「女になりてーって思ったことないか?」
同期との飲み会で、つい酔った勢いで口からぽろっと溢れてしまった俺の秘めたる願望。
しかし、それは誰の琴線にも触れることなく一笑に付された。
「ないない。普通に男の方がいいよ」
「女って生理とか結構きついらしいぞ」
「男に抱かれるのは勘弁だわ」
「は、はは……そうだよな」
一瞬で気持ちのいい酔いも覚めて、冷や水を浴びたような心境で俺は苦笑いを浮かべていた。
普通にってなんだよ、別に女だっていいだろ。
生理の重さなんて人によるだろ。
それに、そういう性差による体験がしたいって話してるんだよ。
なんで男に抱かれる前提なんだよ。
女=相手は男なんて考えは前時代的だろ。
そもそも女になったら感じ方だって変わるかもしれないのに今の段階で決めつけるなよ。
同僚たちの雑な否定に脳内でキレながら、俺は酒のペースを上げた。
今夜はもういい酔い方はできなさそうだ。
そして数時間後。
完全に悪酔いしてふらついている俺がそこにいた。
「おい、郷中……お前大丈夫か?」
同僚が苦笑いを浮かべながら俺の顔を覗き込んでいる。
「あ? らいじょうぶに決まっとるやろがい」
「いや全然大丈夫じゃなさそうだが……」
数分後、気づくと俺は走る車の中にいた。
結局俺は同僚の呼んだタクシーにぶち込まれたようだ。
意識を朦朧とさせながら、夜の景色が窓の外を流れていくのを眺める。
……段々と、胃の中のものが裏返りそうな感覚がしてきた。
「……気持ち悪りぃ……」
「わぁっ!? 耐えろ郷中! あ、ここに飴玉あるぞ! これでも舐めて落ち着け!」
同乗していた同僚は座席に落ちていた飴の小袋から飴を取り出して俺に舐めさせた。
甘みが口の中に広がって……って、なんだこれ?
なんか薬みたいな味というか、とにかく不味い。
「おぇ……吐くかも……」
「待て待て待て! 運転手さーん! 急いでくれーっ!」
胃の中のムカムカ感に耐えながら、俺を乗せたタクシーはなんとか俺の家の前までたどり着いた。
肩を貸そうとする同僚を制止して、俺は一人で自分の家のドアを開いた。
「うーっ……ただいまぁ……」
未だに酩酊感と吐き気に襲われ続けており、俺はベッドの上に倒れ込んだ。
目の前がグルグルする。
なんだか妙に身体が熱い。
全身から汗が吹き出して、呼吸が荒くなっていく。
心臓がドクンドクンッと鳴っているのが頭の中まで響いてくる。
なんだ、これ。
風邪でも引いたのか?
ただの悪酔いではない原因不明の体調不良に襲われながら、俺はゆっくりと意識を失った。
────────
窓から差す陽の光に照らされ、俺は目を覚ました。
「うぅん……おぉ、頭いてぇ……流石に飲み過ぎた……」
こんな酷い二日酔いなんていつぶりだろうか。
今日が土曜日でよかった。
とりあえず水でも飲んで落ち着こう。
そう思って身体を起こそうとしたそのとき。
「……ん?」
俺の隣に、何かいる。
それに気づいた瞬間俺はベッドの上から跳ね起きた。
「うおぉっ!? な、なんだ!?」
立ち上がって先ほどまで寝ていたベッドの上を見ると、そこには裸の女が寝ていた。
髪は肩ぐらいまで伸ばしていて、細く華奢な体をしていた。
年齢は俺と同じぐらいだろうか。
全く身に覚えのない初対面の女だ。
「だ、誰だ……?」
なんで知らない女が俺の隣に寝てるんだ?
もしかして昨日の夜に俺が酔った勢いで連れ込んだのか?
飲み会の後にどうやって帰ってきたかは意識が朦朧としていたせいで全然覚えていない。
いや、でも彼女いない歴=年齢で童貞の俺が酔った勢いなんかで自宅に女を連れ込めるわけがないだろう。
じゃあこの女はなんなんだ?
もしかして美人局とかのヤバい女に無理やり入り込まれたんじゃ……。
そんなことをあれこれ考えていると、女も目を覚ましたようだった。
「うぅ……あぁ、頭いて……昨日は流石に飲み過ぎたか……」
女は二日酔いのような様子で頭を抑えながら体を起こそうとしている。
すると、女と目が合った。
くりっとした二重の大きな目。
誰が見ても美少女と言えるその顔に、俺は一瞬ドキッとした。
その瞬間、女はその場に跳ね起きて驚愕の表情で叫んだ。
「うわぁっ!? な、なんだお前!? な、なんで……」
なんだお前、はこっちのセリフだ。
お前こそ一体なんなんだ。
しかし、その次の言葉は俺の予想外のものだった。
「なんで、俺がそこにいるんだよ!?」
「……は?」
女は突然意味不明なことを言い始めた。
「お、お前……なんで俺と同じ顔なんだよ!? お前、誰なんだよ!?」
「待て待て、お前誰なんだよって聞きたいのはこっちだ! 同じ顔ってなんだよ全然違うだろ!」
「いやいや、どう見てもお前俺と同じ顔じゃねえか! 俺の偽物か!? 俺の家で何してんだよ!?」
「いやここは俺の家だぞ! お前こそなんで俺の家で寝てんだよ!?」
混乱しながら口論し合う俺と女。
なんだか話が噛み合ってない気がする。
すると、女もそれに気づいたのか口数が減っていった。
女は、首を傾げながら自分の喉元を触り始めた。
「なんか、喉の調子が……俺の声、おかしいぞ、これ……なんだ?」
何やら女の様子がおかしい。
自分の喉に違和感を覚えたように気にし始めたと思ったら、今度は自分の手足や体を見て困惑している。
「な、なんだこれ!? 腕が……ほっそ……んぇ!? む、胸が!? こ、これって……」
女は恐る恐るといったような表情で俺の方を見ると問いかけてきた。
「な、なぁお前……俺は何に見える……?」
「何って……全裸の若い女にしか見えないが……」
俺がそういった瞬間、女は突然焦ったように部屋を飛び出した。
わけもわからず後を追うと、女は洗面台で鏡を見ながら硬直していた。
「な、なんなんだよお前……どうかしたのか?」
俺が聞くと、女は段々と喜びに満ちた表情に変わりながら叫んだ。
「俺、女になってるーっ!?」
いきなり叫んだ女の声が頭に響き、俺は思わず苦言を呈した。
「おい……こっちは二日酔いなんだよ……急に叫ぶな……」
「悪い……俺も二日酔いだって忘れてた……いや、でもこれは、叫ばずにはいられないだろ……!」
女は鏡の前で笑ってみたり、睨んでみたり、頬を触ってみたり、楽しそうに百面相を始めた。
いったいなんなんだよこの女は。
結局なんで俺の家にいるのかわからないままだし。
「なあいい加減ちゃんと話してくれよ。お前は誰なんだ?」
「……俺にもまだよくわかんねえけど、なんとなくわかってきたこともある」
女はそう言いながら俺の方を振り向いた。
「まず確かめたいんだが、お前、郷中耕司だよな?」
女はいきなり俺の名前を言い当ててきた。
初対面の相手から名前を言われ、俺は少し動揺しながらも言葉を返す。
「あ、ああ。確かにそうだが……なんで俺のことを知ってるんだ? どこかで会ったことあるのか?」
「会ったことあるっていうか……いや、他人として会うのは初めてなんだが……」
「どういう意味だよ、はっきり言ってくれ」
煮え切らない回答をする女に焦ったくなり話を急かす。
女の方もどう言おうか言葉を選んでいるような様子が伺えた。
「いいか? 今から言うのはネタとか冗談じゃなくて本当のことだからな? よく聞けよ?」
「だから早く言えって」
「……俺の名前は、郷中耕司。俺はな、お前なんだよ」
「は?」
「俺とお前は同一人物なんだよ。起きたら突然女の体になってて、お前と分かたれてたんだよ。わかるか?」
女はまた訳の分からないことを言い始めた。
この女が俺?
