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小説 特刑監獄の甘美なる地獄 前編

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小説 特刑監獄の甘美なる地獄 前編
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 コツ、コツ……。  担当の女看守に付き添われ、長い廊下を歩かされる。  コツ、コツ……。  胸の上に『特刑』、お腹に『2-03』とプリントされた特殊囚衣を着せられて連行される。  コツ、コツ……。  つま先立ちを強制するバレエヒールの底の部分に取りつけられた金属が、硬い床を叩く。  先端と手首部分に半円形の連結用金具が設えられた拘束ミトンの手でバランスを取りながら、ヨチヨチと歩かされる。  これでも、バレエヒールの歩行に慣れたほうだ。最初の頃は、立ち上がることすらできなかった。  コツ、コツ……。  着せられた特殊囚衣は、それ自体が拘束具と言っていい。  バレエヒールの靴と拘束ミトンは、ラバーに似た質感の特殊囚衣と一体のもの。  どうやって着付けられたのかもわからないそれは、強制的に眠らされて行なわれる身体の清掃と検査のとき以外、脱がされることはない。  大小の排泄も、特殊囚衣を着せられたまま、専用の装置を使用して行なわれる。  そのために、特殊囚衣の股間部分には、特別なしかけが施されている。  おしっこの穴に挿入固定された、尿道用排泄管理器具。  後ろの穴にも、肛門用排泄管理器具。  本来は排泄にしか使われないはずふたつの穴を、残酷な器具で拡張されながら、私は囚人としての暮らしを強いられている。  コツ、コツ……。  聞こえてくる自分の靴音は、直接耳に届いているものではない。  囚衣本体と同じ囚人番号が刻印された、顔と頭を覆う拘束ヘルメット。その下半分の、耳を塞ぐ遮音装置により聴覚を奪われたうえで、内部に仕込まれたスピーカーで、担当女看守の身につけたマイクが拾った音を聞かされているのだ。  床も壁も天井もコンクリートの飾り気のない通路の風景は、私が肉眼で見ているものではない。  鼻梁にあたる位置に取りつけられた小型カメラの映像が、拘束ヘルメット上半分に設えられたバイザー内側のモニターに映し出されているのだ。  コツ、コツ……。  そんな惨状で連行されながら、私の肉体は性的に昂ぶっている。肉の悦びに蕩けさせられ、ものごとを深く考えられない状態に陥っている。  それは、尿道と肛門の排泄管理器具のあいだ、膣に挿入固定されている金属製ディルドのせいである。  排泄管理器具のような拡張はされていないものの、私の肉壺をみっちりと満たすそれが、足を運ぶたびに感じるところを緩く刺激しているのだ。 「シュッ、シュッ……」  かすかに聞こえる空気が通過する音は、私の喘ぎ声。  いや、私自身には、自分が喘いでいるのかどうかもわからない。  拘束ヘルメット下半分のマスクにより、私の声は完全に奪われているのだから。 「シュッ、シュッ……」  マスクの通気孔につながるチューブは、鼻孔を経て気道の深いところまで挿入され、隙間を生体用パテで埋められている。そのため、私の呼気は声帯をバイパスされ、発声できない。  さらに通気孔のすぐ下、楕円形の開口部の奥は、口にねじ込まれた金属製のパイプ。その先端に接続されたシリコンゴム製のホースは、食道に達している。  そのパイプとホースを通して流し込まれる流動食と水が、私の食事と水分補給だ。  そんな無惨な状況だが、最低限の配慮はなされている。  口腔を占拠する金属製パイプの歯にあたる部分にはマウスピースが取りつけられ、私の歯と歯茎へのダメージを最小限に抑えている。  特殊囚衣には各種センサーが取りつけられており、私の身体データは常時モニターされている。  それで異常が検知されれば、担当看守が左手首に着けた端末に表示され、緊急の検査が行われる仕組みだ。  もちろん、肉体の昂ぶりを示すデータも、その端末に表示されているはず。  