※保存用。
まだ最後まで書ききれてない長編にこまき。
みんなに見守られながらゆっくり愛を育むにこまきが見たいな、って思いながら書いてた話。
ーーーー
ーー君と巡る季節 「私、にこちゃんが好きなの」 にこちゃんが卒業する日、私は意を決して想いを告げた。 「、、、それって本気?」 じっと見つめられて、落ち着いた声で問いかけられる。この日を迎えるまでに何度も自問自答したことだった。 正直言って、この想いが恋愛感情かどうかを判断するにはあまりにも短い時間だ。彼女と出会ってから1年にも満たないのに。いずれ他の子にも抱く感情かもしれないし、もしそうならただの友達でいればいいのに。この気持ちは恋愛感情ではなく、他の子よりも少しだけ特別ってだけなんじゃないの?何度も言い聞かせるみたいに、誤魔化すみたいに。 だけど私は告白したかった。 今はそれが答えで良いと思った。 それが一番、自分に嘘のない答えだから。 「このままにこちゃんと離れるのは嫌なの」 「連絡先知ってても?」 「うん」 「家の場所知ってても?」 「うん」 「今まで通りの友達じゃダメなの?」 「うん」 「、、、そう」 にこちゃんはただ冷静に問い掛けてくる。きっと私はにこちゃんにとって仲の良い後輩に過ぎないんだろう。それでも何度も確認するみたいに聞いくるのは、私をちゃんと見ようとしてくれてるからだ。 同性への告白なんておかしいでしょ、なんて言えば済むことなのに。私の想いが本当にそうなのか、となりに寄り添うみたいにして一緒に考えてくれる。澄んだ瞳で見つめてくれる。 だからやっぱり『好き』だと思う。 今、この人に告白して良かったと思う。 桜の木が揺れる音、心地いい風と穏やかな陽射し。彼女がいつも着ているカーディガンの薄いピンクと同じ色の花びらが舞う。この景色に立つ彼女を、私はこの先ずっと忘れない。 真っ赤なリボンに結われたツインテール、同じく赤い綺麗な瞳、木漏れ日を受ける肌は白く透き通って、その表情を儚く見せている。このまま離れてしまう彼女の手を握りたい、引き寄せてみたい。他の子よりも特別なのは間違いない。 「私は、、、」 「、、うん」 暫く黙っていたにこちゃんは、再び私を見た。私はどんな答えでも受け入れるしかない。それが怖くて、小さく震える手をぎゅっと握りしめた。 だけど答えは、予想を遥かに越えたものだった。 「真姫ちゃんが卒業するまで、キス以上のことはしないわよ?」 「、、、、、、」 思いもしなかった答えに驚く、というより困惑だ。ぱちぱちと瞬きをしてどういう意味だろうと考えても、それは言葉の通りでしかない。ぐるぐると回る頭のなか。こういうときに自分の頭の回転が早くて良かったな、と思う。 キス以上のことはしない。 つまりにこちゃんは私とキスをしても良いと思ってる?そして裏を返せば私が卒業するまでの2年、そしてにこちゃんにとっても同じ2年という時間。少なくともその時間を私にくれても良いと思ってる、、、、ということ? それってなかなかすごい答えで、私にとってはうれしい答えだ。だってつまり、私の想いを受け入れてくれるってことだから。伏せていた視線を再びにこちゃんに向けたら、表情はやっぱり真剣そのもので。私をからかうための台詞ではないことがわかった。 「、、、そう」 「うん」 木々の揺れる音のなかで、確かめるみたいに頷き合ってお互いを見ていた。 さらさらな髪と透き通るような白い肌、小さい顔と華奢な体。思わず手を伸ばして抱き寄せたくなる。だけどさすがに、、いや、でも、やっぱり。 「なに?はっきり言いなさいよ」 そわそわと落ち着かない私ににこちゃんはそう言って近付いてきた。近付いてきたから余計に意識してしまう。ふわりと香る花みたいなにおいとか、触ったらきっとすべすべでさわり心地の良さそうな肌だとか、子鹿みたいに大きい目とそれを縁取る長い睫毛とか。 息を飲むほどに、とはまさにこのことだ。 告白してきた相手にそうやって近付いてしまうのは、だめなんじゃないの?とか勝手に思う。だって顔が熱い、握りしめた手は汗をかいてるし、体はふわふわしてるようで固く強張ってるようで。少しでも平常心を保つためにはなにか悪態をつかなきゃ、そうじゃないと私は、、、。 ああ、でも、それよりも、やっぱり。 「じゃあ、キス、、、していいのよね?」 自分の口から出た言葉は驚くものだったに違いない。でもだってそれを意識付けたのは他ならぬ彼女であるわけで。その台詞のあとにそうやって近付かれたら、だって、、、だって。 「べつに良いけど」 「うぇっ!?い、いいの?」 「でも、、、したあとにやっぱ違ったとか言われたら、さすがに傷付くわよ?」 「そ、それはないわよっ。だって私、にこちゃんとキスする想像したことあるもの!」 つい声が大きくなる。必死になってアピールしてるみたいで恥ずかしい。そんなにしたいの?なんて目で見られてる気がする。小さい口元が僅かに笑った気がする。なんて馬鹿なことを言ってしまったのだろう。平常心なんて無理なのはわかってるのに。 