見習い巫女、天ノ川蛍子(あまのがわ ほたるこ)は
今日も妖怪退治の修行に明け暮れていた
蛍子「ひぃぃぃぃっ!やばいやばいやばい!棒が折れるぅぅ!!」
紅葉(こうよう)(神社の階段に座って見守りながら)
「喚いてないで反撃しろ、耐えてるだけじゃ食われちまうぞ」
蛍子
「無理言うなぁ!!こんなの見習いにどうこう出来る相手じゃないってぇ!!」
紅葉(丸太に座り、肘を膝につきながら)
「棒なんて使うからだろ。素手でいけ素手で」
蛍子「そういう問題じゃなぁぁい!!」
パキッ (棒が音を立てて折れる)
蛍子・紅葉「あっ」
蛍子:「いやぁぁぁぁぁ!!!」
~鴉鳴(からすなき)神社~
蛍子「もう無理ぃぃ!こんな仕事やりたくなぁい!」
紅葉「うるせぇなぁ。カエルに食われただけで大騒ぎすんな」
蛍子(布団をガバッと剥がし)
「『だけ』って何よ!だけって!、胃袋の中って暗いし臭いしヌルヌルなのよ!?服も溶けて使い物にならなくなるし!二着しかないのに!もう最悪ぅ!」
紅葉(軽く耳をほじりながら)
「巫女の仕事なんてそんなもんだ。そのうち慣れる」
蛍子(新しい服を着ながら振り返り)
「慣れるかぁぁ!!そもそも、なんで巫女が妖怪退治なんてしてんのよ!普通はさぁ、白い衣装で鈴振って神様にお願いしたり、お守り売ったりする仕事でしょ!」
紅葉(面倒くさそうに)
「ばーか、今どきそんなことで食えるわけねぇだろ。巫女の本業は妖怪退治だよ。神事で稼いだ金は神社のもんで、オレらの取り分はゼロ。だから自分の分は妖怪退治で稼ぐ。それが基本だ」
蛍子(目を丸くして)
「そ、そうなの…?」
紅葉(頷きながら)
「おう」
蛍子(納得しかけるも)
「そっかぁ…って、いやいやいや!おかしいでしょ!そんなの巫女じゃなくてハンターじゃん!」
紅葉
「似たようなもんだろ」
蛍子(身振り手振りで否定しながら)
「全然ちがぁう!だいたい、それが本当ならもっと世間で知られててもいいでしょ!私たち以外で妖怪と戦う巫女なんて見たことも聞いたことも……」
蛍子
「ある…かも」
紅葉
「だろ?」
蛍子
「いやいやいや、でもあれはフィクションだから!現実じゃありえないの!…わかった!紅葉おばさんって実は特殊部隊とかの人なんじゃないの!?この神社は秘密の軍事施設で、私みたいな優秀な子供を鍛えて兵士にする施設とか……」
紅葉(じと目で見つめながら)
「おいおい、脳みそまで溶けちまったのか?優秀?おまえ、さっきカエルに食われて泣いてただろうが」
蛍子
「あれは夢!幻!わたし気失ってたし!つまり…脳の錯覚!」
紅葉(あきれながら)
「都合の良い脳みそしてんなぁ。じゃあ、村人に裸見られたのも幻覚ってか?」
蛍子「いやぁぁぁ!?思い出させないでぇぇ!!胃液まみれで臭いまま川まで全裸で走ったら、村の人に見られた上に臭いでゲロ吐かれたとか、ホントに死にたくなるからぁぁぁぁ!!!」
紅葉(ちょっと引きながらボソッと)
「……鮮明に覚えてるじゃねぇか」
蛍子(猛反発)
「とにかく!もう妖怪退治なんて絶ぇぇ対っ!やらないから!断固拒否!ストライキします!」
紅葉(ため息を吐きつつ)
「はぁ~…またかよ。毎度懲りねぇやつだなぁ……おい。」
蛍子(ビクッとしながら)
「な、なによ……?」
紅葉(じりじりと迫りながら)
「親戚にたらい回しにされて、行く当てのねぇお前を拾ってやったのは誰だ?」
蛍子(視線を逸らしつつ)
「そ、それは紅葉おばさんだけど……」
紅葉
「そう、紅葉おばさんだ。ちゃんと覚えてるじゃねぇか。」
(間を置いて、じっと睨みながら)
紅葉
「じゃあこれも覚えてるよなぁ?これは慈善事業じゃねぇ。“条件付きの仮雇用”だって、オレちゃんと伝えたよな?」
蛍子「うっ!?」
紅葉
「条件は『一人前の巫女になってオレの跡を継ぐこと』だ。」
紅葉
「確かお前、喜んで『やります!』って言ってた気がするんだが……あれ、オレの聞き間違いだったか?」
蛍子(焦りながら)
「いや、それは……まぁ……喜んだというか、脅されて仕方なくというか……」
蛍子:「ふぎゃっ!?」
(紅葉、いきなり蛍子の頭を掴んでぐいっと引き寄せる。)
紅葉(顔を寄せ、低い声で)
「よ・ろ・こ・ん・で・た・よ・な…?」
蛍子(涙目になりながら)
「はいぃ!!喜んでましたぁ!すっごく嬉しかったですぅぅ!!」
紅葉(掴む手に力を入れながら)
「そうだよなぁ。そんなお前が。オレに。逆らえる立場か?…ん~?」
蛍子(もがきながら)
「あががががっ!?逆らいま、逆らい、ま……うぅー!!」
(紅葉の手を振りほどく蛍子)
紅葉(思わぬ抵抗に驚く)
「むっ」
蛍子(涙目で頭をさすりながら)
「い、いつもいつも暴力に屈すると思ったら大間違いなんだからぁ!だ、第一、妖怪退治するなんて聞いてなかったし!これは詐欺よ!詐欺!」
紅葉(聞いてやろうと)
「ほぉ?」
蛍子(勢いづいて)
「引き取ってくれたことに感謝はしてるけど、こんなの命がいくつあっても足りないんだから!妖怪に食われるより外で飢え死にするほうがずぅ~~っとマシよ!」
紅葉(あっさりと)
「まぁ、それはそうだな」
蛍子(さらに勢いづいて)
「でしょ!?だいたいねぇ!妖怪退治なんて古臭いのよ!都会生まれのわたしには似合わないの!そういうのは紅葉おばさんみたいな脳筋ゴリラが…」
紅葉「あ”ぁ”?」
蛍子「あっ…」
(紅葉の目が据わり、しばしの静寂。)
紅葉
「……今、なんて言った?」
蛍子(冷静に息を吸う)
「ッスー…」
蛍子(冷静に言い訳するも額に汗が)
「…聞いて?今のはね、悪口じゃないの。ゴリラってね、賢いのよ?それに強いし、頼りになる」
紅葉
「ほぉ、褒め言葉ってわけか?」
蛍子(笑顔を引きつらせながら)
「そ、そう!と~っても純粋な褒め言葉!悪意ゼロ!善意100%!」
紅葉
「なるほどなぁ……でもよ、“脳筋”って言ってたよな?」
紅葉(にっこりと笑み)
「“脳筋”なゴリラが賢いか?賢くねぇよなぁ…?」
蛍子(汗だくになりながら)
「いや、それは……そのぉぉぉ……ハイ……」
紅葉「じゃあただの筋肉バカじゃねぇか!!」
蛍子「ぎゃあぁぁぁっ!?ごめんなさいぃぃ!」
蛍子(タンコブをさすりつつ涙目で)
「いたいぃ~…いたすぎるぅ~…もー、今日、私泣いてばっかりじゃ~ん…。ねぇ、へこんでない?わたしの頭、中華鍋みたいになってない?ねぇ~えぇ~!」
紅葉(呆れて一言)
「知るか!ったく……日に日に反抗的になりやがって。良い加減にしねーと飯抜きにするからな!」
蛍子(ジト目で見つめながら)
「何が飯抜きよ……いつもご飯作ってるの私なんですけど?」
紅葉(ムッとしながら)
「たまにはオレも作ってやってるだろ!」
蛍子(眉をひそめて、小馬鹿にした表情で)
「スーパーの総菜並べるだけじゃん……それ、作ったって言える?」
紅葉(ちょっと恥ずかしい)
「う、うるせぇ!料理は料理だ!気持ちが大事なんだよ!」
蛍子
「へーえ、じゃあ次から私もそうしよ~っと。気持ちが、大事なんだもんねぇ?」
紅葉(真っ赤になってゲンコツを振り上げる)
「この……!!」
(時間を確認した紅葉が立ち上がる。)
紅葉
「ちっ、余計な時間くっちまった…おい蛍子!オレは仕事行ってくるからな!」
蛍子(ふくれっ面で)
「ど~うぞご自由に~!その間、わたしはの~んびりするから!」
(紅葉、鋭い目でギロリと睨む。)
蛍子(ビクッとして手を振りながら)
「ひっ!?ウソよウソ!冗談だってば!」
紅葉
「いいか、修行と掃除は毎日かかさずやれ。依頼が来たら必ず受けろ。サボったら……」
紅葉「吊るしてカエルの餌だ」
蛍子(ぎょっとして慌てて立ち上がる)
