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「いいか!?進藤CEOの前では絶対に大人しくしてろよ!?」
マネージャーの加藤がエレベーターの中にも口うるさく言う。
「わかったわかった」
俺は耳をほじりながら言う。
エレベーター内はうちの会社のお偉いさんや法務の人間でぎゅうぎゅうで、俺には誰が誰かなんてどうでもいいが、
目の前の無駄に高そうなスーツを着たハゲ親父が苛立ちを隠しきれない顔で振り向いて来やがったので
「あ゛?なんだよ」
とガンつけてやった。
ハゲ親父は明らかにビビった顔をしてモゴモゴ徒歩何か言いながら前に向き直った。
身長185cmの鍛え上げた肉体を持つ、総合格闘技ヘビー級チャンピオンの俺に歯向かえる男などいるわけがない。
偉いさんだろうがなんだろうが、俺に意見しようなど、調子に乗りすぎだ。
俺の気分次第で、全身の骨へし折ってボロ雑巾になるまで叩きのめせるという事実を、どいつもこいつも理解していない。
「おい、本当にわかっているのか!?お前のせいでほぼ確実に何億円もの賠償金払わないといけないんだぞ!?」
俺は数日前にクソな週刊誌に女絡みのスキャンダルがすっぱ抜かれていた。
で、俺がモデルやっていた加圧シャツやら下着やらの会社に謝罪に行くらしい。
馬鹿くせえ。
俺が眉をひそめて加藤を見下ろすと、加藤はやや怯んだがそれでもまだ言葉を続けた。
「し、進藤CEOはな、若くして一気に会社の規模を拡大して、ほとんどすべての業種にまで参入して、最早日本経済界の重鎮の中でもトップなんだぞッ…!?」
ふぁー、と俺はこれ見よがしに欠伸する。
どれだけの大物だろうが金持ちだろうが、体一つで向かい合えばはっきりとどちらが男として格上か、その優劣がわかる。
机であくせく働いているようなやつに頭を下げる気になんてなりようがない。
「そ、それにだぞ、進藤CEOに歯向かう人物や会社はことごとく……」
半ばパニック状態の加藤がまくし立てている間に、エレベーターが最上階に到着した。
高級でシックな内装に一瞬驚き、すぐに苛立つ。
ピシッと細身のスーツを着た若い男が出迎え、「ご足労様です」と頭を下げ、「進藤は奥の部屋でお待ちしております」と先導するように歩き出す。
興奮していた加藤も雰囲気に気圧されしたように黙り込み、他の面々の顔色も一様に青ざめ始めていた。
ハッ、どいつもこいつもダサすぎる。
どうぞ、とたどり着いた分厚いドアを開けると、薄暗いが広大な部屋が現れ、さすがに意表をつかれ俺も目を見張った。
中央には巨大な円卓と等間隔に並べた椅子、そして壁は全面窓で東京の夜景が壮大に広がっていた。
そして逆光に黒い影が浮かび上がらせる大柄なスーツを男。
そいつがゆっくりと振り返った。
……デカいな、と俺は反射的に思った。
身長も2m以上あるだろうが、最高級スーツに包まれた肩幅は馬鹿でかく、厚い胸板にサックスブルーのシャツははち切れんばかりに盛り上がっている。
「こっ、この度はとんだご迷惑を……ッ!」
うちのハゲ親父が意気込んで中に駆け込むと、パッ!と照明がつき、大男の仔細がはっきりとわかった。
男は40代後半に見えた。
堅そうな短髪には白いものがいくらか混じって見えるが、全身にみなぎる溢れんばかりの精力が、その体躯とオーラにはっきりと表れていた。
秀でた額、濃い眉に彫りの深いくっきりとした目、太く通った鼻柱、でかい口にガッシリとした顎。
清潔感はあるが揉み上げの濃さがその男性ホルモンの強さを隠しきれていなかった。
オーダーメイドであるだろうスーツでも、その恵体ぶりは隠しようがなく、脚も長く、その腰の位置はうちのハゲの鳩尾よりも上にありそうだった。
だが均整が取れている分見逃しがちだが、その腿の太さは尋常でない。
競輪選手でもまるで勝負にならないだろう。
……最近やたらリーマンが筋トレしてるが、こいつはその最右翼ってとこか。
俺が胡乱な目を向けていると、進藤が俺を見て深い笑みを浮かべると悠然と近づいてきた。
接近してくるとそのガタイの異様さが如実に伝わってくる。
