DESCRIPTION
「「脱げ♡」」
にちっ…♡
「ひっ………あっ………」
唾液を引く巨大な音と共に、宮下の大きな唇の間から"指示"が爆音で響き渡る。今までずっと敬語を使っていた宮下の口から紡がれた、突然の強い命令口調。話し方自体は今までと変わりなく、むしろ何だか愉快そうな、楽しそうな抑揚で命令を囁いているだけなのだが。
俺にとって、視界を埋め尽くす巨人の命令は、無条件でひれ伏す恐怖を与えられたに等しかった。
「ぬっ、ぬぎ…ます……」
唯一身に着けていたパンツの裾に急いで手をかけ。先ほどまで躊躇していたはずの最後の脱衣を、何のためらいも無く行っている自分がいた。
後輩の女子の前で全裸になっている異常さに気づかず、俺はパンツをその後輩の手のひらの上に脱ぎ捨て、おそるおそる巨人の機嫌を伺う。
「「へえ……」」
研究室の先輩の裸を目の当たりにした宮下は、恥ずかしがるどころか。先ほどと同様に興味深そうな表情で、こちらの様子を大きな瞳で覗き込むのだった。
「「命令口調で、クリアですね。メモしておかないと…」」
普段の敬語口調に戻っている宮下の様子に、気が動転している俺は気づかない。耳にこびりつく命令口調が、今もなお巨人から脅迫され続けているような被害妄想を生んでいた。
「「じゃあ第一段階の指示はクリアしたので、第二段階にいきましょうか」」
手のひらの上で震える先輩の様子はあまりに小さすぎるのか、宮下は俺の恐怖に構わず言葉を紡ぎ続ける。
「「では…」」
にちぃ…♡
開かれた桃色のぽってり唇の間からむわあっ…♡と吐き出される、蒸れ蒸れ吐息。裸になってさらされた肌に、ねっとりと生暖かい空気がまとわりつく。普段絶対に感じることのない、人間の吐息の湿度と温度。それを容易に浴びせられているという異常な状況が、"指示"される前から小人の心をへし折っていく。
「「そこで土下座してください」」
「…う………」
続けて行われる、屈辱的な"指示"。第一段階の指示である「服を脱ぐ」という内容と、方向性は一貫しているようだった。人間にとって屈辱で、恥ずかしくて、普通なら絶対に従わないような内容。しかし、大きな恐怖や命の危険を感じたら最後、簡単に従ってしまうような指示だった。
こんな裸で、後輩の女の子に向かって土下座だなんて。しかも、その女の子の手のひらの上で。そんなことをしてしまったら、もはや普段の関係に戻れることはあるのだろうか。いくら実験だからと言って、そんなの…。
「「んー……」」
裸で立ち尽くしてしまった小人に対して、可憐な巨人研究者は。自分の唇をわざとらしく近づけて。
「「ほーらっ♡」」
ビリビリッ……!!
「ひぃっ!!??」
故意に大きな声を出して、思考の渦に沈んでいた俺を震え上がらせ、手のひらの上にへたり込ませたうえで。
「「はやく土下座、しろっ♡♡」」
「」ビクビクッ!!
天空から思い切り浴びせられた女神の命令に、俺は声も出せず震えあがるだけ。全裸というみっともない姿で恐怖に震える俺は、屈辱や恥ずかしさも忘れてすぐに膝をつき、手をついて、土下座の体勢に入る。
柔らかな巨大手のひらの上で、しっとりと宮下の手汗で濡れた地面から酸っぱい匂いを感じながら。
人生で初めて、本当の土下座をしたかもしれなかった。
「「…やっぱり……」」
「っ……」ビクッ…
顔を伏せながら、自分に向けられたわけでもないつぶやきのような宮下の声に、いちいち反応してしまう。
「「命令口調の効果はかなり大きそうですね。おもしろい…」」
くりんとした瞳で圧倒的な視線を降らせながら、真顔でそう呟く宮下。実験とは言え先輩に命令して裸にした挙句、土下座までさせたのに、宮下の興味は一貫して研究内容の方にあるようで。自分の命令が先輩を震え上がらせているという事実が、単純に興味深いようだった。…俺の方は、この状況に気が気でないというのに。
「「とりあえず、いけるところまでいきましょうか。次は…あ、もう土下座はいいですよ」」
女神様は、手のひらの上の小人の恐怖になんか構ってくれない。
「「先輩、2時間くらいおトイレしてないですよね?…今ここで、おしっこしてください」」
「……な………」
さらにエスカレートした指示内容に、絶句する。
「「あ、私の手のひらが汚れるのは気にしなくていいですよ?多分量がかなり少ないと思うので」」
(そ、そういうことじゃなくて…)
後輩の女の子の、手のひらで。排尿行為をしろと言うのか?
