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20××年、世紀の発明によって世界は変わった。
その名も、「空間接続機」。これはペンのような形をした機械で、空中に円を描くことでその先が別の場所に繋がるのだ。いわゆるどこでもドアのようなもので、自分が把握している場所ならどこにでも空間を繋げることができた。
このとてつもなく便利な夢のアイテムは、使用をかなり制限されることとなった。どこへでも行けてしまうために、悪用する人が続出する可能性があるからだ。
ペンが発売されてからすぐ、男性の購入・使用が一切禁じられた。性犯罪を防ぐためだというが、女性が使うことは禁じられなかったことから、ある程度物議を醸した。しかし女性専用となってからは特にペンを悪用した大きな犯罪は見られず、ペンの規制がそれ以上厳しくなることはなかった。
「ねえ、今日はどこにいくー?」
「隣の県まで行ってみようよ!」
今日もクラスの女子が、放課後の遊びの予定を話し合ってはしゃいでいる。その手には、空間接続器のペンが握られていた。
「いいよなー女子は…」
隣にいたクラスの男子が呟く。ペンが使える女子の中では、放課後に色々な場所にサクッと遊びに行くのが流行りとなっていた。なにしろ、隣の市、隣の県、さらには海外までも所要時間0秒で行けてしまうのだ。高校生の女子にとってその遊びはとてつもなく魅力的なのだろう。
(こんなの、逆差別だよな…)
楽しそうな女子を眺めながら、心の中で思う。俺たちだって、あのペンで色々遊んでみたいのに。生身の男子高校生の行動範囲など、ペンで無限に広がった世界に比べればあまりにも狭い。
今日も俺は、退屈を感じながら高校生活を送るのだった。
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「最近、空間接続器を使った悪戯が増えているみたいです。男子も女子も、くれぐれも気を付けるように」
ホームルームの時間、担任の教師が注意喚起する。…最近、空間接続器を勝手に人の家に繋げて遊ぶ悪戯が増えているみたいだった。悪戯というか犯罪に近い気がするが、特に中高生の間でそういう使い方が流行っているというニュースが近頃増えてきていた。
「報告によると、空間接続器のバグによって空間のサイズが歪んで接続されてしまう事例も確認されているらしい。もし何者かから悪戯を受けた場合は、すぐに先生に報告してください」
(サイズが歪んで…)
これも最近ニュースになっていた。ペンを使って空間を繋げた際、本来とは異なるサイズ感で空間が繋がってしまう事例があるらしい。それを悪用した悪戯も増えているとか。
(もうすぐ発売禁止になるかもな)
そんなことを思いつつ。俺はホームルーム後、ぷらぷらと歩きながら帰路についたのだった。
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(………)
その日の夜。夕飯と風呂を終えた俺は、自室のベッドで寝転びながらマンガを読んでいた。一番幸せな時間かもしれない。鼻歌を歌いながら好きなマンガを読みふけっていた、その時だった。
ウィーーーーン………
「っ!?」
急に大きな機械音が部屋の中に響き渡り、俺はびっくりしてベッドから跳ね起きる。
「な、なんだ…これ……」
部屋の天井に、直径4,5mほどの大きな光の輪っかのようなものが映し出されていた。どう見ても自然のものではないその光は、白色にまばゆく光って綺麗な円を作り出している。
そこで気づいた。この光をテレビのニュースで見たことがある。空間接続器だ。誰かがペンを使って、この部屋に空間を繋げようとしているのだ。
(悪戯…!?で、でも、俺の部屋の位置を知っている人なんて…)
空間接続器は、空間を繋げる先の位置を把握していないといけない。この部屋に空間を繋げることができるということは、俺の家や部屋の位置を知っているということだ。
キィィィィ………ン………
(うるさっ…!!)
天井の光がより一層まばゆく光り、耳を突くような高音が部屋に響き渡る。思わず耳を塞いだ俺は、恐る恐る天井を見上げる。光り輝いていた天井が、少しづつその光を落ち着かせてゆく。やがて、うっすらとした光の円だけが天井に残り、その円の先に違う世界が広がっているのが見えた。
(空間が…繋がってる、のか…?)