さらに熱を帯びていく情けない顔を見られたくないから再び視線を落とす。 告白して受け入れられたからっていきなりそれはないわよ。馬鹿よ、私。ありえない。前言撤回したい、やっぱりキスはまた次の機会にとか言って握手でもして笑ってまたね、って言いたい。馬鹿、ほんっとに私って、、、、。 ぐるぐる回りはじめた恥ずかしい後悔。 そんな私に、また一歩近付く。そして私の靴にこつん、とにこちゃんの靴がぶつかった。 「、、、、私もあるわよ」 「え?」 なにが?って聞き返そうと思ったのに。 あっという間に距離は縮められて、私の唇は優しく塞がれた。 自分の唇に触れて、目を閉じる。 ふわりと香る花みたいな柔らかいにおいと、やさしく触れた唇。想像していたよりもずっとドキドキする行為だった。心の準備なんてする暇もなく塞がれて、離れるまでの時間が長かったのか短かったのかさえわからないまま終わった。 ぎゅっ、と反射的に瞑っていた目を開けたら頬をほんのり染めて微笑む彼女がいて、その姿に眩暈さえも起こすほど激しく心臓が騒いだのだった。 はじめてのキスは好きな人と。 誰もがそう思うこと。 これが確かに恋だと言うのなら、私はめでたく初恋の人とファーストキスを達成出来たということになる。こうして指で触れたってあの感触を再現出来るわけもないのに、それでも今日だけで何度目かの行為だった。そしてまたやってる、と気付いて恥ずかしくなる。 「、、次は、いつ会えるのかしら」 部屋で呟いた独り言。 連絡先を知っていても自分から連絡をとらなければ予定が埋まることはないのに。何度も彼女の名前を画面に映してあと一回、たったあと一回だけ指をタップすれば繋がるのに。 ーー私の意気地無し、、、。 これで本当に付き合ってると言えるのだろうか。 制服のリボンの色が変わってもう何日か経ってしまった。学校ですれ違うことはもう無いのだとわかっていても探してしまう癖はまだ抜けない。部活でだってもう会えないのはわかってるのに期待しては会えないことに気付いて落胆する。だから家に帰ってこうしてスマホを手にとっては彼女に連絡をとろうと試みるのだけれど、それも上手くいかない。 好き、と伝えたときに。もしかすると私の一生分の勇気を使ってしまったのだろうか。なんて。 「、、、会いたい、、にこちゃん」 はあ、とため息ばかり。 部屋で呟く一人言。付き合ってるはずなのに遠くに感じるのはどうしてだろう、なんて。本当は自分から踏み出せないから彼女を遠くに感じてるって、自分自身が一番わかってるくせに。 ーー♪~♪ 「!?」 その時、突如鳴り出したスマホに体がびくっと跳ねた。 そして画面に映るのは彼女の名前。 過剰に反応して勢いよく立ち上がったせいで、机にがたん!と太股をぶつけて悶絶してしまう。きっと痣になる、ああもうほんと馬鹿ね!なんて思いながら。だけど心臓が騒がしく喜んでるからすぐにその痛みは感じなくなった。それよりも早くとらなければ!頭のなかはもうそれだけ。 「もしもし?」 『、、、』 「、、、」 『、、、』 ーーあれ? 緊張しながら一言目を口にしたのに、返ってくるのは沈黙だった。 「に、、にこちゃん?」 だから次は恐る恐る、電話口の向こうにいるはずの彼女の名前を呼ぶ。 『、、、なんで連絡くれないわけ?』 呼び掛けにまた少しの間を置いて言われたのは、どうやら不満の声で。久しぶりに聞く声はとても不機嫌なものだったから。う、、と言葉が詰まる。 だけどやっぱり久しぶりの会話に口角が上がってしまう。だって、紛れもなく彼女の声だから。ようやく聞けた声だから。どんな声でも嬉しいと思う辺り、私はなかなかの寂しがりやなのだろうか。 「えっと、、ごめんなさい」 『ったく。アンタまさか私のこと忘れてたってことないわよね?』 「そ、そんなわけないでしょ!にこちゃんに連絡したかったけどする勇気がなかっただけよ!」 だからそう言われて、心外だ!とでも言うように反論してしまった。勢いでそんな恥ずかしい暴露を、、、。 『、、、あ、そうなの?』 「あ、ぅ、、ち、違う!そうじゃなくてっ」 ああ、、恥ずかしい。 ばかなの?私。 わざわざ私は何を暴露しちゃってるのよ。久しぶりにする会話がこんなに格好悪いなんて、、最悪よ。必死な撤回もただただ滑稽でばつが悪い。せっかくの会話がこんな恥ずかしい暴露なんて、 、。 だけど電話口の向こうにいる彼女からは、ふぅーん?なんて嬉しそうな声。なぜかさっきまでの不機嫌さはもうなくなっていた。今さらなによ、緊張する仲じゃないでしょ。と言われたけれど、今までと違って恋人になったから緊張するのに。これじゃあまるで私ばっかりが緊張してドキドキして、格好悪いじゃない、、。 『ねえ、真姫ちゃん』 「、、、なによ」 その声で、久しぶりに呼ばれる名前が嬉しいのに。ぶっきらぼうに返事をしてしまう。さっきの恥ずかしさが消えないせいだ。せっかくにこちゃんの方から連絡をくれたのに、これじゃあ愛想を尽かされてしまう。せっかく、恋人になれたのに。 、、、素直になる勇気が欲しい。 『真姫ちゃん、声聞けて嬉しい?』 