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前庭では、なおも三人の精霊が持ちこたえていた。
だが、それにも限界が近づいていた。
いずれも手傷を負い、疲労と焦燥の色も濃い。
「も、もうダメ~」
あられのようにふりそそぐ光弾をぎりぎりでかわしながら、フェイが情けない声をあげた。
光弾によって地面に穿たれた穴の一つに足を取られ、転倒してしまう。
その至近に、マヤが仁王立ちとなった。
フェイは涙を目に浮かべ、振り上げられる光の刃を見上げた。
「そこまでよ」
マヤの手が止まった。
声の下の方へゆっくりと振り向く。
アデラが立っていた。
右手に携えているのは、白く輝く魔玉だ。
「アデラ!」
片ひざをついて痛みに耐えながら、ノルンが安堵の叫びをあげた。
「……邪法使いは滅びた……戦いはもう終わりよ」
マヤに見えるように魔玉を掲げ、アデラは告げた。
マヤの両手からほとばしっていた光はたちまち勢いを無くし、すぐに消え去った。
その手が、ダラリと下がった。
「こちらに来るのです。仕える主を失った者よ」
アデラは玉を掲げたまま、マヤにそう告げた。
「はい……」
感情のない声で答え、マヤは素直に玉を保有する者の命令に従う。
ゆっくりとアデラのすぐ前まで歩み寄り、そのまま足を止めた。
アデラは白く輝く玉を、彼女の額に押しあて、命じた。
「さぁ、願いなさい。差し出した自らの意思とこころを、取り戻したいと」
マヤは、ぼんやりとアデラの顔を見上げ、命ぜられたとおりに願った。
「私は……マヤは……意思とこころを……取り戻したい……」
言い終えた瞬間、魔玉が輝きをまし、溶け込むようにマヤの額に沈んでいく。
額の輝きが収まると、マヤは長い吐息をついてから、体をふるわせた。
「あ……あたし……」
困惑したような表情でアデラを見上げる。
意思あるものの顔だ。
「目が覚めましたか。満月遊跳さま。我が主にして、精霊たちを統べる王」
それからアデラはその顔に微笑を浮かべて、続けた。
「……そして、今は無垢なる精霊の少女、マヤ……なんですって?」
マヤは、ぽかんと口を開けた。
いまさらながら、自分がどんな姿で、アデラに対しているかに思いが、至る。
「ひっ……」
マヤはおかしな声をあげ、ぶるりと身震いをした。
その顔が一瞬で真っ赤に染まった。
「ああああ……あの、その……これは……」
その様子にアデラは苦笑すると、マヤの肩に手を置いて、彼女を優しく制した。
「いいのですよ。マヤ。これはあなたのせいでは、ないのですから」
「ご、ごめんなさい……」
顔を赤らめたまま俯いて、か細い声でマヤは謝罪の言葉を口にした。
止められていたにもかかわらず収蔵庫に立ち入った自分には、責任がある。
この事態を収拾するのに、アデラがどれほどの苦労をしたことだろうか。
「それにしても……」
両手を腰に置いて、アデラは留守居役の三人の方に向き直った。
「あなた達は私が留守の間、いったい何をやっていたのです」
三人は、ばつの悪そうな顔を浮かべた。
もちろん留守居の役割を果たせなかったことについて、引け目を感じているからだ。
だが、それだけではない。
こうなった経緯、遊跳が蜍没の手に落ちた経緯について、実際のところ彼女達は何も覚えていないのだ。
「違う、違うよ。アデラ。これは全部、あたし……いや、その、僕が悪いんだ」
ぎこちなく言い直しながら、遊跳はアデラの前に割って入った。
こころを取り戻したとはいえ、よほど注意しなければ、その口調も、振る舞いも、自然にマヤのものになってしまう。
前に立つ主のその微笑ましい様子を見て、アデラは表情をやわらげた。
アデラはなおも三人をかばおうとするマヤをすっと抱きしめると、その頭を撫でた。
「まあ、かわいらしい新しい精霊の女の子に免じて、今度だけは多めに見ることにしましょうか」
あらゆることが元通りになったわけではない。
遊跳はいまだ[[rb:幻力の面紗 > マーヤーのヴェール]]の内側に閉じ込められたままだ。
それに3人のしもべ達の内側にも、同じように閉じ込められている者たちがいる。
そういったことにはこれから何らかの対処を考えなくてはならないだろう。
だが、今度こそ邪なる魔法使いは滅び、少なくともクラウストラムの後継者は復帰した。
長い時を存在し、多くの物事を見続けてきた[[rb:旧き根源の精霊 > アル・ジン]]であるアデラにとっては、このくらいのことは大した問題のうちに、入らない。
そして、彼女にはその経験から確信していることがあった。
「まぁ、どんなことも最後には……すべてあるべきところに、収まるものです」
そう言って、アデラは、側に立つ亜麻色の髪をした精霊の娘の頭を優しく撫でつけた。
(終わり)
この後、後日譚を掲載予定です。