Previous Post

スケベスキルで世界最強~やっぱ最強はちんぽっしょ!!~ 18

Next Post
no preview
DESCRIPTION

 ジェルに告白すると決めてから、少したって。

 おれは困っていた。


「今日の訓練はここまででいいだろう。また腕が太くなった気がするのだが、良かったら触ってみるか?」


 聞き間違いかと思っても、上裸のジェルはにこやかなまま力こぶを作って待っている。狼の毛並みは汗で湿っており、膨らんだ上腕二頭筋の曲線が綺麗に浮かび上がっていた。

 スピードタイプである『神風』の話だけ聞くと勘違いしそうだが、ジェルの体はでかい。逆三角を描く上半身は当然として、下半身のごつさがえげつないのだ。

 素早く動くための脚だからそりゃそうだろうが、本人曰く、俊足を制御するブレーキとしての側面が強いとのこと。確かにあの速度を制御するにはこれくらい脚が太くないと駄目かもしれない。

 おれの掌四つでも囲いきれるかってくらいの太ももだから、相当ごついよ。それでいて腰がシュッとしているせいでバランスがイケメンすぎる。それでも腰はおれの胴体の倍くらいはあるけど、相対的な話で。樽のようなフォグやゴライザ、筋肉の鎧を着こんだヤードとはまた違った体つきだ。


 そんなジェルがおれを誘っている。

 アーミライト家の中庭で太陽を浴びるジェルは魅力の塊で、きらきら輝いているのは汗のせいだけでは絶対にない。だって鼻血が出そうだもん。

 本当に『愛撫』のスキルが憎い。これさえなければ、おれは喜んでジェルにさわるのに。


 もうばれてるだろうけれども、おれが自分で言うまでは隠しておきたいのだ。


「いいよ、遠慮しとく。ありがとうね」


 だから断腸の思いで目をそらす。これ以上見ていると股間とかがえらいことになるから駄目。


「そうか、変なことを言ってすまなかった」


 耳を倒してシュンとする狼に心が死ぬほど痛む。

 いや、本心では触りたいし、なんだったら抱き着きたい!


 けど……やっぱりまだ駄目だと、自分に言い聞かせる。ここで甘えてしまったら、絶対犯す。そうなれば告白とかもう夢のまた夢になってしまう。


 最近ずっとこうなのだ。ジェルがおれにアピールをしてくる。

 ジェルがおれにアピールをしてくる!

 ジェルが! おれに! アピールをしてくる!


 なんだこれは。いったいどうしたというんだ。

 あのジェルだぞ。堅物真面目ど天然。交際経験どころか性行為経験すらなしの、あのジェルだぞ。


 それがここのところずっと、何かあればおれに触るように体を見せつけてくるのだ。

 一緒におふろに入ろうと言ってきたり。

 はてには同じベッドで寝ようとしてきたことだってある。

 

 …………いったい何がどうなってるんだ。

 逆に怖くなってきた。え、ひょっとして、おれ探りでも入れられてるの?

 エロ関係のスキルだろうと確信を得ようとしている?


 何か裏がありそうで素直になれないおれをよそに、タオルで汗をぬぐったジェルは後片付けを始めた。

 謹慎しているせいで暇を持て余しているためか、こうして訓練に精を出していることが多い。洗脳された自分のふがいなさをたしなめる意味もあるのだろう。

 そのタオル欲しい。使用人に片付けさせるくらいならおれにちょうだい……なんて言えない。


「今日」ジェルが頬を拭きながら。「これから商人が家に来てくれることになっているから、好きなものがあれば何でも頼んでもいいぞ」

「えっと、何でもって……何でも?」


 さわやかイケメンマッチョ狼の魅力に言語中枢が死んでる!!


「ああ、好きなものを頼むといい。思えば、お前にはねだられたことがなかったからな。この世界についてよく知らなかったのもあるだろうが、傭兵街から帰って来た今なら、何か一つくらいほしいものがあるんじゃないか?」


 と言われても何だ、おれの欲しいものって。

 傭兵街にいたころも娼館の売り上げがよかったおかげで、特に苦労もしなかったからなぁ。装飾品の類とかはあんまり興味がないから、お金を使うのってもっぱら生活かエロだったし……。

 そもそもここにいたころだって、異世界人ってことで優遇されてたし困ったことがない。そんなことジェルも知ってるだろうに。


 おれが何も言わずに考え込んだのを見て、ジェルは尻尾を下げる。待って落ち込まないで。


「お、おいしいもの!」ようやく絞り出した答えがこれ。「おいしいものが食べたいな! 首都だと絶対傭兵街よりおいしいものあるよね?!」

「わかった。最高峰のシェフを呼んでおこう」


 朗らかな笑顔を浮かべる狼におれの心が熱くなる。この世界に飛ばされてきたときからの支えだ。ジェルはいつだっておれに安心感を与えてくれる。


 狼が近づけばそよぐ毛皮から汗の香りが立ち上る。健康的な生活をしているジェルが醸す、雄の匂い。そんなものを吸えばどうしたって意識してしまう。

 硬直したおれに構うことなく距離を詰めていき、目の前がジェルのおっぱいで埋まる。谷間に顔をうずめたくなる衝動が暴れまわってしょうがない。主に股間で。


 だが、ここで手を出せば暴露したも同然。おれが自分の意志で言うまではばれたくない。


 そんな葛藤をしているおれにジェルは、そのたくましくて汗臭い谷間を押し付けた。


「――――?!?!?!?!?!」


 肉の密度と湿った毛皮から暴力的に押し寄せるジェルのフェロモンが脳みそを発情一色に染め上げて股間がやばいことになっているしなんだったら鼻血も出てるかもしれないけど今はそれどころではなくて唇からしみこむジェルの味がものすごくおいしいひょっとしておれがお願いしたおいしいものってこのことだったりいやそんなわけはないだろう馬鹿落ち着けおれ――


 とっさのことでジェルを抱きしめなかったのは我ながらえらい。触ってしまえば終わりなんだ、できるだけ手を離したところで硬直して肺一杯にジェルを堪能する。

 毛皮に隠れてるけどおっぱいすごいな。ヤードと同じタイプだ。筋肉だけで構成されてるでかさ。その分硬いけど雄の胸って感じがしてたまらない。


 抱擁はどのくらい続いたのか。体感無限だったのだけど、おれが意識を取り戻したのはジェルとの間に新鮮な空気が入り込んでからだった。


 狼は呆然としているおれから恥ずかしそうに眼をそらして、赤らんだ顔のままタオルをかぶってしまった。


「本来なら、私がこんなことをすべきではないのだろう」


 消えそうな声だ。おっとりしたジェルにしては珍しい。


「お前にとって私が好みではないのも知っている」


 待って。特大にでかい勘違いしてない?

 好みでないどころかど真ん中ですが?


「だが……もしお前が男性でその欲望を発散したいというのなら」


 この時になって初めて、おれはジェルの真意に気づいた。

 ジェルはいつだっておれのことを大事にしてくれて、愛してくれる。


 息子として、だ。


 狼は恥ずかしさを散らした顔をしたままだったが、ようやくおれと向かい合った。タオルからのぞく目でしっかり見据えて、これを言わねばならないと、覚悟を決めた父の顔で言う。


 やっぱりジェルにはおれのスキルについてばれていた。

 そして、これがジェルの出した結論なんだろう。


「これからは、私を使いなさい」


 ジェルはおれのためにその身を差し出したのだ。


****


「それはもう完全にばれてるな」


 王宮の一室で、フォグが結論付けた。

 いつも通りみんなの検査とセックスをしにやって来たついでに、相談したのだ。


 『華炎』の部隊を率いることになったフォグは再編成やら引継ぎやらで死ぬほど忙しそうだったけど、おれの顔色を見た瞬間に休憩をとって付き合ってくれた。こういうところ気が利く男だと思う。


「まーそうだよな。お前のスキルは異端すぎるっていうのもあるけど、『竜の爪』を完全篭絡して、今回の戦いでも大活躍だったもんな。隠す方が無理だ」

「だよねぇ……」


 メイドが持ってきてくれたアイスティーを飲みながら、熊は口元をナフキンで丁寧に拭く。

 グリッジの暴走によってしっちゃかめっちゃかになっている家のこともあるのに、この熊は変わりない。本当に強くなった。


「それでジェル様が責任を感じて、その欲望を一身に受けようとしたのかもな」

「うううぅぅ、いい人すぎる……好き……」

「おれも好き……」


 ジェル大好き組が集まると大体こんな感じだ。平和を実感する。


「でも、ジェルっておれのこと息子としか思ってないんだよなぁ」

「思うんだが、お前が息子、おれが妻になればすべて丸く収まるのでは?」

「ぶっ飛ばすぞっ?!?!」


 ジェルはおれがめとるって決めてるんだが?


「じゃあお前の妻、おれの夫ということで」

「それならまあ……」

「いいんだ」


 つい口をはさんだのは同じく休憩中のランド。フォグが移籍するように、ランドも『茜差す栄光』のところの副官に昇進するらしい。しゃべったことあるけどものすごく人が良さそうで、ランドもいればほんわかした部隊になるだろうな。

 本人曰く、リブラの魔の手から守るためらしいけど。おれの知らないところで『騎士道走行』と手を組んでいるみたい。リブラってどこでも敵を作りすぎじゃない?


「ばれてるのは確実だと思うよー」丸々としたお腹をさすりながら虎は言う。「実はこの前ジェル様との面談があって、いろいろ聞かれたからね」

「え、待って、怖いんだけど。フォグも?」

「おれはまだだ。忙しいことは知ってるからな」

「まあ目的は他にあったんだけど、別にそれはいいんだ。話した感じだと、やっぱりジェル様なら自分の身を差し出すよねぇ。面談中も『私がしっかりしなければ……』とか言ってたし」

「うぐぐぅ……」


 やばい、完全にイメージダウンしてる気がする。手のかかる子だと思われてそう。


「ど、どうすればいいと思う?」

「禁欲じゃない?」

「おれもそれしかないと思うぞ」

「無理だ!!」


 こちとらスケベスキルのオンパレードに、最近はエロが仕事みたいなところがあるんだぞ。もとはといえばおれのスキルのせいだけど、それでも途中で投げていいものではない。


「まあそうだよね」へらへら虎が笑ってる畜生。「だからおとなしく諦めて、ごめんなさいしたほうがいいかも」

「おれらをど淫乱の雌マンコにしたこととか」

「傭兵街で雄を食い散らかして、さらにはコハク王子も手にかけたこととか」

「ウィザロン様とかお前に対しての求愛行動があからさまだからな」


 これらを全部謝罪するとなると、いくらジェルでも許してくれなさそう……。

 最悪勘当とか……?


『それはない』


 否定の声は二人同時だった。


「あのジェル様に限って、絶対にない!」熊の鼻息は荒い。

「ジェル様にそんなことさせたかったら、世紀の悪人にでもならない限り無理だよねぇ」虎は何度も首を横に振る。


 よかった。そう言ってもらえるとちょっとは気が楽になる。


 思えばジェルは最初に会ったときからやさしかった。

 おれが異世界に飛ばされたとき、最初は本当に怖くておどおどしていた。獣頭とか創作でしか見たことないし、なんか国のために働くことの素晴らしさとか説かれるのも怖かった。


 最近知ったのだけど、本当ならおれはグリッジに引き取られるところだったらしい。

 ただ、震えているおれを見かねたジェルが、自分のところで引き取ると王様に掛け合ったそうだ。

 あの頃はなんでジェルのところだったのか全く分からなかったけど、もしグリッジのところにいたらこんな日々は絶対来なかっただろうな。最悪ぶち切れて国ごとつぶしてた可能性がある。


「さらっと言うなよ……でもまあ、お前ならできるだろうな」

「そしたらおれらは君の敵になってー……あー、勝てなさそー、強化とか絶対されてないだろうしね。……でさ」


 虎の視線がこっちを向いた。


「君はこれからどうするわけ?」

「おれ?」

「そう、もう騒動も終わったし、これからまたジェル様の教育が始まるわけでしょ。一応今はエロスキルの後始末をしてるけど、それだってあと少しで終わる」


 おれがジェルに引き取られたのは国のために尽くすよう教育するという名目だった。つまり、最終的にはこの国の要職につくってことだ。

 ランドはその時のおれの希望を聞いたんだろう。どの部隊に入りたいか、どんなことがしたいのか。


 でも、改めて言われると、確かに困るな。異世界に来たのも急だし、国のためとか言われても……って感じだったから。

 今はコハクやジェルの役に立ちたいって気持ちはあるけど、じゃあ、何がしたいんだって言われると困る。


「それもおいおいでいいだろ。こいつは脳みそに精液しか入ってねえんだから、そんな真面目なこと考えられるわけがねえ」

「フォグが辛辣すぎる……」


 それでこそフォグって気はするけどさ。

 だけど、口は辛いがかなり仲はいいんだ。もちろんとげのある言葉だけで終わらない。


「部隊の編成が終わってから見学に来るといい。お前ならいつでも歓迎する」

「もちろんおれもねー。ファンダルも君のこと心配してたから、顔みせてあげてよ」

「ありがとう、楽しみにしとく」

「でも……なんだ、おれらは家が家だから当然のように軍に入ったが、お前はそうじゃないんだ。ジェル様なら要望を聞いてくれるだろうし、コハク王子もお前には甘い方だ。要望があるなら言ってみてもいいと思うぞ」

「おおー、フォグも丸くなったねぇ。傭兵街に行く前はもっとつんつんしてたのに」

「そうか? ……まあ、いろいろあったからな」

「いいなぁ、リブラもほんのちょっとおとなしくなったし、おれも今度は特別任務に行きたいなー」


 ランドがニヤニヤしながらお菓子を頬張って、楽しそうに尻尾が揺れる。軍に入らなくてもいいというフォグを咎める気などないようだ。


「ん、おれも大体同意見だしね。家がそうだからって絶対跡を継がなくちゃいけないわけじゃない。特に君はアーミライト家の血筋ってわけじゃないしー」

「お前の父親が聞いたらぶちきれそうだな」

「あははー、真面目な息子だったらこんな腹になってないんだよねー」


 膨れた腹を撫でながら朗らかに言うが、ランドが訓練をさぼってるとかではない。ただ単純に食べる量が多いだけだ。

 ……いや、不摂生って意味では真面目ではないのかもしれない。


 とにかく改めて考えると、おれはこれから何をしたいんだろうなぁ。

 おれはもともと現代社会から来てるので、後を継ぐとかそういう考えが絶対とは思ってない。だけど、じゃあ何をしたいのかって聞かれると困る。


 うんうんうなっていると、机に置かれたアイスティーから氷がカランと音を立てる。やってることは完全に友達とお茶だ。こうやってみんなと話せることが嬉しく思う。

 それもこれも、ジェルがおれを引き取ってくれたおかげだ。


 でも、なんでジェルはおれを引き取ってくれたんだろう。グリッジから強引に奪ったおかげで、かなり圧をかけられたみたいなのに。


「放っておけなかったんだろ。ジェル様は優しいから」

「それはわかる。感謝もしてるけど、あの頃のジェルは今よりずっと余裕がなかったのになあって」

「まあ、ジェル様のところはご両親が早死にしてるから、仕事が多いのは昔からだ」

「住んでるからそれは知ってる。あの家にはジェルしか家族がいないからね。でも、そんなに昔のことだったの?」


 ジェルについて聞きたいことがたくさんあったのに、傭兵街に行ってたおかげであまり聞けてないんだ。くそ、グリッジめ。おれとジェルの間を引き裂きやがって……。


「ジェル様がまだ成人する前だな。おれも話にしか知らないが、かなりごたついていたようだ。親父が分家であるという立場を活かしてあの手この手で攻め込んだみたいで、かなりやばかったらしい。陛下がいさめてくれなかったら、アーミライト家は本当に終わってたかもな」

「相変わらずフォグの父親ってえげつないよね……」

「申し訳ねえ……。おかげでアーミライト家はがたがたになっちまって、没落は時間の問題だとすら言われていた」

「まージェル様はそのころから神童と言われていたから、おれはあんまり気にしなかったけどねー」


 おれが引き取られたときも、使用人なんてほぼいなくてさみしい空気が漂っていたことを覚えている。だからこそ、ジェルは『竜の爪』からおれの世話をしてくれる人を見繕う必要があったんだ。グリッジによる間者がはびこっているのは本人もわかっていたから。

 だって最悪暗殺されてたかもしれない……今更ながら、昔のおれって相当危ない立場だったんだな……。


 それでもジェルは家に帰るといつもおれのところに来てくれて、いろんな話をしてくれた。世界のこととか、スキルのこととか。おびえているおれを心配して、王宮での授業を先延ばしにしてくれたりもしてくれて、ジェルはいつだっておれを助けてくれた。

 自分の方が絶対大変だったくせに。あの頃は何もわからなかったけど、今思い返すとジェルは本当に苦労していたと思う。


「だから、恩返しするのはおれの方なんだ……」

 

 今は謹慎で引きこもっている狼を思い浮かべると、胸がポカポカする。

 続いてさっき押し付けられた汗ばんだ胸も一緒に。

 んんんんんんっ、エッチ!!


