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マンションのように大きなビーカーの透明な側面が、圧倒的な面積の肌色で埋め尽くされたと思ったら。
ぐらあっ…!!!
「いやあっっっ!!??」
巨大なビーカーの空間が、世界が、傾き始めていた。
世界の色は肌色で埋め尽くされている。恐らく宮下が、ビーカーを片手で持っているだけなのに。みちぃっ…♡とビーカーの側面に貼りついた手のひらの表面は全てを覆い尽くし、たちどころにガラスの表面をむわぁ…♡と熱で曇らせていく。外界からの光はビーカーの出口である真上からしか届かない。そんな変貌した世界は神の力で傾き続け、俺が立っていた床は既に壁となり、壁だった側面は既に床になっていた。
しかし、それだけでは終わらない。
ぐらっ…!!!
「っっ!!??いやだっ!!??」
ビーカーの傾きは、さらに止まることがなく。今立っている地面が傾けば、ずり落ちる先はビーカーの出口。すなわち、研究室の机の上に落とされるしかない。
守られていたビーカーの中の世界から、生の外界へ。1/100の状態で、100倍の巨人が存在する空間へ強制的に連れ出される。
ごろごろっ!!べちっ…ばたんっ…!!
ビーカーに入っていた石ころのように、傾きに負けた俺は簡単に転げ落ちていき、全身をビーカーのガラス面に何度も打ち付ける。
永遠と思える時間、果てしなく続くガラスの坂を、転がり続けた。そして、
どんっ!!ごろごろごろっ……
「ぐげぇっ!!??」
突然全身に訪れた衝撃にうめき声を発し、俺はテーブルの表面の上を転がり、やがて停止した。
「う……うう……」
心臓がバクバクして止まない。本当に恐ろしかった。このまま全身を打ち付けて死ぬのではないかと思えるほどだった。1.7cmの人間が入っているビーカーを、普通に傾けるなんて。まるでコップに入ったゴミや虫を傾けて出すかのように、乱雑な扱い。今まで、こちらの安全だけはちゃんと考えてくれていた宮下への信頼が、唐突に崩れていく。
宮下が何を考えているのか分からない。
「「「うわ~、ちっちゃーい♪」」」
「っっっ!!!」ビクッ…!!
突然浴びせられた爆音に、俺は慌てふためいて、上空を見上げる。
「「「…………」」」
「あああっっ…………あ……」
人の目が、視界全てを覆い尽くしていた。
上空に信じられないほど接近していた宮下の瞳は、その高さだけで俺の身長を上回っていた。俺が立って手を伸ばしても、宮下のまぶたから目尻までの高さに届かない。まつ毛の一本一本、目元のわずかなシワ、虹彩の模様までくっきりと見える狂った距離感によって、自分がいかに途方もなく矮小な存在となったのか、思い知らされた。
ばちんっ……
「ひっ……!!」
宮下が無意識にまばたきする、それだけでびっくりして悲鳴を上げてしまう。何せ自分の数倍もおおきいまぶたが一瞬のうちに瞳を覆い隠し、大きな音を立てて瞳の表面を濡らすのだ。人間がほとんど意識することのない生理現象でさえ、俺にとっては全身で意識させられる規模感で。顕微鏡で見たときのような巨大な瞳の解像度は、逆に言えば自分が顕微鏡で見ないとはっきり見えないような小ささになってしまったことを物語っていた。
「「「さすがに表情は見えにくいな…」」」
ずっしりとのしかかる宮下の声圧。未だ見つめ続ける巨大な瞳。圧倒的な視線はあまりにスケールが大きすぎて、俺の姿などその視線で捉えてくれさえしない。表情が見えなければ、感情が伺えなければ、宮下にとって俺という存在は、既に人間ではない。感情を持たずにただ動き回る虫と、何が違うのだろう。
自分を構成するものが、一つ一つ宮下に認識されなくなっていることが、恐ろしかった。
「「「指とどっちが大きいかな」」」
巨人の台詞の後、わずかに瞳が上空側へ遠くなったと思った瞬間。
ズズズッ……!!!!
