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「思った通り。ユートさん、とっても良く似合っているわ」
少しはしゃいだ様子で、エマが両手を遊跳の肩に乗せた。
しばらくの間茫然としていた遊跳は、やっとのことで少しだけ冷静さを取り戻していた。
つばを飲み込むと、そろそろと姿見から目を離し、エマの方に向き直る。
「ねえ、エマ。それよりも、聞きたいんだけど……」
エマは小首を傾げ、言葉の続きを促した。
「これ、どうすれば戻れるの?」
成り行きに流されて、メイド姿にまで成りきってしまったが、考えてみればそんなことをする必要は別になかったように思う。
ようするに宝玉の力を止めて、元の姿に戻れば良いだけなのだ。
「簡単よ。戻りたいと心から願えばいいだけ」
エマが示した答えはいたって単純なものだった。
「それだけ?それだけでいいの?」
甲高い声で、遊跳は聞き返した。
エマは両手を腰にあてて、あきれた顔をしてみせる。
「だってその姿はそもそも、あなたがそうなりたいと、思った姿なのよ。戻るのだって、同じことでしょう」
エマの答えは、理屈が通っているようには、思えた。
遊跳はしばらく考えてから深呼吸をすると、両腕を組み、目をつぶってそのことに意識を集中してみた。
(戻りたい……そうだ、僕、本来の姿に、戻るんだ……)
だが、しばらくそうやって見ても、一向に変化が生じる気配はなかった。
「戻らないね……」
エマがつぶやいた。
遊跳は目を開けて、エマに目線を向けた。
両腕を握りしめて、問いかける。
「どうして、どうして戻れないの?」
エマは、苦笑いして、答えた。
「そうね。たぶんユートさんが心から戻りたいと思っていないからだと思う」
その答えに、遊跳は絶句してしまった。
元に戻りたくないなんて、そんなことはないはずだ。
だが、エマの言葉通り、この変身が遊跳の望んだものであるのなら、こころの奥底でこうありたいと遊跳が望んでいたのなら。
それが遊跳の本当の気持ちだということに、なるのだろうか。
現に自分は、この姿で、少女の姿で、エマにメイド服を着せられて、絶頂してしまったのだ。
「ね。あわてること、ないよ」
黙ってしまった遊跳を慰めようとするかのように、エマはそう言ってひらひらと手を振った。
それから。
「しばらくは、女の子の生活を楽しめばいいじゃない」
この状況を招いた責任の幾分かはエマにもあるというのに、まったく無責任なことを言い始める。
遊跳は呆れた表情で、エマの顔を見上げた。
エマは遊跳の瞳を見返すと、両手の指を広げて胸の前で合わせた。
少しもじもじとした調子で、言葉を続けた。
「それにあたしも……できればその……しばらくはユートさんにそのままでいてほしいかも」
思わぬ言葉に遊跳は目を丸くした。
「……実を言うと、あなたみたいな妹が欲しかったの」
そう言って、エマは両手を前に出して、ぎゅっと遊跳の手を握った。
その瞳がいつになく、きらきらと輝いている。
あっけにとられたままの遊跳を後目に、エマはなおも言葉を続けた。
「そうだ!フェイとノルンにもはやくあなたの姿を見せてあげましょう」
「だ……ダメだよ!」
思わず、大きな声をあげてしまう。
少し驚いた様子で言葉を止めた後、エマは微笑んだ。
両手を背中で組んで、少しだけかがみこむ。
そうやって視線の高さを遊跳に合わせてから、優しく問いかけた。
「どうして?」
少し、どぎまぎとしながら、遊跳は答えた。
「どうしてって……僕がこんな……女の子の姿をしていることを2人に知られるなんて」
両手を広げ、自分の姿をエマに指し示す。
「でも、だからといってずっと隠れているわけには、いかないでしょう」
それは道理だ。
元に戻れない以上、この館にいる限り、フェイとノルンから隠れ続ける、というわけにはいかない。
「だけど……」
「そんなに恥ずかしいの?」
遊跳は無言で頷いた。
精霊であり、しもべである2人が遊跳のことを嘲るなどといったことはあり得ないにしても、このジュニアメイドの少女の正体が自分であることを2人に晒すということは、とてつもなく恥ずかしいことだった。
「わかったわ。それじゃあ、ここにいるかわいい精霊の女の子がホントはユートさんだってことはフェイとノルンには内緒にしておきましょう」
そう言ってエマは、遊跳の亜麻色の髪の毛をひと撫でした。
それから姿勢を正すと右手の人差し指立てて頬に近づけ、左手を右手のひじに添えて、何事か考え始める。
「……2人には、あなたのことは新入りの精霊だって説明することにしましょう」
遊跳は、こくんと頷いた。
少女のなりで2人と対しなくてはならないことはどのみち避けられないにしても、その少女の正体が満月遊跳であるということを知られるのは、できれば避けたいことだった。
エマは、自分の提案に遊跳が同意したのをみてとると、いたずらっぽい笑みを顔に浮かべて、言葉を続けた。
「それじゃあ、新人さんの名前を考えないとね」
しばらく、考えてエマは何かを思いつき、ぽんと手を叩いた。
「そうだ。宝玉の名前をとって、マヤにしましょう。あなたは今から新米のジュニアメイドのマヤになるのよ」
