「ほら〜、やっぱりBじゃん! ウチ正解〜!」
「いやいや、こんなのわかるわけねえじゃん。お前だってただの勘だろ?」
少し離れた場所にいるこの私こと、早瀬京子にも聞こえるぐらいの大きさで響く男女の楽しげな会話。
私はそんな男女の様子を冷ややかに見つめながら周りに聞こえないぐらいの大きさでため息をつく。
これが電車の中でなければどうぞご自由にしてくださいと思うだけれど。
どうやらあの人たちには公共の場で静かに過ごすという常識はないらしい。
女の子は隣の男の人の腕に絡まりべったりとくっついていて、いかにもバカップルという感じだ。
それだけでも大概だというのにさっきから車内ビジョンに映った映像を見ながらでかい声でぺちゃくちゃ喋り続けていて、見てるだけで頭が痛くなってくる。
見たところ私と同じぐらいの歳の学生のようだけれど、いくらまだ若いと言っても節度というものを知っていていい年頃だろう。
それが人前であんなにベタベタとくっついて周りの迷惑も考えられないなんて恥ずかしくないのだろうか。
「はぁ……」
再び、ため息が溢れてしまう。
きっと恥ずかしくないからあんなことができるのだろう。
それにあんなバカップルなんて珍しくもない。
時と場所を考えずにイチャイチャしたがる男女の実に多いこと。
周りにどう見られるかわからないのか、それとも見せつけたいのか、どちらにしても非常に不愉快だ。
そもそも男女の交際なんて何が楽しいのだろうか。
私には今まで恋人がいたことはないけれど、別に欲しいとも思わない。
恋愛にうつつを抜かしている暇があったら他にやるべきことはいくらでもある。
きっと私にはああいう人たちの気持ちなんて一生理解できないだろう。
「あれー? 会長じゃん。こんなところで会うなんて奇遇ー!」
急に後ろから声をかけられ、飛び上がりそうになりがら振り返る。
私は目の前の人物を見て、げんなりと肩を落とした。
短いスカートにボタンの開いたシャツという着崩した制服姿。
髪が痛むほどブリーチのされたブロンドの髪。
私が理解できない類の人間であるその女子を、私は知っていた。
「……西条さん。電車の中では静かにしてください。周りの迷惑です」
「えー? 別に誰もそんなの気にしてないって。会長ってマジで大げさー」
西条莉緒。
うちの学校の問題児の一人だ。
遅刻常習犯で授業態度も悪く、いつも不良グループで連んでおり、教師たちも手を焼いている。
ちなみに、彼女の「会長」という呼び方は私が学校で生徒会長を務めていることに由来している。
「それより、さっきから不機嫌そーになんか見てたけど、なに見てたわけ?」
「え? それは……」
私はつい、喋り続ける男女の方へ目を向けてしまった。
それを見た西条さんは何かを察したようにニヤニヤと笑い始める。
「あー、なるほど、あのカップルがウザかったわけね。会長、自分が彼氏いないからってひがむのはよくないですねー」
「別に、僻んでなんかいません。あの人たちが周りの迷惑を考えずに喋り続けているから、気になって……」
「でも、あの二人がイチャついてるのがウザかったのは本当っしょ? そういうのを嫉妬って言うんだよ」
「だから……!」
私が何を言ってもこの人は聞く耳を持たないようだ。
そういえばこの人もまたうちの学校の男子と付き合っているという噂を聞いたことがある。
なぜこの手の人間は恋愛第一で物事を考えるのだろうか。
「そもそも私は彼氏が欲しいなんて思ったことはありません。必要性を感じませんから」
「え? いやいや、会長それマジで言ってる?」
「ええ。私、何か変なこと言ってますか?」
「うわぁ……なんかかわいそうになってきた……」
西条さんが憐れみに満ちた目でこちらを見てくる。
私としてはそんな目を向けられる筋合いはないのだけれど。
「会長はまだ知らないだけなんだよ。彼氏がいる楽しさをさ」
「そんなの、別に知りたくもありません」
「まーたそんなこと言っちゃって。……ま、丁度いい機会だし、会長にも体験してもらおっか」
西条さんはそう言うと私の手を掴み、喋り続けている男女の方へと引っ張り始めた。
「ちょっと、何するんですか!?」
「いいからいいから。あたしに任せときな」
わけもわからないまま私は男女の目の前まで連れてこられてしまった。
男女の方も、いきなり目の前にやってきた私たちを見てキョトンとしている。
「え? 誰? カリン、お前の知り合い?」
「いや、ウチも知らないけど……ウチらになんか用?」
「いや、その……さ、西条さん! どういうつもりですか!?」
私はいたたまれず、隣の西条さんに説明を求めた。
けれど西条さんは何も言わずに手元のスマホを弄っている。
なんなのこの人は。
「……えっと、あの、ごめんなさい。本当になんでもないんです。それじゃあ私はこれで……」
咄嗟に平謝りして、私はその場を離れようとした。
すると、その瞬間。
「ッ!?」
いきなり心臓がドクンッと大きく跳ね、思わず胸を押さえてしまう。
それと同時に目の前が真っ暗になっていく。
なに、これ……。
どんどん意識が朦朧としていき、やがて私は完全に意識を手放した。
────────
「……おい、カリン? どうしたお前、大丈夫か?」
軽く肩を叩かれ、私は我に帰った。
どうやら数秒の間意識が落ちていたようだ。
なんだったんだろう、今の。
私は瞬きをしながら前を見て、ふと違和感を覚えた。
いつの間にか立っている場所が変わっている。
今の数秒間で私は無意識に移動していたのだろうか。
さらにもう一つ。
いつの間にか私は何かを掴んでいる。
これは、いったい何?
掴んだ手の先に私は視線を向けた。
「? カリン? どうした?」
そこにあったのは、さっきまで見ていた男女の男の方の腕。
私はいつの間にか男の腕にしがみついていた。
「きゃあっ!?」
思わず悲鳴を上げながら手を離す。
どうして!?
なんで私この人にくっついているの!?