コツ、コツ……。  脱げない特殊囚衣を着せられ、バレエヒールのせいでまともに歩けず、拘束ミトンで手を使えなくされ、私は歩かされる。 「シュッ、シュッ……」  声を奪われ空気が通過する音しかたてられず、排泄と食事を管理され、呼吸すらも制御されて、私は連行される。 (どうして……?)  こんなことになってしまったのか。  ディルドが生む快楽に蕩けかけた頭で考えて――。    きっかけは、無実の罪で囚われた私、麻美日菜乃《あさみ ひなの》に、法制省の役人が接見に訪れたことだった。 「特別刑罰監獄制度……お聞きになったことはありますか?」  冷淡そうな雰囲気を醸し出す若手女性官僚が、眼鏡のレンズをキラリとさせ、私に訊ねた。 「いえ、知りません」  そう答えた私に、女役人はさらに質問を投げかけた。 「若年層を中心として多発する凶悪犯罪の抑止策として、大幅な厳罰化が実施されたことはご存じですね?」  知っていた。その策が功を奏し、犯罪の発生数が一定程度減ったことも。そのせいで、無実の私が重罪に問われようとしていることも。 「ですが、その副作用として、受刑者が刑務所の定員を超えつつあるのです」  それは当然だろう。厳罰化により懲役が長くなったことで、ひとりの受刑者が刑務所内に長く留まることになったのだから。 「その対策として現在導入が検討されているのが、特別刑罰監獄制度なのです」  つまり、主に若年層の犯罪者を、通常の刑務所ではなく特別刑罰監獄、略して特刑監獄に収監。厳しく罰することにより短期間で矯正を成し遂げ、早期の出所を図る。  ただし、有効性が疑問視されるとともに法律上の問題点が指摘され、10年ほど前に導入が検討された際には、実現には至らなかった。 「その制度が現在、有効性を実証するため、限定的に試験導入されています。そして有効であると判断されれば、法整備のうえ正式に導入されるのですが……その実証試験の対象にあなたが選ばれたのです。もちろん、参加するかしないかは、麻美さん自身の意志で決めることですが」  制度の適用を希望すれば、特例措置で裁判が延期される。そのあいだ私は特刑監獄に収監され、通常とは違う厳しい罰が課される。 「特別刑罰監獄の収容期間は6カ月。刑期をまっとうすれば、矯正は成ったと判断されるとともに、意義のある試験への貢献が評価され、起訴猶予の処分が下されます」  要するに、私は無罪放免になるということだ、  加えて、法制省による社会復帰のサポートも受けられる。 「麻美さん、あなたは無実を訴えておられるようですが、状況証拠はあなたが犯人であることを示しています。かけられた嫌疑を晴らすことは困難でしょう」 「そ、そんな……」 「あいにくですが、これは客観的事実です。そして起訴されれば、刑期は最長で20年。仮に情状酌量があったとしても、判決が懲役18年を下ることはないと思われます」  それは拘留されてすぐ、あてがわれた国選弁護士と同じ見解だった。  つまり、今まで私が生きてきたのと同じ期間かそれ以上、私は刑務所で暮らさなくてはならない。  もちろん、私は無実。  そもそも、罪に問われるいわれはない。 (でも……)  このまま裁判にかけられれば、よくて18年、悪くすれば20年の懲役刑が課される。 (だとすれば……)  6カ月間だけ厳しい罰に耐えて、無罪放免になるほうがまし。  そう考え、いや考えさせられて、私は特刑監獄への収監を受け入れた。  コツ、コツ……。  金属製のバレエヒールの底で、硬いコンクリートの床を叩く。 「シュッ、シュッ……」  ディルドに抉られる女肉に生まれる快感に、少しずつ蕩けさせられる。  特刑監獄収監の同意書にサインした直後、首すじに注射を打たれて眠らされた私は、気がつくと特殊囚衣を着せられたうえで、特刑監獄にいた。  そのとき、初めて逢ったのが、私を連行する担当看守の玖殿咲和子《くどの さわこ》である。  コツ、コツ……。 「シュッ、シュッ……」  ディルドが生む快感で次第に蕩け、過去のできごとを振り返る余裕がなくなってきた。  もはや、後ろを歩く玖殿看守の無言の圧力を受けながら、無機質な通路をただ歩くことしかできない。  