いやいや、そんな馬鹿なことがあるか。
「ふざけてるのか? そんな話が信じられるわけないだろ」
「まあ、そう思うよな……俺だってまだ信じられねえよ。うーん、どうすれば信じてもらえるか……」
女の方も自分の言ってることに無理があるのはわかってるようだ。
すると、女は何か思いついたように頷くと口を開いた。
「父親の名前は郷中雅嗣。母親は郷中昭子。実家は埼玉北部の田舎にある」
「な……なんで知ってんだ」
「自分の実家のことだぞ。知ってるに決まってんだろ」
女は得意げに語る。
女の言ったことは全て合っていた。
だが、それだけではまだ信じられない。
「いや、それぐらいは調べればわかることだろ。別に隠してるようなことじゃない」
「じゃあこれならどうだ? 昨日飲み会で課長の悪口言ったよな? 早くパワハラで訴えられてクビにならねえかなって」
「なっ……!?」
確かに昨日は同僚たちと課長の愚痴で盛り上がっていた。
こっちはすぐに調べられるようなことではない。
だが、昨日あの場にいたとか、同僚のうちの誰かの知り合いで話を聞かされた可能性だってまだある。
「……まだだ。まだ信じられない」
「そうかよ。じゃあ最後の手段だ。お前は中一のとき夜中に夢精して誰にも見つからないように一人で泣きながらパンツ洗っただろ? 見た夢は体が女になって女子トイレに入る夢だ」
「っ!!? ど、どど、どうしてそのことを……!?」
俺以外の人間は誰も知るはずがない、俺の一番の秘密を言い当てられ、俺は動揺してしどろもどろになりながら聞き返した。
「だーかーら! 俺が郷中耕司だからだって言ってるだろうが!」
女はイラついた様子で言った。
とても信じられない話だったが、ここまで俺のことを言い当てられてしまうと、もう信じる他ない。
「お、お前……本当に俺なのか?」
「だから何度もそう言ってんだろ!」
「ま、マジかよ……」
この女は正真正銘、俺と同一人物らしい。
言われてみると、目元に俺の面影があるような……。
俺は改めて女を真正面から見た。
この俺が、俺から分離して女になった姿。
それを事実だと受け止めたとき、俺の中にあったのは一つの感情だった。
「うおおおぁぁぁっ!」
「うわっ!? なんだよ急に、どうした!?」
「羨ましいいぃぃぃっ!」
女になりたいという願望を密かに抱えていた俺にとって、この状況は非常にショックが大きかった。
なんで俺じゃないんだ。
なんでもう一人の俺が女になってて俺は俺のままなんだ。
俺は羨望の視線をもう一人の俺に向けていた。
「お前の気持ちは痛いほどわかる。なんせ俺だからな。だが、女になったのは俺だ。悪く思わないでくれ」
「くっそおおおぉぉぉっ!」
俺は涙を流しながら床を殴りつけた。
こんなことがあっていいのかよ。
なんて残酷なことをしやがる。
これなら女になんてなれるわけがないと言われた方がまだマシだ。
もう一人の俺が女になったということは、女になれる可能性があった上でその二分の一を外したということなのだから。
「くぅ……この世には神も仏もいねえのかよぉ…………って、おい。お前どこ行くんだよ」
嘆いている俺を尻目にそーっと離れていこうとするもう一人の俺を呼び止める。
ドキッとしたような様子で苦笑いを浮かべながらもう一人の俺が振り返った。
「いや、その、ちょっとトイレにでも行こうかと……」
「……トイレで何するつもりだ?」
「そりゃお前、そんなの……決まってるだろ」
俺はもう一人の俺に勢いよく掴みかかった。
「てんめぇ! トイレ行って女の身体でオナニーするつもりだろ!」
「するに決まってんだろうが! お前は女になってもオナニーしねえって言うのかよ!?」
「するに決まってんだろうが! 一人で女の身体を味わおうなんてずりぃぞ! せめて俺の前でやれ!」
「オナニーってのは一人でやるからオナニーなんだよ! 人の前でなんてできるかっ!」
俺たちは互いにギャーギャー声を上げて口論を続けた。
妙に噛み合ったやり取りが続き、気が合うんだか合わないんだかよくわからない。
「はぁ……このままじゃ埒が開かないな」
「たしかに……じゃあわかった。オナニーするところを録画して後で見せてやる。これならどうだ?」
「そりゃありがたいが……いいのか?」
「それぐらいなら構わねえよ。俺も後から見返したいしな」
そう言うと、もう一人の俺は俺のポケットの中のスマホを抜き取りトイレの中へと入って行った。
鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌の顔で。
くそっ、やっぱり羨ましすぎる……。
俺は後ろ髪を引かれるような気持ちのまま部屋へと戻った。
「はぁ……」
俺は静まり返った部屋の中で一人ため息をついた。
いつもなら俺しかいないはずの自分の部屋で、なんで俺はこんなに喋り疲れてるんだか。
「…………」
一人になったことで落ち着いてきた俺は、改めて今の状況について考えていた。
目が覚めたら女になった俺が隣にいただなんて、普通に考えたら馬鹿げた話だ。
だが、さっきの言い分からあの女が俺自身なのは間違いない。
口調だって性格だってほぼ俺だったのだ。
違うのはその外見だけで。
「でもその外見が大違いなんだよな……」
俺とは違う細く華奢な手足。
艶やかな長い髪。
丸みを帯びた柔らかそうな体。
目鼻立ちの整った顔。
思い出すだけで、俺もあんな女の子になりたいと思ってしまう。
というか、さっきまで俺は全裸の女と共に過ごしていたんだよな。
俺の中でムクムクと興奮が膨れ上がっていくのを感じる。
そうだ、そのさっきまで全裸で俺のそばにいたもう一人の女の俺は今トイレでオナニーをしていて……
…………
…………
……うっ。
…………
…………。
「ふぅ……」
賢者タイムに突入し、俺は冷静に思考を始めた。
これから俺はどうするべきなのだろうか。
あのもう一人の俺とどう接していくべきなのか。
あいつからすればこの家はあいつの家でもあるのだから同居するべきなのだろうか。
もう一人の俺が俺から分たれた存在なのだとしたら、元に戻る方法もあるのだろうか。
そうだとしたら元に戻るべきなのだろうか。
それをもう一人の俺も望むのだろうか。
そもそも、男と女に分たれるというのはどういう原理なのか。
一時的なのか永続なのかそれすらわからない。
更に考えれば、もう一人の俺は社会的にはどういう扱いなのだろう。
郷中耕司という人間の戸籍は存在するが、それは男としての戸籍だ。
女のあいつには戸籍は存在しないことになる。
そうなると生活していく上で不都合もいろいろありそうだが……。
「あー、駄目だ。考えても何もわからねえ……」
そもそも理解不能で非現実的な状況なのだ。
考えたってわかるわけないし、その状況にどう対応するべきかなんて面倒でこれ以上考えたくない。
一旦考えるのをやめた俺は、とりあえず暇つぶしにスマホでも触ろうとポケットに手を入れた。
しかし、そこには何も入っていない。
「あ、しまった。スマホあいつが持って行ってんだった」
流石に一つのスマホを二人で共有するのは不便すぎる。
これだけは早急になんとかすべきかもしれない。
するとそのとき、俺の腹がぐぅ、と鳴った。
そういえばまだ起きてから何も食べていない。
気づけばもうとっくに昼を過ぎている。
とりあえず何か食おうと俺は台所へ向かった。
常備している食パンがあるし、とりあえずこれとついでにソーセージと卵でも焼いて食うか。
おそらくもう一人の俺も空腹だろうし、二人分用意しておいた方がいいだろう。
だが、女の身体になって俺より小柄になっていたし食う量は俺より少ないかもしれない。
どれぐらい食えるか聞きたいのだが……。
「つーか、あいついつまでトイレにいんだ……?」
いくらなんでも遅くないか?