「とまあそれは置いといて」

「どれをだよ」

「こっちの話。ジェルに恩返ししたいんだけど、何をしたらいいと思う?」

「怒られる前にやるとは、お前もなかなか人が悪いな」

「違くて! ただ、落ち着いてきたしちょうどいい機会だからってことでさ!」

「ははっ、わかってるよ。おれも移籍する前にお世話になったお礼をしようと思ってたんだ。祝賀会もかねてやるか」

「おれもおれもー。おれがファンダルのところに行きたいって相談したらいろいろ便宜を図ってくれたし、お礼はしとかないとね」


 さすがはジェル。人徳の塊だ。

 提案すれば二人とも当然のようにのってきてくれた。


「じゃあやるならジェル様の家で、サプライズパーティだな。さすがに謹慎中にパーティに参加するといい顔をされないが、自宅で、それもおれらだけの小規模ならいいだろ」

「それ賛成ー。でもジェル様は謹慎してるから、仕込むの難しくない? どうする?」

「あ、それならおれがジェルの気を引いておくよ」

「頼んだ。おれは『竜の爪』の面々を誘って、費用などをまとめておく」

「じゃあファンダルにも声かけてみようかな。あいつ、ジェル様のところをグリッジによって無理矢理移籍させられたから、かなり気にしてるんだよー。この機会に和解させたいんだ」

「重ね重ねうちの親父がご迷惑を……」

「あはは、なんでフォグが謝るの。ファンダルもフォグが悪いとは絶対思ってないから心配しないで」

「さすが王国の良心……」


 お茶菓子を食べながら、三人でどんなパーティがいいかと話し合う。文化祭を思い出すなぁ。こういうのが楽しいのは異世界でも変わらない。

 でも二人はいろいろ忙しい身なのに、準備とか大丈夫なのだろうか。

 

「別にこのくらいなんでもねえよ」

「そうそう。それに、頼んだらみんな手伝ってくれるだろうしねー」

「もちろん私もな!」


 ばーんと登場したのは黄金の龍コハクだ。慌てて立ち上がろうとする二人を制して、空いている席に座る。控えていたメイドがそそくさとお茶を用意している間に、にっこりと笑ってこう言った。


「もう、仕事、やだ」

「あ、この人心が折れかけてる」

「折れるに決まっとろうが! なんだこのふがいない体たらくは! 私がいない間にグリッジが好き放題した結果、元老院は機能しとらんは父上は再起不能だわ役人の汚染は深刻だわで! やることが、あまりにも多すぎるんだが!」

「重ね重ね……重ね重ねうちのくそ親父がご迷惑を……」


 この国を掌握するためにグリッジがだいぶやらかしてきたんだろうなぁ。

 おかげで今フォグが蒼白になってる。

 

「よい、お前のせいではない。だから私もジェルのサプライズパーティに参加! したい! 仕事やだ!」

「仕事したくなさ過ぎて幼児退行してる……」

「うちの親父の件もそうだが、コハク王子は最近ストレスがたまりすぎてるからな……」

「エッチなお兄さんとしての名声が高まった結果、みんな私とのワンチャン狙ってるんだぞ?! 毎晩ウィザロンに護衛してもらえないと、部屋にも帰れないんだぞ?!」

「あまりに自業自得過ぎない?」

「ガニスなど隙あらば私の腋に顔を突っ込もうとするし……」

「それについては本当にごめんなさい!」

「なあ君、君よ。今晩は泊っていかんか? フォグとランドも同伴してよいぞ。四人でパジャマパーティしながら日頃溜まったうっ憤をセックスで発散せんか? 複数人でまわされるという体験がしたいのだがどうだろう?」


 どうだろうじゃねえよこの淫乱王子。そういうことばかり言うから誤解されるのでは……。

 でも隠し村で大事に育てられてきたコハクは同世代の友人というものがいない。こうして公式な立場を手に入れたことで、やっと普通のものを手に入れられるようになったのだろう。

 王子だからもとが普通とは程遠いけど。


「面白そうな話だけど、実は今日ジェルがすごいシェフを呼んでくれたから、一緒にご飯を食べる予定なんだ」


 おいしいものが欲しいと言ったから、ジェルが招いてくれたんだ。さすがに欠席するわけにはいかない。


「そうか。せっかくの親子水入らずだ。楽しんでくるといい」

「しょぼくれた顔しながら言わないでよ」

「なに、最近君が構ってくれなくてさみしいだけだ。気にするな」

「わかったって、今度泊まりに行くから。それで許して」

「よし、言質は取ったからな。それで、ジェルのパーティはどういうものにするつもりだ? 良ければ王宮の方から人手を派遣したいが……謹慎を言い渡した手前それは難しいか」


 いくらサプライズとはいえ、それでは謹慎の意味がなくなってしまう。


「王子の手を煩わせることなんてありませんよ」フォグがきっぱりと断りを入れる。「これはお世話になった我らの仕事なので、王子は日々の業務を忘れて楽しんでくだされば結構です」


 まあフォグの立場ならそう言うだろう。特にこの熊は真面目だから。

 そもそもコハクがこっそりここに来るなんてできるの?


「あー……」虎が言いよどむ。「ウィザロン様さえ説得できればなんとか。今ごたごたしてるから、暗殺の危険がないとは言い切れないんだよねぇ。まだタニザ様に王位を継承させれば何とかなると思ってる愚か者がいるから」

「うわ、まだ大変なんだね」

「だから戻ってきたくなかったのにー!」


 とかなんとか言ってテーブルに突っ伏するコハクだけど、全部覚悟の上で戻ってきたことをおれは知っている。だから、応援すると決めているんだ。

 っていうか、コハク自身がかなりの強さを誇ってるから、そこら辺の刺客とか返り討ちにできるでしょ。


「できるが、やはりいつも狙われているというのはメンタルによくない」

「それもそうだねぇ」

「その点、君らのところは安全だ。あの騒動でグリッジ派のやつらは大体除籍されてるからな」

「そういえばそうだったね。あ、そういえば、ヤードが二つ名もらえそうなんだって?」

「うむ。先の戦いでかなりの武勲をたてたからな。妥当だろうとも」

「でもそれってフォグとかコハクも同じじゃない?」

「私は別に武勲など必要ない立場だからいらん! これ以上有名になどなりたくない! フォグはグリッジの件があり、名声を与えることに消極的な動きがある。父に反旗を翻した武人という功績があれど、恩情を乞うた時点で難しい」


 それをフォグは当然という顔で聞いている。


「まあ王を手にかけるなんてお家取り壊しにされてもおかしくないところを、コハク王子が助けてくれたんだ。それ以上は望まねえよ。それに、おれはまだまだ弱いからな」

「はぁー」お茶菓子を頬張りながら虎が器用にため息をつく。「真面目だよねぇ。おれらの中でも強い方なのにさ。目標がジェル様だからって、自分に厳しすぎるよ」


 それはごもっともだと思う。ジェルに勝てる存在をおれは知らない。

 おれがスキルで強化した面々でさえ、まだ勝てないのだ。異世界チートが通じないんだけど、どうなってるんだと驚きを隠せない。


「まあ、あれは強くならねばならなかっただけだからな」


 龍がお茶を飲みほして、氷が涼しい音をたてた。

 そういえば、コハクは昔からジェルのことを知っていたんだった。だから、この中では一番ジェルについて詳しいはずだ。


 だけど、おれが何かを聞こうとするより前に、黄金の龍が立ち上がる。


「やりたくないが、そろそろ戻らねば。君、絶対に泊まりに来てくれよ。でないと泣くぞ。大の大人が大泣きしながら駄々をこねるから、楽しみにするがいい」

「国に戻っても相変わらずだなこいつ……」

「当然。私は変わらず私。エッチなお兄さんのコハクだ」

「それで部屋にも帰れなくなってるくせに……」

「んふふ、それももうすぐ終わるだろうがね。なあ君、君よ。楽しみにしているがいいさ」


 なにやら意味深なことを言って残して、コハクは去っていく。

 おれらは首をかしげながらも、サプライズパーティの相談に花を咲かせるのだった。

 

****


 やると決まれば行動は早かった。そもそもが貴族子弟の多い『竜の爪』の面々だ。金と地位に任せた準備はあっという間に終わり、いよいよ今晩決行というところまでやってきた。


 アーミライト家の執事に話はつけてある。おれの役割は、ジェルにばれないように隔離すること。

 だからこうしていつも通り、暖炉の部屋で狼の硬くなった肩に頭を乗せながらまどろんだ時間を過ごしている。


「今日も王宮に行ってきたのだったな。彼らの様子はどうだった?」

「あーまあ、ちょっとはよくなってるよ。でも、後遺症はでるだろうけど」

「そうか。フォグたちくらいになれば仕事に支障は出ないだろうが、そこまで回復するのは大変そうだ」

「……完全にばれてそうだけど、その、やっぱりジェルはおれのスキルについて……もうわかってるよね」

「わかっているつもりだ」


 おれが異世界に飛ばされてからずっと続いていた暖かい時間。

 ここで話す言葉はその内容にかかわらずいつだって柔らかい。


「お前のスキルは性欲を支配するものだ。それは人の三大欲求であり、あらがうことは難しい。そして、性欲を向上することで、身体能力や特異なスキルを開花させることができる」


 正解。今までの行動からばれてることが確実だったので、特段驚きはしない。

 おれは肩の顔をうずめ、小さくうなずくだけにとどめておく。今はジェルの顔を見れなかった。


「スキルのオンオフはできるのか?」

「出来ないのもある……触っただけで気持ちよくなるスキルとか」

「だからお前は私に触らなかったのか」

「うん……」


 こわばっていた肩が下るのがわかった。ずり落ちそうになって慌てたが、すぐさま大きな手がおれを支えてくれる。太くたくましい腕がおれを抱きしめ、柔らかい毛皮の中に埋まった。


「よかった。私のことを嫌っていたわけではないのだな」

「紛らわしい態度とってごめん。でも、ジェルのことを嫌うわけないじゃん。おれのことを引き取って助けてくれたのにさ」

「それがお前にとっていいことかがわからなかった。グリッジに引き取られることより、私が引き取ったほうがましだと思った。だが、それが……お前の気に障ったのではないかと」

「そんなわけないよ!」

「または、私のことが好みではないのかと……あとこんなお父さん嫌だと反抗期が来たのではないかと気が気ではなかった……」

「反抗期ってほど子どもじゃないんだけどなぁ!! あとジェルのことは好みです本当に!!」

 

 手を出されなかったから自分は好みではないと思ってるのか。

 いや冷静に考えてお父さんになりたいジェル相手に好みですは、なかなか駄目な言葉なのではないだろうか。本心だけど!


 とか気をもんだのだけど、ジェルはただ胸をなでおろすだけ。そよぐ毛皮から清潔感のあるやさしい匂いがするんだけど……まさか本当に反抗期を心配して体臭を気にしている……?


「こんな香水つけてなかったよね?」

「この前商人が来た時に買ったんだ。これからお前と肌を合わせるのだから、これくらいは気を使わねばと思って」

「……本気なんだ」

「もちろん。私以外にお前のすべてを受け入れることができる人はいないだろう」

「なんでジェルがそこまでするの?」


 気になっていたことを聞いてみる。ジェルが体を差し出す必要なんてないのに。


 狼の体におれはすっぽりと隠れてしまう。でかくて頼りがいのある肉体はいつだっておれを守ってくれる。


「『華炎』『影に満ちた鏡』『土神』、その他名のある武人がお前に傾倒するようになった。今はまだいいだろう。お前は彼らより強く、手綱を握れている。――――今は」

 

 急にジェルの声が硬くなった。


「だが、お前は人をレベルアップさせる。この前ヤードと肩を並べて戦って、フォグやコハク王子のスキルを見て分かった。お前はいつか彼らに抜かされるだろう」


 ジェルの言うことは正しい。現におれはこの前ヤードのローション相手に情けない真似をしたから。そして、スキル自体を無効化するスペシャリストであるコハクには、多分もう勝てないと思う。あと、そもそもウィザロンには最初から勝てない。


「もしそうなったら、彼らが欲望のままお前を求めた時に、止めるのは困難になる。ヤードたちは普段こそ良い奴らだが、お前のスキルは彼らの欲を刺激して理性をそぎ落とす。獣のようになってしまえば、言葉など通じないだろうな」


 ……ぐうの音も出ない。ヤードとやったときからなんとなく思ってはいたけど、こうして直接分析されると先行きの不穏さを痛感する。

 しかも、ノインの『卵生』で隠れて王宮に行き来していたコハクや、『模倣』で自身のレベルアップもしていたグリッジ、といった現地民はおれよりもスキルの使い方がうまい。おれはエッチなことをするためだけにしか使っていないので……。

 って考えると、その未来はあんまり遠くない気がする。


 ジェルはそうならないためにもおれの欲望を受け止めるって言ってたんだ……。


「私はお前を守りたい。レベルアップできるのなら、その恩恵も欲しいと思っている」


 ただでさえ最強のジェルがこれ以上強くなったらバランスおかしくなりそう。

 いや、もうウィザロンがいたわ。おれって異世界チートポジのはずなのに、強さの順列あんまり高くなくない?


