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幾千幾万幾億もの生物が息づくこの地球で、最も反映している生物。万物の霊長、人間。
その人間が繁栄を手にした背景にあるのは、他の生物と比較にならない高レベルの知性から為る文明の威力。
その文明が発展していく中で、徐々に忘れられていくものがあった。
神 悪魔 鬼 あやかし……それら幻想のものたち。
科学文明が発展していく中でそれら幻想は非科学と断じられ、科学で証明できないものはあり得ないとして忘れられていった。
だが、科学的でないから「存在しない」のか?
否。たとえ科学で証明できなくとも、確かにそこにそれは在る。
人が捨て、忘れし幻想。ただ忘れられ、消えゆくはずだった非科学的モノどもの集う最後の楽園……
人とあやかしが昔のように畏れかしこみ、畏怖によって秩序を成す夢幻のシャングリラ。
ここは幻想郷。日本の山奥に構える、世界の幻想を一手に預かる楽園の都。
この幻想郷は、妖怪が人間を畏怖させるため定期的に起こす「異変」を除いてはおおよそ平和に過ごしてきた。
それはひとえに強者たる妖怪のもたらす畏怖と、その妖怪に立ち向かう強き人間とのバランスによって成り立つもの。
その人と妖怪とのバランスを一気に崩し、幻想郷そのものを破壊し得る未曽有の異変が起ころうとしていた。
「……っ、クソッ!怪異の奴ら、なんだってこんな急に……!」
幻想郷の可住域、人里の上空で、祭囃子のような奇妙な何かを相手に立ち回る金髪の少女がぼやく。
怪異。それは幻想郷に突如として現れた、人でも妖怪でもない知性なき敵性体。
生態も、行動原理も一切不明。調べようにも会話は成り立たず、捕えようにも一定のダメージを与えると死体も残さず消滅する。
その上下手に接触しようものならたちどころに生命力を奪い取られ、よほどの猛者でもなければ死んでしまう上、自衛しようにも特殊な装備がなければあらゆる攻撃を無効化してしまう。
まさに「厄介」を具現化したような敵を相手に、強者ぞろいの妖怪もその妖怪に立ち向かう人間も全てが手を焼いていた。
そんなわからないことだらけの怪異であるが、確かなことがひとつだけある。
人間も妖怪も区別なく、すべてのものに対して怪異は襲い掛かる。生物のみならず、霊的なものに対しても。
現実も、幻想も、すべてにとっての大敵。それこそがこの怪異なのだ。
「……ああもう!あっちもこっちも怪異、怪異、怪異!!!!うんざりするったらありゃしない!」
そして今、その怪異が群れを成して人里を襲撃していた。
厄介な怪異ではあるが、一体一体の脅威度はさほどでもない。妖怪はもちろん、鍛えた人間であれば撃退はそう難しくない。
だがそれは専用の装備を持つ、限られた猛者の話。なんの力も持たない人間にとって、弱小怪異一体でも里に入り込まれることは大きな恐怖である。
だからこそ彼女らは奮い立つのだ。幻想郷の守護者として数多くの異変を解決に導いた、人類最強の少女たち……
博麗霊夢と、霧雨魔理沙は。
「でもな……急でもなんでも、お前らを通してやるほど私は甘くねえ!無限の火力で焼き尽くしてやるぜ!」
「でも、覚悟しなさい!この私の目が黒いうちは、アンタたちなんか一匹たりとも里に入れたりなんかしないわ!」
里を大きく二つに分けて、南北それぞれを各自の担当として、2人は戦う。謎の敵なんかに屈しはしない、人の強さを見せるために。
【正午】
「でえりゃああああああ!!!!!」
箒に跨り高速で飛び回りながら、無数の星型弾幕で雑魚を蹴散らしていく。
動物の頭蓋骨を思わせる怪異や、肋骨と心臓のような怪異。小型のものであれば無造作にバラ撒く弾幕ひとつで打ち倒すことができるが……
【オオオオオオオオォ……!!!!】
「……っ!?デカブツか!だったら……!」
だが、大きな個体はそうもいかない。相手の百分の一にも満たない大きさの弾では、致命傷どころかダメージにもならない。
