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「あ、立川君おはよー」
「お、おはようございます」
「…今日も来るんだよね?マッサージ好きだね~♪」
「っ……あ、あははっ……」
サークルの練習の日、体育館で耳元から話しかけられ、僕は心臓がはち切れそうになった。
「お金は大丈夫なの?」
「バイト、結構やってるんで…」
バドミントンのマイラケットを軽く素振りしながら聞いてくる夏川先輩に、僕は歯切れ悪く受け答えする。
僕の金銭状況は、大丈夫なわけが無かった。なにせ、1か月前に先輩から縮小プランのマッサージを受けてから、週2のペースで店に通っているのだから。コースはいつも縮小プランの1/5。あのでっかくてえっちな手のひらに覆われた体験が忘れられなくて、なけなしの貯金をつぎ込んで、何とか10回通おうとしているのだ。
『1/10以上の縮小率(1/50, 1/100)は、本メニューを10回受けていただいて慣れたお客様限定です』
マッサージ店のメニューには、そう書いてあった。僕はさらなる縮小率のマッサージに思いを馳せ、大事な奨学金にすら手を付けていた。
そんな生活を送るようになってから。体育館で普通サイズ同士で先輩と会うと、もう動悸が止まらなかった。今や、一日中先輩の手のひらの感触が脳から離れなくなっているのだ。あの匂い、柔らかさ、あったかさ、指紋が擦れる気持ち良さ。一人で家にいると絶対に先輩の手を思い出してしまい、必ず自慰行為を行ってしまう。…そしてサークルで会う時でも、もう先輩の手にばかり目が行ってしまい。
「じゃあ、私あっちのコート行ってくるねー」
「はいっ……」
ふわりと髪をなびかせて、健康的な身体を弾ませつつ向こうの方へ行ってしまう先輩。その背を目で追いかけながら、今日もまた先輩ににぎにぎしてもらえるのだと、期待が止まらなかった。
…正直、先輩がシフトに入っていないときは、別の女性店員を指名することもあった。知らない女の人の巨大な手のひらに包まれて、知らない匂いを嗅がされながら、ぶっとい指で一方的に撫で上げられるのだ。…しかし、先輩のマッサージに比べると、かなり力は弱めだった。
先輩のマッサージは容赦なく激しくて、苦しくて、でも気持ち良くて。あれぐらい激しくやった方が効果があるから、先輩はそうしているのだろう。むしろ僕のことを一番気遣ってくれているのだ。…なにより、憧れの先輩に握られるのと、知らない女の人に握られるのでは、胸の高鳴りがあまりに違いすぎる。
僕にとって、夏川先輩のお手てに包まれることは、なにより幸福感を高めてくれる体験だった。
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ぐにぃっ…にぎぃっ……
「あああぐぐあっっ!!??あああっ…!!!」
「「もうちょっとで終わるからねー」」
今日も僕は、でっかい女神様に身体ごと握られて絶叫していた。
ぐにっ、ぐにぐにっ……
「ひぎっ…んぐっ……んんんーっ…!!」
顔を指の腹で押さえつけられながら、圧倒的な力で空中で握られ、捻じ伏せられる。
そんな異常な、非日常的な体験が、今の僕には幸せで。
「「………」」
「はあっ、はあっ、…げほっ……!!」
マッサージの前半が終わった所で、僕は夏川先輩の手のひらのベッドでへとへとになって横たわっていた。
「「………」」
さわっ……♡
「っっ……」
そんな僕の醜態を、慈愛に満ちた表情で見つめながら、先輩が指でなでなでしてくれる。業務中のしぐさとは言え、その行為は僕の心を鷲づかみにするのに十分だった。
「…あの、今日、1/10の縮小率コースを選んだんですけど…」
僕はそう切り出した。本当はそのコースで予約していたのだが、今日も変わりなく1/5のサイズでマッサージが始まったので、何となく今に至るまで言い出せなかった。
「「ああ、」」
