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ショーダウンⅡ 『42:雨の摩天楼に差す光』

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#42 『雨の摩天楼に差す光』 ――あの事件から二年後、娯楽ステーションホテル『ジョイカプセル』にて…… 「レディース&ジェントルマ~~ン! お待たせいたしました、今宵もマジカルONステージのメインショー! AYAとNATUによる華麗なるイリュージョンショーを堪能いただきましょう!」  円形闘技場を思わせるステージを囲むように作られた客席……そこで行われているイリュージョンショーは二年前と変わらずの盛況ぶりで、客席は数か月先まで予約で埋まっている程にチケットの争奪戦がファンの間では行われていた。  煌びやかなスポットライトと、最高級の音響機器……舞台装置はどれもお金のかかった特注品で固められ……ステージ上部に吊るされてある球体の機械には、ステージを様々な角度から映したカメラの映像がその球体のモニターに随時映し出されている。  360度、どの角度からも客から見られているというイリュージョンの世界では禁忌とされているステージ構成は、マジシャンたちに“どこから見られてもタネがバレない完璧な演技”を要求する為舞台の難易度は最難関であると言われているが……しかし、その舞台をこなしてこそマジシャンとして最高峰であると称する者もいる。  そんなマジシャンたちの憧れの舞台でもあり、マジシャン泣かせなこのステージのメインイリュージョニストを担当しているのが、これまた二年前と変わらず絶大な人気を誇るAYAとNATUの二人だった。  今日も盛大な拍手に迎えられ、床下からせり上がって来るリフトに乗ってチャイナ服姿のアヤとナツは手を振りながら優雅に登場したのだが……そのリフトの上にはもう一人の青い髪をした仮面の美少女が乗っており、観客達はその新しいメンバーである彼女にも惜しみない歓迎の拍手を送ってくれている。 「おっと、そうでした! 前回より新人のMIJA(ミーシャ)も加わり、チーム名もAYANAからAYANAJA(アヤナーシャ)に改名されたのをお伝いしないとなりません!」  新人のミーシャが加わったのはほんの二日前の話だったのだが、その二日前の新人加入サプライズイリュージョンはこれまで以上の盛り上がりを見せた。何せ、無作為に選ばれた筈の観客に突然脱出イリュージョンを強要し、客がそれを成功させてしまったのだ……まさかその客がAYANAの三人目の演者であったことなど知りもしなかったのだから、突然それを見せられた観客が度肝を抜かれたのは言うまでもない。 「まさか新人の加入をあんなサプライズで演出するとは思ってもみませんでしたよね? 前回は用意された演目を彼女がこなす形となりましたが、今日は違います! ちゃんと、彼女の“特技”を生かしたショーを披露すると伺っているので、皆様も彼女の一挙手一投足に注目しつつ応援のほどよろしくお願いいたします!」  司会の女性がAYANAとMIJAの前に立ち、身振り手振りを交えて丁寧なマイクパフォーマンスを講じている。その出で立ちは和風の着物にウサギ耳を付けた独特の姿をしているが、女性の艶やかな表情と声も相まって……AYANAJA専属の進行役として彼女自身の活躍を楽しみにして来る客も少なくはなかった。 「では、早速! オープニングのウェルカムイリュージョンを披露して頂きましょう! 最初を飾ってくれるのは勿論この方……ヘイ、ミーシャ? カモーン!」  司会の女性がそのようにミーシャを呼ぶと、ステージの端全体が噴火するように一斉に大量の白いスモークが立ち上る。そのスモークがステージの全てを覆い尽くし、ミーシャのみならずナツとアヤの姿も隠してしまうとそれから場内の音楽は一変する。