DESCRIPTION
東北の田舎の日常風景の一部を切り取ったレトロなポストカード風に仕上げてみました
今回はストーリー性重視って事で背景にも凝りまくってみましたねぇ
またSSなど仕上げて来たので暇があればついでに読んでってください。
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東北の暑い夏の一日
冬の寒さに身の軋む東北と言えども夏は暑い・・・・。
それはどれほどの暑さかというとアスファルトは焼けて触れれば火傷しかねないほどで、
まして金属のポールなどは目玉焼きが作れそうな勢いです。
遠くの景色は陽炎で霞み、流れ込む汗が目に沁みます。
ああ昼下がりの強い日差しが肌を焦がすようです・・・汗がとめどなく流れて、喉、喉が渇きます。
水が欲しい・・・・せめて日陰に入りたい、叶うはずの無い願いが頭の中で渦巻きます。
ですけども、わたくし東北きりたんにそのような贅沢は望むべくもありません・・・・。
私は不本意ながら、いわゆる奴隷です。それも最下層の奴隷で家畜よりも酷い扱いを受けてきました。
奴隷としての才能がどうとかで大の大人の十数人分の働きが出来るように厳しい訓練をうけた私は、
この村では貴重な農機や運搬機械の一つと並んでインフラや経済を支える存在です。
今ではその事実だけが私のささやかな誇りであり胸を張れる長所ですがそれはさておき、
何事に置いても厳しく厳しくが方針のこのご主人様の奴隷の扱いには慈悲と言うものがありません。
私のご主人様であるこのおじさんはこの村の何でも屋をやっている人で、どんな事でも私にさせます。本当にどんな仕事にでも手を出しては博打でスッてしまうフーテンの方です。
曲がりなりにも労働奴隷訓練所を卒業した時に重機並みの性能ランクが付いていた私をどうやって手に入れたのか、それははわかりません。
わたし、それなりに高い女の筈だったんですけど・・・。
奴隷にはよいご主人様を選ぶ権利すらも無いのです、本当に酷い世界だと思いますね。ええ、滅んでしまえば良いと思います。
この村では夏真っ盛りはそれなりに奴隷仕事も閑期の筈で、農地を耕すお仕事も無ければ、
刈り入れや脱穀、粉ひきなどのお仕事も秋になってからです。もちろん他にも色々なお仕事はありますが、
村の奴隷にだって夏は多少の休日があるものなのです。だというのに、このご主人様はいつも何かの仕事を見つけてきては私をコキ使います。
それと言うのもいつも博打で私を使って稼いだお金をドブに捨ててしまうからで、安宿を追い出されて野宿だって一度や二度ではありません。
だからいつでも抜け目なく仕事を貰ってきては働いているのです。勤勉なんだか無能なんだか・・・。
ここ数日は冷蔵ストッカーを借りてきて、手持ちのボロリヤカーを改造した屋台で村の子供をターゲットにアイスクリーム売り上げているようです。
自分は苦労しないからと色々器用に改造していらっしゃって、自分だけ涼む用に立派なテントなんかもつけています。正直に言って素人の手仕事もあってとっても重い仕上がりです・・・・。
もちろん本来ならば今更この程度の重さで音を上げるわたくしではありません。
最高ランクの労働奴隷の誇りにかけて2倍でも3倍でも軽く運んでみせますとも。ですが、ここ数日はろくな餌を頂いて居ないのと炎天下での酷使もあってヘロヘロになってしまっています。
奴隷として恥ずかしい限りですがもう10mも歩けば鞭を頂かない事には動けない程にです。
水も朝にご主人様のお小水を頂いたきりで、喉がカラカラでもう声もでません・・・・。
でもグズなわたしには日陰に入れて頂く資格も無いのです。そのことに本気で申し訳なさを感じ入り反省する程度にはわたしは奴隷でした。訓練所で教育を頂いてからと言うもの、根っからの奴隷なのです。
「アイス~アイスは~いらんかね~。アイス~つめたいアイス~甘くて美味しいよ~」
手をパンパンと鳴らしながら周囲に大声を響かせるご主人様の元に、村の子供が駆け寄ってきます。
