるよね!
そしてアイリスがお願いをしてくるということ。それは色々な意味をもつ。
パトロイドは「自分のため」の行動をしない。なので自己管理にはひっじょーーーーにルーズな一方、自分の損失がマスターの損失にも繋がる時はすごく迅速に伝えてくれる。
つまり今のように「我が家を汚してしまう」かもしれない時には、彼女はおしっこしたいと言うことができるのだ。
でもそれはあくまで私のため。彼女が、彼女自身の為にする願いじゃない。
この「排尿のご許可を」は彼女自身の「おしっこしたい」ではないのだ。
「大丈夫だよアイリス。ここはお風呂だし、ちょっと汚したくらいじゃなんともならないから」
『し、しかし、マスター……!』
「人間世界だとね、割とこういうことはあるんだ。トイレに行きたくても行けないこと……」
「だからこれも訓練だと思って、ひとまず掃除が終わるまでは我慢しよう。ね?」
『掃除が終わる、まで……!』
『承知、しました。風呂掃除タスクを、再開、します……!』
だから、意地悪をすることにした。
今からさらにお預けをして、トイレの時間を引き延ばして……
彼女がもっと我慢できなくなるまで、追い込むことにした。
さあ、お掃除も残り半分。今の彼女に、ちゃんとできるだろうか?
________________
10:30
アイリスは、がんばった。
私の出した意地悪な命令を守るため、限界の身体に鞭を打って……
パトロイドの本能である平静を装うこともかなぐり捨て、あるいは優先順位的にそうすることが最善と判断したのか、それはともかくとして……
アイリスはお尻を突き出し、両脚を組み合わせて、そしてスポンジを持っていない方の手で思いっきり前を……
きっとその押し当てられた手の中指は、彼女の出口をピンポイントで塞いでいることだろう。
こう言った行動を基本的にとらないパトロイドでも、こうせざるを得ない。それほどの尿意にさらされながら、それでも彼女はお掃除を終えた。
シャワーでさっと風呂場を流す際、水の音で固まってしまった時はもうダメかと思ったけれど。
『………………っ、ま、すた……っ、風呂掃除、たすく、かんりょっ、しましたっ……!』
そして掃除を終えたアイリスは、マットで足を拭くとすぐこちらへ報告にやってきた。
前押さえもやめて、せいいっぱい背筋を伸ばそうとしながら。
…………それでも喋ってる途中で限界になったらしく、すぐ元に戻ったけれど。
さて、いよいよ限界そうなアイリスだけど……
ここまで来たんだ。最後にもう一押しといこう。
ちょうど今、トイレには「奴」がいるしね。
「うん、ありがとう。それじゃあトイレに……と、言ってあげたいんだけど……」
「実は私も行きたくなっちゃってさっき行ったんだけど、トイレに虫が出てて……退治してきてくれる?」
『…………っぁ…………』
私の差し出す丸めた新聞紙を見て、固まるアイリス。
それはショックによるものなのか、波によるものなのか。
ともかく彼女が返事を返したのは、それから数十秒してからだった。
『…………しょ、うち、しました……』
決意を固めて、新聞紙を手にトイレへと向かっていくアイリス。
Gがいる限り、私は見ていてあげられないけど……
がんばれアイリス!負けるなアイリス!!
下手に扉を開けっぱなしにして、こっち来られてもヤだから密室でのバトルになるぞ!
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11:00
さて
入ってから30分。時々まばらに「パァン」って音がするけど、それ以外は基本的に静かだ。
まあアイリスもあの状態だから、ヘタに動き回ったりはできないだろうけど。
しかしいくらGがすばしこいとはいえ、30分というのはなかなかの死闘だ。
もしかしてもう、中で……
ガチャ
なんてことを考えてたら、中からアイリスが出てきた。
その新聞紙には、一匹どころじゃなく何匹もの死骸が……
ああ、一匹じゃなかったのか……
『……ま、すた、おわ、り、ました』
「……うん、お疲れ様。それじゃあこっち来て、アイリス」
さて、それじゃあここから先は……
私が直々に、覚悟を決める番だ。
『ます……た……?』
「トイレしたいんでしょ?私の後すぐしていいから、ここで待ってて」
そう。私からの最後の意地悪。それは……
尿意限界突破の彼女の前で、おしっこをすること。
おしっこがしたくてしたくて仕方のない彼女の前で、それほどでもない私が。
でもこれ、割と勇気がいるなあ。
いくら同性で、パトロイドだと言っても……ねえ。
いや、負けてはだめだ!アイリスのかわいいところを拝むためにも、いざ!
覚悟を決めて下着を一気!座って!はい今!
しゅろろろろろ……
『っっっっっっっっっ、あっ………………!!』
しばらく毛の処理もしてない、もじゃもじゃの私のそこから黄色いおしっこがしょろしょろと出てきた、その瞬間。
アイリスが奇声と共に、固まった。
音がするほどきつくきつく前を押さえつけ、顔は青ざめ、滝のような汗を流し……
『ま、す……ます、た、すみま、せっ、よごれ、よごし、ほんとうに、排尿が、もうっ』
『もう、たっ、たえられ、すみま、ますた、はや、ぁっ』
ぶじゅうううっ!!!じゅじゅじゅじょじょじょじょっ!!!
『う、ぐ、あ……!』
そして、押さえたところから大量のおしっこが……!