肌色の巨大な物体が、猛烈な勢いでこちらに向かってくるのが見えた。
「ああああああああっっっっ!!???」
ズンッ……!!!!
もうパニックだった。自分の何倍もの太さがある宮下の指が、絶対に逃げられない速度で近づいてきて。宮下がその気なら、このまま指の腹でテーブルに押さえつけられ、自力では動けないまま圧死させられる。一瞬でそんな想像が頭を駆け巡り、死を覚悟して、叫んで、しかし次の瞬間には自分の1メートル横に巨大な指が着地する。自分が助かったことを認知する間もないまま、指が起こした風によって全身が煽られ、簡単に転倒して腰を打ち付ける。
この間、たった1秒。
「「「あははっ、怖いよね。自分よりもおっきい指だし…」」」
ズンッ…!!ズンッ…!!!
「ひっ…!!あっ…!!」
指先を軽くテーブルにぽん、ぽんとタップするだけで、宮下の指は小人に強烈な地響きを与えられる。着地のたびに指の腹がぐにっ…と凹み、鋭利で固そうな巨大な爪が光を反射する。宮下が指を動かすごとに、「先輩はもう指にも勝てないよ」と念押しされているようで、気が気ではなかった。…そして俺は、たった今指によって与えられている振動が、実験の開始直後に宮下の足によって与えられていた振動と同じくらい大きいことに気づいた。
体格差が膨らんで、その力の差は、もう取り返しのつかないレベルまで開いている。
「「「怖くないよー?」」」
至近距離で蠢く超巨大な指と、上空から降ってくる宮下の甘やかすような声。既にその口調は先輩に対するものではなく、赤ちゃんやペットに対するものに様変わりしていた。この口調は、わざとなのか。それとも、宮下の感情から来るものなのか。後輩と先輩としての関係は、まだ崩れていないのか。
「「「よしよししたいけど、潰れちゃうかな?怖い?」」」
宮下が投げかけるタメ口があまりに自然で、生々しく、怖い。
それに返答してしまえば、宮下との関係の変化が決定的になってしまうような気がして、何も答えられない。いや、答えても聞こえるはずがないのだが、とにかく、今の宮下とコミュニケーションが成立してしまうことが怖かった。
「「「……んふっ…♡」」」
含みのある笑いを漏らした宮下の巨大な顔は、瞳をこちらに近づけていた状態から、移動していく。大きな瞳から、目尻、鼻へと移り変わり、そして。
「や……やめ………」
「「「………♡」」」
厚さだけでこちらの身長を超える、おっきなおっきな唇が目の前に現れたのだった。
人間の顔の中で最も生々しく、人間以外の生物にとって最も死に近い部位かもしれない。
むっちり柔らかそうな上唇と下唇の厚みを足せば、容易に俺の身長を超えてしまう。それはつまり、この唇が開け放たれれば、俺を簡単に口内へ入れてしまえるということ。…1/20の大きさのときは、まだ、「宮下の唇」として認識できていた。それは、宮下の顔全体が一応見えていたから。でも今は。
「「「………」」」
上空2メートルまで近づけられた唇で、もう他の景色は見えていない。宮下の顔全体を見ることもできず、うっすらと笑みを浮かべる唇とその口元しか、俺には観測できない。既に宮下の顔と俺の全身は対等ではなく、さらに細かい宮下の部位と相対するのが精いっぱいだった。