BGMが二胡(中国の弦楽器)をベースとしたオリエンタルな曲調の音楽へと変化し……スモークに包まれたステージは優雅で落ち着いた雰囲気の物へと姿を変えた。  そして煙がある程度落ち着き……スモークの中央に薄っすらとミーシャの輪郭が浮かび上がって姿が見えるようになってくると、そこには先程とは別人の様な格好になったミーシャの姿が現れ観客達に最初の驚きを植え付ける事になる。 「おっと! 霧の中からは……別人のように変身したミーシャが現れたぞっ!?」  司会の女性はここぞとばかりに興奮した声でミーシャの変身に言葉をかける。  スモークが完全に床へと落ち切り、ミーシャの姿が完全に見て取れると観客達も興奮気味に席を立って、何やら独特な出で立ちとなった彼女に驚きと感心の拍手を送る。  登場時はアヤ達と同じ赤いチャイナ服を着ていた彼女だったが、スモークが晴れるや否やその服は威圧感のある服装に変化していた。分厚そうな赤いマントに包まれた軍服の様な上着とズボンを着衣していて、頭には首元まで隠す帽垂布(日差しや熱から首元を守る為に付けられた帽子用の布)が装着された軍帽を被った格好に姿を変えている。  スモークが立ち込めて姿が見え始めるまで10秒程度しか経っていなかった筈なのに一体どうやってこのような趣旨の違う服に着替えられたというのか? 観客達はその早着替えの秘密が分からずただただ感心の溜息と拍手を送るほかない。  ちなみに、彼女が着替えたのは服だけではなかった。登場時は暗めな藍色のセミロングボブの髪型をしていた筈だったが、今の姿は金髪のロングをポニーテールに結んだ状態で立っている。  髪型含め登場した時とは全くの別人になったように見える彼女だが、顔に付けていた“猿”を模したような面は変わらず着用しており……顔の上半分を覆っているその面は目を垂れさせた優しい表情を彼女にさせる様に見せていた。  ミーシャは二胡の優雅な曲調に合わせ二本の扇子をそれぞれの手に持つと、それで蝶が羽ばたく様な舞を演じつつ客の視線をその滑らかな手捌きと流れる様な脚の動きに集めていく。  暖色系の淡い色のスポットライトも彼女の舞に合わせるように動いてステージを照らし、足元に溜まったスモークも相まってまるで雲の上で踊っているかのような幻想的な空間をそのステージに演出した。  衣装と仮面は奇抜だが、舞と二胡の音色は神秘的で……その空間に一時の癒しを振り撒く事となる……  しかし、次のタイミングで舞と音楽がピタリと止まると……そこで突然、嵐が来たことを暗示する様な激しい銅鑼の音が鳴り響き、スポットライトの色も暖色系の色から急に血の様に真っ赤な光に代わって観客達に緊張を強い始める。  スポットライトが赤く変化したために足元に残っていたスモークもその色に塗られて真っ赤な火が燃え上がっている様な見た目に代わっている。  その演出の変化に驚いた観客達だが、それよりもそのごたごたでミーシャの仮面がいつの間にか別の物へと切り替わっていた事にも気付かされ更なる衝撃を受ける事となる。  銅鑼が鳴り、スポットライトが赤く光ったその瞬間に……ミーシャの仮面は優しかった表情から目を吊り上げた怒り顔へと変化していた。それは舞の一環で手を顔の前を通過させた一瞬の内に起きた出来事だったのだが、まさか突然仮面の表情が変わるなど思いもしていなかった観客達はそれに驚愕を禁じ得なくなる。  それだけでも驚くに値する変化だと言えたが……しかし、ミーシャの変身はその一回だけに留まらなかった。  銅鑼が鳴りスポットライトの赤色が濃く変化する度に、怒っていた表情の仮面が怒りの度合いを増すかのように次々に吊り上がり、仮面の色も真っ赤に染まり眉間の皺は増え目の鋭さも増していく。それはまるで、人間達に憎しみを露わにするような睨みの表情で……次々に変化していくその表情に、客達も不思議さと恐ろしさを同時に味わうよう誘導された。  そして、その仮面の変化と同時に……よく見るとマントの下の服装も次々に入れ替わっているという事実にも気付かされる。  