「俺は!え~え~とソーダ味と苺味とチョコ味で!」
お小遣いの小銭を握りしめて、暑気払いに3段アイスを舐め頬張るその自由な姿には羨望を禁じ得ません。
ああ、甘いものなどいつ以来口にしていないでしょうか。ご主人様の気まぐれで舐めかけの飴玉を頂いた思い出はもう遠く過去のものです。
ゴクリと喉がなりかけて、あまりの渇きに張り付いた口内がチクチクとした痛みだけを伝えてきます・・・・。
ああアイス、わたしもアイスが食べたい。私がまだ人間だった頃、訓練所に入学する前には実は私もアイスを食べたことがあるのです、
ああ・・・・あの時はアイスクリームがこんなにも貴重なものだとは知らなかったのです。明日も明後日もいつでも食べられるものだと幻想の中に生きていました。もっと味わって食べて置けばよかったと愚かな自分を恥じ入るばかりでした。その時です。
「あっ、落としちゃった・・・・」
「もー何やってんだよ、ばかだなぁ・・・・・しょうがないから俺のやるよ」
べしゃりっ
私の目はその時熱いアスファルトに落ちた物体に釘付けになって離れませんでした。
仲の良さそうな兄妹が揃って買いに来た時、幼い妹がうっかりアイスを落としてしまったのです。
彼らにとっては貴重なお小遣いで買ったものとはいえ、幾らでも替えのきく安物のアイスでしかない・・・・しかし私にとってはこれから一生口に入るかもわからない極上の甘露なのです。
ああ、きっと私は厳しく懲罰を頂く事でしょう、それがわかっていて目を離す事ができないのです。
しかし浅ましく物乞いのように縋る目で見られた事に気付いた妹様は少し居心地を悪そうにした後。
「いいよ、あげる。」
と仰って下さったのです。それからの事はもう記憶にありません。
体が自動的に動いていたとしか言いようがない体験でした。気付けば私の口はアスファルトの溝に沈み込んだ溶けたアイスの一滴も逃すまいと啜りあげ、舌先で道路を磨き上げている所でした。
じゅるじゅる、という啜りあげる音がまるで遥か遠くから聞こえるように耳に響きます。
「うわっ必死過ぎてキモッ」
「わ~、そんなにアイス食べたかったんだね。好物なのかな?」
きっと彼らには一生わからない事でしょうこの時地に落ちたアイスの宝石にも勝る価値が。
彼らも奴隷になって這い同じ気持ちを味わえば良いとも、一生こんな惨めさを味わう事なく生きて欲しいとも思います。
「えっとね、お姉ちゃんはいつも一生懸命働いててえらいね、ありがとうね」
そして衝撃でした。こんな一言が、私にとって涙がでる程に嬉しいのです。
きっと、最近に働く人や道具に感謝するようなことを学校の教師や親に言われたのだと思います。
ただそれだけの事であったとしても、私のこれまでの苦しみや労役が報われた気がして、
奴隷になって良かったとさえ思ってしまうほどの多幸感に包まれました。
そして訓練所で刷り込まれた動作通りに、その時は私はうやうやしく地に伏せ頭を差し出しました。
すると妹様は困惑した様子で、
「え、え、どうしたの。」
とおろおろしていましたが、兄様の方はなれた様子で私の頭に足を載せグリグリを踏み躙りました。
「おいおい、奴隷を褒める時って言うのはこうするんだよ。こうしてやると奴隷は嬉しいんだ」
「へー、奴隷さんって・・・か、かわってるんだね」
違うんです。こんな事まともな人間であれば嬉しい筈がありません、屈辱に打ち震えて怒り狂う事でしょう。
ですが訓練所で仕込まれてしまった私は頭を踏み躙る草履のザラザラした感触、頭にかかる痛いほどの体重に歓びを見出してしまいます。
ありがとうございますありがとうございます・・・・
「わたしもやってあげるね!へんなおねーさんこれからも頑張って!」
ぐりぐり、と子供特有の無邪気さで強烈な勢いと体重が頭にかかります。
ありがとうございます ありがとうございます
踏みつけて下さってありがとうございます
私の心はその一色に染まっていきました・・・
今だけはご主人様から受けるであろう、お仕置きの事も忘れ私は心から幸せでした。
東北の暑い夏の一日/了