こうなってしまえば、もう、この艶めかしく巨大な唇は、あの宮下の可愛らしい唇として認識することなんてできない。こちらを容易に捕食できる唇のサイズに気を取られ、この状況を俯瞰して見られない。自分が認識できる世界がどんどん狭くなっていき、相対的に周りの世界はどんどん大きくなっていく。
自分だけ、小さい世界に取り残され、置いて行かれる。
「「「ねえ…」」」
むにっ…♡むわっ……♡♡
宮下が言葉を発するだけで、小人の耳が様々な音に犯される。上唇と下唇が離れるにちっ…♡という音。発音の準備のために唾液をまとった舌が蠢く卑猥な音。宮下の声と共に吹き荒れる、無意識な吐息の暴風音。それだけでなく、歯と歯が当たって擦れる恐ろしい音や、口内で唾液の泡が弾ける音、その他無限に唇の中から聞こえてくる生命活動のシンフォニーが、圧倒的な音圧を持って小人に襲い掛かる。
「「「私にちゅーしてみて?」」」
「ひ……あああ………」
後輩から放たれた可愛いはずの台詞は、重厚な命令となってこちらの精神を揺さぶる。この巨人から指示された内容は絶対で、小人に拒否権など存在しない。どんな優しい口調であろうが、それに従う以外の選択肢が存在しない。
後輩の女の子にキスをせがまれる、という状況をもはや理解できないまま、ただただ震えながら命令に従うだけだった。
ふにっ……くにっ……
頭上に掲げられた巨大な上唇の表面に、恐る恐る手を合わせる。信じられない程あったかくて柔らかいそれは、この巨大さにも関わらず簡単に沈み込む。ピンク色の唇の表面からは爽やかでかつ甘い香りが漂ってきて、その濃厚な匂いで頭がくらくらしてしまう。
手を広げたって、唇の幅には敵わない。そんな巨大で危険な口元に手を触れながら、それでもこの女神様はこちらに危害を加えたりはしないという盲目的な従属心を持った俺は、この状況の危険さを顧みずに唇に顔を近づけていく。
「「「んふっ、くすぐったい…」」」
ぶわあっ…♡♡
「ぎゃああっっ!!??」
自分が手を触れていた唇がいきなり激しく動くのだから、悲鳴を上げるのも当然。荒々しい吐息と音圧が全身を蒸し、震わせる。後輩が喋る行為がたまらなく怖い。
「「「手、ちっちゃいね…♡」」」
「「「ほんと可愛い……もう……」」」
唇の表面に這わせた小人の手のわずかな感触を、宮下は感じ取っていた。こちらの行動が巨人に感知されているという事実で鳥肌が立ち、鼓動が早くなる。
「「「…ちょっとだけ、ごめんね…?」」」
「「「………♡」」」
「……え………ま、まって………」
再び閉じられた唇が、少しづつ、こちらに向かって降りてくる。思わず尻もちをついた俺は、頭上に降ってくる超巨大な口元を唖然として見上げる。
「「「………♡」」」
「や……つ、潰れちゃうから……やめてっ……!!」
ゆっくり、ゆっくり近づいてくる唇に完全に腰を抜かし、俺は既に仰向けの体勢で机に転がっていた。
そして、
むにゅうぅぅぅっっ…♡♡♡
「っっ…!!??んぐっ……!!???」
世界が全て、ピンク色に変わった。
「「「……んっ……♡♡」」」
「んーーっ!!!んんーっ!!!」
今までに感じたことのない感触と、圧力。全身がピンク色の唇の天井にくまなく圧し潰され、柔らかくも固い強靭な感触の下にねじ伏せられる。唾液で濡れた唇の表面が顔中をみちっ…♡♡と覆い、目も鼻も口も、後輩の超巨大唇の表面で残酷なまでに塞がれてしまう。一切の空気の出入り口を絶たれた俺は、必死で目の前のぷにぷにリップから逃れようとする。しかし、
