「おはようございます」
旅行から帰国後の翌日、中沢は特に休みを取ることもなくそのまま会社に出勤した。
正直体は長時間のフライトでくたくたなのだが、土日と旗日を挟んでいるとはいえ、通常稼働日を2日も潰している以上、一線級営業が有給を消化するなどというゆとりチックな選択肢はない。
「中沢、えらいこっちゃ。ちょっと来てくれ」
事務所に入ると開口一番北浜から呼びつけられた。
所長である北浜はたいがい中沢よりは朝早く出社していることが多いが、今朝はPC画面を眺めながらいつになく真剣かつ焦りの表情を浮かべていた。
「所長、どうしたんすか。休み中になんかトラブル発生すか?」
中沢が傍まで行くと、北浜はモニターを指さしながら上ずった声色でこう呟くのだった・・
「無い。無いんだよ・・」
「何がですか」
「写真だよ、写真。アキちゃんのセクシーショット。旅行中にレンタルのスマホで撮ったじゃん?あれまとめてメールで自宅と会社のPCに転送したはずなんだけど、どっちもひとっつも届いてない・・」
「あ~もう、横着して自分の携帯持ってかないからですよ」
「だってよお、使えない携帯なんか普通ホテルに置いてくだろ?スマホって何気に結構重いし」
「僕なんかの感覚だと後からメールで送る方がよっぽど面倒くさいですけどね・・途上国の海外キャリアだからなんか通信トラブルでもあったんでしょう?仕方ないから僕の方のスマホで撮った写真をシェアしますよ、しっかし鈴木さんのトップレス最高だったな、彼女今日午後から出社ですか?」
「ああ、ホントは終日休むってゴネてたんだけど、営業初日に事務員不在は困るって半休で出てもらう事にしたんだよ」
「そっかあ~、いいなあOLさんはフリーダムで、てゆうか彼女の顔もう性的バイアス無しでまともに拝む自信無いんですけど・・て、
何いッーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「どうした!中沢!?」
「無い!無い!・・」
「どうした!何が無いって!?」
「写真ですよ!鈴木さんのセクシーショット!SNSやようつべには絶対上げられないやばい画像の数々・・」
「ええっ!なんで!?向こうではちゃんと撮れてたんでしょ!?」
「ええ、ホテルの部屋で確認しましたよ!そりゃもう何度でも・・」
「だったらどうして・・」
「え?え?なんで?そもそもスマホの画像の保存ってどうなってんの?クラウド?それとも本体のハードディスク?ほわっとはぷん?あいどんのう・・」
「中沢、落ち着け、もうすぐ大久保所長たちも出社するから!そしたら貰おう、アキちゃんの写真、な?」
「はい・・」
そんなこんなで騒いでいるうちに北浜の携帯のLINEワークスの着信音が鳴った。
大久保所長からだった
『お疲れ様です。朝早くから悪い。鈴木さんの写真そっちにある?』
北浜はすかさず大久保へ電話を入れたのだが、それによると大久保のみならず竹田の方のスマホで撮った写真も行方不明になっており、それどころか、よくよく話を聞いてみると事態はより一層深刻かつ不可解なのであった、
「いや北浜所長、うちの若い連中に聞いたんだけど、俺たちあの日祭りの会場に到着してすぐ、屋台で売ってたテキーラのカクテル飲んで全員ぶっ倒れて半日寝てたっつーんだよ!なんかもうオレ訳分かんないんだけど?そんなこと無いよなぁ??」
「どうでした?」
電話を切った北浜に、中沢が不安気な表情で話しかける、
「いやそれがだな・・」
北浜は中沢に事情を説明した。
「そんなアホな!?それだと僕たち全員同じようにぶっ倒れて、同じような夢だか幻覚を見たってことですか?そんなありえないでしょう?それに山崎たち(三河安嬢若手営業)もそんな事ひとっことも言ってなかったし・・」
「まあまあ、あいつらももうじき出社してくるだろうから、来たら聞いてみようじゃあないか」