もう聞くまでもなく、私の命令を待たずしてもう始まってしまっている。私の意地悪は、思った以上に効果があったみたいだ。
もう一刻の猶予もない。拭くことすらせず、私は席を開ける。
『っっっっ……!!!』
するとアイリスが即座に便座へ、私と同じように下着を下ろして座り、我慢を重ねたおしっこを……
『……あ、ぐ、あ、ぁぁ……!』
することは、なかった。
我慢しきれなかった分が噴き出し、便器にぽとぽとと垂れ落ちることはあっても、我慢をやめてはいなかった。
『…………ま、すた、ごきょ、か、を、はいにょ、ごきょか、を……』
「アイリス……」
こんなになっても、一日以上もおしっこを我慢して、いじわるをされて、たくさんのおちびりをするくらい限界でも、それでもまだ私の命令を待っていたのだ。
私の命令があるまで、彼女が解放されることはない。今となっては汚してしまうリスクもなく、排尿の命令を欲するのは、きっと……
きっと、心置きなくおしっこがしたいからなのだ。
だから、私のするべきことは……
「うん、いいよ。おしっこ……全部出して?」
アイリスのずっとずっと欲しかった言葉。それを言い終わるか言い終わらないかというところで……
ブッッッッッッシュウウウウウゥゥウゥウゥウッッッッッッ!!!!!!!!!びゅしびゅしびゅしししししいいいいいいいっっっっっ!!!!!!
ついに、アイリスの我慢限界おしっこが解き放たれた。
それは私がさっき出した力ないそれなんか比較にもならないほどの圧力で、便器をぶち抜くんじゃないかというほどの勢いで発射される。
当たった跳ね返りが、傍で立っている私の顔にまで飛沫くくらいの、とんでもないおしっこの激流。
これだけの量を、これまで彼女は耐えてきたのだ。
そう思うと、胸の中になんだか熱いものがこみ上げ……
『…………っっ!』
びくんっ、びくんっ!
びしゅしゅしゅバシュウウウゥウゥウウウウウッッッッッ!!!!!!じゅばばばばばばばばば!!!!!!
「え!?」
そんな時、アイリスの身体が急に跳ね上がった。
がたんっ、と便座を鳴らして浮き上がった彼女の身体。それによって尿線の向きも変わり、便座に収まらなくなったそれは一瞬だけトイレの扉にぶち当たった。
そしてそれからアイリスは、まるで放心したようにぼーっとしていて……
なんだかだらしのない顔で、おしっこを出し続ける。
…………もしかして
もしかしてだけど……
アイリス……イった……?
おしっこの快感でイく。たまにそういう性癖の人もいるって聞いたことはあるけど……
…………これは、あかんわ。
今夜はあれだ……
これを……おかずにしよう……
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11:15
『…………ナノマシン、リブート完了。失礼いたしました、マスター……思考制御ナノマシンの出力を上回ってしまい、醜態を晒してしまいました。謝罪いたします』
「あ、ああ……いや、大丈夫だよ。私はむしろそっちの方が好きだから」
さて、それからはと言うと……
まずアイリスのおしっこ。これはもう10分くらいずっと出続けてた。
よっぽど我慢してたのか、2分くらい全力噴射した後は長くながーくちょろちょろと垂れ流してた。
で、その間アイリスはずっとぼんやりしていた。それはなぜかというと……
パトロイドの搭載している、思考制御用のナノマシン。
これはマスターの命令に従うことを彼女たちに命じているのだが、実のところこれの機能というのはもう少し奥が深いものらしい。
どういうことかというと、パトロイドは生物学上人間だ。なので本来、彼ら彼女らにはその本来持っている人格が存在する。
けれどその人格、パーソナリティを表に出し過ぎると齟齬が出やすい。
早い話、マスターとパトちゃんとの相性が悪かったら言うことを聞いてくれなくなるとか、そういうことが起きてしまう。
なのでそれを抑制するべく、普段はナノマシンによって作られた統合用疑似人格が表に出ているのだそうだ。
つまり今私が話しているのは、どちらかというと「アイリス」個人ではなく「ナノマシン」に近いということ。
あくまで近いという表現なのは、完全にナノマシンが彼女を支配しているわけでもないらしいのだ。
ここは私もややこしいと思うけど……
喩えるなら人間でも、コルセン勤務の人は仕事中、ある程度自分を押し殺して「コールセンターとしての自分」で客の相手をするはずだ。
短気な人、のんびりな人、クールな人、いろいろいるだろうけど勤務中だけは「コールセンター」という大きな括りの中に納まるよう振舞う。
それをもう少し厳密にしたのが、このナノマシンによる思考制御なんだそうだ。
で、その思考制御。本人の感情やその他の刺激が高まり過ぎると制御しきれなくなってたまに落ちるらしい。
さっきのコルセンで言えば、あんまりにも客の態度が悪すぎるといくらプロでもいい加減ブチ切れるみたいなもん?
今回のアイリスに関しては、尿意我慢による本人の疲弊と排尿中の刺激によってナノマシンがオーバーフロー。一時的に機能不全を起こしていたらしい。
要するに気持ち良すぎて意識が飛んでたのだ。
『大変失礼いたしました。今後はこのような事がないよう、自己管理における重大事項は早期に報告いたします』
「うん、いいよ、気にしてないから……」
……さて
言うまでもないけど、彼女をそこまで追い込んだのは私だ。
醜態について謝られてるけど、ぶっちゃけ悪いのは……
いやでも……
あん時のアイリス……
かわいかったなあ……
(たまになら……いじわるしてもいいよね……)
そんなこんなで私とアイリスとの日常は、アンモニア臭と共に幕を開けるのだった。