むにっ……♡♡ふにぃ……♡♡
いくら強く押しても、女子大学生の健康的な唇はずっしり柔らかく沈み込むだけ。自分の身体を覆ってしまうほど巨大なキスから逃れられるはずもなく、俺は必死に空気を吸おうとして、後輩リップの甘い匂いを存分に肺に取り込ませられる。
「「「………………♪」」」
「んんっっっ………!!!ん………んぐっ………」
酸欠で涙目になりながら、必死で身体をばたつかせる。しかし唇の端から端で全身をがっしり抑え込まれた小人はなすすべなく、両足も上唇と下唇でそれぞれ圧し潰され、少しも動かすことができない。
なんで、こんなことをするのか。いつもの宮下はどこへいったのか。これは実験の一部なのか。
何も、分からない。
ふにっ…むにぃ…♡♡
「ん……ぐ………ご………」
何度も何度も押し返そうとして、その度に巨人のキスが全く動かない絶望に浸る。宮下の唇経由で僅かに酸素を取り込めていることがさらに残酷で、瀕死になりながらも生き殺しの状態で小人をリップで閉じ込める。もう何分経ったかも分からない。一切声もかけられず、何のコンタクトも取れず、表情も見えず、ただ巨大な唇が目の前にそびえ立っているだけ。思考の読めない巨大な物体に支配されているという恐怖が、先の見えない苦しみが、どんどん絶望感を煽っていく。
死にたくない。助けて。誰か…。
「「「…ん、動かなくなっちゃった?」」」
朦朧とする意識が、久しぶりに聞こえた後輩の爆音で醒まされる。気づけば、恐ろしい唇の表面が、少しだけ上空に離れていた。
「「「あ、動いた…」」」
「「「私のキスにも勝てないんだね…弱いなあ…♡♡」」」
上空から浴びせられる罵りが、あの宮下のものとは到底思えなかった。あの礼儀正しかった宮下が、いつも敬語で接してきた宮下が、今、こちらの尊厳を踏みにじるような台詞を吐いている。
宮下に対する信頼が、崩れ落ちていく。
「「「そうだ、一応これも試しておかないとね」」」
なにやら宮下が言い、唇が離れていくも、完全に酸欠になっていた俺は仰向けのまま必死で呼吸をするのに精いっぱいだった。何か大きなものに裏切られた絶望感のまま、涙目のまま、自分が生きていることを何とか確認する。
そんな惨めな小人の上から、追撃のようにおぞましい音が響き渡る。
ぐちゃっ…♡♡にちゃっ…♡♡ぐちゅっ……♡♡
「いやっ………!!!」
いつもまにか再び近づいていた唇が、ぐにゃり、ぐにゃりと大きく動き、その中にいる何かを残酷に咀嚼している。一つ前の大きさだった時に聞いた同様の音とは、あまりにも音圧が違いすぎる。口内で噛み砕かれ、唾液でぐちゃぐちゃに染み込まされ、巨大で妖艶な舌の表面にへばりついた、何かの食べ物たち。その全ての音がおぞましい立体音響で響き渡り、唇の前の小人をこれでもかと威嚇する。
先輩の前で食べ物をこれ見よがしに咀嚼するという、女子大学生としてはあまりにも品のない行為。しかしこの体格差ではそれすらも通り越し、あまりに暴力的で威圧的な行為へと変貌していた。
そして、
「「「んえぇぇーー…♡♡」」」
べちょっ!!ぐちゃぐちゃっっ!!