先輩は思い出したように言うと、
「「ごめんね、私…実は1/10以上の縮小マッサージの免許、持ってないんだ」」
そう苦笑いする。
「え…そ、そうなんですか?」
「「あはは、できる顔しちゃってたけどね~…。店の中で仕事としては、できないかな」」
そのまま柔らかい笑みを浮かべながら。先輩は、どこか含みを持たせた言い方をするのだった。
「店の中、では…」
「「うん」」
さわっ…と再び、先輩の指が僕の頭を撫でる。
「「プライベートなら、問題ないけどね」」
「っ……!!」
一気に自分の心拍数が上がるのを感じた。
「そ、それって……どういう……」
「「んふっ…」」
ずいっ、と先輩のおっきな顔が、近づけられる。手を伸ばせばその肌に触れてしまえるほどに。
「「………」」
はあっ……♡
意図的に吐かれた生暖かい吐息が僕の全身を舐め回し、その精神まで捉えてしまう。僕の頭は一瞬真っ白になり、先輩の言葉の意味を理解しようとする。
「しゅ、縮小薬って…こういう店の外で使ったらダメなんじゃ…」
縮小薬は、私的利用が法律で禁じられている。危険が伴うため、個人が持つことすら禁止されているのだ。
「「私の家にはあるよ?…こっそり店から持ち帰ってるから♡」」
「………」
ドクッ、ドクッ、ドクッ……
心臓の音が、あまりにうるさい。
ズンッ…ズンッ……
先輩が、部屋の壁際の棚に乗せられていた、自分のバッグを手に持つ。そしてそれを、
ズンッ……!!
僕の目の前に、横倒しにして置いた。
バッグの口が、こちらに向けて開け放たれている。
「「今日のマッサージはこれで終わりね。私は向こうに行って着替えてこようかな~」」
どこかわざとらしいひとり言を、僕にもはっきり聞こえる声で言う先輩。
「「…もしカバンの中に何か紛れ込んでても、気づかずに持ち帰っちゃうかもな~」」
ドクッ、ドクッ、ドクッ……!!
先輩の言葉の意味を理解した僕の心臓は、もうはち切れそうだった。
あくまで、事故なのだ。仮に、僕が先輩のカバンに入ってしまい、先輩がそのまま、縮小した僕を自宅に持ち帰っても。
「っっ………」
ズンッ…ズンッ……!!
ガチャンッ……
僕に視線をやらないまま、先輩が部屋を出ていく。
選択を迫られていた。もし、もっと縮小してマッサージを受けたいなら、自分から来い、と。
憧れの先輩からの誘いはとてつもなく生々しく、濃厚で、えっちで、危険な香りがした。
断る理由なんか、あるわけがない。ずっと憧れていた、ずっと目で追っていたあの先輩の家に、招かれているのだから。
「………」
こちらに向かって大きく口を開けている、ベージュのカバンを見つめながら考える。
体を縮小させたまま店の外に出るというのは、もの凄く危険なことだ。元の身体に自力で戻る手段を、基本的に縮んだ人間は持たない。必ず普通サイズの人間に薬を与えてもらわないと、自力では戻れない。…故に、縮小薬を安心して飲めるのはこういう店の中だけだし、それ以外での利用は固く法で禁じられている。
先輩のことは人間として100%信用している。いつも優しくて、他人想いで、どこか純粋な所があって。…先輩の顔を思い浮かべるだけで、温かな気持ちになって、心の中に浮かんでいたほんの僅かな不安が、掻き消えていくのを感じた。
「っ………」
僕は歩き出していた。1/5の大きさで、先輩のカバンの口に向かって。
洞窟のような空間に足を踏み入れて。自分の胴周りくらいあるような日焼け止めや、財布に、ぎゅうぎゅうに囲まれる。
そのまま、5分ほど経ったとき。
ガチャッ…!!ズンッ、ズンッ…!!
「「…………」」
部屋に入ってきた先輩は、ベッドから姿を消している僕の行方に気づいているはずだった。
しかし、
ぐらっ……!!
「ひあっ……!!??」
先輩は無言でカバンを拾い上げ。その中にいる僕は、90度空間が変わったことにより横倒しになってしまう。
ああ、僕は、今から、先輩にお持ち帰りされるのだ。
ズンッ…!!ズンッ…!!