流石にスモークが足元を覆っている為靴までは変化しているかは確認できないが、マントの中の服は銅鑼が鳴るたびに、軍服→スーツ→囚人服→Tシャツ→タンクトップ……といった具合に切り替わり、仮面と共に段々と薄着になっていくミーシャの姿を見て客達の興奮は驚愕と共に高まっていく。 「まぁ、これはお見事!」  そんな、音楽とスポットライトに合わせた見事な舞と変身を最後方の席で見ていた客の一人がその様に感嘆の言葉を零すと、二つ隣の席に座っているスーツ姿の男性に自身の抱いた疑問を続けて投げかける様子を見せる。 「あれは……中国の変臉(変面)という伝統芸を模してますわね? アレのやり方は彼の国では国家機密にまで指定されていたと聞きますが……どうやって習得したのでしょう?」  豪奢な赤いドレスを着たその縦巻ロールの髪型をした女性は、隣に座っている子供の様な見た目の女性を飛び越してグレーのスーツを着こなした男にそう問いかける。 「さぁな、紅葉のヤツは……いや、ミーシャは……元から早着替えとか動きの大きなマジックが得意だったみたいで、イリュージョンの修行を終えた時にはそれを既に体得してたみたいだぜ?」  グレーのスーツを着た男……結城は新加入メンバーのミーシャこと紅葉を見ながらその様に返事を返す。 「まぁ、凄い。流石……手品に情熱を燃やしていた紅葉さんですわね……。合間に見せる舞も見事ですし、ちゃんとタネがバレないよう独自のアレンジを加えて変面をこなしてらっしゃいますわ!」  豪奢なドレスの女……麗華も、紅葉の早着替え&変面を目で追いながら仮面が変化する度に感動の拍手を送っている。 「あぁ、俺もタネは聞かせて貰ってるがよ……でも、未だ持ってあの仮面の早替えと服の切り替わりは目で追えてねぇんだよなぁ……。アレは彼女の技術そのもので成り立ってるイリュージョンだと言って差し支えないと思うぜ?」 「へぇ……。しかし、脱いだ服は何処に隠しているのでしょう? 段々薄着になって行っているのですから……服の中に隠すなんてことできない筈ですのに……」 「まぁ、俺は仕掛けを知ってるから分かってるがよ……タネは言わねぇぜ? そんなマジシャン潰しな発言を俺がする訳にはいかないからな……」 「まぁ! 少しくらい教えて下さっても良いでしょうに……ケチ!」 「ハハハ……まぁそう言うなよ……」  結城の軽口に麗華が文句を言う……それはもはや日常になっている光景であったが、その間に挟まれている小さな女性……鈴音はその会話を耳に入れていない。  彼女は自分の座った席に怪しい所は無いかと、あれやこれやと手を触れさせて確認を繰り返している。折角持ち込んだゲーム機に目もくれず……椅子の背もたれやら座面の裏側など忙しなく怪しんで睨み目を利かせている。結城と麗華はそんな彼女を気に留める事もなく、二人の会話は続いていく。 「しかし、あの名前はもう少しどうにかなりませんでしたの? MIJA(ミーシャ)って、紅葉(MOMIJI)をもじって読みやすくしただけじゃありませんか!」 「ん? あぁ……まぁ、本人がそれで良いって言ってんだから……良いんじゃないのか?」 「……むぅ! 綾香さんもAYAだし、夏姫さんもNATUですし……皆さん自分の名を隠す気ないんじゃありませんの?」 「あの連中は名前なんて気にしてないのさ。それよりも自分達の技術を見て貰いたくてあのステージに立っているんだからな……」 「まさか……あの“専属司会”になった牡丹さんも……そんな近しい名前を名乗ってらっしゃるんじゃないでしょうね?」 「牡丹はそのまま牡丹だぞ?」 「っ!? や、やっぱり!!」 「まぁ、あいつは紅葉のアシスタントでしかなかったからな……別にイカサマに加担していた訳でもねぇし……」 「そうでしょうけど……でも、あの紅葉さんとつるんでいたのですよ? 少しは名前くらい変えた方がよろしいでしょうに……」 「牡丹もそうだが……紅葉や綾香達は敢えて名前を隠そうとはしてないみたいだぜ?」 