すると、後ろからケラケラと笑う声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには私の方を見て笑いを堪えきれずにいる西条さんの姿あった。
「な、何笑ってるんですか西条さん!」
彼女に食ってかかろうとしたそのとき、再び私は違和感に襲われる。
声が、何か変だ。
いつもの自分の声と比べると少しハスキーというか、連日カラオケにでも通い詰めているような枯れ具合に感じる。
無意識に喉元に手を伸ばそうとして、私はそれを目にした。
「なに、これ……」
指の先にはごちゃごちゃとした身に覚えのない装飾が施されていた。
ほぼ全ての爪にキラキラ光るネイルチップがついていて、まるで自分の手ではないみたいだ。
「ど、どうなって……西条さん! なんなんですかこれは!?」
私の方を見てお腹を抱えている西条さんに、私は怒鳴っていた。
彼女は何か知っているはず。
というか、彼女が何かしたに違いない。
西条さんは笑いすぎて溢れ出た涙を拭いながら私に言葉をかけてきた。
「あー、おもしろっ。ねー会長ー。自分のことばっか気にしてるけどさー、この子が気にならないわけ?」
「は? なんの……こ、と……」
西条さんが指を向けた方を見て、私は硬直した。
長い黒髪の、眼鏡をかけた真面目そうな少女。
私の方を見て驚愕の表情を浮かべるその少女は、紛れもなくいつも鏡の中で見る『私』の姿だった。
「な、なんで私がそこにいるんですか!?」
「なんでウチがそこにいんの!?」
私と『私』は同時に声を上げた。
今の『私』の言葉。
そして、私の身体の違和感。
それらが私の中に、一つのあり得ない仮説を浮かび上がらせていた。
「もしかして、私、さっきの女の人と……入れ替わってる……?」
「お、さっすが会長。気づくの早いねー」
西条さんはそう言いながら私に鏡を向けてきた。
そこに映っていたのは、髪は茶髪で顔には化粧をしているいかにもチャラチャラとした軽そうな女の子。
さっきまで隣の男の人と喋り続けていた女子だ。
「う、嘘……これが、私……?」
私が顔に手を触れると、鏡の中の軽そうな女の子も顔に手を触れる。
この鏡に映っているのは紛れもなく私だった。
「おもしろいっしょ? 『入れ替えアプリ』っていうのがあってね、これ使うと二人の身体を入れ替えられるのー」
西条さんがヘラヘラ笑いながらスマホを見せてくる。
そこには、私の顔と軽そうな女の子の顔の写真が映っており、間を結ぶ矢印と『change!』という文字が表示されている。
あまりにも荒唐無稽だけれど、この現状を見たらそんなことは言ってられない。
「な、なんてことするんですか!? すぐに戻してください!」
「え? いやいや、まだなにもしてないじゃん。会長にはこれから彼氏と付き合う楽しさを知ってもらわなきゃいけないんだからさ」
西条さんが不穏なことを言い始めた。
なんだかとっても嫌な予感がする。
すると、私の肩に誰かが手を伸ばしてきた。
「おい、カリン。なにがどうなってんだよ。そいつら知らないやつらなんじゃなかったのか?
なんの話してんだよ」
そう言って私に触ってきたのは先ほどの男だった。
私の肩に男が触れた途端、ゾワッという悪寒が背中を巡る。
「きゃあっ!? さ、触らないでくださいっ!」
「っ!? どうしたんだよカリン!? お前頭でも打ったのか!?」
男は私の態度に困惑している。
そうか、この人は今、私のことを自分の彼女だと思っているのだ。
確かに今の私の身体はあの軽そうな女の子なのだから事情がわからない人からしたらその身体の本人としか思えないだろうけど、私としてはあんな女の子と一緒にされたらたまったものではない。
私は西条さんに掴みかかって訴えかけた。
「西条さん! 早く戻しなさい!」
「だからー、会長にはその子の代わりにあの人の彼女を体験してもらわなきゃいけないんだって」
「そんなの無理です! だいたい、そっちの私の身体はどうするんですか!?」
未だになにが起こったのか理解できず頭にはてなマークを浮かべている『私』を指さして言う。
「もちろん、この子に会長の代わりをやってもらうに決まってるじゃん」
「それも無理ですよ! その人に私の代わりなんてできるわけが……」
私が言い切る前に西条さんはスマホを弄り始める。
するとそのとき、『私』の身体がビクンッと大きく震えた。
何か強い衝撃を受けたように一瞬カッと目を見開いたかと思うと、今度はパチパチと瞬きして周りをキョロキョロし始めた。
「……あ、あれ? 私、何してたんだっけ……? えっと、たしか西条さんに手を引かれて……あっ、西条さん! なんなんですかあなたはもう……! 私、もう行きますから。あなたたちもその、ごめんなさい。それじゃあ失礼しますね」
『私』はそう言うと私たちを置いてそそくさと他の車両へと移っていった。
呆気に取られてつい見送ってしまったが、冷静に考えると非常にまずいことになってる気がする。
「……ちょ、ちょっと待ってください! その身体は私なんですよ!?」
「会長、そんな言い方してもあの子には伝わらないよ」
彼女を追いかけようとした私を西条さんが制止する。
「あの子は今、自分のことを本物の『早瀬京子』だと思ってるの。そういうふうに設定したからね。だからあの子は記憶も考え方も全部会長そのものになったわけ。これならあの子でも会長の代わりができるっしょ?」
西条さんが笑いながらスマホを掲げる。
私は背筋が凍るような想いだった。
身体だけでなく、中身までも奪われたようなそんな気分にさせられる。
「それじゃあ会長にもあの子みたいになってもらおうか。あの子の体験ができるようにね」
続いた西条さんの言葉に私は冷や汗が止まらなかった。
私が、あんな知性を感じさせない人間になるなんて、そんなの……。
「ま、待ってください! それだけは……」
「大丈夫大丈夫ー。あの子とは違って入れ替わってるってことだけは覚えさせといてあげるから。心機一転、別人の人生を楽しんでねー」
西条さんはそう言って、再びスマホを弄り始める。
次の瞬間、私の頭の中に電流のような強い衝撃が迸った。
なに、これ……私、が……ゆが、む……。
「会長ー、気分はどう?」
隣から声をかけられ、ウチはそっちをにらみつけた。
「どう? じゃないからマジで。なんかめっちゃキモいんだけど」
ウチは思った通りのことをそのまま喋って、違和感を感じた。
あれ?
ウチってこんな喋り方だったっけ?
「ごめんて。ま、とりあえず大丈夫そうだし、あたしはもう行くね。バイバーイ」
そう言うと、うちの隣にいたあの……なんだっけ?
名前が思い出せないけど、あの髪染めたギャルっぽいやつが電車から降りて行った。
「えっ、ちょっと待てってば! ウチのことちゃんと戻してけ!」
慌てて後を追おうとしたウチの腕を、誰かが掴んでくる。
「おい、カレン! お前いい加減にしろよ! なんなんだよさっきから!」
「あ……」
振り返ると、さっきの男がうちを掴んでいた。
いや、この男をウチは知ってる。
ウチの彼氏のケントだ。
「ご、ごめん、ケント……ウチ……」
反射的にあやまっちゃったけど、よく考えたらウチは入れ替わってるんだからこの男は本当はウチの彼氏なんかじゃない。
でも、この人にはなぜだか嫌われたくない。
そう思うと、自然にカラダが動いちゃう。
「ったくよぉ……知ってるやつだったんならそうだって言えばいいのによ。なんで俺だけ退けもんにすんだよ」
「いや、違くて……ウチはホントはウチじゃなくて、あのメガネの女がホントはウチで、あのギャルがなんかやったっぽくて、だから戻してもらわなきゃなんなくて……」
「は? なに訳わかんねえこと言ってんだよ。……もういいわ。はぁ、マジ萎えたわ」
ウチがうまく説明できなかったせいか、ケントは拗ねたように後ろを向いてしまった。
「もー、ごーめーん! ウチが悪かったから、許して、ね?」
それに対してウチは猫なで声で甘えながらケントにベッタリくっついてあやまった。
また勝手にカラダが動いちゃったけど、ウチってこんなことする人だったっけ?
あれ?
ていうか、ウチって入れ替わる前はどんな人間だったんだっけ?
なんか黒髪メガネの地味な女っていう見た目以外のことがなんにも思い出せない。
「じゃあ今日のホテル代カレンが出せよ。それなら許すわ」
ホテル代?
なんのことだろうと頭の中で考えると、すぐに答えが出てきた。
そうだ、これからケントとラブホでセックスするんだった。
……え、ちょっと待って。
ウチこれからセックスするの?
マジで?
それは絶対ダメだって。
ウチ、セックスなんてやったこと……いや、あるわ。
ケントとはもうなんどもやってるんだった。
なんで今更セックスぐらいで大げさに考えてたんだろう?