そんなこと、出来るわけがない。いくら、この体格差でも…。
「そ、そん、なの…無理だって…!!」
勇気を振り絞って、震える声で、巨大な顔に話しかける。怖い。断るのが怖い。でも、目の前でおしっこなんて出来るわけがない。自分の精神が明確に、拒否反応を示していた。
「「ふーん…」」
そんな小人の反抗を見て、宮下は再び唇の端を上げて笑う。そのまま、やはり再び、巨大な唇をこちらに近づけていく。
「や……まって……」
来る。あの恐ろしい、命令口調が。このまま至近距離で、こちらの精神を震わせるような爆音で、可愛らしくも恐ろしい命令が降ってくる。俺はぎゅっと目を瞑って、思わず頭を抱えてしまう。
「「……あ、せっかくだから、違う指示の出し方も試してみましょうか」」
今にも降ってくると思った命令は中断され。宮下は何か思いついたようで、唇を手のひらから再度遠ざけていった。
後輩の唇が離れたことで、内心、とてつもなく安堵する。
「「健常者との距離感とか、どの部位が近いかとか、そういう条件によってどう変わるか試してみますね」」
ぐらっ……!!
「うわぁぁっ!!??」
突然、地面となっていた手のひらが落下していく。宮下がしゃがみながら手のひらの高度を下げているのだろうが、まるで自由落下のような重力変化に襲われ、命の危険を感じざるを得ない。巨大な手のひらの表面のぷにぷにのお肉に捕まり、何とか落下の脅威に耐えるしかなかった。
「「はい、降りてください」」
カーペットの上に降ろされた手のひら。俺は強烈な落下で頭がくらくらしつつも、ふらついた足取りで何とか分厚い手のひらの表面から、ふわふわのカーペットの上に着地した。
「「では……」」
ぐわっっ……!!
もの凄い勢いで風圧を起こしながら、マンション級のデカさの巨人が立ち上がる。今まで相対していた宮下の顔がはるか上空まで一瞬で伸びあがり、目の前には大型トラックのようなデカさの足が、紺色の足首靴下に包まれて鎮座していた。…同じ地面に立てば、これほどまでに絶望的な体格差なのだ。意思の疎通などこの状態で出来るわけもなく、先ほどまで顔の前で見てもらえていたことがどれだけありがたかったか、思い知らされる。
ずっ……
「え……」
気づけば、その巨大な靴下の片方が持ち上がり、俺の左斜め上空5メートルの位置に掲げられていた。
ばふっ…!!!♡♡
「ぎゃああっっっ!??」
巨大すぎるプレス機が、俺の身体のわずか2メートル横の場所に、何の予告も無く着地した。柔らかな靴下とカーペットの間で圧縮された空気が一気に分散し、至近距離にいた小人の身体を容易にカーペットの上に叩きつけて転ばせる。足の裏の匂いが靴下の生地で熟成され、濃厚な空気となって矮小な小人の周囲を支配する。直接踏まれていないのに、その匂いだけで踏まれているかのような錯覚を覚える。しかし横を見れば、圧倒的重量の足がカーペットの起毛をぺしゃんこに潰し切っており。そこに自分がもしいたら、むにむに柔らかな宮下の靴下の底で全身潰れていただろう。
「「先輩、聞こえてますよね?」」
マンションの屋上の高さから発せられた声のはずなのに、大きな音で鳴り響く校内放送のようにはっきりと聞こえてくる、宮下の声。尻餅をついた俺の視点からは、真横にそびえる巨大な靴下、そこから伸びる肌色のふくらはぎは健康的に張り出していて、その先にむちぃぃっ…♡と広がる太ももの重量感は見ているだけでとてつもなく、真横の足でそれを支えられていることが信じられない。さらにその先に伸びる巨人の上半身はあまりに手が届かない存在で。宮下という存在を、どうも認識できない。あまりに大きすぎて、自分が認識できる人間という枠の中に収まらないのだ。
「「では……」」
ぐにっ…♡
真横の巨大な靴下の先っぽが、その中の足指の動きに合わせてぐにゃりとうねる。
「「今ここで、おしっこして下さい」」
上空から、再び同じ指示を与えられる。