「だから」狼の体がこわばった。「私を抱いてくれないか?」


 ジェルの大きな手がぎこちないしぐさでおれの肌を這う。雰囲気づくりをしようとしているのはわかるけれど、逆にほほえましい手つきだった。

 

 炎のはぜる暖炉の音は暖かくて、ジェルの腕の中にいると暑いくらい。それでも離れたいなんて思わない。ジェルが大好きだから。


 今かな。

 何となくだけど、そう思った。

 このままジェルに告白することもなく抱ける気がしなかった。絶対に口を滑らせる。

 こんなにもおれのことを大事に思ってくれているその胸の内をひけらかしてくれたのだから、おれも応えるべきだと思ってしまった。


 今まで嗅いだことのない香水の匂いが、ジェルが雄なんだと思い出させてくれる。父性豊かな人だけど、立ち上る色香がおれを惑わせた。


「ジェル」

「どうしたんだ?」

「寝室行かない?」

「…………そうだな、そうさせてもらおう」


 ここは使用人が聞いてるかもしれないし、できれば二人っきりがいい。

 そう考えてのことだったけど、不純な動機がないとも言い切れない。ジェルなんかはあからさまに目が泳いでいる。


 寝室まで来たジェルは、とても動揺していた。いや、本人は隠しているつもりなのだろうけど、尻尾の落ち着きがないからばればれだった。

 

 いつの間にか着替えており、脱ぎやすいようにとバスローブ姿でベッドに座る狼は硬く、床とおれとの間で視線を何度もさまよわせている。神速をこんなところで使うなと普段のおれならつっこむのだろうが、かわいらしいと思ってしまうのだから重症だ。恋はまじで盲目。

 未経験だから何をしていいのかわからないのだろう。それでも父親としての威厳か、意を決してシーツに横たわると両手を広げておれを呼んでくれた。


「おいで」

「うん、ありがとう」


 返事だけして、おれはそばに腰かける。触ってしまうと『愛撫』で雰囲気が崩れるから、拳をぎゅっと握っておく。


「あのさ、言いたいことがあるんだ」


 心臓がバクバクとやかましい。頭の中では駄目だった場合のことばかり考えてしまう。父になりたいと思っているジェルに告白するなんて、いい息子とは到底言えない。失望されてしまったらどうしようと、めぐるのは最悪の想像ばかり。


 おれの真剣な雰囲気を察して、ジェルが上体を起こして隣に座ってくれる。分厚く硬い肩が触れるくらい近づけば、ジェルの匂いがおれを安心させた。


「どうした? やはり、私では立たんか? 父になりたいと言っていた私では確かに罪悪感もあるかもしれないが、気にしなくていい。私はお前の力になりたいんだ」

「その言葉はすごく嬉しいよ。でも、あの……ジェル」


 言葉を喉から絞り出すためにさらに掌を握り締める。爪の食い込む痛さが、熱に浮かされかけた頭を少しだけ冷やしてくれた。

 乾かした狼の体はとても暖かくて、このままの関係性を維持したいと思う自分もいる。今のままでも、ジェルは抱かせてくれるし、愛してくれる。何が不満だというのか。


 でも言うと決めた。今だと分かっている。

 深呼吸をして、やさしく微笑む狼の顔を見て。

 おれは吐き出した。


「好きです。おれもジェルと家族になりたい。だけど、息子になりたいわけじゃない。おれはジェルの夫になりたい!」


 見開かれた狼の目が動揺に震え、口から言葉は出てこないようだ。

 想定外の告白だったはずだ。ジェルはおれのことを息子としてしか見ていないのだから。


「最初、この世界に飛ばされてから、ずっとジェルはおれにやさしかった。変な奴を押し付けられたのに、いつも気を使ってくれた」


 おれがこの家に来た時、ジェルは家族だと言ってくれた。それが本当に嬉しかった。

 心細かったおれをジェルはいつだって温かく迎えてくれた。


 そんなの、好きにならないわけがないじゃん。


「おれがジェルの息子になっても、アーミライト家は継げないし、できる気もしない。だからってわけじゃないけど……」


 ジェルが無言だから、だんだんと言い訳がましくなってしまう。こんなはずじゃなかったのに。

 でも、息子じゃなくて夫になりたいって言ったから、さすがのジェルも気づいてくれるはずだ。おれとジェルが持つ愛は違うんだって。


 だんだんとしりすぼみになっていくおれの言葉は、狼の抱擁によって遮断される。

 ふわふわの毛皮に埋もれて、おれはとっさに抱き返す。これが返事だと思ったから。


 でも、ジェルの第一声はおれの想像とはまるで違った。


「すまなかった」

「え?」


 抱きながら謝る意図がわからず、困惑が漏れる。


「まさかお前がそんなことを心配しているとは思わなかった。……本当に私は父親失格だ」

「えっと、どういうこと?」

「確かに我がアーミライト家は歴史ある名家だ。だが、無理に家を継げというつもりなんて、私にははなからなかったんだ」


 もしかしなくても、おれがこの家を継ぐことに対して不安を抱えていると思ってる?


「息子になってほしいとはそんな意味じゃない。ただ純粋に、私はお前と家族になりたい。それだけなんだ」

「ジェル、それは……」

「もちろん、お前が嫌なら無理強いはできない。世間の目はお前をそういうものとみてしまうだろうからな。だから、夫でもいい。お前が望むなら、家族の形を私は問わない」


 違う。おれはそれを突き付けられた。

 ジェルとおれが持つ互いへの感情は、やはり、根本から違っている。

 愛という言葉を共有しているはずなのに、そこには決定的な隔たりがあった。


「それでも許されるのなら、お前の父でいさせてはくれないか」

「…………っ!!」


 それは告白の返事としては、これ以上ないほどの回答だ。

 ジェルにふったという意識はないだろうけれど、事実は変わらない。


 わななくおれを固い抱擁が受け止めてくれる。ジェルの体は大きくて、分厚くて、こんなにも温かいのに、とても寂しい。

 おれの手から快楽が来ているだろうに、ジェルは気にも留めずに話してくれる。


「愛している。今なら素直にそう言える。私は、お前の帰る場所でありたいのだ。お前にはこの世界で好きに生きてほしいと思っている。お前の行く道は自分で決めてほしい。私はそれを応援しよう」

「ジェル……」


 ジェルはいつだってやさしい。でも、やさしくされるのがこんなにつらいなんて思わなかった。おれは泣かないようにするのが精いっぱいで、狼の胸板に顔をうずめてごまかすんだ。


「どうして……そこまでおれのことを?」

「ああ、そうだな、それを説明してはいなかったか。いわれのない好意を受けても混乱するだろう。すまなかった」


 おれの頭をやさしい掌が撫でてくれる。その手つきだけでおれのことを大事にしてくれているのがわかって、心に突き刺さる。


「お前が他の世界から来たから、私は家族になろうと決めたんだ」

「どういう、こと?」

「お前が来る前、私は両親を亡くした」


 それはフォグらから聞いている。その時グリッジからの攻撃があったことも。


「その時から我がアーミライト家は衰退し、利権をむさぼろうとする輩が幾人も私の元を訪れた。我が家は歴史ある名家であり、甘い蜜を垂れ流しにしてたからな。周りに信じられる大人など誰もいない、コハク王子が気にかけてくれたが、それ以外はひどい有様だった」


 その地獄を、おれは想像することしかできないけれど、絶対につらいはずだ。

 両親の葬式だけでも散々だったのに、その上頼れる人が誰もいない。コハクが心配していた光景なら目に浮かぶ。あの人は優しいし、ジェルのことを頼りにしていたから。

 だけど、そのコハクもいなくなった。


「家を建て直すこともできず、騎士として働いては帰るだけの日々。間者が紛れ込んでいたとしても、信頼するものを雇うこともできない。だが、お前は違う。お前は別の世界からやって来たばかりで、真っ白な存在だった」

「転移が本当に急すぎて、ビビりまくってたからね……」

「それが私と同じように見えたんだ。頼るものなど誰もおらず、孤独でいるように。それにお前は、王宮の利権とはまるで縁のない存在だから、安心できると思ったんだ」

「だからおれを引き取ってくれたんだ……」

「気が付くと強引に奪い取っていたよ。お前を守るだけの力もないのに、引き取ってしまった。それでもせめてちゃんとした生活をさせてあげたいと思ったんだ。それからは、必死に働いたよ」


 おれが引き取られてから、ジェルはいつも忙しそうだった。それでもやさしい顔で、毎日会いに来てくれた。


「そしてお前が毎日外のことや私のことを聞いて嬉しそうに笑ってくれるから、帰るのが楽しみになった。騎士としての生き方しか知らなかった私に、お前は新しい生き方を教えてくれた」


 そんなことをしたつもりはなかった。おれはジェルのことが好きで、ジェルが話してくれるならどんなことでも喜んで聞いたから。


 おれがこの世界に来たばかりのころ、毎晩ジェルのそばで暖炉に当たるのが好きだった。

 触ることはできないというのに、温かい毛皮に寄りかかってまどろむ時間が大好きだった。


 それはジェルにとってもそうだったんだ。

 毎日おれに付き添ってくれたのは、ジェルにとっても、あの時間が癒しだったから。


「だから、私はお前と家族になりたいと思った。守っていきたいと思った。それが私のわがままだとは承知で、私は……お前の父になりたいんだ」


 ジェルは心から純粋に、おれと家族になりたいと言ってくれていた。

 おれはジェルとエッチなことをしたいと思っていたから、その落差が後ろめたい。けれど、今だって、少しだけ興奮していた。


「本当は」ぎゅっと抱きしめながら。「ずっと前からこうしたかった。だがお前は私に触れることを怖がっているから、なかなかできずにいたんだ」

「それは、その……このスキルのせいで……」

「わかっている。それも私のせいだ……すまなかった」


 なぜだかジェルが唐突に謝罪を投げる。

 さっきから謝ってばかりだなと、俺は気づいてしまった。

 おれはジェルに謝ってほしいわけじゃないのに。おれが謝らせてるんだ。


「本当なら、私が真っ先に気づいてやるべきだったんだ。お前が自分のスキルに対して悩んでいることなど知っていたはずなのに……」

「ジェル……」

「そうすれば、お前がスキルに振り回されずに済む方法を教えてあげられた。すべて、私がお前からの信頼を得られなかったからだ」

「……ちがっ」

「私など、グリッジのことを言える立場ではないんだ。お前を抱きしめるのがこんなに遅れて、何もしてあげられずにいたのだから」


 違うと、声を大にして言いたかった。

 おれがジェルに秘密にしてたのは、嫌われたくなかったからだ。こんなスキルを持ってしまった挙句、大事な『竜の爪』の面々を食い荒らした。


 でもおれは知っている。ジェルはおれがスケベスキルを持っていたとしても、受け入れてくれるって。

 傭兵街に行く前に連れて行ってもらった訓練で、ジェルはこう言った。

『どんなスキル持ちであれ、私はお前を役立たずと言ったりはしない』と。


 ジェルを信じられなかったのはおれの方だ。隠したままでいけると甘えてしまった。

 その結果、今ジェルが苦悩している。ジェルは優しくて真面目だから、その責任を自分に求めてしまっている。


「おれのせいだよ……ジェルは何も悪くない!」

「ありがとう、お前は優しい子だ。だが、別の世界に急に飛ばされ、見たこともない人らに囲まれればそれは当然の反応だ。私がもっと寄り添うべきだったんだよ」


 ずっとジェルはおれと家族になりたいと言っていた。帰る場所になりたいと言っていた。

 それでおれから信頼を得られなかったことに気づいて、とても落ち込んだんだ。そんなこと考えればすぐにわかることだったのに、おれは自分のことばかりで全く気付かなかった。


 だから、ここ最近のジェルはおれに構ってくれたんだ。

 性欲の対象として見られるようにしたかったという目的もあるが、父親として、おれが傭兵街に行っていた空白を埋めたかったから。


「私はお前の帰る場所でありたいと願っていたのに、その努力を怠っていた。……ふがいない父親で、本当にすまない」


 ジェルが謝るたびに、おれは苦しくなる。

 胸が詰まってしまって、呼吸が上手にできない。

 大好きな人の胸の中にいるというのに、溺れてしまいそうだった。


「そんなことない! お……」


 ジェルを信じ切れなかったことが、全部自分に返ってきている。ジェルは何も悪くないんだ。

 そんなおれがどの面下げて告白とか言ってるんだ?

 おれが自分のスキルについてもっと早く相談してたら、こんなことにならなかったのに。


「お、と……」


 だから、だからだから、おれはもうジェルをこれ以上困らせたくはないから。

 口から出てくる言葉が感情を裏切ってしまう。


「お父、さん……」


 おれを抱きしめる手が、大きく震えた。心の底から、おれに父と呼ばれて喜んでいるのがわかる。


「ありがとう。だが、慣れないうちは無理に呼ばなくていい。無理をさせたいわけではないんだ。少しずつでいい。愛しているよ、私のかわいい息子」


 この瞬間、おれは嫌でも理解した。この先どうあがいても、おれはジェルの息子でしかないってことが。うすうすわかっていたことではあったけど、今のやり取りで確定したと言っていいだろう。


 今更の実感が心を揺さぶるから、目じりに浮かんだ雫をごまかすように毛皮に顔をこすりつける。ジェルの手がやさしく頭を撫でてくれるけど、その勘違いを正す余裕はない。


 ああ、おれ、失恋したんだ……。

 

「それで、だが……」


 おれを抱いたままベッドに倒れ込み、狼の分厚い肉体が覆いかぶさってくる。見下ろす目は不安そうで、緊張が口元を引き締めていた。


「お前が自らのスキルに振り回されそうになったら、私にぶつけてほしい。その……こういうことはしたことがないのだが、体は丈夫だ」


 バスローブの隙間から覗くがっちりとした胸板。おれがさっきまでくっついていたせいで毛皮がヘタレているが、それがかえって形のでかさを見せつけている。

 整ったマズルは未だ緊張が解けないようで、なんだかおかしかった。


 それでも緊張しているのはおれも同じ、体が固まったまま言うことを聞いてくれないんだ。

 振られたのはわかっているのに、体はジェルを求めてしまっている。


 おれの戸惑いを察したのか、狼の鼻面が首筋をまさぐる。ぎこちないしぐさは不慣れですと宣言しているようなもので、本当にジェルはおれのために処女を捨てようとしているのだと分かる。


「情けない話だが、どうしてほしいか言ってくれると助かる。なにも……わからんのだ」


 耳元で低い声がささやく。それだけでうれしくなる自分が、今は嫌いだった。


 ずっとあこがれていたシチュエーションだったのに、だんだんと冷めていく。こういうことがしたいんじゃないんだと、心がわめいている。

 このままジェルの好意に付け込んで抱いてしまえば、おれはもう顔向けできない気がした。もう、ジェルのことを好きだという資格を失う気がした。


「ジェル」


 そっと硬い胸板を押し返す。表情を取り繕えているのかわからないけれど、驚いた狼の顔があまりうまくいってないことを教えてくれた。


 それでも、ぎこちなくとも、おれは笑う。

 これ以上ジェルに謝ってほしくないから。


「ありがとう。でも無理しなくても大丈夫だから。困ったらヤードとかが助けてくれるからさ、心配しないで」

「お前……」

「実はこの後ちょっとしたイベントがあって、みんな待ってるんだ。そろそろ戻ろうよ」

「……そうか」


 ここまで言えば、ジェルはやろうという気にならないだろう。ジェルのレベルアップはいつかしないといけないかもしれないけど、今は、落ち着ける時間が欲しかった。


 そう考えていた時、ふいに、ジェルが唇をふさいだ。


「――――っ!」

 

 触れるだけの簡単なキスではあったが、衝撃のあまり言葉を失くしていた。まさかジェルがこんなにも大胆なことをするとは思ってなかったから。

 そして、硬直するおれに構うことなく、舌が割って入ってくる。


「――――――っ!!」


 ただ相手の口内で暴れまわるだけの、技巧も何もあったものではない口づけ。

 乱暴だが、確かにおれのことを愛していると、そうわかるだけの暖かいものだった。


 信じられない。ジェルがこんなことをするなんて。


 呆然としたままのおれから離れると、唾液の橋がかかって落ちる。のぞき込む狼の目は、なぜか少し怒っているようだった。


「ジェル、なんで……?」

「お前はまた、そうやって私に遠慮する。そんな泣きそうな顔で言わないでくれ……私には興奮しないか?」

「それはないよ」


 あるわけがない。首を横に振ると、ほっとした吐息が狼から漏れた。

 でも、とっさに応えてしまったけど、ここは嘘でも頷いておくべきだったと今更になって気づいた。ジェルの悲しそうな目を見ていると、嘘なんてつけるわけがない。


「私はお前を愛しているんだ。お前のことが世界で一番大切だと思っている」


 息子としてでしょ?