「……敢えて?」 「あぁ……アイツらからすれば、復讐したいならかかってこい! くらいのスタンスでいるみたいだからな……」 「まぁ! そんな野蛮な……」 「守る側のこっちにはいい迷惑だがよ……でも、そのスタンス……俺は嫌いじゃないぜ?」 「んもぅ! ショーもそうですが、綾香さんにはいつもヒヤヒヤさせられますわ! コッチが気にかけていても彼女の方から危ない道を選んでしまうんですから……」 「強気な彼女らしい考え方だよ……。でもそれを目覚めさせたのは……紅葉の存在がデカいんだろうがな……」 「2年前の……あの一件ですわね……」  紅葉の演目を眺めながら、麗華と結城は二年前の事件を思い出していく。  伊角百合子の策謀……紅葉の復讐……そして、イカサマに対する制裁……それらを一つ一つ噛みしめるように思い出しながら、結城がポツリと言葉を零す。 「そう言えば、伊角のネーチャンは随分と手痛く処罰を受けたらしいな?」 「えぇ……そりゃあもう! カジノの不正以外にも、保険料の未払い、保険調査の虚偽報告……不利な情報の隠蔽強要、政財界への不当な圧力、複数の暴力団との密約関係……その他数えきれないほどの不正がバレて今も裁判が終わっていないくらいですもの」 「呆れた……。よく今までそれを隠し通せていたもんだ……」 「それだけ、前伊角財閥社長の影響力が強かったと納得するしかありませんわ。実際今でも……亡くなられた彼女のお父様を信奉している議員もいると聞きますし……」 「そんな状況でよく訴えが通ったな……裁判所も警察もまだ伊角の息がかかってんだろ?」 「まぁ、あれだけの証拠を突きつけられれば……認めざるを得ませんからね。それに、今回は不特定多数の証人まで味方に付けてますし……彼女も素直に罪を認める他なくなったという訳です」 「そうだったな。全く……大した手際だよ……」 「フフフ……社長も覚えておくといいですわよ。大きな権力に対抗しようと思うのなら、コチラはそれに対抗できる沢山の味方を募ればいい……。飛車や角や金で万全に王を守っていたとしても、盤面を埋め尽くすだけ展開された“歩”の圧倒的な数には敵わない……と♥」 「……まぁ、んな盤面は存在しないがな。普通の将棋だったら二歩とかで反則だし……」 「もう! 結城社長? 例え話なのですから、正論でツッコむのやめてくださいまし!」 「はいはい……」  結城と麗華がその様に言葉を交わしていると、ステージ上ではスポットライトの色が薄暗い青い色に変化し、いよいよミーシャの演技も終盤に差し掛かった事を視覚的に示し始めていた。  仮面は怒り顔から真顔……そして泣き顔へと変化しており、鳴り響く銅鑼の音も彼女の怒りが静まっていくかのように小さくなっている…… 「あら……もしかしてクライマックスじゃありませんの?」  麗華がそのように呟くと、その言葉を証明するようにスポットライトが青暗く変化していく。  それに合わせ二胡の音も消え入る様に小さくなっていき……  最後の照明も消えかかるように薄くなっていく。 「…………」  そしてミーシャの動きがピタリと止まり、時が止まったのではないかと錯覚させるほどの静寂がステージに広がる。 「………………!」  それから一拍の間を開けた後に、その静寂を最後の舞へと誘う銅鑼の音が再び大きく鳴り響く。  続いてスポットライトが一斉に黄色く光りミーシャを集中して照らし出した。  光を受けたミーシャは最後の変身と言わんばかりに仮面を泣き顔から満面の笑みを携える表情に素早く変化させ、大きく円を描くように手を交互に回して最後の舞を披露した。  中国武術を彷彿とさせるような脚の運びと、大きく回された手……それらが仮面の表情と相まって喜びの舞を表現する。  彼女自身が苦難の果てにそこに辿り着き、喜びを享受している……言葉では表現されていないそんなバックストーリーを思わせるような舞が披露され、観客達は感嘆の息を零すより他ない。 