天井の先には夜空しか広がっていないはずなのに、そこにはさらに広い部屋のような空間が広がっているように見えた。かなり広い建物の部屋と繋がっているのだろうか。俺は天井を見上げたまま、そこから悪戯の主が出てくるのではないかと身構える。
そして。
ずいっ……!!!!
「うわあああっっ!!!???」
「「「…………」」」
天井の穴から、とてつもなく大きな巨人の顔が見下ろしてきた。
ガタンッ……!!
「いたっ……!」
あまりの驚きに、ベッドの上から転げ落ちてしまう。腰を思い切り地面に打ち付ける。
「「「………」」」
「な……あ………」
もう一度見上げても、やはり異常なほどの大きさの"人の顔"がそこから見下ろしていた。マスクをはめた、茶髪のセミロングの巨人の顔。マスクで顔が隠れているが、明らかに女だ。それも、俺とそこまで歳が変わらなく見える。そんな女の顔が、直径4~5mほどもある穴を埋め尽くしているのだ。巨大すぎる質量を前に、腰が抜けて立てなくなる。
「「「………」」」
そんな俺の姿をじっと見下ろしているが、やはりその巨人は何も言わない。…俺はそこでようやく思い出した。最近ニュースで報じられている、繋がった空間同士のサイズの歪み。それを利用した悪戯が中高生の間で流行っていると言っていたが…まさにこれだ。恐らく高校生の女子が、自分側の空間を相対的に大きくした状態で、他人の部屋と自分の部屋を繋げて遊ぼうとしているのだ。
「や、やめ…ろよ……」
頭上の巨人に普通に注意しようと思ったが、あまりのサイズ差に気圧されて言葉が詰まってしまう。普通に同い年くらいの女子のはずなのだが、ここまでのサイズ差で見下ろされると圧迫感があって、正直怖い。
「「「………」」」
すっ………
物言わぬ巨人の顔が、少しだけ穴から離れる。と、
ずいっ……!!!
「うわあっ!!??」
巨大な手が、部屋の中に侵入してきた。
「やめっ…!!やめてっ…!!」
ふにぃっ……
俺の身体くらい簡単に握ってしまえるほどの巨大な手が部屋の中に侵入し、大きな人差し指の腹を俺の身体に密着させる。大きな指の体温が直接感じられ、この巨人が本当に生きていることを実感する。
さわっ……ふにっ……
「ひぃっ………」
そのまま大木のようなたくましい指が、俺の身体をゆっくりと撫でまわす。柔らかくも張りのある指の腹が、俺のお腹や脚、顔面に何度も押し当てられる。俺を撫で回す手のひらの体温は容赦なく放射され、どんどん蒸し暑くなってくる。…好きなように触られる俺は気が気ではなかった。あまりにも大きな体格差。この女子が指で俺を潰そうとしたら、少し力を入れるだけで簡単に潰せてしまうだろう。名も知らない女子が俺に何をしてくるかも分からない状態で、この状況は銃口を突き付けられているに等しかった。
「「「ふふっ………」」」
頭上の巨人のマスクの中から、笑い声のような息が漏れる。人形サイズの同い年の男子を触ってみたかったのだろうか。女子の意図は分からなかったが、この悪戯を心底楽しんでいるように見えた。
ここで、この女子が自分の顔を隠すためにわざとマスクをしているのだと気づいた。…俺から見えるのは、マスクをはめた女子の顔と、その奥に見えている巨大な部屋の天井のみ。これだけの情報では特定されることはまず無いだろう。そしてこのサイズ差では、女子をとっ捕まえて身元を話させることも不可能。こんな虫のようなサイズでは、大きな女子に悪戯されるままで抵抗できるはずがない。…よって、この悪戯は完全犯罪なのだ。
「「「………」」」
さわっ…さわっ……
「あ………」
大きな親指と中指で軽く上半身を挟まれたかと思うと、人差し指で頭を優しく撫でられる。絶妙な力加減で頭を撫でられ、にわかに安堵感と気持ち良さを感じてしまう。
「「「………♪」」」
小動物を愛でるような感覚なのだろうか。同世代の男子をペットのように可愛がることが楽しいのだろうか。この巨人の真意は分からないが、ふにっ…ふにっ…と押し当てられる人差し指の優しい感触に、すこしだけ俺は心を許してしまっていた。
と、次の瞬間に手のひらは離れていき、巨人の顔の上半分を覆い隠した。巨人の顔は、手のひらとマスクで完全に隠される形となる。
ごそっ…ごそっ…
(……なにを……?)