「……なんだよ、イヤなのか?」
「あ、ううん、大丈夫だよ。ウチ今結構金あるし、今日ぐらいウチが払うから。あ、駅ついた、おりよ」
ちょうどそこで目的地に着いたので、ウチはケントに抱きついたまま電車からおりた。
あ、そういえばウチ、元のカラダに戻らなきゃいけないんだっけ?
でも、あのギャルもどっか行っちゃったし、ウチもこれからケントとセックスするから忙しいし。
ま、別に困ってないからいっか。
────────
「ん……あっ……」
ラブホに入ってすぐに、ウチはベッドに押したおされていた。
ケントはよっぽど溜まっていたらしく、がっつくみたいにウチのおっぱいを揉みながら乳首に吸いついてくる。
まあ、ケントがこうなるのも別に珍しいわけじゃない。
性欲が強い方だからことあるたびにセックスしよって言ってくるし。
……でも、なんだか今日のウチはいつもの百倍ぐらいドキドキしていた。
顔が真っ赤になって、とにかくすっごく恥ずかしい。
「なんだよカレン。今日はえらく感じてんじゃん」
「いや、違くて……ウチ……あれ……?」
ケントの顔が直視できない。
なんでかわかんないけど、こんなことしちゃいけないんじゃないかって気になって、そのせいでいつも以上にカラダが反応しちゃう。
「ほら、見ろよ。パンツびちょびちょだぞ」
「やだもぉ……言わないでぇ……」
ケントの言うとおり、ウチのアソコはもう完全に濡れていた。
ウチってこんなに濡れやすかったっけ。
なんかそんなことはないって気持ちと、いつもそうだったような気持ちとが同時にある。
心の中がぐちゃぐちゃになるような変な気分だ。
「俺もう我慢できねえからさ。悪いけど、もう入れるぞ」
ケントはそう言うとズボンのベルトを外して、股間の固い棒にゴムをつけ始めた。
入れるっていうのは、つまりケントのチンポをウチのアソコに入れるってことで。
「ま、待ってケント! 心の準備が……」
「おい、股閉じんなって……」
ウチが必死に抵抗するのをケントが軽くあしらう。
両手でウチの両足をぐっと開き、その奥に自分のチンポを突き立ててきた。
「あっ、待っ………っぅ……ッ!?」
ズンっ、と固くて大きなチンポがウチのアソコをかき分けて入ってくる。
ウチ、入れられちゃった。
取り返しのつかないことをされちゃった。
でも、あれ?
なんでウチ、こんなに抵抗してたんだっけ?
「ああ……カレン……めっちゃいいぞ……」
「あっ、ケント……んっ……」
ウチにチンポを入れながら覆い被さってるケントを見ていると、だんだんと満たされるような気分になってきた。
ウチ、ケントと繋がってる。
嬉しいし、気持ちいい。
「動くぞ、カレン……」
「あ、うん……ケント……あっ……!」
ケントはその態勢のまま腰を動かし、パンパンッ、と音がなるくらい激しくウチのアソコを突いてくる。
ウチはたまらずケントにしがみつきながら声を上げた。
「んっ、あっ! いいよぉ、ケント! もっとしてぇっ!」
両手をケントの首の後ろに回し、両足をしっかりケントの背中に絡め、離れないように抱きしめる。
やばい、マジで気持ちいい。
大好きなケントとセックスするのってこんなに気持ちよかったんだ。
そんなことずっと前から知ってたはずなのに、まるで今日初めて知ったみたいにウチはこの気持ちよさに夢中になった。
「カレン、カレンっ! 好きだっ!」
「ああっ! ケント! ケントっ! ウチもっ、ケント、大好きっ!」
ケントにウチの名前を呼んでもらって、好きだって言ってもらえて、それだけでウチはもうイキそうになってしまった。
ウチの中に入ってるケントのチンポもビクビクしていて、もうイッてしまいそうだ。
このまま、二人一緒にイッてしまいたい。
「うっ、カレン、出るっ……うぐッ!!」
「あっ、あッ、イクぅうぅぅッ!!?」
二人同時に大きな声を上げて、ウチらはビクンッ、と大きくカラダを震わせていた。
目の前がチカチカして、なにも考えられない。
これ、マジで気持ちいい。
セックス、最高……。
「はぁ、はぁっ……カレン、すげぇよかったわ……」
「んっ……ふぅ……ウチも、きもちよかったぁ……」
ケントはウチからチンポを抜くと、そのままウチの横にゴロンと寝転がった。
そして、息を整えているウチのことをギュッと抱きしめてきた。
「カレン、さっきはごめんな。俺、カレンのこと本当に愛してるからさ。だからずっと一緒にいてくれよな」
「っ! ケント……!」
ウチは胸とアソコの奥がキュンっとなって、涙が出そうになった。
嬉しい。
大好きなケントにこんなこと言ってもらえて本当に嬉しい。
「うん、ウチも、ケントのこと愛してるよ」
ウチは甘い声で囁きながら、ケントの頬にキスをした。
ウチ、もうケントなしじゃ生きていけない。
だって、ケントに愛してもらうのがウチにとってのいちばんの幸せだってウチは知ってるから。
もうケント以外なんにもいらない。
ウチは心からそう思った。
────────
「カレン、今日ずっとゴキゲンだったね。昨日そんないいことあったの?」
「んー? 昨日ケントとデートして、マジで楽しかったの。夜のセックスもやばいくらい盛り上がったし」
翌日。
いつものように学校で昼寝したり友達とだべったりしてすごした後、ウチはそのまま友達と街に繰り出していた。
昨日の満足感から一日中ずっとニコニコしていたウチのことを、友達のレナはどこか呆れたような目で見てくる。
「へー、そんなによかったの? もしかしてアレ? 新しいドラッグ試したとか?」
「バカ。そんなん使うわけないじゃん。ウチらは本気で愛し合ってるから、そんなのなくったって最高に気持ちよくなれるの」
「うわ、ノロケきも……ほんと、バカップルはこれだから……」
「うっせえわ。それならアンタもまた彼氏作ればいいじゃん」
「アタシは前の男で懲りたからしばらくいらない。つーかバイト忙しいから付き合ってる暇とかないわ」
「いや、ウチだってバイトしてるから。バイトと彼氏は両立できるんですぅ、アンタと違ってぇ」
「こいつマジムカつくわ」
ウチらは笑いながらどつき合う。
ケントとすごすのもいいけど、こうやって友達とすごすのも楽しい。
ウチ、恋愛でもそれ以外でも、今がいちばん人生で幸せかも。
すると、レナが急に慌てた様子でスマホを取り出した。
「……あ、やべ。アタシ今日バイト入れてたわ」
「マジ? 今から?」
「そうそう。ごめん、ちょっと急いで行ってくるわ」
「え、ちょっと、新作スイーツはどうすんの」
「また明日行くってことで。じゃっ」
そう言うとレナは走り去っていってしまった。
やれやれって感じだ。
二人で新作スイーツ食べるの楽しみにしてたのに。
先にウチだけで食べたらレナ怒るだろうし、今日はもう我慢するしかなさそう。
ていうか、暇になっちゃったウチはこれからどうすればいいんだろう。
一旦ケントに連絡でもしようかな?