衝撃的な光景だった。だらしなく開かれた唇の中から、恐らくパンだった何かの流形物が机の上に大量に落とされていく。その量は、1/20の大きさだったときに見たものとはあまりに違いすぎる。今落とされたパンの残骸は、その質量だけでこちらの身体を超えてしまっているのだ。
それは、俺もこのパンと同じようになってしまうことを連想させる。
「「「んんっ……♡」」」
大量の咀嚼物を机に吐き出した唇が、それでも可愛らしく唾液の糸を切る。あたりにはあまりにも濃すぎる唾液の匂いが立ち込めて、少し空気を吸うだけで肺の奥までずっしりと宮下のよだれの匂いで満たされる。まるで宮下の口内に直接入れられたかのような匂いと湿度。…この咀嚼物が、もし宮下のきまぐれで、こちらに向かって直接吐き出されていたら。そんな恐ろしい想像まで掻き立てられる。
次にこの女神様に言われることは、当然決まっていた。
「「「食べなさい♡」」」
その命令を言われた瞬間、俺はビクッと全身を震わせて反応してから、操り人形のように、大量の咀嚼物に向かっていく。むせかえる唾液の匂いで咳き込み、屈辱で涙を流し、それでも宮下の命令を拒否する恐ろしさで心から恐怖していたから。頭上でこちらを見張っている唇が、命令を拒否した愚かな小人に向かって再び降ろされたが最後、俺は本当に後輩の巨大なキスで窒息死させられるかもしれない。あの絶望的な苦痛が再び襲ってくることに比べたら、目の前のぐちゃぐちゃな咀嚼物を食べることの方が、何倍もマシに思えた。
「「「うわ、すご……本当に食べてる……」」」
後輩の成分が詰まりに詰まったパンの残骸を、あまりの匂いと味に何度もえづきながら食べていく。急かされてもいないのに、食べるのが遅かったらまたキスされるのではないかと恐怖し、どろどろのパンをすくいあげては口に入れていく。
人間様の食べ残しに群がる、1.7cmの小さな生き物。
宮下から見て、それは虫以外の何物でもない。
「「「これも追加ね……んぅー…♡」」」
頭上ですぼめられた巨大な唇から、透明で粘度の高い唾液が流れ落ちていることに、全く気付かなかった。
でろぉぉー……♡♡
「んぐっ!!!ごぼぉぉっ!??!??」
何十リットルにも及ぶ唾液を頭上から浴びた俺は、巨大な唾液の水滴の中に一瞬にして捕らわれる。異常に生暖かい液体が全身に絡みつき、思わず大量のよだれを吸い込んでしまう。後輩女神のどろどろの唾液は気管と食道の中でとろーっ…♡と詰まり、それを拒否する身体の反応で激しくむせてしまう。
数秒後によだれの海から脱出した俺は、体内に入った大量のよだれを何度も吐いた。
「「「うえ、辛そう……ごめんね?♡♡」」」
先輩の身体を自分のよだれまみれにした後輩は、あまりに軽々しい態度で、楽しそうに謝るのだった。
こんなにも苦しいのに。目の前で吐かされているのに。その姿を見ているはずなのに。どれだけ辛くても、苦しくても、怖くても、もう宮下は助けてくれない。
宮下の中で、自分の人権が完全に失われてしまっているという事実が、あまりに、あまりに絶望を感じさせた。
「「「…もう一つ、試したかった実験やっちゃおうかな」」」
ドンッ!!!ドンッ!!!
グラグラッ…!!
いくら小人が絶望に浸ろうが、巨人の世界はなにも変わらない。さらなる検証をすべく動き出した100倍巨人が、おそろしい足音と振動を机の上まで響かせながら、なにやら準備を始め出す。
よだれまみれの小人など、当然そのままだった。
100倍になった後輩の一挙手一投足は、もはやこの世界の現象というべきスケール感と迫力。俺から見てどれだけ離れていようと、その巨体が踏み鳴らす振動は恐ろしいほどに机の上まで伝わってくる。常に宮下のテリトリーの中にあるという、胃がずっしり重くなるような緊張感が常にのしかかっていた。
そんな緊張感に油汗をかいている俺は、近づいてくる巨大な影にも気づかない。
ぎゅむっ……
「ぎゃああっっ!!???」
突然、極太な2本の指に挟み込まれた俺は、パニック状態で頭がおかしくなる。状況を理解する前に身体は空中へ浮かび上がっていて、現実感すらないレベルの高度まで連れていかれていることだけは理解できた。指の壁から伝わってくる熱は本物で、自分が人の指だけで支えられている恐ろしさを認識せざるを得ない。
「降ろしてっ!!降ろしてっ!!」
子どものように泣き叫ぶ俺の声など、届いていないのか。無情にも巨人の足音はドンッ!!ドンッ!!と進み、
ぐぐぐっっ……!!!