ぐらっ、ぐらあぁっ…!!
先輩の歩行に合わせて激しく揺れるカバンの空間で、僕は高鳴り続ける胸の音に苦しくなり、これから待ち受ける甘美な未来に生唾を飲んだ。
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ガチャッ…!!
「「…………」」
ドサッ……
「がふぅっ…!??」
玄関のドアが開く大きな音の直後、僕が入っていたカバンは強い衝撃と共に横倒しになった。その乱雑な衝撃で、僕は先輩の持ち物と共にカバンの中をもみくちゃにされる。小さな財布にのしかかられ、僕は何とかそれを持ち上げてどかしつつ、カバンの入り口へと這っていった。
ドンッ…!!ドンッ…!!
「っっ…」ビクッ…!!
カバンの中に響いてくる歩行音と衝撃は、マッサージ店で聞いていた、感じていたものとはまるでレベルが違っていた。全身、内臓の奥まで重く響いてくる先輩の巨大な足の着地。その振動はもはや痛みとなって僕を襲っており、その痛みから逃れるために必死でカバンの外へと這いだしていった。
そして、まばゆい光で包まれた世界へたどり着くと。
「…………でっか……」
そこは、まるで神殿や教会のような巨大な建物。とてつもなく天井が高い、異質な空間。およそ日常生活では感じることのない空間の果てしない広さが、そこには広がっていた。…しかし強い違和感を覚えるのは、その景色が普通の賃貸マンションの部屋であるということだった。僕は広い広いフローリングの廊下の上に立っていて、その向こうにはマンションのような高さの、薄茶色のドアがそびえ立っている。ドアの中央部は磨りガラス状になっていて、その向こうにもっと広い空間があるのがぼやけて見えている。明らかにそこは、この家のリビングに相当する空間と思われた。
一瞬、先輩がどこに行ったのかという点に思考が追い付いたとき、
ドンッ…!!ドンッ…!!
「「…ふー……」」
(う……わ………)
大聖堂の廊下の脇から、恐らく洗面台の部屋から出てきた5倍巨人の巨体が、激しい地響きを立てて姿を現したのだった。
既に着替え終わっているその姿に、完全に目を奪われてしまう。
胸のあたりに小さくロゴが入った、シンプルな白いTシャツ。そして、やや裾が短めの、水色のスポーティなハーフパンツ。Tシャツの袖からは白くてむにむにの二の腕が曝け出されており、ハーフパンツからは絹のようなきめ細かい肌の太ももが、これまた遠慮なく披露されている。サークルの練習着ではこんなに短いハーフパンツを履いているのを見たことが無い。初めて見る先輩の太ももの全貌が上空で曝け出され、歩行に合わせてぷるんっ…♡とたぷたぷの肉を震わせる。1メートルを超える素足もまた、今まで見たことが無くて。形が良くて綺麗な先輩の素足は、細くてスラっとしているのに柔らかな丸みを帯びており、美しい足指がピンク色の爪を纏って重く鎮座している。
何も纏わない、5倍美脚が圧倒的に目の前に存在している。先輩の家の中という完全プライベートな空間の中で、思い切りラフな部屋着に着替えた先輩の姿を見せつけられては、僕の気持ちは異常な昂ぶりを見せずにはいられなかった。
ずいっ…!!
むちむちっ……♡♡
「ひゃあっっ…!!??」
その巨体が、僕の方に向かってしゃがみ込む。遥か高みにあった先輩の上半身のTシャツが一気に近づいてきて、僕は先輩がしゃがんで作り出した空間の中にすっぽりハマってしまう。…女の子の濃厚な匂いに包まれて、気が気ではなかった。目の前でだらんと垂れる、Tシャツの首元の襟。飾り気のない部屋着は、その奥にある豊満な巨体の存在感をこれでもかというほど強調していた。
ガサッ……
「っっ………?」
そのまま先輩が手を伸ばした先は、僕の後ろにあるカバンだった。
「「………」」
ドンッ…!!ドンッ…!!