もし向こうも暇だったら今日もデートして、そんでもって、今日も二人で熱い夜を……。
「楽しそうじゃん、会長ー」
「は?」
いきなり声をかけられてウチは振り向いた。
そこには黒髪メガネの地味な女が立っていた。
なんだコイツ。
「なにアンタ。ウチになんかよう?」
「え? あたしが誰かわかんないの? 会長、それはさすがに記憶力なさすぎじゃない?」
「は? なに言って……」
そう言われてみると、コイツの顔に見覚えがある気がする。
そうだ、思い出した。
昨日会った女だ。
ウチが昨日入れ替わったときにウチの前にいた……。
あれ?
入れ替わった?
「……そうじゃん! すっかり忘れてた! ウチ、入れ替わってたんじゃん! ってことは、アンタってウチの本当のカラダ?」
「やっと思い出した? そうだよ。これ、会長の元の身体。かわいいでしょ?」
メガネの女がおどけながらぶりっ子ポーズをしてくる。
正直、その野暮ったい黒髪も芋くさいメガネも全部ダサすぎてかわいいとは思えない。
ウチの方が百倍かわいいと思う。
こんなのが元はウチだったわけ?
「それで? ウチになに?」
「いや、ちょっと様子が見たくて。というか、身体返してほしくないの?」
「いや、別に……そのカラダ、なんかダサいし」
「え、元自分にそんなこと言っちゃう? そっかー、会長からすればこの身体ださいのかー。おもしろっ」
メガネの女がケラケラ笑い始める。
なんかこの女ムカつく。
「もう行っていい? ウチ今から彼氏に電話するから」
「あ、待って待って。この会長と話してるのも楽しいけど、一旦記憶を戻した方が話早いかなー」
そう言うとメガネの女はスマホをいじり始めた。
するとその瞬間、ウチの頭に電流が流れた。
そして、私は自分のしてきたことを全て思い出し、顔が一気に真っ赤になっていくのを感じた。
「な、ななななっ!? わ、わわ私っ、な、なにやって……!?」
「あははっ! 会長まっかっかじゃん! おもしろーい」
『私』が私の方を見てケラケラと笑っている。
その態度と喋り方を見ていると、ある人物の顔が頭に浮かんでくる。
「あなた、西条さんでしょ!? なんで私の身体になってるんですか!?」
「お、さっすが会長。察しがいいねー。せっかくだし、会長に他の身体を楽しんでもらってる間はあたしが会長の身体で遊ぼうと思って。あたしの身体の方はその身体の子にやってもらってるから心配しないで」
「あなたの身体なんか心配してません! 私が心配なのは『私』の身体です!」
こんな人に自分の身体を勝手に使われるなんて気が気ではない。
「そんなことより会長。どうだった? その身体で彼氏とイチャイチャするのは」
「そ、それは……」
『私』の顔の西条さんに言われ、私は今までのことを思い返していた。
ベタベタとケントにくっついて、媚びるような声を出して、そして、一夜を明かして……。
「あ、あんなの、なんでもありません。無駄な時間を過ごしました。もっと有意義なことに時間を使いたかったと後悔しています」
「へー。その割にはまた今日も彼氏に会おうとしてたみたいだけど?」
「そ、それは……友達のレナに用事ができて、暇になってしまったから仕方なく……別に、会いたかったわけじゃ……」
そう話していて、なんだか自分がカレンと混じっていってるような気がして妙な気分になってきた。
落ち着いて。
ちゃんと自分を保って。
私は早瀬京子。
彼氏とセックスして幸せを感じるような女じゃない。
「ふーん、そっか。じゃあ会長には彼氏がいる楽しさがあんまりわからなかったんだ」
「と、当然です。彼氏なんて、私には不必要な存在ですから。わかったら早く元に戻してください」
「そっかそっか。それじゃあ会長にはまた別の女の子になってもらおうかな」
「……は?」
私は唖然としていた。
聞き間違いだろうか。
元に戻すどころかさらにまた別人にさせようとしているように聞こえたのは。
「その身体でわからなかったんなら別の身体も試してみないと。会長が楽しさを感じるまで、またまだ続けるからねー」
「ちょ、ちょっと待って! わかったから! 私にも彼氏がいる楽しさわかったから、だからもう……」
「ダメダメー、心がこもってないですよー。お、あそこにカップル発見! それー、入れ替わりー」
西条さんは近くを通りかかった男女を見ながらスマホを弄り始めた。
すると、その瞬間。
「ッ!?」
心臓がドクンッと大きく跳ねる。
前に感じたときと同じように、目の前が真っ暗になっていく。
やだ、私……また、入れ替わって……。
────────
「ん? ナナミちゃん? どうかしたのかな?」
……隣から男の人の声が聞こえる。
声をの方に顔を向けると、かなり歳の離れたスーツ姿のおじさんがこちらを覗き込んでいる。
私はいつの間にか掴んでいたおじさんの腕から咄嗟に手を離して距離を取った。
「……わ、私……また……」
自分の喉から出る声は、先ほどまでのカレンのものではなく、当然私本来のものでもなかった。
身体を見下ろすと、私は黒いワンピースを着ていた。
一見清楚なように見えるけれど、どこか男の劣情を誘うような下心も感じる、そんな嫌な服装だった。
「会長、なんか大人っぽくなったね。お相手さんも……うん、大人だし」
『私』がこちらに近づきながら話しかけてくる。
相手って言うけど、このおじさん、本当にこの身体の人の彼氏なの?
普通に交際するにしてはさすがに歳が離れすぎているような……。
「ナナミちゃん? その子は?」
「あ、あたしは友達でーす」
「友達? え、もしかしてその子も一緒に相手してくれるの? 困ったな、おじさん今日はそんなにお金持ってきてないよ?」
この言い方、それにお金って……まさかこの人。
「あ、あの、私たちの関係って……」
「え、なに? もしかしてお友達には秘密だった? でも今どきパパ活なんてそんな必死に隠すようなものでもないし、平気でしょ?」
パパ活。
おじさんの口から出てきたその言葉に、私は頭がクラクラしてきた。
「……西条さん。どうしてくれるんですか。この人彼氏でもなんでもないじゃないですか」
「いやー、ちょっと予想外。でもパパさんにはパパさんなりの愛情があるはずだからきっと会長も楽しめると……」
「冗談じゃありません! パパ活なんて言い方を柔らかくしただけのただの援助交際じゃないですか! そんなものに愛なんかあるわけないでしょう!?」
「わ、ナナミちゃん、ちょっと声大きい……!」
おじさんが慌てているが、そんなの知ったことではない。
頭の悪いカップルは好きじゃないけれど、こんなふうに金銭で繋がる男女はそれ以上だ。
売る方も買う方も最低だと言っていい。
「まあまあ、会長。落ち着いてってば。あんまり騒ぐとこのおじさん可哀想だよ。……とりあえず、記憶の方をいじれば落ち着くかな?」
その言葉を聞いて、私は背筋がゾッとした。
こんな最低な人たちに自分が適応させられてしまう。
そんなのは死んでもごめんだ。
「さ、西条さん! お願いだからやめてください……!」
「これも人生経験だよ、会長。ま、楽しんでみたらー?」
西条さんがそう言った瞬間、頭の中に電流のような衝撃が走った。
「会長、どんな気分?」
「……別に。普通。だからなに? そんなことより早く戻して」
わたしは至極億劫に感じながら目の前の眼鏡の女に答えた。
わたしがどんな気分かなんて、そんなのわたしの勝手。
コイツに聞かれる筋合いはない。
「えっと、ナナミちゃん? どうしたのかな?」
すると、隣からオッサンが声をかけてくる。
鬱陶しいし軽くあしらってしまおうと思ったけれど、頭の中で警鐘が鳴り始めた。
そうだ、このオッサンは大事な金づるなんだから丁重に扱わないと。
「……ごめんな〜い! なんでもないんです〜!」
わたしは満面の作り笑みを浮かべながら、間延びした媚び声でオッサンに答えた。
……いや、わたしはなにをしてるのだろう。
わたしは本来この身体の人間ではないのだから、こんなことする必要はない。