私がそう思ってるって、にこちゃんは知ってるのかな。だからそんなふうに聞いてくれるのかな。 からかってくる声色じゃなくて、落ち着いた声。やさしくて、あたたかくて、私にそっと寄り添うみたいな。相変わらずドキドキしてるせいで素直に返せないでいると、私は真姫ちゃんの声聞けて嬉しいけどなあ。なんて言ってくるから。 「、、、私も、嬉しいわよ」 きゅ、と手を握ってそう伝える。 思いの外小さい声になってしまったけど、震えそうなのを我慢してるから仕方ない。空いた窓から心地いい風が入ってるはずなのに汗をかいてる。ドキドキして、緊張して、素直になる勇気をなんとか絞り出してるからだ。 『ふふっ。良く出来ました』 満足げな声。かわいい、、とか思ってますます体温が上がる。だから電話で良かったな、と思う。だって今の私、すごく格好悪い。口元が緩んでるし、顔だってきっと耳まで赤いだろうし。 変に偉そうだけど、そんなこと言われて本当は嬉しくて。 だけど。 「、、なによそれ。意味わかんない」 『はいはい。真姫ちゃんえらいね』 「もうっからかわないで!」 いつもの調子で返したら、やっぱりいつものようにからってくる。それが楽しくて嬉しい。 くすくす笑う声がすき。 今の彼女はどんな表情をしてるんだろう。 毎日のように会っていたのに、今はもう遠くに行っちゃったみたいに思えて切なくなる。顔をあわせば喧嘩のような言い合いばっかりしてたくせに、数日会えなかっただけでこんなにも胸が締め付けられるの。 だから、きっと。目の前ににこちゃんがいたらこんなふうに素直になれる自信はない。 「、、会いたい、、、にこちゃん」 だけど素直にならなきゃ、遠くに感じるままだから。 『うん』 「、、、」 『会おっか』 「、、え?」 『え、ってなによ。私だってせっかく付き合えた恋人と会えないなんていやよ?』 うわあ、、、。 にこちゃんの口から恋人って、、。 私のことよね? 「こ、こいびと、、そうね、うん」 『、、、変なとこで照れるのやめなさいよ。こっちまで恥ずかしくなるでしょ』 「照れてないわよっ、べつに」 なんて見え透いた嘘なんだろうって自分でも思う。だけどどうしたって意地を張らないと格好悪くていやになる。ゆるゆるに緩んだ口元だってまだ直らないし、汗はもう手のひらだけじゃなくて背中にもかいてるし。そんな自分に気付かれるのが格好悪くていやだから、、。だから、、。 いつだったら空いてる?なんて聞かれて。あれこれ考えてる頭を一旦リセットしてカレンダーに視線を移す。 「そうね、、」 今週の日曜日は練習もないし空いてるけど。予備校も土曜に行く予定だし、、。あ、だけどにこちゃんは週末にバイトをよく入れてたから日曜は難しいかしら? それに確か前に、アイドル養成所に通うためにお金を貯めてるって言ってたし、、。ってちがう、そうじゃなくて。とりあえず答えないと。 「私は、、日曜日が空いてるけど」 『日曜かあ、、』 あ、やっぱり日曜はだめ? 答えてすぐ不安になる。 「じゃあ、えっと、、」 『んー?』 「が、学校終わってからでも良いなら、、明日とかも、、あと木曜は予備校もないし」 『ふふっ』 「?、、なによ」 『ごめん。うれしくて、つい』 「、、意味わかんない」 うれしいってなにが?って思う私。だけどやっぱりくすくす笑う声がかわいいって思ってる。 『ねえ、真姫ちゃん』 「、、今度はなに?」 『なんか緊張するね?、、私だけかな?』 「、、、ぇ」 さっきから楽しげに笑ってるのに? 緊張してるのは私の方じゃないの? そう私が言う前に、にこちゃんは続けて。 『真姫ちゃんから全然連絡ないし、あれって夢だったのかな、とか思ったりしてさ』 「そ、、そう」 『電話するだけなのにすっごい悩んで大変だった』 「ーー、、」 電話の向こうに、照れた顔でそう言ってる彼女が見えた。、、気がした。 『だから、、だからね?』 あー、とか。うーん、とか。 つまりなにが言いたいかっていうと、、なんて言ってる声を聞きながら、私は上着を手に取って足早に部屋を出る。財布とスマホだけ、お洒落する時間さえ惜しい。次に会うときは、絶対目一杯のお洒落をして会うから。だから、、 「今から行く」 『、、へ?』 「にこちゃんに会いたいから会いに行くって言ってるの!」 『は、、はあっ?!』 格好悪いとか、そんなの知らない。どうせ格好付けたってきっとすぐにバレてしまうから。そんなことよりも、そんなことなんかよりも。この胸の高鳴りと、熱い想いを誤魔化さずにただ彼女に会いたい。 会って、すぐに、この腕で抱き締めたい。 私の慌ただしい様子に、本気だってことが伝わったらしく。彼女はまたうれしそうに笑って。 『じゃあ、、待ってる』 そう言った。 ーー遠いって思うのは自分のせいかも知れないね。 慣れてない、、、と思う。 自分の誕生日はいつだって家族が盛大にお祝いしてくれるけれど、同級生から祝われることはなかったから。4月の半ば、進学してすぐ訪れる私の誕生日。タイミングが悪い、、とは言わないけれど。浮き足だったころに訪れるイベントというのは大抵スルーされるものだから。