俺なんていろいろ考えてオナニーしてまたいろいろ考えてその後に飯の準備までしてるのに、その間あいつはずっとオナニーしてるってのか?
流石に何か変だ。
俺は急に心配になってトイレに向かった。
軽くノックをしてから声をかける。
「お、おい……大丈夫か?」
返事はない。
ドアノブを触ってみると、鍵はかかっていないようだった。
恐る恐る扉を開く。
すると、その中には。
「……ッ……あへッ……」
淫らに蕩けた表情のもう一人の俺が、身体をビクビクと震わせながら伸びていた。
その目は焦点が合っておらず、意識は朦朧としているようだった。
しかし、手は股間に添えられたままひたすらクチュクチュと割れ目を弄り続けていた。
「イッてもイッてもおわらないのぉ……んへ〜ッ……」
トイレのドアを開けた俺に気づいているのかいないのか、もう一人の俺は呂律の回っていない口で呟いた。
そんなもう一人の俺を見て俺の胸の内にあったのは、ただただ羨望の気持ちだけだった。
あー、俺もこうなりてぇ……。
────────
「やれやれ……」
トイレで伸びていたもう一人の俺を引き摺り出してベッドに寝かしつけた俺は、部屋の中で再びため息をついていた。
いくら女になれてはしゃいでいるとはいえ、こんな意識を失うまでオナニーするとは。
「何をどうしたらこんなことになるんだよ……」
俺は呆れつつ、スマホの中を確認した。
ついさっきまで録画状態で置かれていたものだ。
どうやら約束通り、本当にずっと録画していたらしい。
「これに、映ってるんだよな……」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
そして、震える手で録画されていた動画を再生した。
すると、まず最初に自撮り風の映像が始まった。
『よし、撮れてるな。それじゃあ……せっかく女になれたので、これからオナニー始めまーす。……いや、なんか恥ずいなこれ……』
美少女の外見を持つもう一人の俺が、カメラに向かって喋っている。
なんだか素人モノのAVでも見てるような気分だ。
このチープさが余計に臨場感を掻き立ててくる。
『一人称視点だと、こんな感じ。うわ、やっぱエロいわ……ふふっ』
便座に座った状態で上から自分の身体を見下ろす映像が映る。
胸元で膨らむ乳房。
そして、何もついてない足の間。
全裸になった女の傷一つない綺麗な身体が隠さず映されている。
それを実況する可愛い声色の女の楽しそうな様子も相まって、俺の興奮はどんどん高まっていく。
『まずは胸から触っていきまーす。……うおぉ、やわらけぇ……これが俺についてるんだもんな……やばっ、癖になりそうだ……』
再び自撮り風で自分を映しながら、女は反対の手で自分の胸を揉む。
ぎゅっと握るとその分ぐにゃりと形を変える柔らかそうな胸。
そんな柔らかそうな胸を、女は嬉しそうに揉み続けている。
『両手で触ってみてえな……ちょっとここに置いて……よし、これで……あぁ、いい……これだよこれ……これがしたかったんだよなぁ……』
定点カメラのように映像の角度が固定されると、女は両手で乱暴に自分の胸を揉みしだき始めた。
荒々しく欲望に塗れた男のような手つき。
男を誘う女の仕草とは全く違う、中身が俺だからこその動きだった。
『んっ……乳首の先端、これいいな……んんッ……』
胸を揉みながら、女は自分の乳首を抓る。
ビクビクと震えながら指に力を入れて乳首を摘んでおり、漏れ出た喘ぎ声がその快感を伝えてくる。
『あぁ……胸もいいけど、やっぱり一番のお楽しみはこっちだよな』
女はそう言うと足をガバッと開いた。
何も生えていない女の股間。
男とは全く違うのっぺりとしたそこを、舐めるような目つきで女は見ている。
『おぉ……すげっ……マジでチンコねえじゃん……本当に俺、女なんだな……』
股間を手で撫でながら、女はしみじみと呟く。
さっき胸を触っていたとき以上に女の身体になった自覚を感じているようだった。
『しっかし、自分だとよく見えねえな……おっ、これがクリトリスか?』
自分の股間を覗き込むような姿勢を取る女。
だが、本人からは股間がどうなってるかはよくわからないようだ。
手探りで股間を弄っていた女は、ある一点を集中的に撫で始めた。
『んんッ!? ここっ、すげえ敏感だ……ッ! なんだこれっ、めっちゃきもちいい……!』
女の声色がさらに一段階上がる。
身体の震え、漏れ出る嬌声、それらが先ほどよりも如実に激しくなっており、女の快感の強さを物語っている。
『やばっ、これ、手が止まんない……んッ……きもちよすぎるって……ッ!』
夢中になってクリトリスを弄る女。
息を乱し、頬を赤くしてオナニーに耽るその姿から目を離すことができない。
『もう、これ、イクッ……あっあッ、んんんぅぅッ!!?』
ビクンッ、と大きく女の身体が跳ねる。
あまりの快感に絶頂に達したようだった。
しかし、そこで女の手は止まらなかった。
『ふぅ、んっ……きもちいいの、まだ、残ってる……イッたばっかなのに……もっと、触りたい……』
女の手が再びクリトリスを弄り始める。
男の射精と違い、女の絶頂に終わりはないのだ。
身体からもたらされる快楽を貪るように、女はクリトリスを指で弄び続ける。
「やばっ、これ、またイッちゃう……ッ、あっ、んッ、あああぁぁッ!!?」
二度目の絶頂。
女が身体を大きく反らして快感に震える。
でも、まだ止まらない。
終わりのない快感に囚われた女はひたすら股間を弄り続けた。
『あひゃっ、とまんにゃい……きもち、よすぎてぇ、ッ、もっと、もっとぉっ……!』
理性など溶けてしまったように、女はしどろもどろになりながら呟く。
三度、四度と絶頂を繰り返しながらも、女の手が止まることはなかった。
『あぁ〜っ、きもちいぃッ、おれ、おんなになれてよかったぁっ! んあああぁッ!!?』
そう言って何度目かの絶頂を迎えると、女はついに何も言わなくなった。
ただ身体を震わせながら股間を触っている。
もうまともに意識も残ってなさそうだというのに、女のオナニーは続いている。
すると、扉がノックされて聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『お、おい……大丈夫か?』
どうやら俺が様子を見にきたようだ。
完全に伸びきった状態の女を俺が連れ出し、その後スマホは俺に回収され、そこで映像は終わった。
「…………」