「ひぃぃ!わ、わかった!やるから!やればいいんでしょー!?」
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~夜の鴉鳴神社~
薄暗い提灯が揺れ、虫の声だけが響く静かな境内
リィィーン リンリンリン…
蛍子(ため息をつきながら)
「あーあ、結局、紅葉おばさんの圧力に負けちゃった…。おばさんがいない間くらい楽したいのにぃ…。というかいつまでやればいいのよこれ。落ち葉が無限に落ちてくるんですけど…」
蛍子
「あーん!もう!なんでこんな時間にこんな場所でこんな無意味な事しなきゃいけないのよ!一生終わらないんですけど!夜の神社なんてどうせ誰も来ないんだしやらなくても…」
タッタッッタッタッ……ハァ…ハァ…
遠くから急な足音と荒い息遣いが聞こえる。
蛍子(眉をひそめて)
「……え?何、今の音?……誰か来た?お客さん?こんな時間に?」
タッタッタッタ… タタンッ
ハァ…ハァ…ハァ…!
足音がどんどん近づき、慌てた様子で駆け込んでくる男の姿が見える。
男
「ハァ…ハァ……っ!?」
男はキョロキョロと周囲を見渡し、蛍子を発見する。
男「はぁっ…!はぁっ…!たっ…助けてくれぇぇぇぇ!!」
蛍子「ひぃぃ!?」
蛍子(驚いてほうきを構え、防御態勢)
「ちょ、ちょっと何!?何なのよ急に!!変質者!?変質者でしょ!?変質者だぁぁぁ!!」
男は境内で勢い余って転びそうになりながら、さらに近づいてくる
男(必死に手を伸ばしながら)
「ち、違いますぅ!!ボク!妖怪に、妖怪に狙われてるんですぅ!!」
蛍子(ピタッと動きを止めて)
「ひぃぃ!?……って、……よ…妖怪?」
男「ぞうなんでずぅ~っ!!たすけてくださぁぁいっ!!」
蛍子「いやぁぁぁ!!??」
男(半ば泣きながら蛍子の袴にしがみつく)
「お願いですぅ!巫女さんでしょ!?なんとかしてくださいよぉ!このままじゃボク、ほんとに死んじゃうんだってばぁぁぁ!!」
蛍子(顔を真っ赤にしてジタバタ)
「きゃーーーー!!やめて!やめてってば!!袴の横の絶妙に穴が開いてるところ引っ張るのやめて!!脱げる!脱げちゃうからぁぁぁ!!」
男(さらにしがみつきながら)
「おねがいしますぅ!おねがいしますぅ!!!」
蛍子(パニックになりながら、なんとか男を宥めようとする)
「わ、わかった!わかったから一回落ち着いてぇ!!……ね?中で話聞いてあげるから!だから一回離れてぇぇ!!」
鴉鳴神社~客室~
蛍子
「はい、お茶。熱いから気をつけて飲んでね」
男(興奮冷めやらぬ感じで両手でガクガク震えながら茶を受け取る)
「ハァハァ、あ、あ、ありがとうございますっ!こんな僕のためにわざわざお茶まで淹れてくれるなんて…!うわぁ、なんて優しくて…け、健気な巫女さんなんだぁぁ!ハァハァ!」
蛍子(ビクッと後ずさりしながら目を細める)
「い、息が荒すぎるぅ…ホントに変質者じゃないんでしょうね…?」
男(慌てて否定しながら)
「ち、違う違う!!ボク、女の子と会話するのに慣れてなくてさぁ、しかも、アニメでしか見た事無い巫女さんが目の前にいると思うと緊張で手が…あぁぁっ!(ガタガタ」
蛍子(茶碗の揺れを見て冷や汗をかきながら)
「ちょ、揺れてる揺れてる!わ、わかったわかった!信じるから!いいから落ち着いて飲んで頂戴、ね?」
男
「あ、ありがとう…!……ズズズッ」
蛍子
「はぁ……で?さっきは何であんなに慌ててたの?妖怪がどうとかって聞こえた気がしなくもないんだけど」
男(急に思い出したように顔を上げて)
「ッ…!?あっ、そうだ!妖怪だよ!妖怪!僕、妖怪に取り憑かれてるんだよ!」
蛍子(めんどくさそうな眼差し)
「へ~、そ~なんだ~…」
蛍子の心の声
(うわー、やっぱりそういう話かぁ。今日ただでさえ疲れてるのに深夜営業とか勘弁してよ~。夜更かしは美容の敵なのよ?もー!掃除なんてせずに「立入禁止」の看板でも作っておけばよかった…)
男(震えながら目を泳がせる)
「いや、ほんとなんだよ!疑う気持ちはわかるけど信じてくれ!ボク、ちょっと前に古いお屋敷に引っ越したんだけどさ、夜になると変な声が聞こえるんだ!それがとてつもなく怖いんだよぉ!!」
蛍子(ごくりと息を飲む)
「へ、変な声って……どんなのよ?」
男(顔を青ざめさせながら)
「それはもう悍ましい声だよ……夜中になるとね、どこからともなく聞こえてくるんだ……『うわん』…『うわん』…って。あぁ~!!思い出すだけでも恐ろしいっ!!」
蛍子(すこし無表情になった後、吹き出して)
「…ぷっ!あはは!なによそれ!ただの犬じゃない!」
男(大慌てで)
「えぇ!?ち、違う違う!そんなんじゃないって!」
蛍子 「いーや、絶対そう。ほら、『う~、わん!わん!』って。こんな感じでしょ?はい、これで解決!いや~、心配して損しちゃったぁ~」
男
「か、かわいい……」
蛍子(きょとん)
「えっ?」
男(真剣な顔で食い気味に)
「……い、今の犬のモノマネ、もう一回やってくれる?」
蛍子(ドン引き)
「…………えぇ?」
男(ハッとして両手を振り)
「ハァ!?ち、違う! 今のは冗談! 冗談だから! ははっ!はははっ……」
蛍子(さりげなく距離を取る)
「……(スゥ~」
男(誤魔化すように)
「と、とにかく! そんな可愛いレベルじゃないんだよ。もっとこう、低くてしゃがれてて、脳に直接響くような声! そう、痰の絡んだおっさんが耳元で囁く感じっていうか……!!」
蛍子(嫌そうな顔で)
「うぅ!?生々しい例えやめてよ!想像しちゃったじゃない…(げんなり」
男(声を上げながら興奮気味に)
「ご、ごめん!でも絶対普通じゃないよね!?最初は微かに聞こえるだけだったのに、どんどん大きくなってきて、最近じゃヘッドホンしてても貫通してくるんだよ!大音量で聞いてるのに!」
蛍子(微妙な顔で腕を組む)
「そ、それはまぁ、確かに異常ねぇ……じゃあ近所のいたずらとか?」
男(大きく首を振り、怯えながら)
「いや、それはないよ!だって隣なんてないんだよ!ボクが住んでるのは郊外の古いお屋敷で、周りには誰も住んでないんだ!しかも、最近は外出先でも聞こえるようになってきてさ!まるで、ボクを追いかけてるみたいに…ひぃぃ…!」
蛍子(内心怯えつつも冷静を装って)
「… い、一応、警察とかには相談したの?」
男(机から乗り出し、顔を近づけながら早口でまくし立てる)
「もちろんだよ! 防犯カメラも盗聴器も全部調べてもらったけど異常なし! なのにあの声はボクにしか聞こえない。警察は『気のせいじゃないですか?』って言うし……こんなのありえないよ! ボクはこんなに怖い思いしてるのに! 推しのシチュボを楽しんでる最中に、急にキモいおっさんの地獄みたいなASMRが始まるこの気持ち!!キミに分かるかいっ!?」
蛍子「いや、それはちょっと、わからない…というか、わかりたくないかも……」
男の話を一通り聞いた蛍子は、顔に手を当て情報を整理する。
蛍子
(姿は見えない、声は自分にだけ。しかもどこへ行っても聞こえる。…あー、これ絶対妖怪じゃん。しかも執着するタイプ。こういうのって大体ヤバいやつばっかりなのよねぇ…)
蛍子(頭にイメージを浮かべながら)
(紅葉おばさんだったら、「おらぁぁ!」って叫びながら素手で引っ掴んで地面にビターン!で終わりなんだろうけど、私がやったら逆にビターン!される未来しか見えないのよねぇ…)
蛍子(頭をガリガリと掻きながら)
(あー、もー!何で私が一人の時に限ってこんな厄介なのが来るのよ!しかも夜よ夜!せめて昼に来なさいよ!非常識よ!くぅ~…あとちょっと来るのが遅かったら絶対居留守してるのにぃ~…!)