 なんて言葉は呑み込んだ。当然という返事が来るに決まってる。


「親子でこんなことをするなんて、道理が許さないだろう。だが、お前の持つスキルはそんな道理を捻じ曲げる。お前が私に今まで手を出さなかったのは、お前も私を愛してくれていたからだと信じている」


 その愛はすれ違っているけれど、それも口には出さない。


 バスローブを脱いで現れる屈強な肢体。上半身と下半身がでかすぎるくせに腰が引き締まっており、筋肉の塊だというのに色気が強すぎる。

 ジェルがおれにまたがって、生まれたままの姿をさらけ出している。使ったことのないピンクのちんぽに恥じらいを残す顔が初々しいが、決意だけは硬いようだ。

 おれに体重をかけまいと膝で支えてくれるから、こんな巨体でも息苦しさはない。いつ見ても、この狼は魅力的だった。


 どこからともなく風が吹く。狼の毛皮をやさしく撫でるそれは、ジェルが持つ父性にさらなる柔らかさを追加する。


「風の結界内にいる私はあらゆる異常を受け付けない。グリッジが使った『性癖』にも対応できるよう鍛えたつもりだ」


 それはつまり、おれのスキルすべてに対して耐性を得たと同義だ。『性癖』は耐毒スキルも貫通するとっておきで、コハクの無効系統ぐらいしか対策がなかったはずなのに。この最強は短期間であらがうすべを手に入れたという。相も変わらず、チートが過ぎる。

 だから全力で来いと言うけれど。


「でも、もしこの結界が破れたら、その……すごいことになるよ……」


 なにせおれの全力は自分でも未知数なんだ。人格が壊れる可能性が高い。


「それを恐れたから、お前は今まで私に触ってくれなかったのだろう?」


 ジェルが作る表情はおれを安心させるための笑顔。裸でまたがっていても、ジェルは自分が父だということを忘れない。


「グリッジとの戦いで手を握ってくれた時、私が守るべき温度はこれだと確信した。私は……親ばかかもしれないが、お前をもっと抱きしめたいんだ」

「だから、おれのスキルじゃ壊れないってことを証明したい、と?」

「ああ。私はこの国で最も強く、丈夫な騎士だ。そしてお前を守るために、もっと強くなりたい」


 おれが触っても壊れないことを証明する。そして、自分のレベルアップもしたい。

 だからジェルは自分を抱けと言う。今のおれにとっては酷なことなのだけど、それを説明できる気はしなかった。

 ただ、薄明りに照らされる狼の肉体が、どうしようもないほどおれを興奮させる。


「遠慮しなくていい、私は大丈夫だ」

 

 こうなると、おれに断るという選択肢はない。おれはジェルの息子として、これから父を抱くのだ。

 どれだけおれがふてくされていても愛情は暖かくて、心にしみこんできてしまう。やっぱり好きだからしょうがないんだけどさ。


 そっと触れるのはジェルの一物。まだ萎えているそれはふてぶてしい大きさだが、うぶな色をしている。

 そこまで言うのなら『愛撫』の出力を最大にして触ってみよう。どこを撫でても絶頂するほどの快楽を与えるスキルで、性器を触るのだ。普通なら即勃起からの即射精コースだ。

 そのはずなのだが、幹をつまんでも狼は涼しい顔をしていた。


「ふふっ、意外か?」どうやら顔に出ていたようだ。「『感覚遮断』――痛みや快楽を遮断するスキルを覚えてきたからな。だから、さっきからお前が触っても問題なかっただろ?」


 謹慎してる間、ただ体を鍛えていたわけじゃなかった。

 ジェルはおれとこうすることを想定して、対策をしてきたんだ。


 結界と『感覚遮断』が相手だと、さすがにおれも分が悪い。

 それなら『愛撫』に『雄特攻』『感度上昇』も加えてみるけれど、ジェルは少し眉を動かす程度だった。


「んっ、やはり付け焼刃の感覚遮断では完全とはいかないか……」

「それでも十分すごいよ。結構本気でやってるんだけど」

「それならよかった。これで普通のコミュニケーションなら問題なさそうだ」


 ああ、ジェルは『感覚遮断』をおれと触れ合うためだけに覚えてきてくれたんだ。

 そう思うと胸が熱くなる。愛情がすれ違っていても、ジェルがおれを愛してくれているのは確かなんだ。

 あふれた感情のまま両手を広げれば、ジェルが抱き着いてくれる。ふかふかでごつごつとした温かい体に、またもおれは包まれた。


「ジェル、ジェル……っ!」


 今度はおれの方から硬く抱きしめる。

 ずっと前から、こうしたかった。


「私はここにいる。どこにも行かない。これからもずっと一緒だ」

「約束だからね……」

「ああ、約束だ」


 どんな布団よりおれを安心させてくれるジェルの毛皮に包まれて、体を回転させる。ジェルは何も言わずにおれの意志を汲んでくれて、でかい体をシーツに沈めた。乗っているおれの背中をあやすように撫でながら、次を促した。


 こうなるともう止まれなくて、狼の口を奪い取って舌を差し込んでしまう。


「――――んぅ!」


 さっきジェルがしたのと同じくらい深いものを、それ以上の練度で。

 狼の歯茎を舐めてあげると、筋肉が跳ねる。おれらは舌を絡ませあって、互いの唾液の味を覚えていった。


「キスにも技巧が必要だなど、思わなかった……」


 赤らんだ顔のジェルが呆然とつぶやく。タフネス豊富な騎士だから肩で息をすることはなかったけれど、その色は確かな興奮を伝えている。


「遮断してないんだ」

「感じない男とセックスをしてもつまらないだろ? 自分の限界を見極めてスキルを調節するくらい余裕だ」

「本当にいいんだね?」

「もちろん。私にお前を理解させてほしい。今まで隠してきた分を、すべて受け入れるつもりだ」


 おれが夢見た関係ではないけれど、愛されているのは事実だから。やっぱりうれしい。

 さっきまであれだけ凹んでいたのに、父性あふれる顔を見ていたら胸の奥がきゅうっとなってしまう。もっと欲しくてたまらなくて、ジェルの全部を感じていたくなる。


 でも結界内にいるジェルはおれのスキルを何も受け付けてくれない。『発情』すら駄目なんだ、打つ手がない。前のヤードとのセックスでも思ったけれど、対策をとられるとおれはかなり弱い。その上メタりやすいんだよなぁ。エロスキルしかないから。


「おれがジェルを今まで抱かなかったのは、変わっちゃうのが嫌だったんだ」


 実はコハクの気持ちがちょっとわかるんだ。昨日まで普通だった人が、おれと一夜を共にするとあからさまに媚びた視線を向けてくる。

 そんなジェルは見たくない。かっこよくないし、なにより悲しくなる。


「だけど、ジェルは大丈夫だって言ってくれた」

「ああ、私はお前のすべてを受け入れよう」


 おれは持てるすべてのスキルを発動させる。

 これが今まで雄をたぶらかしてきたおれのすべて。


「ジェル、『結界を解除して』」

「それはできないよ」


 グリッジを瞬殺した技でさえ、ジェルには効かない。『暗示』もかけてみるけれど、変わった様子はまるでない。


「『スキルを解除して』『遮断を止めて』『マンコをうずかせて』……『おれのことを、好きになって』よ……」


 だけどやっぱり、ジェルには効かない。


「ふふっ」


 目を細めて笑いながら、ジェルはおれの体をまさぐってくる。すべすべした肌を愛おしそうに、いたわるように。


「どうやら私のスキルもまだまだのようだ。お前のことが好きでたまらないのだから」

「もとからのくせに」


 ああ、今はもうこれでいいのだと思ってしまう。嬉しいという感情を抑えきれない。

 それはジェルも同じのようで、むっとしたおれの頬をやさしくつまんでいる。


「手を握ってもらったのすらこの前が初めてだったのに、今ではこんなに触れるようになったのか。お前が私の手の中にいると思うだけで、こんなにも嬉しくなる」

「これからもっとすごいことするんだよ」

「わかっている……いや、わかっているつもりだ。名のある武人がこぞって傾倒するお前の妙技を、私に教えてくれ」

「ハードル高いなぁ……」


 大体のスキルを封殺されてる今、篭絡するのは容易じゃないんだぞ。


「ジェル、好きだよ」

「ああ、私もだ」


 それじゃあまずはジェルをたたせるところから始めないと。なんて思っていると、毛皮に包まれた手がおれの服をつかんだ。


「お前は脱がないのか?」

「そうだね。ジェルに比べたら貧相な体だけど……」

「そんなことはない。お前は全部がかわいらしいんだ。もっと自信を持ってくれ」


 フォグやヤードといった筋肉で作られた芸術品のような雄に囲まれて、自信なんて育つわけがないけれど、ジェルの目は真面目だ。会話だけ聞くと恋人じゃんもう。


 こういう時ヤードだったら脱がせてくれたりもするんだけど、奥手なジェルはただ見てるだけ。むしろベッドに脱ぎ散らかした服を丁寧にたたんでいた。気にするところそこなんだ。


 それからまたベッドに横たわり、分厚くってたくましい体でおれを誘ってくるもんだから、おれは気を引き締めて飛び込んだ。このままいくとこのほんわか狼にほだされてエッチな雰囲気にならないでしょ。


 その流れを断ち切るために、目指すのはジェルのおっぱい。硬くてふわふわという矛盾で出来た狼の胸筋は、毛皮のおかげでとてつもないボリュームになっていた。


「揉むね」


 念のため断ってから手を沈めると、ものすごくがっちりしているのがわかる。それでいてリラックス状態では柔らかいものだから、掌に収まりきらないほど肉がはみ出してくる。


「……なんだか恥ずかしいな」


 狼が照れながら笑顔を向けてくるが、それもまたものすごく可愛い。可愛いの暴力。

 

「ジェルって乳首とかいじったことある?」

「……?」


 きょとんとした顔で首をかしげるジェル。

 あ、乳首って何のためについてるのかわかってない顔だ。

 いくら天性の才能でおれのスキルへの対策を講じてきたとしても、やはり根っこの部分は無知なんだ。可愛い。


 指先で胸筋の上に渦を描き、毛皮を巻き込んでくすぐる。先端が乳輪にかすると、狼の瞳が驚きにちょっとだけ開かれた。


「……んっ」

「乳首も気持ちがいいんだよ」

「そうか。知らなかったな」


 おれの指をじっと見つめながらも、止める気配はない。

 それならお言葉に甘えて、今度は乳首を中心に円を描いてさする。乳頭には触れないように、淡い快楽でここが気持ちいいのだとゆっくりと理解させていく。


 だけど、ジェルは何を思ったのか自分のおっぱいを下から持ち上げて、こちらに向けて差し出してきた。

 しかもその顔が菩薩のようだから、こっちが身構えてしまった。


「……どうしたのジェル?」

「いや、お前がしゃぶりたいんじゃないかと思ってな」


 完全に子ども扱いだ……!

 おれが乳首をいじるのはジェルに気持ちよくなってほしいだけであって、甘えたいわけじゃ……全然あるけど! おっぱいしゃぶって甘やかされたいですけど!


 だから否定することもなく、おれは毛皮に顔を突っ込んで小さな突起を吸いあげる。


「んあ……あぁ、確かにこれは、気持ちいいのか……!」


 多少毛が口に入ろうが気にならないくらい、おれは没頭している。乳輪をおわん型にする勢いで頬張り、突起を舌でなぶった。もう触ることを躊躇する段階はとうに過ぎていて、骨太な狼をかき抱き、鼻頭がおっぱいに埋まるくらい強く押し付ける。


「……くぅ」


 頭上から降り注ぐジェルの声は控えめだ。

 おれの持てるスキルを使っても、『感覚遮断』によって大部分がそぎ落とされているのだろう。


 だから、遠慮なくしゃぶれる。甘噛みしても、舌で殴っても、どれだけ強く吸ってもいい。ジェルの体を、おれは好きに堪能できるのだ。


「ほとんどを遮断してもこれか……こんなものを直に味わえば、確かに人格が変わるだろう」

「でも別に、おれは誰かを壊したことなんてないし……」

「やはりお前はいい子だ。本気で誰かを抱きたくなったら、これからは私のところに来るんだぞ」


 おれの頭を撫でる手はいつだってやさしい。乳首周りの毛皮をべたつかせ、おれの口と唾液でつながっているのが見えていても、ジェルは雪解けを思わせる顔で笑うことができる。

 その顔は本当に大好きだけど、やっぱり、もっと乱れたジェルが見たいと思う自分がいる。

 

 つねる力を強くして、もう片方には爪を立てる。毛皮に隠れるくらいの小さな乳首が赤を濃くしていき、だんだんと熟れていく。


「そ、そんなに強くつねるものなのか……? うっ……これは、かなり……」

「気持ちいい?」

「痛いのだが、むずがゆい感じもあり……気持ちいいとは言えないが、あぅ、変な感じだ……」


 狼の表情に困惑が生まれ、戸惑いが瞳を揺らす。湿り気を増す光彩は興奮の表れで、緩急つけた刺激を与え続けた。

 『感覚遮断』によって守られたジェルは、おれがどれだけ快楽を与えてもさじ加減一つで削られてしまう。だから、不意を打って気持ちよさを与える必要がある。


 でも、そんなのジェルも当然わかってるし、最強の武人の目をごまかすことは難しい。

 ――――本来なら。

 不慣れな今こそ、おれの行動の先を読めない今こそ、ジェルを翻弄することができるんじゃないか。この父親然とした顔を崩すことができるのではないか。


 失恋の腹いせというつもりは毛頭もないけれど、これから少しで意識してもらうためにも、ジェルを目いっぱい気持ちよくしよう。


「触っているだけでいいのか?」


 自分の乳首をおしゃぶりくらいにしか考えていない狼が不思議そうに問う。

 父性どころか母性も交じってない?


「ジェルにも気持ちよくなってほしいからさ」

「なんていい子だ……」


 いちいち全肯定されるのはちょっと恥ずかしいんだけど、まあ悪い気はしない。

 狼乳首は立ち上がっても小ぶりで、普段全く触ってないことがうかがえる。肥大化させたい気もするし、このままでいてほしい気もする。おれのスキルは全く通じないとはいえ、毎日いじれば大きくすることはできる。


「母乳が出るスキルでも覚えられたらいいのだが……」


 おれがガン見してたから、相当気に入ったと思われたのだろう、なんかすごいこと言いだした。

 残念そうに眉を下げるけど、ジェルはおれを甘やかしすぎて殺したいわけ? 鼻血出して死ぬけど?