すごい映像だった。
永久保存版だ、これは。
俺は先ほどオナニーしたばかりだったというのに、目の前にはティッシュの山が築かれていた。
もう男としてこれ以上に興奮するオナニーは二度とできないだろう。
だが、俺の胸に引っかかっていたのは、そんな男のオナニーなんか比べ物にならないほど気持ちよさそうだったもう一人の俺の淫らな顔だった。
ああ、本当に羨ましい……。
────────
「いや、その……迷惑かけて悪かった……」
数時間後、ようやく目を覚ましたもう一人の俺が正座の状態で俺の前に縮こまっていた。
一応服を着ているが、俺の持っていたジャージを無理やり着ているのでサイズが合わずブカブカだ。
そのブカブカ感がちょっと可愛く見えるのは黙っておこう。
「ちょっと興奮しすぎて……まさかあんなに気持ちいいとは……」
「それ以上言うな。羨ましすぎて血涙が出そうだ」
「お、おう……悪い……」
正直言って迷惑をかけられたとかは別にどうでもいい。
それよりあのオナニー映像がずっと脳裏に焼き付いていることの方が問題だ。
思い出しただけでもまた勃起しそうになってしまう。
だが、とりあえず今考えるべきはそれじゃない。
「これからどうするか。お前なんか考えてるか?」
「いや、ついさっきまで気を失ってたし……というか、自分のことなんだがあんまり現実感がないわ。どうするべきなんだこれ?」
実際、こんな非現実的な状況だとまともに考えるのもなんか面倒くさい。
ある日突然俺がもう一人増えてしかもそいつは女で、なんて説明しても他の人間は誰も信じないだろうし。
「それより腹減ってきたわ。俺今日朝からなんも食ってないし」
「そういや俺もさっき飯の準備しようとしてそのままだったわ。もう昼飯なんて時間でもないし、夕飯の買い出しでも行くか」
一旦これからのことは後で考えるとして、俺たちは買い物に行くことにした。
もう一人の俺と連れ立って外を歩く。
こんな風に女と二人で買い物に行くなんて初めてだ。
流石に少し意識をしてしまう。
「女とデートしてるみたいだろ? 嬉しいか?」
もう一人の俺がニヤニヤしながらこっちを覗いてくる。
「うるせえよ。俺がそっち側の方が良かったわ」
「まあもし俺が男の側だったら嬉しいより妬ましいが勝ってただろうな。そんなことより、夕飯はどうする? なに食うか」
「カレーでよくね? 作るの楽だし」
「いいじゃん、俺も同じこと考えてたわ」
こういうとき相手が自分だと決めるのが楽でいいな。
他人と同棲すると考え方や生活習慣の違いで揉めるとよく聞くが、自分同士ならそんなトラブルはそう起こらないだろう。
もしかしてこの状況って結構悪くないのか?
「……なあ、さっきから俺たち、なんか見られてないか?」
すると、もう一人の俺がそわそわしながら聞いてきた。
「そうか? 俺はなにも感じないが」
「いや、なんか周りの奴らがこっちをチラチラ見てる気がする。やっぱ俺が可愛いからか?」
「この自意識過剰め。お前がそんなブカブカのジャージ着てるからだろ」
「まあ、確かにこのダサい格好はなんとかしたいな……」
「明日は服買いに行こうぜ。流石にずっとその格好なのもアレだしな」
近所にショッピングモールがある。
そこに行けば服は揃うだろう。
なんかますますデートっぽくなる気がするが。
「なあ、俺どんな服が似合うと思う?」
もう一人の俺が聞いてくる。
こいつ、さっきから浮き足立ってるのが丸わかりだ。
女の身体で人前に出てテンションが上がってるのかもしれない。
羨ましい。
「彼女もいたことないのになにが似合うとかわかるわけないだろ。ただ……もし俺が女になるとしたらヒラヒラしたいかにも女って感じのワンピースとか着たいよな」
「流石は俺だ。よく分かってんじゃねえか」
もう一人の俺は嬉しそうにこっちを見て笑っている。
お互いに価値観が同じだとこういうちょっとしたことでも気持ちが共有できていいかもしれない。
向こうにとっても俺は都合のいい男みたいな感じに見えてるのではないだろうか。
会話を続けているうちに、俺はなんだか奇妙な心地の良さを感じるようになっていた。
────────
買い出しを終えて家に帰った俺たちは、二人でカレーを作って食卓を囲んでいた。
単身者用の部屋に二人座っていると流石にちょっとだけ狭く感じる。
「なあ、この部屋って二人で住んでたらまずいのかな?」
「どうなんだろうな。まあバレなきゃいいんじゃね?」
「たしかに。なんか前に管理人に言わずに単身者用の部屋で彼女と同棲してる奴いたよな」
「ああ、いたいた! あれだ、大学のときの同期の……」
「そうだ、立花だ! 懐かしいな」
記憶が共有されているから俺にしか通じないような身内ネタも通じて気持ちがいい。
しかも相手は可愛い女だ。
これが楽しくないわけがない。
「そういや前にサークルの飲み会で、もし女になったらおっぱい揉ませてやるって言ったことあったよな。次会ったら揉ませてやった方がいいかな?」
「誰もそんなこと覚えてねえよ。つーか他のやつに揉ませるよりまず俺に揉ませろよ」
「なんだよ、お前揉みたかったのか? だったら早く言えよ。ほれ」
そう言うともう一人の俺は俺の方に体を寄せて胸を突き出してきた。
あれ、冗談のつもりだったんだが……。
なんだこれ、本当に揉んでいいのか?
酒に酔ってるだけか?
いや、一旦落ち着け。
相手は俺とは言え、いきなり女の胸揉むとか人としてどうなんだって話だ。
ここは流れに身を任せるべきじゃない。
「じ、冗談に決まってんだろ。まったくよ……」
「は? なんだよ、冗談かよ……こっちはマジで揉ませてやろうと思ったのに。ノリ悪いな」
もう一人の俺は少し不満げに口を尖らせながら食べ終わったカレーの皿を片付け始めた。
本気で揉ませる気だったのかよ。
向こうは女の身体になってはしゃいでるからか、微妙に性への向き合い方に齟齬が生じ始めてる気がする。
いや、俺だってもし女になってたら他人に揉まれる感覚とか気になってたかもしれんが。
とはいえ、こっちは変わらず彼女がいたことすらない童貞なのだから少しはそこを考慮してくれ。
俺も自分が食べ終わった皿を流しに運ぶと、もう一人の俺がニヤニヤしながら小突いてきた。
「なあ、この後はどうする? 一緒に風呂でも入るか?」
「な、なにッ!?」
こいつ、俺が動揺するのをわかっててやってやがる……!
女になった俺はこんな淫乱なサキュバスみたいになっちまうのか?