大きな敵を倒すには相応の手数か……大火力の攻撃が必要となる。
しかしそれは、彼女の専門分野だ。
「食らいやがれ!マスタースパァーク!!!」
彼女の放つ魔法の根源。愛用のミニ八卦炉から放たれる、山すら吹き飛ばす大火力のレーザー。
今や彼女の代名詞となった必殺技「マスタースパーク」
それは祭囃子を思わせる意匠の巨大怪異を、取り巻きもろとも一撃のもとに消し飛ばした。
人里の空を埋め尽くす黒い大群を、巨大な光芒が切り裂き破る。それは反撃の狼煙のようで。
「あれは……!……まったく、相変わらず派手なんだから」
「こっちも、負けてらんないわね!」
その反対側で戦う霊夢の元にも、その輝きは届いていた。
負けていられないと奮起する彼女が、札を構える。その眼前には、彼女の数十倍は巨大な怪異が。
「夢想……封印!!」
その怪異めがけて、無数の光弾が襲い掛かる。動いて避けようと、防ごうともお構いなくどこまでも追いかけまわす退魔の光弾。
それが相手に命中した時、大型怪異すら揺るがす爆発が起こり……
【アアアアアアアァ……!!!】
一発目を皮切りに次がたて続けに命中、爆発し、ついに巨大怪威はその姿を保つことができなくなった。
レンコンのように身体中いくつも穴を開けられ、原型を留めなくなった怪威はそのまま消滅していった。
「……ふう。これで少しは休め……」
怪威は意思疎通が不可能であるし、生態も不明ではあるが、経験則で言えば大きな個体が集団の指揮をとっているもの。いわゆる「ボス」を倒すことで少しは侵攻も緩むだろうと思われた。
「…………ないみたいね。まったく次から次へと、きりがない……!」
だがその思い虚しく、小型も大型も入り混じる次の群れがどこからともなく人里へ飛来する。
いつかの願いが叶う異変を思わせる、怪威の大攻勢。圧倒的物量がゆえの消耗戦が、少女たちに襲い掛かる。
【夕方】
「クソッ……こいつら、どんだけいるんだよ……っ!」
戦いが始まってからどれだけ経っただろうか。紅い夕日が彼方へ沈んでいく時間になってもなお、怪威の群れは人里を襲い続けていた。
今まであったどの襲撃とも規模が違う、倒しても倒しても無限に湧いてくる怪威たち。ケタが違う大攻勢に、魔理沙も霊夢も疲労を隠せない。
(……やっぱりおかしい。今まで怪威が大発生した時には、必ずその前に何かしらの異変が起きていた。でも今は……)
「……考えてる場合じゃない、とにかくこいつらを倒さないと……!」
だが、おかしいのは襲撃の規模だけではない。これまで起きた怪威の大規模襲撃には必ずと言っていいほどあった「前兆」が見受けられないのだ。
怪威が大発生する前には多くの場合、妖怪や人間たちに関わる何がしかの異変が起きていた。例えば願いを叶える異変が起き、その代償として怪威が発生したり……
乱れた龍脈を整えるための儀式に怪威が殺到したり。
なんの前触れもなく襲い掛かってくるというのは、散発的なものを除けば前代未聞。今までの怪威の行動パターンから見るとあり得ないもの。
だが言ってしまえばこれらは、ただの経験則に過ぎない。生態から何からわからないことだらけの怪威の行動を、推し量ること自体が無意味なものなのかもしれない。
そしてこの突然の大襲撃は、ふたつのピンチを彼女たちにもたらしていた。
ひとつは前兆が無かったことによる、備えの不足。例えば前回あった怪威の大襲撃の際には、以前から「願いを叶えた後に怪威が襲ってくる」という異変が起きていた。いきなりのことではなく、何らかの法則性がそこにあるのなら人里に縁の深い妖怪たちが警護するなどの対策も取れていただろうが、今はそれがない。
即応可能な戦力が霊夢と魔理沙のみというのは、敵の戦力に比べてあまりにも数が少なすぎる。
その分を2人の奮戦によって補ってはいるが、これこそがもうひとつの問題をもたらしていた。
「ぅ……っ!?」
「……くそ、力が入らねえ……飲まず食わずで何時間もってのは、さすがにしんどいな……!」