要は今回も期待してなかったのだ。家族以外に祝われることは。 「真姫ちゃん、誕生日おめでとう!」 部室のドアを開けてすぐに聞こえたのは、クラッカーの音。みんなの声。 ぱん、と弾けて。ほんのりと火薬のにおい。 穂乃果の声が一番よく聞こえた。次に凛、だろうか。でも私以外のメンバーの声が次々に聞こえた。飾り付けまでされた部室に、そしてなぜか卒業したはずのふたりがいる。 「なんで絵理と希もいるのよ」 「そんなこと言って嬉しそうなんバレバレや」 「べ、べつに嬉しくないなんて言ってないでしょ!」 「ふふっ。久しぶりね、真姫」 「、、そうね」 久しぶりに、と言っても大した月日は経ってないけれど。こうしてメンバーが部室に集まったことはうれしい。、、、だけどにこちゃんはいなかった。がっかりした顔なんて出来ないし、っていうかやっぱりうれしい。にこちゃんはきっとバイトかなにかでも入ってるんだろう。電話のひとつくらいあるかも知れないし。っていうかそれこそないとがっかりする。 サプライズなんて初めての経験。照れ臭さに髪の毛をくるくる指に巻いていたけど、次々と渡されるプレゼントであっという間に両手がふさがった。 「みんな、ありがとう」 だから赤くなった頬を誤魔化せてないから恥ずかしい。、、でもうれしい。 「あーあ、真姫ちゃんの誕生会もっとちゃんとやりたかったのにぃ!」 「穂乃果ちゃんはケーキがお目当てでしょ?」 「ち、ちがうもんっ」 「仕方ありません。今回は先約がありますから」 「、、なにそれ?」 穂乃果たちの会話に思わず割って入る。先約、、もなにも、これから練習でしょ?と。 「真姫ちゃんは、、えーっと、とりあえずプレゼントを持って帰らなきゃ!」 「え?いいわよ、べつに」 「なまものだから!」 「え?そうなの?」 「ち、ちがうけど!」 「、、イミワカンナイ」 穂乃果との会話でわかるのは、なにかを隠してるってことぐらい。花陽と凛に視線を移すとやっぱりふたりもそわそわ落ち着かない様子。 なにを隠してるんだろう? サプライズなら成功してるのに。 「まあまあ。とりあえず騙されたと思って一度帰ったらええやん?」 「いや、だから練習」 「今日の練習はお休みにしようという話になったのです。、、ですよね、部長?」 「えっ、あ、うんっ!そうなの、真姫ちゃん」 「あやしい、、。そもそも絵理と希が練習着で来てるのに休みなわけないでしょ」 「さすが真姫。なかなか手強いわね」 「もーっ真姫ちゃん、はやく荷物持って正門に行くにゃあ!」 このままじゃ拉致が埒があかないとでも言うように。はやくはやくっ、と凛に背中を押される。 「ちょ、私まだ納得してない、っ」 「納得しなくて良いから!早く行かないとにこちゃんがそろそろ痺れを切らしてーーー、、、あ」 しまった、、。という顔で穂乃果が固まったのを見て、私以外のみんなは困り顔で呆れ顔?やはり穂乃果に隠し事は無理でしたか、と海未が言って。ほらやっぱり、とでも言うように希と絵理は笑ってる。私の背中を押していた凛さえも呆れ顔だ。でもやっぱり気になるのはひとつ。 「にこちゃん、来てるの?」 「そうよ。真姫を借りる代わりに私と希が練習のコーチをする、って条件なの」 「どうせならみんなお休みでええやんって言ったら、それはだめって聞かないんよ」 「真姫を連れ出す理由も課外勉強という名目らしいですから、、困ったものです」 「ふふっ。素直に真姫ちゃんとデートしたいって言えばいいのにね?」 私に向かって首をかしげながらにっこり笑うことり。海未はまったく、、なんて言いながらも、真姫の誕生日ですから今回は特別です。と微笑んだ。 誕生日にデートって、、そんなの。わざわざサプライズにしなくてもいいじゃない、とか。みんなを巻き込んでなにわがまま言ってるのよ、とか。これからにこちゃんに会ったらそんな言葉が出るかもしれない。だけどにこちゃんはきっと、得意気に笑って私に会えてうれしい?なんて言うかも。この間みたいに。 「あーっ真姫ちゃんの顔赤いにゃあ!」 「う、うるさいっ」 「今日の真姫ちゃんもかわいいよ?」 「もう、、花陽までやめて」 手櫛で前髪を整えてたらみんなして私をからかってくる。 だってこの間もちゃんと準備して会えなかったから。電話で声を聞いて、お互いに柄にもなく素直なことばっかり話すから、、たまらず私が会いに行ったのだ。会ってすぐに抱き締めたいって思って。だけど結局彼女を目の前にしたらそんなことは出来なくて、がちがちに緊張して。なんか距離あるんですけど、なんて言われる始末だったから。だから次は、ちゃんとって、、。なのに、こんな急にとか。 そもそも次に会う約束だってしたばっかりなのに。だから油断してたのよ、こんなにすぐ会えるなんて思わなかったし。 「にこちゃんによろしくね!」 「次はにこにも練習のコーチしてもらいますからね、と伝えてください」 「明日はたくさん惚気聞かせてね?」 「惚気ないわよ、べつにっ」 穂乃果たちにからかわれながらも見送られて、私は足取りを軽くした。 