俺の中にある女の才能に驚きを禁じ得ない。
俺は動揺を隠すようにもう一人の俺の頭を叩いた。
「あほ。入るわけねえだろ」
「なんだよビビってんのか? この童貞め」
「うるせえよ、お前も童貞だろうが! 自分だけ女になったからって調子乗りやがってこの野郎! あー、ちくしょう、羨ましいんだよ、くそッ!」
俺だって女になってたら初心な男からかってニヤニヤしたかったわ。
世界はなんでこんなにも不公平なんだ。
戦争がこの世から無くならないのも必然だと言えるだろう。
「だからさ、お前にも触らせてやるって言ってるだろ。つーか早く触れよ」
「は、はぁ? なに言ってんだ」
もう一人の俺がこれまでのからかうようなトーンから急にマジっぽいトーンに変わった。
「せっかく女の身体になったんだから女のセックス体験してみたいんだよ。お前だって気持ちはわかるだろ?」
「それなら急に女に迫られて困惑する俺の気持ちだってお前にもわかるだろ」
「それは……まあたしかにな。でも丁度いい機会だろ。お前は童貞卒業できて俺は女のセックスを体験できる。Win-Winじゃねえか」
「いや、そもそもなんで俺相手なんだよ。別の奴でもいいだろ」
「そりゃお前……いきなり他人とセックスなんて抵抗あるに決まってるだろ」
あ、やっぱこいつ俺だわ。
本質的な部分では童貞らしさが滲み出てて我ながら情けない。
だが、ここまで言うなら自分相手に引け目を感じるのも馬鹿馬鹿しくなってきた。
「わかったよ。来い」
俺はもう一人の俺の手を引いてベッドの前まで移動した。
手で軽く押すと、ブカブカのジャージを着た美少女がベットの上に倒れ込む。
どこか期待するような顔で俺の方を見ていた。
改めて見ると、こいつ本当に可愛いな。
「……とりあえず俺の好きにさせてもらうぞ」
「……おう、やってみろ」
俺にだって男として女に触りたいって気持ちはある。
俺ももう一人の俺も、どちらも興奮で息を乱し始めていた。
まず、もう一人の俺が着ているジャージを脱がす。
ジッパーを下ろして中に着ているTシャツも捲ると、その下から柔らかそうな乳房が姿を表す。
当然だがブラジャーなんてものは着けていない。
経験のない俺としては気が楽だ。
「……そんじゃ、触るぞ」
俺の言葉に黙って頷くもう一人の俺。
俺はゆっくりと目の前の乳房に手を触れた。
力を入れると指が胸に沈み込み、面白いぐらいに形が変わる。
動画で見るよりもはっきりとわかる柔らかさに俺は感動していた。
「すげえ……めっちゃ柔らけえ……」
「んっ……だろ? 他人に触られるって、こんな感じなんだな……これも、悪くないかも……」
目の前の女が俺に触れられて喘ぐような声を上げている。
初めての経験にどんどん気分が高揚していくのがわかる。
既に俺の股間はギンギンに勃っていた。
「下も脱がすぞ」
「んっ……え? あ、あぁ……」
女が着ているジャージのズボンを下ろし、その下の普段俺が履いているトランクスも一緒に下ろす。
すると、湿り出している股間がテラテラと光を反射していた。
女の柔肌、それも股間の大事な部分が目の前で露出していて、俺はついそこを凝視してしまう。
「モザイクのない女の股間……初めて見たな……」
「お、おい……俺だって見れてないんだからあんま見んなよ」
女はちょっと恥ずかしそうに顔を赤くしている。
なんだろう、普通に可愛く思えてきた。
俺はなにも言わずに女の股間に指を伸ばした。
割れ目の中に、指を深く挿し込んでいく。
「んんっ!? すげっ……中に、なんか入ってるのわかる……」
指を内側から動かすと、膣が締め付けてくるのがわかる。
それに合わせて女の身体はビクビクと震えており、どうやら向こうも感じているようだ。
俺が指を抜くと、女は目を潤ませてこっちを見ていた。
もう我慢できねえ。
俺は自分の履いていたズボンを脱いで股間を晒した。
イキり勃つ俺のチンコを女の股間に合わせる。
先ほどまで指を入れていた穴めがけて、チンコを挿入しようとした、そのとき。
「……ま、待った! ちょっと待った!」
「あ? なんだよ」
急にもう一人の俺が止めてくる。
挿れる直前になってなんだっていうんだ。
「やっぱり、今日はここまでにしようぜ? 挿入はまだちょっと早いような気がするし……」
「はぁ? ここまできてなに言ってんだよ。ノリノリで誘ってきたのお前だろうが」
「そうなんだが……いざ挿れるとなったら、心の準備ができてないように思えてきて……」
「お前なあ……」
ギリギリで急にビビりやがってこの童貞め。
いや、童貞の俺はやる気だったんだから、この処女めって言うべきか。
まあビビっている相手に強引に迫れるような度胸は俺にはないので、今日はこれ以上は無理そうだ。
仕方なく俺たちの初セックスは挿入前にお開きとなった。
その後はお互い微妙な気まずさを感じながら過ごし、あまり喋らないまま寝ることになった。
まあ、明日になったらこいつも覚悟が決まるだろう。
────────
朝を告げるアラームがスマホから鳴り、俺は目を覚ます。
倒した座椅子に横になりその上に毛布をかけていただけだったせいか、少し体が痛い。
体を起こしながらスマホを手に取りアラームを止める。
「……んあ?」
なんか、腕が細くなったような気がする。
いや腕だけじゃなく手が小さくなっている。
それどころか、服が全体的に大きくなってブカブカだ。
というか、なんで俺ジャージなんて着てるんだ?
これ昨日もう一人の俺に着させてたやつだったはずじゃ?
あれ、そういえば昨日座椅子に寝たのはもう一人の俺じゃなかったか?
寝る前にじゃんけんをして、俺は勝ったからベットに寝たはずじゃ……?
