DESCRIPTION
時間帯は夜が更け何もかもが寝静まりかえる頃。
しかし、この日校舎内のボクシング部専用ジムだけがまだ明かりを灯していた。
ジム内にはその部に所属する男女が一人ずつ。
中から聞こえる激しいグローブの爆ぜる音と破砕音。
ボクシング部らしい深夜の特訓、に思えた。
少女はそのつもりでいた。
先輩との深夜の特訓…次の試合に向けての追い込み。
しかし、その少女の先輩である男は当初の思いとは全く違う感情だった。
確かに次の試合までに強くなるために来たが、今は絶望しかなかった。
ドガァッ!!!ボグシャァッ!!メギィッ!!グシャッ!!
「おごぉ……がぼぼぉ………ごぶっ」
少女のラッシュの前になすすべがない男はなんとか反撃を試みるもその激しい攻撃でこちらの拳が前に出る前に少女のグローブがこちらを強かに捉えてしまうのだった。
何度も重たいパンチを受けるたびに男の体がリング上で千鳥足のダンスを踊り、紙吹雪のように血しぶきが舞う。
身体の中に意識を少し向けると内臓がゴポポ…と悲鳴を上げているのがわかる。
顔はまんべんなく重度の火傷を負ったように熱を帯びるような激痛が走り回っている。
少女のグローブがこちらに届いた際の爆音でかき消されてしまうが、パタタタッと自分の血がリングに落ちる音が微かに聞こえた気がした。
ふと、気づいたのか少女がラッシュを止める。
「あ…せ、先輩……大丈夫……ですか??」
正気に戻ったかのように先ほどまで鬼人の如き猛攻を仕掛けていた少女が天使の声色で話しかけてくる。
「いったん、インターバル挟みましょう?」
どうみても、試合続行など不可能なはずだが……二人きりというのも災いしてか判定するものがいない…
加えて少女は特訓だと意気込んでこれしきくらいでは音を上げるはずがないとこちらを過信しているようだった。
このままでは死んでしまう……
だが、あまりにボコボコにされて声も出せず、逃げる体力すらない彼にとって必死でできる合図はグローブを弱弱しく振ることだけだった。
最悪なことに少女にはその合図が続行するサインだと捉えられてしまった。