「フォグとかモウダンとか胸部が特徴的な人は覚えてるから、ジェルも頑張ればいけるかもしれないね」

「私は何を習得するのだろうか。今から楽しみだ」


 とか言いながらおっぱいを持ち上げてこちらに向けるジェル。絶対母乳獲得を目指してるじゃん。


 スキル習得に関してはするのかはおれにもよくわからない。法則性も調べてないし。

 でもジェルが何を習得するにしても、最強の地位が固まるだけだろうな。


 ご要望ということもあって、左右の乳首をねっとり責めていけば、狼のごつい脚がシーツの上でわずかに悶えていく。はさまれば頭蓋骨すら割れそうな屈強な太ももが、筋肉の筋をせわしなく浮かばせる。

 

「うぅ、あ……あぁ……!」


 自身の中で反響する快楽からとっさに逃げようと体をひねるものの、おれを見据えてとどまっている。ひそめられた眉根は未知を嫌悪しているようだが、口元だけは微笑をたたえたまま。きっと、おれが心配しないようにという配慮だろう。そういうところも好き。


 でも、あまりいじりすぎると痛みが増していく。特にジェルは初心者で、変な先入観を持ってほしくなかった。それにやりすぎたら『感覚遮断』で何も感じなくなりそうだし。

 とくればそろそろ股間を触るべきだろう。腹筋の丘陵をなぞりながら下ろしていけば、太ももが閉じた。恥ずかしさからくる行為だろうが、おれが軽く押せばおずおずと開いてくれる。

 太すぎる腿だから少し開いたくらいでは尻が全く見えない。ジェルの尻がでかいのはよーく知っているが、太ももだってかなりのでかさなのだ。


「…………」


 胸を見せつけていた時とは違って、やはり羞恥が大きいのだろう。口唇を引き締めてじっと視線を注いでいた。それは股間でそびえたつ雄々しいもののせいだろう。


 ジェルの勃起は一言で表現するなら綺麗だった。わずかにカーブする幹は太いがしなやかで、ほそくなった根元が優美さに拍車をかけていた。むけた亀頭はカリ首を膨らませているが、全体のシルエットを崩すほどではなく、なにより穢れを知らないピンクなのだ。

 ピンク。そうピンク。昔見た時から全く変わっていない純真な色。


「ジェル……綺麗だ……」


 呆けたように零れた言葉は紛れもない本心で、触ることさえ躊躇しそうになってしまった。

 体幹や足の太さから比べても大きな肉棒だが、汚らわしさなどまるで感じない。体温から逃げてぶら下がる玉袋さえ、作り物めいている。


「ありがとう……覚悟はしていたはずだが、お前にこうして凝視されるのはどうにも慣れないな……」


 赤らんだ顔で照れ笑いを浮かべるジェル。それだけで心が燃えてしまうおれは本当に単純だ。


 おれは手を伸ばし、ふてぶてしい大きさを浮かび上がらせている両玉をたぷたぷと揉みこむ。片手ではおさめきれない大きさに、内心テンション爆上がり。ジェルの体の大きさを考えれば妥当なのだけど、このお父さん面したピンクちんぽの清純狼でもやはり欲望というものがあるのだと思えば、どうしたってガッツポーズをしてしまうというもの。


「おお……」

「そんなに驚嘆することではないと思うが……」


 自身の弱点を握られているとなれば、いくらジェルといえども身構えてしまう。それでも太ももを閉じないのはおれへのいたわりなのだろう。思いっきり閉じられたら骨が砕けそうだし……。


「そんなところを触って楽しいか?」

「もちろん。ジェルの体ならどこを触っても楽しいよ」

「そういうものなのか……」


 いまいち理解していないジェルだけど、おれがそう言うのならと好きにさせてくれる。

 だけど、遮断された感覚ではこの微弱な快楽は楽しんでもらえないようだ。せっかく勃起させたのに、萎えてしまっては興ざめもいいところ。


 おれは桃色の亀頭に顔を近づけ、すんっと一嗅ぎ。

 暖炉の前で寄りかかっていたときにおれを包んでくれていたジェルの匂いが、雄を感じさせるほどに煮詰まっている。毛皮の中で蒸れた臭気はジェルのものでありながら違う誰かのようだ。それほどまでに、雄が濃い。


「一応……シャワーは浴びたのだが……」


 何度も嗅いでいると、申し訳なさそうな声がおれをハッとさせる。


「わかってるよ。だけど、いい匂いだったからつい……」

「そうか。この香水が気に入ったのならよかった。私はこういうものがわからないから、勧められるがままだったんだ」

「ちがうよ。ジェルの匂いだよ」

「それがいい匂いだったのか? まあ、お父さん臭いと言われるよりかはいいが……」

 

 たとえ反抗期になってもそんな言葉を言う自分は全く想像できないな。

 ジェルは健康的ないい匂いがするのに。


 おずおずと唇で触れると、まだ何の味もしない。弾力のいい感触だけ。


「汚くないか……? ちゃんと洗ったが、そんなものを舐めたらお腹を壊すかもしれん……無理しなくていいんだぞ……?」


 無理なんて全くしてない。おれはジェルのちんぽを舐めたくてたまらないんだ。


 それを証明するために思いっきり頬張れば、口の中がちんぽでいっぱいになった。がちがちになったジェルのちんぽは熱く、頬の肉がやけどしそうだ。

 舌先でカリ首をなぞり、鈴口をほじくってみる。すると無味だった肉槍がだんだんとしょっぱさを増していき、えぐみがおれをさらに興奮させた。


「あっ……ああっ、すごい……舌が絡まって……!」


 ジェルは尻肉をひくつかせて感じてくれているけれど、おれはバキュームフェラしてもないし、喉奥をオナホみたいに使ってもいない。

 女を知らないジェルだから、フェラも当然初体験だろう。ただ愛撫するだけのような簡単なものでも、こんなに喜んでくれる。


 玉を揉みながらしゃぶりつくしていくと、狼の四肢が震え始めた。開発されてない乳首に比べると、ちんぽからの快楽は全雄共通だ。例えジェルといえども、あらがうことなんてできない。


「じゅぽ……んっんっ……」

「……っ❤うあぁ……!」


 顔を前後に動かしてあげると、狼の腰が浮く。喉奥が突かれたけれど、むせるとジェルは心配するだろうからなんとか気合で耐えた。


「おおぉぉぉっ……うお、うおぉっ!」


 腰が動くってことは感じてくれてるってこと。そうじゃなかったらジェルがおれの喉を攻撃なんてするはずがない。

 だから嬉しくなってつい激しくしゃぶり上げてしまった。

 吸引しながら舌で愛撫し、玉同士をこすり合わせる。巨漢の狼はシーツを握って耐えようとしているけれど、長いマズルが振り子みたいに揺れていた。


「ぐうぅぅぅぅ! この程度……私は、この子のために、耐えねばならんというのに……!」

「別にそこまでしなくていいよ。おれはジェルに気持ちよくなってもらいたいだけだから」

「そう、か……」


 おれの喉奥から唾液まみれのちんぽが抜けていく。光沢をまとったピンクは艶めかしく、もう男を知ってしまったと泣いていた。

 それが悲哀でないのはおれから視線を逸らしたジェルを見れば明白だ。真っ赤な顔を隠そうと手の甲を頬に押し当てているさまはとてもかわいらしい。


「……うっ」

「がちがちだね。もう出そう?」

「まだ、大丈夫だ……こんなものを咥えるのは大変だろう。お前の口に出してしまっては……ああいや、いいのかもしれないが……その、私ができれば遠慮しておきたいんだ」


 おれと体を重ねるつもりではいるけれど、どうしたって罪悪感はあるようだ。

 ひょっとして、だから目を合わせてくれないのかな。おれで興奮するから、とか?


「ジェル」


 筋肉の布団に覆いかぶさって、逃げ出そうとする視線を捕まえる。


「おれに興奮してる?」

「……っ!」


 耳や毛皮がぶわっと立ち上がった……まさか、本当に?


「いや、別にこういうことしてるんだから変なことじゃないし、そこまで気にしなくていいんじゃない?」

「わかっている……つもりだったんだ。だが、やはり、お前にこんなことをさせていると思うと、どうしたって心が痛む。なのに、私は興奮してしまっているんだ。こういう感情は初めてで、どうしたものか……扱いあぐねてしまう……」


 結界内にいるジェルにおれのスキルは通用しない。

 つまり、ジェルは単純におれに興奮しているってこと!

 よし! よし! 手荒に扱わなくてよかった! まだおれの好感度は修正が効くかもしれないぞ!


「ジェール」首筋に抱き着いて顔をうずめる。

「なぜそんなにもうれしそうなんだ?」

「おれはジェルとこういうことができて嬉しいよ」

「そうか、それならよかった。これからもお互いの成長のために何度かしてもらえると助かる。お前に飽きられないように、頑張るよ」


 ここでキスをしてくれないのがジェルなんだよなぁ。こんなに顔が近いのに。

 なのでおれのほうから頬に軽く押し付けて、狼の股間へと戻ることにする。やる気は十分。ジェルにもっとおれを意識してもらうんだ。


 ちんぽの根元から撫で上げて、雄臭い汁の玉から指との間に糸を引く。ジェルの興奮が滲み出したそれを口へと運ぶと、自然と笑みがこぼれてしまう。


「でっかいけど綺麗なちんぽだよね。オナニーってするの?」

「……まあな」

「どれくらい?」

「…………週に一回くらいだ」

「おかずは?」

「…………最近はディルドを使っている」

「え?!」


 好奇心から聞いてみたけれど、思ってもみない爆弾発言がやって来たぞ。


「お前と、するために……慣らしておかねばならんだろうと思ってな……ランドとかに聞いてみたんだ……」

「個人面談ってそういう……それで、気持ちよかった……?」

「いや、あまり……慣らしが足りないかといろいろ試してみたのだが、どうにも皆が言う快楽というものを感じなかったのだ」

「い、いろいろといいますと……?」


 ジェルのアナニー事情に食いつきすぎて引かれないよう意識すると、ものすごく不自然になった。動揺しすぎている。


「ディルドだけではなく、アナルパールとかいうものや、指で広げたりもしたのだが……。そういうわけなので、私が感じなくともお前とするのが嫌というわけじゃないことだけわかってくれ」


 顔を伏せながら話すジェルには恥ずかしさと申し訳なさが同居していて、言葉にもどこか覇気がなかった。後ろが感じないくらいで、そんな気にしなくていいのに。


 だけどまあ、そこまで言われてしまったらいやでも感じさせたくなるというものでしょう。俄然やる気が出るよ。

 

 ちんぽの先端にたまっている先走りと唾液の混合物を掬い取り、狼の穴に擦り込んでいく。毛皮のない粘膜に他者が触れるのは初めてだろう。ふさふさとした尻尾が硬直する。


「硬いね、緊張してるんだ」

「そうだな……」


 窄まった肛門の淵を何度もなぞると、もの言いたげな視線がおれに降り注ぐ。もどかしいけれど、ねだるのは抑えている。そんな顔がまたかわいらしかった。

 

 男は知らないが、おもちゃを知った穴は自身がどういう使われ方をするのか覚えたに違いない。先ほどから奥へ誘うように何度もひくついているのだから。


 一本を中心に添えると、すんなりと呑み込んでいく。こんなはしたない穴があのジェルのものだとは思えないが、それだけおれとすることを考えてくれていたのだ。顔がにやけるのもしょうがないだろう。


「入ったね」

「ああ……」


 体格差からいって、おれの指一本程度なんてジェルからすればなんてことない。

 それでも他人が入っているという高揚感は快楽を引き起こし、ジェルの顔を一段と赤く染め上げる。


 根元まで入れて、蠕動する柔肉を感じ取る。指が溶けそうなくらい熱い体内は生きていれば当然なんだけど、おれは早く挿入したい欲望に駆られてしまう。ここに入れたら、絶対に気持ちがいい。

 だけど我慢。ジェルの処女喪失だ、丁寧にしないと。


「大丈夫だ」そう思っていたのにジェルは言う。「お前が多少手荒に扱ったくらいじゃ、私は壊れない。いつも通りにしていいんだ」

「ジェルはおれのいつも通りを何だと思ってるの?」

「ランドたちから聞いている。『竜の爪』で乱交したり、催眠などをかけて好き勝手に操ったりしていたそうじゃないか」

「んんんんんんっ!! 否定できない……!」


 こんな話を聞いたからこそ、ジェルはおれを好き勝手にさせられないと思ったわけね。そりゃそうだ。むしろ、怒られないのが本当に不思議だ。


「ランドたちからあまり怒らないでほしいと言われているからな。どうにも最初ヤードが威嚇したのが原因らしく、防衛本能でスキルが暴発したとか」

「……そのあとのことは言い訳しようがないけどね」


 あとおれはいつもいつも調教まがいのセックスばかりってわけじゃないんだよ。本当だから信じてお願い。


「そうなのか?」きょとんとした顔をしないで。「お前が気に入るだろうと思って、穴をほぐしておいたんだが。いぼ付きなど使う必要もなかったか」

「それはそれで、まあ……」


 普段使ってるディルドが俄然気になってきた。どんなグロマラだ。

 完全に知識先行なのはコハクと似てる、やっぱ親戚なんだわこのふたり。放っておくとコハクみたいにこじらせてしまいそうだ。


 なので、ちゃんとしたセックスというのを覚えてもらう必要がある。

 おれは二本目の指を挿入して、柔肉の中を進ませる。


「……おっ❤」


 増える圧迫感でジェルの声に艶が混じる。股間に悪いからおれはもうビンビンだ。

 慣らしているだけあって痛みなどないようでよかった。

 ……あ、でも、『感覚遮断』してるんだっけ。見たところ血は出てないみたいだけど。


「切れてないよね」

「む、確かにこのままだとわからないな。少しスキルを弱めようか」


 ジェルは自分が尻で感じることはないと信じている。凶悪ディルドでアナニーしても快楽を得られず、逆に申し訳なく思っているほどだ。

 だから油断した。おれ相手に『感覚遮断』を弱めることが何を意味するのか、本当の意味で理解していなかった。


 痛みがないか確かめるだけ。おれが怪我させたと知れば落ち込むから安心させるだけ。

 そんな軽い気持ちでスキルを弱めた瞬間。


「――――ひっ?!」


 膨大な快楽が押し寄せた。


「ひひゃあああぁぁぁぁ~~~~❤❤❤❤❤」


 ネジのとんだ声を上げながら背筋をそり、形のいい巨根からザーメンがびゅるびゅる飛ぶ。おれの頭上を越えて噴き出す白濁は濃く、半固形の塊となって落ちていく。

 筋肉たくましい狼がベッドの上でブリッジを決め、ちんぽを天井に向けて突き立てる。まるで子宮の奥に種付けをする雄そのものではあるが、本当はマンコの快楽で漏らしただけ。


 ジェルは目を白黒しながら絶頂に翻弄され、何が起きたのかわからないようだった。パンパンに膨らんだ尿道が裏筋から浮き彫りになっており、射精がまだ終わらないことを告げる。


「こ、れはぁ、いかんっ❤あ、だめだ❤か、『感覚遮断』んんっ❤❤」


 それでもとっさにスキルを発動できるのはさすが『神風』。広い体にザーメンをぶちまけながらも、なんとか冷静さを取り戻した。


「はあ……はあ……今のが、快楽か……これは想像以上だ……」

「ごめんジェル。効かないからって『愛撫』とかの常時発動型を最大にしたままだった……」


 慌てて指を引き抜けば、狼は優しく首を振ってくれた。


「いいんだ。私の判断ミスだからな。それにしても、まさかこれほどとは思わなかった……私が尻で射精するとは……お前にかからなかったか? タオルで抑える余裕もなく、まき散らしてしまった、すまない」


 ジェルは精液をふき取ろうとベッドサイドにあるタオルに手を伸ばす。汗や精液といった雄臭いものに興奮するという考えが今までなかったのだ。おれが嫌がるだろうと判断して掃除しようとする。

 汗まみれの胸を押し付けて来たくせに、もう忘れているみたいだ。これが興奮するものだっていうのも覚えてもらいたいな。

 