でも、せっかく現れた金払いのいい男を邪険にするのは、どう考えても勿体無い。
頭の中で二つの考えが入り混じって葛藤してしまう。
そうだ、それよりあの眼鏡女に早く元に戻させないと。
「って、もういなくなってる……」
気づいたときには眼鏡女はいなくなっていた。
どうやらわたしのことを戻す気はないようだ。
となったら、わたしはもう今の自分にできることをするしかないだろう。
「それじゃあ行きましょ〜。わたし〜、お腹空いてきちゃった〜」
「あ、うん。それじゃあおじさんの行きつけのお店に連れてってあげるよ」
わたしがオッサンの腕に絡みつくと、オッサンは鼻の下を伸ばしながら心底楽しそうにしていた。
本当、男なんて単純だ。
精々貢げるだけわたしに貢ぐといい。
────────
「美味しかったですぅ〜。あんな美味しお店知ってるなんて、おじさん物知りですね〜!」
「はっはっは。まあこの辺りの美味しい店だったら大抵知ってるから、知りたかったらいつでも聞いてよ」
近くのイタリアンの店で夕食を取ったわたしたちは夜風に当たりながら街を歩いていた。
まあ美味しい店ではあったけど、特別印象に残る味でもない。
前に別の男に連れて行ってもらった店の方がもっと美味しかった。
情報通のようにイキってる割には大したことなさそうだ。
まあわたしとしては奢ってくれるのなら別にどこでも構わないのだけど。
「ナナミちゃん、そろそろ少し休憩しない?」
ホテル街に差し掛かったあたりでオッサンが切り出してきた。
ついにきたか。
「は〜い。わたしも〜、ちょっと疲れちゃったなぁ〜って思ってました〜」
「本当? それじゃあ、あそこで少し休もうか」
オッサンがわたしの手を引いてホテルの中へと入っていく。
わたしも、それに対してなにも躊躇わずついて行く。
結局このオッサンは最初からわたしとやりたかっただけなのだ。
一緒にご飯を食べるとか、楽しくお話しするとか、そんなのはおまけのようなもの。
セックス目当てでわたしとここまで一緒にいたわけで、そんなのはわたしだって百も承知だ。
ここでしっかりオッサンを楽しませればお小遣いを貰うことができる。
だったらセックスだろうがなんだろうが、やらない理由がない。
「ふぅ……今日はちょっと暑かったね。おじさんすごい汗かいちゃったよ。ちょっとシャワー浴びてくるね」
「は〜い」
オッサンがシャワールームに入っている間、暇になったわたしはスマホを見ていた。
SNSアカウントの通知を確認すると、遊びのお誘いが来ている。
何度か遊んでいるお得意様のオッサンが明日会いたいそうだ。
これなら今日の分と合わせて欲しかったバッグの額に余裕で足りる。
本当、お金稼ぐのって簡単でいい。
「お待たせー。ナナミちゃんもシャワー浴びるよね?」
「は〜い。ちょっと待っててくださいね〜」
オッサンと入れ替わりでわたしはシャワールームへと向かった。
もちろん、シャワーは軽く浴びる程度。
間違っても化粧を落としたり髪を濡らしたりはしない。
ちゃちゃっと済ませてオッサンの相手に取りかかろう。
そう思いながら汗をシャワーで流し始めたところで、いきなり後ろから抱きつかれた。
「っ!?」
「ナナミちゃーん……おじさん我慢できなくなっちゃったからさ、ここでやろうよ……ね?」
オッサンがそう言いながら、わたしの胸を後ろから揉んでくる。
きたきた。
こうやってシャワー中に乱入してくるオッサンもたまにいる。
そんなときだってわたしは動揺したりしない。
いつものように好きにさせて、満足させればいいだけだ。
けれど、なぜかわたしは一瞬動きが止まってしまった。
あれ?
なんで?
この程度のこと今までだって何度もあったのに、わたしはとても強い嫌悪感を覚えていた。
たしかにキモいけど、こんなキモさ別にどうってことないはず。
気にするようなことじゃない。
そう考えていると、ふっと嫌悪感が霧散していき、特になにも感じなくなった。
わたしは気を取り直してオッサンの方を向いて答える。
「もぉ〜、しょうがないですね〜。いいですよ〜……ここで、楽しんじゃいましょう……?」
わたしがそう言うと、オッサンはシャワーに濡れるわたしの身体を貪るように撫で回してきた。
いやらしい手つきで全身を撫で、ときには強く揉んで、まるで昂った獣のようだ。
でも慣れてしまえばこうやって触られるのだって悪い気はしない。
わたしがこのオッサンを手玉に取っているという優越感、これによって金が手に入るという達成感、それらに性的な高揚感が重なって、わたしの気分もハイになってくる。
「おじさん……もっと、してください……」
「はぁ、はぁ……ナナミちゃん……」
オッサンは後ろからわたしの胸と股間に手を伸ばして、何度も撫で回したり揉んだりしてくる。
わたしの背中には、すっかり固くなったオッサンの性器が当たっていた。
「ふふっ、おじさん、固いの当たってますよ……?」
「ああ、ナナミちゃん……おじさんもう我慢できないよ……入れてもいいかい?」
「しかたないですね。でも、ちゃんとゴムはつけてくださいね……?」
わたしがそう言うと、オッサンは用意していたゴムを焦りながら自分の性器に付けて、そのまま壁に手をつかせてきた。
どうやら後ろから入れたいようだ。
「はぁ、はぁ……入れるよ……ナナミちゃん……」
「はい、どう……ぞっ……!?」
わたしが言い切る前にオッサンの性器がわたしを股間を突く。
敏感なところにいきなり固く大きな棒が挿さり、身体がビクッと震えてしまう。
正直に言えば、わたしはセックスが嫌いじゃない。
他人に体を求められているという感覚がわたしの中でねっとりした快感として広がっていくからだ。
相手が誰であろうとそれは変わらない。
こういった後背位のセックスはキモい相手の顔を見ずにセックスの気持ちよさだけ得ることができるので特にお気に入りだ。
「ナナミちゃん、どうだい!? 気持ちいいかい!?」
「んっ、はいぃっ、きもち、いいですぅっ! んあぁっ!」
わたしはわざとらしく媚びた声を上げる。
こういうセックスのときは、役にのめり込んでセックスした方がいい。
その方が男だって喜ぶし、わたしもより一層気持ちよくなれる。
「んっ、はぁ……ごめん、おじさん、もう出そうだ……!」
「はいっ、わたしの、ナナミの中で、イッちゃってくださいっ!」
「うっ、出るっ……!」
わたしの膣内で、オッサンの性器がビクンッ、と震える。
どうやらイッたようだ。
オッサンは力が抜けたのか、ヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
「おっとっと……ふぅ……気持ちよかったよ、ナナミちゃん……」
「えへへ、よかったです〜。わたしも、とっても気持ちよかったですよ〜」
わたしがオッサンに寄り添ってわざとらしく胸を身体に密着させると、イッたばかりのオッサンの性器がピクッと震えた。
「こっちも、まだまだ元気みたいですね〜。夜はまだ長いですし〜、た〜っぷり、楽しみましょうね〜」
鼻の下を伸ばすオッサンに囁きながら、わたしは懐に入ってくる札束に思いを馳せていた。
────────
「約束は……七時か」
わたしがスマホを確認すると、まだ六時過ぎだった。
今日のオッサンは昨日のオッサン以上の上客だから気合を入れてきたのだけど、さすがに早く着き過ぎてしまった。
どこかで買い物をしてもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、突然声をかけられた。
「かーいちょ! どうだった? 楽しかった?」
振り返ると、少し長めの髪をサイドでまとめたキャピキャピとした女子高生が立っていた。
制服を着崩していたり化粧しているところを見ると、いかにも遊び慣れているといった感じだけど、わたしはこんな人間に覚えはない。
「……誰?」
わたしは不快感を隠しもせずに端的に問いかけた。
すると、女はなにがおかしいのかお腹を抱えて笑い出した。
「えー? 気づいてよー。元の自分の身体でしょー?」
元の自分の身体?