蛍子(ハッとする表情)
(いや、いやいや、落ち着きなさい蛍子。まだ『妖怪』だと確定したわけじゃないわ…きっとただの思い過ごし!だってこの人さっきからちょっとおかしいもん。だいたい、いくら必死だったとしても見ず知らずの子供に抱きつく時点でヤバいでしょ…。よし、もう少しだけ話を聞いてみましょう。そして通報しましょう。全国の子供達のためにも…そして、私の身の安全のためにも!)
男(憔悴した表情で)
「警察は結局『証拠がない』の一点張りで捜査は打ち切り。ボクは
必死に抗議したけど…
男
「最後には精神科まで勧められたよ…こんな屈辱、初めてだよ…」
蛍子(棒読みで)
「ソ、ソレハタイヘンダッタワネー…」
男
「頭にきたボクは、この悪質極まりない警察の不当対応をネットの掲示板で告発したんだ。そうしたら『いい年したおっさんが何言ってんだ』ってボロカスに叩かれたよ。こんな屈辱、初めてだよ…」
蛍子(遠い目で)
(ああ、恥の上塗り…)
男
「心無い中傷に傷ついたボクは片っ端からレスを返して謝罪を要求したんだ。そうしたら今度は住所まで特定されてSNSで晒された。お蔭でボクのアカウントは引きこもりに早変わりさ」
「これを妖怪の仕業と言わずなんというんだっ…!!」
蛍子(納得する素振りを見せる)
「タシカニソウカモネ…」
蛍子(…って、そんなわけあるかぁぁ!!)
蛍子
(ないないないない、絶対にない!前半はともかく、後半はどう考えてもあんたの自業自得じゃん!なんなのこの人!?妖怪!?負のオーラがやばいんですけど!?私の中の信用ゲージがマイナスに振り切ってるんですけど!?)
蛍子(お茶を飲んで冷静になろうとする)
「スーッ …ズズズッ…はぁ~」
蛍子
(……まぁでも、最後の部分だけは当たりって感じね。おめでとう。たぶん妖怪で確定。正解したあなたには美少女(わたし)のため息をプレゼント。ブレスユー。なお返品は受け付けておりませんのであしからず)
蛍子(内心で悩みつつ)
(はぁ~。どうしよ、これ。紅葉おばさんには「依頼は必ず受けろ」って言われてるけど、私一人じゃ間違いなく無理ゲーだし、下手に刺激して怒らせでもしたら逆にこっちが危ないしなぁ…。せめてまともな協力者がいればいいんだけど…チラッ)
男(お茶を飲んでむせる)
「ズズズッ…ッげほっごほぉっ!……あっ、また零しちゃった…」
蛍子(よし、決めた。延期にしましょう。)
蛍子
(期間は紅葉おばさんが帰ってくるまで。一月もあれば戻ってくるだろうし、それまでこの人には耐えてもらおう。可哀想だとは思うけど、私だって命は惜しいのよ。恨むなら乙女の服を涎まみれにした自分を恨みなさい。)
(とりあえずお札とお守り100個くらい渡せば一か月くらい持つはずだよね?もし足りなくてもこの人ならまぁ……大丈夫でしょ。たぶん)
蛍子(少し笑顔を作りながら)
「んー、まぁ話はだいたいわかったわ。でもね、それだけで妖怪だって決めつけるのは早いかなーって思うの。私」
男(目を見開いて身を乗り出し)
「な、なんだってぇ!?これだけ話してもダメなのかい!?」
蛍子(手をパタパタ振りながら)
「い、いやいや!別にあなたの話を否定するつもりはないのよ?ほら、ウチも神社だし、そういう話は全然珍しくないんだけど…でも、なんでもかんでも妖怪のせいにしちゃうのもどうかと思うのよね。妖〇ウォッチには悪いけど…」
ズズズッ…(蛍子は落ち着いた様子でお茶をすすり、余裕の表情を見せる。)
蛍子
「だからこういうのはもっとじっくり原因を探るべきじゃないかなぁ~と思うのよね。例えば、そうね、一か月くらいかけて……」
男「いいや!!!これは絶対に妖怪の仕業だっ!!!」
蛍子「!?ッあっっつぅぅい!?」
蛍子(服をばたばたさせながら)
「あっつ!あっつ!ひぃ~服にしみこむぅ…!」
(蛍子がひぃひぃ言ってる間に男がカバンから一枚のチラシを取り出す。)
男(得意げに)
「これを見てくれ!このチラシが決め手なんだよ!だからボクはここに来たんだ!」
蛍子(チラシを受け取り、目を凝らしながら)
「うぅ…もー、なによこれ………え?」
『身近で起こる不可思議な現象に悩まされてはいませんか?
それらはすべて妖怪のせいです。そのまま放っておけば不幸な目に遭っちゃうかも?そんな困った時は鴉鳴神社へおいでください!