 毛皮を拭いている間、おれはいまだ興奮の残滓を漏らすちんぽを舐め、ザーメンを味わった。えぐみはあるがそこまでひどくない。健康的な生活をしてるからだろうか。それとも、ジェル自身の才能か。こんなに濃いのに、どれだけでも飲めそうだ。


「や、やめなさい! 腹を壊してしまう!」

「おいしいよ。それに、ジェルのちんぽはまだ硬いよ。ためてたんだね」

「そんなつもりはなかったんだが……」


 まあオナニー週一が基本だもんね。あんなでか金玉でよくその習慣を守れたものだと賞賛するよ。

 だけどこれでジェルはおマンコの喜びを知った。これが快楽だと理解したはずだ。


 おれは辛抱たまらんといきり立つちんぽを見せつけると、ジェルの顔がこわばった。指だけで射精したんだ、ちんぽを入れられたらどうなるのかおれにだって想像がつかない。


「お前のすべてを受け入れると言った」


 それでもジェルは揺らがない。

 丸太よりもでかい脚を抱えて、おれが挿入しやすいようにしてくれた。


「好きにしていい。愛しているよ」

「おれも愛してる」

 

 すっかり蕩けた穴にあてがって、おれは息を整える。

 裂けてるわけじゃなさそうだから、おそらくすんなり入るだろう。

 その予測はあたり、先走りに濡れた亀頭はジェルの肛門をあっさりと貫いた。


「……う、あ❤」


 尻の開いていく感覚に、ジェルは何とも言えない浮ついた声を出す。気持ちいいけど、先ほどの強烈な快楽を思えばどうしたって身構えてしまう。そんな、不安定な声音だった。


 思っていた通り、きゅうきゅうと締め付ける肛門はきつい。慣らしていたとは言っても、初めてだから。

 でも、これでジェルの処女は消えた。国最強の武人は、男を知ったのだ。


「ジェル、痛くない?」

「大丈夫だ。『感覚遮断』していても、お前の暖かさは感じる。そうだな……私はこれを嬉しいと思う」


 自分のべたついた腹を撫でながら、ささやくように言う。たまに収縮する肛門が大きさを噛みしめているみたいだった。

 内部も感情に起因してるのか、うごめいてはおれを気持ちよくしてくれている。無機物のディルド相手にもこんな貪欲だったのかな、なんてちょっとだけ意味のない嫉妬をした。


 ジェルのちんぽはいまだ硬かったから、胸をなでおろした。さっきの突発的な快楽に身構えて、萎えてたらどうしようって心配だったから。


「動いていいぞ。あんまり『感覚遮断』は弱められないが、先ほどの感覚を鑑みるに十分気持ちよくなれるはずだ」


 それならと、お言葉に甘えて腰を動かしてみる。絶頂によってほぐされていたのか、処女とは思えないほど柔らかくてまとわりついてくる。肛門は相変わらずきついけど、それがいいギャップになっていた。


「はっ……気持ちいいか?」

「うん、ジェルの方はどう?」

「私もだ。感じないと言ったばかりだというのに、お前が温かくてとろけていきそうになる」


 腰をゆっくり動かしていくと、肛門から卑猥な音が鳴る。ジュプジュプと愛液がしみだす穴は滑りをよくしてくれるので、おれも動きを制御できなくなってきた。


「うあ……きも、ちいぃ! こんなに気持ちがいいなんて……んっ、ああっ!」


 なにせおれのスキル全乗せだ。ほとんどが減算されていても、ディルドのアナニーよりかは絶対に感じる。


 ジェルの金玉は自身が生殖器であることを思いだしたようで、しきりに濁った先走りをこぼしていく。週一オナニーでたまったうっ憤を発散させるかのように、雄臭さをあたりに振りまいていた。


「ううううぅ……!」


 そんなちんぽを見るジェルは毛皮を逆立てて恥ずかしそうにしている。狼というだけあって敏感なんだろう。自分でも嗅いだことのない雄臭さに鼻をヒスヒスと鳴らし、不安そうな上目遣いでおれの反応をうかがった。

 シーツはジェルを中心にしわを作り、おれらは溺れていく。握力に少し破れているけれど、指摘する必要もないと割り切った。


「いい匂いがするね」

「そう、かっ?! こんな、恥ずかしい匂いを、ぉん、お前に嗅がれていると思うと……申し訳なくなる……っ!」


 発情した雄の匂い。それが父を自称するジェルから芬々と漂ってきている。

 しかも、眼下では分厚くて広い肉体を持った狼が勃起しながら喘いているんだ。

 おれのちんぽがさらに雄々しくなるのもしょうがないだろう。


 その硬さが伝わったのか、狼は太ももでおれをはさみ、足を絡ませてきた。嬉しくなって内ももを撫でてあげると、とたんに肛門の締まりがよくなった。


「ひょっとして、ここ弱い?」

「……わからない」


 経験がないんだ、これから体のいろんなことを一緒に探していこう。


 まずはジェルの内部、これからちんぽを覚える柔肉だ。

 大きく引き抜いて、素早く奥へ。ジェルの体に雌の自覚を叩きこむ。


「……っはああぁ❤❤」


 喉を震わせる音が甘くなってきた。この調子だ。


 時に浅く、時に深く。決して刺激に慣れさせないように、かといって手を抜くことなどないように。

 男を知らない内壁に快楽を教え込む。亀頭でヒダを殴りつけると、巨体がビクリと震えた。


「おおっ❤おおぉぉ~❤❤」


 ジェルはきっと気づいていない。自分の肛門が泡まみれでちんぽを咥えているなんて。ちんぽに合わせて真っ赤な粘液がフジツボのように盛り上がったりするさまは、処女の名残など残っていないように見えた。

 

 恥骨がぶつければ、狼の玉が間で踊る。そこから精子が生産されて、狼ちんぽからブピュっと噴きあがった。


「んんんっ!❤」

「ジェルの奥に当たってるね」

「そこは、まずい……あんっ、体の開く感覚が……する、ああ、熱い……!❤」


 小刻みの往復で掘削作業を行うと、巨体が何度も跳ねる。

 そうすると巨乳もゆっさゆっさと揺れるから目に毒なのだけど、せっかくの処女喪失記念だ。どうせならマンコだけでいかせてあげたい。


「うお❤うおぉおぉ❤振動が、脳にくるっ❤❤❤」


 おれは汗だくになっても腰を振り続け、ジェルに快楽を叩きこむ。そがれてもなお絶頂させるためにスキルをフル活用しているから、脳が焼き切れそうになっていた。


 『愛撫』も『雄特攻』も、長時間全開でぶつけたことなんてない。出力を上げて気づいたけど、結構疲れるもんなんだね。

 ヤードなら最低出力のスキルでも耐えられるだろうけど、ジェルは多分無理だ。初体験に膨大な快楽を与えて性癖を捻じ曲げたくはない。おれだってちゃんと学んでいるんだ。それを失敗すると『華炎』みたいになる。


「『感覚遮断』しているのに、つよっいいぃ❤お゛っ❤これは、いい訓練になるっ❤」


 ジェルも多分同じだ。おれのスキルや快楽に耐えるために、防御にかなり意識を割いている。むしろ犯されているジェルの分が悪いはずなのに、結界には全くの乱れも見えない。さすがすぎる。


 それでも狼の体内は快楽に荒れ狂っており、おれのちんぽをぬるぬるの柔肉でしごいてくれる。ラッシュによって奥の振動がすべて脳へ至り、三角の耳がピンと張った。


「はうぅ❤んおぉ、おおぉ~~❤❤」

「ジェルの中、どん欲だね。おれのちんぽに絡んでくるよ」

「そん、な、ことぉ❤いわな゛っ❤いでぐれ❤恥ずかしくなる❤❤❤」


 雄臭さと恥ずかしい音を垂れ流しにしておいて今更な気がするけれど、それを息子だと思ってるおれから指摘されるのが駄目なんだろうな。

 

 羞恥で体がこわばったせいか、肛門がさらにきつく締め付ける。泡立ってぬるぬるしているせいで、オナニーとは比べ物にならない気持ちよさがある。

 調子に乗ってぎりぎりまで引き抜いてから素早い一撃を送れば、整ったマズルがビクンとのけぞった。


「うっおおぉおぉぉぉぉ~~❤❤❤❤」

「ジェル、大丈夫?」

「だ、いじょうぶだあぁ❤この程度……で、私は、負けんっ❤❤」

 

 すぐさま顔をこちらに向けて、口角を上げようとする。けど、よだれまみれだし、眉は歪んでるしで、お父さん然とした面影はまったくない。

 それでも瞳の光は決して消えない。おれはそれを嬉しく思う。


 おれはジェルを壊したくはない。けど、気持ちよくなってほしいからスキルを全力でぶつける。

 ジェルはおれと気持ちよくなりたい。けど、壊れないようにスキルで全力で守っている。

 

 なんかすれ違ってるなと思うけど、そもそも告白の時点でそんな感じだったと諦めた。

 おれとジェルは相思相愛だけど、これからもこうしてすれ違うんだろうな。


 だけど、好きだから。ジェルのそばにいられるだけでいいや。だってジェルもそう思ってるのはわかってるから。


「ジェル、好きだよ」


 この世界で初めておれを助けてくれた人。

 おれを愛して守ってくれる人。

 本当に、心の底から愛してる。


 それに応えようと、狼の体がこわばった。そろそろ射精だろうというのに、この狼は嬌声を押さえつけて口を開こうとしている。

 快楽のまにまに言葉を紡ごうと、ジェルは笑った。


「私も好きだよ」


 ふられたわけじゃないかも。そう信じたい気持ちを込めて思いっきり腰を突き立てると、柔肉が一層の締め付けでおれを攻め立てた。


「ぐうぅ!」

「ああ……お前が中で跳ねたのがわかったぞ……いきそうなのか?❤」

「う、うん……」


 ジェルと触れ合っているだけで心臓がうるさいんだ。この狼を孕ませたいと、本能がしきりに叫んでいた。

 さすがに中に出すのはやめた方が……と思っていたのに、マンコ全体がぎゅむっとちんぽを包み込む。慌てて顔をあげると、上気した笑顔がおれの心をつかんだ。


「ジェルっ!」

「遠慮するなと、言っただろう❤私は『神風』、この国で最も強い男だ❤お前の全部を、うぅっ、受け止める覚悟くらいはできているとも❤❤」


 そうだ、ジェルは最強なんだ。

 だからたとえ初体験でも、マンコがもう雄を絞ろうと順応している。体の使い方が天才なのはさすがとしか言えない。ジェルはセックスを理解し始めていて、おれを気持ちよくしようと、ヒダというヒダが群がってきた。


「うあ……!」

「こうで……合っているのかな❤んっ❤お前が喜んでくれれば、ぅ、いいのだが……❤」


 ジェルの内壁はもともとが搾精器官であったかのようだ。おれが興奮しているというのもあるけれど、柔肉のうごめきにしたがってちんぽが跳ねてしまう。

 脈動がヒダをまとわりつかせ、ちんぽに絡みつく。痛みなど全くなくて、ただただ気持ちがいい。柔らかい突起がまるでたわしのようにこすって、みっちりとちんぽを埋めていく。


「お前が気持ちよくなってくれると、ぁう……ひゃぁ❤」

「十分気持ちがいいよ」


 遊んでる奴って思われてるし、それも間違いじゃないんだけど、それを上回る興奮がおれを弱くする。ずっとあこがれていたジェルの体をこうして抱いているんだ。視界がジェルを中心に狭まって、もう何も目に入らなくなっていた。


「喜んでるのもわかるでしょ?」

「ああ、お前のものが脈打っている❤どうしたらもっと喜んでくれるのか……❤❤」


 なんて言いながら力めば、ただでさえ太い腿が筋肉の筋を深めて膨張する。それに伴って肛門が食いちぎらんばかりの圧でちんぽを締め付けるから、思わず声が漏れてしまった。


「……あっ!」

「ふふっ❤こうか❤それなら……❤❤」


 力んでは緩んで、不規則に締め付ける。おれがさっきそうやって突き上げたから、ジェルはしっかり学習していた。

 どれだけ汚い音が肛門から鳴っても、喉奥から嬌声が漏れても、おっぱいが揺れても、ジェルはただおれのために肛門を制御する。


「ふぅ❤おぉおぉ❤そうか、これ、がぁ❤二人で、気持ちよくなるということか……❤んおぉぉ❤」

「そうだよジェルっ……おれも、気持ちいいよ!」

「よかった❤私も感じている❤もっと強くしてもいい❤私にお前をもっと感じさせてくれ❤❤❤」


 誘われるがまま強く突きあげると、奥が吸い付いてきて亀頭がはまれる。先走りがジェルの体内に飲まれていく感覚が、孕ませている気がしてより一層ちんぽを固くした。

 調子に乗って激しく攻め立てると、太ももがおれをはさむ力を強くする。狼の分厚い背中がわずかに浮いて、見開かれた目から生理的な涙が一粒落ちた。


「ひいやぁぁ❤❤奥を突かれるとっ❤あうぅ❤お前が、こんなにも大きくなったんだと、思ってしまうっ❤おかしな話だ❤まだっ❤出会ってそこまで経っていないのにな❤」


 やっぱりジェルは父としておれに接してくる。

 だけどその気持ちはわからなくはなかった。異世界に飛ばされたばかりの頃、おびえて縮こまっていたおれを知っているから、そう見えてしまうのだろう。


「おれはもう大丈夫……じゃないかもだけど。でも、ジェルには迷惑なんてかけないよ」

「それはそれで……んっ❤さみしいものだ❤嬉しいことなのにな❤親離れを喜ぶべきだろうに❤」

「でも、おれはジェルのそばにいるよ」

「そうか❤」


 親離れなんてできるわけがない。おれが帰るところはジェルのところと決めているんだ。

 そんなおれをジェルは親としてたしなめなければいけないという思いと、舞い上がってしまう思いが混ざり合ったのか、短く返事をするだけにとどまった。

 ただ、広い背中からはみ出る尻尾だけが、ゆらゆらと揺れていた。


 それに気づかないふりをして、そっと圧をかけまいと食いしばる内ももに触れると、三角の耳がビクンと震えた。そのままフェザータッチで筋肉を堪能すると、狼の口元が緩んでいった。