「、、、ぁ」 頭隠して尻隠さず、とはよく言ったものだ。 いや、この場合は。姿隠してツインテール隠さずになるのかしら。とにかくバレバレだった。正門を抜けた先で私を待ち伏せているのであろう彼女、そのツインテールと赤いリボンがちらりと覗いてる。 それがとてもかわいくて歩みを止めてしまう。だって口元が緩みきってるのが自分でもわかるから。心のなかで平常心と唱えながら。ふぅ、と深呼吸。 「にこちゃん」 私の呼び掛けにツインテールが僅かに跳ねて、振り向いたにこちゃんは心なしか不満そうだ。 「、、、バレたのね」 「穂乃果に隠し事させるなんて無理よ」 まあ、バレずに私を帰せたとしても彼女のツインテールを見逃すわけもないから、そもそも無理だったのよ、とは言わなかったけど。 にこちゃんは相変わらず今日もかわいい、、とまではさすがに言えず。 「誕生日に会えるなんて思わなかったわ」 これは素直な気持ち。みんなからサプライズでお祝いされたことも、もちろん嬉しい。私の両手いっぱいのプレゼントを見て、最初こそ不満そうだったにこちゃんも笑顔になってる。 「嬉しい?」 「ええ。とっても嬉しい」 「なによ。やけに素直ね」 「たまには、ね」 あまりに予想通りだったから笑いそうになる。だけど平然を装ってそう応えた。ふぅーん、なんて。からかう気でいた彼女は唇を尖らせてる。不満そうだったり、優しく微笑んだり、ころころ変わる表情がかわいくてすき。 それにいつだってかわいい彼女は、自分のかわいさを引き立てる術を知り尽くしてるんだと思う。だけど今日は私に会うためにお洒落してくれたのかな、とか思って本当はすごくドキドキしてる。 「お誕生日おめでとう。真姫ちゃん」 「ありがとう」 「とりあえず真姫ちゃん家行こっか?プレゼントも少し持ってあげる」 「平気よ。そんなに重くないし」 「、、、そうじゃなくて」 「え?」 むっ、とまた唇を尖らせて。私の手からプレゼントの入った袋をひとつ取り上げると、お互いに空いた手をわかりやすく示し合わせる。 ーーああ、、そういうことね。 意図は汲み取れたけど、それはすごく照れてしまうし恥ずかしい。でもせっかく会いに来てくれたのに、そんなことで台無しにしたくない。だから私は緊張する手で彼女の手を拐って歩き出した。 「ふふっ」 「なによ」 「こうして手を繋いで一緒に下校するの、一度やってみたかったの」 「そう」 素っ気なく返事をすることだってお見通しの彼女は、私の赤い頬にだって気付いてるに違いない。彼女と一緒の帰り道ははじめてではないけれど、手を繋いだことははじめてだからさっきからドキドキしっぱなしだ。となりで嬉しそうに笑う彼女はやっぱりかわいくて困ってしまう。せめてもの反撃、とは違うけど。 「もしかして、これも課外勉強のひとつかしら?」 「ぅぐ、、」 「確かに良い経験よね」 「これは、、、 」 「え?なにか言った?」 「デートよ、デート!課外勉強なんかするつもりないわよ!悪かったわねっ」 ふんっ。と赤くなった顔を背けてしまった彼女、だけど繋いだ手をきゅっと握って。 「言っとくけど私は練習終わってからでも会えれば良かったのよ。実際そのつもりだったし!だけど希と絵里がうるさくて、だから」 「そうなの?ふたりはにこちゃんが提案したっていう口振りだったけど」 「、、、」 むぅぅ、とかわいい唇を尖らせて何か言いたげな顔。ふたりにしてやられた、っていうのなら別に構わない。だって嬉しいことに変わりないから。 「私には最高のプレゼントになったわ」 「、、、ならいいけど」 手を繋いで帰るだけなのにね。なんて。 同じように私もこうして手を繋いで帰ることに少し憧れていたから。まさかこうして本当に現実になるなんて思いもしなかった。告白したのだって、受け入れられることを期待したわけじゃなかったから。 あの日、もし。 想いを告げずに、卒業していく彼女に手を振っていたなら。もし私の告白に、彼女がただ困ったように笑っていたなら。 ーーーふ、とそんなことを考える。結局は両想いだったのだから考えたって意味のないことなんだろうけど。こうして彼女のぬくもりに触れていると勇気を出して本当に良かったと思う。 「、、、私がすきって伝えなかったら、こんなふうに手を繋いで帰ることもなかったのよね」 ぽつり、口から出た言葉。 隣を歩く彼女の視線を感じて目を合わせる。 「え、なに。泣くの?」 「な、泣かないわよっ」 「だってそんなしみじみ言うから」 「べつにいいでしょ!そう思ったんだからっ」 ちょっと素直になれたと思ったら茶化されて、拗ねないでなんて言われる。別に拗ねてないわよ。悪戯に笑う彼女の横顔、やっぱりころころ変わる表情は見てて飽きない。そしていつだって彼女のペースに持ち込まれて私は振り回されてるような気がする。 、、だから、ちょっと。 せめてもの反撃、って思ったの。 「一応確認だけど。今日は私の誕生日をお祝いするために会いに来てくれたのよね?」 部屋についてすぐ。 貰ったプレゼントを机に置いて、振り返って訊ねる。