コツ、コツ……。  一歩足を運ぶほどに、媚肉まわりの筋肉も動き、濡れそぼつ肉壺がディルドに緩く擦られる。 「シュッ、シュッ……」  連動してお尻の括約筋も動き、挿入固定された肛門用排泄管理器具を食い締めてしまう。  食い締めた肛門にも、妖しい感覚が駆け抜ける。  それは、肛門のまわりに、少なからず性感帯が存在しているから。媚肉ほどでないにせよ、お尻はもともと感じやすい場所なのだ。  加えて、尿道の排泄管理器具からも、ほのかな快感がもたらされる。  尿道の中には本来、肛門のような性感帯はない。ただし、その直上には、快感神経を集めて作られたかのような快楽器官、陰核《クリトリス》が存在する。  尿道を占拠して拡張している器具に、陰核の根っこが圧迫され、歩くことで緩く押されてしまうのだ。 「シュッ、シュッ、シュッ……」  肛門と尿道への刺激も相まって、ますます呼吸が早くなってしまう。  特殊囚衣に覆いつくされた身体が熱くなり、肌から汗が噴き出す。  増幅された快楽が、私をいっそう蕩けさせる。  玖殿看守にかつて聞かされた話が正確なものなのか、ほんとうのところはわからない。  だが、そうでなければ、肛門や尿道でも気持ちよくなってしまう現象に説明がつかない。  ともあれ、これ以上は呼吸を乱されたくない。  食事用パイプをねじ込まれて口を塞がれた私は、鼻呼吸しかできない。鼻孔に挿入されたチューブの内部を通る量の空気しか取り込めない。  歩かされながら昂ぶりすぎると、酸素不足に陥ってしまう。  快楽に蕩け、思考力が衰えていくなかでも不安感を覚えたところで、耳を覆う遮音装置のスピーカーから玖殿看守の声が聞こえた。 「止まりなさい」  そうだ。  朝の食事と排泄のため、私は独房を出されて管理室に連行されていたのだ。  にもかかわらず、頭が蕩けていたせいで、私専用管理室の前を通り過ぎようとしていた。  コツ、コツ。  指が使えない手でバランスを取りながら足を止め。 「シュッ、シュッ……」  乱れた呼吸を整えているあいだに、玖殿看守が左手首の端末を使って電子ロックを解除した。  『2-03用管理室』と書かれた扉が音もなく開くと、中は幅も奥行き2メートルほどの狭い部屋。入り口の扉の反対側、突き当たりの壁には、上下に並んだふたつの装置。  その装置の前に立たされると、天井から垂れていたベルトを、特殊囚衣の肩部分に設えられていた連結用金具につながれた。  それから壁に手をついた状態で、拘束ミトンを。脚を緩く開かされ、バレエヒールを床に。それぞれつなぎ留められ、その場から動けなくされたところで、装置から伸びるホースとチューブが私に接続される。  上側の装置から伸びるホースが、口の開口部へ。  下側の装置のホースを、肛門の排泄管理器具に。細いチューブは尿道の排泄管理器具へ。  それぞれ接続されて、食事と排泄の管理が始まる。  まず感じたのは、口に接続されたホースから伝わるかすかな振動。それから、空っぽになっていた胃が、少しずつ満たされていく感覚。  装置からホースを通して、胃に流動食が流し込まれているのだ。  舌が触れているのは、金属製の筒だけ。流動食の味はわからない。ホースや筒がわずかに震えるだけで、口や食堂を食べものが通過している感触もない。もちろん、咀嚼もできない。  ただ、機械のタンクに燃料を補給しているかのような、味気ない食事。  最後にホースと筒の洗浄を兼ねて水が流し込まれ、食事管理が終了した。  続いて排泄の管理が始まり、8割がた溜まっていた膀胱が、軽くなっていく感覚。  尿道の排泄管理器具と接続されたチューブを介し、おしっこが装置に回収されているのだ。  まったく実感がないのは、食事の管理と同じ。尿道を液体が通過する感覚もなく、それゆえにスッキリすることもなく、小さいほうの排泄が終わる。  続いて、大きいほうの排泄。  とはいえ、流動食と小水は液体だが、大きいほうは基本的に固体。ただ蓋を外して開放するだけでは、排出できない。  ほんとうのところはわからないが、玖殿看守はそう言った。  ともあれ、大の排泄管理は、やりかたが違う。  