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月に照らされた森林。滅多に人が立ち入らぬ夜の密林。神秘的に光蟲達が舞い、ガーグァ達が暢気に虫を啄んでいた。猪のような外見を持つブルファンゴも外敵が居ないため鼻を鳴らしながら、餌を探している。しかし、一匹がふよふよと飛ぶ雷光虫に気づいた瞬間、
「グオオオオオオオオオォォ!」
静寂を引き裂く咆哮が轟き、臆病な彼等と流石のブルファンゴも一目散に逃げ出していくのだった。
「うわぁ!」
太刀を背負った少年が吹き飛ばされる。なんとか受け身を取り構える。よろよろと立ち上がった彼は全身すり傷だらけで、幾つもの打撲痕も残っている。ハンターにしてはまだ、若く中性的な容姿を持つ彼は、等身には不釣り合いな長太刀を構える。安価な素材と、小型モンスターの素材で作られた防具を纏い、無謀にも彼はジンオウガに挑んでいた。
「殺してやるっ」
殺意を持って少年は目の前、巨体を持つ少女……ジンオウガを睨む。鋭い爪、美しい蒼と黄の鱗、背中には剣のごとき刺。周りには雷光虫が舞い、月夜に美しい輝く。ジンオウガは少年を見下ろしため息を吐いた。
「ふんっ。失せろっ」
軽く爪で少年を凪ぎ払う。かなり手加減した一撃だが、いとも簡単に吹き飛び巨木に叩きつけられる。
「ぐっ……はぁ」
肺から空気を絞り出され、呼吸が一瞬止まる。その間にジンオウガの爪が降り下ろされる。衝撃で呻く少年に避けらる筈はなく、
「………!」
その身を引き裂かれる痛みを想像し、少年は目を瞑る。しかし、その時は訪れない。ふと恐る恐る目を開ける。すると呆れたような少年を見るジンオウガ肩をすくめる。
「弱すぎる……よくそれで私に挑めたな」
そう言うとジンオウガは背を向ける。相手にもされていない。それほど少年と彼女には圧倒的な力の差があった。その気になればすぐに殺せる。最早狩りでも戦闘ですらもない屈辱と恐怖。それを振り払うように少年は叫ぶ。
「まてっ。まだ勝負はっ!」
「着いている。その程度では、私に傷一つ付けられん」
「く、殺してやる、殺してやる!」
足に力を込めて立ち上がる。フラフラと太刀を構えて、闘志を示す。しかし彼女は鬱陶しそうに首を振ると溜め息を吐く。あまりにしつこい少年に彼女はいい加減うんざりしていた。
「はぁ……喰ってやろうかお前?」
少年を掴み、顔の前に持ってくる。少年の前に美しい顔が広がる。鋭くもマカライトのように煌めく瞳に、流れるような金髪。瑞々しい唇が目に入り、恐怖と同時に魅力される。
「……ぐっ」
「私は人の肉は嫌いだ。だがガキの肉なら多少はマシだ……なんだ?やはり怖いか?」
少年の目の前で唇が大きく開く。唾液が糸を引く口内に、生暖かい息が少年を包む。
「……うっ、く」
捕食されるという本能的恐怖。それに全身が支配される。身体が無意識に震え、瞳には涙が湧く。
「ふん、もう遅いがな♪」
ばくんっ。容赦なく閉じられるジンオウガの唇。上半身を咥えられて、足がバタバタと動く
「………やだ、やだやだやだぁ!!」
少年の身体をざらついた舌が舐めあげる。咥内は熱く、生臭い臭いに満ちている。悲鳴をあげ、唯一自由な足を必死に動かす。
「れろ……どうしたさっきまでの威勢は?ほら喰ってしまうぞ?」
ぢゅる……唇に吸引され、前に引きずりこまれる。咥内の奥に引きずりこまれ自由だった脚先もジンオウガの咥内に収まる。唾液と咥内の粘液が全身に絡み付き、殆ど動けなくなる少年。
「せめてもの慈悲だ。丸呑みにしてやろう」