凄腕の巫女があなたのお悩みを丸っとサクッと物理的に解決しちゃうぞ☆』
蛍子「…ってなにこれぇぇ!?全然知らないんですけどぉ!?」
男(驚いて)
「ほら、ここに書いてあるだろう!?『妖怪のせい』だって!……え?知らないの!?この神社のチラシなのに!?」
蛍子(眉を寄せて)
「知らない知らないっ!初めて見たわよこんなの……ていうか、紅葉おばさんってこういうの嫌いなんじゃなかったの!?」
~回想~
蛍子
「ねぇ、紅葉おばさん。こんなに大変なのにファンレターの一つももらえないなんて……やってて虚しくならない?もっと積極的にアピールしていこうよ~。SNSとかファンサイトも作ってぇ、欲しいものリストも公開してぇ、上手くいけばこんな仕事やらなくても生活できるかもしれないよ~?」
紅葉(呆れながら)
「何バカなこと言ってんだお前。妖怪退治は人知れずやるものだ。治安維持も仕事の内、金だけの問題じゃねぇんだよ。広めるなんてバカがやることだ。」
蛍子(むすっとしながら)
「むぅ~……まぁ、それが普通かぁ……あーあ、残念だなぁ。成功したら今よりずぅっと稼げるのにぃ」
紅葉(………稼げる、かぁ)
~回想終了~
蛍子(現実に戻り、チラシを叩きながら)
「……って言ってたくせに!全然ノリノリじゃん!しかも写真まで載ってるし、ポーズまで決めちゃって!なにこれぇ!?自分から言っといてなんだけど、これじゃ本末転倒じゃないのよ!」
蛍子(さらにチラシを指差しながら)
「ていうか……私の写真は!?なんで載ってないの!?どうせなら載せなさいよ!いや、むしろ私を載せなさいよ!映えるでしょ!?圧倒に!!」
(蛍子がチラシに憤慨している最中、男は目に見えてそわそわしだす)
男(おずおずとそわそわしながら)
「あ、あのさ……怒ってるところ申し訳ないんだけど、このチラシの人、呼んでもらえないかなぁ?出来れば直接相談したいんだけど……」
蛍子(チラシに集中していて空返事)
「え!?紅葉おばさん!?今いないよ!出張中!」
男(絶望的な顔で)
「いない!?いつ、いつ戻るんだい!?」
蛍子(一転して失言に気付く)
「さぁ、たぶん一か月後くらいじゃない?……あっ」
男(愕然とした表情で)
「!!!???」
(男は大きく膝を突き愕然と項垂れる)
男「そんなぁぁぁぁ!!!神よ、あなたまでボクを見捨てるというのかぁぁぁ!!!」
蛍子「耳いったぁーッッ!?」
男(ガックリと頭を垂れる)
「もうダメだぁぁおしまいだぁぁ!!こんな事なら日頃から神社に課金しておくんだったぁぁ!!これが無課金勢の末路なんだぁぁ……」
蛍子(男の背中に手を添え、困ったように)
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ!?まだ死ぬって決まったわけじゃないでしょ!妖怪なんて社会の荒波に比べたら全然大したことないって!余裕よ余裕!満員電車以下!」
男(涙をぬぐいながらゆっくり顔を上げる)
「ほ、本当かい…?」
蛍子(適当に相槌を打ちながら)
「うん、ほんとほんとー!子供でも倒せるレベルって感じ(相手によるけどね…)」
男(希望を見出したように身を乗り出し)
「じゃ、じゃあキミに頼んでもいいのかい!?」
蛍子「いや、それは無理」
男「なんでぇぇ!?」
男(涙目で迫りながら)
「どうしてなんだい!?キミも巫女さんだろう!?」
蛍子(じりじり後ずさりながら苦笑)
「いやぁ~…巫女って言っても私、まだ“見習い”だからさー…」
男(さらに迫り、震えながら訴える)
「見習いでも巫女は巫女じゃないかっ!妖怪なんて大したことないんだろ!?だったら何とかできるはずだ!!」
蛍子(汗をかきながら必死に言い訳)
「いやいやいや!まだ妖怪かどうかも分からないし!?そもそも私ほら、未成年だからそういうのは保護者(紅葉おばさん)がいないとダメっていうかぁ……」
男(号泣しながら突然しがみつく)
「命より大切な法なんてあるかぁぁ!!頼むぅお願いだぁぁ!試すだけ試してくれぇ!ボクにはもうキミしかいないんだぁぁ!!」
蛍子(半泣きで手をバタつかせながら)
「いやぁぁぁ!?分かった!分かったから落ち着いてぇ!!とりあえず、調べるだけ調べてみるからぁ!話はそれから、ね!?だから早く離れてぇぇ!!」
男(突然パッと離れて満面の笑み)
「本当かいっ!?ありがとう蛍子ちゃん!キミは巫女界の天使だ!」
蛍子(男をジト目で見つめながら)
「巫女界の天使って何よ…うわぁ!?、涙と鼻水でベットベト……もー!何もわからなくても文句言わないでよね!」
男(急に明るくなり)
「もちろんさ!……あ、そうだ。ついでにお願いなんだけど、今日ここに泊めてもらうのってアリ?夜道が怖くてさ……」
蛍子(目を見開いて驚愕)
「はぁ!?泊めるぅ!?そんなの無理に決まってるでしょ!まさか、最初からそのつもりだったんじゃ……キャー、助けておまわりさーん!ロリコンに襲われるー!」
男(真顔で)
「あぁ、その点は大丈夫。キミを襲うとかそんなつもり全くないから。ボクのタイプじゃないし。」
蛍子(ガーッっとお怒りモード)
「なんか言い方がムカつくぅぅ!!そこは『襲う気なんてない』で止めとけばいいのよ!何でわざわざ『タイプじゃない』とか言っちゃうの!?ていうかまず『ロリコン』であることを否定しなさいよ!」
男(蛍子をじろじろ見ながら)
「うーん…巫女でロリってのはポイント高いけどね。声も可愛いし。でもその……おでこがさぁ…」
蛍子「あァッッ!?!?」
蛍子(顔を真っ赤にして慌て)
「ちっちちち、ちがうわよっ!?こ こ、これは紅葉おばさんがミスって切っちゃっただけで、私が好きでやったんじゃないんだから!!というか元々お嬢様カットだったし!こんなに切ったのなんて初めてで…ってっ、
うるさいわぁっ!!