また別の手が出てきて、今度はマスクを少しだけ上に捲れ上げた。マスクの下に隠されていた口元が露わになる。
(…っ……!)
隠されていた女の子の唇が露わになり、何故か少しだけドキドキしてしまう。ピンク色で張りのある綺麗な唇は、俺が両手を伸ばしても抱えられないほど大きく見える。その大きさを考えただけでも、さらにドキドキしてしまう。
その唇が、というより巨人の顔自体が、部屋の中にゆっくりと侵入してきた。
ずいっ………!!!
「「「くすっ………♪」」」
「ちょっ…ま、待って……!!」
天井に開いた穴に顔を突っ込む形で、巨人の大きな顔が近づいてくる。顔の上半分は手で隠しながら、口元だけを見せている。とてつもなく大きな質量をもった物体が降ってくる光景に、俺は再び腰を抜かしてしまう。そのまま巨大な顔に潰されるのではないかと思い、小さな悲鳴を上げて顔を伏せる。
「「「こっちみて」」」
(…っ!!!)ビクッ!!
巨人が初めて発した声。囁くような女の子の声が至近距離から爆音で浴びせられ、俺は身体をビクつかせながらも反射的に巨人の方を向く。
「「「んふっ……♪」」」
ふにゅぅ……♡
(あ………)
そのまま、大きくてしっとりと柔らかい、むっちりとした感触の唇が押し当てられた。
むにぃ……♡
巨大なリップが柔らかく形を変えながら、俺の身体を唇に沈み込ませるように押し当てる。名前も顔も知らない女子ながらも、同世代の女子の唇に押し当てられているという事実に胸が高鳴ってしまう。リップクリームの良い匂いと、少しばかりの唾液の生々しい匂い。キスの経験のない俺はいきなり巨大でえっちな唇に抱擁され、その感触の気持ち良さに心臓のバクバクが止まらなくなる。
「「「………♡」」」
むにゅっ…むにっ……♡
巨人は小動物を愛でるように、リズミカルに唇を俺の身体に何度も押し当てる。柔らかな唇に沈み込む感触を何度も味わわされ、俺はこの状況に対して何が何だか分からなくなってくる。名も知らない女子に不法に侵入されているはずなのに、一方的に悪戯されているはずなのに、異常なほどの多幸感に包まれている。
「「「……んっ……」」」
おっきな唇が少しだけ俺の身体から離れる。もっと触れてほしいと思った俺は、思わず唇に向かって手を伸ばしてしまう。…しかし、俺が心を許したのは間違いだった。
「「「れぇー……」」」
むわあっ……♡
巨大な唇がぬちゃっ…♡と唾液音を響かせながら生々しく開く。その中から、生暖かい吐息がむわっ…♡と放出され、俺はその濃すぎる匂いと暖かさに思わず顔をそむけてしまう。
そして次の瞬間、
「「「れえっ……ちゅぷっ…♡」」」
俺の部屋のフローリングの床を、巨大な舌がねっとりと舐め上げた。
「っっ!!??やめろっ!!!」
「「「んふぅ……♡……れぇー……」」」
にゅるっ…♡ちゅぷっ……♡
よだれまみれの巨大な舌が、部屋の床にずっしりとのしかかり、そのままにゅるぅー…♡とべとべとの唾液を塗りたくっていく。
(匂いがっ……!!)