…健常者に足を近づけられたらどうなるか、を試しているのだ。そのことに今気づく。自分の身体よりもはるかに大きな人間の足がそばにある状態で、どれだけ命令に従ってしまうのか。それも、研究の一つの実験テーマとなっていた。
ぐにっ…ぐねっ…♡
「ひ………」
無意識なのか、脅迫のつもりなのか、近づけられた足の巨大な指が音を立ててうねっている。足指の形に合わせてぴちっ…♡と張り付いた靴下の生地は、足指の表面の大きさと張りを思い切り強調していた。あのおっきな親指に一度組み伏せられたら、もう自力で脱出することは不可能なように思えた。
「「…ん、これは従わないんですね」」
腰に手を当てながら、巨人が呟く。
…違う。あまりに巨大な物体を近づけられて、身体が硬直して動かないのだ。喉も張り付いたように開かなくなって、悲鳴すら上げることができない。何せ、宮下がちょっとでもこの足を移動させ、ちょっとでも体重をかけるだけで、自分に待っているのは、無残な死。後輩の靴下にこびりついて一生を終えるという、最悪の結末がすぐそこに見えているのだ。
…もちろんそんなことを、宮下がするわけがない。しかし、その可能性を突き付けられているというだけで、人間の本能というのはどうしても打ち震えてしまう。
「「じゃあ、次は……」」
ずむっ…ずむっ…
柔らかくも鈍く重い音を立てて、ふわふわ靴下が少しだけ離れた位置に着地する。10メートルくらいの距離が空き、思わず少しだけホッとしてしまう。…しかし、宮下が少し足をずらせば踏みつぶされてしまう距離感が変わっていないことに気づき、自分の思考の愚かさを感じた。
そして、
ぶわぁっっ…!!
「ああああぁぁっっ!!??」
天がまるごと降ってきたような感覚に、絶叫し、腰から力が抜けてへたり込む。
みちぃっ……♡♡
一瞬にして数メートル上空まで突きつけられたのは。デニム生地のショートパンツの表面だった。宮下の巨大なお尻の形に沿ってみちぃぃ…♡と音を立てるデニムが、軟弱な小人の上に恥ずかしげもなく突きつけられる。
「「これ、結構怖そうですね~」」
見えない上空から、宮下の呑気な感想が聞こえてくる。股下の先輩に対して躊躇なくしゃがみ込んだ宮下は、自分の股間部とお尻がデニム生地を突っ張らせ、その中身の形をありありと映し出していることに気づいているのだろうか。
「あ……う……」
10倍巨人となった宮下の股間部の迫力は、とてつもないものだった。今まで近づけられた部位の中で、最もえっちで暴力的な印象を抱いたほどだ。真上に鎮座する巨大ヒップは、上空の景色を全て深い青色に塗り替えてしまう。宮下が意識しなくてもデニム生地がみちみちっ…♡と音を立て、どっぷりと張り出したお尻の質量を激しく主張していた。さらに股間部から左右に伸びる生脚は、しゃがんだことによってはるか上空まで膝が折りこまれ、その下で巨大なふくらはぎと太ももがむち、むち♡と押し合っている。はみ出したふくらはぎのお肉は、俺の身体よりも当然のように大きかった。
巨大な建物が、頭上に突きつけられているのも同然。この爆発的に大きなお尻が落ちてきたら、どうなるかなんて考えるのもバカらしい。
「「間違えて座っちゃったら、先輩潰れちゃいそうですね♪」」
「っっ……」ビクッ……
いつもの宮下の軽口が、冗談に聞こえない。いや、冗談に聞こえるのだが、洒落になっていない。だって、今宮下がバランスを崩してカーペットの上にお尻を着地させたら。俺は本当の意味で命を奪われてしまう。その重大さが、生死を握られていることの重大さが、宮下には分かっているのだろうか。
縮小者と健常者が感じている状況は、残酷なほどにギャップがあった。
「「では先輩、そこで出してください」」
ミシッ、ミシッ…♡と、宮下の命令と共に軋むデニム生地。従わなければ座っちゃいますよ、と言われているようで。巨人に身体を近づけられるというのは、ただそれだけで脅迫になっていた。
怖い。逃げたい。恐ろしい。そんな感情でいっぱいになり、動けない。
「「ほらっ、えいっ…♡」」
ぐんっ…!!ぐんっ…!!
