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「ん~~~!にちかさん、今日も一日おつかれー!」
自分に課せられた今日の務めを終えて、
にちかは一人川辺で佇み力いっぱい伸びをした。
漁獲罠の確認、採取、再設置という務めは、にちかにとってお気に入りの役目だった。
自給自足が原則の原始的部族生活は、それこそ遣るべきことが多岐にわたっている。
狩猟、力仕事、炊事、農業、育児、それら生きていく上で必要な事は、老若男女問わず部族の民全員で分担してやっていく。
それが今にちかが身を置く村の掟だった。
不本意からとはいえ、永続的に留まると決めた以上は掟に従わなければならない。
それはこの村はもとより、日本に居た頃からなんら変わらない人間社会の基本である。
にちかはそれを十分に承知しているので、村の掟には不平不満を漏らさずこなした。
基本的に村の努めは持ち回り制だ。
男は力仕事、女は農業や炊事育児、老人子供はその他村内雑務と、それぞれ仕事の分野が分かれている。
そんな中でも今にちかが終えた漁獲罠の管理は、短時間とはいえにちかが村のしがらみから逃れられる貴重な仕事だった。
村の人々はとてもにちかに気を遣いよくしてくれる。
それこそ過剰なまでに。
それが逆ににちかには少々窮屈に感じていた。
確かに異文化生活を強制され始めた頃はそれは大いに有難かった。
しかし年単位で終始接してもいると、それも時折鬱陶しく感じるものだ。
生まれた頃から自給自足生活が染み付いている村の民にとっては、お互いを過度に気遣う文化が根付いているのかもしれない。
にちかはそう考えて己を宥めた。
しかし一番の問題はそれではなかった。
(・・やっぱ慣れてきたとはいえ・・人前で全裸ってのはどーなんですかねー)
或る程度慣れてしまったとはいえ、にちかは部族の全裸という生活スタイルがどうにも馴染めていなかった。
この島は気候的に服が必要ないとはいえ、文明社会出身であるにちかにとってはやはり、村の一糸まとわぬ生活というのは今でも違和感を拂拭しきれないでいた。
特に多くの人前で常に全裸。しかも老若男女問わず。
(いやいや、混浴じゃないんですから。なにか葉っぱとかで・・こう隠すとかないんですかねー・・)
にちかがどうこう言ったところで、何か変わる訳でもない。
しかも村の新参者である自分が迂闊な事を言えば、どうなるか分かったものでもない。沈黙は金である。
漁獲罠管理は、そんなにちかの貴重な息抜きになっていたのだ。
「よっ・・と。」
にちかは今日の收穫が入った手製の網籠を傍らに置き、
川面に脚を付けて岩場に腰を下ろした。
足下を流れる水は心地よく、にちかの疲れた心と身を洗い流した。
「あ~~、癒されるなー。」
にちかはそのままの姿勢で空を仰ぎながら束の間では有るが、
様々なモノからの解放感を噛みしめた。
頬を撫でる風と鳥の囀り、川のせせらぎがにちかの心にじわりと染み入る。
日々の努めが忙しい以外、村の生活は平穏そのものだ。
平穏過ぎて些か退屈な位だ。そもそも際立った変化が無い。
「なんていうか・・夏休みで帰省した田舎の家でずっと生活してるみたい・・ちょっと退屈・・かな・・。」
嘗てアイドルを目指して右往左往していた日々。
アイドルとして美琴の足を引っ張らない樣に足掻いていた日々。
頑張って、失敗して、怒って、泣いて、喜んで、笑って夢中で生きた日々。
それらはもう遠い過去の話。
もう戻れない日々の話。
「あーもー・・ダメだな・・私・・。」
一人になって落ち着き物思いに耽ると、にちかはいつもこの思考に帰結した。
ここで生きていくために過去と決別したつもりでも、
結局どこか忘れられないのだ。
水面を見つめ、俯くにちかの頬と髪を再び風が撫でる。
にちかは何気なく髪をかき上げた。然しその指は虚しく空を切る。
「あ・・そっか・・。」
にちかはふた月前に出産を無事終え、夫との間に一人の女の子をもうけていた。そして今後の育児の邪魔にならないようにと、伸ばしていた髪をばっさり切り落としていた。
いつもそこに有る筈だったが今は無いもの。
それを求めて虚しく空を切る手がにちかの心境と如実に重なり、にちかは余計に感傷的になった。
「あー!ダメダメ!!にちかママさん、もっとしっかりしてくれませんかねー!」
にちかは纏わりつく負の感情を振り払うかのように頭を左右に大きく振り、ぱちぱちと兩頬を叩いた。
そして都合の悪い話題を変えるかの如く、にちかは徐に己の下腹部へと視線を移した。
「ていうか・・このお腹、ちゃんと元に戻ってくれるのかなー・・」
にちかは大きく弛み切った自身の腹部をぐいと摘まんだ。
産後とはいえもうふた月だ。
妊婦の膨らんだお腹は産後ゆっくりと元に戻るが、人によっては完全に元へ戻らない場合も多い。
にちかは古く朧げな記憶を心の奥底から掘り起こした。
「・・まー、妊娠線が入らなかっただけでも御の字だけど・・でもやっぱりなー・・」
にちかは自身の弛んだ腹部を両手で摘まみ、
歯痒い想いで乱暴に揉みしだいた。
アイドルとして日々必死に研鑽してきた身体。
それが今ではこんなにも程遠い様相を呈している。