先程の唇の匂いとは比べ物にならない、よだれの強烈な匂い。年頃の女子の大量のよだれが容赦なく部屋の床にぶちまけられ、俺の部屋は一瞬にして強烈な匂いと湿度に支配される。
「お願いっ!!やめてっ!!!」
俺は必死で目の前の巨人に向かって叫ぶ。しかし、
「「「あはっ……ちゅぅぅ…♡」」」
顔を隠した巨大な女子は愉快そうに笑ったかと思うと、俺をあざ笑うかのように唇をすぼめ、床に向かって濃厚なキスをした。
「「「ちゅぱっ…♡」」」
いやらしい音を立てて唇が離される。唇に吸い付かれていた床の部分は唾液で変色し、巨大なキスマークが出来ていた。
「おいっ…ふざけるなっ…!!」
どれほど真剣に叫んでも、俺の身長をゆうに超える巨大な顔の持ち主に抵抗できるはずがない。俺の身体など、その気になればこの女子の唇や舌だけで制圧できるだろう。女子もこの体格差で叫ばれても微塵も動じておらず、
「「「くすっ……♪」」」
やはり愉快そうな笑い声を残したまま、ゆっくりと顔を上げていった。そのまま、天井に開いた穴から巨大な顔が退出していく。
「おいっ、待てっ!!掃除していけよっ!!」
「「「………」」」
女子は顔を隠したまま、天井の穴にペンのようなものを向ける。明らかにそれは空間接続器だった。ペンの先から光が放出されたかと思うと、天井の穴が光で埋め尽くされていく。
キイィィィ………
再び耳を突くような高音が響き渡ったかと思うと、天井の光が少しづつ弱まっていく。そして最後には、
キイィィ……ヴンッ……
光が消え、部屋の天井は元通りに戻ってしまった。
「…………」
呆然と、天井を見上げ続ける俺。いつも通りの光景に、さっきまでのことが夢だったのではないかと思ってしまう。しかし、部屋中に漂う強烈なよだれの匂いが現実を思い出させる。
「うっ……くそっ……」
同世代の女子に、好きなように遊ばれた。ペットのように撫でられたりキスされたかと思えば、部屋の床を大きな舌で舐められるという屈辱的な悪戯を受けた。悪戯というより、いじめに近い。大量の唾液を人の部屋の床に塗りたくり、それを掃除させようとしているのだから。
床の中央にでかでかと残されたキスマークを見て、さらに屈辱的な気分にさらされる。あの女子のペットとして、マーキングでもされたような気分だ。唾液で変色した床の色は、そう簡単には戻らないだろう。部屋中に充満するこの匂いも、しばらくは消えないだろう。
(最悪だ……)
俺はべちょべちょに濡れた床を雑巾で拭きながら、向こう数週間はあの名も知らない女子の匂いと生活しなければいけないことを想像し、唇を噛んだ。
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巨大な女子に不法侵入されてから1週間。俺は部屋で勉強する時も、テレビを見る時も、寝る時も、常にあの女子の唾液の匂いと共に過ごす羽目となった。途中からはその匂いが普通のように感じ出してしまい、女の子の生々しい匂いに包まれることにあまり違和感を感じなくなっていた。
そんな生活を送る中、俺はかなり嫌な予感がしていた。…この悪戯は、防ぐ術が無いのだ。あんな巨大な姿で空間を繋げられては、こちらは一切抵抗することもできないし、相手を捕まえて警察に突き出すこともできない。相手が顔を隠しているので、誰に悪戯されているかも分からない。もしあの女子がもう一回この部屋に悪戯を仕掛けてきても、俺はそれを防ぐ術を何も持っていない。
もうあの女子の標的にならないように祈りながら、俺は日々を過ごしていた。
が、嫌な予感は当たってしまう。
キイィィィ………
(っ……!!また……!)