「なんだ……? なんか変……んん? 声が、おかしい……高くて、まるで女みたい……………………まさか」
俺は毛布を跳ね除けて立ち上がり、自分の身体を見下ろした。
ブカブカのジャージの胸元には、微妙に盛り上がりが見える。
それにさっきから視界の端には長い髪がチラついている。
俺は部屋を飛び出して洗面台に向かった。
鏡の中を覗き込むと、そこには昨日突如現れたもう一人の俺と全く同じ顔の女が映っていた。
「俺、女になってるー!?」
昨日のもう一人の俺と同じような反応で叫ぶと、部屋から慌てたような様子で誰か出てきた。
「お、おい! これって……!」
そう言いながら現れたのは、男の俺だった。
俺が女になっていて、目の前に男の俺がいるということは。
「お前、俺だよな……?」
「そう言うってことは、お前も俺だよな……?」
「まさか、入れ替わってるのか……!?」
「う、嘘だろ……!?」
俺ともう一人の俺は顔を見合わせながら、同時に声を上げた。
「やったああああぁぁっ!」
「なんでだよおおぉぉっ!」
俺の歓喜の声と、もう一人の俺の慟哭の声が重なり合うように響いた。
「やった! やった! やったぁっ! 今度は俺が女になれたんだ!」
「ちっくしょう、聞いてねえよ! 男に戻るなんてよ! こんなことならもっと堪能しておけばよかった! くそッ!」
自分の喉から響く女らしい可愛い声に、つい聞き惚れてしまう。
夢にまでみた女の体になれて、俺は天にも昇るような気持ちだった。
一方、もう一人の俺は膝から崩れ落ちるように床を叩いている。
昨日まであんなに俺に自慢げに女の身体を見せてきたのに、なんとも無様だ。
「いやあ、悪いな。俺だけこんないい体になっちまって」
「お前、この野郎……いや、昨日同じことしたのは俺だ。文句は言えねえ……」
もう一人の俺は悔しそうな顔をしながらも納得したように深呼吸していた。
「で、なんで入れ替わってるんだ?」
「さっぱりわからん。そもそも二人になって片方女になってる理由もわからんしな。ただ朝起きたらこうなってたってことは、もしかして寝るたびに体が交換されるのか?」
「なるほど。それじゃあ今すぐ二度寝しようぜ」
「ふざけんな、今日一日ぐらい女でいさせろ」
どんだけ女に戻りたいんだよこいつ。
いや、そりゃ気持ちはわかるが。
「仕方ねえな……それじゃあ今日はどうする? 服買いに行くって話だったが」
「もちろん行こうぜ。でも、その前に俺はやることがある」
「やること? なんだよ」
「決まってんだろ。オナニーだよ」
俺はニヤッと笑いながらトイレのドアに手をかけた。
もう一人の俺は呆れたような顔でこちらを見ていた。
「お前……朝っぱらからそんなこと言って恥ずかしくないのか? どんだけオナニーしたいんだよ」
「やかましいわ! オナニーに夢中になりすぎて気絶した奴に言われたくねえよ!」
俺はトイレの中に入り鍵を閉めた。
便座の上に座り、一息つく。
ついに、俺も自分という立場で女の体を触ることができる。
一応、スマホの撮影ボタンを押して棚の上に立てかけておいた。
昨日はもう一人の俺に見せてもらったし、これぐらいのお返しはしておくべきだろう。
「よし、まずは……」
俺はジャージを脱ぎ捨てた。
昨日第三者視点で見ていた体が、動画の中で見ていた景色が、俺の首から下に広がっている。
傷一つない綺麗な女の体。
胸元で膨らむ乳房。
スベスベの太もも。
細く華奢な手足。
これが本当に今の俺なんだと思うと、感激のあまり涙が出そうだった。
「とりあえず、胸から揉むか」
俺は両手を胸に合わせる。
柔らかい胸に指が沈み込むと、同時に自分の胸にしっかりと掴まれている感覚が伝わってくる。
昨日は他人のものとして触っていた胸が、今は自分のものになっているのだ。
「ああ、こういう感覚なんだな……んっ、柔らけえな……ずっと揉んでたくなる……」
自分で自分の胸を揉む感覚をじっくりと味わいながら、乳房の先端の乳首を指で摘む。
すると、ピリッとした快感が走るように体を駆け抜けた。
「んっ……これ、気持ちいいな……男の体で触るのとは全然違うわ……」
くにくにと乳首を摘んでいるとどんどん刺激が迸り、自然とエロい声が漏れてしまう。
今の俺、本当に女みたいだ。
「ふぅ……でも、女の体と言えば、やっぱりこっちだよな……」
右手を胸から股間に移す。
女の大事なところ。
男であればチンコがあるはずのそこには、ただ割れ目があるだけだった。
「おおっ、すげえ……まさか俺にもこの感覚を味わえる日が来るとは……」
割れ目を指でなぞると、ゾクゾクとした快感が湧き起こる。
こんなの我慢できるわけがない。
俺は割れ目の内側に指を入れた。
それだけでピクッと体が震えてしまうほどに敏感だった。
「んっ……やばい、ここだけでもイケそうだ……ん? これって……んあッ!?」
割れ目の中を探ってる内に、特に敏感な部分に指が触れた。
突起のように出ているそれは間違いなくクリトリスだろう。
男でいうチンコのようなものと聞いたことはあるが、触っただけで喘いでしまうその快感は男だったときとは桁違いに感じる。
「ここっ……もっと触って……んんッ、きもちよすぎるぅ……!」
クリトリスを重点的に指で弄る。
断続的に体を襲う快感に、俺の頭は蕩けそうになっていた。
自然と息が荒くなり、喘ぎ声が勝手に漏れる。
昨日映像で見て興奮したあの女と全く同じ状況にあることに、俺は堪らなく興奮していた。
やばい、もうすぐにイッちゃいそうだ……!
「んっ、あッ、やばっ、もう、イクッ、んッ、あああぁッ!!?」
ビクンッ、と体が快感に震える。
力のこもった足が勝手にピンと伸びて強張ってしまう。
きもちいい。
潤んだ瞳からポロポロと涙が溢れる。
夢にまで見た女の快感は、俺の想像以上だった。
「すげえ……きもちいい……しかも、まだイケそうだ……」
男の体なら一回イケば賢者タイムに突入してしまうが、この女の体ならそんなことはない。
気が済むまで何度でもイケてしまいそうだ。
俺は更なる快感を求めてクリトリスに触ろうとした。
するとそのとき、いきなりドンドンドンッ!とドアが強く叩かれた。
「うわぁっ!? な、なんだ!?」
「おい、今イッただろ? だったら一回出てこい」
どうやら外にいたもう一人の俺が叩いたらしい。
せっかくのオナニー中に邪魔しやがってこの野郎……。
「ちょっと待てよ! もう少しだけ……」
「いーやダメだ! 経験から言わせてもらうがお前は放っておいたら気絶するまでオナニー続けるぞ。今日は買い物に行くんだからそこまでにしとけ」
「チッ……仕方ねえな……」
俺は鍵を開けてトイレから出た。
正直なところ、止められなかったら多分昨日のもう一人の俺と同じように気絶するまでオナニーしていたと思う。
今となってはもう昨日のもう一人の俺の醜態を笑えない。
「あのなあ、お前の服を買うために出かけるんだぞ? わかってるのか?」
「悪かったって! じゃあ行くか、デートにさ」
「うるせえよ」
俺はジャージを着直して出かける準備をした。
女の体で出かけるってことは、何も知らない他人に女として見られるってことだ。
想像するだけでゾクゾクしてしまう。
先ほどまでオナニーで触っていた俺の股間は、びっしょりとパンツを濡らしていた。
────────
「いらっしゃいませ! どのようなものをお探しですか?」
近所のショッピングモールの中のレディースファッションの店を回ってみようと思い入った一軒目で、店員から声をかけられ俺ともう一人の俺は二人で困惑していた。
普段から服を買いに行くことがあまりないし、行くことがあってもユニクロ程度の俺としては、こんなキラキラした女性向けの服屋で店員から話しかけられたらどうしていいのかよくわからない。
「えっと、勝手に見るので大丈夫です……」
「あ、わかりました! 何かあればいつでもお声掛けくださいね」
店員のお姉さんは明るい声でそう言うと去っていく。
俺ともう一人の俺は顔を見合わせながら胸を撫で下ろした。
「なんか肩身狭いわ……俺この店にいていいのかな?」
「お前はまだマシだろ、女なんだから。俺なんて明らかに浮いてるぞ」
周りの客も基本的に女しかいないので、もう一人の俺は居心地の悪さを感じているようだった。
だが、せっかく服を買いに来たのだ。
こんなことで気後れしている場合ではない。
「とりあえず見ていこうぜ。こんなじっくり女の服見れる機会なんて今までなかったんだし、気楽に見てきゃいい」
俺の言葉にもう一人の俺も頷く。
この店は、ジャンルとしてはフェミニン系の服が揃ってるようだ。
パステルカラーが中心でスカートやブラウス、ワンピースが揃っていて、俺の好みにぴったりだ。
「おっ、これなんてどうだ?」
清楚感の漂よう水色のロングスカートを手に取り、体に合わせてみる。
すると、もう一人の俺も感心したように頷いた。
「いいじゃんいいじゃん! そういうのだよな、やっぱり。そのスカートに合わせるなら……これはどうだ?」
もう一人の俺が襟付きの白いブラウスを手に取った。
袖口がフリルのようにヒラヒラしていてとても可愛いらしい。
「おお、いいなそれ! お前センスあるな!」
「ふっふっ……あまり褒めるなよ」
上下の揃った清楚ファッションにキャッキャする俺たち。
普通に考えたら自分同士なのだから好みは同じだしセンスがいいもクソもないのだが、まあそれは置いておこう。
「一回試着してみるか。試着室は……」
「試着室ですね! こちらにどうぞ!」
いきなり声をかけられ飛び跳ねそうになりながら振り返ると、いつの間にか後ろに先ほどの店員がいた。
どうやら俺たちの話も聴かれていたらしい。
なんか急に恥ずかしくなってきたな……。
「こちらにどうぞ!」
店員に誘導され、スカートとブラウスを持ち込んで試着室に入る。
女の体で試着室に入るってなんか緊張するな……。
俺は着ていたブカブカのジャージを脱いで、新しい服を着込んでいく。
鏡に映る美少女の俺が可愛らしい服を着ていく姿が目に入る。
服まで女物になると、いよいよ普通の女にしか見えない。
「ふ、ふふふ……」
鏡を見ていると、映っている美少女がニヤけていた。
本当に可愛い。
こんな格好で歩いていたらナンパでもされてしまうかもしれない。
いや、流石に自意識過剰か?
