森永千夜は、業界でも指折りの人気コスプレイヤーだった。
金銭的にはもう困らないほどの地位を築いていたが、それでも「高額すぎる依頼」は断れなかった。
依頼主は匿名を希望し、金額だけが先に振り込まれていた。
七桁後半。
まどか☆マギカの巴マミのコスプレ一着。
撮影は一回きり、場所は指定の別荘、時間は一時間だけ。千夜は内心で小さくガッツポーズをした。
マミさんは昔から大好きだったし、衣装も完璧に仕上げてきた。金もいい。こんな美味い話はない。
別荘は山奥にあり、夜の闇に沈んでいた。応対した執事のような男に案内され、広い応接間に通される。
そこにいたのは、予想以上に年配の富豪だった
。スーツは高級だが、どこか生気のない顔。目だけが異様に光っている。
「素晴らしい。もう完璧だ」
千夜はまだウィッグを手に持ったままだった。
金色のドリルヘアは最後の仕上げ。衣装は完璧に着込み、リボンも銃も揃えている。あとは頭だけ。
「え、まだウィッグを……」
「いや、これでいい」
富豪はゆっくりと立ち上がり、千夜に近づいた。
声は低く、抑揚がほとんどない。
「君は知っているかな? 巴マミの最も印象的なシーンを」
千夜は笑顔を保ちながら、少しだけ後ずさった。
冗談だろうと思った。
富豪の目が、まるでガラス玉のように冷たい。
「マミさんは……首を、こう……」
言葉の途中で、富豪の手が動いた。
テーブルの引き出しから取り出したのは、薄く細いワイヤーだった。千夜が息を吸うより早く、ワイヤーが首に回される。
「マミった姿が見たいんだ」
最後に聞いたのは、その静かな一言だけだった。
次の瞬間、視界がぐるりと回った。
床に落ちた自分の体が、ゆっくりと倒れていくのが見えた。
金色のウィッグは、まだ手の中に握られたままだった。
富豪は満足げに頷き、倒れた体を見下ろした。
「完璧だ。最高のマミさんだよ」
富豪は床に転がった千夜の首を、静かに見下ろしていた。
金色のウィッグはまだ手に握られたまま、表情は凍りついた笑顔のまま。完璧なマミさんだった。
その時、部屋の扉が音もなく開いた。
最初に千夜を案内した執事のような男が、頭を垂れて入ってきた。
さっきまでいなかったはずなのに、まるで最初からそこにいたかのように自然に。
「旦那様、お見事でございました」
執事の声は低く、抑揚がない。
富豪と同じく、生気のない響き。
富豪はゆっくりと顔を上げ、執事を見た。執事は一歩近づき、床の首に視線を落とした。目が、わずかに輝いた。
「……あの、旦那様」
執事は珍しく口ごもった。
「こちらの……お顔を、頂いてもよろしいでしょうか?」
富豪は無言で首を見下ろし、それから執事を見た。数秒の沈黙の後、静かに頷いた。
「好きにしろ」
執事の顔が、初めて表情を浮かべた。
執事は地下の自室に千夜の首を抱え込み、鍵を二重に掛けた。
その顔を、独り占めできる。
机の上に、慎重に首を置く。切断面は下にして、顔だけが上を向くように。
まだ体温が残っていて、頬はほんのり桜色。
笑顔のまま固まった唇は、撮影前のピースサインのように柔らかく開いている。
血はほとんど流れていない。ワイヤーの仕事は完璧だった。
執事は椅子を引き、千夜の顔を真正面から見つめた。
息が荒くなる。
「千夜さん……ずっと、画面越しに見てましたよ」
指先で、まず眉をなぞる。細く整えられた眉。
次に、まつ毛の長い目元。見ひかれた瞳をそっと撫でる。
生きていた頃の動画で、何度も見た表情——笑顔、ウィンク、ちょっと困ったような顔。今はすべて自分のものだ。
頬を両手で包み、親指で唇をなぞる。柔らかい。まだ湿っている。
執事は顔を近づけ、ゆっくりと唇を重ねた。
冷たいが、内部はぬるりと温かい。
舌を滑り込ませ、千夜の舌を探る。
もう動かない舌を、自分の舌で絡め取るように絡める。
唾液が混じり、糸を引いて滴る。
「ん……甘い……」
執事は呟きながら、キスを深くした。
吸い付き、歯列を舐め、口内を隅々まで味わう。
千夜の歯は白く整っていた。
息を吹き込み、肺がないのにわずかに膨らむような錯覚に浸る。十分に濡らした後、執事は立ち上がった。
ズボンを下ろし、すでに硬く張りつめたものを取り出す。脈打っている。先端から透明な液が滴っていた。
千夜の顔の前に跪き、まず頬に擦りつける。
柔らかい肌が、熱を伝える。
次に、唇に押し当てる。自然に開いた口に、ゆっくりと挿入した。
「はあ……千夜さん……」
温かく、ぬるりとした感触。
死後間もない口内は、まだ柔軟で、舌が自然に絡まるような錯覚を与える。執事は腰をゆっくりと動かし始めた。
奥まで押し込み、引き抜き、また押し込む。
千夜の唇が、ものを包み込むように締まる——もちろん、ただの錯覚だが、それで十分だった。机の端を掴み、動きを速める。
湿った音が部屋に響く。
千夜の喉の奥に当たるたび、わずかに首が揺れる。
金色のウィッグは別の部屋に残されたまま、黒髪の千夜の素顔が、ただただ受け入れる。執事の息が乱れる。
目を閉じ、想像を膨らませる。
千夜が生きていて、自ら口を動かしていると。
動画で見た、あの可愛い声で「んっ……」と喘いでいると。
「千夜さん……もっと……奥まで……」
腰の動きが激しくなる。机が軋む。
千夜の顔が、わずかに赤みを帯びる——血が残っているせいか、錯覚か。
限界が近づく。
執事は両手で千夜の頭を固定し、最後まで深く押し込んだ。喉の奥で、熱いものが迸る。
「はあっ……あぁ……千夜さん……!」
震えながら、すべてを吐き出す。
口内が満たされ、唇の端から白濁が溢れ、頬を伝う。
執事はゆっくりと引き抜き、千夜の顔を見下ろした。笑顔のまま、唇が汚れている。満足げに、指でそれを拭い、自分の指を舐め取る。
「最高だったよ……千夜さん」
その後も、執事は何度も繰り返した。
顔を枕のように抱き、頬に擦りつけ、時には跨がって再び口を使い、夜が明けるまで千夜の顔を堪能した。
朝になり、富豪はすでに別荘を去っていた。
執事は千夜の顔を丁寧に洗い、ホルマリン瓶に浸けた。
棚の一番上に、特別な場所を用意して。
千夜のSNSは、永遠に止まったままだった。