さらに1週間後の平日の夜。部屋の机に向かって勉強していた俺は、突然天井から鳴り響いた聞き覚えのある高音に身構えた。まさか。また、空間を繋げようとしている奴がいるのか…。
四角い天井の形に添って、大きく光の線が描かれる。この前は4~5mほどの円形だったが、今度は天井全てを囲うように線が描かれている。
そして、まばゆい光が収束すると。
「「「………」」」
「ひぃっ……」
見覚えのあるマスク姿の巨人の顔が、部屋の中を見下ろしていた。
「「「………」」」
俺の部屋の天井が全て切り抜かれたような形となり、部屋の外側に巨人の部屋の景色が広がっていた。この間とは少し景色が違う。何か、とんでもなく大きな部屋の床に俺の部屋が置かれているような、そんな景色。恐らく、この女子の部屋の床に空間接続器で穴が開けられ、俺の部屋の天井に繋げたのだろう。
(くそ…最悪だ……)
この前の悪戯で気が済んだのかと思っていた。しかし、また同じ女子にターゲットにされてしまった。まさか、これから何回も同じ悪戯をされるのではないか。嫌な想像が頭の中を巡る。
ガサガサッ……
巨人はマスクを少しだけずらし、また大きな唇をこちらに晒す。
「「「スゥーー………」」」
その唇がすぼめられ、空気を吸いこむ大きな音が部屋の中に響き渡る。嫌な予感がして、思わず上空に叫ぶ。
「待ってっ…もう悪戯はやめてくれ…!」
「「「ふぅーーー……♡♡」」」
ぶわぁっっ!!!!
「うわあぁぁっ!!!??」
ガタンッ!!ゴロゴロッ!!
今までに感じたことのないレベルの強風が部屋の中を襲い、俺は簡単に椅子から転げ落ちて壁の方まで飛ばされてしまう。
「「「ふうぅぅーー……♡」」」
「やめっ……ぶっ……」
壁に打ち付けられた俺に追撃するかのように、可愛らしくすぼめられた唇の間から凶悪な吐息が浴びせかけられる。今までに経験したどんな台風よりも激しい突風。生ぬるく甘い香りのする吐息が全身に降り注ぎ、俺はなすすべなく壁に張りつけのような状態になる。
「「「ふぅ……ふふっ♡」」」
吐息で弄ぶのに気が済んだのか、巨人は笑いながら再びマスクをしっかりと装着する。…部屋に実害こそなかったが、女子の吐息程度に抵抗できず蹂躙される屈辱感はかなりのものだった。
と、次の瞬間、
「「「………んっ」」」
ズンッ!!ズンッ!!
突然、女子が大きな足音を立てて立ち上がった。
「ひっ……な…あ……」
突然立ち上がった巨人の姿を見て、絶句する。
「「「………♪」」」
俺の部屋を跨ぐように立った巨人は、まるで高層ビルのような絶望的な大きさだった。天井からの景色の両端から伸びるふくらはぎや太ももはあまりにたくましく、太ももの太さだけで俺の部屋の広さを上回ってしまうのではないかと思えるほど。その先に黒の半パンがあり、むちむちな太ももをふわっと覆い隠している。さらにその上空にはラフな白いTシャツが見えているが、もはや上半身は遠すぎて肉眼では確認しづらい。巨人の顔は、巨大な下半身に隠れてほとんど見えていなかった。
(でかすぎだろ……!!)
この大きさの生物が、同じ人間だとは到底思えない。ましてや、同世代の女子だなんて。サイズ差がある、なんてレベルではない。生物としての格が、住む世界が違う。この女子が一歩踏み出すだけで、蟻のように小さい俺は気づかれずに踏みつぶされてしまうだろう。
そう、今上空に見えている巨大な素足のように…。
「……え?」
気づくと、部屋の上空に、巨大な女子の素足が掲げられていた。降り注いでいた光は足の大きさだけで完全に遮られ、俺の部屋の中に巨大な影を落としている。
「嘘…だろ……やめ……」
「「「………♪」」」
ゆっくりと、綺麗なすべすべの足裏が近づいてくる。
「ひぃっ……」
自動車くらい大きな素足の足指が、時折ぐにっ、ぐにっ、と戯れに曲げられ、足裏のシワがそれに合わせてぐにゃり、ぐにゃり、と変形する。まるで獲物を捕獲する前の準備運動のようで、俺は頭上に掲げられた凶悪な素足を見つめたまま、恐怖で一切身体が動かせなくなる。
絶望的な質量差を前にすると、人はこうなってしまうのか。
(逃げないとっ…!!)
