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「いよいよだね。」
姉の千華とパソコンを見つめながら、栗原かおりはそう語る。
「...今更言うのもなんだけど、あんな怪しい小包を信用する人がいるのかね?」
「一人でも見てくれれば成功するから大丈夫だって!そういう物好きにしか送ってないし。それじゃあ早速、最終テスト開始!」
かおりはそう宣言すると、パソコンのエンターキーを押した。
「...うわっ、本当に来たよ。」
同時刻、ある青年が別の場所からインターネットを見ていた。その手には謎の宛先から送られてきたヘッドフォン。これが入っていた小包には「〇〇日の午前0時にこちらのウェブサイトにアクセスしてください」というメッセージが入っていた。
「暇だったからアクセスしてみたけど、さすがに危ないよね...でも見る限りただのブログっぽいし...」
そのブログは催眠音声のレビューを行っているようだ。催眠など鼻から信用していない彼ではあったが、ここまで熱心に宣伝していると逆にどんなものか気になってくる。
「趣味が高じて初めて作りました!だって...誰も聞かないってのも寂しいだろうし、ちょっと聞いてやるか。」
そう考えた青年はヘッドフォンを装着し、ベッドの上で目を閉じた。まさかその音声が自分の運命を狂わせるとも知らずに...。
(頭の力を抜いて…リラックス、リラックス...)
女の子の声が、僕に語りかけてくる。どうやら効果をかけやすくするために頭を空っぽにするところから始まるらしい。マッサージみたいで、少し気持ちいいかも...
(もっと気持ちよくなりたい?じゃあ体の力も全部抜いちゃおうか。手から足から力が抜けていって...もう動かすこともできないんじゃない?)
...本当だ、いつの間にか体が動かなくなっている。涙腺まで緩んでしまったのか、涙が止まらない。
(次第に体がポカポカしてくるよ。下腹部に集中して。どんどんポカポカが集まって~)
~膨らんでいく。お腹の中が温かい。
(~ポカポカ、ポカポカ~)
ポカポカ。その言葉を聞くたびに、どんどん膨らみは増していく。思わず足を閉じてモジモジしてしまう。
(ねえ、お腹のポカポカを我慢してるでしょう?ダメだよ、我慢するために身体を強張らせちゃうじゃん。全然リラックスしてない。)
リラックスしてない。その言葉を聞いた途端、風船がしぼむように気持ちよさが抜けていく。いやだ、もっと気持ちよくなりたい。
(慌てないで。吸って、吐いて、吸って、吐いて...深呼吸、深呼吸~)
深呼吸、深呼吸...ああ気持ちいい、気持ちいい。しぼんだ風船は吐いた息でまた膨らんだ。
(もっともっと気持ちよくなりたいでしょ?まだまだ力は抜けるよね?出来るよね?)
なりたい。気持ちよくなりたい。強迫観念が少し強めの口調に後押しされる。気持ちいいことは力を抜くこと、我慢しないこと。先程の体験でそう刷り込まれた僕にはもう我慢する理由はなかった。
(~ポカポカ、ポカポカ~)
また魔法の言葉は繰り返される。重ねがけされたからか、ポカポカは体を汗だくにしていく。でも汗は拭わない。腕を動かす筋肉がポカポカできなくなる。
(~ねえ知ってる?女の子の体って、ポカポカの我慢が利かないんだよ。体も華奢で、必要以上の筋肉が~)
「私」は女の子の体を夢想していた。そうすればもっとポカポカになれると知っていた。
(~ポカポカ、ポカポカ~)
もはや手足の感覚さえもサウナのようなポカポカに支配され、体は形を成しているかもわからない。まるで体中がポカポカのチーズになったみたい。ポカポカして、溶けてなくなってしまいそう。
(ポカポカもそろそろ限界かな?必要以上に「我慢」するのはよくないからね。少しずつ、抜いていこうか。)
我慢。その言葉に拒否反応を覚えた次の瞬間、私の体は風船の中のポカポカを抜き始める。
「あぁぁ...」
風船は大きさを保つことが出来ず、ポカポカはヒンヤリに変わり、チーズは個体に戻っていく。ポカポカもヒンヤリも心地よく、全てを力なく受け止めた。
「......。」
やがてすべての感覚はヒンヤリに変わり、真の安寧が訪れた。
「お疲れ様。これで催眠音声は終わりだよ。もし気に入ってくれたら、この音声を広めてくれると嬉しいな。みんなで一緒に、ポカポカを共有しよう?」
そんな言葉を聞きながら、私は安寧の闇に沈んでいった。
「う~ん?」
気が付くと、私は朝日が差すベッドの上にいた。どうやらそのまま寝てしまったらしい。 布団に潜らずに寝たからか、とてもヒンヤリした私の体。それとは対照的に、下腹部ではポカポカした「おむつ」が湿っていた。この心地よさは名残惜しいけど、おむつを替えよう、そう思って私は立ち上がる。
「あっ...♡」
その瞬間、おむつの中をポカポカが心地よく広がっていった。ポカポカは決して我慢しない。いつものことなのに、今日は一段と心地よい。私はまるで生まれ変わったような朝にそのままうっとりと浸かり込んだ。
「全部で2400円になります。はい、ありがとうございました。」
とあるスーパーの昼下がり。
「...最近やけに紙おむつが売れている気がするな。」
とある店員はあることに首をかしげていた。紙おむつの在庫切れが激しく、どんどん補充しなければならないのだ。しかも買う人たちは高校生ぐらいの子育てには若い女性ばかりで、実際赤子を連れている姿は一度も見たことがない。
「これは一体...?」
その瞬間、店員は膝下に温かい感覚を感じた。
「あっあっ...♡」
股からポカポカが広がっていく。
「あぁ...」
彼女はあまりの快楽に崩れ落ちた。しかし、その異常事態を気にする人間はいない。
「~ポカポカ、ポカポカ~」
スーパー内の全ての人間がポカポカに溺れていた。