「ふあぁ……❤やはり、私は……ここが弱いようだ……❤❤」

「でも、肛門はさらに締まったよ……! 感じてるんだね!」

「そのよう、だっ❤❤ぁう❤あ、あ、あぁ❤駄目だ……私も、いってしまう……❤❤」


 内壁がうごめきを強くして、肛門がちんぽを奥へとしゃぶりあげていく。ヤードの『おマンコバキューム』より断然弱い吸引力なのに、その一押しがとどめとなった。


「ジェル、そろそろ……出そう……!」

「わかった……❤さあ、おいで❤❤」

「……あ」


 イキそうだと悟ったときには、すべてがスローモーションで見えた。

 ジェルがおれに向かって手を伸ばすのも、そこから強く抱きしめてくれるのも。

 精液臭い毛皮だったけど、おれは何も言わずに抱き返して。


「愛しているよ❤だから……ぁう、たくさん出してくれぇ❤❤❤」


 なんて耳元でつぶやかれれば決壊するのは当然でしょ。


 もう止められなくて、尿道からあふれてくる感覚のされるがまま、おれはジェルの奥にぶちまける。


「ジェル、出るっ!」

「いいとも❤」


 ザーメンが噴火する勢いは強く、びしゃびしゃと殴りつける勢いで狼マンコに注ぐ。命を削っているんじゃないかと錯覚するほどの圧が、ジェルに孕めと訴えかける。


「あっあっ❤❤腹が、膨れる……❤本当に孕んでしまいそうだ❤❤」

「んぅ、ジェルっ! ジェル!」

「ああいい子だ❤我慢なんてしなくていい、好きなだけ注いでいいんだ❤❤この感覚は……嫌いじゃないな❤」


 射精するおれを、いつもみたいにやさしい手が撫でる。腸管が膨らんでいく感覚があるだろうに、ふんわりとおれを抱きしめてくれた。

 内壁はヒダでこすりながらちんぽにむしゃぶりついてさらに搾り取ろうとしてくる。種付けが嬉しいのだと、振れる尻尾が物語る。


「ああ、ああ……❤中をお前で満たされる感覚がたまらない……❤❤これは、くせになってしまいそうだ❤❤あ……あぁ!❤❤」


 歓喜が引き金となったのか、ジェルのちんぽがおれらの間で大きく跳ねた。


「そんな、あ……また、私は出すっ❤❤お前に、かけてしまう……❤❤」

「気にしないで出していいよっ!」


 射精中のものをぐりぐりと押し付けると、狼の体が硬直していく。

 だんだんと意識がちんぽに集中する感覚。雄が射精する前兆を、おれは感じた。


 ジェルをちゃんとマンコでいかせるべく、絶頂中の体に鞭打って内壁にザーメンを吐き出すちんぽをぶつけた。


「駄目だ……駄目、だ……!❤」


 制御できない快楽がジェルの中で膨れた。それは金玉で噴火して、尿管を駆け上っていく。

 もはやどんな武人であれ、ここまで来た快楽をとどめておくことはできない。狼は自身を襲う衝撃に浅い呼吸を何度か繰り返して、四肢を硬直させた。


 おれを視界に入れながらジェルは何を思っているのだろう。

 恥ずかしいとか、そんなことを考える余裕もないに違いない。


 だって、おれの腹に当たる硬いちんぽが、すでに熱い白濁を吐き出していたのだから。


「んあああぁぁぁっ!!❤❤❤」


 二度目とは思えないほど濃厚な精液がおれらの間を埋める。セメントを流し込まれたかのように、それは隙間を失くしていく。


「これ、は❤すごいっ❤❤さっきとは全然、ちが、うぅ❤❤ああ❤止まらんっ❤❤」


 快楽を無遠慮に流し込まれただけとは比べ物にならない歓喜が、ジェルの胸を満たす。それは上がった口角を見れば一目瞭然で、衝動のままさらに強くおれを抱きしめた。


 射精したおれの体がまた火照るくらいに雄の強い香りが、間から吹きこんでくる。本来なら雌に孕ませる準備を促すための発情臭だが、今となっては行為の終わりを告げる役目しか持たない。


 部屋中に狼の匂いが蔓延してようやく、おれらは息をつく。


「ふぅ……❤」やがて恥ずかしそうに微笑むジェルがおれを見て。「ふふっ❤よかった❤これで私は証明できただろう❤お前の全力に、耐えきれるのだと❤これから衝動が抑えきれない時には、私を使いなさい❤私はいつでも、お前のために股を開こう❤❤」


 耐えきれるどころか射精させられた気がする……『感覚遮断』が強すぎる……。

 やっぱチートだよそのスキル。おれとの相性が最悪。


 射精させることはできたが、課題は多い。そんなおれの苦悩を払うように、そっと頬に手が添えられた。


「お疲れ様❤私の中はどうだった?」

「よかったよ。初めてとは思えない」

「ふふっ、ちゃんと後ろの訓練をした甲斐があったな。途中射精した時はどうしようかと思ったが、何とかスキルを切らさずにすんだ」


 撫でる手は終わる気配を見せず、離してもくれない。このままだと精液が乾いて大変なことになるなんて、ジェルだって知ってるだろうに。


「もしかして、精液を見られたくないからおれのこと抱きしめてる?」

「…………」

「ちょっとジェルー! いいじゃん、このままだとジェルもつらいでしょ?」

「……もう少しだけ待ってくれ。まだ、心の準備が……お前に大量にかけたなんて、恥ずかしくて……」


 暴れても抜け出すことはできなくて、湿った毛皮に押し付けられるだけ。

 行為の残滓が色濃い腕の中だけど、構うことなくおれは抱き返した。これからはジェルに触ることを躊躇しなくてもいい。ジェルもそれがわかっているから、こうして強く抱きしめてくれる。


 思えばこうして抱きしめてもらったことってあんまりなかった。

 今までおれが避けてきたから。

 その分をこうして今埋め合わせている。隙間なく密着させて、心音でのコミュニケーションで気持ちを確認するこの時間がこの上なく幸せだ。

 

 今のおれらってどう見ても相思相愛なんだけどなぁ。

 ハグしながら乳首を舐めても許されるってそういうことなんじゃないの。

 限りなく恋人に近くて、限りなく恋人から遠い。

 そんな関係に落ち着いたけど、ジェルが温かいからまあいいかなとほだされてしまった。


「このままだと風邪をひいてしまうな。シャワーに行っておいで」

「一緒に浴びてもいい?」


 少し前のおれだったら絶対に言わなかった言葉を受けて、狼は相貌をほころばせる。

 多分これは息子に甘えられてうれしいとか思ってるんだろうなぁ。こっちはやましい気持ち特盛なのに。


「もちろん。背中を流してあげよう」


 お父さんらしいことができてご満悦なジェルの顔を見ていると、つっこむ気力がわかない。

 尻尾を振りながらおれのことを抱えあげたけど、もういいかとあきらめ気味。ここの人たちっておれのことなんだと思ってるんだろう。これでも成人男性なんだけど、軽々運びすぎ。

 パワーアップのスキルとかあるんだろうな。おれにはまったくないけど、『茜差す栄光』みたいな存在を考えると、そういうスキルこそ基本みたいだし。


 なんて考えながらおれを抱っこするジェルと目が合えば、はたと何かに気づいたようだ。


「あ、これは、お前がたくさん腰を振って疲れただろうからと……別に子ども扱いしてるわけではないぞ……!」


 いやしてるでしょ。それどころか左右に揺らしながらって赤子をあやしてるみたいでしょ。


「まさかまさか……いくらお前がかわいいからってそこまで甘やかすつもりはないぞ。手持ち無沙汰なら、おっぱいでもしゃぶっているといい」

「舌の根も乾かぬうちに?!」


 やっぱりジェルはおれを甘やかしすぎだと思うよ!

 っていうか……ていうか、だ。


 そもそもおれの役割はサプライズパーティを準備する間、ジェルの足止めだった気がする!

 やっっっっっっば! 時間的にそろそろなのでは?!

 ジェルとのあれこれに没頭しすぎてて目的が頭から飛んでた!


「ジェル! 早くシャワーを浴びよう! そして着替えよう! 詳しくは言えないけど、そうしないとかなりまずい!」

「照れなくていい。ここには私たちしかいないんだ。私はお前に甘えられてうれしいんだ、もう少しだけ私のわがままを許してくれ」

「嬉しいけどそうじゃなくって……」


 いっそのことこれから来客があると伝えたほうがいいかもしれない。

 とかなんとか気をもんでいるうちに、部屋のドアが勢いよく開かれた。


 あ、終わった。


「ジェル様ーー! 唐突の訪問失礼いたしま……す……」


 よりにもよってやってきたのはフォグだった。パーティ用にしっかりとした礼服を着こんでいると、普段よりイケメンに見える。というか、サプライズだから軽い服にしようって言ってませんでした? こいつ、ジェルに会うからって本気出してきたぞ。


「フォグっ?! どうしてここにっ?! これは……ただ、親子のスキンシップとして……」


 いやさすがに無理あるよその言い訳。


 おれとジェルはどちらも全裸で、明らかにセックスしましたと分かる汚れと匂いをまとっている。その上、おれは抱っこされており、たくましい胸に顔を押し付けていちゃついていると……。


 さて、ジェル大好きなフォグはこれを見てどんな反応をするでしょうか。


「ジェル様……」


 答え、涙と鼻血を同時に出す。怖すぎ。


 パーティの準備をしてる時は有能な熊なのに、その片鱗すら消失している。膝を折って床を殴りながら、ガチ嗚咽を響かせていく。


「うええぇぇ……ジェル様ぁ……童貞が、ジェル様の童貞が……」

「あまり童貞童貞と言わないでくれ……それに、私が失ったのは処女だ」

「うごえくるえええぇぇ~~っ?!」


 なんつったっ?!?!


 おそらくだけど、ジェルの童貞が守られた安堵と、処女を失ったときのことを想像した興奮で、やばいことになってる。

 床に鼻血と涙が広がっていくのって、普通に怖いぞ。


「フォグ。やはりこの子のことを……」

「ジェルどうしたの?」

「……なんでもない。フォグには悪いことをしたな」


 おれを抱えたまましゃがみ込んだジェルは労ろうと身をかがめる。やさしいジェルにとっては当たり前の行動で、血を出した人を放っておくはずもない。


 すると、フォグの眼前にはジェルの射精済みちんぽと中出し済みザーメンがとろとろ零れていくのが丸見え。『感覚遮断』で本人は気づいてなかったようだけど、マンコから漏れてるんですよねぇ。


「ゴハァ……我が生涯に悔いなし……」


 吐血したぞこの熊。エッチな股間に当てられて、満足そうな顔で気絶してる。だから怖いって。ジェルが絡むと本当にぶっ壊れるなぁ。


「……えーと」


 困惑を隠せないジェルだけど、生存と傷を確認する手際は良い。さすが騎士団長。

 フォグに問題なしと判断を下したのか、指先を曲げてフォグを風でベッドまで運ぶ。でもそのベッドにはジェルのスケベな匂いが染みついてるから、起きた瞬間死ぬと思う。そんなこと言わないけど。フォグは絶対死んでもそっちを選ぶのがわかってるので。


「なにやら用があったみたいだが、起きてから聞くことにしようか。さて、まずはシャワーだ」

「ねえジェル」

「どうした?」

「そのあとついてきてほしい場所があるんだけど」


 計画は知っているので、フォグが起きなかったらおれが案内しよう。


 ジェルと一緒に体を清めてから、着替えて会場に連れていく。

 簡単なシャツとズボンだけでもこの狼はイケメンなので全く問題ない。フォグが気合入れすぎてるだけだから。


「こっちだよ!」

「そっちは食堂か? いったいどうしたというんだ」


 何も言わずに手を引くおれに、ジェルは黙ってついてきてくれる。

 信頼されてるんだろうな。嬉しくなってしまう。


 そしておれは扉を開ける。

 隙間から漏れる光が強くなっていき、一面が明るくなるとその全容が飛び込んできた。


 アーミライト家の食堂は普段と様相を変え、華やかな飾りつけが施されていた。

 広さのわりに人がいなくていつもさみしかったのに、今日だけはみんなの笑顔が溢れている。


「これは……?」


 ジェルが驚いて足を止める。明るい食堂なんておれがここに来てから見たことがないんだ。きっとジェルにとってはかなり久しぶりに違いない。


 『竜の爪』の面々に加えて、『茜差す栄光』のファンダルやコハクもいる。みんなジェルのために集まったんだ。


「お、きたきた。主賓がこねえと飯が食えなくて困ってたんだ」


 ヤードがにいっと口角を上げながらこちらに歩み寄ってきた。この前一緒に町を歩いた時よりも高そうな服を着ている。貴族連中が集まるからと、結構見栄を張ったようだ。


「あれ、フォグはどうした?」

「あー……」


 本当は連れてこようと思ったんだけど、目覚めたとたんシーツをふごふご嗅ぎながらアナニーし始めたのでおいてきた。ジェルに見せたくもなかったし。

 普段はとっても頼りになるのに……。


「そ、そうか……あいつ、この日のために服を新調したとか言ってた気がしたんだが……」


 たぶんもうザーメンまみれだよ。パーティどうするつもりなんだろう。


「まあ、汚れくらいならおれが何とかしてやるから……ってそうじゃねえな、ほらジェル様、みんなが待ってますよ」


 サメが掌を向けるのは食堂の中心。この日のために準備された料理が所狭しと並んでいる。


 ジェルは未だにどういうことなのかわかっていないようで、周囲をきょろきょろと見渡している。そして、おれに視線を向けてから、首をかしげて問うた。


「お前の誕生日ではないと思うのだが……?」

「違うって。みんなジェルのために集まったんだよ。日頃の感謝の気持ちを伝えようってことで、みんなでこっそり準備したんだ。ジェルに会いたいからってさ!」

「そういうことです」


 あ、フォグが今更真面目な顔で入って来た……雄臭っ! どんだけ出してきたんだよ! 服についてる毛は絶対のジェルのだ!


「今日の主役はジェル様です。微々たるものではありますが、ジェル様への感謝の気持ちです。どうぞ前に、乾杯の音頭をお願いしますよ」


 苦笑したヤードがローションで綺麗にしている間もきりりとした顔してるの面白いな。

 ……ポケットからシーツの切れ端がはみ出してるけど、多分ジェルのザーメンが付いた部分だ。でもヤードによって洗われたから落ち込んじゃった。表情の移り変わりが忙しすぎない?


 中心に進むジェルからは見えてないのが幸いだったな。普段は常識人枠なのに、ジェルの前では一番の問題児になるの面白すぎるでしょ。


 そしてランドがグラスを渡すと、狼は再度あたりを見渡した。

 騎士団長として話すことはあれど、こうした場は不慣れだろうから言葉を整理しているのかもしれない。聞いたところによると、グリッジにけん制されてこういうパーティに参加したことないらしいので、なおのこと時間がかかるのだろう。


「私のことは気にせずともよい。今日はただのエッチなお兄さんとして来ているのだからな。言いたいことを言うがいいさ」


 コハクがこう言うのはジェルの言葉遣いが硬くならないようにという配慮だろう。ここはあくまで公式の場ではないのだから。コハクナイス!


「そう、だな……」


 ややあって、狼の口が開く。

 周囲には笑顔が溢れ、誰もかれもが祝おうとグラスを持っている。


 この光景はジェルにとってどういう風に見えているのだろう。

 さみしさのためにおれを引き取ったジェルが、こんなにも人に囲まれているなんて。


 ああ、ジェルはもう一人じゃないんだ。唐突に理解した。

 おれがいるから、とかじゃない。これはジェルが自分で勝ち取った人望なんだ。


「みんな、ありがとう」


 なんてことない言葉にも、おれの胸がいっぱいになる。

 おれに向けるような柔らかい笑顔じゃなくて、はにかんだそれはただただまぶしい。

 やがて気持ちを言語化することに成功したのか、おもむろに続きを口にする。


「私に感謝を、とのことだが……私は特別なことをしたわけではない。我がアーミライト家は騎士の家系であり、武勲をおごらず、地位に固執せず、騎士道を突き進むことで陛下の剣としてある家だ」


 どうしてサプライズにしたのかと、フォグたちに聞いたことがある。

 すると全員の答えは同じ。『絶対遠慮するから』だって。

 ジェルは自分がしたことを当然だと思ってる。人として当たり前のことを、当たり前にしただけだって。

 それがどんなに難しいことなのか、本人だけが知らない。


「困っている人がいれば手を差し伸べ、嘆いている人がいれば剣を差し出す。だから……そんな仰々しく祝われることではないと思うのだが……」


 そんなジェルだから困っているおれのことを見捨てるなんてできるはずがない。

 グリッジのところから引き取ってくれたのも、不思議じゃな……あれ。


「それでも、こうして面と向かって感謝を述べてくれるというのは嬉しいものだ。つらいこともあったが、私の選んだ道は間違いではなかったと胸を張ることができる」


 ジェルは言った。おれと家族になりたいと。

『私のわがままだとは承知で、私は……お前の父になりたいんだ』と。

 …………わがままだって、あのジェルが、そう言ったんだ。

 おれを引き取る最善は自分じゃないと分かったうえで、それでもジェルは隣にいてくれた。


 あーーやっぱりおれは自分が思った以上にジェルに好かれてるぞ。

 めちゃくちゃ嬉しい。


「にやついてんなぁ……まさか本当にうまくいっちまったとか……?」


 ヤードがぼそっと不機嫌そうにつぶやくけど、何か言った?