「…………」  やがてその舞も緩やかな動きへと変化し、ミーシャはステージの中央にて脚を揃えて立ち……静かに舞を終える。  それで彼女の演目は終わったのだと先走った観客の一部は、舞を終えたミーシャに拍手を零してしまうのだが……  彼女は動きを止めた後すぐに、自身が最後まで身に着けていた大きなマントを肩から外し……それを天高く放り投げて見せた。  舞台上の球体スクリーンにぶつかるのではないか? と思えるほど高く舞い上がったそれは、悠然と生地の端をヒラヒラと羽ばたかせミーシャの頭上へと再び落下を始める。  重力に逆らう事なく舞うように落ちてきたそのマントは、手を胸元に添えたお辞儀のポーズを取っていたミーシャの頭にその生地の中心を静かに着地させると、彼女の半身を包むようにフワリと被さっていく。ミーシャは優しく降りかかったそのマントを払いの除けることなくそのまま被り続け、暫くの間硬直するように同じ姿勢を取り続けた。  その後、再び静寂がステージを包むかと思われたが……その期待を裏切る様にミーシャの手がピクリと動き、手に持っていた二対の扇子をマントと同じ様に天高く放り投げてしまう。 ――バサッ!  っと、音を立てて宙を交差しながら舞い上がる二対の扇子……  それに視線を奪われてしまった観客達は、次に起きた変化に度肝を抜かされる事となる。  なんと、お辞儀の姿勢のまま立っていた筈のミーシャの身体がステージ上から忽然と消えてしまったのだ。  身体は消えたがマントだけはその場に残されている状況……であるから、当然身体の支えを失ったマントは自然の摂理に従うようにゆっくり床へと落ちていき……そして、床へと着地すると僅かに残っていたスモークを軽く吹き飛ばしつつその動きを止めた。  そこにはミーシャの身体が潜む隙間など勿論ない。  突然、彼女の身体が霧のように消えてしまったと……観客の誰しもが思った。  驚く観客達をよそに、最後に投げられた二対の扇子もマントの落ちた場所に行儀よく並んで優雅に着地する。  銅鑼は鳴りやみ、音楽も消え……スポットライトは最後に残されたマントと扇子に光を集めている。  それを見た観客達は……一瞬、起きた出来事についていけないと言わんとする様に唖然と口を開きっぱなしにしてしまうが……  やがて、それが演目の最後を飾る消失イリュージョンであったと察し、その場から見事に消えて見せたミーシャに割れんばかりの拍手を送り始める。  その拍手を聞きながら、麗華達は驚きに顔を固まらせたまま結城に言葉を投げかける。 「しゃ、社長? 彼女は……一体どこに?」  麗華は跡形もなく消えたミーシャを見て動揺を禁じ得ない。それは隣で見ていた鈴音も同じで、落ち着かないでいた身体を驚愕で硬直させて、ステージ上の出来事に目を丸くし言葉を無くしていた。  ただ一人、端に座っていた智恵理だけは……奇術に造詣が深い事が幸いしてか、今の一瞬の出来事にも冷静に自分なりの解釈を浮かばせそれをブツブツと呟いていた。 「多分……あの演出用のスモーク……計算されて吹き出されてましたよね? 普通、あんなに長い時間足元を隠したりはしませんし……。神秘的に見せる効果を狙っていると思ってましたが、アレは多分……」  その様に何事かを呟いていると、次の演目に進む為にか……スポットライトの色とバックミュージックがメタル調にガラッと変わり、アシスタントのバニーが裏方から駆け込んできてステージに残されたマントと扇子を回収し始めた。  そして、ステージ上にはアヤとナツがミーシャを探す演技をして見せながら、彼女を探すのを仕方なく諦める……といった風なジェスチャーを互いに取って話を進行させていた。 「紅葉さんは……ホントに何処へ行ったのでしょう?」  それを見ていた麗華はポツリと呟く。  それは結城に聞かせるために発した言葉だったが、麗華に返事を返したのは結城ではなくその間に挟まっていた“彼女”だった。 