人間離れした能力を持ってはいても、しかしやはり彼女たちは人間である。本当の人外たちと比べ、体力的な問題は隠しようがない。
空腹はすれど存在の維持に支障はなく、睡眠も休息もさほど必要でない妖怪や仙人たちと比べ、どこまで行っても人間である彼女たちはこの点において致命的な問題を抱えている。
つまり、持久戦に弱いのだ。
飲まず食わず休みもせず、2人で捌くには多すぎる物量を相手取る。がんばり続けたことによる反動は、生身の人間を着実に蝕んでいた。
それでも人里に一匹でも怪威を入れてはならない。その一心で、ひとりでも戦う決意を込め直す魔理沙に……
『魔理沙さーん!!!!』
地上から、少女の呼びかける声が届く。その声の主は、人里にある貸本屋の少女で……
「おま……っ!?小鈴おまえ、なんだってこんなとこに出てきた!?巻き込まれたらどうする気だ!」
『魔理沙さんにこれを渡したくて……!私たちのために戦ってくれてる魔理沙さんに、何かひとつでもできることをって……』
「これは……!」
少女が渡してきたのは、包みにくるまれたひと口サイズのおにぎりと水筒。
戦いの中でも食べやすいようにしたのだろうおにぎりと、かさばらないよう革の袋に詰められた水は、彼女の真心が直に感じられるようで。
「……ありがとな、小鈴。後は任せて家に帰ってな」
『魔理沙さん、頑張って……!』
確かに戦闘力は無いかもしれない。だがそれでも、確かに一緒に戦ってくれている。
その心強さに背中を押され、魔理沙は小鈴の応援を背に飛び立った。
「頑張って……か」
「……覚悟しろよ怪威ども。今の私は、ちょっとばかり凄いぞ!」
夕焼けを遮る怪威の群れを、巨大な光芒が裂く。
同時に里の反対側で、いくつもの爆裂音が。魔理沙と同じく戦うもう一人の少女もまた、奮起していた。
「……美宵ったら無茶しちゃって。でも……ここまでされたら頑張らないわけにいかないわね!」
疲労は確かにある。ダメージは着実に溜まっている。だが、それでも……
それでも後を押してくれる人がいる。そのことが2人に大きな力を与えていた。
しかし、相手の戦力は無尽蔵。力強い光をも覆い隠す無限の闇を相手に、どれだけ抗えるのか。
夕日が沈み、夜の闇が幻想郷を覆う。
【夜】
【オオオオオォ……!】
「チッ……夜でもなんでもお構いなしかよ。そろそろお休み願いたいもんだがね……」
(……いい加減、原因を突き止めないとまずい……目が霞んできやがったし、それに……)
「……っ」
夜間。月明りに照らされる幻想郷の空を、尚も埋め尽くし襲い掛かる怪威たち。
栄養補給は済ませたものの、それでも結局は一時しのぎ。根本的に休息が足りなすぎることと、過剰に頑張っていることへの疲労は魔理沙たちを深刻に蝕んでいて……
さらにはそれと別の問題までもが湧き上がって来ていた。
戦闘の最中、スカートを握りしめたり跨っている箒をぐいと持ち上げたりと、どこか精彩を欠く様子を見せている。
そこには疲労や空腹とは別の、人間である故避けえないコンディションの悪化が関わっていた。
(ちっとも途切れやがらないから、行く暇が……!)
(…………トイレ……!)
そう、それは疲れやダメージと別に時間を追うごとに募っていくもの。人間として当然の、老廃物の排泄。
通常なら数時間に一回は行かなければならないところ、朝から怪威の襲撃に晒され続けた彼女は夜までずっと戦い続けだ。トイレどころか数分程度の休息すら無かったのだ。
今までは戦闘による高揚でいくらか誤魔化されていたものが、とうとう誤魔化せないほどにまで膨れ上がっていた。
それはつまり、ひとつのことを意味している。
今もって戦闘中で高い集中力を維持している彼女でもこれほど気になるようにまで高まってしまったそれは、自覚した時点でもう危険域にあるということを。
(れ、霊夢は大丈夫なのかな……もし余裕があるようなら、あいつに……)
(……いや駄目だ駄目だそんなの!2人でもこんだけギリギリなのに、私が抜けたら……!)
