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「そんなわけで、今回使用する水着がこちらです」
「うん、水着じゃないねコレ」
「完全にラバースーツね」
「マーメイド型ラバースーツです。発想自体は新しいものじゃないから、作るのは難しくなかったみたいですけどね」
マーメイドボンデージ、という単語自体は耳慣れないが、この形の拘束衣は界隈では一定数存在している。それだけで真新しくはない。
だから、というわけではないのだろうが、見せられたのは全身を覆うタイプのラバースーツだった。下半身部分が人魚らしくなっていて、何やらごわついている。ファスナーはないから、ネックエントリー式だろう。
少し珍しいのは、ラバースーツが鼻の上まである。マスクがくっついているような感じだ。
「はい、こんな感じです。見ての通りネックエントリーのマーメイドラバースーツで、色々と細工がしてあります」
「細工って」
「ほら、ここに」
「……正気?」
よく伸びる首元のラバー生地の中から、二本のディルドが現れた。
何を言っているかわからないかもしれないけれど、私も混乱している。とりあえずスーツを床に横たえてみた。
しっかりフィンの役目を果たしてくれそうな尾びれ、どうやら内側で仕切りが一枚あるらしい脚部分。それを上へ辿っていくと、ちょうど股にあたる部分に玩具が取り付けられていた。
膣とお尻に入れるのだろう二本に加えて、ちょうどクリトリスにあたる部分に怪しげなものがくっついている。これは確実に振動するだろう。
それ以外は普通のラバースーツだ。形自体は珍しくもない。それだけに、股間部の凶悪な構造が異彩を放っていた。
「呼吸にはこれを使います」
オリが次に取り出したのは、チョーカー……のようなもの。ファッションにも使えそうな、首の動きをぎりぎり阻害しない程度に分厚い硬質な首輪だった。
これ、見たことがある。オリが懇意にしているとあるベンチャー企業が、ひっそりと運用している発明品だ。
「箱詰倶楽部さんからマイクロ酸素タンクをお借りしました」
「出た、謎技術」
「この首輪の中に酸素が圧縮して詰められています。これと口元のマスクを繋げば、大きなボンベを背負わずとも水中で息ができるわけです」
「効果時間は?」
「普通にしていれば、20分くらいですね」
充分にとんでもない技術だ。もっとも、会員制とはいえ配信に使っている時点で情報には注意を払っている。
実はこれ、箱詰倶楽部で使用された本物はもっとおかしい。これと同じサイズで数時間は余裕でもつのだ。それに比べれば、このせいぜいが既存品の倍程度の効果時間なんてオモチャ同然である。
……で、危うく聴き逃しそうになったが今また重要発言があった。
「普通にしていれば?」
「呼吸が乱れたりすれば、その分ロスが出て早く酸素がなくなりますよね」
「……なんとなく理解できたわ。これからさせられること」
この首輪からチューブが繋がって、マスクを経由して鼻へ呼吸を確保する仕組みだ。チューブは目立たないように耳の下を経由して顎のラインに密着している。首輪と一体化するように調節されているらしい。
口のあたりはというと、何やら弁のようなものがついている。装着時に詳しく見てみることにしよう。
「で、この首輪なんですけど、実は今回のための特製品でして。首の後ろ側、ここにジョイントがあります。
このジョイントを、水槽の壁、向かいにひとつずつある……アレとアレですね。あそこに繋ぐことでタンクの酸素が補給されます」
「ちなみに、その近辺にある拘束用っぽい器具は?」
「拘束用です。呼吸経路を使いながらだと詰め直しに三分ほどかかりますので、その間暴れて外れたりしないように」
「拘束は自動?」
「それぞれ枷に押し付けると、勝手に拘束してくれます」
「ちなみにその間、体は?」
「無防備ですね。ついでに、繋がっている間は股間部のオモチャが振動するようになってます」
つまりこうだ。少なくとも20分に一度、酸素補給のために動きを止める必要がある。この時に快楽責めが行われるから、この補給は配信的には多いほうがおいしい。
そして、それ以外の時間で呼吸を増やしたり息を乱したりすることで補給の感覚は短くなる。だから、
「私たちは水中でキャットファイトしてお互いの呼吸を削り合い、相手が補給のために拘束されたらそこを責め立てればいいと」
「そうなりますね。配信的には、ぜひ百合百合しいところを見せてほしいですし」
ミスト・スランバーの配信にしてはまだ易しい方かもしれないが、充分にマニアックなプレイである。
「時間で発動するギミックも用意してあるから、飽きることはないと思いますよ。ひとまず前半はそんな感じで」
「後半は違うの?」
「終盤はもっとSMプレイっぽいことをしていただくつもりです」
水中でSMプレイって、もう水責めしか思いつかないのだけれど。隣に待機する円筒状の水槽とクレーンが怖くて仕方ない。この会社、このプレイに対してどれだけ本気なのだろうか。
まあ確かに、これを着けて泳ぐだけならそこまでの負担にはならないだろう。悶々としたまま四時間の遊泳となるよりは、曲がりなりにもSMプレイをしてくれたほうが楽かもしれない。
どう考えても思考回路がバグっているが、嫌ではない。むしろ興奮し始めていた。私たちとてミスト・スランバーの一員なのだ。