着替えを終えた俺は試着室のカーテンを開けた。
すると、もう一人の俺は俺の姿に見惚れているようだった。
「おお……」
「よくお似合いですよ!」
店員のお姉さんにも褒められ、なんだか照れてしまう。
「ほら、彼氏さんも彼女さんに見惚れてますよ!」
「「え゛」」
俺ともう一人の俺は同時に声を漏らしていた。
もしかして、カップルだと思われてるのか?
「あの、俺は彼氏じゃ……」
訂正しようとするもう一人の俺を見て、俺は面白いことを思いついた。
もう一人の俺の言葉を遮って、俺は声を上げた。
「ねえコーくん、お……私、似合ってる?」
「は!?」
動揺するもう一人の俺を無視して、その腕に絡みつく。
突然の俺の行動にもう一人の俺は完全に固まっていた。
流石は童貞だ。
女に擦り寄られただけでひとたまりもない。
店員はニコニコしながらそんな俺たちのやりとりを見ている。
まさか俺たちが同一人物だとはこのお姉さんも思うまい。
まあこんな店に男女でやってきたら普通はカップルだと思うだろう。
その後、店員に金を払い店を出ると、もう一人の俺は無言で俺の頭を引っ叩いてきた。
俺はニヤニヤしながらもう一人の俺に声をかける。
「痛えな。なにすんだよ、彼氏さん」
「……あほか。なーにがコーくんだよ、ふざけやがってこの野郎。自分同士のカップルとかどんだけ自分好きなんだよ。ナルシストか」
「……それで言うと俺らもうナルシストに半分ぐらい足突っ込んでるけどな」
自分の体をオカズにオナニーしてセックス直前まで行った時点でもう何も言えない気がする。
「そ、そんなことより……他にも買うもんあるよな?」
「えっと、必要なもんはスマホと……あとアレだ」
「アレ?」
さっき試着室で着替えをしてて気付いたのだ。
今の俺はノーブラにトランクスという女にあるまじき下着をつけている。
女として女の服を着るなら当然女物の下着が必要になる。
「次はあそこ行くぞ」
「ま、マジかよ……さっきの数倍肩身狭いんだが……」
近くのランジェリーショップを指差すと、もう一人の俺はため息をついた。
その手を強引に引っ張り、俺は店の中へと入っていく。
いよいよ本当にラブラブカップルのデートみたいになってきてしまった。
でも、女の視点でこうやってデートに興じるというのは新鮮で楽しい。
昨日のもう一人の俺の気持ちが今ならよーくわかる。
この隣の童貞をどうやってからかってやろうか、そんな気持ちが俺の中で大きくなっていくのをひしひしと感じていた。
────────
「いやー、買った買った。楽しかったなー、デート」
「お前なあ……」
買い物を終えた俺たちは家に帰ってきた。
あれから下着、靴、スマホ、ついでに化粧用品まで買ってきた。
女として生きるなら化粧は必須だ。
幸いにも、店員のお姉さんが化粧初心者の俺に丁寧に説明してくれた。
パーソナルカラー診断というのまでやってくれて、どうやら俺はブルベ夏らしい。
意味はよくわからないけど。
「何かあるたびに彼女ぶるのやめろや。こっちは一々ドギマギしてるんだよ」
「そもそもデートとか言い出したのお前だろうが! 自分がされる側になった途端やめろなんて通じると思うなよ!」
「それは……たしかに。女になってテンション上がってたんだろうな……今は反省してる」
まったく、被害者意識の強い人間はこれだから困る。
まあ、俺なんだが。
「お前昨日俺に『女とデートしてるみたいだろ? 嬉しいか?』って聞いてきたけど、どうだった? 嬉しかったか?」
「うるせえよ。俺もその体で可愛い服着たかったわ」
「そりゃそうだろうな。昨日の俺はずっと妬ましさに狂いそうだったからな」
ニヤニヤしながらもう一人の俺を見る。
昨日とは立場が逆転してるので、昨日の俺の気分をこいつは味わっていることだろう。
だが、昨日の俺の中にあったのはそんな羨ましいという感情だけではなかった。
可愛い女の俺と過ごせて楽しいという気持ちと、可愛い女に興奮する気持ちが確かにあったのだ。
それをこいつが感じていないわけがない。
だってこいつも俺なのだから。
「なあ、お前……俺に触りたいんじゃないのか?」
「そりゃ触りたいに決まってんだろ。その体を使ってる女本人としてな」
「そうじゃねえよ。男としてってやつ。俺は昨日お前に迫られて男として興奮してたんだぞ。だったらお前だってそうだろ?」
「そりゃまあ……そうだよ」
もう一人の俺は開き直ったように胸を張ってきた。
「それで? お前は何が言いたいんだ?」
「わかってるだろもう。要するに、俺は心の準備ができてるってことだよ」
朝にオナニーしたときからずっと考えていた。
この体でセックスしたらどれだけ気持ちいいんだろうと。
だがその一方で、昨日ビビっていたもう一人の俺の気持ちもわかる。
男にチンコ入れられるなんて抵抗がないわけがない。
だから俺は、今日一日女としての自分を積み上げてきた。
女の格好、女としての振る舞い、男への態度、それらのイメージが自分の中で固まっていく。
ふと、窓ガラスに自分の姿が映っているのが目に入った。
水色のスカートと白いブラウスを着た、化粧の施された可愛らしい女。
今の俺は、紛れもなく女だった。
「わかったよ。来い」
そう言うと、もう一人の俺は俺の手を引いてベッドの前まで移動した。
手で軽く押され、俺はベットの上に倒れ込む。
昨日とは完全に逆だ。
もう一人の俺は、興奮して息を乱しながらこっちを見ている。
股間を見ると、既に勃起しているようだった。
「……とりあえず胸揉ませてくれ」
「……ああ。好きにしろ」
もう一人の俺が、服の上から俺の胸を揉んでくる。
直に触ったときとはまた違った感覚にゾクっとした快感を覚える。
「他人の胸揉むってこんな感じなんだな。自分で触るのとは違って変な感じだ」
「んっ……男のくせに、そっちを先に知ってるってのもどうなんだ……あっ……」
乱暴な触り方だがその手は少し震えており、やはり童貞らしさが滲んでいる。
相手が自分だとわかっている分かなり気が楽だ。
「こっちも触るぞ」
「おぅ……んあっ……!」
もう一人の俺はスカートを捲り、下着の上から俺の股間を撫でた。
昨日散々オナニーしたからか、的確にクリトリスを責めてくる。
布地でクリトリスが擦られ、指で触ったとき以上のむず痒い快感が迸り、思わず俺は声を上げてしまう。
「んんッ、んあッ!? そこ、きもちいい……!」
元々興奮していたのもあって、股間は愛液で濡れそぼっていた。
もう一人の俺が触った場所が、クチュクチュと淫らな音を鳴らしている。
