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【通し読み】雨宮雫の回憶録

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【通し読み】雨宮雫の回憶録
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初めて人をくすぐり壊したのは幼稚園にいた頃だった。

"くすぐりの手遊び"は私の周りにいた女の子や男の子にも人気で、先生はいつも園児達をくすぐって遊んでいた。


__私も人をくすぐってみたい。


最初はほんの些細な好奇心だった。

子供心に無邪気な欲動。


その時、確かたまたま近くにいた晴菜ちゃんという女の子がいた。


「ねぇ、はるなちゃん!」


「しずくちゃんなあにー?」


「こちょこちょしたい!こちょこちょさせて!」


「うん!いいよ~!ほら!」


晴菜ちゃんは嬉しそうに自分から万歳して床の上に仰向けになってくれた。遠慮なく腰の辺りに馬乗りをして、遠くでくすぐっていた先生を見よう見真似で試しに指先を晴菜ちゃんの目の前でワキワキと見せつけるように動かしてみる。


「んひひっ!!そ、それだめぇ~!」


「まだこちょこちょしてないのに~。変なの~。」


晴菜ちゃんはよっぽどこちょこちょに弱いのか、私が指を動かしたり試しに「こちょこちょ」言っているだけでクスクスと楽しそうに、もじもじと我慢しようとしていた。


少しの間焦らし続けていると、晴菜ちゃんから「早くこちょこちょしてよぉ!」と少し怒ったような声。


「じゃあ、いくよ?ほぉら、こちょこちょこちょこちょ~」


「___っひゃっっっ!?んあ゛っっんぁぁぁぁっあははははははははははは!!!!!!!___っぁぁぁっあはっっっっ__っっんぁぁぁぅっぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


薄い服越しに無防備に万歳していた腋の下を、ほんの少し。何も力を入れずに軽くこちょこちょと指を動かした瞬間、晴菜ちゃんは一瞬だらりと白眼を剥いて声にならない声で身体を震わせながら悶え始める。


最初はすごく大袈裟に反応しているだけかと思って、特に気にせず指を動かし続けていた。脇腹をもみもみと揉んでみたり、服の中に手を入れてお腹の辺りをこちょこちょしてみたり。


首筋を10本の指で包み込むようにこちょこちょしてあげると、晴菜ちゃんは金魚みたいに口をパクパクとさせて涎を垂らして(もっと)(もっとして!)とおねだりしているかのように可愛く笑い悶えていた。


楽しい。なんて楽しい遊びなのだろう♪


人をこちょこちょするのがこんなにも楽しいものだとは思ってもみなくて、しばらくの間夢中になって我を忘れたようにくすぐり続けていたのだと思う。


しばらくして、先生達が私の周りに集まり出した。


背後から先生に抱き着かれて無理やり押さえられ、後から聞いた話では「なんで私の邪魔するの!せっかく遊んでたのに!」と駄々をこねていたらしい。


先生に言われて、よく見ると晴菜ちゃんは気絶していた。

白眼を剥いて顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになり、時折ピクピクと身体を震わせている。


その時は正直、ほんのちょっとこちょこちょしただけなのに、晴菜ちゃんは大袈裟だなと思っていた。


幸いにも晴菜ちゃんはすぐに意識を取り戻したけれど、私の顔を見た瞬間壊れたように「いひゃぁぁぁぁっこちょこちょやめてぇぇぇぇっっ!!!!」と泣き叫んで暴れ始めてとても怖かったことを覚えている。


母親が迎えに来た時、先生や晴菜ちゃんのお母さんに謝りなさい!と言われたけれど、仕方なく渋々といった感じでごめんなさいをしてそれ以上は大事にはならなかったみたい。


その日の夜、私は布団に入ってからも興奮に震えていた。

晴菜ちゃんをこちょこちょした時の反応や感触が指先から忘れられない。もっともっとこちょこちょし続けたら人はどうなってしまうのだろう?息ができなくなって動かなくなっちゃうのかな?


そんなことを考えながら、試しに自分の腋の下をくすぐってみたけれど、当然何もくすぐったさは感じなかった。


翌日。幼稚園の教室に入ると、いつも通り晴菜ちゃんは来ていた。


「ねぇ!はるなちゃんおはよう!」


「ひっ………おはよぅ…………」


「……?どうしたのかな~?」


晴菜ちゃんに挨拶をしてみたけれど、私の顔を見た瞬間小さく挨拶をしてどこかに立ち去ってしまった。


休み時間、私は手当たり次第に女の子や男の子に「ねぇ、こちょこちょさせて!」と声をかけていた。


けれど、同じ教室で昨日の惨状を見ていた園児は誰も私に構ってくれない。


仕方なく、私は先生の中でも特に優しい中野先生に声をかけていた。


「ねぇ、せんせ~!」


「あらあら。どうしたの雫ちゃん。皆と遊ばないの?」


「皆私と遊んでくれないの…だから先生と遊びたい!」


「いいわよ♪何して遊ぶ?おままごとでも__」


「先生のことこちょこちょしたい!」


私が無邪気な笑みを浮かべてそう言った時、いつも優しい先生は少しだけ表情を曇らせていた。


それでも、子供の期待に応えようとしてくれたのか、「う~ん…少しだけならいいよ♪」と言ってくれた。


「やったぁ!じゃあ先生万歳してー?」


「こ、こう……?」


脚を真っ直ぐ伸ばして座っている先生と向き合うような形で太ももの上に乗って万歳させる。


昨日晴菜ちゃんをくすぐった時と同じように、先生の目の前で指をワキワキこちょこちょ~♪と軽く動かしてみると…


「…っひゃっっ!?んっっっだ、だめっっ…!」


「先生どうしたの~?わたし、まだ指をワキワキさせてるだけだよ~?」


びっくりしたように身震いして万歳していた腕を下ろして脇をガードしてしまう先生。


もう一度「万歳」するようにとおねだりして、無防備に開かれた腋の下へゆっくりと指先をこちょこちょ動かしながら近付けていく。


「っっっぷふっっ、んんっっ~~…!!」


先生の顔を見ると、目を閉じて必死に息を止めているようだった。大人なのに、こんなのも我慢できないなんて恥ずかしいね。


人差し指で両側から腋の下をツンツンと突き刺すように刺激してみると…


「ぶほっっ!?んひっっっや、やめっっ…!」と、余裕無さげに、いつもの優しい雰囲気から本気で焦った様子で万歳したまま上半身をクネクネさせて身悶え始める。


もう我慢できない…♪


先生を思いっきりこちょこちょしてみたらどうなるのだろう?一度溢れ出した好奇心は止められず、気付けば私は先生の腋の下を容赦なくこちょこちょ~♪とくすぐり尽くしていた。


「___っっぷぎゃぁぁぁぁぁっっ!?んぁぁぁぁぁぁっあがっっっんぁぁぁぁぁっあはゃひゃっっぁぁぁぁぁぁっいひゃぁぁぁぁぁっんぁぁぁぁっやめっっっぁぁぁやばぃぃぃぃっぁぁぁぁぁぁぁんぎゃぁぁぁぁぁぁっっっいひゃぁぁぁぁぁくひゅぐっひゃっっっぁぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははははははははははは!!!!!」


先生は下品にも大きく口を開けてだらだらと涎を垂らし、仰向けになってイヤイヤと顔を横に振りながらひぃひぃと笑い狂っている。


首筋も腋の下も大きなおっぱいも、お腹も脇腹もまんべんなくこちょこちょと指先でくすぐってあげると、ピクンピクン!と身体を震わせながら抵抗することなく面白いくらいに笑ってくれている。


「先生こちょこちょ~!くしゅぐったいね~?もっとしてあげるーー!」


「あ゛ぁぁぁぁっひゃめっっっし、しずくちゃんっっぁぁぁぁぁだ、誰かたすけ___っぁぁぁぁぁぁっぁがっっっっ!?ぁぁぁぁぁぁぁぁっじぬっっっっぁぁぁぁっ゛」


「あははっ♪先生も大袈裟だね~♪こちょこちょこちょこちょこちょこちょ~♪」


服の中に指を潜り込ませ、何気なく脇腹を強めにもみもみとくすぐった瞬間、先生は声にならない声で口をパクパクとさせて苦しそうに笑い始める。


たかが子供のお遊びのこちょこちょで、私よりも背が高くて大人の女性がこんなにも乱れ狂ってしまうなんて…


なんて愉しくて最高なんだろう♡


無我夢中で先生をこちょこちょし続けていると、そのうちぐったりとしてピクリとも笑わなくなってしまった。


「…あれー?せんせー?寝ちゃったのかなぁ~?」


晴菜ちゃんみたいに、だらりと白眼を剥いて顔は涙や涎でぐしゃぐしゃ。股の辺りを見てみると、大きなシミができていることに気が付いた。


先生、もしかしてお漏らししちゃったんだ。

大人なのに、こちょこちょされておしっこ漏らしちゃうなんて恥ずかしいなと思った。


私は中野先生を放置して、他の子をこちょこちょしようと外に出てみることにした。


だけど、何だか皆、私の顔を見た瞬間走って逃げていくような気がする……


休み時間が終わってから、私は別の先生に呼び出された。


「雫ちゃん?中野先生に何かしたの?」


「……?別に、何もしてないよー?」


「そう……いい?もう他の子や、先生のことこちょこちょしたらダメだからね?」


「えー?なんでー?どうしてですかー?」


私が理由を聞いても、「とにかくダメなものはダメ!」と先生ははぐらかすように強く注意をして去ってしまった。


翌日から、中野先生も晴菜ちゃんも幼稚園に来なくなった。


この時から、私は自分の"才能"と無邪気な"狂喜"にうっすらと気付いていたけれど、見えないフリをしていたのかもしれない。


**

私の家は比較的裕福だと気付いたのは小学校3年生くらいの頃だった。


父は大学病院の勤務医をしており、泊まり込みの仕事も多く幼い頃からあまり顔を合わせた記憶はない。


家は一軒家であり、高そうな美術品やグランドピアノ。まるで美術館かのように絢爛と、整然とした家だった。


教育熱心な母に連れられ、幼い頃は学校が終わっても遅くまで習い事をしていた。


英会話やピアノ、合気道、習字……


「行きたくない!」と駄々をこねようものなら、ビンタされてヒステリーになったかのように怒鳴られ、渋々従わざるを得なかった。


父からは「将来お医者さんになりなさい」と言われ、母は父に対して「そんな激務な仕事をこの子に勧めないで!」と怒っていた。


幸いなことに、私は勉強はできた。


小学校のテストでは毎回100点。

授業中はノートにいつも落書きをして遊んでいた。


家にいる時は母の目を盗み、父の書斎にこっそりと入って棚にある本を片っ端から読み焦っていた。


__早く大人になりたい。


早く大人になって、稼げる仕事に就いてこの家を出たい。

そう考えると、今までそれほど興味の湧かなかった勉強にも熱が入るようになった。


小学校での私は、どちらかと言えばヤンチャな子供だった。特に、低学年の頃はクラスの男子達とも仲良く外で鬼ごっこをしたりボール遊びをしていたと思う。


小学4年生くらいになると、少しずつ中学校受験を意識するようになり、教室の中で黙々と勉強したり本を読んでいる時間の方が長くなっていった。


ある日のこと。お昼休みに教室で読書をしようと思い、机の引き出しから本を取り出した瞬間__


「おいっ!雫!こんなの読んでないで一緒にドッヂボールでもやろうぜ!」


「…返してくれる?」


ケント君というクラスの中でもヤンチャな男の子に本をひょいっと奪われてしまった。


去年も同じクラスで、その時は一緒によく外で遊んでいた仲ではあった。


淡々とした私の様子が気に食わないのか、私に構って欲しいのか「返してほしかったらここまでおいで~!」と走って逃げようとしていたけれど、反射的に服の後ろを掴んで思いっきり引っ張ってしまった。


「うおっ!?いてっ!?」


その拍子でケント君は仰向けに転げ、手からすっぽ抜けそうになった本を無事に回収。


このままケント君を放置して読書してもよかったけれど、少しお灸を据えることにした。


ケント君の両手を万歳させて、腕の上に座り込んで顔を太ももで挟み込んで固定してみる。


「ひゃっ!?し、雫ちゃん…なにして…は、離せよ!」


「悪い子にはこちょこちょの刑だよ♪ほぉら、こちょこちょこちょこちょ~!!」


「あ゛がっっっ!?ぁぁぁぁっっ!?__っぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉっぁぁぁぁぁぁっあはっんぁぁぁぁぁっ!!あはっっっ!?や、やめっっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっあはっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぎゃぁぁぁぁっいひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっい、息がっっ__っぁぁぁぁぁぁっあはっっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははは!!!!」