ガチャッ……
大きなカバンを悠々と持ち上げた先輩が、そのまま廊下の向こうのリビングに消えていく後ろ姿を、僕はただ眺めるしかなかった。
「………え」
廊下に取り残される。…先輩は、僕の方に視線もやらず、ただ自分のカバンを持ち上げてリビングの方に持って行ってしまった。そんな先輩の様子に、強烈な違和感を覚える。僕に当然気づいていたはずだけど、何も話しかけてくれなくて。…何か怒らせてしまったのだろうか。いや、怒っている様子にも見えなかった。淡々と、日常生活を送っている様子にしか見えなかった。それが、違和感だった。だって、他人を気遣ったり優しく話しかけたりする先輩の姿しか見たことが無かったから。
(…リビングの方に、行っていいのかな)
先輩から、何か試されているような気がした。…もしくは、先輩なりの、プレイが、始めっているのかもしれないと、希望的観測を立てた。リビングの方に来いということだと、自分なりに理解した。よく見れば、巨大なドアが締め切られておらず、隙間が開いていた。
ゴクリ。唾を飲み込みつつ、大聖堂の廊下を歩いていく。そして、先輩のプライベート空間が広がっているであろう、ドアの隙間の先の光へ向かって、僕は1/5の小さな身体をねじ込ませて入り込んだのだった。
「「………~~♪」」
その空間は。シックなデザインのソファやテーブル、本棚などが立ち並ぶ、女子大生のおしゃれな一人暮らし空間。全ての大きさが5倍に膨れ上がっていて、僕の身体ではまともに使えそうになかった。その中で、ソファに腰かけて脚を組み、鼻歌を歌いながらスマホを弄っている先輩の姿があった。
大好きな先輩の一人暮らしの部屋に入り込み、心拍数が上がり続ける。ここで先輩は生活しているのだ。甘い香りが染み込んだ部屋の中で、僕は一瞬立ち止まって景色を眺めてしまった。
「…えっと」
とりあえず、先輩に話しかけないと。でも…
「「……~~♪」」
僕の存在に気づいているはずなのに、話しかけてこない、どころか存在を認識すらしようとしない先輩の態度が、どこか怖くて。怒っているようではないのが、余計に不可解で、話しかけづらかった。
でも、話しかけないと何も始まらない。僕は先輩の方へ、大きなソファの方へ歩いていこうとした。しかしその時、ソファとは逆の方の壁に沿って置かれた棚のあたりで、何か気配があるのを感じた。
「………?」
ペットでも飼っているのかと思い、反射的にそちらの棚に目をやる。…棚には色々な本や雑貨が可愛く並べられていたが、その一番下の段に、大きめのクリアケースが収納されているのが見えた。
その中で、何かの動物が動いている。
(…ハムスター…?)
思わず、そちらの方へ向かってしまう。クリアケースは僕の身長よりも少し高いくらいで、結構大きめだと思われた。その中で、クリアケースの高さの1/3ほどの大きさの生き物が、数多く蠢いているように見えて。何のペットなのかという好奇心で、ケースの傍まで近づいた。
そして、
血の気が引いた。
「」
人だった。自分よりも縮小された、人間。
衣服のない、1/10サイズくらいの人間が、ケースの中に入っている。
その数、ゆうに20人を超えるだろうか。
「な………え………?」
一緒に住んでいる、ような扱いには見えなかった。クリアケースというぞんざいな空間の中に、同じ人間が入っているという異常な景色。衣服も無く、裸の状態で、無機質なプラスチックの床の上で座っていたり、立っていたり。
どの人間も、顔は虚ろで、感情があるように見えない。
そんな異様な光景に言葉を失っていた僕は、
自分の周囲が、巨大な影にすっぽりと包まれていることに、気づかなかった。
「「………」」
「っっっ……!??あああっっっ……!!?」
いつの間にか、僕の真後ろで先輩がしゃがみ込み、頬杖をついて僕を見下ろしていた。むちむちの巨体空間に包囲された僕は、一層血の気が引いたまま、思わずリビングの床に腰を抜かして倒れ込んでしまった。
「「どーしたの?」」
いつも通りの表情で、いつも通りの声色で、何気なく僕に話しかける先輩。いつも通りの柔らかな笑みが、恐怖を倍増させる。
「ひっ……え……い、いや………」
上手く言葉が出てこない。喉が貼りついてしまったようだ。…このクリアケースの中身について言及してしまったら、どうなってしまうのか。末恐ろしくて、言葉にすることができない。
でも、見て見ぬふりが出来る状況ではなかった。僕がクリアケースの中身を見たことを、明らかに先輩は気づいている。