そういえば、どこか見覚えがあるような気がする。
記憶を探ってみたところ、昨日会った眼鏡女の面影があるような気がする。
「……あ」
そこで、わたしは思い出した。
そういえば、昨日わたしは身体を入れ替えられていたんだった。
もしかして、この女は元のわたしの身体なのだろうか?
でも、この女は昨日の女とは明らかに雰囲気が違う。
どういうこと?
「とりあえず、一旦会長の記憶戻すねー。その方がわかりやすいっしょ」
そう言って女はスマホを弄り始める。
その瞬間、わたしの頭の中に電流が迸る。
ハッとなった私は、目の前の『私』を見て愕然とした。
「な、なんて格好してるんですか!? 西条さん! 私の身体なんですよ!?」
「どう? かわいいっしょ? あたしさー、前々から会長はちゃんとオシャレすれば化けると思ってたんだよねー」
ギャルファッションに身を包んだ『私』がケラケラと笑っている。
私は目眩を起こしそうだった。
人の身体をなんだと思っているんだろう。
「……まさか、その格好で学校に行ったわけじゃないですよね?」
「もちろん、みんなに見てもらったに決まってんじゃん。最初は驚かれたけど、親しみやすいって好評だったよ。先生たちからは不評だったけど」
最悪だ。
私の知らないところで私の評判が貶められている。
この人、自分がなにをしているかわかっているのだろうか。
「それよりもー、会長、どうだった? その身体は」
「……最低でした。お金のためにセックスするなんて、人としてどうかと思います。当たり前ですけど、こんな行為に愛なんてないですよ」
気持ちよさを感じていたことから目を逸らしながら、私は今の自分の身体を蔑んだ。
けれど、それを西条さんは面白そうに見ている。
「ふーん、そっか。会長も人前でセックスなんて言うんだね。もっと恥ずかしがると思ってたけど」
「え? あっ……」
私は自分のしたことを否定することに躍起になっていて、セックスという行為自体に最早なんの忌避感も抱かなくなっていたことにそこでようやく気がついた。
一昨日までの私だったら、セックスなんて行為について考えただけで顔が赤くなっていたはずなのに、今となっては簡単に口に出すことすらできてしまう。
「いい感じに会長も慣れてきたのかな? 男女の営みにさ」
「そ、そんなこと……ありません……」
口ではそう言いつつ、私は確実にセックスに慣れていた。
大してよく知りもしない、歳上の男に抱かれても平気なほどに。
「でも、愛のないセックスばっかりするのはやっぱりちょっと違うよね。その点だけは昨日は失敗だったよ。ごめんねー、会長。だから、今日はちゃんとイチャイチャラブラブのセックスができる人を連れてきたよ」
「ま、まだやるんですか!?」
「当たり前っしょ。むしろここからが本番って感じ?」
そんなことを話していると、遠くから誰かが近づいてきた。
傷んだブロンドヘアーに着崩した制服。
私のよく知る『西条莉緒』がそこにいた。
「会長ー、呼ばれたから来たよー。珍しいじゃん、会長があたしに話なんて。もしかしてドッキリでも仕込んでる?」
『西条さん』が私の隣にいる『私』に言う。
あの西条さんは本物の西条さんではない。
だって本物は今『私』になっているのだから。
つまり、あれは最初に私と入れ替わったカレンが自分のことを西条さんだと思っている状態というわけか。
「えー、コホン。……ドッキリなんて、私はそんなことしません。あなたに用事があるんですよ、西条さん」
西条さんが私のフリをして『西条さん』に答える。
なんだか奇妙な光景だ。
「用事? 会長があたしに? なにさ?」
「ふふっ……それは、会長はもうわかってるよねー?」
西条さんは急に喋り方を変えて私に語りかけてきた。
まさか、私と『西条さん』を入れ替えると言うの?
よりにもよってうちの学校で一番の問題児で、一番理解できないこの人に、私がなってしまうなんて。
「それじゃあ、いっきまーす」
『私』が元気よくそう言うと、私の心臓が大きく跳ねた。
また、この衝撃。
私は絶望的な心境の中、ゆっくりと意識を手放した。
────────
「……会長、ほら、しっかりしてってば」
化粧を施した『私』の顔がこちらを覗き込んできた。
私はため息をつきながら自分の身体を観察した。
三度目ともなれば、身体の違和感にもすぐに気がつく。
まず着ている服。
さっきナナミの身体で着ていたワンピースではなくなり、うちの学校の制服になっている。
そして、さっきから視界の端にチラつくブロンドの髪。
これはどう見ても、さっきまで隣にいた西条さんのものだ。
「私、とうとう西条さんになってしまったんですね……」
私は西条さんの声でそう呟いた。
「ちょっとー、人の身体でそんな嫌そうな顔しないでよー」
西条さんが私の声で返してくる。
この状態だけ見ると、私たち二人が入れ替わったみたいに見える。
そういえば、私と入れ替わってナナミの身体になったカレンはどうしたのだろうか。
隣を見ると、ナナミが不機嫌そうにこちらを睨んでいた。
そして、そのままなにも言わずに黙ったままその場から立ち去って行った。
どうやら記憶の方はもう弄られていたらしい。
「……それで? これから私たちはどうするんですか?」
もう今更下手に歯向かう気にもなれず、私は半ば投げやりに西条さんに尋ねた。
「そりゃあ、もちろん、会長にはあたしの彼氏と遊んでもらうんだよ。あたしたちはラブラブだからねー」
「そうですか」
もうどうにでもなれという気持ちで適当に返事をする。
こうなってしまってはもうされるがままだ。
戻してもらうためには、今はとにかく西条さんの好きなようにさせるしかない。
「でもそのままっていうのもおもしろくないからさ。今回はあたしも参加して3Pでもしよっかなーって思って」
「……はい?」
流石に聞き捨てならない言葉が出てきた。
『私』の身体も参加して3P?