「うぐっ………!!!」
強烈な勢いで指ごと降下させられ、重力変化の激しさで吐きそうになる。
気持ち悪さにやがて慣れたときには、
「「「………♪」」」
自分が、一辺4メートルくらいの四角形の黒い足場に乗せられていることを理解した。そして、その足場の高さが巨人の腰当たりの高さであることも。
「「「カメラの三脚があってちょうどよかったー」」」
これまで目の当たりにしていた巨人の迫力とは、何倍も違っていた。
三脚の前で仁王立ちする宮下。こちらからは宮下の股間部から上半身、顔までが見えていて。目の前には、ぱつぱつっ…♡と張り出した、デニム生地のショートパンツ。健康的でふくよかなお尻が生地を膨らませ、ぶっとくて魅惑的な生美脚がそこから惜しげもなく披露されている。その生足の太さなど、ビルの直径くらいあるのではないかと思えるほど途方もない。そり立つ太ももの肌はもはや壁としか認識できないレベルで、それなのに巨人が身じろぎする度にぷるんっ…♡と柔らかく跳ねてこちらの視界を惑わすのだ。
その上には白いロングTシャツ。Tシャツの胸のあたりは信じられないほど張り出していて、その中にある胸の大きさがこれ見よがしに強調されていた。宮下は、そこまで大きい印象は無かったはずなのに。この体格差で見上げる胸の大きさは異常で、まるでドームのような膨らみが自分の身体より遥かに大きいという事実が頭から離れない。
女性の身体つきをみっちりと主張するその服装で、三脚の上に取り残された小人の前に恥ずかしげもなく立たれてしまえば。その暴力的な魅力に、普通なら胸をドキドキさせてしまうはずだ。
しかし。
「「「ん、腕時計の生体センサーによると…やっぱり、恐怖が100%になってるね」」」
怖くて仕方がないのだ。いくら巨大な太ももに目を奪われても、巨人の顔が塞がれるレベルのはりだしたおっぱいの形を見せつけられても、その大きさが自分への危険、恐怖に直結することを理解してしまっている。あの巨大な部位が自分に押し付けられたら、潰されたら、そんな想像ばかりが頭を支配し、目の前の巨人を一人の女子大生である宮下であると、理解できないのだ。
「「「じゃあこの体格差で、恐怖よりも性欲が勝つ条件を探そっか?」」」
そんな言葉が降ってきたと思えば。目の前の巨人は、デニムのショートパンツのベルトに手をかけ、
カチャッ…カチャッ……!!
耳が痛くなるような激しい金属音を響かせながら、ベルトを抜き取ってしまう。何をしているのか、それを理解する前に、巨人はショートパンツに指をかけていた。
そして、
するするするっっ……!!!
パサッ……!!
「な………あ…………」
衝撃的な光景だった。一気に足元までショートパンツが下ろされ、目の前に現れたのは、白色の超巨大な下着。いつも話していた宮下の下着が、あの可愛い宮下の下着が、大パノラマで眼前に広がっている。
白いショーツは宮下の足のみじろぎに合わせてシワを作ったり伸ばされたり、その動き一つ一つが全て見える。ショーツから生えたおっきなおっきな太ももは、そのきわどい付け根まで大胆に披露され、女性の股間部のすれすれのところまで見えてしまっていた。宮下を知っている男子のほとんどが見たいであろう魅惑的な姿を、こんなにも圧倒的に見せつけられる。
「「「よっと……」」」
ぷるんっ…!!♡♡
足から抜き取ったショートパンツを床に置こうと、宮下が後ろを振り返る。その途端、ショーツに包まれたぷにぷにの巨大なお尻がこちらを向くのだ。
「やば…い……」
完全に、見てはいけないものを見せつけられている。マシュマロのようなお尻の一部がショーツから顔を出し、宮下が床を踏みしめるたびにぷるんっ、ぷるんっ♡と煽情的に揺れ動く。しかしその可愛らしい動きも、もしお尻がこちらに投げ出されたら、小人を敷き潰す凶器と化すだろう。絶望的な質量を持ったお尻や太ももは、その生の姿が曝け出されるほど、暴力的な様相を呈していた。
「「「はい、見てね♡」」」
ドンッ!!ドンッ!!!