「…………!?」
ジンオウガの死刑宣言に絶句し、必死に動かない身体を動かす。しかし、戦闘による疲弊と舐められたことによる脱力で、ぴくりとしか動かない。そのまま舌が持ち上がり、喉奥へ頭から呑まれていく。
「んぐ……ごっくんっ」
頭から喉肉に呑み込まれる。きつきつの食道を降りていく。外では彼女の喉が人型に隆起していた。
「ひっ……や、やだぁ……」
先程までの威勢は消え、年相応に涙を浮かべ、必死に状況を否定するように手をばたつかせる。しかし喉の肉は容赦なく少年を奥へ奥へ送っていく。
「!!」
ぐぶっ。一瞬のことだが、少年には長い時間を経て胃袋の中に落とされる。衝撃はほぼなく、狭く、熱い胃袋に収まってしまう。酸の臭いに満ちた体内に鼻を覆う少年。
「くふっごちそうさま……」
腹を撫でながら呟く。その内部では必死に少年がもがいているが、外には一切変化がない。ジンオウガには少年の無駄な抵抗が分かり、目を細める。
「やだ、……しにたくない……だして、だしてよぉ~……!」
「ふん、ようやく素直になったな……まぁ溶けていくまでその愚かな振舞いを反省するのだな」
無慈悲に告げられる宣告に少年の抵抗は強まる。なんとか出ようと噴門をこじ開けようとしたり、必死に胃壁を蹴る。いずれも手応えはないどころか、胃袋を活発にさせる。
……ぐるるる……きゅるるる~
「ふふ、悪くないぞ?ほら、もっと頑張れ……溶かしてしまうぞ?」
腹の中から響く少年の悲鳴と抵抗を楽しむように笑うジンオウガ。柔らかな肉壁が少年を包もうと蠢く。
「……やだ、やだ、やだぁ……お願いぃ!だしてぇ!!」
少年は虚勢の鍍金ははげ、命乞いの悲鳴をあげる。たった数分後には何も聞こえなくなり、抵抗も微弱なものなる。
「……ふん。もういいか」
そう呟くと腹に力を込める。
「……ん、うええ……!」
思いきり地面に嘔吐するジンオウガ。胃袋の中身を絞り出すように吐き出し、少年は胃液と粘液にまみれながら吐き出された。
「あ……うあ」
目が虚ろになり粘液濡れになりながらも、少年にはまだ息がある。彼女に少年を殺す気はなかったようで溜め息吐いて首を振る。
「ふん、回復が済んだら失せろ」
「…………う……く」
虚ろになりながらも、その瞳には憎悪が宿る。そこまでの恨みを受ける覚えのないジンオウガは
「……なんだ?お前を何がそこまでさせる?」
ついそんな事を聞いてしまう。
「お前が………みんなを………ころした………」
そんな予期せぬ返答にジンオウガは眉をひそめる。確かに彼女はハンターを狩るが襲われた場合に限る。その上、ハンターとモンスターの狩り合いは互いに命を奪うこと前提だ。パーティーを殺された仇というなら彼のいうことは逆恨みでしかない。
「……甘えるな。それでもハンターか。私達とハンターは……」
「ちがう……お前は……村を……」
「………なに?」
「村のみんなを………ころした………みたんだ……おまえがねえさんの亡骸を……」
「………!!!」
少年のその言葉で、彼女の脳裏にフラッシュバックする光景が映る。数年前に起きたとある出来事。地面が血に染まり、空が紅く焼けたあの日。呻くように彼女は呟く。
「ラクト村……」
「そうだ………お前が………ゆるさない……ぼくは……」
そう宣言すると少年は力尽き、気絶する。ジンオウガは茫然と立ち尽くす。
『シオン♪』
脳裏に浮かぶのは、とある出来事、とある思いで、とある自分を呼ぶ笑顔。
「………面倒だ………本当に……」
ジンオウガ………シオンはそう呟くと少年をつまみ上げ、棲みかに戻ろうと歩き出した。