ホースと器具を通してかすかな振動が伝わった直後、生温かい液体が、お尻の中に注入され始めた。  体温と同程度に温められた浣腸液である。  もちろん、SMで行なわれるような、拷問じみた大量浣腸ではない。あくまで、排泄を管理するためだけの処置。  やがて、浣腸液の注入が止まる。  すぐに排泄を許されるわけではないが、激しい苦痛を覚えるほど耐えさせられるわけでもない。  浣腸液が効果を発揮し、腸のぜん動が始まったことを特殊囚衣に仕込まれたセンサーが感知したところで、排泄が始まる。  とはいえ、肛門に挿入固定された器具のなかを排泄物が通過するだけで、排泄の実感はない。  排泄物を見ることも、それが空気に触れることもないから、臭いもいっさい感じない。  玖殿看守が淡々と端末を操作して行なうことも相まって、自分の身体が機械にかえられ、メンテナンスを受けているような感覚に囚われてしまう。  器具とホースの洗浄を兼ねての、ぬるま湯による洗腸もまた同じ。  はじめのうちは排泄を管理される行為自体に精神的苦痛を覚えていたが、馴らされてしまった今は、ただの日課になってしまった。  そのことに感慨すら抱けなくなっている私だが、食事と排泄の管理を受けたあとの処置だけは特別だ。  それは、素直に管理を受けたことに対する報酬、ご褒美である。  私は今や、そのご褒美を心のどこか期待しているところもある。  ホースとチューブの接続を解除したあと、玖殿看守が私に手首の端末見せつけた。 「うふふ……」  そして、この日初めて感情を表に出して妖しく嗤い、端末を操作した。  直後、膣に挿入固定されたディルドが震え始める。  歩かされることで、すでに充分火照り潤っていたそこに、強烈な刺激。  それが、私の官能を一気に煽る。 「シュッ、シュッ、シュッ!」  拘束ヘルメットのマスクの通気孔から漏れる、これまでとなんら変わりない呼吸音は、実は艶めく喘ぎ声。 「シュッ、シュッ、シュッ!」  拘束ミトンを壁に、緩く開いた脚のバレエヒールを床に、それぞれ連結されて動けない状態で、オンナの肉を急速に昂ぶらされる。  性感をひと息に高められる。 「シュッ、シュッ、シュッ!」  肉壺を満たすディルドの振動が、薄い肉1枚を隔てただけの場所を拡張して占拠する肛門用排泄管理器具に伝わる。  同じように、おしっこの穴を拡張して固定された尿道用排泄管理器具にも伝搬する。  それで、肛門と尿道、ひいては陰核にも快感が生まれる。 「シュッ、シュッ、シュッ!」 「うふふ……気持ちよさそうね」  このときしか聞けない艶を帯びた口調でそう言った玖殿看守には、呼吸音の違いで肉体の昂ぶりが伝わっているのか。  それとも、端末の表示で私の状態を把握しているだけなのか。  わからない。  わからないが、そんなことはどうでもいい。  今はこの悦びに没入したい。  これしか、管理後のご褒美しか、私には愉しみがないのだから。  もう、肉の昂ぶりを止められない。性感の高まりを抑えられない。止めよう、抑えようとも思えない。 「シュッ、シュッ、シュッ!」  どんどん昂ぶる。 「シュッ、シュッ、シュッ!」  ますます高まる。  蕩け顔を見られる恐れはない。  あられもなく喘いでも、声を聞かれる心配もない。  密かに嬌態を演じていることを知っているのは、ひとり玖殿看守だけ。 「シュッ、シュッ、シュッ!」  艶めく声を静かな吐息に変換されながら、押し寄せる快感に飲み込まる。  特殊囚衣に全身を包まれ、締めつけられたまま、押し上げられる。  言葉を奪われ、自力では食事も排泄もできない身体にされ、拘束ミトンとバレエヒールを壁と床に連結されて拘束されまま、追い上げられる。 「シュッ、シュッ、シュッ……」  昂ぶり高まるせいで、呼吸が乱れる。鼻のチューブだけでは、身体が求めるだけの空気が取り込めなくなり、息苦しさを覚え始める。  苦しい、苦しい。 (でも……)  苦しさを凌駕するほど、気持ちいい。  そこで、玖殿看守の声が聞こえた。同時に、ディルドの振動がいっそう強く激しくなった。 