冗談じゃない。
「私の身体でなんてことしようとしてるんですか!? ふざけないでください!」
「いやいや、これも会長のことを想ってよ。会長がこの身体に戻ったときにすぐに気持ちよくなれるように開発しといてあげようと思って」
「余計なお世話です! だいたい、彼氏に自分以外の女性を抱かせて平気なんですか!? こうして入れ替わって抱かせるのですら大概だというのに」
「あ、それは気にしなくていいよ。会長なら別に気になんないし。あたし会長のこと好きだからさ」
あっけらかんと『私』の顔で言う西条さんに、私は呆れて何も言えなかった。
「やっぱり、あなたのことは理解できません」
「そっかー。じゃ、一旦理解してもらおっかな」
西条さんはそう言うと、スマホを弄り始める。
結局またこうなるのか。
西条さんになんてなりたくないという気持ちを抱いたまま、私の頭の中に強い衝撃が駆け抜けた。
「会長、どう? あたしになった気分は」
「……うーん。ま、こうなるってわかってたしどうって感じでもないけど。なんか気楽にはなってきたかも」
「へー、そりゃよかった」
あたしたちは、まるで同じ人間が二人いるかのような会話をしていた。
まあ、どっちも今は中身があたしなんだからこうなるよね。
「というか、その会長って呼び方なんか違和感すごいわ。むしろあたしがそっちを会長って呼びたいんだけど」
「あーたしかに。今はあたしが会長だもんねー。じゃ、あたしはそっちのこと西条さんって呼ぶから。うわ、なんか呼び方も入れ替えると本格的に入れ替わったって感じしてきた」
「あたしからすれば西条莉緒の名前で呼ばれてそっちを会長って呼ぶのは自然なことなんだけどねー」
あたしたちは二人でケラケラと笑い合う。
それからあたしは電話で彼氏を呼び出した。
さっき会長が言っていた通り、3Pをするのが目的だ。
「あ、もしもし? カケル? あたしだけど」
『莉緒か? どうした?』
「今から会長とあたしと3Pしない?」
『マジで? やるやる』
「じゃ、今からカケルんち行っていい?」
『OK、待ってるわ』
「んじゃ、よろしくー」
簡潔に用事を伝えて、あたしは電話を切った。
「てわけで、オッケーだって」
「よーし、じゃ、レッツゴー!」
あたしと会長は二人でウキウキしながら彼氏の家へと向かった。
あたしたちのことを知っている人間が今のあたしと会長を見たら、きっと驚くんだろうなーと、なんとなく思ってしまう。
特に、一昨日までのあたしが今のあたしたちを見たら、卒倒してしまいそうだ。
そう考えると、なんだか笑えてきてしまった。
────────
「いらっしゃい。おー、マジで会長も一緒に来たんだ」
「こんにちは、澤井君。お邪魔します」
会長はいつもの礼儀正しい口調で、あたしの彼氏の澤井カケルに挨拶をした。
どうやらそういうキャラでいくらしい。
ま、会長には会長の考えてることがあるだろうから、あたしは別になにも言わないけど。
「会長の急なイメチェンにも驚いたけど、そういうことに興味出てきた感じ?」
「ええ。私ももういい年の女の子ですから、こういうことも少しは経験していかないといけないと思って」
本物の会長だったらそんなこと絶対言わないだろうなー、なんてあたしは思った。
ま、あたしが本物の会長なんだけど。
「ま、とりあえず上がってよ。カケル、あたしと会長にお茶用意してねー」
「いや、なんで莉緒が仕切ってんだよ。俺んちだぞここ」
ツッコミを返してくる翔を適当にあしらいながら会長と二人で家の中に上がる。
もう既に何度も訪れて勝手知ったらカケルの家だ。
目をつぶったってカケルのベッドの前まで歩いていける。
もっとも、それは本物のあたしであるところの会長も同じだろうけど。
あたしと会長はカケルがお茶を取りに行っている間ベッドの上に腰をかけて待つことにした。
「3Pかー、どんな感じなのかなー」
「そうですね、私も流石にまだ3Pはしたことないですし」
「ちょっとワクワクしてきたかも。会長、誘ってくれてありがとね」
「もう、何言ってるんですか? 誘ったのは西条さんでしょう?」
「そうだったそうだった。あははっ」
あたしと会長が茶番のようなやり取りをしていると、カケルがお茶を持って戻ってきた。
「お待たせ。そんじゃ、早速始めようぜ、3P」
「ノリノリじゃん。そんなにやりたかったわけ?」
「だってお前、あの潔癖清楚優等生の会長が来てくれてんだぞ? むしろノリノリじゃない方が失礼だろ」
それはたしかに。
あたしだっていきなり会長が一緒にセックスしてほしいなんて言ってきたら喜んで一緒にやるだろう。
まあ会長がそんなことするわけないんだけど。
「そう言ってもらえて光栄です。それじゃあ早速始めましょうか」
そんなことをするわけがないはずの会長は、これまたノリノリで服を脱いでセックスの準備を始めた。
あたしはカケルが持ってきたお茶を一口飲んでから、会長と同じように服を脱ぎ捨てた。
今、カケルの寝室に産まれたままのすっぽんぽんになったあたしと会長がいる。
よくよく考えるとすごい状況だ。
「さて、まずはどうする? 俺は二人に合わせるよ」
「それじゃあまずは私に先に入れてもらってもいいですか? 西条さんは私のことを気持ちよくしてください」
「りょーかい」
会長がベッドの上に寝転がる。
あたしは会長の上半身を、カケルは会長の下半身をそれぞれ責め始めた。
「んっ……初めてなので、なるべくじっくり準備してからお願いしたいんです……あっ……」
「はいはーい。会長おっぱいの形綺麗だねー。触り心地めっちゃいいよー」
「それじゃあ俺は手マンを……うお、もう濡れてきたぞ。会長意外と淫乱だったりする?」
「はい……ここ数日、この時のために四六時中オナニーしてたので……結構濡れやすくなってると思います……」
そんなこと勝手にしてたのか。
きっと元の状態で聞いたらあたし激怒してただろうな。
「んっ、あっ……西条さん、澤井君、気持ち、いいです……」
「うわっ、乳首すっごい勃起してるよ。ほら、突いたらピクッて気持ちよさそー」
「なんだ、初めてって言うから手間取るかと思ったけどもうびしょびしょじゃん。そんじゃ、そろそろ挿れるか」
あっという間に頬を上気させてすっかり出来上がった状態の会長を、カケルが後ろから抱き抱える。
「莉緒はそのまま胸弄っててやれ。よし、挿れるぞ、会長……っ!」
「は、はい……んっ、ああっ!?」
カケルのチンチンが会長のおまんこに挿入った瞬間、会長が一際高い声を上げた。
これで会長も処女喪失か。
なんだか少しだけもったいないような気がしたけど、ま、気にしなくていいか。
「んっ、あっ、んあっ!? 初めてなのに、この身体、すごくっ、感じて……ああッ!?」
カケルが後ろから突くように身体を大きく動かすと、会長は初めてのセックスとは思えないほど乱れて喘ぎ始めた。
どうやらよっぽど念入りに身体の開発を進めていたらしい。
本当に人の身体でなにやってるんだか。
「会長、チューしよ」
「さ、西条さ……んっ、ちゅ……」
あたしは会長のおっぱいを揉みながら会長の口に吸い付いた。
「じゅるっ、あむっ、んちゅ、れろぉ……」
あたしと会長はディープキスをしていた。
女の子とこんなキスするのは初めてだけど、まさかそれが元自分とだなんて、変な話だ。
ま、悪い気はしないけど。
「会長、俺っ、もうイキそうだ……!」
「わた、しも……もう、いき、そう……」
「二人ともイッちゃっていいよー。あたしが見ててあげるからさ」