「あはっ♡楽しい…!楽しい楽しい!楽しいよね~?ケント君もそんなに笑って楽しいんだよね!ほらほら、笑え笑え!!笑えよ!あははっ♡」


それは、少しの間眠りに堕ちていた感情と人格が目を覚ましたように、私は自分の意識がすり替わっていくのをうっすらと自覚していた。


首筋を指で包み込むようにして指先をバラバラに動かして容赦なくこちょこちょし続けたり、腋の下をカリカリとくすぐり尽くしていく。


少し腕を伸ばして脇腹やお腹、おへその辺りまでこちょこちょして上半身を余すところなくくすぐり続ける。


一度くすぐり始めると私の指先は止まらない。


「__っぁぁぁっがはっっ…ぁぁぁぁっぐるじっっい、息がっっぁぁぁぁぁっ__ごめんなざぃぃっっや、やめっっじぬっっっっじんじゃぅぅぅっっんぁぁぁぁ゛っっひゃめ!!」


「え~?なあに?何か言った?もっと?もっとして??お望み通り死ぬほどこちょこちょしてあげる♡ほらほら、こちょこちょこちょこちょ~♪あははっ♡楽しいね~♡ほぉら、ケント君しね!!しんじゃえ!!こちょこちょでしんじゃえよ!!あはっ♡」


周りにいたクラスメイト達は、普段の私からは想像できないような豹変ぶりに泣き出したり怯えてガタガタと震えて動けなくなっていたそうだ。


ケント君の顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになり、足をバタバタとさせたり腕に力を入れて必死に私のこちょこちょから逃げようと無駄な努力をしていたけれど、しっかりと脚で肘の関節を挟み込んで逃がさない。


段々と笑い声が過呼吸気味になり、それでもしばらくこちょこちょし続けていると泡を吹いてだらりと白眼を剥いて動かなくなってしまった。


「あれ~?ケント君~?う~ん、もう壊れちゃった。つまらないなぁ~………あれ………私…何して……」


靄が晴れたように、ふっと現実に返ると、さっきまで本の取り合いをしていた筈のケント君がピクピクと気絶している。


周りにいたクラスメイト達も、ハッと慌てたように「せ、先生呼びに行かないと!」「ケント君大丈夫?」と駆け寄って慌ただしい流れになる。


ケント君はすぐに意識を取り戻したけれど、私の顔を見た瞬間にまるで化け物を見るかのような目を向けて「ひぃぃごめんなさいごめんなさぃぃ」とガタガタと怯えて何度も何度もごめんなさいを繰り返していた。


担任の先生に別室で事情を聞かれたけれど、その時の記憶が何も無くて、私も泣きながら「私…何もしてません!」と訴えた。


しかし、他のクラスメイト達の証言からどうやら私がケント君をこちょこちょで気絶させたのだと言う話があり、先生も困った様子で半信半疑。


特に親を呼ばれたりすることもなく、ケント君が"ふざけて"意識を失ったフリをしていたという話にまとまった。


**

その翌日から、教室の中で私への些細ないじめが始まった。


「おはよう♪」と仲の良い女友達に挨拶をしても、目を合わせず無言でどこかへと立ち去って無視をされる。


試しに他の女の子達に挨拶をしても、わざとらしく避けているようか態度を取られた。


昼休みのこと。教室で本を読もうと思っていると、3人組の女子が私に近寄ってきた。


「しずくちゃん~♪」


「……?どうしたの?」


背後から腕を羽交い締めにされ、左右から「こちょこちょ~♪」と服越しにくすぐられる。


「………それ、本気でやってるの?」


「えっ!?うそっ!?こちょこちょ効かないの!?」


「私がお手本を見せてあげるね」


「うわっ!?痛っ!!?」


椅子から勢いよく立ち上がり、背後で羽交い締めをしていた女子を柔道の背負い投げのように床に投げ飛ばしてしまう。


腰を強く打った様子で、顔は苦悶の表情が浮かんでいるが、お構い無しに馬乗りをして脇腹に指を添える。


「痛い?じゃあ私が笑わせて治してあげる♪ほぉら、こちょこちょこちょこちょこちょこちょ~♪」


「__っあ゛っっっっぎゃぁぁぁっっっ!?いひゃぁぁぁぁぁぁぁっやめっっっっぁぁぁぁぁぁくひゅぐっっっひゃっっぁぁぁぁぁぁぁっっっぎゃぁぁぁっあはっっ__んぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁじぬっっやめっっっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははははははは!!!!!」


「ほら、こちょこちょはこうやってやるんだよ?ちゃんと見といてね?次はあなた達にもやってあげるから♡」


「ひっ……ご、ごめんなさい雫ちゃん…」

「わ、私も謝るから…ごめんなさい…」


私をくすぐってきた女の子2人は、完全に戦意喪失して腰が抜けたようになってガクガクと震えて私に命乞いをしている。


また野次馬が集まり、「先生呼びに行って来ようか…?」と口に出していた正義感の強い男子に、「余計なことしたら次はあんたもこちょこちょ処刑だからね?」と釘を刺す。


私に馬乗りされてくすぐられ続けていた女の子はもうとっくに白眼を剥いて気絶していた。


私が本気を出せば多分__息の根を止めれる。


考えただけで、ゾクゾクとした高揚感に包まれて、何だかアソコが濡れてくるような感覚を覚えた。


「さて、次は誰をこちょこちょしようかなぁ~?」


人差し指を向けて、教室にいる人の中から次のターゲットを選ぶ。丁度、近くで腰が抜けてガタガタと震えている女子にしようかな。


さっき私をこちょこちょしてきたこと…後悔させてあげないとね。


「さっきのお返ししてあげる♪」


「ひっ……し、しずくちゃんごめんなさい…も、もう二度としないからゆる___っぁぁぁぁぁっっっ!?いひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっくひゅぐっっっぁぁぁんぁぁぁぁっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっあはははははははははは!!!!」


「こちょこちょこちょこちょ~♪ほら、こちょこちょはこうやってやるんだよ?分かるかなぁ?え?ごめんなさい?謝罪いらないから早く笑い狂っちゃえ♡」


まるでもう一人の自分が身体を支配しているような感覚。

私がちょっと身体をこちょこちょとくすぐっただけで、皆面白いくらいに涙を流して笑い狂って、1分くらい経てば大抵皆気絶してしまう。


もう1人、私をこちょこちょしてきた女の子にも同じように馬乗りしてほんの軽く首筋を撫で、脇腹や腋の下をこちょこちょしてあげると絶叫してガタガタと震え始める。


まだまだ足りない。

もっと、もっともっと!!

くすぐりたい。壊したい。ぐちゃぐちゃにしたい。


こんな子供遊びのこちょこちょで、女の子も男の子も気が狂ったように笑って泣きながら白眼を剥いてピクピクと気絶していくのは何よりも愉しくて、快感で、愉悦。


恍惚とした表情で、私も涎を垂らしながら手当たり次第に人をくすぐり続ける。まるで飢えた獣が人里で餌を捕食するように。


一人…また一人………


昼休みの終わるチャイムが鳴り、ハッと私は正気に戻る。


「えっ……!?なにこれ…何があったの……誰か…!」


教室を見渡すと、クラスメイト達が床に倒れ伏せてぐったりと気絶している__。


私…もしかして私がやったの……?


しばらくして担任の先生が教室にやって来て、目を丸くして惨状に驚いていた。


「あ…雨宮さん…これは一体…何が起きているの……?」


先生が茫然として立っていた私の肩に手を置いて、心配そうに顔を覗き込んでくる。


その瞬間、私の脳裏には"先生をめちゃくちゃにくすぐったらどうなるのだろう"というイケない好奇心が思い浮かぶ。


微かに残っていた理性が必死に止めようとしていたけれど、濃い赤のドロドロとした血が渦巻くように、私の人格を呑み込んでいく__


「あ、雨宮さん…?大丈夫……っひゃっっ!?」


「せ~んせい?先生はどんな顔で笑い狂ってくれるんですか?ほぉら、こちょこちょこちょこちょこちょこちょ~♪」


「ひゃっっや、やめっっ__っぎゃぁぁぁぁっあはっっっ!?ぁぁぁぁぁぁっあはっっっっい゛っっっんぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁな、なにひてっっっぁぁぁぁぁぁぁぁっぎゃぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっあははははははははははははははははは!!!!!!」


先生の首筋を10本の指でこしょこしょとくすぐった瞬間、クラスメイト達と全く同じような反応をして情けなく笑い狂ってしまう。まだ20代後半くらいの若い大人の男性でも、私がちょっと軽くこちょこちょしただけでこんな風になっちゃうんだ。


へなへなと力が抜け落ちて、床に膝をついた瞬間に首筋をくすぐりながら仰向けに押し倒し、腕を身体の側面につけた気を付けの状態に脚で抑えて胸の辺りに馬乗りしてしまう。


「ふふっ♪先生くしゅぐったい?子供遊びのこちょこちょ我慢できないんですね♪大人なのに恥ずかしくて情けないね♡お仕置きにもっともっとこちょこちょしてあげますね」


「ひっ……!?や、やめっ…お願い…だめっ…やめてっ…いやっっ…やめっっ…ひぃぃっっっ!?あがっっ__っぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっぁぁぁぁぁぁぁぁっ___ひゃめっっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁんぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」


「こちょこちょこちょこちょ~♪あははっ♡愉しい…もっと、もっと笑い狂っちゃえ!おかしくなっちゃえ!!」


きっと私は、恍惚とした表情になって無我夢中で先生の首筋をこちょこちょしていたのだろう。


大の大人が小学生の私相手に手も足も出ず、顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになってイヤイヤと顔を横に何度も振りながら必死に「ごめんなさい」と口を動かして許しを乞う。


私はほんのちょっと指先をバラバラに動かして皮膚の上をこちょこちょしているだけなのに、面白いくらいに反応している姿を見ると、もう自分の意志で手を止めることなんてできない。


「ぁぁぁぁっあひっっぁぁぁぁっ__ひゃめっっっぁぁぁぁぁぁぁっげほっ、ごほっっぁぁぁぁっいひゃっっだ、だれかっったすけっっぁぁぁぁっあひっっっ…ひぃぃぃっっ…」


「せんせ~もうそろそろ気絶しちゃうかな?じゃあ最後はちょっだけ"本気"でくすぐってあげるね♪こちょこちょこちょこちょこちょこちょ~♪」


「____ぁ゛っっっぁがっっ___ぁぁぁぁぁぁっ!!」


今まで少し手加減をしていた感覚はあった。

だけど、リミッターを一段階解除するように、ほんの少し指先のタッチを変えながら首筋を10本の指で包み込むようにしてこちょこちょした瞬間。


先生は声にならない声で口をパクパクとさせ、目からだらだらと涙を流してゆっくりと白眼を剥いて、ピクリとも動かなくなってしまった。


その瞬間だけ、ハッとしたように私の理性を取り戻し、慌てて脈拍や心拍の動きを確認する。


「…よかった…生きてる……」


もしかしたら、いつか私は本当に人をくすぐりで殺してしまうかもしれない。


怖い。怖くて震えが止まらない……


だけど、それ以上に"くすぐりたい"衝動に駆られてしまう自分を止めることはできなかった。


____________________

教室でクラスメイトや先生をくすぐったその後のことはよく覚えていない。確か…母が迎えに来たのだろうか。


事情もよく分からないまま、母と家に帰宅して、私はいつも通り平静に過ごしていたと思う。


翌日。朝に学校から電話があり、"自宅待機"してほしいと担任から連絡があったと母から告げられた。


母だけ学校に呼び出される形となり、私は家で一人きり。

くすぐって遊べる相手もいない。

仕方なく、父の書斎に堂々と忍び込んで昼過ぎまで読書に熱中していた。


玄関から物音がする…


「雫!どこにいるの!!来なさい!!」


1階から母の怒鳴り声が聞こえる。

せっかくいいところまで読み進めていたのに…何の用だろうか?


大きく足音を立てながら階段をのぼり、私のいる部屋まで母が近付いてくる音がした。


「雫!!あんた…学校で何したの!!」


「何って?何の話…?」


部屋に入ってきた母は私を見つけるやいなや、胸ぐらを掴んでパチン!と頬をビンタしてきた。


痛い。どうしてそんなことをするのだろう。


「とぼけないで!!あんた、学校で同じクラスの子や先生を気絶するまでくすぐったって聞いたけど、本当なの?正直に答えなさい!!」


「うん。多分本当。私がやったと思う。」


「多分って…あんたねぇ!事の重大さが分かって言ってるの!?何人かの生徒の親御さんから訴えるって言われて…私がどんだけ頭下げたと思ってるの!」


「そうなんだ。大袈裟だね。」


「あんた…自分で悪いことしたって思ってないの…?反省してないの?」


「どうして?子供遊びのこちょこちょが悪いことなの?それなら保育園や幼稚園で先生が子供をくすぐったりすることは全部犯罪になるの?」


パチン!と、さっき叩かれた頬と反対を強くビンタされた。子供に暴力を振るって、自分が矛盾した行いをしていることにまだ気付いていないのかな?