ぶわあっ…!!♡♡
「いやっ!!??やめっ…ああああっっ!??」
しゃがみ込んだお尻を、からかうように上下に降り始める宮下。部屋の天井が激しく上下に揺れているような感覚で、自分の質量を遥かに凌駕する物体が近づいては遠のき、近づいては遠のく。次の瞬間には本当に潰されている気がして、しかしむちむちのデニム生地ヒップは俺の頭上1メートルのところで器用に止まり、再度上空へ浮かび上がっていく。
生きた心地がしなかった。恐怖のあまり絶叫するも、宮下が腰を上下に振る際のみちちちっ…♡♡というショートパンツの擦れる音が爆音で鳴り響くため、俺の声は自分でも聞こえないくらいかき消されてしまう。ぎちっ♡みしっ♡と恐ろしく鳴き続ける巨人の股間と、「「これでも従いませんか~?」」と朗らかに問いかけてくる宮下の天の声が、同一人物のものとは到底思えなかった。
「「…ん、腰抜かしちゃってますね。それでも、従うまではいかないですか…」」
自分の股間部の下で腰を抜かす惨めな先輩の姿を見つけたようで、宮下は腰の動きを止め、依然として圧倒的にしゃがんだまま喋り続ける。
「「排尿行為を見せることのハードルがそもそも高い、のかな」」
冷静に研究としての分析を続ける後輩。股の下から見上げる巨大な後輩の姿は、むちむちのお尻と太ももをローアングルで見せつけられるというあまりにエッチなもので。自分が当事者でなければ、なんと甘美な光景だろうか。何故か暴力的にも感じる豊満な股間部と、遥か上空で思考にふける美形な研究者。その姿を見て100%興奮できないのは、ただただこの巨人の存在が怖いからだった。
「「とりあえず…もう一度手のひらに乗ってくれますか?」」
ぶわぁっ…!!と大きな風を起こしながら、再びおっきな手のひらを近づけてくる宮下。こんな状態で逆らえるわけもなく、また温かい手のひらの端に手をかけ、ぐにっ、ぐにっ、と手の肌を沈ませながら登っていく。…本当は、乗りたくない。先ほどの高度が、あまりにも怖かったから。でももう、これくらいの命令には逆らう気が全く起きない。いや、というか、命令ではない。ただ、後輩がフラットに依頼しているだけ。それなのに、一言一言全てが命令のように感じてしまい、勝手に圧力をかけられているような感覚を覚えるのだ。
「「立ちますねー」」
心の準備が出来る前に、巨人がずむっ…ずむっ…と足を踏み直し、立ち上がる。激しい重力変化でやはり吐きそうになる。ただ人間が立ち上がるだけの現象は、今の自分にとってはダイナミックな環境変化。もう宮下という存在は、周囲を取り囲む環境そのものと言っていいくらいだった。
「「うーん…」」
「っ…」ビクッ……
再び、宮下の巨大な顔の前に連れてこられる。先ほどまでとは違う、特に有機的な、感情を持った顔というものが突きつけられる生々しさと、恐ろしさ。それに加え、手のひらの上の自分を圧倒的に観察されているという恥ずかしさも重なってくる。目の前に広がる顔のうち、どこを見ようとしても気恥ずかしい。強烈な大きさの視線を浴びせてくる瞳を見るのは恥ずかしいし、こちらの自然な視線の位置の先にある唇を見るのも、女の子の唇をこんな超至近距離で見せつけられることなんてないから、見ていいのかどうかも分からない。横目でちらちらみる唇は明らかに綺麗に手入れされていて、その唇に触れられたものは間違いなくその柔らかさときめ細かさに骨抜きになってしまうだろう。