改まって聞く私に警戒心を持ちながら、その確認要る?と逆に質問される。 「手を繋いで帰る、っていうのはにこちゃんの希望だったわけでしょ?」 だからもう一度訊ねる。 これが確認したかったことだから。 まあ、、、うん。と彼女が頷いたのを見て。 「私もあるの。いいかしら?」 「、、、内容によるけど」 「逃げ道作んないでよ」 「あーもうっ、わかったわよ!なに?!」 威勢よく腕を組んで待ち構える彼女。せっかく可愛い服装でいるのにそんな態度じゃ台無し。とは言え、そんなところも可愛いって思っちゃうんだから私もなかなかよね。 せめてもの反撃、というか。今日は役得なんだからいいわよね?なんて自ら肯定する。そんな大それたことは望んでないけれど今日は素直になろう、って思う。 ーーーいや、違うわね。 これから先、卒業してしまった彼女とこうして会う度にきっと同じことを思うはず。その通りにいくかは早速あやしいけれど。 「なによ、はやく言う!」 「わ、わかってるわよ!急かさないでっ」 だって赤い宝石みたいな瞳を真っ直ぐに向けられると、どうしてもドキドキしてしまう。でも向けられる言葉にはムードもなにもあったもんじゃない。思い付いたことは前に果たせなかったこと。 「だ、、、、」 「なんて?」 「抱き締めて、、いい、かしら、、?」 「だ、っ」 「だめ?」 気恥ずかしくて落としていた視線を私よりも背の低い彼女へ再び向けると、うぐ、、なんて変な声が聞こえた。意図しなかった上目遣いをしてる自分に気付いてまた視線を伏せる。 勢い任せとは言うけれど、口実があっても素直になるというのは難しい。きっとお互いにそう思ってるんだろう。だって。 「だめとかじゃないけど」 もごもごと歯切れの悪い反応。威勢良く組んでいた腕はすでに解かれて、首にあてたり腰にあてたりそわそわと忙しそうだ。はあ、、なんて溜め息まで吐かれてしまう。そんな拒否ともとれる反応を見せられたら、恥ずかしさよりも不安が募る。だけど次に言われたことは。 「ムードとか考えなさいよ」 やれやれ、なんて言ってるわりには顔が赤いままだ。 「こ、恋人の部屋なんだし文句ないでしょ」 「アンタ、恋人ってワード好きよね」 「もう!茶化さないでっ、私の誕生日なんだから少しぐらいわがまま言っても、、、ーーうぇっ」 「じゃあほら、はやく」 急接近で、近距離。 手を広げて体を寄せられてしまう。あれこれ言われたと思ったら急に。年上の余裕、なのかな。 自分でお願いしたはずなのに、いつの間にか急かされてるのはこっちで。格好悪く固まった腕を背中にまわすように促されて、がちがちにぎこちなくもなんとか抱き締める形にまで持っていく。 「、、、、」 ーー小さいし、やわらかい。 しん、と静かな部屋に自分のドキドキが響いてる気がして手が震える。私よりも体温が高いのだろうか。見た目通りにこども体温?なんて言ったらさすがに怒られるから言わないけど。私よりも一回り小さな体、温もりとか、いい香りとか、そして触れたところから騒がしい鼓動が伝わってくる。 「にこちゃんもドキドキしてるのね」 「真姫ちゃんの方が絶対うるさい」 そう言いながらも擦り寄ってくるから、負けじと腕に力を込める。しっかりと確かめるように抱き締めたら、素っ気ない割りに赤くなってる耳を見つけてしまう。 ーーやっぱりドキドキしてるんじゃない。 せめてもの反撃は少し叶ったかも。別に勝負してるわけじゃないのに、でも私ばっかりかなってどうしても思うから。彼女も私に対してドキドキしてるってわかったら堪らなく嬉しい。 「ぐええっ真姫ちゃんの馬鹿力に潰されるぅ」 「大げさなんだから」 「デートする時間なくなっちゃうわよ」 「うん。あと少しだけ」 「この前は全然近づいてこなかったくせに」 「うん。そうね」 やたらと饒舌な彼女に適当な相槌を打つ。 赤いリボン、さらさらの髪。 すき、だいすき。 私は彼女がすき。 呼吸の度に肺を満たす彼女の匂い。胸一杯に吸い込んだって足りない気がするのは変かしら。でも仕方ない。だってこんなにも、、 「にこちゃんいいにおい」 「ーーッ!もうおわりっ」 がばっ、と引き剥がされそうになるけど。背中にまわした手をがっちりホールドして、今にも逃げ出しそうな彼女を捕らえたままにする。だってようやくこうして抱き締めることが出来たんだもん。、、、まだ、許されるはず。 「ま、真姫ちゃ、、」 「にこちゃん、顔真っ赤ね」 「だ、だめ」 ーーだめってなにが? じ、っと見つめて。たじろぎながらもそう言葉にする彼女。たぶん、きっと、逆効果。赤くなった頬に手を添えてみる。逃げようとする彼女を片手で制しながら、またしばらく見つめ合った。 ーーかわいい。 強く叩く心音。そこに血流が集まってるせいか頭がぼんやりとする。酸欠かもしれない。もしくは過呼吸?わからない。ふわふわする。ドキドキする。 「にこちゃん、、」 声に出したら予想以上に切羽詰まった声だった。がち、と強張ったのは彼女の方。 「すき、にこちゃん」 でも逆上せそうなのは私。 だって。この腕の中に、彼女がいるから。 