母はプルプルと震えて顔を真っ赤にしている。


「どうして…!そんな子に育てた覚えはありません!!あんたなんて…あんたなんて…生まれなければよかった!!」


「………えっ…………?」


その言葉を聞いた瞬間目の前が真っ暗になった。

プツリ、と脳の中で神経が切れる音が聞こえる。


これまでずっとずっと、溜め込んで我慢していた感情が静かに溢れ出し、濁流となって決壊した瞬間だった。


「…ふふっ♪あははははは!!!!そっか~…ママは私のこと、そんな風に思ってたんだね。じゃあママにも教えてあげるよ♡」


「し、雫…?あなたどうしたの…ひゃっっ!?や、やめっ…離れなさい…んひぃぃぃっっっ!?」


ぎゅっとお腹の辺りに抱きつきながら、指先で脇腹にあるくすぐったいツボを的確に捉えてゆっくりと刺激する。


じわじわと、少しずつ力を込めてクニクニとくすぐってみると、ママは聞いたこともないくらいに絶叫して力が抜け落ちたかのように膝から崩れ落ちてしまう。


軽くさわさわとくすぐりながら服を脱がせて、両腕を万歳させて腕に絡ませる。上半身は白いブラジャーのみ。


万歳させた腕の上に跨がって、ママの顔をニヤニヤと覗き込んでみる。


「ひっ……や、やめなさい…雫…!こんなことして…本当に怒るからっっひゃっっっ!?」


「ママも私のこちょこちょに逆らえないんだよ?ほら、笑ってよ。笑い狂って。おかしくなっちゃえ。壊れて狂っちゃえ!!」


「や、やめっっっあ゛っっあひっっっっ!?ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっぁぁぁぁぁぁぁぁっい゛ひゃっっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははは!!!!や、やめっっぁぁぁぁぁっぎゃぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


無防備に伸びた綺麗な腋の下に指を這わせ、最初から全力の容赦ないこちょこちょで懲らしめる。


ママは一瞬足先をピンと伸ばしたかと思うと、腰を情けなくへこへこと動かして必死に私から逃れようともがいている。


そんなことしても無駄なのにね。

どこまでもどこまでも私のくすぐったい指先が追いかけて絶対に離さない。


「ふふっ、こちょこちょこちょこちょ~♪ねぇママ?楽しい?それとも悔しい?ほら、早くごめんなさいしてよ。」


「ぎゃぁぁぁっあひっっっや、やめなざぃぃぃっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっい、息できないっっっぁぁぁぁぁぁぁっ____ぐるじぃぃぃっっぅっっぁぁぁぁぁぁっあはっっぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁっげほっ、ごほっっっぁぁぁぁぁいひゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


「へ~。ごめんなさいもできないんだ?じゃあもっともーっとママのことこちょこちょしてもいいってことだよね?ふふっ♪気が狂っても息ができなくなっても絶対にやめてあげないから♡」


肺の中の空気を全てくすぐりで搾り尽くしてあげる感覚で、腋の下から脇腹にかけて何度もこちょこちょと往復したり、不意にくすぐったいツボをもみもみとして呼吸困難になるほど強制的に笑い狂わせていく。


ママも最初は「やめて」とか「苦しい」とか笑いながら言っていたけれど、段々「ごめんなさい」と必死に喉の奥から絞り出すような声で訴え始める。


それでも、私の気がスッキリと晴れることはなかった。

一度こちょこちょと動き始めた指先を、もう自分の意志では止められない。


ママの顔は涙や鼻水、涎でぐしゃぐしゃの恥ずかしい姿になり、声にならない声で笑い狂って口をパクパクとさせて必死に酸素を肺に入れようとしている。


腋の下は脂汗が流れて光っている。

時々、首筋をこしょこしょと撫でてみたり、ブラをずらして胸横をさわさわといじめてみるとエッチな喘ぎ声が聞こえてきた。


私にごめんなさいも言わず、勝手に悦んじゃうなんて許さない。


「____。っっっぁひっ____ぁぁっっ____」


「こちょこちょ。こちょこちょこちょこちょこちょこちょ~♪あははっっ!!!」


もうとっくにママは気絶していて、くすぐっても微かに身体をピクピクと震わせるしか反応していないことに、しばらく経ってからようやく気付いた。


「…あれ…?ママ………あ……また…私が…やったの??」


まるで糸が切れたように、だらりと私の指先が脱力して床に垂れ落ちる。


もうどうにでもなれ__。


投げやりな感情に包まれながら、取り戻した理性は目の前の惨状をただ虚しく、遠い空のように見つめていたのだった。


**

次の日から私は、小学校に通うことをやめた。

父は学校に行かない私を見ても何も言わず、家族という繋がりが静かに崩れ去っていったように思えた。


母は私にくすぐられてから、これまでとは人が変わったようにビクビクと怯えて、気持ちが悪いほどにご機嫌取りをしてくるようになった。


そんな母の姿を見るのも億劫になり、私は部屋に引きこもって最近買ってもらったパソコンでオンラインゲームにのめり込み始めた。


敵を銃でやっつけるだけの簡単なゲーム。

倒して倒して倒して。

やるからには徹底的に。どこまでも執拗に。

相手の戦意が完全に喪失するまで何度でも叩きのめす。


私の中にいるもう1人の人格が、ゲームをしている時にずっと耳元で話しかけてくる。


"あなたが本当にしたいことは人をくすぐることでしょ?"


"いつまで部屋に閉じこもって、私の声が聞こえないフリをしているのかしら?あははっ♡バレてないとでも思った?"


「__。うるさい。うるさいうるさいうるさい!!!!」


ヘッドホンを床に投げ捨て、頭を抱えながら耳を塞ぐ。

そんな私を、もう1人の私が嘲笑う声が聞こえてくる。


しばらくすると落ち着いて、その代わりに指が蠢くようにガタガタと震え始める。


当然こんな状態では学校に行ける筈もないように思えるが、朝になると猛烈に気分も晴れやかになり登校したいと強く感じる時があった。


そんな時には久しぶりに制服を着て学校に行くが、クラスメイトの姿を見るとくすぐりたい衝動を抑えられなくなり、また惨劇のような光景が私の視界に広がって__。


それの繰り返しで、小学6年生になっても修学旅行には参加できず、卒業式の翌日に私1人だけ校長室で卒業証書を受け取りに行った。


__________________

**

昔は中学受験を考えていたけれど、結局は公立中学校に進むことになった。


新しい環境。新しいクラスメイト。

入学式は一応きちんと参加して、珍しく父も仕事を休んで家族3人で写真を撮ったりもした。


最初の1ヶ月程は、私も必死に馴染もうと努力はしていた。

けれど、クラスの女子とも男子とも私と気が合いそうな人はいないと思った。


そして、授業中にふと、また誰かをくすぐりたい衝動に駆られることがよくある。


その時私は、無意識に指をグーパーと動かしたり、こちょこちょとくすぐるような動作をしていたらしく、他のクラスメイト達から「雫ちゃんって…少しおかしいよね」とヒソヒソと陰口が聴こえてきた。


授業が終わってから、私の方をチラチラと見てはクスクスと笑っていた女子のところへと気付けば真っ先に向かっていた。


「な、なによ?なにか私に文句でもあるの?」


立ったまま黙って見下ろしている私に、その子はそう口を開いた。


「……ねぇ?くすぐり遊びは好き?」


「…は?急に何言ってんの?ウケ狙い?全然面白くな__っひゃっっっ!?んひっっっ!?や、やめっっ…!」


「5分もあればさぁ、人は簡単にくすぐりで壊れるんだよ♪ほぉら、こちょこちょこちょこちょ~♪」


「あ゛っっっいひゃっっっっ!?__っぁぁぁぁぁっいひゃっっっぁぁぁぁぁぁっあはっっぁぁぁぁぁぁっあはははははははははははははや、やめでぇぇぇぇっぁぁぁぁぁぁっくひゅぐっっっぎゃぁぁぁぁぁぁっあははははははははは!!」


首筋をほんの軽くさわさわとくすぐっているだけなのに、大絶叫してひぃひぃと笑い狂って椅子からずり落ちてしまう女の子。


クラスメイト達も野次馬のように集まり、止めるべきなのかどうかと見守ってざわざわとしている。


それでも私はくすぐっている指を止めない。

人格が入れ替わったかのように、乱暴に馬乗りして服の中に指先を潜り込ませ、脇腹をコリコリと引っ掻くように指先でツボを刺激してみる。


「___ッッあ゛っっぎゃぁぁぁぁっっ___ぁぁぁっあがっっっんぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ~!!!!」

「ふふっ♪くしゅぐったいね~?くすぐりを馬鹿にするからこんな目にあうんだよ?ごめんなさいは?」


「や、やめっっぁぁぁぁぁぁっぎゃぁぁぁごめっっっぎぁぁぁぁぁぁなざぃぃぃっぁぁぁぁぁぐるじぃっっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」


「へ~…謝らないんだ?悪いことしたのにごめんなさいしないんだぁ?じゃあもうどうなっても知らないよ?笑い苦しんでおかしくなって、窒息死しちゃえよ!!あははっ♡」


私の中にある"くすぐりの狂喜"が歓喜する。

どんなに苦しくてもくすぐったくても、必死に手足をバタバタとさせても私の指先から逃れることはできず、結局はされるがままにくすぐられ続けている。


無防備になった腋の窪みも直接指先でこちょこちょしてあげると、だらだらと口から涎を垂らして泣きながらあへあへと白眼を剥いて、しまいにはピクピクと痙攣して気絶しちゃった。