「2-03、イクことを許可する」  耳のすぐ近くでささやかれたような玖殿看守の声が引き金になったかのように、私は飛ばされる。 「シュッ、シュッ、シュシュッ!」  身体がビクンと跳ねたが、壁と床に手足を縫いつけられて、その場から動くことはできなかった。  膝からガクンと力が抜け、肩の金具につながれたベルトに、崩れかけた身体を支えられた。  そんなまったく自由がない状態で、私はイク。  絶頂すらも玖殿看守に管理されて、私はイカされる。  気持ちいい。気持ちいい。  身体の自由も、言葉も、なにもかも奪われて。食事も排泄も快楽も管理され、呼吸も、絶頂すらも制御されて。  囚人2-03としてたどり着いた絶頂は心地よい。  そして、肩を吊るベルトに身を預け、ひとしきり恍惚の世界を堪能し――。  再び無機質な通路を連行され、私は独房に戻された。  独房の広さは、管理室より狭い。  その半分を占めるのが、合成皮革張りの質素な寝台。看守に指定されないかぎり、これに座っても横たわっていてもかまわない。  独房の通路に面した部分は鉄格子で、周囲を見ることはできる。だが、独房どうしはコンクリートの壁で仕切られていて、ほかの囚人のようすを詳細に見ることはできない。  それでも確認できる範囲の独房にいる囚人は、数人というところ。  私の囚人番号『2-03』は、第2監房3番めの囚人という意味だろう。もしかしたら、第1監房には、もっと多くの収容者がいるのかもしれない。  ともあれ、囚人どうしで会話することは不可能だ。  私を含めて全員、声を奪われている。スピーカーの電源を落とされたら、耳の遮音装置のせいで音を聞くこともできない。  それはバイザーのモニターも同じだが、起きているあいだ、見ることだけは許される。  そんな状態で絶頂後の身体を休め、お昼になると玖殿看守がやってくる。  再び通路を連行され、ディルドと排泄管理器具に肉を昂ぶらされながら管理室へ。  食事と小の排泄管理を受けたあと、ご褒美はなく、第2監房用の屋内運動場へ引き出される。  ほかの囚人の姿を見ることができるのは、運動の時間だけ。  とはいえ、運動が毎日行なわれるわけではない。それゆえ、第2監房の囚人が運動場に全員集合するわけでもない。  また独房内と同じように、囚人どうしで言葉を交わすことはできない。  特刑監獄にいるかぎり、私が聞ける声は、玖殿看守のものだけだ。  そして、特殊囚衣を着せられた不自由な状態では、たいした運動もできない。  官能を煽られながら、玖殿看守に付き添われ、しばらくヨチヨチと歩き回ったあと、再び独房に戻される。  そして、しばしの休息のあと、夜の管理。  そのあとは、就寝まで独房で過ごし、消灯と同時にモニターの電源が切られる。  こんな暮らしを、もうどれくらい続けているのだろう。あとどれくらい続ければ、私は出所できるのだろう。  最初の頃は、食事の管理を1日3回、睡眠を1日1回として、日にちを数えていた。  しかし、拘束ミトンの手では書いて記録することもできず、いつしか正確な数を憶えていられなくなった。  加えて私は収監されてから、外の景色も時計も、一度も見ていない。  運動場も屋内。空調が効いているうえ、全身を特殊囚衣に覆いつくされているから、気温の変化から季節の移り変わりを察することもできない。  朝食をほんとうに朝に摂っているのか、睡眠時間が夜なのかも、実のところはわからない。  そう考え、食事と睡眠のサイクルが1日24時間に沿っているのかと疑問を抱いてからは、数えることを諦めた。  それ以来、朝の管理後のご褒美だけを愉しみに、その日1日が過ぎるのを待つ日々が続いている。  やがて、バイザー内側のモニターの電源が切られた。  就寝時間だ。  真の暗闇と静寂のなか、明日のご褒美を心待ちにしながら、連行の余韻で火照りが残る身体を特殊囚衣に包まれたまま、私は眠りに落ちた。  このあと、さらなる過酷な運命が私を待っているとは、夢にも思わずに。
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POSTEDMar 7, 2025
ARCHIVEDJun 10, 2026