はあっ…♡
無意識に吐き出される息は、こちらの自尊心をみるみる削っていく。宮下が意識していないであろう行為を意識させられているという時点で、立場の違いが明確に突きつけられるのだ。
「「今、何が一番怖いですか?」」
「え…」
ストレートに、恐怖の根源を質問される。その"怖さ"とは、この状況では宮下が与えるものが全て。それを本人に伝えなければならないというのは、男としても、先輩としても、とても屈辱的なことだった。
「えっと……高くまで持ち上げられるのは、怖い、かも……」
自分の返答のあまりの歯切れの悪さに、内心焦りを感じる。宮下と、まともに喋られない。恥ずかしさというよりは、自分よりも上位の存在に対する畏怖の念が、喉をぎゅっと締め付けてしまうのだ。どんどん以前の関係から遠ざかっているような感覚が恐ろしく、早く実験が終わらなければどうなってしまうのか、そんな焦りのような感情が渦巻き始めていた。
「「なるほど、高さですか…。確かに、軽くマンションくらいの高度はありますからね」」
こちらの恐怖が伝わっているのかいないのか、宮下は自分の足元を見下ろしながら頷く。
「「…今日はもう一回だけ"指示"するので、それが終わったら面会は終了にしましょうか」」
あと少しでこの時間が終わることを告げられ、ホッとする。これ以上大きな宮下の近くにいたら、頭がおかしくなりそうだった。
「「先輩、両手を上に挙げて、手を合わせてもらえませんか?」」
「…?こ、こう?」
突然手を上げるように言われ。反射的に両手を上げて、頭の上で合わせる。
「「ありがとうございます。そのまま、動かないでくださいね」」
ぐわっ…!!
「え、な……ひぃっ…!!」
宮下のもう一方の左手が、近づけられる。何度見ても慣れない光景。左手の親指と人差し指が、何かを摘まむような形のまま、こちらに近づけられる。…その摘まむ対象というのは、明らかに俺しかいなかった。
ぎゅうっ…♡
「あ………痛……」
万力のような力で、両手を締め付けられる。両側からぶっとい親指と人差し指が俺の手を挟み込み、ぎゅうぅぅ…!!ともの凄い力で圧迫する。女の子の、しかも指先だけでこんな力が出せるなんて、あまりにも常軌を逸していた。想像はしていたことだが、宮下の指の力にすら本当に勝てないんだと、改めて事実を突きつけられた。
そして、本当の恐怖はここから始まるのだった。
ふわっ……
足をついていた肌色の地面、すなわち宮下の手のひらが、突然下の方に離れていく。一瞬にして支えが無くなり、全身が一瞬ふわっと浮かび上がるような感覚を覚える。
「ちょっ、まっ、あぶなっ……やめてっ……ひぃっ…!!??」
「「危ないので、あまり暴れないでくださいね」」
両手を指先で摘ままれたまま、空中に吊り下げられる。足元にあった巨大な地面は全て取り払われ、下を見れば目も眩むような高さ。マンションの屋上から下を見たときのような、途方もない高度の下に部屋のカーペットが見えているという異常な光景。本能的に心臓がバクバクと跳ね始め、身体が震え、喉が渇いてくる。喉が締め付けられて、声も出せなくなる。
「「よっと」」
ずいっ……!!