「もうわかったから、、勘弁して」 「うぇっ」 ぐりぐりと私の胸元に顔を埋めて。真姫ちゃんのくせに、なんて言われる始末。どうやら先に逆上せたのは意外にも彼女の方だった。 人を好きになるってこんなに素晴らしいことなのね。世界が色鮮やかになるって比喩かと思っていたけど、本当にそうだって気付いた。私の腕にすっぽりと収まる彼女。私の知ってる彼女はいつも強気で、変に自信たっぷりで偉そう。かと思えば優しくて、強くて。 「アンタ、私のこと好きすぎない?」 「そんなこと言われても基準がわからないわよ」 「とにかくデレすぎだから!それだと私の心臓がもたないのよ!」 「うえぇっ、、イミワカンナイ」 照れたと思ったら、いつの間にか怒ってる。よくわからない理由で怒られてるから本当に意味わかんない。 だけど。 きっと私は彼女のことを昨日よりも好きになる。 ーーこれが恋だと、知っていくの。 ピアノの旋律に鼻唄をのせてくる彼女がいた。 歌声にしてみれば特徴のある声で、だれかの声に埋もれることがなくて。ただ単に私の耳が良いからなのかはわからないけれど、彼女の声を一度覚えてしまえばもうどこにいたって見つけられる自信があった。 鍵盤叩く指先を、楽譜に目をやる私をじっと見つめてくる彼女がいた。 澄んだ赤い瞳で私を見つめて満足そうに笑って、偉そうに口を出してくる。そして時に不満そうに、かと思えば優しく私を見つめてくる彼女がいた。赤いリボンに結われた黒髪が揺れて。ピンクのカーディガンを着た小さい先輩がいた。 「ま、真姫ちゃん?」 「ありゃ?今いいところだったのに」 花陽と凛が同じように首を傾げて私を見てた。小気味良く奏でられていた曲がぴたりと止まっていたことに私自身も驚いた。 「あ、、ごめんなさい」 「何か考え事してた?」 「ううん。何でもないの」 花陽の言葉に返すと、続けて凛がにやにやと意味深に笑って。 「にこちゃんのこと考えてたにゃ?」 「ち、ちがうわよっ。なっなんでそこでにこちゃんが出てくるの!」 「真姫ちゃん。そんなに動揺しちゃったら、」 「バレバレだにゃー」 「うええっ!?イミワカンナイっ」 ふたりの微笑ましいとでも言うような表情にあてられて、この場から逃げ出したくなる。小さい先輩が卒業してから1ヶ月、、そろそろ2ヶ月が経とうとしてるのに。これじゃあまるでいつまで経っても寂しいと言ってるようなものだ。そんなこと無いのに。、、まあ確かにふとした瞬間に思い出してしまうけれど、べつに寂しいとかっていう感情ではないはずだ。少なくとも恋人であるわけだし。こちらから電話をすることにも慣れてきたわけだし。 「真姫ちゃんは素直じゃないにこぉっ」 「、、似てないからやめなさいよ」 「あ、そういえば、、。真姫ちゃんが元気ない時に渡してって、にこちゃんから頼まれてたんだった」 「え?、、、にこちゃんから?」 誰かさんのお馴染みのポーズでくねくねする凛を横目に、花陽が思い出したように話し始める。部室に置いてるんだけどどうする?なんて聞かれて。そんな話をされたら興味がわくのは自然なことだから素直に頷いた。だって私宛てなんでしょ?しかも相手はにこちゃんなら、すぐにでも受けとりたいもの。 「あの、、本当はね?にこちゃんがっていうか、希ちゃんがそう仕向けたというか、、うん」 「??」 「にこちゃんが仕方ないわねー!って置いてったにゃ」 「???」 ふたりの話を聞けば聞くほど気になって仕方ないのだけれど。希が話に出てきたということは何か良からぬことを焚き付けたのではないかと考えてしまう。でも私が元気のない時に渡してってことなら、悪いものではないはず。、、きっと。 部室に着くと花陽は、すっかり寂しくなった棚から紙袋を取り出した。そしてそのまま私に、はい。と手渡す。真姫ちゃんが絶対喜ぶものだから、そう言って。 、、、なによ、元気になるって。 っていうか別に落ち込んでたわけじゃないんだけど。 素直にこうして受け取ってみると。なんだか複雑な気持ちになったりもする。いやでも私宛てなんだし。なにも疚しくないわよ。べつに。そうよ。 「見ないのかにゃ?」 「み、見るわよ。どうせ大したものじゃないんでしょ!」 なんて言いながら内心ドキドキしてしまう。 「、、、あ」 がさがさと紙袋を開けてみると、一目でわかるそれが入ってた。 袋から取り出すとふんわり香る彼女の匂い。 手触りの柔らかい少し色褪せたピンクのカーディガンは、広げてみるとやっぱり小さいのがわかる。そして紛れもなく彼女が着ていたものだということも。 「これって、、」 「あー、真姫ちゃんにやけてるにゃー」 「うるさいっ。にやけてないっ」 凛の言葉に慌てて表情を引き締めたけど、時すでに遅しと言ったところだ。ふたりにはばっちり見られただろう口元のゆるみ。強がりで返したけれどふたりは笑って私を見てた。 「ふふ。元気になった?」 「べ、べつに元気なかったわけじゃないわよ。、、、、でも、ありがと」 「あーーっ!!」 「「「 わっ!? 」」」 突然。背後から聞こえた陽気過ぎる声に、私たち3人は同じように驚いて肩をびくりと強張らせた。