「実は~~~ココに居たりするんだよねぇ~♥」  てっきり隣には鈴音が座っていると思いこんでいた為、彼女らしからぬ軽い声色が返って来て麗華は驚いてしまう。  そして、慌てて振り向いたその女性の正体を見て再び驚愕に目を丸くさせてしまう。 「っ!? も、紅葉さん!?」  今まで鈴音が座っていたその席には、つい今しがたまでステージに立っていた筈のミーシャこと紅葉が入れ替わって座っていたのだ。その虚を突いた入れ替わりに、麗華は思わず彼女の名前を叫んでしまう。その叫びに応える様に紅葉はパッと表情を明るくさせ、両手を胸の前で小さく振る仕草を交えて気軽に挨拶を交わす。 「ヤッホー、ご無沙汰~~♪ 元気そうで何よりね。ショーは楽しんで貰っているかしら?」  その姿は最後に見たタンクトップの姿ではなく、なぜか青を基調としたバニースーツに着替えられてあった。当然マントも羽織っておらず帽子も猿の面も被っていない。しかし、彼女の特徴的な長い金髪の髪は健在で、挨拶を交わす彼女の声は紛れもなく二年前に戦った紅葉その人だと麗華達は確信させられる。 「あ、貴女……どうやって? って言うか、鈴音ちゃんは……何処に?」  突然の入れ替わりに一瞬動揺した麗華だったが、すぐにその動揺を悟られまいと咳払いを零して質問を返す。その質問に紅葉はニシシと悪戯っぽい無邪気な笑みを浮かべての指を椅子の下に向けてみせる。 「“この仕掛け”は何度もヤられてるって聞いたわよ? だから、アイツが今何処に居るかなんて……想像つくでしょ?」 「あ、う……うぅぅ……そ、そうでしたわね。確か二年前も同じような事が……」 「あいつ……小癪にも席を前のトコと変えてたんですってね? 何処に逃げても無駄なのに……」 「あぁ、そう言えば鈴音ちゃん……しきりに訴えかけておりましたわ。嫌な予感がするから座席の位置を変えてくれ……って」 「席を変えれば安全だとでも思ったのかしら? お馬鹿さんね……」 「あ、あの……それで……鈴音ちゃんは今、下に連れ込まれて何をされているのでしょう?」 「あぁ……彼女は今頃……アシスタントちゃん達に可愛がって貰ってると思うわよ?」 「可愛がって貰ってる?」 「これって恒例なんでしょ? アヤが言ってたわよ? こういう時でないとあのお子ちゃまに復讐できないんだから良いんだ……って♥」 「あ、あぁ……う~~~ん、成程?」 「ったく……趣味が悪いわよね? 私をここに送り出す代わりにあの子をついでにイジメるだなんて……」 「ア、アハハ……流石は綾香さんですわね。鈴音ちゃんへの恨みは尽きていないようで……」  麗華は顔を引き攣らせながらステージの方で次の演目の準備を始めている綾香の方を見る。  ステージ上には何やら天井からクレーンに吊られた透明なガラス製の箱が現れ、それが綾香の胸元くらいの高さまで降ろされる様子が観客達の前に晒される。  ガラスの箱は縦に高さを持たせた長方形型をしていて……人が一人そこに立って入れるくらいの大きさとなっていた。箱の上部には四方からの視界を隠す用のカーテンが設置されており、カーテンレール上に丸めるように結ばれた黒いカーテンは、降ろすとスッポリと箱の一面を隠せる程の長さがあると綾香がそれを一つ降ろして見せ証明している。  箱の底辺はクレーンに吊られている為浮かされている。その高さは綾香の胸くらいで、箱の下にはもうスモークは炊かれていない為それがちゃんと宙に浮いている事を誰が見ても確認できた。  綾香は念のためにとその下の空間に何も無い事を示すように何度か手を通して見せ、そして準備は整ったと言わんばかりにナツを呼び出して踏み台を用意させる。 「あ、あら……今度は何が始まりますの? 箱の中に入って……脱出か何かされるのかしら?」  踏み台をしっかりと踏み、浮いた透明な箱の横を開いてそこから中へと入った綾香は……箱の中でグルリと一回りし、ちゃんと箱の中に入っているという事を手を振って観客にアピールしている。  