「ひあぁっ…」ビクッ…!!
俺を吊り下げる指先が、少し上空の方に移動する。俺の身体は吊るされたままぶらんぶらんと空中で揺れ動き、あまりに生きた心地がしない。なにより俺の命を握っているのがただの指先であるという事実があまりに頼りなく、1秒先には落下しているのではないかという恐怖を毎秒与えられるような精神状態に陥る。
「「こうすると、表情までよく見えますね」」
はあっ…♡♡
異常な距離感まで近づけられる、女神の顔。巨大な顔から発せられる熱気と匂いが俺の身体を包み込む。肌の表面の産毛まで見えてしまう距離感で、宮下は恥ずかしがることも無く、俺の顔を興味深そうにのぞき込んでくる。ちょうど巨大な瞳の間の所に俺の顔がくるような位置関係で、手を伸ばせば鼻筋に触れてしまえそうなほど近くで、吊り下げられる。なんの誇張でもなく、目から見える景色の全てが宮下の顔で埋め尽くされていた。白く綺麗な肌と、大きな瞳、まつ毛の一本一本、そして鼻。それが、今の俺から見える景色の全てだった。
全身がこれまでにないくらい強張っていた。自分の精神状態が、限界に近づいていることを理解していた。
「「では、最後にもう一度、"指示"しますね」」
こちらの表情をじっと見つめながら、宮下が言う。
「「今ここで、おしっこしてください」」
「あっ……ひっ……」
もはや、正常な思考は全て奪われていた。この高度で、命綱無しで吊るされているというだけで、冷静な思考は全くできなくなっていて。今ここで後輩に排尿行為を見られることが、今後の人間関係にどんな影響を及ぼすか、とか、そんなことを考える余裕など一切ない。
「「どうしました?早くしてください」」
今この命令に従えば、許してもらえるかもしれない。安全な地面に降ろしてもらえるかもしれない。とにもかくにも、この恐ろしい状況から解放されたい。そんな思考に支配され始める。…従わないと、降ろしてもらえないわけでもないのに。
「「もー…」」
まごつく俺を見て。宮下は、つるし上げた小人を、自分の唇の目の前に持ってくる。
眼前に広がるむっちり唇が、にちぃ…♡と、ゆっくりと開き。
「「早くおしっこしろっ♡♡」」
ビリビリビリッ…!!
「っっ!!!」ビクビクッ!!!
想像を超えた爆音で、蒸れ蒸れの吐息と共に命令を浴びせかけられる。空気が震え、その音量の圧力だけで自分の身体が揺れているように感じる。大きな音に対する本能的な恐怖が、ぶるぶると身体を震えさせる。
「「ほらっ♡♡早くだせっ♡♡」」
ぶわあぁっ…♡♡
ぴちょっ…ぴちょっ……
可愛らしい唇から放たれる暴力的な命令と、容赦なく浴びせられる濃厚な吐息。そして唇の中から無意識に飛んでくる、唾液の細かな雨。"命令"というものが、具体的な物質を伴って全身に降りかかってくるという、超常的な体験だった。
「「はーやーくー♡♡」」
言葉に合わせて、唇がぐわっと開いたり、すぼめられたり。桜色の唇の表面がうねり、シワが動き、その奥の大きな歯やうねうね蠢く舌が見え隠れする。人間の唇が言葉を発する様子は、なんと生々しくて、恐ろしいんだろう。
「出しっ、ますっ…!!出す、から…!!許してっ…!!」
気づけば、巨大な後輩リップに向かって、命乞いをしていた。これ以上目の前の唇に、"命令"という名の暴力を振るわれるのが恐ろしくてたまらなかった。
「「ん、じゃあ早くして?」」
当た前のようにタメ口で話しながら、宮下は再度、つるし上げた先輩の身体を自分の瞳の目の前まで持ってくる。
「「………」」
「う……」
震える身体で、歯をガタガタ鳴らしながら、必死で股間に力を込める。早く、出さないと、何をされるか分からない。でも、こんなに見られているなんて、そんなの…!!