「別にー」尻尾でおれの背中を叩きながら。「ほら、そろそろ乾杯だぞ」

「こうしてまたお前たちと喜びを分かち合うことができて嬉しく思う。この場を設けてくれたすべての人、集まってくれたすべての人、また、私のことを案じてくれたすべての人に、私からも感謝を」


 グラスを掲げると、全員が続く。おれらの気持ちが一つになって。

 だけどおれはジェルしか見てなくて――――


「乾杯」

『乾杯っ!』


 自然にほころんだ合図を皮切りに、パーティが始まった。フォグたちが準備した料理はどれも一級品で、最高においしかった。傭兵街でもいい暮らししてたけど、やはり王都は格が違うわ。

 

 ジェルは主賓としていろんな人がかわるがわるあいさつされている。あのむっちりとしたこげ茶の犬は『茜差す栄光』のファンダルか。私服姿だと軍服より胸が強調されててすごいな……。


「ジェル様、本当に私を許しても大丈夫なのでしょうか……。私はグリッジ様の手先として、敵対行為をしていたというのに……」

「何度も言うがファンダル。それに関してはリブラとコハク王子から恩情をいただいている。私がとやかく言うことではない。だが、私の意見が欲しいというのなら、私は何度だって許そう。お前がしたくてしたことではないということ、理解しているつもりだ」

「ジェル様……」

「だが、コハク王子はこうもおっしゃられた。私が何か罰を与えなければ、リブラがいいようにしてしまうと。だから、もしよかったら、これからも仲良くしてくれないだろうか。罪悪感を抱えるお前に無理を言って会いに行くのは、つらいことだろう?」

「そんなことで、いいのですか……?」

「もちろんそれだけではないぞ。お前のところにランドを付けたのは監視の意味もあるということ、忘れるなよ。お前のつく先がグリッジではなく私になっただけのこと。これからは私の指示の下、より一層国に尽くすのだ」

「はい……かしこまりました!」


 物は言いようだなぁ。ファンダルのところに行くのはもとからランドの希望だったのに。

 派閥を作るつもりなんかないくせに、恩を売ったとあからさまに宣言することで、ファンダルの罪悪感を薄めようとしてる。人がいいなぁー。

 ってか、こんな意見、あの政治を大の苦手としているジェルからは絶対出ないから、多分コハクかフォグあたりに言われたんだろうな。


 ファンダルもそれをわかっているけど、いつか恩を返すという大義名分があれば、リブラに付け込まれることもないだろう。そういえば、リブラは来てないのか。まあ、あいつがジェルに感謝とかするヴィジョンが全く見えないしね。

 

「でも」ヤードがこっそりと教えてくれた。「ここの料理を手配したのは大体あいつなんだよ。おれ様の舌に合うものを教えてやるとか口出ししてきやがってな」

「あ、そうなんだ。素直じゃないなぁ」

「それがあいつらしいけど。フォグらは招待客の都合を確認したり、この家の執事と打ち合わせとかしてたから、リブラが料理を担当してくれて楽にはなったな」

「今度お礼を言っとくよ」


 最近は、というか傭兵街に行ってからご機嫌なことが増えたけど、リブラの機嫌がいい時って大体誰かがひどい目に合ってるんだよね。

 今は落とした傭兵街で派閥の後処理をしてるらしいけど、おれらの目がないからって絶対好き勝手してるに決まってる。珍しくゴライザらと手を組んでることから、ろくでもないことになってるのは確かだ。

 お目付け役にモウダンとノインがついてるけど、不安でしょうがない。多分駄目そうだと思ってる。


「ちょっといいか」


 リブラのやらかしを勝手に想像して辟易していると、ヤードに声をかけられた。

 誘われるままバルコニーに出ると、夜風が興奮を冷ましてくれる。


 サメは神妙な顔をしながら後ろ手に窓を閉め、低い声音で聞いてきた。


「……で、どうだったんだ?」


 まあそうだよね。何を聞きたいのかは大体察してた。


「無理だったよ」


 思ったよりすんなり口にできたのは、さっきのセックスを通してジェルの気持ちがわかってたからかも。ふられはしたけど、愛されてはいるから。まだこれからって自分を納得させられる。


 だけど口に出すとやっぱり寂しいや。

 おれは手すりに背中を預け、サメと向かい合った。


「おれのこと息子としてしか見てくれなくってさ、告白されたことにも気づいてなかった。まーでも、いいんじゃないかなって。息子としては愛されてるし、エッチなこともできるしね。これからに期待ってことで」

「そっか。お疲れさん」


 ヤードの声が慈悲に満ちてるから、思ったより表情を取り繕えてなかったかも。ジェルにもばれちゃったし、ポーカーフェイスって苦手だ。

 

「でもお前の勇気は無駄じゃない。また何かあったらおれらが相談に乗るから。ひとまず今は、よく頑張ったって褒めてやるよ」

「うん、ありがとう」

「発散したかったらいつでもおれの体でも使えよ……こんなことくらいしかできねえがな」


 サメの大きな手がおれを引っ張って、そのでかくて硬い体ですっぽりと包んでくれた。

 どうしてもさっきのジェルと比べてしまうけど、毛皮がない分硬さが目立つ。どっしりした安心感が、おれにとってはありがたかった。


「……やっぱ独占したいと思っちまうんだよなぁ。コハクのあれ、どうすっかな」

「コハクがどうかした?」

「んー、お前もすぐわかるだろうが、あいつがなんか変なことを企んでるんだよ。あの寂しがり屋の見栄っ張りがな」


 確かにこの前話した時も何か含みがあったし、何を企んでるんだか。今度聞いてみようかな。


 夜風にさらされているけれど、ヤードの体が温かいから寒さは感じない。それでもパーティを抜けていることを思えばあまり長居はできないだろう。

 ヤードもそう考えたのか、手を引いて戻るよう提案してくれた。


「戻るか。このままだとここでやっちまいそうだ」

「ムラムラしてるわけ? 今度やろうか?」

「頼む。やっぱお前じゃねえとあがらないんだ」

「やるなら部屋でやるよ。この前の露出騒動でコハクに怒られたばかりでしょ」

「でも楽しかっただろ?」

「まあ……」


 にやっと牙をむくヤード。こいつ、またやるつもりだ。


「なんだったら今、ここで、お前のものだって喘がせてくれてもいいんだが……。さすがにおれだってそこまで空気が読めないわけじゃねえし、今度でいいさ」


 サメの大きな手をつないだまま、おれらは会場へと戻る。本当にそれだけ聞きたかったみたいだな。そんなに急いで確認しなくてもいいのに。


 広い背中を眺めているとふっと思ってしまう。

 おれはどうしたいんだろう。いきなりこんな世界に飛ばされて、流されるがままいろいろやって、そして事態は落ち着いた。

 傭兵街行きも、コハクに組したのだって、状況がそうなったからだ。与えられた状況の中で、できることを選んできただけだ。

 おれは自分で状況を決められなかった。唯一決めたのはジェルへの告白だったんだけど、それは失敗したし、やっぱり自信を無くす。


 なんて考えながら会場に戻れば、にぎやかな声が迎え入れてくれる。

 おれは確かに状況を決められなかったけど、それでも、この光景はみんなでつかみ取ったものだ。こうしてみんながいてくれるから、それだけでも嬉しくなってしまう。

 

「おれはさ」前を向いたままのサメが言う。「お前が行きたいところならどこにだってついて行くつもりだ。今のおれにとって、もう地位とか名声とか、そういうのはいらねえからな」

「どうしたの急に?」

「ふん、落ち込んだ顔しといてそれはねえだろ。慰めてんだよ、素直に受け取ってくれ」

「そっか、ありがとう」


 好きなことをしていい。それはジェルにも言われたことだ。

 だけど、おれのしたいことってなんだろう。それはまだあいまいで、不確かなまま。


 あれ?

 ヤードの足が止まった。まだみんなの輪には少しだけ距離があるのに。

 その理由はすぐに気づいた。空気が硬いんだ。何かぴりぴりした雰囲気を感じる。


 いったいどうしたんだろう。中心にいるのはコハクとジェル。喧嘩するとは到底思えない二人が、この空気の発生源だった。


「コハク王子。私がなぜあの子の二つ名授与を断ったのかご存じですよね」

「すまない、こんな晴れの席で言うつもりはなかったんだ。酒と雰囲気のまれてつい口が滑った。この話はまだ聞かなかったことにしてくれ」

「私が貴方の性格を知らないとお思いですか。探りを入れてきたことくらいわかりますよ」


 察するに、コハクの慎重な性格からいって、おれのことでジェルに確認したら怒られたってところかな。ってかおれに二つ名付きの話来てたんだ、初耳。

 でも、ジェルはなんでそんなに怒ってるのかな。王子相手ということで顔は変わりないけど、いい気がしてないのは確かだ。


「あーあ、やっぱこうなるか」

「ヤードは何か知ってるの?」

「コハクの企み事だよ。多分その話だろうな。お前の二つ名についてはおれも知らん」


 周りの反応を見てみるに、ジェル以外の人は大体知ってた感じだな。いったい何の話なんだろうか。


「ですが」ジェルがしぶしぶといった体で譲歩する。「決めるのは私ではありません。あの子のためといって縛ることなどしたくはありませんから」

「何の話? 多分おれのことについてだよね」


 コハクがバツの悪そうな顔でそっぽ向いたぞ。おれがいないときにこっそりしようと思ってたなお前。

 

「あーなんだ、実は、君に折り入ってお願いがあるんだ」

「何々?」


 ジェルが怒るほどのお願いって想像つかないな。

 なんなんだろう。


 よほど変なものでなければ、おれは引き受けるつもりでいた。

 身寄りのないおれを引き取ってくれたジェルの顔を立てたいというのもあるが、コハクのことも好きだからね。


「実は……」


 でも、コハクの口から出てきたのはその『よほど変なもの』で。


「君に、部隊を一つ任せようと思っているのだ」

「え、おれに……? 部隊? なんで?!」

「君はエッチで他の雄をレベルアップすることができるだろ? だから、君の加護を受けた雄を重点的に集めれば、戦力としては申し分ない。それに、仕事場が王宮になるから、私も毎日会えるというわけだ」

「後半の方が本音っぽいのはまあいいとして、それで、なんでジェルが怒ってるわけ?」

「その場所がな……やはり性行為を中心にするとなると、普通の訓練所では難しいと考えて、白竜宮を使おうと思っているんだ」

「どこそれ」

「そうであったな。君は私のことも初見で思い出すのに時間がかかったくらいだった……」


 ジェルの教育は甘々だったので……それに、そんなに勉強の時間が取れなかったってのもあること忘れないでほしい。


「簡単に言うと、妃様が使う場所だよ」


 こそっとヤードが教えてくれた。……ってちょっとまって、そんなところ使っていいわけ?!


「だからジェル様がきれてんだよ。後継者としての立場が固まったコハク王子がお前を白竜宮に招待する。いくら新設部隊のためとはいえ、周りの連中が勘繰らないわけがない」

「なるほどねぇ。じゃあ別にそこじゃなくてもよくない?」

「まあそれがめんどくさいところで……後継者として立場が決まったとはいえ、まだ王は存命だ。他の場所をあてがおうにも許可がいる。それに、唐突にやってきたコハク王子が他の場所を使おうとすると反発を招く可能性が高い。戴冠前に無用な衝突は避けたいだろうな。一番簡単なのが、コハク王子の伴侶のために空いている白竜宮ってわけ」

「はあ……めんどくさいね」

「まあな。でも一番の理由は寝所に通いやすい構造になってるからだとおれはにらんでるね。お前に会いやすいようにってさ」

「回りくどすぎる……いや、確かに最近忙しかったからそうでもしないと行かないのはあるけど……」

「…………っま、なんやかんや理由をつけてたが、結局は外堀埋めだろうけどな」


 最後にぼそっとヤードが付け足したけど、なんだろう。確認しようとしたら、ジェルの言葉が耳に飛び込んできた。


「本来なら、あの子への二つ名の授与の話も持ち上がっていましたが、私の方で断りました。その名前には責任が伴う。この世界になじんだばかりのあの子に、そんな負担をかけるのは本意ではありません」

「あ、そうなんだ」


 別に欲しいかと問われるとどっちでもいいけど、責任が伴うと聞かされたらいらない方に傾いてしまう。確かに今まで出会った二つ名持ちは立場ある人がほとんどだった。めったにいない称号だから、いいポストを用意されるのだろう。


「お前なら欲しかったら申請すればすぐにでも通るだろうから心配はいらないぞ」


 とかヤードが言ってくれるけど、もういらない方に傾いてるので別にいいかな。


「コハク王子がお戻りになられ、身辺を信頼できるものでかためたい気持ちはよくわかります。ですが、あの子はグリッジの策で傭兵街に飛ばされ、コハク王子の策に使われ、いまだ自分の足で立ってはいないのです。どうか、今しばらく、あの子に猶予を与えてあげてはくださいませんか」

「ジェル……」


 確かに、それでおれが事件の渦中にいたのだから、ジェルからすればいい迷惑だろう。

 それにしても、まさかジェルが王子に反論するとは思わなかった。最初は国のためにおれを育てるって名目だったのに。


「はあ」根負けしたようにコハクがため息を吐く。「もちろん私とて無理強いするつもりはないさ。あいつは恩人なのだからね」


 おぜん立てして断りづらいようにしてたくせに、よく言う。


「だが、大事なのは君の意志だ、そうだろう?」


 そこでコハクはおれを見る。王子然としたひょうひょうとした瞳の中、確かにおれを求める臆病の色があった。


「なあ君、君よ、私のためにどうか、近くにいてくれないか」

「でも、急に隊長って言われても……」

「もちろん実際に戦えというわけではないさ。そういうのはしっかりと訓練を積んでからでもいい。君はいつも通り、性に溺れていればいいのだ。ただ、君がこの国に残した爪痕は深い。それを補う意味でも、引き受けてくれると助かる」


 おれは、これから何をしたらいいのか迷っている。

 グリッジの企みを打ち砕き、平和が戻ってきて、おれはこの世界でどう生きていけばいいのだろう。


 その道の一つをコハクが提示してくれた。

 この国に仕え、みんなとふしだらなことをして過ごす未来だ。


 それを悪くないと思うおれがいる。だっていつも通りだし。


 だけど。

『お前には好きな道を行ってほしい』

 なんて言ってくれたジェルの言葉が頭をよぎる。


 ジェルが言った通り、おれはグリッジやコハクの策に翻弄されてきた。立つ場所を決めたのは自分だけど、その過程に意思はなかった。


 だからおれは、ちゃんと考えてみようと思う。

 これからのことを、どうしたいのか。


 気づくと口が動いていた。コハクはこんなにおれを頼りにしてくれるから申し訳ないけど、いい機会だと思ったから。


「ごめん、ちょっとだけ考えさせてもらっていい?」


 本当に、おれはどうしたいんだろう。


toriaezu PIXIV FANBOX 102 favs
VIEWS1
FILES1 file
POSTEDJul 16, 2023
ARCHIVEDJun 10, 2026