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私はスポーツ系アイドルの山原かえで!
昔から習い事やお仕事で色んなスポーツを経験してきたから、それを活かしてスポーツ関係のテレビやイベントに出演してるの。
今日はボクシングのイベントでラウンドガールをするお仕事のために、ちょっと郊外の方にある会場まで来たよ!
◇
「お疲れさまでーす!」
私はいつものように元気いっぱい裏方さんたちに挨拶をした。
「……。」
でも、この会場の裏方さんたちは何だか無愛想な感じ。あんまり良い気分はしないけど、私はアイドルだもんね。笑顔は忘れないようにしなきゃ。
「あぁ、出演者のかえでちゃんだね。打ち合わせをするからこっちにおいで。」
そう言って、奥の方から色んなところに入れ墨が入ってる男の人が歩いてきた……。正直、ちょっと怖いかも。
「はい!よろしくお願いします!」
お返事をして男の人についていくと、地下の薄暗い部屋に通された。
その部屋には、今ついてきた人と同じような雰囲気の男の人達が何人かと、私と同じくらいの歳の女の子が一人待っていた。
「え、えっと……。こちらは、私と一緒にラウンドガールをされる方でしょうか……?」
何だか重苦しい雰囲気に耐えられなくなって、私はそう聞いてみた。
「……あぁ、かえでちゃん。あんた今回が初めてだったね。じゃあ何も聞かされてないのも仕方無い。ちょっとこっち来て、この契約書を見てごらん。」
一番偉そうな感じの男の人に言われて、私は契約書の紙に目を落とした。
「…………へ?」
そこには、目を疑うようなことが書いてあった。
『山原かえで vs 畑山奈々 アイドル同士の全裸ボクシングマッチ!』
タイトルからして、常軌を逸している。
「ど、どういうことですか!?私、ラウンドガールだって聞いてきたんですけど……。」
「あぁ、最初は大体みんなそうやって騙されて来るんだよ。あんたの事務所も相当苦しいってことだろう。」
「……。」
あり得ない。『全裸ボクシング』なんて……。
「……私、帰らせていただきます。」
勇気を出してそう言った。万が一のために右ポケットのスマホを握り締める。
「あぁ、それならそれで構わないよ。違約金を事務所に請求するだけだから。でもそうなったら事務所は潰れちまうだろうなぁ。あんたのアイドル活動だって、今後一切出来ないようにしてやるぜ。」
目の前が真っ白になった。
「でも、そんな……。」
「あぁ、安心していいよ。観客はスマホやカメラの類を一切持ってない。主催者の俺たちが設置する中継用のカメラが何台かあるだけさ。」
「カ、カメラ!?撮られるってことですか……?」
「いやいや、大したことじゃないさ。……ほら、そろそろ準備をしなきゃな。じゃあ、後は任せたぞ。」
私に多くは語らせない、といったような感じで、偉そうな男の人はそのまま部屋を出ていってしまった。
「……。」
するとその直後、今まで黙って座っていた奈々さんが立ち上がった。
「あ、あの……。」
私が話し掛けようとしたその時。
スルッ
「ひゃ!?え、あの!?」
当惑する私を無視して、奈々さんはあっという間に服を脱ぎ、裸になってしまった。男の人の前なのに……!
「……あなたもアイドルなんでしょ?」
奈々さんは、男の人達にグローブをはめてもらいながら、私に話し掛けてきた。
「なら、覚悟が足りないんじゃない?」
「か、覚悟……?」
「今、アイドル業界は厳しいの。こういう仕事だってこなしていかなきゃ、生き残っていけないのよ。」
そのまま、彼女は部屋を出ていってしまった。本当に何も身に着けずに、廊下に……。
私も、ホントに脱がなきゃいけないの?まだ男の人に下着姿すら見られたことないのに。
ここで帰れば、恥ずかしい思いをしなくて済む。でも、そうすれば二度とアイドルとして活動することは出来ない。
『覚悟』
奈々さんの言った言葉が、頭の中をグルグルと巡っている。
◇
「あ……あ……。」
私は、裸になっていた。記憶が定かじゃない。どうやって脱いだのかは分からない。
でも私は確かに今、2人の男の人の前に裸で立っている。
「ひっ、いやっ!?」
急に腕を掴まれて、身体中に電気が走ったような感覚に襲われた。
「ちっ、動くなよ。グローブはめれねぇだろうが。」
「あっ……。す、すみません……。」
私の格好を全く気に留める様子もなく、男の人達は私の手にグローブをはめた。
「うぅ……。」
これでは、上手く身体を隠すことが出来ない。
「あぁ、観客の前では隠したりするなよ。興が醒めちまうからな。」
「そ、そんな……。」
パシッ!
「んぁ!?」
男の人の一人が、私のおしりを強く叩いた。
「ほら、とっとと行くぞ。」
腕を引っ張られる。
廊下に出ると、たくさんの人がいた。私を見ている。何も着ていない、裸の私を見ている。
そのまま廊下を歩いていくと、段々とざわめきが聞こえてきた。10人や20人ではない。50、いや100人くらいかもしれない。
扉が開け放たれ、私は観衆の面前に引き出された。
「あ……、あぁぁ……!?」
脚がガクガクと震える。今すぐにしゃがんで、恥ずかしいところを隠したい。見られたくない。恥ずかしい。恥ずかしい。
『さぁ、やっと到着しました。赤コーナー、山原かえで選手!今回、初めての全裸ボクシング参戦です!』
「ヒューヒュー!」
もう、何が何だか全く分からない。みんなが裸の私を見ていて、私は何も出来ずに突っ立っている。
『さぁ山原選手、リングへどうぞ。』
アナウンスに促され、私はリングに上がる。そこには、既に奈々さんが待機していた。
「あら、意外と根性あるじゃない。前の子は泣きじゃくっちゃって、一人ではリングに上がれなかったのよ。」
奈々さんがニヤリと笑う。
「あ、あの……。奈々さん、恥ずかしくないんですか?だって、こんな……。」
私は声を絞り出す。
「恥ずかしい?……この程度、アイドル辞めなきゃいけなくなるよりよっぽど……」
『さぁっ!それでは早速試合を始めましょう!』
奈々さんの声は、アナウンスに掻き消された。
カーンッ!!
……そして、試合開始のゴングが鳴った。