「あーあ…つまんないなぁ………あっ……あ…また……?」


いつも、最悪なタイミングで正気に戻っては自己嫌悪に陥る瞬間がやってくる。


もう散々見飽きた光景。

恐怖するクラスメイトの姿。


どうせこの後先生がやってきて、私は家に帰らされるのか、別室で事情聴取されるのだろう。


好きにすればいい。

もうどうにでもなればいい。


案の定、私が思い描いていた最悪のシナリオ通りに現実は進んでいった。


1週間の自宅謹慎処分。

母はまた、落胆したような顔をしている。


私は部屋で特に落ち込むでもなく、気持ちを切り替えるかのように。いや、現実から逃げ出すかのようにオンラインゲームの世界に入り込んでいた。


時間は溶けるように過ぎ去り、1週間が経っても私は学校に行く気にはなれなかった。


夏休みが始まる前、担任が「進級に関わるから、保健室や空き教室でもいいから学校に来て期末テストを受けてくれ」とわざわざ自宅までやってきた。


今さら学校のテスト何かに興味は無いけれど、押しに押されて仕方なくテストだけ受けに学校に行った。


どれもテストと呼ぶには簡単すぎる問題ばかりで、早々に解き終わって暇になってしまう。


「もういい。早く帰りたいから次のテスト持ってきて。」


「え?もう解き終わったの…わ、分かった…」


全科目のペーパーテストは、1時間少しで解き終わって帰る支度を始める。


「雨宮さん、2学期は学校に来てほしい!」


「……考えておきます。」


担任の先生は少し熱血っぽい男の先生だった。

どうにかして私を学校に行かせようとムダに頑張っている様子が滑稽に見える。


夏休みが始まると、一歩も外に出ることはなかった。

クーラーの効いた涼しい部屋で一日中パソコンに向かい、気付けば床で寝落ちしているような生活。


そう言えば、先生から夏休みの課題を山ほど渡されていたけれど手をつけることはなかった。


時間は遅く、早く。

目に見えない内に瞬く間に過ぎ去って、9月が始まっても生活は変わらない。


両親とも、ほとんど会話をすることはなかった。

学校にも、家の中にも私の居場所なんて無いと思っていた。


相変わらず担任の先生は私のことを心配しているような雰囲気だった。


それでも、私の気は変わらない。

ただ、時折無性に学校へ行きたい衝動に駆られる時がある。


誰でもいい。誰でもいいから、この手で、この指先でぐちゃぐちゃになるまでくすぐりたい。おかしくなるまで、ずーっとくすぐってみたい。


人は簡単に壊れてしまう。

人は簡単に、くすぐりで気絶してしまう。

それが私の生まれ持った"才能"かもしれないと、薄々幼いころから気が付いて、見てみぬフリをしてきた。


自分の内側に潜む"モノ"を、きゅっと絞めつけて、誰にも理解されないだろうという息苦しさで胸がいっぱいになる。


「あれ……何で……」


気付けば目には涙が浮かび、雫のようにポタポタと垂れ落ちていた。


涙が流れる度、一種の諦念が心の内側に湧き起こる。

もうどうなってもいい。

希死念慮とは違う、不思議と晴れやかでいて、ドス黒い感情の海に繋がっていく。


明日、学校に行ってみよう。

私が正常な人間であれば、きっと何事もなく一日が終わるだろう。もしまた、誰かをくすぐって問題を起こせば__


もう、その時に考えればいい。


**

昼夜逆転したまま夜通し眠れず、私は久しぶりに学校の制服に袖を通していた。


「し、雫…!その格好…やっと…学校に…?」


「うん。行ってくるね。」


母は驚いた顔をして、嬉しそうに慌ててお弁当を作り始めようとあたふたしている。


「いいよ。もう行くね。」と言って私が玄関に向かうと、「気を付けて行ってらっしゃい!」と笑顔で見送られた。


急に私が登校してきたら先生やクラスメイトはどんな反応をするのだろう。眠たくてぼやける視界。朝陽が眩しい。


途中でコンビニに寄って、エナジードリンクとメロンパンを2つ買った。


早く家を出過ぎたせいか、まだ時間には余裕がありすぎる。店の近くにあったベンチに座りながら優雅にまったりとメロンパンを噛りつく。


たまにはこういう朝も悪くないと思いつつ、今すぐにでも家に帰ってベッドに飛び込みたいような気持ちに駆られる。


エナジードリンクも飲み干して、久々の通学路をまったりと歩いていく。中学の校舎が遠くに見えてくるに連れて、動悸がしてくるような感覚。


気分が悪いことにして、朝のホームルームが終わったら保健室に行って少し仮眠を取ろう…


そう思いながら校舎の門を通り、下駄箱で上履きに履き替えて1年4組の教室までのそのそと歩いていく。


「…おはよ~…」


小さく挨拶をしてみるけれど、教室にいるクラスメイト達から反応はない。まるでお化けを見ているかのような驚いた視線を私に向けている。


そう言えば、そもそも私の席はまだ教室にあるのだろうか?


誰かに尋ねようとしたとき、1人の女子生徒が私に近付いてきた。


「雨宮さん、よくも平気な顔して…!あんたが明美にやったこと、私は許してないから!!」


「ん…?ごめん?明美って誰…?本当にごめんだけど、あなたも誰だっけ…?」


クラスメイトの名前を必死に思い出そうと、眠たい脳を回転させる。文脈からして、もしかして…私があの時くすぐって気絶させた女子が明美という名前だったのだろう。


ということは、今私の目の前にいる女は明美ちゃんの友達…ってところだろうか?


数秒間そんなことを考えていると、いきなり目の前にいた女に突き飛ばされて尻餅をついてしまう。


「いてて…なに?危ないなぁ。怪我したらどうするつもりなの?」


「うるさい!!よくもそんなこと…!私が仇を取ってやる!!」


私のお腹の上に馬乗りしてきて、両手で私の首を絞め始める。


あーそう。そんなことするんだ?

もういいよね、ここまでされたら正当防衛だよね。


「…ほぉら、腋が無防備だよ?」


「きゃっっっ!?な、なにっあ゛っっっっや、やめっっっぁぁぁぁぁぁっこれだめっっっや、やだっっっひっっっ!!!!ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっあはっっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっあはははははははははは!!!!!」


カッターシャツ越しにちょっと腋の下をさわさわとくすぐっただけでこの反応だと、きっと素肌をくすぐった瞬間白眼を剥いて笑い狂うのだろうな。


一瞬にして形成逆転し、脇を閉じて必死にガードしながら逃げようとしている女を容赦なくこちょこちょ追い詰め続ける。


「ほらほら、逃げないとくすぐりで死んじゃうよ?言っとくけど、これ冗談じゃないから。だって、私を殺そうとしたんでしょ?ならやり返される覚悟はできてたんだよね?」


「ぎゃぁぁぁぁっあはっっっや、やめでぇぇぇぅぁぁぁぁぁぁぁごめんなざぃぃぃぃっぁぁぁぁぁぁじにだくなぃぃぃっぁぁぁぁぁっげほっ、ごほっ__っぁぁぁぁっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははははは!!!!!」


うつ伏せになって必死に地を這うように逃げようとしているけれど、腋の下をこちょこちょとくすぐり続けて絶対に逃がさない。


背中に体重をかけて馬乗りして、横腹をシャツ越しにもみもみと刺激してみると__


「あ゛がっっっっいひゃっっっ____ぁぁぁぁぁぁっじぬっっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっあっっっやめでぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっあひゃぁぁぁぁぁぁっんぁぁぁぁぁぁぁぁっぁがっっっぁぁぁぁぁぁっっ」


「ふふっ♪我慢できないよね?苦しいよね~?もっとくすぐったくしてあげよっか~?」


身体が硬直したようにピンと伸びきって、ガタガタとくすぐったさに怯えている姿が面白い。


シャツの中に指を潜らせ、柔らかい素肌を直接こちょこちょ~♪とくすぐってみる。


まるで背筋のトレーニングをしているかのように、背中をのけ反らせたかと思うと声にならない声で笑い狂っている。


脂汗で滑りやすくなった腋の窪みも、直接こちょこちょといじめてあげると余計に苦しそうな笑い声を上げている。


「ふふっ、こちょこちょくすぐったい?もっとしてほしいよね?だって愉しそうに笑ってるから誘ってるんだよね?」


「あ゛っっ___ぎゃぁぁぁぁっぁぁぁや、やめ゛っっっぁぁぁぁぁぁぁおねが___っぁぁぁぁあがっ____ぁぁぁぁぁぁぁっ___ぁっ………あひっ…………」


「あ~?もう気絶したの?つまんないなぁ~……」


仰向けにひっくり返してみると、だらりと白眼を剥いて顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになってピクピクと痙攣して気絶していた。スカートの間、股の辺りから水溜まりができている…


中学生にもなってお漏らししちゃったのだろう。

恥ずかしいね。みっともないね。

こんな子供遊びのこちょこちょで気絶して失禁なんて、もうこの先生きていけないんじゃない?


廊下からドタバタと走る音。


「な、何があった!?えっ…あ、雨宮さん…?登校してくれたの…?え…?だ、大丈夫か!?」


「……私、眠いから帰っていいですか?」


「いや、ダメ!!とりあえず職員室に来て…?な?ちょっと他の誰か!彼女を保健室に運んであげて!」


「はぁ………」


久々に会う担任は、教室での惨状にあたふたとしている様子だった。私は職員室に呼ばれて、先生から色々と聞かれたけれど適当に「正当防衛です。首を絞められたのでくすぐり返しました」とか答えていた。


先生も最初はふざけているのだと思って怒ってきたけれど、1学期の"前科"を思い出したのか納得したような、脅えたような顔をしていた。


「と、とにかく…今日はもう帰りなさい。また連絡するから。」と先生に言われて、私はそれ以上何も言うことはなく素直に家路についた。


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学校から家に帰った私を見て、母は最初「忘れ物」を取りに一時帰宅したのかと思っていたらしい。


しかし、学校からの電話がかかってきて泣き出してしまった。私は早々に部屋に戻り、制服を乱暴に脱ぎ捨ててパジャマに着替える。


カーテンを閉めきった薄暗い部屋の中、バタリとベッドにダイブする。


どうして私はいつもいつも、同じ事を繰り返しているのだろう。幼稚園の頃から、人をくすぐる度に問題になってしまう。


あーあ。いっそのこと、社会が変わってしまえばいいのにと夢物語を夢想する。


どれだけ人をくすぐっても許される社会。

人をくすぐって壊しても正しいと認められる社会。


「…そんなの、」


"あるわけがない"と、言いかけたところで唾を飲み込んだ。

寝不足で眠たいのに、思考がグルグルと回って、無意味な不安で肺を押し潰されそうになってしまう。


微睡みのなかで、ゆっくりと重いまぶたが堕ちていく…


**

目が覚めた時、知らない天井が見えた。

あれ…ここどこだろう……


自分の部屋で眠っていた筈なのに…まだ夢を見ているのだろうか?寝惚けている眼を擦ろうと手を動かそうとした時、私は全身を拘束されていることに気が付いた。


「…っ!?な、なんで…!誰か!!たすけて!!!!」


個室のような病室っぽい場所に、ベッドの上で両手首や肘、足首や膝、胴体まで抑制帯で固定されて動けない…!


パニックになって必死に叫び続けていると、ガチャリと重たそうな鉄扉が開いて女性看護師数人と、白衣を着た男性が入ってきた。


「誰ですか…?早く帰らせて!!!」


「落ち着いて、大丈夫だから。自分の名前は言えるかな?」


「…?雨宮雫だけど…」


「うん。そうだね。ごめんね、急に連れてこられてびっくりしたよね。僕は精神科医の黒木です。君のお父さんとは知り合いでね、雫さんのことを頼まれていたんだ。」


「は……?パパが…?どういうこと?」


まだ状況が完全にのみ込めない。

ここは精神病棟で、目の前にいる優男風の男は父の知り合い…?


それはいいとして、なぜ自分がこんなところに連れて来られたのだろう。


「ねぇ、雫ちゃん?君は学校で自分が何をしていたか、覚えていることはあるかな?例えば__人格が切り替わったような、自分が自分ではないと感じた経験は身に覚えがあるんじゃないかな?どうだろう?」


「……学校で………?」


「その顔からするに、心当たりがありそうだね。単刀直入に話すと、雫ちゃんの話を学校の先生や保護者から聞く限り、解離性同一性障害の兆候があるように思うんだ。もちろん、まだハッキリと断定しているわけではない。しばらく入院という形で様子を見させてもらって、何も問題無ければすぐにお家に帰れると思うから。協力、してくれるかな?」


…さすが、精神科医と名乗るだけあって温和ながらさりげなく私の一挙一動をよく観察しているような眼をしていた。


「…分かりました。協力します…」


「うん。ありがとう。じゃあ僕はこれで。…拘束は外しておいて。」


白衣の男は立ち去り、看護師の女性達が抑制帯を外し始める。ようやく手足は自由になったものの、外へ出ることはできないらしい。


「何もなくて暇だと思うけど、本の差し入れはokだから♪何か読みたい本のリクエストあるかな?」


「…医学書。父の書斎にある精神疾患についての本全部持ってきて欲しい…って親に伝えて。」


「……分かった♪確認してみるね~♪」


…看護師の女はニコニコと口では笑っているけれど、目は笑っていなかった。中学生の子供がイキっているとでも言いたげな視線。


知識はあるに越したことはない。

早くここから脱け出して、家に帰りたい……


「いや…帰ったところで…私に居場所なんて無い…か…」


私がここに連れられてきた時点で、父も母も私を見捨てたのだろう。そして、もし家に戻ったとしても…学校にはもう通えないかもしれない。


ベッドに腰をかけ、ぼーっと天井を見上げてみる。

四隅には監視カメラがあり、赤いランプが光っている。


監視付きの部屋に閉じ込められ、人権も自由もない。

退屈でいて、非日常な私の"ゲーム"が始まった。


**

最初は気合い満々に思っていたけれど、3日も経つ頃には既に家に帰りたいという気持ちが増すばかりだった。


食事は薄味であり、嫌いな野菜を少しでも残していると怒られる。


「言うこと聞かないなら拘束して無理やり食べさせるからね~?」と看護師に脅され、渋々口に運んで無理やり水で流し込んでどうにかやり過ごしていた。


食事が終わると、基本的にはすぐに暇になる。

電子機器も持ち込めず、頼んでいた本は7日を過ぎた辺りにようやく届けられた。


精神科医の男とは、毎日顔を合わせている。

大体15分くらい、私のいる部屋に来て世間話や雑談をして他愛もなくやり過ごしていた。


2週間を過ぎたある日のこと。

昼食の後、いつものように医師と面談。


「いや~…これは伝えるべきかどうか…」


「…?どうしたんですか?先生?」


顎に手を置いて、私に何かを話すべきかと悩んでいる様子だった。そして、「信じられないかもしれないけど…」と前置きをした後、今この国で"クーデター"が起こっていることを告げられた。


私も最初は信じていなかった。

しかし、この男はあまりそういう冗談を言うようなタイプではないことは、私も充分理解しているつもりだった。


にわかには信じ難いけれど、「突然国会をジャックした仮面を付けた集団が現れ、総理大臣をくすぐりで暗殺して国を乗っ取った」という話だ。


そんなの、あるわけない。

私の理性はまだ信じてはいない。


「まぁともかく、私も新聞やニュースでちらっと見ただけだから…雫ちゃんは大丈夫!今は経過観察の状態も良いし、来週には出られるように手続きを進めておくから!」


「はぁ……はい……」


男が去った後、私は上の空になっていた。

さらっと語られた"くすぐり"という単語が脳に焼き付いて離れない。


心臓がバクバクと興奮して、久々に胸が高鳴っている感覚に指が震える。


もしも、さっきの話が本当なのだとしたら…

私が夢見ていたような社会が訪れようとしているのだろうか?どれだけ人をくすぐりで壊しても、許されるような社会…。


"愉しそうね?ねぇ?代わって?"

