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入ってきたのは長身の岸野より更に頭一つ大きく、筋肉量はまるで勝負にならないほど逞しい、壮年の偉丈夫だった。
柔道選手のような太い首、なで肩に見えるほどモリモリと威圧的に高く分厚く盛り上がる僧帽筋。
バサッ、とタオルのかけられた段違いに広い肩幅、バスケットボールのような肩の筋肉から伸びる豪腕は、伸ばしていても一抱えもありそうな上腕二頭筋と上腕三頭筋がボコッ…と太い血管をうねらせながら盛り上がり、太りきったマグロのような筋肉がパンパンに詰まった前腕、腱と血管の浮き上がる大きな拳が威圧感を放つ。
樽のような大胸筋は凄まじい筋肉量で、ギュムッと肉房がひしめき合い、表面は男性ホルモンの強さを表すように胸毛が生えていた。
はみ出んばかりの大胸筋とボーリング玉より大きい上腕二頭筋が触れ合いそうな脇からも、熱帯雨林のような漆黒の繁茂が覗く。
体の分厚さを考えると信じられないほど腹は引き締まり、岸野の腹筋の数倍は厚く大きい腹筋の瘤がギチギチと盛り上がっていた。
堅そうな毛の生えた太腿は岸野の胴よりも太く、溢れる重量感は、腿だけで俺の体重よりもありそうだった。
脹脛もめっこりと盛り上がり、頑丈そうな足も馬鹿でかい。
そして……思わず、ゴクッ、と唾を飲んでしまうほど圧倒させられる、ずろん…とふてぶてしく垂れる、使い込まれたようにドス黒い、ズル剥けの極太のペニス。
既に太い血管が浮き上がり、指も回せなさそうなほど、ブリブリに肉の詰まり張った竿。
テニスボールのような睾丸は丸々と膨れ上がり、紫がかった風合い。
萎えた状態で20cmくらいありそうな巨根と、どっしりと垂れ下がるデカい睾丸。
雄として完璧に成熟し発達しきった肉体。
俺は、数ヶ月ぶりにも関わらず、すぐそれが誰かわかった。
……記憶より、色んな所が太く大きい気がしたが……。
「ま、正志さん…!」
思わず声を上げ立ち上がった自分に驚く。
基本的に暗く、陰気な性格でやって来たから、立ち上がったもののすぐ我に返ってどうしたら良いか分からなくなった。
柄にもなく大声を出して恥ずかしい。
それに今は仕事中じゃない。
正志さんのプライベートな時間だ。
それを俺は…。
「あ、えっと……」
驚いたように凛々しい片眉を上げた正志さんから目を逸らし、思わず俯く。
だがすぐに正志さんの「おー浩太!」という驚いてはいるが嬉しそうな声がして顔を上げた。
ドシッ!!!ドシッ!!!と正志さんが、極厚の筋肉を波打たせ、極太のモノをぶらぶら揺らしながら、普段は寡黙そうな男前だが、目をすがめ笑みを浮かべて近寄ってくる。
「す、すみません、俺つい……」
俺はひとまず安心したもののモゴモゴと言い訳してると、
「何謝ってるんだ。しかし久しぶりだな」
正志さんが笑い、そのグローブのような手で俺の頭をワシワシと乱暴に撫でた。
その力強さが懐かしいが、照れくさく、両手でその手を掴むが、まるで敵わない。
「はは……大丈夫か?元気でやってるか?」
深い声音にどこか暖かみを感じ、俺は体の緊張がほどけていくようや気がした。
「は、はい!正志さんがいなくて、さ……いや、大変ですが、俺よりずっと優秀な後輩が……」
と続けると正志さんが眉をひそめた。
「浩太より優秀な若いやつなんていないだろ。そんなことより。俺がいなくなって、さ?さ、なに?」
ぐいっ、と上から正志さんが顔を近づけてくる。
ふっ、と鼻先に迫る顔面を押しのけることなどできず、俺は目を泳がす。
高い体温が感じられるほどの近さ。
体格差で俺の体はすっぽり覆われるようだった。
がっしりとした顎。高く通った鼻頭。彫りの深い二重のくっきりした目。
同じ男でも照れる。
「なんでもないですよ……。そ、それより、ちょうどあの、その後輩が……」