再びこちらに向き直り、Tシャツとショーツだけの姿で仁王立ちする宮下。その姿に絶句してしまう。初めてはっきりと見せつけられた女性の下着、生脚や生尻の巨大さと恐ろしい張り。なにより、こんな姿を宮下が躊躇なく見せつけているという事実が、嬉しさよりも、自分の存在を完全に否定されている気持ちを倍増させていく。
下着を見られたって、取るに足らない存在。
仁王立ちしてこちらを見下ろす宮下の目が、そう言っているように思えた。
「「「ん……まだ恐怖9割、興奮1割ってところかな」」」
下着を三脚の上の小人に最接近させながら、平然とスマホを見て呟く宮下。
「「「じゃあこっちも脱ぐね?」」」
ドンッ!!ドンッ!!
「ひぃっ!!???」
突然巨人は膝立ちになり、俺の目の前には宮下のTシャツのちょうど胸の部分、大きく張り出したおっぱいの形が視界を占領した。
ワンルームくらいの部屋の空間に押し込んでも入らなさそうな豊満な胸に睨まれ、声も出なくなってしまう。
「「「んしょ……」」」
ごそごそっ……
そしてこちらが胸の巨大さに慣れる間もなく。
Tシャツの裾を両手でつかんだ宮下は、そのまま躊躇なく上にめくっていく。
するするするっ……
簡単に披露される、広くすべすべなお腹。おへそが曝け出され、さらにその上の肌も次々に見えていく。
そして、ちょうど胸の膨らみの下までTシャツをめくり上げた所で一瞬止まり。
「「「んっ……♡♡」」」
だぷんっ…!!♡♡
「あ……ああ…………」
めくり上げられたTシャツの中から、衝撃的に巨大なぷにぷにおっぱいが、だぷっ…♡♡!!と音を立てて解放されたのだった。
「「「よいしょっ…」」」
ふぁさっ……ぱさっ……
そのまま、やはり平然とTシャツを頭から抜き取った宮下は、Tシャツを軽く畳み始める。その最中、俺は目の前に投げ出された、ピンク色のブラジャーに包まれた巨大なおっぱいに目を取られ、息を呑み、心臓をバクバク鳴らして過呼吸になりかけていた。
(み、宮下の……胸………)
なんて張りと大きさなのだろうか。ブラジャーからはみ出た胸の谷間はふくよかに盛り上がっていて、その柔らかそうな肉の質量だけでも一軒家くらいの体積とボリューム感を主張している。可愛らしい模様のブラジャーの隙間から、おっぱいの下乳や横乳がさりげなくはみ出て、しかしその肉だけでも俺の身体を簡単に潰せてしまえそうだった。
あまりにも柔らかそうなおっぱいの表面は、宮下がTシャツを畳む度にぷるんっ、ぷるんっ♡♡と無意識に揺れる。あの巨大で豊満な谷間に迷い込んでしまったら、俺は宮下が何をせずとも、無意識に揺れるおっぱいの肉で引き潰されてしまうのではないか。そんな想像をしてしまう。
「「「あははっ♪…すっごく見てるね♡」」」
ずいっ……!!