何であんたに品定めされなきゃいけないのよ!もー!あったまきたぁ!!」
男(必死に抵抗しながら)
「うわぁ!?ちょ、ちょっと待って!本当に怖いんだって!ダメかい!?本当にダメなのかい!?」
蛍子(男を背中から押し出そうとしながら)
「うるさいうるさいうるさーいっ!!あんたと一緒に寝るなんて絶対無理!!御免こうむる!!ほら帰って!早く帰って!今すぐ帰って!じゃないと本当に警察呼ぶ__
蛍子(その場で硬直)
「…か…らぁ…?」
(間を置き、ゆっくり男を見る)
蛍子(声を震わせながら)
「……今の、聞こえた?」
男(ガタガタ震えながら頷き)
「う、うん……聞こえた……。」
蛍子(青ざめた顔で声を裏返しながら)
「まさか……ついてきちゃってる?」
男(さらに震えながら)
「た、多分……」
蛍子&男(顔を見合わせ、同時に硬直)
「…………」
???「…ぅゎn」
蛍子「だ、大丈夫よ!!この神社には結界があるから、きっと中には入ってこれない……はず!」
男「そ、そっか!じゃあ安心だね!ははははは!」
シーーーーン……
…………
……
蛍子(声を震わせながら小さく)
「……と、泊まってく?」
男(顔を青ざめたまま)
「お、お願いします……」
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~ 鴉鳴神社 物置蔵~
古びた本がびっしり並び、埃が舞う空間。
早朝。蛍子は『うわん』の正体を確かめる為に物置蔵に来ていた。
蛍子(ぼやきながら本棚から分厚い書物を引っ張り出す)
「はぁぁ……ねむい…。結局怖くて一睡も出来なかったぁ…」
蛍子(ぶつぶつ言いながら本をめくる)
「だめだぁ、何も頭に入ってこない…字が滲んで見えるぅ……」
男(爽やかに登場)
「いやぁ~、神社のお布団って最高だね!ふかふかで暖かくて、ボクも同じの買っちゃおうかな!」
蛍子(顔を上げてジト目で見ながら)
「…なんであんたはそんなに元気なのよぉ…昨日はあんなに怯えてた癖に」
男(得意げに胸を張りながら)
「そりゃあもうぐっすりと眠れたからね。ボクは切り替えが早いんだ!」
蛍子(呆れ顔で)
「なら、もう妖怪とかほっとけばいいじゃない?そんな元気なら大丈夫でしょ」
男(突然真剣な顔で)
「バカ言っちゃいけないよ!妖怪のいる空間で安心して眠れるわけないだろ!」
蛍子
「いやいや、布団に入った瞬間爆睡してたくせに…どの口が言うのよ…」
(蛍子が呆れながら再び本へ目を向ける。)
蛍子(目を見開きながら)
「あっ!あった!『うわん』の項目!」
男(勢いよく近寄り)
「本当かい!?ボクにも見せてくれ!」
蛍子(手を広げて制しながら)
「ちょ、ちょっと待って!順番よ!順番!素人に見せてもわかんないんだから、こういうのはまずプロである私が読んでから!」
蛍子(本を読みながら固まっている)
「んー……」
男(不安そうに)
「ど、どうしたんだい?」
蛍子(額に汗を浮かべつつ)
「……漢字…多いなぁって……。」
男
「……プロじゃあ、なかったのかい…?」
蛍子(汗がだらだらと)
「み、見習いだから…」
男
「…見習いなのに、プロぶったのかい?」
蛍子(ガーっと吠える)
「う、うるさいわねぇ!まだ子供なんだから、読めない漢字くらいあるわよぉ!」
男(苦笑いしながら)
「じゃあボクが読もうか?」
蛍子(慌てて本を抱え込み)
「い、いい! こういうのはちゃんと自分でやらないと紅葉おばさんに怒られちゃうんだから!」
蛍子(じっくりページを確認して)
「あ、よく見たらふりがな振ってある!やった、これなら読める!」
蛍子(本を見ながら目を輝かせて)
「えっと、『うわん』は人を驚かせる妖怪で、驚かせた人の恐怖心を吸い取りエネルギーとする。吸われた人間は徐々に衰弱していき、最終的に命を落とすこととなる……ってえぇぇ!?なにこれ、めちゃくちゃ危ないヤツじゃん!? 名前は弱そうだけど、めっちゃ人食い妖怪……」
蛍子(挿絵を見つつ)
「うわ~、見た目も最悪…爪長いし、いかにも引っ掻きますよって感じだけど、本当に驚かすだけなのかしら…。こんなのと夜道で遭遇したら心臓止まっちゃうわよね…って…」
男(真っ青な顔で震えながら)
「ボ、ボク……死んじゃうのかな……?」
蛍子(あわててなだめる)
「だ、大丈夫だって!ほら、対処法もちゃんと書いてあるし。はい、深呼吸深呼吸!」
男(息を整えるようにして)
「ひー…ひー…ふー…」
蛍子(ちょっと苦笑い)
「なんか違うけど…まぁ落ち着いたならいいや」
(さらに本を読み進める。)
蛍子
「それで『うわん』の対処法は…まず元凶となる場所に行く。これはお屋敷のことね。それで『うわん』にうわん!って驚かされたら、同じようにうわん!って言い返す……だって。」
男(眉をひそめて)
「……それだけ?」
蛍子(眉をひそめて)
「それだけ…」
蛍子(あまりに簡単すぎて疑う)
「いやいやいや、さすがに簡単すぎない?普通妖怪退治ってもっとこう、物理的というか、霊力とか使ってドカーンってやるものなんじゃ…」
蛍子「あー…」
(過去に紅葉が言った事を思い出す)
回想開始
紅葉:「妖怪をぶったおす方法?簡単だ。殴れ。それだけだ」
回想終了
蛍子
「……まぁ、紅葉おばさんの“殴ればOK”理論よりはマシかな……」
男「で、でも、本当にこれで大丈夫なのかい……?」
蛍子「一応、由緒正しい本みたいだし?この年季の入り具合からしても信用してもいいんじゃないのかな?…たぶん」
男(不安げに)
「“たぶん”がついてるんだけど……」
蛍子(男の肩を叩きながら笑顔で)
「はいはい、細かい事は気にしない気にしない!だーいじょうぶだって!ここって歴史だけは無駄にある神社だから、デタラメなこと書いた本なんて置いてないわよ!」
男
「そ、そうかなぁ…」
蛍子(明後日の方向を剥きながら)
「さぁーってと。これで助かる確率は一気にドカァーンって上がったわけだし?しかもたった一言『うわん』って言い返すだけ!簡単簡単!これなら一人でも余裕よね!」
男(狼狽えながら)
「え!?一人でって、ボクがやるの?!」
蛍子(即答で、笑顔を浮かべながら)
「うん!」
男(青ざめながら全力で首を横に振る)
「いやいや無理だよ!命を吸い取るって書いてあったじゃないか!そんな危ないのボクに押し付けるの!?キミ、プロなんだろ!?そこは最後まで完遂すべきだと、ボクは思うんだけども!?」
蛍子(あたふたしながら)
「え!?い、いやいやいや! 調査はするって言ったけど、退治するなんて言ってないし!」
男(絶望的な表情で膝をつきながら)
「そ、そんな……じゃあボクは恐怖に怯えながら一生を終えるのかい!?」
蛍子
「いやいやいや、たった一言言い返すだけでしょ!?簡単なことじゃない!」
男
「効かないかもしれないじゃないか!?もし、怒らせちゃったら、何の対抗手段もないボクは『うわん』のおやつになっちゃうんだよ!これは詐欺だ!裏工作だ!」
蛍子(ムッとしながら指を指して)
「さ、詐欺って何よ!私は何も取ってないじゃない!……って、あ!そうだ、お金よお金!考えてみたらタダ働きじゃないの!一宿一飯!さらに調査までやってあげたのに、命まで吸われるなんて…割に合わないにもほどがあるでしょ!?」
男(急に食いついて)
「お金?お金かい!?お金を払えばやってくれるのかい!?いくら!?いくら出せばキミがやってくれるんだい!?」
蛍子(戸惑いながら)
「うぇ!?え、えっと……その……いちぃ……万円?」
男(ポケットをまさぐりつつ、一転してきまずい表情に)
「……割引とかっていうのは……」
蛍子(出口を指さし、手をひらひら振って満面の笑顔で)
「は~い!お帰りはあちらで~す!」
男(必死な表情で)
「ぎえぇー!?わ、分かった!払う!払うよ!でも給料日前で今手持ちがないから、来月には絶対払うよ!約束する!」
蛍子(引き気味で眉をひそめながら)
「…え、え~?ほんとかなぁ~?口先だけならぁ?誰でも言えるわけでぇ~…」
男(蛍子にぐいぐい迫る)
「絶対に嘘はつかない!誓う!むしろ契約書とか書く!ハンコも押す!」
蛍子(タジタジになりながら)
「で、でもぉ~、タクシー代とかもあるしぃ…」
男(涙目で声を張り上げながら)
「タクシー代も出す!何なら晩ご飯もおごる!お願いだから一緒に来てぇぇぇ!!」
蛍子(圧に押されて焦りながら)
「わわわ、分かった!分かった!一緒に行くから!でも、もし危なくなったらあんたを見捨てて全力で逃げるからね!そのつもりで!」
男(急に表情を明るくして)
「大丈夫!その時はボク、この神社の居候になるから!」
蛍子(絶叫しながら)
「それだけはやめてぇぇ!?」
シーン3 - 男の屋敷での対峙
(昼過ぎ。男の案内で、古びた洋風の屋敷に到着。崖っぷちの立地で不気味な雰囲気が漂う)
蛍子(目を細めながら)
「これが……あんたのお屋敷?」
(壁が剥がれ落ち、今にも崩れそうな建物が目の前にある。)
蛍子(眉をひそめ言い辛そうに)
「えっと、傷つかないでほしいんだけど……これ、本当に人が住むところなの?