185cmの俺が、その肩くらいにしか届かない。
「こ、この度は私どもに温情をかけてくださるとのことっ……!」
ハゲが媚びへつらうようにへこへこと頭を下げながらチラチラと慄くように進藤を見上げる。
契約義務違反で支払わなければならない何億という金を、場合によっては帳消しにする、という連絡があり、うちは雁首揃えてやってきたのだ。
「ああ、もちろんこちらの条件を飲んでいただければ、ですが」
進藤がよく響きバリトンで笑みを浮かべたまま答える。
だがその視線は俺を"見下ろし"続けている。
……気に食わねえ。
俺は眉をへし曲げ進藤を睨み上げたが、奴は余裕の態度を崩さない。
「は、はいそれはもうなんでも!!どんな条件でしょう!?」
数億円がチャラになる話にハゲは意気込む。
「彼を1週間僕に貸してください」
進藤がハゲには一瞥もくれず、爽やかに言う。
「……は?」
俺は思わず声を上げた。
「か、彼って……征人をですか?」
ハゲが俺を指しながら言う。
ええ、と進藤が笑顔鬼畜うなづき、初めてハゲの方を見る。
進藤は笑顔のはずだが、ハゲは蛇に睨まれた蛙のようにビクッと体を縮こまらせた。
「い、いえ、も、もちろんそれは構いませんが」
おい。俺は舌打ちをするが誰にも相手にされない。この場にいるすべての人間の注意を、進藤は惹きつけ、平然と立っている。
「ゆ、征人は、その……躾がなってないと言いますか。し、進藤CEOを不快にさせてしまうのではないかと……」
チラチラと進藤を見上げながらハゲが言葉を続けるが、進藤の笑みは揺るがない。
「ハハッ、元気で良いじゃないですか。僕もこう見えて体を動かすのが趣味でね。」
言いながら進藤がチラリと俺を見る。
「彼にちょっと付き合ってもらいたいなと」
……凡人にはとても理解できない要求に沈黙が落ちる。
つまりなんだ……?俺相手にスパーリングだがなんだかをこいつは希望しているってことか……?
それで数億円の賠償金をチャラにすると……?
舐められた発言に俺の血液が沸騰し始める。
………たまにいるんだよな、ちょっとガタイが良くて仕事かなんかできるだけで調子に乗るオヤジが。
進藤は確かに見たことがないほどデカいガタイだが、1日の大半を労働に従事する、ただの壮年の男だ。
それが世界チャンプのこの俺と……?
ふさげっ…!と声を上げかけると物凄い勢いで隣の加藤が俺の腕を引っ張り、「い、言う事聞け!お前に億払えるのか!?」と耳元で暑苦しく囁かれる。
騒ぐ俺達の様子を見て、ハゲは早急に話を畳んだ方が良いと判断したのか、
「そ、そんなことでしたら1週間と言わず何ヶ月でも!どうせこれだけ騒ぎになれば当分は試合はできないですし、下手すれば刑事告訴されかねないですから……」
ハゲの言葉に進藤が相好を崩す。
「そうですか?では早速今夜からでも?」
「もちろんもちろん!!」
異様な話の展開に俺は目を剥くが、棚からぼた餅のような話に浮き立つうちの人間は、早々と話をまとめ上げ退室しようとしていた。
いいか!?礼儀正しくするんだぞ!?と加藤が耳元で暑苦しく囁き、その群れに紛れる。
「では、またこちらから連絡する、それでよろしいですね?」
俺だけが部屋に置き去りにされ、見送る進藤がその長身を入口のドアに預け、ハゲに確認する。
ええ!ええ!!とハゲは予想以上に簡単に済んだ話に顔中で笑って、ペコペコと何度も頭を下げている。
進藤は笑みは崩さないが、まるで追い出すように、その数人の男をまとめて抱き潰せるようなガタイでうちの人間を外に押し出し、「ではそういうことで」と分厚い扉を閉めてしまう。
ガタン、というその重い音の後、沈黙が落ちた。
大都会のど真ん中であるにも関わらず、なんの音もしない。
防音対策が施されている。
「悪いね、急に」
進藤が穏やかな笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。
異様にデカい黒の革靴が妙に目に付く。
余裕で35cmを超えるような馬鹿でかい足。
……いくらこいつが2mの大男でも、こんなに足がデカいことがあるか?