むわあっっ…♡♡
「はあっ…はあっ…!!」
わざと至近距離まで近づけられたおっぱいで視界が占められ、エアコンの聞いた室内で蒸され続けた谷間の熱気が、むわあっ…♡♡とこちらに流れ込んでくる。その匂いは、今まで嗅いだ宮下の匂いとはあまりに淫度が違っていて。おっぱいの中で熟成された宮下の汗はフェロモンたっぷりで、女性らしさを主張する色濃い香りが、矮小な小人男子を誘惑するでもなく、無意識な放出だけで骨抜きにさせる。刺激の強すぎる香りを存分に嗅がされ、視界はエロティックな巨大おっぱいとブラジャーで犯され、上空から呟かれる声が、この全てがあの宮下が作り出した現実であると頭に認識させる。
頭がふらふらして、鼓動が早すぎて、自分がこの状況に恐怖しているのか、興奮しているのか、何も分からなくなっていく。
「「「お、恐怖と興奮がちょうど半分になってる…」」」
頭上から降り注ぐ声が、俺の恥ずかしい心情を遠慮なく丸裸にしていく。こちらの感情など宮下にとっては実験対象の内で、自分の下着姿を見られようが、蒸れた匂いを嗅がれようが、興奮されようが、明らかに何も感じていない。
俺が、宮下に影響を与えられるものなど、何一つない。
「「「じゃあ……」」」
むにぃ…♡
巨人の手が、爆乳の下乳に這わせられ、そのまま持ち上げられる。おっぱいが形を変える様子はあまりに性的で、手のひらが沈み込む柔らかさや、今にも零れ落ちそうな胸のたわみが強調される。
そして、
「「「ほーらっ♡」」」
だぷんっ!!♡♡どぷんっ!!♡♡
「あああああああっっっ!!!???」
本気で潰されると思った。持ち上げられたおっぱいが支えを失って落下し、だぷんっ!!♡♡と生々しい淫靡な音を立てながらバウンドする。こちらからすれば、おっぱい全体が三脚の上にのし掛かってくるような恐ろしい光景。頭を抱え、絶叫し、先ほどまでの興奮は一瞬にしてかき消える。ただ、このおっぱいが自分の命を奪ってしまえるほど絶望的な質量を持っているという事実を、味わわされてしまう。
「「「ありゃ、恐怖だけになっちゃった…」」」
「「「おっぱいだよー?嬉しくないのー?」」」
だぷんっ!!♡♡どぷんっ!!♡♡
「やっ、やっ、やめっ…!!!」
やはり子どもをあやすような猫撫で声で、自分のおっぱいをむにぃ…♡と持ち上げてはだぷんっ!!♡♡と突き落とす。俺からすれば、下乳という天井が毎秒持ち上げられ、自分の身体めがけてものすごい勢いで降ってくるのだ。そして再下点まで落下すれば、胸がたわんで汗と擦れる爆音が耳を圧倒的に犯す。弾かれた胸の汗が三脚の周りにぶわあっ…♡♡と散乱し、後輩巨人のフェロモンの雨を降らせる。いくら寸止めでおっぱいが止まろうとも、その距離は俺の頭上わずか2メートルほど。少しでも宮下が上半身を前傾させれば、強靭な生地のピンク色ブラジャーに包まれた爆乳おっぱいは、小人の頭を粉砕して三脚にどぷんっ!!!♡♡と着地するだろう。
女性の象徴で蹂躙され、興奮もできずに恐怖させられる。
自分の存在は、もはや矮小どころではなくなり、この世界から消えてしまいそうな無力感と絶望感を覚えていた。
「「「えへへっ♡…やっぱり、この体格差だと興奮できないんだね。可哀そー♡」」」
可憐な外見の後輩が、全身下着姿になっているというのに。その身体が、恥ずかしげもなく披露されているというのに。
興奮する余裕も無く、ただ頭を抱えて命乞いをするだけの自分。
宮下に男扱い、人間扱いされないのは、当然のように思えた。
「「「1/100の大きさでは、恐怖を性欲が上回ることはできない可能性が高い…と」」」
矮小な俺の惨めな心情は、宮下の実験の一つの糧となって吸収される。
「「「これから10日間は、どこまでやれば恐怖を興奮が上回れるのか、試していくからねー…♡」」」
そして、囁くような宣告を、100倍女神が言い放ったとき。
研究室のテレビでつけっぱなしになっていたニュースの音が、耳に入ってきた。
『速報です。身体を縮小された人間に対する人権についての法が、国会で可決されました。この法案は、縮小状態の人間の保護コストを削減するもので、具体的には…』
「「「ん、また小人関連の法案が決まったんだ…」」」
テレビを見ながら呟く宮下。
『通常の1/1000のサイズ以下まで縮小した人間に対して、国は人権を認めない方針を掲げました』
『そのサイズまで縮小した人間の戸籍は消え、国の管理下から外れます……』
---続く---