"私にあの男をくすぐらせてよ♪"

"あなただって、本当はくすぐり壊したいと思っているのでしょう?ね?だったら利害が一致していると思わないかしら?"


「___ぅるさい………」


両耳を手で塞ぎ、小さな声でポツリとそう呟いた。

ここに入院してから、音も気配もなく静かにしていたと思っていた、もう1人の私自信が妖しく耳元で誘惑を繰り返す。


あと少し。もう少しだけ我慢すれば…来週にはここから出られるのだ。


頭の中で"クスクス♡"と笑っているアイツの声を、なるべく聞こえないように。だんまりと無視を決め込んでいた。


**

一度"くすぐり"のことを意識し始めると、まるで禁断症状が出てしまったかのように手の震えが止まらない。


今すぐにでも誰かをくすぐりたい…

誰でもいい…そうだ、いっそのこと、あの先生をこの手でくすぐり堕としてしまおうか…♡


ハッ…と、その瞬間理性を取り戻して冷静になる。


しかし、必死に騙し騙しやっているつもりでも、看護師や先生から見れば明らかに私の様子がおかしいことはバレバレだった。


今日も、昼食の後に先生と15分くらい話をしたのだけれど…


「雫ちゃん、最近何か変わったと自覚していることはないかな?」


「……無いです。…何も…いつも通りです」


「…そう?それならいいんだけど…何かつらいことがあるなら、僕に話して欲しいな。いつでもいいから。ね?」


「はい…ありがとうございます…」


私は先生の目を見れなかった。

布団の中に逃げ込むように入り、震える右手を左手で押さえつける。


自制して我慢できるのも、時間の問題だと本当は心の中で理解していた。


そうして、夕食の時間。

看護師の女がいつものようにご飯の乗ったトレーを運びに部屋に入ってきた。


「雫ちゃん~?大丈夫~?体調悪いのかな?」


布団からゆっくりと上体を起こしてベッドに腰をかける。


「…ねぇ、お願いがあるの……」


「お願い…?どうしたの?」


私の顔を心配そうに覗き込んでくる女。

もうとっくに、私の理性は力を失って入れ替わっている。


「寂しくなっちゃって…だから…その…ぎゅーってしてもいいですか…?」


「あらあら♪可愛いね♪そうよね、まだ中学生だもんね?ほら、おいで♪よしよししてあげる♪」


まんまと私に騙されて、向こうからノコノコと警戒心を解いて私に優しくハグをして抱き付いて、背中をよしよしと撫でられる。


「私も__お返ししてあげる♡」


「えっ____ひゃっっっ!?あ゛っっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっあはっっや、やめなざぃぃっぁぁぁぁぁぁぁぁだ、だれかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっあははははははは!!!」


「あはっ♡この感触…♡やっぱり愉しい!!ほぉら、こちょこちょこちょこちょ~!!もっともっと笑い狂えよ、お姉さん♡」


ぎゅーっとホールドしながら薄い服越しに脇腹や腋の下、背中を容赦なくこちょこちょ~♪とくすぐった瞬間、脳内ではドバドバと幸福な感情とアドレナリンが溢れ出し、まるでクスリをやっているかのように恍惚とした表情で涎を垂らして指先で貪るようにくすぐり倒していく。


無理やりベッドに仰向けで押し倒し、マウントポジションを取って一方的にこちょこちょの刑。


中学生の私に成す術も無く、ただただ笑い狂うしかできないのはどんな気分なのだろう?


そんなことはどうでもいいんだけど、これまで我慢していたくすぐりたい衝動をこれでもかとぶつけていると__


「なにしてるの!!!」

「抑えて!!!」

「鎮静剤持ってきて!!」


勢いよく開けられた扉から、看護師が複数人慌てて入ってきて私を取り抑えようとする。


「やめろ!!!!はなせ!!!!!離せぇぇぇ!!!殺す!!!全員くすぐり殺してやる!!!!!」


力ずくでベッドから引き剥がされ、床にうつ伏せにされて体重をかけて腰や足に馬乗りされ、肩や手首を固定されてチクリと何かを射たれた感触があった。


「___っぁっ………くそっ………」


すぐに意識が遠くなり、深い眠りに堕ちてしまった。


____________________

次に目を覚ました時には、私は再び身体の自由を奪われていた。それも、初日よりも厳重に。


人をくすぐれないようにするためなのか、手にはミトンという手袋のような拘束具を填められている。


四肢も関節も厳重に抑制帯で固定され、身体を起き上がらせることはできない。


私は、力はそんなに強くはない。

非力な私がどれだけ抵抗したとしても、無駄に体力を消耗するだけだろうと直ぐに理性の判断に従うことにした。


せっかくここから出られると思っていたのに…


掴みかけていた自由を、皮肉にも自分の手で不意にしてしまったのだという後悔の念が押し寄せる。


「あーあ…私の人生もここまでかな…」


たった13年間。

短いような、充分すぎるほど長い人生に思えた。

まるで、死刑囚にでもなったかのような気分だ。


後ろ手に縛られ、目隠しをされて。

首に縄をかけられて死ぬ。


痛くて苦しそう。

どうせ死ぬのなら、私がしてきたように誰かにくすぐられて笑いながら死んでみたいな。


…そう言えば、私のこれまでの人生を振り返ってみても、今まで誰かにくすぐられて大笑いをした経験は無かったかもしれない。


ほんの少しだけ、興味がでてきた。

1%だけ、興味本位の生きる希望に胸が高鳴る。


そうして、そんなことを考えていたからなのか。

それとも、単なる偶然であり、必然なのか。


もう二度と開かないとすら思っていた鉄の扉がゆっくりと開かれる音が聞こえてきた。


最初は、どうせ看護師か先生が私の様子を見に来たのだろうと思っていたのだけど、今までに感じたことのないくらい、強いオーラのようなものを感じて自然と扉の方へと顔を向けてしまった。


『__調子はどうかな?雨宮雫__』


「………だ、誰……ですか…あなたは…」


『__君は私のことを知らないけれど、私は君のことを知っている。君も、心の奥底では私のことを求めていたのだろう?』


初めて、人に対して"神々しい"という感情を抱いた。

まるで"巫女"のような、どこかの皇族であるかのような厳かな白の衣裳を身に纏っている小柄な女性__?


その後ろに、ピシッとスーツを着こなしている背が高いSPのような女性が控えていた。


直感的に、私の目の前にいる人物が誰であるかを理解した。


「もしかして…あなたが………」


『__雫よ。ここから出してあげようか?』


「え………?」


『どうだろう?私と一緒に、私の造り上げる新たな世界で、君の力を存分に発揮したいと思わないか?__もし、君にその意志があるのであれば私は君が抱いている闇を照らす太陽となろう。もちろん__無理にとは言わないよ。君がこのまま閉鎖的な環境で自由もなく、一生絶望の中で生きながらえたいというのなら、私はそれでも構わない。さて、君はどちらを選ぶ?』


不思議と、心の中まですーっと響くような、慈愛に満ちた優しく、凛々しく、力強い意志のある声だった。


「わ…私は……」


ドク…ドク…!と心臓の鼓動が大きくなる音が聞こえる。

最悪のタイミングで、隠れていた"私"が露になる。


「あははっ!!出たい!!ここから出たい!!もっと…もっともっと沢山の人をくすぐりたい…この手で…自由になりたい!!…そうだ…まずは"あなた"をくすぐらせてよ…私がぐちゃぐちゃに笑い狂わせてあげるから…♡」


「…貴様!"総理"に向かって何を…口を慎め!!」


SPらしき女が私に詰め寄ろうとするが…


『よい、美咲__下がっていろ。』


「し、しかし…!」


『聞こえなかったのか?同じ言葉を言わせるなよ』


深海よりも冷たく、重たい声に部屋の空気が凍り付く。

一瞬、私も正気に戻されてしまうほどに……


「…失礼いたしました…」


『__雫。私と賭けをしようか。』


「か…賭け………?」


『今から私が直々に"くすぐり"を与えてやろう。15秒、意識を保つことができれば先程の望みを叶えてあげよう。私を思う存分くすぐってもいいぞ__?』


両手を広げながら優しく微笑んではいるけれど、目の奥は笑っていないように見え、恐怖でガタガタと身体が震えてしまう。


もうとっくに、私の"人格"は元に戻ってしまい、強気な態度を取っていた姿はどこにもない。


"総理"と呼ばれる女は、ベッドに腰をかけてゆっくりと上に乗り始める。そして、太ももの上辺りに馬乗りされる。


「ひっ…ご、ごめんなさい…ごめんなさい……」


『__では始めようか。ほんの少し、"くすぐり処刑"というものをその身に教えてやろう。ほぉら、こちょこちょこちょ~♪』


「ひっ____っあ゛っっっっがっ____やめっ_______がはっ_______ぁぁぁっ______」


…何が起きているのか理解できず、身体も心もパニックになってしまう。それは、これまで経験したことのないような、人智を越えた"くすぐったさ"だった。


まるで肺や心臓を直接掴まれてくすぐられているかのような感覚。息を吸うことができず、吐くことも許されない。


一瞬にして脳が酸欠になり、目からだらだらと涙が流れて半ば白眼を剥きかける…


『どうだ?くすぐりで"死"を実感させられる気分は?』


「がはっ____ぁぁぁっ___や……やめっっ_________ぁぁっ____…たくない………じに…だくな…………」


『__10秒で気を失ってしまったか。仕方のない子だ。ほら、起きなさい。』


「__がはっ!?げほっ、ごほっ、がはっ…っはぁっ、はぁっ……ひっ……」


…恐らく、脇腹か腋にあるツボを強くくすぐられたのだと思う。その衝撃で、強制的に意識を覚醒させられて咳き込むようにして酸素を貪り喰う。


身体は初めての恐怖で震え、恥ずかしいことに失禁してしまうほどの常軌を逸したくすぐったい体験に、今まで思い上がっていたような自分が急に恥ずかしく感じる。


つまり、上には上が…雲の上に"神"がいることを思い知らされた瞬間だった。


"総理"は私の身体の上から降りて、軽くぽんぽん、と頭を撫でてくれた。


『__雫。今一度聞こう。私の下で働き、命を尽くす意志はあるか?』


「……ぁっ、あります…!」


『__いいだろう。後日、私の官邸で詳しい話をしようか。では__美咲、後は頼んだよ。』


「御意に…君に私の名刺を渡しておく。ここから出たら必ず私に連絡をしなさい。分かったね?」


「は、はい!!」


"総理"と呼ばれる女性と、"美咲"と名乗る人は部屋から去って行った。そして、その後すぐに看護師達と先生が来て、ペコペコと私に頭を下げて慌てて抑制帯を外し始めていた。


___________________

どうして"総理"は私のところへ来たのだろうか。

精神病棟での邂逅のあと、しばらくずっと思案していた。


もしかしたら二度と外には出れないと思っていたけれど、事務的な手続き等が終わったらしく、私は病人服から私服へと着替えて部屋を後にした。


先生とも挨拶を交わす。

「本当は、個人的にはもっと慎重に治療を進めるべきだと思うんだけどね…でも、雫ちゃんが決めたことだから…僕も応援するよ。頑張ってね。」


「ありがとうございます…お世話になりました。それと…ご迷惑をかけてすみませんでした…」


ペコリ、と頭を下げて謝る私に、先生はかなり驚いているような雰囲気が伝わってきた。


病院の入口で、父が待っていた。


「雫…ごめんな…」


「謝らないでよ、お父さん。私の方こそ、ごめんなさい…」


今までの自分からは考えられないような言葉が自分の口から発せられたことに、自分でも少し驚いてしまう。


約3週間ぶりに家に帰ると、母がご飯を作っているところだった。


「おかえりなさい、雫」


「うん。ただいま。」


母とは少しまだよそよそしく、どことなく壁を感じたままだった。本当に、久しぶりに親子3人で食卓を囲み、温かいお風呂に入って自分の部屋に帰ってきた。


ポスン、と。いつかの時みたいにベッドに倒れ込む。


長い夢を見ていたような、不思議な感覚だ…。


目を閉じて眠りかける寸前。

私は病室で名刺を貰ったことを思い出した。


「そうだ……連絡、しないと…」


名刺はズボンのポケットに入れていたことを思い出し、慌てて洗濯前の籠から救出してホッと胸をなで下ろす。


「…美咲……」


苗字は書かれておらず、下の名前だけ記載されている。

どうやら政府の高官という立場の人らしい。


裏面にはメールアドレスと電話番号が書かれている。


夜も19時を回っており、電話ではなくメールを送ってみることにした。


部屋に戻り、久々に起動するパソコンからメールボックスを開いてみると……


「あれ………何で……」


もう既に、1通のメールが私の元に送られていた。

"美咲"という署名があり、内容は明日の朝8時に家まで迎えに行く…というものだった。


ドキドキしながらも、私は承知した旨の返信を送ったのだった。


「…どうして…私のアドレスを知っているの……」


どうやって調べたのだろう…?