「……ふー、…………ふー……」
(…………大丈夫、大丈夫だ。まだいける……魔法でちょこっと肉体を強化すれば、こんくらい……ずっとは無理でも、当座を凌ぐくらいは……)
「……後は魔力が保つかどうかだけだ!頼むからとっととやられてくれよ!」
だが尿意を自覚したからとて、できることに変わりがあるわけではない。
空を埋め尽くす怪威の群れ。人里に群がるこれを何とかしない限り、彼女の悩みをなんとかすることなど叶わないのだ。
なんとか早くと願いながら、霧雨魔理沙の最後の戦いが始まった。
【深夜】
魔力で肉体……否、身体の「一部分」を強化し、そこの部位の筋力を高めて耐える。非常にシンプルな発想ではあるが、しかし非常に効果的な方法によって魔理沙はこの状態での戦闘という無茶を成し得ていた。
あとは雑念を捨て、ひたすら戦い続ける。戦いまくる。それはある種、戦いに逃避するとも言えるもので。
戦闘によって生じる脳内麻薬が苦痛を和らげ、その感覚を忘れさせてくれる。皮肉なことに彼女を悩ます怪威の存在が、ある意味で彼女の麻酔として機能していた。
「っだああああぁぁああ!!!!」
しかしこの脳内麻薬による忘我も、永遠ではない。それこそ本物の麻酔のように、効果が切れた時……
怪威が失せるか、集中が切れるか。そうなった時、彼女の乙女としての威厳は失われるだろう。
【早朝】
「うゥああああああァアアァアアっっっ!!!!!」
朝日と共に、眩いばかりの光が空を裂く。何度目かの必殺技の炸裂。
光の放出が収まるなり八卦炉が煙を吹き、魔力の切れかけた魔理沙が荒い息を吐く。
誰が見ても明らかな満身創痍。呼吸も乱れ、目も霞んでいるが……
その奮戦の甲斐あって、眼前にいる怪威は一掃されたようだ。
もちろん神出鬼没の怪威のこと。目の前にいないからと言って、湧いて出てこないとも限らないが……
疲弊しきった魔理沙にとって、目の前から怪威が一時的でもいなくなったことは大きな安心をもたらして。
「…………ふぅ」
「…………あ」
そしてそれが、怪威亡き後の最大の敵を呼び起こした。
ほっと一息ついた瞬間、分泌されていた脳内麻薬が収まり……
忘れていた痛みが、苦しみが、そして彼女の抑圧された欲求が蘇る。
ずきゅんと下腹部を射抜く切なく激しく疼くような感覚。圧倒的な焦燥感が彼女の全身を駆け抜ける。
「あっ、あっ……あっ……!」
落ち着く間もなく、魔理沙は人里の上空から街に降り立った。もはや一刻の猶予もない。
「と、トイレ……っ!おしっこぉ……!」
ぎゅう、とスカートの上から出口を握りしめ、彼女は駆ける。
怪威に怯えて人っ子ひとりいない人里の通りでも、さらに人目のつかないところ……
片隅の路地裏へ。
「はっ、はや、はやく、もっ、で……!」
建物と建物の間、行き止まりの路地に着いた魔理沙は慌てふためきスカートをまくり上げ、その下のドロワーズを露にする。
とても少女がしていい恰好ではないのだが、今の彼女にそんなことを気にしている余裕はなく
ずるんとそれを引きずりおろし、乙女の丸尻を突き出した中腰体勢のまま……
「うああぁっ!!」
ほとんど一日かけて我慢し続けたオシッコを解き放った。
ぶしイイィイイイイィイイイーーーーー!!!!!びしししししっっっっ!!!!びゅぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃあーーーーー!!!!
「はぁっ!?ふっ……は……っ!?」
「あ……ぁ、あああぁぁ……!」
地面に向かって一直線に、突き刺さるようにしてぶち当たる高出力の水流。我慢し続けてきた乙女の熱水は、びちゃびちゃと盛大な音と共に迸る。
足元の小石を跳ね飛ばし、石畳の上に泡立つ金色の水溜まりを広げていく。
今までにない長時間我慢して解き放ったそれは、得も言われぬ心地よさを彼女にもたらしていて。
ぞくぞくと背筋を震わせ、安堵と快楽の混ざった吐息を吐きながらお腹に力を込める。
ぶしゅっ、とひときわ激しく噴き出すオシッコの、その気持ち良さに脳を焼かれながら、魔理沙は膀胱が空になるまでのほんのしばらく、極楽を味わうのだった。
「……っはああぁぁ……す…………っきりしたぁー」
「…………これ、誰かに見られたりしないよな……?一応証拠隠滅を……って、八卦炉が!?」
「あー……完全にオーバーヒートだこれ。滅多にしないんだけどなぁ……後先気にせずぶっ放しすぎたかあ?」
「どっちにしてもこれじゃあいかんな。しばらく休ませてやらんと……って」
事を終えて路地から出てきた魔理沙を出迎えたのは、またしても空を埋め尽くす大量の怪威たち。
先ほど一掃してから見ていなかったはずだが、しかしそもそも今まで魔理沙はほとんど忘我の境地。尿意に気を取られてそれどころではなかった。
「……ああ、わかったわかった。休んでるどころじゃないみたいだな。それじゃ……!」
「マスパの代わりに、マジックミサイルの雨あられをプレゼントしてやらあ!!」
「覚悟しとけよ怪威ども!この霧雨魔理沙がいる限り、人里には一匹たりとも入れさせやしねえ!」
しかしこの怪威のでどころが何であれ、新しく湧いたのであれ何であれ、やるべきことは変わらない。
幻想郷の敵であるなら倒すのみ。幻想郷の守護者はさっそうと人里の空に舞い戻るのだ。
なお魔理沙が戦線に復帰した後、彼女の居た路地に突撃していく赤い影があったのだが、それを彼女は知る由もない。