そうすると、今度は別のクレーンのフックが篭をぶら下げて頭上から降りてきて……篭に入ったそれを綾香の手に届けにやってきた。 「……ん? アレは……別の……衣装?」  綾香がその篭の中から取り出したものは何やら綺麗に折り畳まれた青い衣装の様な物だった。上着と網タイツの様な履物がセットになったそれは、隣にいる紅葉が着替えたバニースーツに似ているような気もするが……と、麗華が紅葉の方を改めて見ようと顔を横に向けかけるが、そこに割り込むように司会の牡丹から説明に入り、麗華の視線は紅葉ではなく牡丹の方に向き直る事となった。 「先程のミーシャの早着替え、お見事でしたよね? 新人の彼女がそれを行ったのですから、先輩のアヤにも同じことをして頂くのが筋というものでしょう! しかし、今度の条件は先程とは違いますよぉ! なんと宙に浮いたこの箱の中で着替えて頂く事になるのですから!」  牡丹のマイクがそう告げると、麗華は信じられないものを見るような目で綾香の姿を注視してしまう。 「あ、あんな……不安定な箱の中で生着替えでもしようとしてますの? あんな着替え辛そうな服を?」  未だ箱の中で手を振ってアピールしている綾香の逆の手には、クレーンから運ばれた着替え用の衣装が握られている。それが、網タイツとハイレグ型のバニースーツであるのは彼女がそれを広げて見せたために確実となった。ご丁寧にウサギの耳風のカチューシャまで持っているのだから、彼女がバニーガールの衣装に着替える事はもはや説明されなくても理解出来る。 「さて、手に持ったあのバニーガールの衣装にこれから着替えて頂きますが、果たしてチャイナ服を脱いであのパツパツなバニー衣装に着替えられるのでしょうか? ちなみに、これから箱を覆う暗幕を降ろしますが……その暗幕は10秒後にカーテンレールごと落ちてしまう仕掛けとなってます。つまり、彼女に与えられた着替えの時間はたったの10秒です! 10秒以内に着替え終わらないと……後は~~~分かりますよね♪」  艶のある牡丹の声が、綾香がこれから行う演目をさも楽しそうに説明していく。  それによると綾香の持ち時間は10秒しかなく、それ以降は身隠し用の暗幕が落ちてしまうというのだ……箱は透明である為、暗幕が落ちれば着替え途中であっても綾香の姿は観客全員に見られる事になる。  あのチャイナ服を脱ぐだけでも相当時間がかかるだろう事は想像に難くないし、それに加えてバニースーツに網タイツ姿に着替えなくてはならない。それを10秒で済ますなど……到底出来るとも思えない。  きっと途中で暗幕が落ちて……着替え途中の哀れな姿を晒す事になるのは間違いないだろう……  麗華は説明を聞いてその様に思わざるを得なかった。 「色々……ありがと……ね」  そんな事を考えていると、紅葉が不意に予想外の言葉を零してきた。  それに驚いて紅葉の方を見ると、彼女は照れるように頬を染めながら……自分より綾香の方を見ろと小さく指で合図を送る。麗華はその合図に従って綾香の方に再び視線を向け、今の言葉を心の中で噛みしめる。 「私の事……罪が軽くなるよう取り計らってくれたんだってね? 聞いたよ……」  ステージ上では綾香が手を振りながら指をパチンと鳴らす仕草を取った。すると、四方に丸められていた黒いカーテンが一斉に降り、観客から視線を遮る暗幕を展開している様子が見られた。  暗幕は辛うじて綾香の足元だけは隠さない長さに調節されていた。それにより、唯一綾香のハイヒールだけはそこに見えているのだが…… 「こうして、私がショーに参加する事も許してくれた……結城社長に掛け合ってくれたんでしょ? それも綾香から聞いたわ……」  暗幕が降りると同時にブザーが鳴り、ステージ上の球型モニターに10秒のカウントが表示される。  それを聞いて綾香は慌ててハイヒールを脱ぎ去り、箱の中で素足になる様子を見せる。 「結局……罪のほとんどは百合子さんに被って貰う形になった……。