プライベートなアドレスで、普段あまり使っていないものなのに…どうして……?


背筋がゾッと凍るような思いと共に、もしかすると…私は"彼女達"に、ずっと前から監視されたいたのではないかという疑念が沸き起こる…


「いや…考えすがかな……」


きっと私も疲れているのだろう。

パソコンの画面を切って、早々に布団に入って眠りにつくことにした。


**

翌日は5時過ぎに目が覚めた。

昨日早く寝たおかげなのか、久しぶりの実家のベッドで眠れる安心感からか病室とは比べ物にならないほどぐっすりとよく眠れ、身体に元気が満ち溢れているような気分だった。


今日は8時に迎えが来るのだという…

何を着ていけばいいのだろうか。

もちろん、スーツなんて持っていないし…

しばし悩んだ結果、やっぱり中学校の制服を着て行くのが良いと思った。


「おはよう、雫」


「おはよう、ママ」


母は私に朝ごはんを作ってくれた。

こんがりと焼かれたトーストに、目玉焼き、サラダ。ヨーグルト。オレンジジュース…


「…美味しい…!」


「ふふっ♪よかった…」


病室で食べていた味の無い献立とは全然違う。

バターを塗った食パンでさえ、ご馳走のように思えた。


朝ごはんを食べ終えて身支度を整え、ドキドキとしながら車が来るのを待つ。


そして、時計の針がピッタリと8時を指したと同時に「ピンポーン…」と家のチャイムが鳴る音がした。


覚悟を決めて、軽く深呼吸をして玄関に向かう。


靴を履いてドアを開けてみると、美咲さんが立っていた。


「おはよう。準備はできているね?」


「は、はいっ!」


「よろしい。では行こうか。着いてきなさい。」


美咲さんは余計なことは言わず、背を向けて家の前に停めている黒塗りの高級車へと歩いていく。


後部座席のドアを開けて待っていてくれていた。


「乗りなさい。」


「し、失礼します…」


今思えば、私は珍しくガチガチに固まって緊張していたと思う。運転席に座っているのも、スーツを着こなした女性の人だった。


美咲さんは後部座席の右側に乗り込み、静かに車は走り出す。


「…………」


「…………」


車内の中には沈黙が流れ、余計に緊張して手汗を握る。

そんな私の様子を見て、意外にも美咲さんは優しく話しかけてくれた。


「ふふっ♪私の前ではそんなに緊張しなくても大丈夫だよ。これから"総理"と面会をするわけだが…あのお方も、心の中では君のことを心配して、大事に思っているんだよ。」


「えっ……!?」


「…まぁ、もしかしたら多少キツい言葉を掛けられるかもしれないけれど、本音では無いだろうから安心しなさい。」


「は、はいっ…!」


思わずドキッとして、嬉しいような、不思議な感情になる。しかし、どうして"総理"はそこまで私のことを気に掛けてくれているのだろう…?


答えてくれるかは分からないけれど、後で直接聞いてみようと思っていた。


**

車は首相官邸に入り、ゆっくりと停止する。


「ついてきなさい。あまりキョロキョロと見るな。」


「ご、ごめんなさい…」


今までテレビや新聞でしか見たことの無かった建物の中に、私が実際に入っていくというのは興奮の気持ちを抑えられなかった。


美咲さんの後に続いて、荘厳な廊下を歩いていく。

後から知った話、ここは旧首相官邸と呼ばれる場所のようだった。


階段をのぼり、執務室の前で立ち止まると__


『__入れ。』


と、静かに響くような声が聞こえて身が引き締まる。


「失礼します。"総理"、雨宮雫をお連れしました。」


『あぁ__雫。よく来たね。こちらに来なさい。』


「は…はいっ…!」


改めて対峙してみると、とてつもないオーラを感じるように思えた。病室で先生から聞いた、"クーデター"という不吉な噂も、きっと本当なのだろうという確信をしてしまうほどに。


『さて__君は私との約束を覚えているか?』


「わ…私は…"総理"の下で働く覚悟はできています…!」


背筋からだらだらと冷や汗が垂れ落ちる。

心臓の音がバクバクと聞こえる。

思わず息を止めてしまうほど、緊張感がある。


『__いいだろう。では、その覚悟を行動で示してみよ。詳しい話は美咲から聞きなさい。もし…私の期待を裏切るような真似をすれば__私は容赦しないからな』


「ひっ………!」


静かに、重く、殺意のある鋭利な声が耳奥に響く。

それは単なる脅しではなく、"本当に"実行するという力強い意志さえ感じるものだった。


私は"総理"の目を見れず、ガタガタと膝が震えて今にも崩れ落ちそうだ……


息ができない……!


ポン、と背後から優しく肩に手を置かれた。


「詳細については私から説明いたします。雨宮雫、こちらに。」


「は…はぃ…し、失礼しました…!!」


美咲さんに手を握られて執務室を後にする。

廊下に出た瞬間、私は力が抜けてへなへなと崩れ落ちて床に手をついてしまった。


「っはぁっ、はぁっ、はぁっ、げほっ、ごほっ……」


「大丈夫か?立てるか?_誰か、水を持ってきて。」


「は、はい……すみません、ありがとうございます…」


美咲さんの手を借りて立ち上がり、小さな応接室へと入り、ソファーに腰をかけるようにと促される。


「飲みなさい。」


「ありがとうございます…」


冷たいペットボトルの水を受け取り、2,3口飲んで喉を潤す。


「少しは落ち着いたかな?」


「はい…もう大丈夫です」


「よろしい。では、手短に本題を伝えるとしようか。」


改めてシャキッと背筋を伸ばし、美咲さんの話に集中する。


「雨宮雫。君は学校に通いなさい。」


「……えっ……?」


「言っている意味を理解できないのか?そのままの意味だ。中学校に卒業するまで通い、卒業式が終わったら卒業証書を持ってこの場所に来なさい。…これが、"総理"から君に伝えるように言われた本題だ。」


私は、何だかいい意味で拍子抜けしたような気分だった。

学校に通って…卒業証書を持ってくる…?


「そ、それだけ……ですか?」


「そうだ。普通に学校生活を送ってくれればいいが…もし、また学校で問題を起こしたり、学業を疎かにすれば話は別だ。"総理"からの期待を裏切ったとなれば…私も君を庇うことは難しいだろう。良くて投獄。悪くて"処刑"も覚悟しておきなさい。」


「わ…わかり…ました……」


これは、私に与えられた"試験"なのだと、最初に聞いた時は思っていた。もちろん、ただ学校に通っているだけでは評価されないということも…


「これは私からのアドバイスであり、忠告だが…我々はいつでも"君"を監視している。卒業まで気を抜くなよ。それに、ご両親に感謝をして生活しなさい。分かったね?」


「分かりました、美咲さん。ありがとうございます。」


こうして、翌日から再び中学校での生活が始まった。


____________________

ほんの少しだけ、再び教室に入るのは葛藤と、罪悪感があった。だけど、ここで逃げてはいけないと、自分を奮起させる。


「お、おはよう…!」


明るく挨拶をして教室に入ると、意外にも何人かの女子は私に好意的に接してくれた。


そして、少しだけ時間はかかってしまったけれど、昔私がくすぐって気絶させてしまった女子達にも頭を下げ、卒業する頃には大の親友と言えるほどになっていった。


私は、常に自分の行動を"見られている"と思いながら学校でも家の中でも気を引き締めていた。


きっとそれは、冗談ではなく実際のところ本当なのだと思う。先生は私の学業を心配していたけれど、家で自習をしてすぐに追い付いてしまった。


学校の筆記試験は全て100点を取り、成績も体育以外は全て"5"を取った。


私が中学2年生になった辺りから、学校教育の様子も少しずつ変化していった。


"政府"による指導により、女の子が男の子をくすぐりで躾をする時間が設けられた。


私も、隣の席の男子を何度かくすぐったけれど、気絶させないように必死に手加減をするのに大分苦労していた。


部活動には入らなかったけれど、私は生徒会に立候補して入ることにした。


2年生では副会長を務め、3年生になると生徒会長として、私なりに精一杯学校を良くしようと頑張ってきた。


不登校だった私が、中学の卒業式では卒業生代表として最後のスピーチを贈る。

目の前には下級生や観覧の保護者、来賓席には、"美咲"さんの姿が見えたような気がした。


堂々と、胸を張って。

"総理"の下で働くために。


__3年間通った中学校。

校門の前で、父と母が涙ながらに待っていた。


「しずくっ…卒業…おめでとう…私…今まで…ごめんなさい…」


「ううん、私の方こそ…ぐすっ…ごめんね…ううん、ありがとう、ママ!!」


私は、ようやく母と、本当の意味で和解したような気がした。泣きじゃくる母子を、父はそっと、優しく見守っていたのだった____


**

卒業生の後、私一人。

タクシーに乗り込み、旧首相官邸へと向かう。


運転手には何度か行き先を聞き直されたけれど、「お願いします。」と強く伝えて車は動き出す。


私は、"総理"との約束を果たしに行くのだ。

もう昔の自分とは違う。

あの時は、足下にすら立てていない子供だったと自分でも思うけれど、多少は成長したと…認めてくれるのだろうか。


タクシーは目的地に到着して、旧首相官邸の入口に行くと…


「久しぶりだね。雨宮。卒業おめでとう。」


「ありがとうございます、美咲さん。…今日、卒業式まで来ていただいて…」


「さて、何のことだろうな。ほら、来なさい。"総理"が君を待っている。」


美咲さんは、まるで何事も無かったかのように私に背を向けて歩き始める。


約2年と少しぶりに歩く柔らかい絨毯の感触。

重厚な気配。全てに懐かしさすら覚えてしまう。


そうして、執務室の前に立った時。


『__入りなさい、雫。』


「失礼します!!」


部屋の中から"総理"の凛とした声が聞こえ、私も力強く返事をして扉をくぐる。


今度はもう逃げない。

真っ直ぐに"総理"の目を見つめながら歩いていく。


私は、手に持っていた卒業証書の入った筒の封を開け、総理の目の前に差し出す。


「約束通り、中学校の卒業証書を持ってきました。」


"総理"はチラリと卒業証書に目を通すと、再び私の目を真っ直ぐに見つめ直す。


『__よく頑張ったね、雫。』


「あ…ありがとう…ございます…!」


優しく、慈愛に満ちたような女神様の声。

その言葉をかけられた瞬間、私の目から涙の雫がこぼれ落ちていった。


"総理"は、椅子から立ち上がって私の傍まで寄ってきてくださった。


『_良い子だ。褒美をやろう。私の加護を分けてやる。』


「ぅぅっ…ぐすっ…あ、ありがとう…ございます…!」


よしよしと、優しく頭を撫でられていく。

私が泣き止むまで、"総理"は私の近くであやしてくれていた。


「も、もう大丈夫です…ありがとうございます…!」


改めて"総理"に向き合うと、今度は真剣な表情をしていた。


『__今一度聞こうか。雫、私のために死ぬ覚悟はあるか?』


そう聞かれる前から、既に私の心は決まっている。


「…"総理"の仰せのままに……」


恭しくも、総理の足下に跪いて答える。


『いいだろう。雨宮雫__君を"くすぐり執行官"に任命しよう。尤も__3年程度は見習いをしてもらう。精一杯、公務に励むように。分かったね?』


「はいっ……!!」


こうして、中学を卒業すると同時に、

私の"くすぐり執行官"としての第一歩が始まった


epilogue


旧首相官邸の執務室。

制服姿の雨宮雫が部屋から去った後、"総理"と呼ばれる女は愉しそうに、嬉しそうに笑みを浮かべていた。


『ふふっ__いい娘だ。本当によく頑張って成長したとは思わないか?美咲よ。』


「はい…仰る通りでございます。"総理"…」


政府高官であり、側近として活躍する美咲もまた、雨宮雫に対して親心のように、成長した姿をずっと見守っていた。


なぜ、"総理"と美咲は雨宮雫に対して中学校生活を最後まで送らせたのか。


それは、彼女の成長を促す目的の他__

彼女の両親からの"願い"であるからだった。


雨宮雫が精神病棟に入院して数日後__

美咲は彼女の家を訪れていた。


"総理"直々の命であり、雫の力が必要だという美咲の要望に対して、真っ先に意を唱えたのは母親であった。


「どうか…あの子に、せめて普通の、中学校生活を送らせてあげてほしい。」


母親はそう言って、美咲の前で土下座をしていた。

美咲の立場からすれば、"反逆罪"で今すぐにでもこの母親を逮捕することは容易であった。


しかし、「一度、検討してみます。」と。

子を想う姿の前で、美咲は柔軟な態度を示したのであった。


『__雨宮雫。私がもう少し早くにこの国を統治していれば、その才能を早く有用に世間に示せていたのかもしれないな。__美咲。』


「はい、"総理"…」


『この国を根本から造り直す。そのためには教育改革が必要だ。くすぐりの"天才"を、これ以上潰させはしない。国家資格の制定、世論やマスコミの操作。__政治家連中は引き続き私が対処しよう。美咲、これからもっと忙しくなるが…私に身を捧げる覚悟はできているな?』