と俺が岸野の方をチラっと見ると、正志さんの体躯に圧倒され呆然としていた岸野がハッ!と我に返り、ガタッ!!と慌ただしく立ち上がった。
「こ、浩太さんの後輩の岸野です、清水部長の辣腕ぶりはよく伺っています!」
ビシッ!と背筋を伸ばした体育会系らしい挨拶に感心してしまう。
真顔に戻った正志さんが体の向きを変え、岸野を見下ろす。
……数秒の沈黙。
正志さんの前に立つと、一般的には筋肉質な類に入る岸野がまるで成長途上の中学生のように見えた。筋肉量がまるで違う。
な、なんか空気変わったな…とどうして良いかわからず、チラッと正志さんを見上げると、正志さんは岸野の挨拶に応えず、俺に聞いてきた。
「……後輩を連れてきてやったのか?面倒見がいいな?」
どことなく、笑顔が怖い。
バンバンの大胸筋がブルンッ!と揺れた。
「あ、いや、俺が浩太さんを誘ったんです!」
慌てて補足する岸野に、正志さんがぐるっと顔を向け、「ん?」とずいっ!と近づいた。
自分より頭一つ大きく、段違いの肩幅を誇る、並外れた筋肉量を搭載した、化け物のような巨根をぶら下げる大男に突然真正面に近寄られ、岸野は思わずビビり本当的に後退したが、当然座れるように段になっており、ガタタッ!と倒れるように座り込んだ。
「うわっ!」
岸野が声を上げるのもお構いなしに、正志さんはフン…とつまらなそうに鼻を鳴らすと、俺の肩にガシッ!と手を置いた。
膝が揺れそうになる程の、重み。
身動きができない。
「浩太、大丈夫か?疲れてるのに無理矢理連れて来られたんじゃないか?」
正志さんの言葉に、倒れ込んだ岸野が「んなっ!?」と目を見開き、床を蹴って立ち上がった。
「俺は浩太さんが優しいの知ってるので、無理強いなんて絶対しません!!」
そのまま怒った顔でキッ!と正志さんを睨み上げる。
対して正志さんは冷めた目線で岸野を見下ろす。
「先輩社員を下の名前で呼んで、いいと思っているのか?」
視線の圧力でそのまま岸野を捻り潰せそうだった。
んぐっ…!と痛いところを突かれたように岸野が言葉に詰まる。
沈黙を埋めるように、正志さんが、ボキッ!ボキッ!!と首を鳴らした。
俺だけ見える見上げるような分厚い広背筋が、グウッ!!!と分厚く隆起する。
俺は不穏な空気に耐えられず、正志さんの極太の腕を両手で掴んだ。
「い、いや別に大丈夫ですよ、どう呼ばれようと」
俺の真意を測るように正志さんが俺の目を覗き込む。
「本当か?」
「は、はい……」
肯定するのが、何故か少し怖かった。
「……上司が下の名前で呼ぶのも、ハラスメントじゃないんですか。嫌って言えないし」
せっかく落ち着きかけてきた空気を、ムキになった岸野がぶち壊した。
「…………あ゛?」
聞いたことのない正志さんの低い声に、俺は震え上がった。
間近に立つと厳つい肩の筋肉に隠れて正志さんの表情が見えない。
ぐうっ!!とただでさえ丸太のような腕の筋肉が、ゴギュウッ!!と皮膚をぶち破らんばかりに盛り上がる。
岸野は何かに抵抗するように歯を食いしばり、必死で目をそらさないようにしているように見えた。
「お、俺のぼせたみたいです!!!」
俺はなんとか2人を止めようと叫んだ。
2人が同時に心配そうにこちらを見る。
「大丈夫か?」「大丈夫ですか?」
声が被った2人が再び睨み合う。
「き、岸野、出よう!10分たったし……ま、正志さんもこれからゆっくりされたいですよね…!?」
なんとか2人を引き離そうと言葉を続ける。
正志さんは数秒黙ったまま仁王立ちしていたが、徐ろにドカッ!!と段に座った。
120kgはある超ヘヴィー級の重厚な体に、檜板がギシッ!!と悲鳴を上げる。
岸野がその前を警戒するように、しかしそんな素振りは見せないようにしながら通り過ぎる。
「……またな?」
ホッとして出ようとする俺の細腕を、突然正志さんがゴツい手で掴んできて、俺はガクンッ!と強制的に立ち止まらせられた。
先程の恐ろしい気配はどこへやら、正志さんは俺しか見えないように柔らかく笑っていた。