「「これ、飲んでもらえる?立川君が飲みたがってた、縮小薬だよ」」
先輩は、クリアケースについては言及しなかった。代わりに小さな紙コップが、僕の前の床に、コト、と置かれる。
「「とりあえず、これで1/10サイズになろっか」」
マッサージ店での表情と同じ、柔らかな優しい笑顔。その顔は、1/10になった僕を、おっきな手のひらで包み込んで圧倒的にマッサージしてくれるであろうと、想起させるものだった。
そんな甘美な想像は、別の恐ろしい想像によってかき消される。
「…………」ドクッ、ドクッ、ドクッ……
僕は本能的に、この場から逃げることを考えていた。廊下へ続くドアの隙間は、まだ開いている。廊下の方へ逃げられたとして、その先は。玄関のドアの取っ手には届くだろうか。さっき一瞬見た記憶だと、結構低い位置に取っ手があったような。そこに飛びついて体重で取っ手を降ろせば、外に出られるかも。外に出たら、大声で人を呼べば。
もの凄い頭の回転と共に、一つの結論にたどり着く。
この薬を飲んで1/10の大きさになったら、もう先輩の家から自力で出られない。
「っっ……!!」
「「……あ」」
気づけば走り出していた。しゃがみ込んだ夏川先輩の巨体の横を、転びそうになりながらもんどりうって走る。そのまま廊下側に続くドアの、わずかに開いた隙間に向かって、わき目もふらず走っていき。
バンッ…!!
「あ……ひ……」
目の前で、そのドアが大きな音を立てて、ぴたりと閉じられた。
「「どうしたの?気持ちいいマッサージしてあげるよ?」」
再び落とされる大きな影。震えながら振り向けば、8メートル級の巨体が、美しい生脚をさらけ出しながら、圧倒的にそびえ立っており。ドアノブを軽々と握り、ドアを強靭な力で閉められていた。
「せ、せんぱ…い……僕、もう用事あって……あ……」
どれだけ意識しても、声の震えを抑えることなどできなかった。僕が恐怖していることを悟られるほど、先輩は僕を逃がさないようにするはずなのに。心の底から震える身体を、あまりにも抑制できない。
「「まあまあ、疲れてるでしょ?ちょっとくらい休んでいきなよ」」
めちゃくちゃな光景だった。はるか頭上で、あまりにもいつも通りの優しい笑顔を落とす先輩。その表情だけ切り取れば、なにも怖がる必要なんてない。人のことを思いやる、僕が良く知っている夏川先輩の姿。…でも、この状況は。自分と同じように小さくされた人間が保管されたクリアケース、逃げようとした僕を強制的にリビングに閉じ込めた今の行為。
どうしても夏川先輩と重ならない、状況証拠の数々。
ズッ……
「やめ……せんぱい……」
上空2メートルの高さに、僕の上半身と同じくらいの大きさの素足が掲げられても、ほんの少しだけ、先輩を信じようとする気持ちが残っていた。
その気持ちごと、
むぎゅうっ……♡
「がふっ…!??」
5倍おみ足ににじり潰される。
「「ほら、飲ませてあげるよ」」
僕の膝からへそあたりまでを右の素足でぐにぃっ…♡と固定したまま、先輩が薬の入ったコップをこちらに傾け始めた。
ちょろちょろっ……
「がっ……ごぼごぼぉっ…!??がぼっ…!??」
細い滝のように、液状の縮小薬が僕の顔面に向かって垂らされる。僕にとっては大量の液体が顔中をくまなく覆い尽くし、空気を取り入れることが出来なくなった僕は、薬の洪水で溺れそうになる。そのまま必死で息を吸おうとして、しこたま薬を飲まされてしまう。
生暖かい素足の裏は、のたれうつ僕の身体をがっちりと踏みにじって離してくれなかった。好きな人の巨大な足に踏まれ、頭の中がぐちゃぐちゃになって。
「「すぐ小さくなるからねー」」
可愛らしくにやにや笑いながらこちらを見下ろす先輩の表情を見ながら、
僕の意識は遠のいていく。
……
…………
「…………う」
自分が目覚めたことが、自分ですぐに理解できた。自分の身に何が起こったかも、理解していた。目を瞑った状態から、開けるのが怖かった。
「「もう起きてるでしょ?立ち上がらないと踏んじゃうよー」」
全てを見透かしたような先輩の声が、ものすごく遠くから、しかし先程よりも大音量で響いてくるように感じる。その台詞は真っ向からの脅迫で、かりそめでも皮をかぶっていたさっきまでの態度とは、どこか違っていた。
「いやっ……!!」
反射的に目を開け、仰向けの状態から上半身だけを起こした僕は。
「「………♡」」
ズズッ……!!