遊跳は、どう答えてよいかわからなかった。
自分に女の子の、新米メイドとしての名前がつけられてしまう。
それは自分の存在が、館の主である満月遊跳ではなく、館のメイドであるマヤに、置き換えられるということではないのか。
だけど、仕方がないではないか。
自分が、満月遊跳であることを、2人に知られるわけにはいかないのだ。
「さぁ、新米メイドさん。わかったら自分の名前を言ってごらんなさい」
エマが遊跳の顔を優しくのぞきこむ。
鼓動が速くなるのを感じながら、遊跳はしばらくの間、言い淀んでいた。
それから、意を決して口を開く。
「ぼ……」
間髪を入れず、エマが口をはさんだ。
「ダメよ。女の子がボクなんて言っては。ちゃんと女の子らしくらしく振る舞わないと2人にバレてしまうかもしれないよ」
その言葉にどきりとして、咄嗟に遊跳は言い直した。
「わ……わたしは……マヤです」
その声は少しだけ、震えていた。
「ふふっ、よくできました」
エマはにっこりと微笑んだ。
すっと前に出ると、目の前で緊張するメイドの少女を優しく抱きしめた。
エマの胸に顔をうずめた少女が息を飲む気配が伝わってくる。
「ねぇ、マヤ……」
少女の名を呼びながら、エマはいとおしげにその背中と髪を撫でた。
「あたし、気がついていたんだよ」
抱きすくめられたまま、少女は顔を上げた。
エマはなおも独白する。
「あなたがいつもあたし達のことを目で追っていたこと……」
少女と化した遊跳が、その身をぎゅっと固くしたのが、感じられる。
その呼吸が、はやくなっている。
それは確かに、本当のことだった。
遊跳は彼女たちをいつも目で追っていた。美しく可憐な精霊たちを。
「それだけじゃない。あたし達の身につけているメイド服のことを、いつも羨ましそうに見つめていたこともね」
エマの胸の中で、遊跳は耳が熱くなっていくのを感じた。
確かに遊跳はいつも目で追っていた。メイド服を纏った彼女たちを。
それは、自分が、メイド服に憧れていたから、なのだろうか。
エマに体を優しく撫ですされるにつれ、鼓動がどんどんはやくなっていく。
「ずっと、そう、思ってたんでしょう。あたし達と同じ輪に入りたい。あたし達と同じ女の子になりたい、館に仕えるメイドになりたいって」
少女の装いの下で、またもや股間が固くなっていることに遊跳は気がついた。
そうかもしれない。
メイドにされて、女の子にされて、自分はこんなに興奮しているのだから。
そうなりたいと、思っていたのかもしれない。
息を荒くしながら、エマの胸の中で遊跳は羞恥に身もだえた。
甘い香りが鼻孔を満たし、頭が痺れたようになっていく。
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。素直な気持ちを、言ってごらんなさい」
エマに促され、遊跳はぼんやりとした頭で自分が言うべきことを、探した。
自分の興奮を、切ない欲求を、もっとも満たす答えを。
「ぼ……ボクは……」
「あたし」
耳元で聞こえたエマのささやきが、脳裏を満たす。
「あ……たしは……」
まるで、操り人形にでもなってしまったかのように、遊跳はエマの言葉を繰り返した。
いつのまにか、エマは遊跳の背後に周り、その胸と腰に手を回す体勢となっていた。
胸のあたりを撫でられると、それまでとは比べようのない、心地よい、切ない感覚が遊跳の全身に広がっていく。
今まで感じたことのない未知の感覚に遊跳は喘いだ。
身体から力が抜け、エマにその身を委ねるしかない。
エマに、すべてを、委ねるしかない。
「女の子になるの?館に奉仕する、メイドになるの?」
愛撫を続けながら、エマは少女に問いかけた。
その答えは、すでにわかっている。
いまや彼女もすっかりと興奮し、その瞳は妖しく輝いている。
手の中にあるいたいけな少女を、正しく導かなくてはならない。
「な……なります……女の子に……あたし……なります……」
絞り出すようにして、エマの手の中の少女はそう答えた。
鈴のような、少女そのものの声色だ。
「誓約、するのね?」
「ち……誓います……」
喘ぎながら、熱に浮かされたような陶酔しきった表情で、自身とエマの望むとおりに、少女は答えた。
「あたしは、マヤは、メイドに……クラウストラムのしもべになります」
その答えを聞いたエマの顔に、満足げな表情が浮かんだ。
その右手は、いつのまにか少女のエプロンとスカートの内側に潜り込んでいた。
ショーツとタイツのその上から、軽くひと撫でする。
それだけで、十分だった。
「ひゃ……ふぁっ!」
軽い悲鳴を漏らして、少女は初めて味わう快感にうち震えた。
その瞬間、少女の奥底で遊跳の精がほとばしり出た。
それは目もくらむような、絶頂だった。
脱力した少女はエマの腕に身を任せ、エマに髪の毛を撫でられながら、しばらくの間、ふたつの快感の余韻に浸っていた。
少女はぼんやりと、自分自身が選んでしまったことについて、考えをめぐらせた。
誓約は、なされてしまった。
依然として自分はクラウストラムの後継者だ。
だが同時に、クラウストラムの5人目のしもべにも、なってしまったのだ。
(続く)