いや、ホラー映画のセットって言われた方が納得いくんだけど…」
男
「蛍子ちゃん、それ正解。実際、不動産屋の話しじゃ昔ホラー映画の撮影に使われたらしいんだ。撮影中にケガ人が続出したとかで、それ以降は放置されててさ。屋敷のあちこちに謎のシミがこびりついてるし、ボクも初めは正直ゾッとしたよ。」
蛍子(あきれた顔で)
「聞けば聞くほど縁起悪いじゃない…。普通なら住もうなんて思わないと思うけど? 心霊マニアってわけでもなさそうだし…」
男(誇らしげに)
「いやぁ~でもさ、“屋敷”って響き、ちょっとカッコいいだろ? 広いし電気もガスも通ってる。しかもびっくりするくらい安い!欠点は配達が極めて遅いっていう点だけど、それを除いても、良い物件だと思わないかい? …まぁ、条件付きなんだけどね(ボソッ)」
蛍子(ジト目で)
「見た目ボロボロで妖怪まで住んでる曰く付きってところを除けばね。というか!知ってて借りたんなら憑りつかれても自業自得だと思うんですけど~?」
男(しゅんとしながら)
「いや、まぁその通りなんだけどね?でも、屋敷住まいってロマンがあると思わないかい?なんか貴族っぽいし、ちょっと憧れてたんだよね」
蛍子(ため息混じりに少し目を伏せて疑いの眼)
「ロマンねぇ……まぁ、ちょっと分かる気はするけど。お屋敷って特別感あるし、お金持ちの象徴みたいなとこあるわよね……でも、本当にそれだけ?ほんと~にそれだけでお屋敷借りちゃう?普通」
男(目を輝かせながら)
「べ、別にやましい事なんて考えてないよ!?ただ、その~…ちょっと前に友達に合コンに誘われてさ、明らかに数合わせだったし、誰もボクなんて相手にしなかったから、ついカッとなって『俺、屋敷に住んでるんだ』って嘘ついちゃったんだよね。そしたら女の子の食いつきがすごくてさ。今度見せてくれって言われて、それで必死に探した結果、ここを見つけたんだよねぇ…」
蛍子(ジト目)
「へぇ~、つまり、見栄の為に嘘ついちゃった挙句妖怪に憑りつかれちゃったと…ふ~ん…そうなんだぁ…………帰るぅ!」
男(慌てて蛍子を引き止めながら)
「あー!待って待って!嘘嘘嘘!いや嘘じゃないけど、それとこれは別なわけで、ちょ、ちょっとまってくれよぉー!?」
(屋敷に入ると、薄暗く、壁の隙間から風が吹き込む。)
男
「ありがとう、蛍子ちゃん。踏みとどまってくれて……あの~、まだ、怒ってる?」
蛍子
「別にぃ~。ただまぁ、約束は約束だし?破るのもなんかモヤモヤするから…。」
男
「よかった~。これ以上蛍子ちゃんの好感度が下がったらどうしようかと思ったよ」
蛍子
「安心して頂戴?好感度ならとっくに0だから。むしろ氷点下ぶっちぎり。マイナスです。次話しかけたらパンチするからね。鼻に」
男(不思議そうにキョトンと)
「え?でもキミの背丈じゃボクの鼻まで届かないよ?」
蛍子(ナチュラルに煽られて怒り)
「ぐっ!?……クゥ~~!ムカツクぅ~!(ギリギリッ」
コツ コツ コツ
(暗闇の中を二人は歩く)
蛍子(不安げに男を見る)
「うぅ~…暗くて見辛いし、なんか肌寒いんだけど…まだ昼間よ?ねえ、これ本当に電気ついてる?」
男(おどおどしながら)
「つ、ついてるよ。ボクが慌てて逃げた時、電気を消す余裕なかったからね。全部つけてこれなんだ…。」
蛍子(小声で驚きながら)
「全部つけてこれなの!?…電気代無駄になってない?窓開けた方が明るいわよ。あー、懐中電灯とか持ってくれば良かった~」
男(天井を見上げて首をかしげ)
「う~ん、おかしいなぁ。いつももうちょっと明るい気がするんだけど…」
蛍子(ピクッと反応して)
「ちょ、やめてよそういうのぉ!?ホラー映画だったら死亡フラグよ!死亡フラグ!」
男(あわてて両手を振り)
「ご、ごめん!変な意味はないんだ!」
蛍子(指を立てて注意しながら)
「ホント、気をつけてよね!そういうのって意外とバカにならないんだから…」
(ふと、男が片手に持っているメガホンに気付く蛍子)
蛍子
「ていうか…それ何? メガホン持ってるじゃん。」
男
「あ、これ? 神社にあったやつを借りたんだ。声が小さいと“うわん”に届かないかなって思ってさ」
蛍子
「ちょっとー、借りる時は一言くらい言いなさいよね?まぁ、別にいいけど…、壊さないでよ?もし壊したら私が紅葉おばさんに怒られるんだから。」
男(恐縮しながら頷く)
「き、気をつけるよ……」
蛍子(ふっと笑いながら、軽い調子で)
「まぁでも、たぶん使う必要はないとおもうけどね。神社で聞いたかぎり音量的には大したことなさそうだったし、むしろオーバーキルしちゃうかもよ?」
男(少し笑みを浮かべながら)
「た、たしかに。でもさ、ここまでボクを苦しめたわけだし、このメガホンで思いっきりお返ししてやるのも悪くないかなって……あはは……」
???『うわん』
ぶおぉぉぉぉぉんっ…ぉんぉんぉん…
(『うわん』の声が屋敷の中で反響する)
蛍子(ガタガタ震えながら)
「ひぃ!?すごい大音量ぉ!?神社の時と全然違うじゃないのよぉ!?」
男(全身を震わせながら)
「そ、そそ、そそそそうだね!!今まで聞いた中で一番デカいよ!?なんでぇ!?」
蛍子(青ざめながら)
「も、もしかして私がいるからじゃない!?ほら、ここって『うわん』の縄張りでしょ?知らない奴が踏み込んできたから、きっと威嚇してるんだわ!」
男
「そ、そんな!ボクが入居した時はそんなのなかったのにぃ!」
蛍子
「そうなの!?え、じゃあ…獲物を横取りされると思ってる?」
男
「もしくは……嫉妬してるとか?」
???『うわぁんっ!!』
ぶおぉぉぉぉぉんっ…ぉんぉんぉん…!
男
「ひぃぃ!?違うみたいだねぇぇ!?」
蛍子
「当たり前でしょぉぉ!!何バカな事言ってんのよぉぉ!?」
男(さらに焦り)
「ど、どうする蛍子ちゃん!?ここからどうすればいいんだいぃ!?」
蛍子(必死に本を握りしめながら)
「ととと、とりあえず本の通りにするしかないでしょ!次に『うわん』って来たら……負けないように『うわん!』って返すのよ!」
男(声を裏返して)
「い、今更だけど本当に合ってるのかなその方法!?ほんとに、ほんとに大丈夫なんだよねぇ!?」
蛍子(後ろを振り返りながら半泣き)
「私だってわかんないわよぉ!でも他に方法ないもん!もう準備しといてよ、いいから!」
???「うわん」
男
「キ、キターッ!!」
蛍子
「い、いくわよ!……せーのっ!!」
二人「「うわん!」」
シーン……
(静寂が訪れる。二人、息を飲みながら耳を澄ます。)
蛍子(恐る恐る)
「ど、どうかな…?」
男(震えつつも期待を込めて)
「な、何も聞こえない……いなくなったっぽいよ!た、たぶん大丈夫だ!」
蛍子(顔を輝かせながら)
「え、じゃあ…成功したの!?わたしたち、勝ったってこと!?」
男(感激しながら)
「そ、そうだよ!蛍子ちゃん、やったね! これでボクは助かったんだ…!」
(感極まって顔を見合わせる二人。)
蛍子「や、」
男「や、」
蛍子&男(同時に笑顔で)
「やっt──」
うわん「ウワァァァァァンッッ!!!」
ズォォォォォォオォォォンンッッッ!!