視界全てを埋め尽くす肌色の物体が、僕の全身を潰さんとするその圧倒的な物体が、
先輩の素足でないことを祈った。
むぎゅうぅぅっ……♡♡
「っっ!!!??あああああんんっっ!!!」
一瞬だった。気づけば全身の骨が軋み、知らないうちに自分の口から叫び声が放たれていた。柔らかいような固いような、きめ細かいようなざらざらしているような、表現しがたい足の裏の肌に一方的に踏みにじられ、肺が潰れ、顔が潰れ、手足がひん曲がり、虫のようにこびりついて喚かせられる。
信じられなかった。先輩の素足よりも、僕の全身が小さいのだ。潰されている今、他の景色が何も見えないのだ。これほどの恐怖はない。世界が、完全に先輩の部位に支配されてしまったのだ。
この足の裏の世界から抜け出せる未来すら、自分には見えていないのだ。
「「最初は足でマッサージしてあげるね~♡ぐりぐりすると後ですっきりするんだよ?」」
わざとらしい猫撫で声を上げる先輩。こんなふうに喋る先輩を、僕は知らない。こんな、人を虐めるのが楽しそうな、ねっとりと上から台詞を吐くような、そんな先輩じゃないはずなのに。
ぐりぐりぃぃっ…♡♡
「ごおぉぉっ…!!??やべでぇっ……」
足の裏の肉がむっちりと僕の全身に食い込み、今まで感じたことのない重さを平然と与えられる。そのままぐりぃっ♡ぐりぃっ♡と、ひねるように巨足が動かされ、それに貼りついた僕の身体も玩具のように捻り上げられる。
先輩の顔が何も見えないのが怖い。このまま本当に踏み殺されてしまうのではないかと思ってしまう。どれだけ苦しくても、呻いても、先輩の目にも耳にも届かないこの状況では。
ばふっ…ばふっ…ばふっ…♡
「ぐっ……ごごっ……げほっ……!!」
あの先輩が、後輩に対して、こんな。人権を文字通り踏みにじるように、何度も何度も柔らかな足の裏でリズムカルに叩き、苦しみを与えるなんて。
体の痛みと共に、憧れていた人に裏切られたような、そんな心の痛みが激しく疼いた。
そして、
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「「………」」
散々踏みにじられ、涙でぐちゃぐちゃになった僕の顔を、右足の親指と人差し指で挟み込む先輩の素足。僕をおちょくるように、足の指を僕の顔に向かってぐに、ぐに、と力を入れて挟み込む。
生暖かい先輩の足指を掴み、縋るように上空を見つめる僕の顔を。
「「……可愛い…♡」」
ぐに、ぐに……♡
ペットを愛でるような台詞で片づけ、僕の頭よりも大きい親指で撫で撫でする先輩。
もうそこには、優しくて慈愛のあった穏やかな先輩の姿はどこにも無かった。
「「じゃあ、マッサージ本番しよっか?…壊れないでね?♡」」
---続く---