元々はそれなりに自信のあった乳房は産後更に大きく育った。
乳腺は常に張りつめ、大きく膨らんだ乳首から分泌液を滴らせて赤子が吸い出してくれる時を待ち続けている。
腹部は弛みきり、臀部も心なしか大きくなった気がする。
頑張って肉を落としていた二の腕や太腿は、今ではここぞとばかりに脂肪を蓄えてしまっている。
にちかは変貌しきった己の肢体を苦い顔で再検分した。
そしてにちかは顰めた顔のまま、その視線を己の秘所へと向けた。
厚く陰毛に覆われた秘所へと、徐に指を這わせる。
「・・ん・・」
にちかの指先が秘所に触れると、即座に微弱な電気が身体を走った。
身体を巡る慣れ親しんだ快感を押し殺し、にちかは二本指で秘所を押し広げてみた。
「・・うわ・・うそ・・もうこんなになってる・・。」
にちかは思わず不快に満ちた声を漏らした。
露になった秘所の奧は、焼けた肌以上に黒く染まり、陰唇はすっかり伸びきってしまっていた。
夫の大きな一物を受け入れ続けたせいか、にちかの秘所は昔の様にしっかりと閉じることが無くなっており、常時愛液を滴らせるようになってしまっていた。
毎夜のように夫と快楽に耽り、出産という女性の大役を果たした代償だとは分かっていた。しかし改めて現実を目の当たりにすると、心が大きく揺さぶられる。
「わかっていたけど・・ちょっと・・ショックでかい。」
島に来るまで男を知らなかった無垢な身体。
それが今ではこうだ。
にちかは目の前の現実から逃れるように指を秘所の奥へと滑り込ませた。
「あ♡・・ん・・。」
たちまちにちかの奥から愛液が溢れ始める。
そのままにちゃりにちゃりと活発に指を動かし、己の中にぽっかりと空いた隙間を埋めるように悶えながら快楽を求めた。
最早自分の指だけでは満足な快楽を得られない。
にちかもそんなことは理解していたが、目の前の現実から逃れる術はそれしかなかった。
「んひ・・♡いい・・イディ・・♡・・いい・・」
にちかはその場に倒れ込み、愛液と母乳を撒き散らしながら夫の名を呼んだ。
秘所を指で掻き回しつつ、夫の一物を思い出す。
大きく、逞しく、身体を貫くあの快感。
夫の事を思い出すと、
にちかはすぐさま絶頂が押し寄せてくるのを感じた。
自分の願望からは遠くかけ離れた存在だった夫。
それが今ではかけがえのないものになっていた。
認めたくない想いと求めたい想い。
にちかの中でいつものように繰り返される葛藤にも似た感情。
それがいつも行為の末に、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられ純粋な快楽へと昇華していく。
「んひ♡・・いでぃぃぃぃぃ!!」
にちかは体液塗れになりながら、大声を上げて絶頂した。
「またやっちゃった・・にちかママさん、ホントこらえ性無いなあ・・。」
絶頂の余韻を一頻り堪能した後、にちかは川で体液を洗い流しながら自嘲気味に漏らした。
そう言いながらも溜め込んでいた想いを吐き出したせいか、にちかの顔は些か穏やかだった。
「そんなんじゃ先がおもいやられますよー、パパとミコのためにも頑張ってママさんしてくださいねー。」
にちかはいそいそと片付をしながら夫と愛する一人娘の名を上げた。
ミコ。
にちかがお腹を痛めて産んだ、一人娘の名前だった。
望まぬ結婚だったとはいえ、
その夫と日々の快楽に流された続けた末の子供だった。
大凡覚悟はしていたが、妊娠してから日々大きくなるお腹を見る度にちかは『またひとつもどれない扉を潜ってしまった』とふさぎ込むばかりだった。
しかしいざ出産してみれば、その姿を見るなり我が子が愛おしくて堪らなくなった。羊水と血液で塗れ、一見して男女の区別はおろか人としても見分けがつかない我が子。にちかはまだ臍の尾が付いたままの我が子を産婆に抱かせて貰った瞬間、本能的にそう感じた。
出産の達成感と周囲の人々の祝福、そして夫イディの泣きながら喜ぶ姿。にちかの身体を、経験したことのない幸福感が満たした。
そしてその場で愛おしい我が子に、大切な憧れの人と同じ音を付けて上げたいと思った。
イディはその願いに諸手を挙げて賛同した。
そしてその太い腕で、優しくにちかと子供を抱き締めてくれたのだ。
「・・ミコ・・と・・さん・・」
不意ににちかは手を止め、忘れられないその名を呼んだ。
どこに居ても忘れられない大切な人。
どこにいるのか、いきているのかも分からない。
だがにちかは確信していた。
美琴はどこかで生きている。
そして今もあの凛々しく優雅な姿を、皆の前で披露していると。
「美琴さん、元気かな・・ちゃんとご飯たべてるかな・・。」
にちかは美琴との日々を思い出し、空を見上げてそう漏らした。
にちかが感傷に浸っていると、乳房が一層張りじわりと母乳が溢れ始めた。
「いっけない!ごはんの時間!はいはいミコ、にちかママさん今戻りますよー!」
にちかはそそくさと漁獲の入った籠を拾い上げ、足早に村へと駆けた。
「でも母乳だけがごはんって、なんだか・・いやいや!美琴さんは関係ないから!・・でも離乳食はしっかりしてあげないと!」
一人大声で喚き立て、足早に帰路を急ぐにちか。
その顏には先刻とは打って変わって、柔らかな幸せの笑みが零れていた。