(奥から、さらに凶悪な声が響き、二人は膝から崩れ落ちる。)
蛍子「あわ、あわわわわっ!!??怒ってる、めっちゃ怒ってるぅぅーッ!?」
蛍子(涙目で叫びながら後ずさり)
「ひぃぃぃ!?やっぱ無理ぃぃぃ!!怖い怖い怖いぃぃ!!こんなの絶対ムリィ!!」
蛍子(青ざめながら立ち上がる)
「よ、よし!撤退しよう!命あっての物種だし?一旦退くのが定石ってものよね!?じゃ、じゃあ!そういうことで~!」
(後ろを振り返り、男の袖を引っ張る蛍子。しかし__)
蛍子「ちょっと!何してんのよ!?ほら、さっさと逃げるわよ!…って、え?」
(男は泡を吹いて完全に硬直。どうやら気絶してしまった様子)
蛍子(恐怖と焦りで目を見開く)
「ちょ、ちょっとぉー!?なんてタイミングで気絶してんのよぉ!?起きて起きて起きて起きてっ!!起きてってばぁ!?」
(男の頬を高速でペチペチ叩くも反応なし。)
蛍子(顔面蒼白で)
「うわぁ…全然起きない…。ま、まさか死んでないよね!?脈は……ある!けど泡吹いてるし顔色も悪いし…これ大丈夫なの!?いや大丈夫じゃないよね!?あーもうどうしようどうしようどうしよう!!」
(蛍子が男を揺さぶりながらオロオロ。後方から『うわん』の気配が迫る。)
蛍子(絶望的な顔で)
「抱えて逃げる?無理!戦う?無理ぃぃ!だ、だとしたら、だとしたらぁぁぁ…」
蛍子
「…………置いて逃げる……?」
ドクンッ――――。
うわん「ウワァァァァァンッッ!!!」
ドクンッ ドクンッ――――。
蛍子
「それは……」
ドクンッ ドクンッ ドクンッ ドクンッ
蛍子
「それは……さすがに……っ」
ドクンッ――――
蛍子「罪悪感がえぐぅぅいッッ!!(´;ω;`)」
うわん「ウワァァァァァンッッ!!!」
ズォォォォォォオォンンッッッ!!
蛍子
「どうしようどうしようどうしよう……!お札とか投げる?いや、効くわけないよねぇ!?……やっぱり『うわん』って言い返すしか……でもさっき怒らせちゃったし……もっと大きい声で___メガホン?」
(男が持っているメガホンに目が留まる)
蛍子(涙目になりながら震える手でメガホンを拾い上げる)
「いやいやいや、こんなんで本当に倒せるの?…無理だよね?絶対無理だと思う…でも、でも、これしかないよねぇぇぇぇぇ!?」
トットット ズザァー!
(蛍子、メガホンにお札を貼り付け、再びうわんに向き合う。)
うわん「ウワァァァァァンッッ!!!」
ズォォォォォォオォンンッッッ!!
蛍子(涙目ながらも必死でメガホンを構える)
「あ、あとはありったけの霊力を込めて音をドカーンと増幅できれば…!で、でも、これまで一度も成功したことないんだよね、私……ああもう、今さら弱気になってどうするのっ! やるしかないでしょ!!
蛍子(必死に思い出そうとしながら)
「えーと、霊力を込めるコツ…コツ…うぅ、紅葉おばさんなんて言ってたっけ…えーとぉ…えーとぉっ…!!うぅ~…思い出してぇ、私の脳みそぉぉぉ…!」
____蛍子の脳裏に紅葉との会話が蘇る
紅葉「霊力を使うコツだぁ?」
蛍子
「うん。私なりに色々試したんだけどさぁ、岩どころか小石一つ砕ける気がしないのよね。何かコツとかないのかなーって…」
紅葉
「コツ、ねぇ。まぁ強いて言うなら~……気合だな」
蛍子(半目で)
「もぉぉー!また『気合』ー!?いっつもそれじゃん!もっと論理的に説明してほしいんですけどぉ!」
紅葉(眉間に青筋を立てながら)
「うるせぇ!細かい理屈なんてどうでもいいんだよ!霊力は魂の力だ!魂っつーのは感情のエネルギーだろうが!」
蛍子(半信半疑で)
「感情~…?」
紅葉(拳を突き出しながら)
「そうだ。怒りでも悲しみでも喜びでも、何でもいい!ぜーんぶひとまとめにしてぶつけりゃいいんだ。そしたら――」
ズンッ
バァァァァアァンン・・・・・・ッッ
パラ…パラ………
紅葉「壊せねぇものなんてねぇんだよ」
_____ズォォォォォォオォンンッッッ!!
うわん「ウワァァァァァンッッ!!!」
蛍子「霊力は魂の力、魂は感情のエネルギー……だったら……」
蛍子「今日今日に至るまで…私が味わった苦汁苦節、あとその他諸々……」
蛍子「……この一声に、全部ぶち込んでやる…!」
蛍子は自分の中に眠る忌まわしき記憶を呼び起こす__
親に捨てられた悲しみを____
「私は忙しいんだ。何か要件があれば使用人に伝えろ。これを渡しておく、金は好きに使え」
「ちょっと話しかけないでよ!…もしもし?…うんうん、えぇー!行く行くぅー!…旦那?あー気にしないで。だってウチの旦那、全然構ってくれないし~…」
親戚をたらい回しにされた屈辱を___
「冗談じゃない。いくら親が事故で死んだからって詐欺師の娘なんてウチに置けるわけないだろ」
「近所の評判とかあるから…悪いけど他を当たって頂戴。」
紅葉によるスパルタ特訓の地獄の日々を___
「おらぁ!口より先に手ぇ動かせぇ!死にてぇのか!?」
「今日の飯はケーキと鳥の揚げ物だ。…別に意図はねぇからな。…なんだよ。文句あんのかよ!言いたい事があるならはっきり言え!…形がおかしい?衣がはがれてる?う、うるせぇ!黙って食え!」
そして、自分を丸呑みにしたカエルへの憎しみを___
「ゲェロロロロ、グゥェロ」
「いやぁぁぁぁああ!?たぁすぅけぇてぇぇぇ!?」
蛍子(じわりじわりと涙が込み上げてくる)
「う、う、う、う――」
キィィンッッ
蛍子「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんッッ!!!(´;ω;`)」
ドッッッゴォォォォォォォオォォォオオォッッ!!
うわん「うぅぅぅわぁぁぁぁぁんんんぅぅぅ………」
______カッ
バァァァアァンンッ____!!
蛍子の霊力がメガホンを通じて増幅され、
巨大なソニックブームとなって屋敷全体に放たれる。
凄まじい音圧が周囲を吹き飛ばし、「うわん」の声は存在ごとかき消された。
そして――
ガラガラガラ……
蛍子「……や、やりすぎちゃった……」
崩壊した屋敷を見渡し、放心状態の蛍子。頭の中では
「保険ってこんな場合でも効くのかな」
「損害賠償ってどのくらい取られるんだろう」と、
次々と現実的な考えが渦巻いていた。
__数分後。
男(辺りを見渡しつつ呆然)
「えーっと……“うわん”は消えてるし、ボロボロだった屋敷が…こんなにも見事な瓦礫に……。」
男(不安そうにキョロキョロ)
「ね、ねぇ蛍子ちゃん? ボクが気を失ってる間に、いったい何が起きたんだい…?」
蛍子
「………」
男
「蛍子ちゃん…?」
蛍子(顔をそらし、か細い声で)
「……こわ……し、ちゃった……」
男
「え?」
蛍子「私が!私が壊しちゃいましたぁぁぁ…!!」
男「えぇぇぇぇぇ!?」
蛍子(地面に土下座しながら)
「ごごご、ごめんなさぁ~~い!!で、でも、これは全部うわんが悪くてぇ!?あのままだと二人とも食べられちゃうところだったし、し、仕方なかったの!だからぁそのぉ……訴えるのだけは勘弁してくださいぃぃ~!!」
男(驚いた様子から一転、笑顔で)
「訴える!?いやいや、そんなことするわけないじゃないか!むしろ感謝したいくらいだよ」
蛍子(土下座したまま顔だけ上げて困惑しながら)
「……え?なになに?どういうこと?」
男(嬉しそうに)
「いやー、屋敷に入る前にも話したと思うけど、ここって昔から曰く付きでしょ?