「「………」」
じぃっ…と、排尿直前の先輩の表情を見つめる宮下。こんな状況は、あんまりだ。こんなところを見られているなんて、普通の関係じゃない。嫌だ、恥ずかしい、でも、出さなきゃ…!!
「「先輩」」
なかなか出せないでいる俺に対して、巨人の声がかけられる。
すぅっ…
そして一瞬、大量の空気が吸われる音が聞こえた気がした。
「「「いっぱいおしっこ出しちゃえっ♡出せっ♡…ほらぁっ!!♡♡」」」
ビリビリビリッ!!!!
「あああっっ、ひぃあぁっ!!???」
小人の鼓膜を引き裂かんばかりの爆音は、俺の膀胱を激しく刺激するのに十分だった。
ちょろちょろちょろっ……
「「あ……」」
ほとんど、失禁に近かった。至近距離から爆音で命令され、全身で恐怖を感じ。気づけば身体は緊張を通り越して弛緩していて、もはや感覚のない股間部から、惨めにもおしっこが垂れ流れていた。
「「少な……」」
思わず、宮下の大きな人差し指が差し出される。広い人差し指の腹の面積に比べて、小人から放たれるおしっこの量は頼りなさすぎて。巨人のぶっとい指の表面を、少し濡らす程度の水量でしかなかった。
なんという屈辱なのだろうか。自分の排尿を、後輩の指だけで簡単に受け止められているのだ。完全に、ペットのお世話だった。本来なら触りたくないはずのおしっこを、躊躇なく指を差し出して受け止めているのだ。それに対して嫌悪感すらなく、思わずその少なさを呟かれてしまう始末。
「「受け止めてるので、大丈夫ですからね」」
先程までと打って変わって、優しく声がかけられる。実験のための命令とは異なり、本来の宮下が喋っていることが分かる口調。…それが、とてつもない恥辱を先輩に与えていた。
「「おっきい声を出されるのが、一番効果あるみたいですね~」」
後輩におっきな声を出されて、びっくりして失禁している所を、余すところなく巨大な瞳で視姦されて。今までの宮下との関係性が、根本から崩れていくのを感じていた。この実験が終わったら、俺は宮下とまともに向き合って話せるだろうか。先輩としての接し方ができるだろうか。
…少なくとも今は、絶望的なほど想像が付かなかった。
------
「「先輩、大丈夫ですか?」」
排尿後の股間部をティッシュで無造作に拭かれてから、俺は宮下の手によってカーペットに降ろされた。俺は心の奥底にまで付けられた恥辱という名の傷と、未だ耳に残る後輩の命令の残滓で、ひたすら身体をぷるぷる震えさすことしかできなかった。
そんな俺の上から、20倍もの巨体で無遠慮にしゃがみ込む宮下。
「「まだ1/20ですから、もう少し頑張ってくださいね」」
まだ、1/20。
そう、この実験の縮小率は、こんなもので終わりではない。この次は1/100、1/1000というサイズまで残されている。
今のサイズ差でも、巨大な建物と化した後輩の身体を見上げるだけで本能が恐怖する。いつものように会話できず、ちょっと大声を出されただけで我を失ってしまう。
圧倒的な股間部を見せつけながらしゃがみ込む宮下。これが、10日後には5倍に膨れ上がる。宮下からみた俺は、2cmにも満たない小指サイズ。手乗りどころではない、指にしがみついてしまうような、あまりに矮小な小人サイズ。
「「じゃあ、今日の面会は終わりです。…明日からもっと色々な"指示"、出していきますからね~」」
ドンッ…!!ドンッ…!!
カーペットを大きく凹ませながら、太ももをたぷっ、たぷっ♡と揺らしながら、後輩の巨体が遠ざかっていく。
俺は10日後に縮小薬を飲んだ後、正気を保っていられるだろうか?
その前に、1/20の状態で"指示"され続ける10日間で、おかしくなってしまうのではないか?
そんな不安が、精神状態全てを支配して。
宮下の残り香が充満した空間の中で、呆然と立ち尽くした。
---3月の小説へ続く---