「っざいあ~~~す」
来たわ。
「ええ、所長も中沢さんもめっちゃテキーラ飲んでましたよ。で、いきなり倒れて、僕たちすげ~困ったんですけど、なんか臨時の休憩所みたいなとこあったんでそこに放・・もとい介護して頂いて、そしたら息も絶え絶えの竹田所長がお前らもういいから、好きに観光して来いって言うんで、お言葉に甘えて自由行動させて頂きました」
「・・山崎お前ってゆとり世代だっけ、Z世代だっけか?」
「う~ん、そーゆうのよく分からないんすけど、ゼッーーーーーーット!の方じゃないすかね」
「・・分かった。そういや三芳(もう一人の営業)は来るんだっけ?」
「あいつ今日有給ですよ。だるいって」
「・・分かった。もういい」
山崎がPCを立ち上げるのを見ながら中沢は、
「事務員の方がよっぽど働くじゃあないですか・・」と弱々しく呟いてみせた、
北浜の方は「なんか納得いかねえなあ・・」とぶつぶつ文句を言っていたが、
「あ、こうしちゃいられねえ」と急に我に返り、アウトルックを立ち上げた。
「渡辺部長と浜田事業部長に帰国メール打たなきゃ。後手に回ったら気合入れられちゃう」
混乱状態の真っただ中ではあったが、所長としてやるべき事はやらなければならないのだった。ビジネスコンティニューなのだった。
メールを打ちながら、北浜は中沢に、
「俺どうしても腑に落ちないから、昼休みにイベントのホームページとか探してみるわ。中沢くんもなんか思い当たる事あったらヨロシク」と、駄目モト的な指示を出すことも忘れなかった。
「おはようございま~す」
PM12:45、鈴木嬢到着。
更衣室から出て来た鈴木さんは本日は眼鏡を着用、北浜は思わず「ひゅう~」と声が出てしまう。やっぱり制服姿もイイ(゚∀゚)!
「お、珍しいじゃん、今日久々に眼鏡?」
「えへへ、ちいかわのハチワレモデルで~す。争奪戦を制しました~」
北浜と鈴木さんが喋っている間に中沢はなにやら熱心にPCで検索をしているようだったが、突然何かを発見したのか「あっ!!」と声を発した後、
「所長、所長、ちょっと!これ!見てください!」と、やや興奮気味に北浜を手招きした。
「おお、どうした?なんか見つけたか?よくよく考えたら会社のPCってフィルター掛かってるから海外のディープなサイトとかは閲覧できないようになっている・・」
「ええ、”ナンベイヤ マルディグラ”とかで検索しても、大した情報は見つけられなかったんで別な方向からアプローチしてみました」
「へえ、というと?」
「実は”サンガリヤ大農学部”とかで検索かけてみたんですよ。そしたら・・」
中沢は画面をスクロールさせた、
ペーネロペだぁ~~~~~~~っ!!
その言葉を聞いた途端、PCを立ち上げている最中の鈴木さんの背中が一瞬、ビクッと反応したように見えた、
(なんだよペネロペ、やっぱいるんじゃん!)
(白衣姿もカワイイでしょ?ところで、今の鈴木さんの反応・・)
(ああ、間違いない。何故だか分からんがとにかく「史上最大のオッパイ祭り」に俺たちが立ち会ったのは絶対に幻なんかじゃない)
「桃源郷・・」
「え?」
「かつて中国故事の伝説の楽園「桃源郷」に迷い込んだ旅人は、そこから戻って来た時に証拠になる一切のものを持ち帰ることが出来なかったというが、ひょっとしたら我々もそういう・・」
「いや所長、綺麗にまとめようとしなくていいですよ。それより次回の社員旅行、やっぱフランス行きましょうフランス。ビーチリゾート。ペネロペみたいなエッチな女の子いっぱいいるかも・・」
「お、いいねえ。女子社員連れてな。オッパイ祭り第二弾だな。また積立金貯めなきゃな、あ、中沢そのペネロペの写真、大至急右クリック保存しといて!」
「え~、そんなに慌てなくても・・」
「いやいや、また夢になっちまうといけねえ」
「芝浜すか」
~Fin~