真上の巨大素足がこのまま降ってきたら自分がどうなるか想像し、必死で足を奮い立たせて立ち上がる。俺が部屋の隅っこの方に走り込むのと、巨人の兵器が着地するのはほとんど同時だった。
ズウゥゥンッッ……!!!!!
ミシミシミシッッッ!!!
「ああああああああっっっ!!!!」
巨大素足が着地する爆撃のような音と、あまりに巨大な質量が床を踏みしめたことによる軋み音が鳴り響き、俺はあまりの怖さに絶叫してしまう。
「「「あははっ…!!」」」
かなり上空の方から、あの女が笑っている声が降り注いでくる。目の前に鎮座するあまりに巨大な足の持ち主が、ただの一人の女子であるとは信じられない。足の小指ですら、俺の頭ほどのサイズがあるのだ。こんな太くて大きな足指に挟まれでもしたら、俺の頭は簡単に割れてしまうだろう。
(家具は…大丈夫なのか……!?)
綺麗な造形の素足の土踏まずで、小さなローテーブルが踏みつけられていた。さらにかかとはベッドの端に寄りかかるような体勢となっていた。巨人はこれでも体重をあまりかけないようにしているらしく、このまま全体重をかけられたらあっけなく俺の家具たちは音を立ててぺちゃんこになってしまう。
「おいっ…!!こんなこと…失礼だろっ…!!」
顔も見えない上空の巨人に向かって叫ぶも、この体格差で注意をしようとしている自分が逆に惨めに思えてきてしまう。
「「「………」」」
当然巨大女子からの返答はない。というか、この距離で聞こえているはずもなかった。俺は目の前に鎮座する滑らかな素足と、そこから伸びる大木のような足首に向かって、早くどけてもらえるように祈るほかなかった。
「「「ねえ」」」
「っ!!」ビクッ…
突然上空から声をかけられる。ここまでほとんどコンタクトが無かったため、急に巨人に話しかけられて少し恐怖を覚える。
「「「私の足の指、舐めて」」」
「……え………?」
耳を疑うような、屈辱的な台詞が降ってきた。
「え…えっと……」
「「「机とかベッドとか壊されたくなかったら…足の指の間、舐めてよ」」」
(何を言っているんだ…この女…!)
あまりに傲慢で高圧的な命令に、怒りが湧いてくる。しかし、この大きさではこちらの声すら向こうには届かない。完全に一方的なコミュニケーション。俺は悔しさで歯を噛みしめる。
「「「ほら、早く」」」
ミシミシミシッ…!!!!
素足に少しだけ力が入り、その下に敷かれているローテーブルとベッドが大きな音を立てて軋み始める。本当にあと少し力を入れられたら潰れてしまいそうだった。
「ちょっ、やめっ……やるからっ!!壊さないでくれっ!!」
俺は慌てて叫ぶと、大きな足の先端まで移動する。極太の足指が5本、立ち並んでいる。造形自体は女の子らしい可愛い足先だが、この異常な大きさでは可愛いなんて思えない。戯れにぐにっ、ぐにっ、と足指をくねらせる動きが怖くて仕方なかった。
俺は膝をつき、巨大な親指と人差し指の内側に手を付き、その間に顔を近づけていく。
(くっ……すごい…匂いだ……)
代謝の活発な高校生女子の素足は、汗の甘酸っぱい濃厚な匂いを存分に放出させていた。足の指の間には汗と汚れが特に溜まっており、鼻をつまみたくなるような強烈な匂いを思い切り嗅がされることとなる。また、俺が手を付いた親指と人差し指は汗でしっとりと濡れており、少し手に力を入れるだけでじゅわぁっ…♡と新鮮な汗が噴き出して俺の手をびしょびしょに濡らした。
「「「まだー?」」」
むぎゅっ……♡
「ぐごぉっ!!??」
突然、親指と人差し指が俺の身体を両側から締め上げる。容赦ない締め付けにより肺が潰れ、まともに呼吸が出来なくなる。
ぎゅっ、ぎゅっ…♡
「ぐほぉっ…がほっ…!!??」
何気ない足指の動きに、俺は身体を骨ごと砕かれそうな衝撃を与えられる。この女子にとっては気まぐれに足を動かしているだけなのかもしれないが、虫のような大きさの俺はその動きだけで致命的な怪我を負う可能性を孕んでいた。
「はあっ…はあっ…!!」
足指の動きが止まり、にわかに解放される。俺は締め上げられた恐怖から、早く足を舐めないと今度こそ挟み潰されると思い込み、急いで足指の間に顔を近づける。
「「「っ…!!やば……♪」」」
指の間の感触に気づいたのか、上空からこちらをあざ笑うかのような声が聞こえてくる。
(汗の匂いが……きついっ…!!)