美咲もまた、真っ直ぐに、真剣な表情で視線を返す。

そうして、つい先程の雨宮雫と同じ姿勢で忠義を示す。


「はい。"総理"の、仰せのままに__」


_____________________

【続きのお話】雨宮雫の一年目


総理との面会が終わり、私は4月から「くすぐり執行官」の見習いという立場になることが正式に決まった。


美咲さんによると、どうやら今現在暫定的に3名の"くすぐり執行官"が総理から認められているようで、最初の1年はNo.3__上から3番目の桐山玲光(れみ)さんという人が私の教育係となるらしい。


一体どんな人なのか、美咲さんに「当日のお楽しみ」と言われて教えてもらえなかった。


ネットで調べたりしてみたものの、当然見つかる筈はない。

束の間の春休みは、自由に過ごしてもいいと言われたけれど、ただし問題行動を起こしたりすれば……


それと、美咲さんから規則正しい生活と運動をしなさいと課題を出された。体力を付けておかないと、4月から泣く羽目になるとも脅しを受けた。


その言葉にほんの少し不安と恐怖を感じたけれど、もう私は立派な「くすぐり執行官」になると決めたのだ。


少しでも体力を付けようと、春休みは毎日朝からランニングをして、できるだけ健康的な生活を心掛けていた。


そうして迎えた3月末。

明日は8:30に家まで迎えの車が来るという。


服装は普段の格好でいいと言われた。

いよいよ明日から新しい生活が始まる。


いつもより早くベッドに入ったけれど、眠りに堕ちたのは結局日付を越えた頃だった。


**

ピピピピピピ、ピピピピピ…


「う~……ん、起きなきゃ…」


セットしていた目覚まし時計のアラームで目を覚ます。

朝の7時。まだ少し眠たい目を擦りながら、顔を洗いに洗面所へと向かう。


冷たい水の感触と同時に、いよいよ今日から「くすぐり執行官」という仕事への第一歩が始まる。


朝ごはんを食べている時。

私服に着替える時。

歯磨きをしている時も、緊張でどこか上の空だった。


そうして、時刻はあっという間に8:30。


「それじゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい雫!頑張ってね」


母に玄関まで見送られて扉を開ける。

家の前に黒い車が停まっているのが見えた。


「おはようございます。雨宮雫さんですね?お迎えに上がりました、三谷(みたに)と申します。以後お見知りおきを。」


「よ、よろしくお願いします!」


スーツをキチンと着こなした女性に名刺を差し出される。

車の後部座席に乗り、聞くところによると私の送り迎えを担当してくれる"秘書"のような人…だという。


まだ本来であれば高校1年生の年齢である私が、車で通勤なんてしてもいいのだろうか…


私自身はそう思っていたが、もし万が一電車で移動して事件や事故に巻き込まれ、私の身に危険が起これば政府にとって重大な損失であると、"総理"はお考えであるようだった。


"くすぐり執行官"が勤務する場所は、今のところ霞ヶ関にある省庁の一部を間借りしているらしい。


ただ、今後3年以内には新設か、移転のどちらかを計画しているという。


車はとある建物の前へと停まる。

赤レンガの外観で、旧法務省の本館だという。


三谷さんに中へと案内されて、趣のある通路を歩いていく。

3階まで階段で上がり、中央まで歩いて扉の前で立ち止まる。


「この中にお入りください。では、私はこれで失礼いたします。」


「あっ、えっ!?」


三谷さんは私に一礼をして背を向けて去ってしまった。ぽつん、と一人取り残された私は、ふぅ…と一度深呼吸。


よし…!と覚悟を決めて、ノックをする。


「失礼します!!」


「お~!よく来たね~新入り~!待ってたよ~♪君が雫ちゃんだよね?さぁさぁ、入って入って~♪」


「え、あ、ええっ!?」


私がドアノブに手をかけた瞬間、ずっと待っていたかのように内側から開いていきなりぎゅ~♪とハグされて中へと入れられる。


背が低い私の顔の前に、丁度おっぱいが当たって苦しい…

力ずくで引き離そうかと思っていると、後頭部に手をまわされて余計にぐっと抱き寄せられて…


「ほぉれ、こちょこちょこちょこちょ~♪」


「んんっっ!?んんぁぁぁぁっっんんっっーーー!!?」


首の後ろを軽くこしょこしょとくすぐられた瞬間、あまりのくすぐったさに衝撃を受けてしまう。


それは、相手を無力化するような、全身の力が抜けて拘束されていなくても抵抗できなくなるようなくすぐったさであり、一瞬にして技術やレベル、"格"が違うのだと身体に理解させられた。


「っぷはぁっ、はぁっ、っぁぁっ、な、なにするんですかぁ……」


「ふふ~♪可愛いな~♪"映像"越しに見るより実物の方が可愛い顔してるよ。くすぐられた時の反応も、子供っぽくて初々しい!あ~そうそう!こういう女の子がうちに欲しかったんだよね~♪あ、ごめんごめん!私は桐山玲光!帰国子女だからさ、レミって呼んでくれていいよ~♪」


軽いおっぱい窒息こちょこちょから解放されて、へなへなと床に崩れ落ちてしまった私に視線を合わせてよしよしと頭を撫でてきた。


金髪でショートカット。

白のTシャツにジーパンというラフな格好。


レミ…と聞いて、美咲さんが言っていた名前と一致することに遅れて気が付いた。


「あっ…えっ!?もしかして…くすぐり執行官の…!」


「お~そうそう!三谷か…美咲さんからちょっとは聞いてたのかな?私がくすぐり執行官のNo.3!そして、雫ちゃんの教育係…らしい!人に教えるのとかあんまり慣れてないけど、あんまり堅苦しく構えなくて大丈夫♪…私の前では、だけどね~」


あまりに予想外の対応に、さっきまでガチガチに緊張していたけれどすっかり気が抜けてしまった。


玲光さん…この人が私の教育係…

少し変わっているようなところもあるけれど、優しそうで気さくな人で良かったと安心した気持ちになっていると__


「へぇ~。最近のガキは床に座ってくつろぐのか。躾がなってないようだな。親の顔が見てみたい。…おい玲光。誰?この子は?」


背後から音もなく、いつの間にか"そこ"に誰か立っている。

とてつもない殺気と威圧感に、第六感が"逃げろ"と警告を出しているが、ガタガタと身体が震えて冷や汗が止まらない。


玲光さんは、そんな私を軽く抱きしめ、耳元で「大丈夫だから私に任せて♪」と囁いてくれた。


「いや~灯凛さんは容赦ないな~♪ほら、今日から入るっていう新人の雫ちゃんですよ!ほら~、めちゃくちゃビビって怖がっちゃったじゃないですか~♪雫ちゃん、立てる?」


「え…あ、はい…すみません…!」


玲光さんの手を借りて、恐る恐る立ち上がってゆっくりと後ろを向く。生まれたての小鹿のように脚がプルプルと震えて止まらない。


入口付近に立っていたのは、180cm近くありそうな女性だった。髪はウルフカットで、毛先や前髪の一部を赤色に染めている。パンツスーツ姿で、ただならぬ雰囲気に顔を直視することができず、私は既に半泣きだった。


「チッ。うざってーな。挨拶もロクにできない新入りなんて本当に使えるのかよ。今すぐ私が"処分"してやろうか?」


「ご、ごめんなさい…雨宮雫です…!よろしくお願いします…!」


さっきまでの楽しそうな雰囲気とは一転。

今すぐにでもここから帰りたい気分に襲われていく。


「おい、クソガキ。舐めてんのか?そもそも何だその格好は?"遊び"に来たんなら今すぐ帰れ。帰らねぇって言うんなら……私がこの手で"処刑"してやるよ」


「ひっ………!!」


あまりの恐怖とオーラにガタガタと脚の震えが止まらない。背後から玲光さんに支えられていなければ、へなへなと床に崩れ落ちていたであろう。


ゆっくりと、獲物を追い詰めるように。

指をワキワキされながら迫られる。


あっ…私の人生ここで終わりかもしれない…


そう諦めて目を閉じかけたとき__


『__灯凛。何をしている。』


入口から、またしても静かに、迫力のある声。

灯凛と呼ばれた女性も、一瞬背筋を仰け反らせて顔には焦りと恐怖の色が見えた。しかし、すぐにパッと表情が戻る。


「あ、あぁ~椿さん。いやいや、これはその…新人が来ていたので挨拶をしていただけで…」


「そうか。私には新人をいじめているようにしか見えなかったが?それに__貴様に"処刑"の許可を出した覚えもない。後で私の部屋まで来なさい。」


「ひっ……か、勘弁してくださいよ……す、すみませんでした。」


「分かればいい__さて、君が雨宮くんだね?私は一椿(にのまえつばき)。"くすぐり執行官"という組織の代表を務めさせていただいている。よろしくね。」


「よ…よろしくお願いします……!」


ほんの一瞬。一瞬だけ、"総理"と同じ気配がした気がする。

椿さんは高そうなスーツに身を纏い、綺麗な黒髪でいかにも仕事ができそうな感じがして格好いいというのが第一印象だった。それに、何だか凄く良い匂いがした。


「さて__軽く会議を始めようか。皆、席につきなさい。」


椿さんはテーブルの一番前に。

左端に灯凛さん、玲光さん、そして私が横並びに座っている。


シーンと、荘厳な静寂が一瞬の間流れる。

ピリッと気が引き締まる。


「まず最初に、本日より我々に新しい仲間が加わる。"総理"自らくすぐりの才を見初められた雨宮くんだ。立って軽く自己紹介をお願いできるかな。」


「は、はいっ!」


ガタッと慌てて立ち上がり、一斉に私の方へと視線が向けられる。


「雨宮雫と言います!今年で15歳になります!よろしくお願いします!」


ペコリと頭を下げ、そのままの勢いで席に座ってしまう。


「椿さん、いいですか。」


「灯凛__どうかした?」


灯凛さんが挙手をして椿さんに向き直る。


「本当に…こんなガキ_いや、子供が"総理"から認められて、我々くすぐり執行官の仕事ができるんですかね?」


「それは雨宮くんの成長次第だと、"総理"もお考えであるようだ。今すぐに"くすぐり執行官"となるわけではない。正確には、この3年間は見習いという位置付けで我々の下についてもらう。最初の1年は玲光。来年は灯凛が彼女の面倒を見なさい。そして、3年目は私が彼女に指導する手筈となっている。いいかな__雨宮くん。」


「は、はいっ…!!」


椿さんの視線が私に移り、ピシッと背筋が伸びる。


「"才能"に甘んじるな。精進を続けなさい。__この3年の間に、君の存在意義を示せ。もし使えないとなれば__"私"が君を処分する。…以上が"総理"から君に賜ったお言葉だ。期待しているよ、雨宮。」


「総理が…が、頑張ります!!」


総理に認められたい。

あの時、病棟で私に手を差し伸べてくれた総理に、少しでも恩返しをしたい。


改めて初心を胸に刻み込むような気持ちだった。


「__では、会議は以上だ。玲光、やり方は任せる。後は頼んだぞ。」


「はーい♪お任せください」


会議も終わると、椿さんと灯凛さんが先に部屋を後にする。


パタン、と扉が閉められた後…


「ふぁ~…疲れたぁ~!!あの2人おっかねぇ~…しずくっちもよく頑張ったぞ~えらいえらいよちよちよち♪」


「ひゃっっ!?れ、玲光さんやめてぇ~…!」


2人きりになった瞬間、玲光さんは私に抱き付いてよしよしと頭を撫でたり、ほっぺたをぷにぷに弄ばれてしまう。


緊張の糸が切れて、私もどこかほっとしたような気持ちだった。


「さてさて~、じゃあ改めて今年1年間よろしく!まぁ私が最初の教育係で良かったと思うよ、ほんと。私なんて去年…灯凛さんに死ぬほどスパルタ教育されてマジで死ぬかと思ったよ…うん…。」


「そ、そうなんですね…」


椿さんの話だと、来年私も灯凛さんの下で指導を受けることになる……そう考えると、少し不安と憂鬱な気持ちが芽生え始めてくる。


「まぁ、最初に言ったように、私に対しては別に敬語も入らないし緊張しなくていいよ!私もネトゲよくやるからプライベートでも遠慮なく遊びに誘ってくれていいし!」


……あれ…?