……ほっとする。もう少し話したかった。
「……はい。今度はゆっくりお話できれば…嬉しいです」
自分で言ってて顔から火が出そうになった。
俺の言葉に正志さんは軽く目を見開くと、嬉しそうに白い歯を見せて笑った。
初めて見る表情に胸が跳ねる。
「……ああ、また今度」
そう言うと俺の腕を解放し、俺の生っ白い尻を、押し出すようにぺしっ、とぶ厚い掌で叩いた。
「っ、ちょっと!!セクハラですよ!!!」
尻で感じる粗く厚い掌の感触には俺は動揺し、思わず高い声を上げた。
ははは……と正志さんが真意のわからない表情で笑う。
……大きく開かれた股の間で床に投げ出されていた重い亀頭がグムッ!と一回り膨らんだのが見えた。
「じゃあな」
ひらっと手を振る正志さんに俺が軽く頭を下げると、背後から岸野の「失礼しましたっ」という固い声が響き、「浩太さん、行きましょう」と俺の腕を引っ張った。
「ちゃ、ちょっと待てって」
俺が慌ててついて行こうと踵を返す瞬間、眉間に皺を寄せた正志さんが見えた。
ガチャッ!!と大浴場に戻る。
暖かいはずだがサウナの熱気との落差で涼しく感じられる。
緊張感みなぎる空気からも解放されて息もしやすい。
ふー……と息をつく俺に、岸野がぐりん!と振り返った。
「……清水部長と浩太さんってなんかあるんですか?」
思わずブフォッ、と吹き出す。
何かあったと言えば……あった。
ホテルで一緒に風呂に入り……抜き合い……俺は正志さんの肉杭のような巨大な勃起でザーメンまみれにさせられ……。
俺は顔を赤らめ、ブンブンと首を振った。
「な、ないよ!一回一緒に出張行かせてもらったときに……色々相談させてもらったからさ」
と答えになるようなならないような言葉を返す。
岸野は疑わしげに俺を見ていたが、やがて、ぐっ……と耐えるように顔を歪め、突然パンパン!と自分の手で自分の頬を叩いた。
「な、なにしてんだよ!」
思わずその腕を掴んで止める。
岸野なら俺の細腕など簡単に解けるだろうが、動きを止めた。
岸野の筋肉質な腕を掴みきれない俺の骨ばった手をじっと見ていたかと思うと、ガバッ!と俺に顔を寄せてきた。
「デカけりゃいいってもんじゃないですよね!?」
真剣な表情に慄く。
「は、はぁ!?な、なんの話!?」
デカい、と言われ反射的に正志さんの、全世界の男が憧れるような逸物を思い出してしまった。
「……いや、忘れてください」
岸野は覚悟を決めたように一人で頷くと、ニコッといつもの爽やかな笑顔に戻った。
「汗流して上がりましょう。で、なんか冷たいもの飲んでマッサージ行きましょう!」
意気揚々と俺の腕を再び掴んで先導する。
よくわからないが普通に戻って良かった。
……ドゴッ、という聞き覚えのある低い破壊音と地面が揺れるような衝撃を感じた気がしたが、歩幅の広い岸野にされるがままに連れて行かれた。
……それから、俺のオフィスライフにちょっとした、いや、大きな変化があらわれた。
「ま、正志さん、そんなに見られると……」
俺は思わずキーボードを打つ手を止め、ちらっと横の、普段は岸野の席にどっかりと座る正志さんを見る。
「ん?終わったか?」
……残業時間帯。
フロアには俺と正志さんしかいない。
月末で残業管理が厳しくなり、新人なのでどうしても俺より作業効率が悪い岸野は早く返されていた。
(「すみません…」と悔しそうな顔で謝られ、逆に俺が申し訳ないくらいだった)
「いやまだなんですが…」
そう言うと、ぬっ、と正志さんが立ち上がり、背後から俺のモニターを覗き込んだ。
「どこだ?」
耳元で低い声がし、硬直する。
いつまでたっても慣れない。
……サウナで会った日から、妙に正志さんがうちの部署に顔を出すようになった。
日中、残業時間帯を問わず。
「暇なんですかね?」などと岸野は毒づいていたが、少なくとも他の社員はエリート街道まっしぐらの頼れる元上司の登場を大歓迎していた。