一方、俺は足指の間に溜まった汗と老廃物を思い切り口の中に入れてしまい、あまりに強烈な匂いと味に悶絶していた。生まれてこの方、人の足なんて舐めたことが無い。ましてや、自分より力が弱いはずの女子の足なんて。…でも今は、この女の機嫌を取るために舐めるしかない。
「「「くすぐったー…♪」」」
「はあっ…はあっ…はあっ…」
必死に足指の間の濃い汗を舐める俺と、その感触をラフに楽しむ巨大女子。元々は同じ大きさの人間であるという事実がより一層屈辱感を俺に味わわせていた。なんで、俺は知らない女に奴隷のように足を舐めさせられているんだ…!
「「「もーいいよ」」」
ぐわっ……!!
「ひぃっ!!!」
突然目の前の巨大素足が持ち上がり、部屋の外に移動していく。素足が動かされた風圧で、俺は後ろにしりもちを付いてしまう。…どうやら、足を舐めさせるという遊びに満足したようだった。
「「「あんまり気持ち良くなかったから、罰ゲームね」」」
「え……?」
上空の女子はそう言うと、こちらを遥か高みから見下ろしながら、マスクに覆われた唇をもごもごとし始める。最悪の展開が頭の中をよぎる。
そのまま女子は、マスクを少しだけずらすと…再び唇をすぼめた。そして、
「「「ぺぇっ……♡」」」
べしゃあぁっっ!!!
「…………あ…………ああ……」
言葉が出なかった。
部屋の中に思い切り吐き出された、巨大女子の唾。普通の人間の唾ではない。巨人が吐き出した何リットルもの大量の唾が、俺のパーソナルスペースに容赦なくぶちまけられた。
「な……んで……」
2週間前にフローリングの床を舐め上げられたのとはわけが違う。机やテレビに大量の唾液が降りかかり、ベッドのシーツやカーペットに泡を含んだ大量の唾液が染み込んでいく。洗ったとしても、この女の匂いが取れるか分からない。
「「「じゃーねー…♪」」」
絶望で声が出ない俺に向かって、巨大女子は何とも思っていないような言い方で別れを告げる。そのまま上空の景色は光に包まれ、気づけば俺の部屋の天井は元通りになっていた。
(…………)
残された大量の唾液を見つめながら、俺はしばらく動けなかった。唾液でぐっしょり濡れたシーツやカーペットを拭いて洗濯に出す惨めな自分の姿が目に浮かぶ。
そして、さらに絶望的なのは、また今の巨大な女子に弄ばれるかもしれないということだった。俺の部屋を把握されている限り、空間を接続されるのを止めることはできない。そしてあの体格差では、一切抵抗することもできない。
(……なんで、俺の部屋を把握しているんだ……?)
そこで、ようやく気付く。空間接続器は、接続先の場所の位置を把握していないと使えないらしい。じゃあなぜ、あの女はこの部屋を知っているんだ…。
俺は濃厚な唾液の匂いに包まれたまま、うなだれるように考え続けた。
---続く---