他人に触られるのも、めちゃくちゃ気持ちいい。
「なあ、そろそろ……挿れていいか?」
「あっ、ちょっと待ってくれ……!」
俺はもう一人の俺を呼び止める。
それに対し、もう一人の俺は露骨に不満げな顔をした。
「は? 心の準備はできてるんじゃなかったのかよ」
「そうじゃなくて……服、汚したくないから……脱いでいいか?」
せっかく買ったばかりの可愛い服なんだ。
こんなところで汚したくはない。
「たしかに。次に俺が女になったときに着る服だしな」
「気が早いやつだな……今ぐらい男でいろよ」
「うるせえな。早く脱げ」
俺はブラウスとスカートを脱ぎ、身につけていた下着も外した。
ベッドの上に、全裸のまま横たわる。
露わになった俺の肢体を、もう一人の俺は食い入るように見ていた。
「それじゃあ……挿れるぞ」
「…………」
勃起させてチンコを露出させたもう一人の俺が、俺の股間の前に迫ってくる。
胸がドキドキと高鳴って、体が震えてくる。
女としての一線をついに越えるのだ。
ならば、今の自分に相応しい振る舞いをするべきだ。
俺はゆっくりと口を開いた。
「わ、私のおまんこに……挿れて」
艶のある声で、俺は呟いた。
目の前のもう一人の俺には、もう今の俺は女としか映らないはずだ。
「っ……!」
もう一人の俺は気持ちを滾らせたように一瞬震えた後、ずぶりと俺の中にチンコを挿し込んできた。
股間の中が抉られていくような鋭い痛みと圧迫感に、俺は思わず呻く。
「んんッ……! は、はいってきた……!」
これが、処女喪失の痛みか。
想像していたよりもキツイ。
でも、この痛みこそが自分が女になっている証明なんだ。
そう考えると、頭の中にアドレナリンが湧き出て、興奮と快楽に塗り替えられていった。
「わ、私……女に、なれたんだ……あはっ……! んっ、あっ……!」
股間の中から感じるもう一人の俺のチンコの存在感が、次第に俺に快感をもたらしてきた。
あれは痛みだけじゃなく快感を与えてくれるものなんだって、俺の中の女の本能が告げている。
俺、どんどん女になっていく……!
「……動くぞ」
「うん……んっ、んあぁッ!?」
膣の内側が擦られ、強い刺激が駆け抜ける。
痛みもあるけど、それ以上に気持ちいいという感覚で頭がいっぱいだった。
女になれた悦びと興奮で、俺の頭は既におかしくなっているのかもしれない。
「っ……やべえ、めっちゃ気持ちいい……」
「んっ、あっ、これ、すごいっ……あんっ!」
腰を動かしながらもう一人の俺が何か言っているけれど、自分の喉から響く可愛らしい嬌声しか耳に入らない。
もう今の俺は完全に女だった。
弱々しくシーツを掴み、頬を上気させながら潤んだ瞳で目の前の男を見て、セックスに夢中になっているただの女だ。
「あっ、んんッ、んあッ! わたし、女になって、きもちいいよぉっ!」
「俺も、気持ちいいぞ……男も意外と、悪くないかもな……」
もう何も考えられない。
セックスって気持ちいい。
女の体って気持ちいい。
今の自分になれて、本当に幸せ。
激しい快楽と幸福感で俺の頭は満たされていた。
「くっ、もうイキそうだ……」
「ああッ、わたし、イッちゃうっ、もう、イッちょうのぉっ!」
内から湧き出る快感に耐えられない。
もう限界はすぐそこまで迫っていた。
「くっ、でるっ……んぐぅッ!」
「んっ、あっあッ、んんっ、くっ、んああああああぁッ!!?」
ビクンッ、体が大きく跳ねる。
その瞬間、股間からはチンコが抜け、先端から射精された精液が俺の体に飛び散った。
チンコが抜けても、体は熱を持ったまま疼いている。
快感が高いところまで登ったまま、なかなか降りてこない。
こんな壊れてしまいそうな快感に襲われるなんて思ってなかった。
オナニーのときよりも気持ちいい。
やっぱり、女の体ってすごい。
そんなことを考えながら、俺は心地いい微睡に飲まれていった。
────────
「……なか、郷中! おい、いつまで寝てんだ!」
「んあ……?」
寝ぼけた頭を起こして振り返ると、呆れた顔の同僚がこちらを見ていた。
「お前ちょっと10分だけ仮眠するって言ってからもう15分以上経ってるぞ。もうすぐ課長戻ってくるんだからちゃんとしとけ」
「あ、ああ。悪い」
俺は慌てて涎を拭い、目の前のパソコンに向かった。
仕事中に仮眠したなんて課長にバレたらまたパワハラめいた追及をされるに決まっている。
昨日は夜更かししすぎたからまだ眠いが、定時まではシャキッとしなければいけない。
俺は残りの業務時間をなんとかやり過ごし、定時になるとすぐに会社を飛び出した。
早く家に帰らないといけない。
だって家には、俺の帰りを待ってるあいつがいるんだから。
俺は鍵をあけて玄関を開いた。
「ただいま」
「おう、おかえり」
俺を出迎えたのは、エプロンをつけた可愛らしい美少女。
もう一人の俺だ。
「今日も仕事お疲れ様」
「まったく、もう仕事なんて行きたくねえよ。お前代わりに行ってくれ」
「どうせ明日は俺が行くんだからいいだろ。一日おきになっただけ楽になってんだから」
今朝目が覚めたら俺はまた男になっていて、もう一人の俺は女になっていた。
どうやら俺たちは日替わりで男女を交代しているらしい。
とりあえず、男の体のときは会社に行き、女の体のときは留守番と家事をすることに決めた。
「ほら、夕飯もうすぐできるから早く着替えてこい。今日は麻婆豆腐だ」
「おお、自分が用意しなくても夕飯の支度が整ってるっていいな。まるで新婚みたいだ」
「……ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・し?」
もう一人の俺が可愛らしく問いかけてくる。
そのエプロン姿で言われるとかなり破壊力がある。
もうナルシストでいいからこいつと付き合おうかなマジで。
「とりあえず飯だけど……その後でやらせてもらうぞ。まだ俺男としては体験できてねえんだから」
「そうだった、お前はまだ童貞だったなそういえば」
「うるせえこの処女め」
俺たちは笑いながら軽く小突き合う。
もう一人の自分との同棲生活。
しかも男女入れ替わりというおまけ付き。
思っていた以上に俺たちはこの生活を満喫していた。
自分の一番の理解者と代わる代わる男女の営みを楽しめるのだ。
まさに理想の暮らしの始まりだった。
「今夜は私のこと、たくさん気持ちよくしてね?」
もう一人の俺が可愛い顔でニコリと微笑む。
その表情は昨日の俺のものであり、きっと明日の俺のものだろう。