実際、正志さんからのアドバイスで猛烈に様々な案件が上手く回っていくようになる。
本来の部署でも更に活躍しているらしく、その能力とエネルギッシュさは圧巻だった。
「あ………ここのデータを効果的に見せたくて」
と俺が言うと、途中ですぐに理解した正志さんが、俺の手ごとマウスをガッ!と掴んだ。
「う、お!?」
力強い動きにされるがままに動かされる。
背中と肩に正志さんのシャツ越しにもわかるはち切れんばかりの筋肉を感じる。
「……こうしたらどうだ?」
男らしい香りと骨を揺らすような低い声、逞しい体に身を預ける感覚にキャパオーバーになっていると、一瞬でものの見事に資料が完成していた。
「えっ!?なん、えっ!?」
驚く俺の頭を軽く正志さんが小突く。
「資料作りなんてあの爽やか君に任せればいいだろ」
……正志さんは頑なに岸野を名前で呼ばない。まあそれは逆も然りなのだが……。
「い、いや……自分でやった方が早いなと……」
俺の答えに正志さんがため息をつく。
「浩太の後輩教育方は今度改善するとして……今日はこれで終わりか?」
正志さんが言う。
「あ、はいそうです」
俺が答えると、正志さんはまだ続きを持つようにこっちを見ていた。
「えっ……あの…なにか?」
俺が困惑していると正志さんがガシガシと短髪を掻いた。
「上司から誘うと、またあのガキにパワハラって言われるからな」
爽やか君からガキに格下げされている……。
「誘……?」
俺が首を傾げていると、正志さんがじろっと見てきた。
「俺も、これから帰る」
「あ、ああ、一緒に帰りませんか…?」
おお、と正志さんが憮然と頷く。
……子どもみたいだ。
「……この前会った時、浩太言ってなかったっけ」
ぐるぐると記憶をたどる。
「あ……えっと、ゆっくりお話…?」
思い出して顔が赤くなるのがわかる。
そうだ、と正志さんが大真面目に頷く。
「今度数年ぶりに社員旅行があるのは知ってるな?」
正志さんの言葉に俺は頷く。
正志さんが中心となったプロジェクトが大きく成功し、某○野リゾートが経営する温泉への社員旅行が決まっていた。
と言っても団体行動は宴会だけで後は自由、というラフなもの。
「俺は自分の金で部屋をグレードアップしたんだ。1番いい部屋で、露天風呂もついてる」
正志さんの言葉に、俺は、おお、凄いですね…と素直に賞賛の声を上げる。
というか並外れた貢献をされているし、それくらい会社がしてくれないと駄目な気もするが。
焦れたように正志さんが、
「いやそうじゃないだろ。"ゆっくり話"」
とねじ込むように言う。
あ、と俺もようやくピンとくる。
「え、あれ?それは……お、俺がお邪魔しても…?」
「そんなに俺の部屋に来たいならしょうがないな、いつでも来てくれ」
俺が言い切る前にしれっと正志さんが堂々という。
そのあまりの強引さに俺は流石に笑ってしまった。
「ま、正志さん子どもみたいですよ」
だが正志さんは言い返すでもなくまじまじと俺の顔を見ていた。
「浩太がそんな風に笑うの、初めて見たな」
真剣に言われ、俺は恥ずかしくなり立ち上がった。
「か、帰りましょう」
「ああ、そうだな」
満足そうな声で正志さんが言いながら、立ち上がりざまに俺の尻を軽く叩いた。
「ちょ、ちょっと……!!」
自分の顔が赤くなるのがわかる。
「ん?悪い悪い。浩太は尻も小さいな。キュッと締まってて…」
真面目な正志さんが真顔で答える。
「エ、エロオヤジみたいですよっ」
恥ずかしさのあまりとんでもない言葉を口走ってしまう。
「まあエロいのは否定しない」
寡黙で凛々しい男前である正志さんに不似合いな発言に俺は目を回すしかなかった。
正志さんがニヤッと笑った。
……その時俺は気づかなかった。気づきようがなかった。
フロアの外の廊下で、俺のための差入れを買ってきた岸野が耳をすませ立ち尽くし、グッ……と歯を食いしばっていたことを。