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ある日、水泳部のスイムウエアが変わっていた。今までは各々自分にあったものを着用していた。パンツタイプのものだったり、全身を覆うタイプのものだったりと。どちらかというとパンツタイプのほうが多かったと記憶している。
しかしどうしたことか、ある日を境に、全員が全身を覆うスイムウエアに変わっていた。パンツタイプを着用している部員は誰もいなかった。それに、質感はラバータイプのようで、光に照らされたスイムウエアは異質なほど光り輝いていた。
その異常な光景に興味を持った新聞部が水泳部のキャプテンに取材に行った。
「どうして全員のユニフォームが変わったのですか?」
キャプテンは笑顔でこう答えた。
「監督さんの知り合いにあるメーカーの社長さんがいて。試作品ということで全員にユニフォームを提供してくれたんです」
キャプテンは更にこう続けた。
「着てみると結構身体への密着度がすごくて。これ動きづらくないのか?って思ってたんですよ。でもね、そのおかげなのかみんなタイムが以前よりタイムがかなり良くなっているんですよ。それでみんな大盛り上がりしちゃって。今ではこのユニフォームなしでは考えられないですね」
そう語るキャプテンの笑顔は、嬉しさや楽しさというよりは、どこか言わされているというか…何かに取り憑かれたような不気味な笑みだった…と、後に新聞部は語っていた。
この新聞部の記事を通じて、ユニフォームの話題は学校中に知れ渡った。
生徒より各部の顧問たちがそれに食いつき、我先にと水泳部の顧問である内藤に押し寄せた。
「内藤先生、ぜひその社長さんにお願いできませんかね…」「最近我が野球部もいろいろと悩んでおりまして…」「柔道部としても今年が大事なので…」
内藤はそんなお願いにも嫌な顔一つせず「わかりました。社長の方には私の方からお話しておきます」と笑顔で答えた。
そして社長の"ご厚意"によって、各部活へユニフォームが配布された。各部活、伝統のあるチームカラーがあったのだが、そんなのお構いなしというくらいに全部が水泳部に配られたものと同じ濃紺色だった。
当然、各部員たちからは反発の声が上がった。
「自分はあの赤色が好きだったんです」「なんで部員の意見もなしに変わるんですか」「こんなよくわからないメーカーのものなんて着たくないです」
しかしそんな意見はあっさりと却下され、部員たちはしぶしぶユニフォームに袖を通した。
ここでラグビー部の様子を見てみよう。
「よーし、全員集合」ラグビー部顧問である新田が大きな段ボールを何箱も部室の前に置いた。
集まった部員たちは何が始まるんだとざわついている。新田は段ボールのテープをその太い腕で強引に破り取り、中からあの新しいユニフォームの入った袋を取り出す。
「これは新しいラグビー部のユニフォームだ」さらに袋をやぶき中からつやつやと輝く濃紺色のユニフォームを取り出し広げた。
それはあまりにも異質な輝きを放っていた。
満面の笑みを浮かべる新田に対し、部員たちはただただ唖然としている。その部員の中からひとつ大きな手があがる。キャプテンの勝間だ。
「監督…あの、急にユニフォームが変わるって言われても困るんですが」
その言葉に新田の表情が険しいものに変わる。
「なにが困るんだ。言ってみろ」いつも部員を叱るときの顔とは違うその表情に勝間が一瞬引く。
「いや…だって俺達ラグビーはこの赤色が伝統色だったじゃないですか。監督だっていつも試合前はこの赤色を誇りにもてって言ってるじゃないですか」
周りの部員たちもうんうんと頷く。そうこのラグビー部のチームカラーは赤色。上が赤、下は白。これが伝統色として受け継がれてきた。
しかし監督は、肩についた糸くずでも払うように「ああ、そんな事も言っていたっけな」と言い放った。あまりに軽いその言葉に勝間は呆れてしまった。
「ここに全員分のユニフォームがある。今日からこれを着て練習をしろ。以上」そう言って新田は監督室に行ってしまった。
「…キャプテン、これ着るんですか?」「…どうします?」部員たちは子犬のように勝間にすがる。
勝間はひとつため息をついて「仕方ない…監督の指示だからな…。後で俺からも話をしてみるよ。とりあえずこれを着て練習しよう」と部員達に言った。
部員達は腑に落ちない感じで新しいユニフォームに袖を通す。今までは上のシャツと下のハーフパンツだけだったが、その新ユニフォームはシャツの下に上下つなぎになった全身タイツのようなものを着る仕様になっていた。
「うえ…なんかすげえ変な感触」「めっちゃ肌に張り付くなこれ…」背中のチャックを閉めるとキュウっと肌に張り付くような独特の感触があった。はじめこそ違和感を感じたが、屈伸をしたり肩を回したりしていると妙に馴染んでいく感じがした。