あたしがそう言いながら両手で会長の乳首をキュッとつねり上げると、会長の身体が大きく跳ねた。
「あっ、イクッ、イクウゥゥッ!!?」
「うおっ、膣が、締まって……イクッ!!」
ビクンッビクンッ、と二人の身体大きく震える。
カケルに後ろから突かれたまま会長は海老反りになって大きくのけ反っていた。
よっぽどすごいイキ方だったみたいだ。
「はぁっ、ふぅ……西条さん、澤井君……ありがとう、ございました……」
「いや、俺こそ……めっちゃよかったわ……」
なんだか二人だけで満足気な空気を出し始めた。
「ちょっとちょっとー、あたしまだなんにもしてないんだけどー?」
「わかってるって。大事な彼女を放っておくわけないだろ? 次はちゃんとお前のこと愛してやるから」
「もー、カケルってば……」
カケルが甘い言葉をかけてきながらキスをしてくる。
調子いいけど、こういうのも嫌いじゃない。
すると、ベッドの上で横になったままの会長がボソッと何かを呟いた。
「……あはっ、ここまでやれば、もう大丈夫かな……?」
「会長? なんか言った?」
「ううん、なんでもないよ。それより、これからは敬語やめてもいいかな? ここまでした二人に敬語で喋るのってなんか他人行儀な気がするし。あと、二人のこと、莉緒とカケルくんって呼んでもいい?」
「そんなのいいに決まってんじゃん。な、莉緒」
「え? ま、うん。いいけどー」
なんか腑に落ちない何かを感じたけど、会長があたしのクリトリスを指で撫でてきた刺激でふっ飛んでしまった。
「んあっ!? ちょっと、会長ー」
「ふふっ、次は私が気持ち良くしてあげるからね」
前から会長、後ろからはカケルに触れられ、そのまま二回戦に突入した。
二人とも愛情たっぷりであたしのことを可愛がってくれて、すっごく気持ちよかった。
─────────
……なんて、馬鹿丸出し欲まみれの痴態を晒してしまった次の日。
私は憂鬱な気持ちになりながらも学校に向かっていた。
『身体は明日戻してあげるから。本当だって。約束するから』
昨日の別れ際にそう言われた後、私は記憶を元に戻されて解放された。
西条さんの家は両親共に不在だったのでなにも問題はなかったけど、なにもないと頭に浮かぶのはここ数日間の自分の痴態ばかりだった。
カレンの身体では彼氏にべったりとくっついてセックスをし、ナナミの身体では名前も知らないおじさんとお金目当ての援助交際セックスをし、西条さんの身体では元自分の身体を含めた3Pセックスをした。
どれもこれも恥ずべき汚点なのだけれど、一番問題なのはそんな汚点のようこの記憶に私は全く嫌悪感を抱かなくなっていたことだ。
男女がベタベタするのは当たり前のこと。
セックスなんてコミュニケーションの一つ。
そんな考えに頭が侵されていて、私は発狂してしまいそうだった。
こんなの私じゃないと思いつつも、今となっては昔の自分の方がもう自分ではなくなってしまっていた。
私は元の身体に戻っても本当の意味で元に戻れるのだろうか。
不安で仕方なかった。
「会長、おっはよー」
後ろから声をかけられる。
よく知る『私』の声をした全ての元凶だ。
今日こそは元の身体に戻してもらわなければならない。
私は大きく深呼吸をしてから振り向いた。
「西条さん、約束は守ってもらい……ま、す……よ……?」
そこに立っていたのは、ウェーブのかかった長い銀色の髪をシュシュで片側にまとめ、小麦色の肌に化粧をしたいかにもチャラチャラとした女子高生だった。
「え、は……? え……?」
「どう? 会長。見違えたっしょ?」
目の前の女子がこちらにピースをしてくる。
その声は間違いなく『私』の声だった。
けれど、その姿は何度見ても私と一致しない。
「昨日はあの後美容院と日サロ行ったんだけど、結構お金かかっちゃったんだよね。ごめんね」
「……あ、あなた、なんてことするんですか!? 私の身体で、何勝手なことを!」
変わり果てた姿の『私』に私は怒鳴り声を上げた。
けれど、『私』は全く悪びれる様子もない。
「えー? 似合ってるんだからよくない?」
「そういう問題じゃないんですよ! そんな姿にされたら戻っても学校なんか行けないじゃないですか!」
どんな顔をしてクラスメイトや先生に会えばいいというのだろう。
化粧は落とせばいいし、髪は染め直せばまだなんとかなる。
でも、肌を焼いたのはすぐには戻せない。
いっそもうしばらく学校を休んでしまおうか。
そんなことまで考えてしまう。
「そんなこと気にしなくていいよー。というか、気にならなくなるよ。新しい会長になればね」
「……? な、何を言ってるんですか?」
西条さんの不穏な物言いに、つい私は怯んでしまう。
「会長、ここ数日間で結構変わったの気づいてるでしょ? いろんな身体を体験したことで会長は内面が変わっていったんだけど、その間にあたしは会長の外面を変えといたの。今はまだ会長の中に変わる前の会長の身体の情報が残ってるから変わりきれてないけど、その状態でこの身体に戻ったら、どうなると思う?」
すっかり元の面影がなくなった『私』がニヤリと笑う。
元の身体のおかげでギリギリ今の自分を保てている今の私が、あの身体になってしまったら……?
きっと、私は本当の意味で私ではなくなってしまう。
私は震えが止まらなくなった。
「じゃ、会長のお望み通り、元に戻してあげまーす。それ、入れ替わりー」
「さ、西条さんっ! 待っ────」
────────
「……早瀬さん。あなたいい加減その格好をなんとかしなさい。仮にもあなたはうちの学校の生徒会長なんですよ?」
「はいはーい。すみませーん」
「ちょっと、早瀬さん! 待ちなさい!」
後ろでなんか言ってる先生を無視して私は職員室を出た。
こんなに面倒なこと言われるんなら生徒会長になんかならなきゃよかった。
やめたりできないのかなこれ。
「あ!」
そのとき、ちょうど廊下の前を歩いている見知った後ろ姿を見つけて、私は駆け寄って抱きついた。
「莉緒ー!」
「うわっ!? なんだ、会長かー、おどかさないでよー。どうかしたわけ?」
「今ね、また先生に怒られちゃったの。私、そんなに悪いことしてるかな?」
「んー、ま、生徒会長のやることじゃないのは間違いないかも」
「えー!? 莉緒が私をこうしたくせに、そんなこと言わないでよ」
「あははっ、ごめんごめん」
莉緒がケラケラと笑っている。
それを見てたら、私までおかしくなって笑ってしまった。
「あっ、そうだ。莉緒、今日一緒にカケルくんち行っていい?」
「えー? また3Pする気? 一昨日やったばっかりじゃん」
「またやりたい気分なの。いいでしょ? ね?」
「もー、会長もいい加減彼氏作りなー。あたしらとばっかやってないでさー」
「私は、誰かとセックスするのが好きなんじゃなくて、莉緒とカケルくんと一緒にセックスするのが好きなの。だから、お願い」
「はぁ……会長はそうなっちゃったのかー。なんかちょっと失敗した気がするけど、ま、いっか。あたしも会長とするの好きだし」
「やったー! ありがとう、莉緒!」
私は莉緒を抱きしめてチューした。
そんな私たちの様子を、周りの生徒たちが遠巻きに眺めている。
流石に廊下で大声出してこんな話してたら目立つみたいだ。
別にそんなの気にならないけど。
だって私は今幸せなんだから。
周りの目なんか気にならない。
迷惑?
そんなのどうでもいい。
私は毎日自分が大好きな人たちと楽しく気持ちよく過ごせたら、それだけで本当に幸せなのだ。