「俺くらいになるとなかなか楽しめる相手がいなくてね」
進藤の言葉に意識を引き戻される。
その傲慢な調子に乗った発言に反射的に唾を吐きそうになるが、加藤の言葉を思い出し、んぐ、と飲み込む。
「ジャケットを脱いでみてくれないか?」
進藤の言葉に眉を潜めつつ、綿の白Tシャツ1枚になる。
焼いた浅黒い肌には鍛え上げた太い筋肉の束が盛り上がり、袖はギチギチ、浮き上がる太い腱や血管は俺の筋肉が闘うための筋肉であることを如実に表している。
ふうっ!と息を付き、無意識に筋肉を盛り上がらせようとした瞬間、ガッ!とグローブのようなデカい手が俺の腕を掴んだ。
「っ!?なにすん…だ…」
進藤の手のデカさに思わず言葉が止まる。
常人より遥かに太い俺の上腕を安々と掴み切る節くれだった分熱い手。
進藤は無言だったが、その表情に軽い失望の影が浮かんだ。
無言で、もう片方のこぶしでコツコツと俺の大胸筋の厚みを確かめるようにノックする。
「……引き締まっているな?」
言葉を選ぶように進藤が言う。
……はっ、ビビったかこいつ。
「まあな!ぶくぶく膨れた筋肉じゃ動けないただのでくの坊になるからな!」
俺の言葉に進藤は「違いない」と曖昧に笑い、「ついてきてくれるか」と俺を部屋の奥に誘った。
プライドをへし折ってやった快感に俺は上機嫌で後に続いたが、奥の壁にガコン!もエレベーターが現れ、驚きで思わず声を上げた。
「面白いだろ?俺の地下のプライベートルームに直通なんだ。乗ってくれ」
進藤がにこやかに促す。
その瞬間、俺の本能が何かを叫んだ気がして足を止めたが、「どうした?」と進藤に首をかしげられ、「……なんでもねぇ」と乗り込んだ。
音もなく、エレベーターが閉まる。
静か過ぎて下降がまるで感じられない。
エレベーターは広いが、進藤の馬鹿でかい体躯に不快に息苦しい。
背中は見上げるようで広背筋がメリメリと広く分厚く発達しているのが、そのシルエットと隆起ではっきりとわかった。
ケツもデカく、筋肉の塊のようにどっしりと盛り上がり、俺の胴回り程もあるような腿に続いている。
無音でドアが開いた。
暗いが際限のない広い空間が感じられる。
進藤が先に出ると明かりがついた。
なッ……!と俺は絶句した。
そこは最新鋭のトレーニングルームだった。
中央には金網に囲まれたオクタゴン、周囲には見たことないほど巨大なサンドバッグ、まるでサイズの違うバーベルなどのトレーニング器具がずらりと並んでいる。
「なかなかだろう?労働のストレスをこれで発散してる、というわけさ」
進藤が濃紺のネクタイを解きながら振り返り言う。
遅れてトレーニングルームに入ると、背後のエスカレーターが静かに閉じた。
バサリと進藤がジャケットを脱ぎ、そばのテーブルに放る。
サックスブルーのワイシャツ1枚になると、その肉体の異様な猛々しさが如実になった。
はち切れんばかりの上半身の太い筋肉の形がはっきりと見て取れる。
薬でもやってるのか……?こんなバルク、アメリカでも見たことがねぇ…。
「グローブとかが必要ならそこにある」
進藤が袖のボタンを外しながら顎で隅のキャビネットを顎で指し示す。
「……は?あんたマジで俺とスパしようっていうのか?」
俺の声に滲む怒りなどまるで気づかないように進藤は、「ああ」と頷く。
「大して楽しめないかもしれないが……まあやってみなきゃわからないだろう?」
俺は更に食いつこうとしたが、バサッ!と進藤がシャツを脱ぎ捨て、その凹凸激しい筋肉隆々の肉体に張り付くようなグレーのインナー1枚になり、思わず声を飲み込んだ。
……進藤のウエイトは、軽く150kgを超えているように見えた。
90kgの俺の、倍以上の大胸筋の厚み、岩のような上腕筋が盛り上がる腕、飛び出すほど盛り上がる驚異的な腹筋の瘤。
少し動くだけでドウンッ!!と分厚い筋肉が波打ち、ゴギュッ!と盛り上がる。
進藤の熱気が、その雄臭い匂いと共に立ち上がった気がした。
「……はっ、やっぱり社長さんは自社商品着てんだな?」
進藤のとんでもない筋肉に呑まれたことを誤魔化すように軽口を叩く。
進藤が着ているインナーは、俺がモデルを務めた加圧シャツだった。
はは……と進藤が下を向いて笑う。表情が見えない。
「これは実験品というか……俺用の特注なんだ」
そう言いながら、ガチッ!とベルトを外し、スラックスも脱ぎ捨てる。
驚いたことに、下半身も同じくグレースケジュールインナーで足首まで覆われていた。
腿同士が触れ合うほどの、凶悪な大腿四頭筋のえげつないほどの発達ぶりが、ギチギチのインナーではっきりと見て取れる。
そして、ずっしりとした股間の膨らみ。
太い円筒が斜め上に、腰骨まで到達するようなシルエットを浮かび上がらせている。
「俺のこのインナーは、販売している商品の数億倍の圧力をかけられるんだ」
……まるで話が理解できない。
……数億倍の圧力……?
「まあ平たく言うと、着物の晒とかサポーターノ強化版みたいなもんか」
進藤が言葉を続けるがまるで理解できない。
俺の戸惑う様子に進藤が苦笑する。
「まあ見たほうが早いな」
進藤がインナーの首元を掴み、その並外れた握力でインナーを引き千切った。