ぶつぶつ聞こえていた文句も聞こえなくなり、部員達はのこりのシャツとハーフパンツを着てグラウンドに出た。
全身を濃紺色のユニフォームに包んだラグビー部の練習が始まる。もう文句を言うものは誰もいなかった。
全員がそのユニフォームの感触を確かめるように身体をぶつけ合う。いつもより激しく。
ひとりずつダッシュやタックルを行う練習で、列をなしている際、前に並んでいる部員の尻を触ったりする部員がいた。いつもなら「やめろや」なんて声が上がっておふざけ感が出るのだが、今日は違っていた。尻を触られた前の部員は恍惚な表情を浮かべる。
そして後ろの部員を淫靡な目で見つめ「もっと触っていいぜ」などと言い出す始末だった。そう言われた部員もそれに応えるように、力を強めて揉んでいく。
こう言ったように異様な時間が流れる練習。いつも以上に身体が触れ合う練習が多く組み込まれていた。
ある部員は入念にフォームの確認を行っている。
「もっと…こう強く組み合っても良いんじゃないか?」「そうだな。もう少し、ここに腕を絡ませたりしてな」
それは練習というより、抱き合ってそれぞれの身体の感触を確かめ合っているようにしか見えない。
はじめは反抗していたキャプテンの勝間も、その光景を見て満足そうな表情を浮かべている。そんな彼も後ろから副キャプテンに抱かれながらという異常な状態であった。
数時間後練習が終わる。部員達はいつも以上に満足そうな表情を浮かべて着替えを済ませる。しかし、勝間は着替える前に監督室に向かっていた。
「どうだった、今日の練習は」「…とても良かったです。はじめはこのユニフォームが嫌でしたけど、今ではこれ無しじゃ考えられないですね?」
その言葉を聞いて監督は笑顔を浮かべる。ゆっくり立ち上がり、着ていたグラコンを脱ぐ。その中から勝間と同じような濃紺色のつややかなユニフォームが現れる。勝間はそれを見て口角を上げた。
「監督も着ていらしたんですね」「ああ、俺もすっかりこのユニフォームが気に入ってしまってな。…水泳部の内藤先生に頼んで良かったよ」
新田は勝田を抱きしめる。
「なるほど…校内新聞に書かれていたやつでしたっけ?」「そうだ。俺もあの記事を目にしてな。最初は半信半疑だったが、頼んでもらって先に着てみたんだよ。そしたら思った以上に身体にフィットしてな」
そんな会話をしながら監督とキャプテンのふたりは身体を擦り寄せ合う。
「ええ、とてもわかります。すごく体に馴染みますよね」「そうなんだよな。すっかり身も心も虜になってしまって、そのあとに内藤先生に聞いたんだが…一度着てしまえば、もう俺達は御主人様の下僕なのだそうだ」
「御主人様?」「ああ、なんでも内藤先生にユニフォームを提供した社長さんというのが、俺達の高校を乗っ取ろうと考えていたんだそうだ」「…へえ、そうなんですか。だからこのユニフォームを使って俺達を下僕にしてしまおうと」
「どうやらそういうことらしい。…もうすっかりこの魅力に取り憑かれてしまった今では、反抗する気にもなれないがな」「そうですね…」
異常な会話のあと、ふたりは優しく唇を重ね合った。
数日後。体育館に全校生徒が集まっていた。全員があのユニフォームを着用している。部活のユニフォームだけでなく、この高校の制服すらもあの濃紺色のものになってしまっていた。
全員が気をつけの姿勢をし、ひとことも私語がなく、しんと静まり返った体育館。みなが誰もいないステージを見ている。しばらくして体育館のドアが開き、ひとりの男性が入ってきた。そしてそのまま歩みを進めステージに上った。
内藤も併せてステージに上り、マイクのスイッチが入れる。そして男はマイクに向かって話し始める。
「全員、敬礼」そう言うと、全員が寸分違わぬタイミングでビシッと敬礼をする。その光景を見て男は微笑む。
「うむ。なかなか良い光景だ。ここまでスムーズに全員が我が支配下におけるとは思わなかった。これも第一号の下僕、内藤のおかげだな」
男は後ろにいる内藤に目をやる。内藤もきちっと敬礼をしている。
そう、この男こそ内藤を堕とし、全員を支配化に置くためにユニフォームを提供した"社長"なのである。
「これから君たちは私の下僕として、駒として、存分に働いてもらう」「「「「はい!!」」」」
「言っておくがもはや君たちには拒否権などなく、ただ私の言う通りに動くだけだ」「「「「はい!!」」」」
「はは。いつ見てもこの光景は素晴らしいものだ。君たちには期待をしているよ」「「「「ありがたき御言葉!」」」」
こうしてこの学校の生徒達はめでたく全員がこの男の支配化に置かれ、いち下僕としてこれからの人生のすべてをこの男に捧げることになった。
おわり