振り向くと声の主は穂乃果で、続いて後ろから海未とことりが部室に入ってくる。いきなり大声を出さないで下さい!と海未に叱られながらも、穂乃果は悪びれる様子もなく私の手にあるピンクのカーディガンへ一直線に向かってきた。というか飛び付いてきた。 「にこちゃんだーっ!」 「ち、違うわよ!」 手に持ったカーディガンごと抱き付かれそうになって思わず逃げるように素早く避けて、机の向こう側へ避難する。 「なんで避けるのーっ!」 「にこちゃんじゃないからよっ」 「えー?だってそれにこちゃんのでしょ?少しぐらい穂乃果にもにこちゃん頂戴?」 「嫌よ!にこちゃんは誰にも渡さないんだから!」 咄嗟に放った自分の言葉にはっとする。 「、、、、」 そして一瞬だけ、しんと静まり返った。 「いや、、あの、」 「やーんっ真姫ちゃんかわいいーっ」 「にこがそこまで真姫に想われていたとは、、」 「ち、ちがう!そういう意味じゃなくて、あの、これはべつににこちゃんを独り占めにしたいとかって意味じゃなくて!、、もうっ!!イミワカンナイ!!」 「真姫ちゃん顔真っ赤だにゃあー」 みんなからの注目に耐えきれず、手元にあるピンク色のカーディガンで顔を隠したらやっぱりにこちゃんの匂いがした。恥ずかしい気持ちと久しぶりに感じる彼女が嬉しくて、そしてこんな状況に陥る原因ともなったこのカーディガンがほんのちょっぴり憎たらしい。だってやっぱりドキドキしてしまうから。条件反射、というやつだろうか。 希に焚き付けられて餞別代わりに花陽へ預けられたものが私の元にやってきて、そうして今は部屋にある。部室に置いておくのは躊躇われたから。、、、べつに本当に独り占めにしたいからとかじゃない。換気の悪いところに置くよりもこうしてたまには外気に触れさせるべきだし、べつに何も疚しいことなんて、、。 「、、やっぱり小さいのね」 そんな言い訳を内心繰り広げながら、ハンガーに掛けられたカーディガンをぼんやりと眺めていた。こうしてみればやっぱり私とサイズが違うのね、なんてもう知ってるくせに出てくる感想はそんな当たり前のことだった。 ーー♪~♪~ 「わっ」 今日はどうにも驚いてばかりだ。 鳴り出したスマホの画面にはにこちゃんの名前。もうそんな時間か、なんて思いながらタップして耳にあてる。 「もしもし」 『私のカーディガン持って帰ったらしいじゃない?』 「うえええっ!?」 一言目にそれ。 変に動揺してしまうのは仕方ない。真姫ちゃんってば実は淋しがり屋さんだったんだあ?なんて、やけに上機嫌な声だ。 「な、なによ。勝手に置いてったのはにこちゃんでしょ」 『だって希が「真姫ちゃんの作曲が捗らないときのために」とかって言うから、仕方なく置いてったのよ。、、っていうか作曲上手くいってないの?それ受け取ったってことはそうよね?』 「え、、と、、」 さあ、どう答えるべきか。 作曲が上手くいってないかどうかで言えば、そこまで困ってるわけではなかった。そもそも次の大会だって情報も何もまだ開示されてないし。だから今日も花陽と凛の3人でただ楽しく演奏していた。途中で私の気が逸れたことは認めるけれど。だから、 「、、普通かしら」 『ふぅん?』 「うん」 『一応聞くけど。変なふうに使ってないわよね?』 「へっ、変ってなにっ?」 『、、、もしかして』 「ぁ、ぅ、、」 『、、何かした?』 「ぇ、、、、、あの、、、っ」 ーーす、すこし、、ぎゅってした、、だけ。 少し低めの声で問い詰められて私は仕方なく恥ずかしい暴露をする羽目になった。 だってこの前抱きしめた感覚を思い出してしまったから。部屋に着くなり少しだけ本当にぎゅって抱き締めただけ。一度、、いや、部室でのやりとりも含めるなら正確には二回。でも顔を埋めて匂いを嗅いだりだとか、頬擦りしたりだとかは決してしてない。 、、してないのだけれど。心臓がばくばくと高鳴って汗がたらたら背中を流れる。疚しくないって何度も言い聞かせたけれど、にこちゃんからすれば私は十分すぎるほどに変態なのでは、、?さすがに気持ち悪いって思われて嫌われるのでは、、?そんな考えがぐるぐると回りだす。 『、、、あ、そう』 だけどにこちゃんの反応はやけにあっさりしていた。程々にしなさいよ。なんてことも言われて私はまた都合よく解釈する。程々にってことはこれからも何度かしても良いということではないだろうか?とか。だから思わず良いの?と聞いてしまう。そんな私の言葉に返ってきたのは。 『だって真姫ちゃん。みんなの前でにこちゃんは私のものって言っちゃうぐらいに私のこと大好きなんだもんね?』 「ーーっ!!」 『だから特別に許してあげる』 「ちっ、違うわよ!ーーいや、違わないこともないけど!えっと、つまりあれはそういうのじゃなくて、」 『あははっ』 「もうっ、誰から聞いたのよ!」 必死に取り繕おうとする私と、上機嫌な笑い声。 そんなやりとりさえもスピリチュアルな誰かさんの思惑通りな気がして。今度会ったら覚えてなさいよ!なんて心の中で呟いた。 ーー春色に重なる恋人。