気味が悪いし縁起も悪いってことで、もともと取り壊しが決まってたんだよ」
男(さらに畳みかけるように)
「そこでボクは大家さんに頼み込んで、『解体するまでの間だけでいいから安く住ませてほしい』って交渉したんだ。そしたら『退去時には解体費用を負担しろ』って条件付きでOKが出てね。だから激安で借りられたわけさ。」
男(ぽんと手を叩き)
「でも実際住んでみたら広い割に何にもなくて退屈だし、『うわん』のせいで夜は眠れないしで、いくら待っても女の子達からLINEは帰ってこないしで、もう我慢の限界でね。引っ越そうにも解体業者に頼むお金もなくて、正直困ってたんだよね~」
蛍子「えぇぇぇぇ!?じゃ、じゃあ、最初から壊して良かったってこと!?」
男(笑顔で親指を立てながら)
「そう! しかも君が“うわん”まで退治してくれたから、一石二鳥! タダで解体してもらえて、俺にとってはめちゃくちゃラッキーだよ!」
蛍子(指を震わせながら)
「じゃ、じゃあさっき驚いてたのは…」
男(あっさりと)
「いやぁ、どうやって壊したんだろうなぁ~って」
蛍子(へなへなとその場に座り込む)
「なによそれぇぇぇ……事前に言ってくれればお札とかお守りでテキトーにやり過ごしたのに…何のために命が縮む思いしたのよぉ……。引っ越すなら、そもそも『うわん』なんて退治しなくてもよかったじゃ~ん…」
男(慌てて両手を振る)
「いやいや! それは違うよ! あれはボクに憑いてたっぽいし、神社にまで来てたじゃないか。放っておいたらどこへ逃げてもついて来るってことだろ? 退治は絶対に必要だったと思うな―ボクは!」
蛍子(頬を膨らませ、ムスッとしながら)
「むぅ~……でも神社で一晩過ごしたらいなくなってたじゃん。」
男(目を丸くして)
「そ、そうなの……?」
蛍子
「そうなの!!」
男「ま、まぁまぁ! とにかくキミはボクを救ってくれたヒーローさ。それでめでたしめでたしってことで!」
蛍子「めでたくなーい!」
男(思い出したように)
「あはははは……あ!そうそう、お礼の話なんだけど__」
蛍子(手をひらひら振りながら)
「あーもういいわよ。今回はタダでいいから。」
男(驚いて)
「本当に!? いいのかい!?」
蛍子(微苦笑して)
「どんな理由があろうと壊しちゃったのは事実だしねぇ…」
蛍子(真剣な表情で)
「その代わり!今回のことは絶対誰にも言わないで!特に紅葉おばさんには!!もしバレたらどんなお仕置きされるかわかったもんじゃないんだから!絶対ナイショよ!」
男(力強く頷いて)
「あ、あぁ、もちろん! キミの秘密は墓場まで持っていくよ!」
そう言いながら、男は感極まった様子で蛍子の手を両手で握りしめる。
蛍子(不意打ちで手を握られ、硬直)
「ふぇぇ!?な、なななな、なに急に!もう『うわん』はいなくなったじゃん!待った!抱きつかないでよ?私これ着て帰んないといけないんだかr」
男(蛍子の手を握り真正面からお礼を言う)
「キミがいなかったら、ボクはきっと『うわん』に殺されてた。無茶なお願いだったのに、見捨てずに全力で助けてくれて……キミに頼んで本当に良かったっ!!蛍子ちゃん!本当に、本当に…ありがとう!!」
ありがとう
ありがとう
アリガトウ
アリ…
ボッ(赤面)
蛍子(頭が真っ白になり、テンションが迷子になる)
「ッ――!?と、とととと当然よ!わ、私、都会生まれの巫女ですから!?これくらい朝飯前っていうかぁ!?余裕でしたっていうかぁ!?も、もし!また!困ったことがあったらぁ!?助けてあげなくもな、な、ななな…」
蛍子(顔を真っ赤にして全力でダッシュ)
「ふぁぁー!!??もうかえりますわー!ごきげんよー!」
男
「え?あっ、え、蛍子ちゃん!タクシーはー!?」
蛍子(叫び返しながら)
「い、いらないっ!! 運動不足だし、走って帰るから!! じゃあね! もう妖怪付き物件なんてやめて! 次は普通の家にしておきなさいよねー!!」
男(叫びながら手を振る)
「わかったー!ありがとう蛍子ちゃーん!本当にありがとー!!」
(蛍子、全力疾走で小さくなるまで駆け抜けていく。)
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おまけ~(帰り道)~
蛍子「ま、ま、迷ったぁぁぁぁー!!」
蛍子
「ぜぇ…ぜぇ…どこここ!? 見渡す限り畑しかないし! もしかしてループしてる!? せめてスマホがあれば地図くらい見られるのにぃ…バス停も交番も全然見当たらないし、道案内の看板すらないって、田舎以前に問題なんじゃないの!?」
蛍子(頭を抱えながら)
「あぁー!タクシー呼んでもらえばよかった!なんで断っちゃったのよ、私!変に見栄なんて張るんじゃなかったぁ!…いや、そもそもこんな依頼受けなければこんな目にあうこともなかったのにぃー!あぁー!……はぁ~」
ふと足を止め、少し落ち着いて考える。
蛍子(ほんの少しだけ誇らしげに微笑む蛍子。)
「……まぁ…でも…助けられてよかった、かな?」
蛍子(ポツリと)
「最後はちょっとアレだったけど…結果オーライってことで、ね?妖怪退治も初成功だし、これで少しは巫女らしくなったかな…」
蛍子「ふふっ紅葉おばさんが帰ってきたら自慢しちゃおっかな!最後はまぁ、良い感じに脚色して…いやでも絶対バレるわよねぇ。あの人、勘が未来予知レベルだし…あぁ~、でも!でも!やっぱり一回くらい自慢してみたい!!『私だってやれば出来るんだからね!』ってドヤりたぁぁい!」
???「うわん」
蛍子「……えっ?」
振り返る蛍子。暗闇の中、何もいない道が続いている。
蛍子(青ざめながらゴクリと喉を鳴らす)
「……もしかしてだけど、私に取り憑いちゃったとか…?」
蛍子(震えながら自分に言い聞かせるように)
「 ま、まさか、ね? ……これはただの風の音。そう! 田舎特有の、ほら、アレ…えぅ、うぅ~!」
???「うわん」
蛍子「うわぁぁん!やっぱりそうだぁー!!!」
全力で駆け出す蛍子。泣き顔で後ろも見ずに走り続ける。
蛍子「もういやぁぁ!妖怪退治なんて!二度と!絶対に!やらないんだからぁぁ!!」
後日。
屋敷にメガホンを忘れて帰った蛍子は、案の定紅葉にバレて、
二重にキツ~いお叱りを受けましたとさ。
めでたしめでたし。
ヘタレ巫女の妖怪退治目録 一話 完
※佐脇嵩之『百怪図巻』の「うわん」Wikipediaより引用
※ゲームまてりあるずさんからお借りしました!