どうして玲光さんは私がネトゲをしていると知っているのだろうか…??


「とはいえ、上2人に対してはキチンとした態度を取って欲しい。何故ならしずくちゃん自身も、教育係である私もくすぐり殺されるかもしれないから……だから本当、マジで私もあまり気が乗らないんだけどさ__」


「えっ………!?」


ふわりと私の身体が一瞬宙を舞った。

何が起きたのか理解する前に、優しく床に仰向けに叩き付けられ、手早く着ていたパーカーとシャツを脱がされて両手万歳で腕の上に乗られてしっかりと押さえつけられる。


「あれ??ブラ付けてないの!?おっぱい小さいからってダメだよ?私みたいな先輩にいきなり襲われるかもしれないからさ♪」


「…っなっ!?し、失礼ですよ!!い、いきなり何するんですか!は、離せぇっ!!!」


「いくらでも暴れていいよ?この部屋も防音だから、好きなだけ笑い狂って構わない。いい?しずくちゃん。くすぐり執行官という組織において上下関係は"絶対"。私も正直こんなことしたくないけど、心を鬼にして最初の3ヶ月くらいは毎日徹底的にこちょこちょして教育してあげる。大丈夫大丈夫♪死なない程度には手加減してあげるから♪」


「ひっ……!?や、やめてっ…い、いやっ…!!」


玲光さんに顔を覗き込まれ、目の前で指をワキワキと見せつけられる。


まさか急にくすぐられるなんて思ってもおらず、ガタガタと身体が震えてしまう。


だけど、ほんの少しだけたかをくくっていた。

玲光さんは優しそうな人だし、私もくすぐりにはそれほど弱くはないだろう…そう自分でも思っていたのだけど…


「へぇ…私のくすぐりが"余裕"ねぇ。舐められるのは嫌いなんだよね~。取り敢えず、過呼吸なるまでくすぐりの刑いっとくか!ほら、お仕置きのこちょこちょこちょこちょ~♪」


「ち、違いまっ__っぁ゛っっぁぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははははは!!!!!あはっっっ!?ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははははははは!!!!いひゃぁぁぁぁぁぁや、やめてぇぇぇっっぁぁぁぁぁっっ!!!!」


玲光さんのくすぐりを正直舐めていたのかもしれない。

実際にこちょこちょと腋の下をくすぐられた瞬間、その甘い考えは粉々に砕け散り、自分がまだ無力な子供に過ぎないことを思い知らされてしまう。


まるで大人が小さな子供を躾するように、こちょこちょでお仕置きをされて微かに残っていたかもしれないプライドまでズタズタにされていく。


「あれ?もう余裕無くなっちゃった?しずくちゃんこちょこちょよわよわだね~♪ほぉら、ごめんなさいは?」


「あはっっっ!?ぎゃぁぁっわ、わたし悪いことじてなっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっい゛っっひゃっんぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁれ、玲光さんっっぁぁぁぁぁっそごだめっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぅあはっっぁぁぁぁぁぁっや、やめてぇぇぇぇっぁぁぁぁぁっっ!!!!」


「はい、先輩に口答えしない!マジで、灯凛さんだったら本当にしずくちゃん終わってるよ?」


片手で腋の下を。もう片方の手でおっぱいの周りをこしょこしょとくすぐられたり、左右の胸をそれぞれ5本の指でねちねちと触らてゾクゾクとした快感とくすぐったさに顔を真っ赤にして笑い悶えてしまう。


胸横をいやらしくねちねちとこしょぐられ、時折乳首の先を指の腹でコリコリと責められ、思わず「ぁぁんっっぁぁっ♡」と恥ずかしい声が口から漏れてクスクス玲光さんに笑われてしまう。


足をどんなにバタつかせても、身体を捻ったりしてみても両腕をしっかりとロックされて逃げられない。


一切反撃することは許されず、心が折れて言うとおりにごめんなさいをしてしまう。


「ぁぁぁっごめんなざぃぃぃっぁぁぁぁぁっあはっっぁぁぁぁごめんなざぃぃっゆるしてぇぇぇぇっぁぁぁっあははははははははははいひゃぁぁもうやめてぇぇぇっっ!!」


「ごめんなさい~?何がごめんなさいなのかなぁ?おっぱい小さくてごめんなさい?先輩の言うこと素直に聞けなくてごめんなさい??何に対して謝ってるの?」


「ぁ゛ぁぁぁっあはっっせ、先輩の言うこと聞けなくてごめんなざぃぃぃっぁぁぁぁぁっも、もうゆるしてぇぇぇっぁぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははは!!!」


「ん~、そんなに笑いながら謝るなんて反省してないでしょ?悪いけど、きっちり躾しておかないと来年私が灯凛さんからお仕置きされるから…もうちょっとだけこちょこちょしてあげるよ♪」


その言葉を聞いた瞬間、絶望で目の前が真っ白になってしまうような感覚だった。


あまりのくすぐったさに、今すぐにでも手を止めて欲しいのに。必死に泣いて笑い狂いながらごめんなさいをしても、玲光さんは容赦なく腋や首筋をこちょこちょしたかと思えば、脇腹のくすぐったいツボ責めをされて過呼吸になるほど強制的に笑わされてしまう。


顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになり、上半身は汗だくで本当に死ぬかと思うくらいのくすぐりを浴びせられる。


これまで人を散々くすぐってきたけれど、自分が死ぬほどこちょこちょされるのは"総理"にされた時を含めて今回で2回目だ。


「あはっ___ぁぁぁっあはっ___ぁぁっ……」


「おっと~、危ない危ない。まぁ初日だし、この辺で勘弁しといてあげるか!よく頑張ったね~しずくちゃん♪」


あとほんの少しで意識を失うといったタイミングで手を止められ、どうやらようやく"お仕置き"という名の指導が終わったことを知る。


「タオルと水持ってきてあげるから、ちょっと待ってな♪」と、玲光さんは息絶え絶えになっている私を部屋に残してどこかに去ってしまった。


「っはぁっ、はぁっ…死ぬかと思った………」


玲光さんのくすぐりでさえ耐えられないのに、もしも灯凛さんや椿さんにくすぐられたら……考えるだけでも恐ろしくなってくる。


「お待たせ~♪しずくちゃん生きてる~?立てる~?」


「…っあ、ありがとう…ございます……」


「あぁ~いいっていいって!」


玲光さんからタオルを受け取り、ぐしゃぐしゃになった顔や身体を拭いて服を着る。


冷たいペットボトルの水を貰い、ごくごくと一気に飲み干してしまった。


「よっぽど疲れたんだね~?くすぐり執行官は体力勝負みたいなところあるから、午後は私とみっちり筋トレと有酸素運動でもしようか…」


「も、もう勘弁してくださぃぃ」


「あははっ♪半分冗談だって~♪でも、これで少しは分かったでしょ?上下関係は絶対。無いと思うけど、もししずくちゃんが反抗したり組織を裏切るような素振りがあれば、さっきのよりつらくて苦しいくすぐり処刑を行う。それに…しずくちゃんは私に弱みを沢山握られているから逆らえないよ♪」


「え……??どういうことですか……」


弱みと聞いて、ゾクっと嫌な予感がする。

玲光さんはそんな私の顔を覗き込み、クスクスと笑いを堪えていた。


「しずくちゃんのパソコンあるじゃん?Dドライブに入っている隠しフォルダにエッチな動画や画像が沢山あって、特に好きそうなのは___」


「わ、わーーーーー!?!?わーーーーー!!!!!」


一瞬にして顔が真っ赤になり、わーわーと叫んで玲光さんの言葉を思わず遮ってしまう。


「な、何で!?えっ……まさか……」


「"総理"からのご命令でね~。しずくちゃんの部屋のパソコンは私がとっくの昔にハッキングしてあるし、部屋にも監視カメラを何台か仕掛けてある。"美咲"さんからメールが来て、不思議に思ったりした瞬間があった筈だよ。」


「あっ……!?」


これまでにうっすらと感じていた違和感と、誰かに見られているような感覚が全て繋がった気がする。


「そ、そんなの!!人権侵害ですよ!!玲光さんのバカ!!!意地悪!!!!」


「おいおい~、さっき躾したばっかなのにまたお仕置きされたいのかな~?それに、私だって仕事でやってるんだから許してよ~。まぁ…隅々まで調べて監視してたことはちょっと申し訳ないなと思うけどさぁ!」


思わず玲光さんにくすぐりかかろうと手を伸ばすも、手首を掴まれて背中の後ろにまわされ、呆気なく床にうつ伏せに組伏せられてしまう。


首の後ろにピタリと5本の指を添えられて、"それ以上抵抗すればいつでもくすぐれる"という脅しの意図を感じて動けなくなってしまう。


「うぅ…ぐすっ…うぇぇん……」


「あぁ~ご、ごめん…やりすぎちゃった…ほ、ほら、この後メシでも行こう、な?好きなやつ何でもご馳走するから」


私が泣き始めると、玲光さんは慌てたように手を離して解放してくれた。本当に優しい人なのだと思う。


床に座って手で涙を拭いながら、安心して子供っぽく振る舞ってみる。


「…メロンパン……」


「…ん?メロンパン…?」


「美味しいメロンパン…いっぱい買ってくれますか…?」


頬をぷくっと膨らませ、上目遣いで玲光さんを見つめると…


「ぷっ、あははっ♪可愛いやつだな~!参った参った。私の降参だ。よしよし、メロンパン食べたいの~?お姉ちゃんがいっぱい買ってあげるよ!」


玲光さんによしよしと頭を撫でられて可愛がられる。

家では一人っ子だったけれど、初めてお姉ちゃんができたような感覚だった。


"くすぐり執行官"見習いの1年目は、玲光さんに公私ともに沢山お世話になった年だった。


休日には玲光さんと出掛けたり、玲光さんの家にお邪魔してゲームをしたこともあった。


もちろん仕事中は厳しく指導されることもあったけれど、飴と鞭の使い分けが上手い玲光さんのことを私は心から信頼して、尊敬の念すら覚えていた。


月日は流れ、冬のある日のこと。

玲光さんの"本職"である、諜報活動のお手伝いをしていた時期のこと。私はこれから、どうやって自分の価値や仕事を見つけていけばいいのか玲光さんに相談をしていた。


「雫は頭良いんだから、そうだなぁ…法律関係は椿さんがやってるし、"国家資格"のペーパー試験の内容作る仕事とかやってみれば?」


玲光さんによると、政府内部では早急に"三大国家資格"の制定に力を注いでいるようだった。椿さんも灯凛さんも、玲光さんも、そして私も。言わば"総理"からの直々なスカウトによって「くすぐり執行官」となっている状態のようで、今後は厳しい国家試験をくぐり抜けた者を「くすぐり執行官」の合格者とするように__というお達しがあるようだった。


こうして、見習い2年目で灯凛さんの下に付き従い、3年目で椿さんの下で「くすぐり執行官」としての振る舞いや格を教え込まれながら、私は国家試験の作成の許可を得て寝る間を惜しんで取り組み、最終的には先輩達の協力を得て、"総理"や美咲さんへの提案会議も通り、「くすぐり執行官」の国家試験を制定するに至った。


この功績が認められ、私は"見習い"という立場から、"くすぐり執行官"と、正式に"総理"から拝命を受けたのであった。


『最年少のくすぐり執行官』

『"天才"__雨宮雫』


のちに「くすぐり執行官」のNo.5と呼ばれ、私の後輩になった美佐々木空音。彼女の"公報"活動によって、私の名前は世間に広められることになった___



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POSTEDApr 24, 2025
ARCHIVEDJun 10, 2026