それはそれで納得できない部分もあるけど……でも、私を守る為にそう仕向けてくれたのよね? 今ではそれも感謝してる。ありがとう……」  綾香の素足が爪先立ちになったり、片足を上げたりと忙しなく動いている様子が下から覗き見える。  着替えを行っている姿は直接には見えないが、しかしその足の動きと服の擦れる音などが箱の中から聞こえ……観客の想像を掻き立てる。  カウントは、7秒……6秒……と無慈悲に進んでいく。  その様子を紅葉の言葉を聞きながら食い入るように見ている麗華は、進んでいくカウントダウンに緊張しつつも紅葉に返事の言葉を返していく。 「感謝など不要ですわ。アレは綾香さんとの約束でしたから……。貴女の誠意が見られれば貴女を改心させる手助けをすると……そう、約束し、貴女はそれを見事に成し遂げた……だから、手助けをしただけの事……」  カウントが進むにつれ、ステージ中央を照らしているスポットライトも端から一つずつ消えていく。  いつの間にかBGMも消えていて、カウントダウンの音だけが鼓動音の様に観客席に鳴り響いている。  残り4秒……  そこで、ようやく綾香はチャイナ服を脱げたのか……上下一体となった赤い服を箱の上から投げてステージ上に雑に放った。そして続けて彼女が付けていたであろう白いブラジャーも投げ捨て、余裕があるかのように箱の上から手を振って見せたりもしている。  後はバニースーツを着るだけという状況まで持ち込んだ。  ……しかし、残りの時間はもう2秒を切っていた……これから着込むのであれば間に合う筈がない。  誰もがそのように息をのみ、最後のライトが完全に消えるラスト1秒を見届ける…… 「うん知ってる……。でも、ありがとうね……私の事、救ってくれて……本当に感謝してる。それを伝えたかったから、ここに寄らせて貰ったのよ……」  という、紅葉の言葉と共に、とうとうカウントがゼロを刻み……そして、真っ暗になっていたステージに再び明るいスポットライトが一斉に点灯する。それと同時に掛けられた暗幕が一斉にその役目を終え床に落ちていき……隠されていたガラスの箱が再びステージ上に露わになる。  まだ着替えが終わっている筈がない……と、誰もが確信しているし、着替え途中の半裸になった綾香の姿がそこにはある筈だと……麗華さえもそう思っていた……  ……しかし! ――バサッ!  っと、暗幕が床に落ち切った後に現われたその透明な箱の中には……綾香の姿はなかった。  箱の中にあるのは、脱いだ赤いハーヒールと…… 「……これは驚きましたっ! バニーガールの衣装に着替えていた筈のアヤがなんとなんと!! バニーガールに変身するのではなく、可愛い可愛い……本物の“バニー(兎)”に変身しているじゃありませんかっっ!!」  ハイヒールの横には白い丸っとした動物が一匹佇んでいるのが見えた。牡丹の言葉で、その動物が“ウサギ”であると示唆される。  バニーガールに変身するのではなく、人間が動物のバニーに変身した!? と、ざわつく観客達。  それを見た麗華は紅葉と話していた事も忘れ、はしゃぐ様に驚いて興奮の声を上げてしまう。 「まぁ! まぁ!! 綾香さんがバニーガールじゃなくて動物の方のバニーに変身してしまいましたわっ!! こんな事有り得まして? ねぇ! 紅葉さんっ! アレは一体どうやって――」  と、言いかけて横を見ると……そこには既に紅葉の姿はなかった。 「あ、あれ?? 紅葉さん……じゃなくて、また鈴音ちゃんに入れ替わってる!??」  紅葉の姿は消え、代わりにぐったりと疲れ果てた顔で涎を垂らして項垂れている鈴音の姿がそこにはあった。彼女は、自分が客席に戻された事に気付くと、手をワナワナと震わせて怒りの表情をステージへと向ける。 「ハァハァハァ……あ、あいつらぁぁ! 許さない! 絶対に……許さないわよっッ!!」  鈴音はステージ上のナツを睨むなり恨みがましくその様に唸った。ステージは歓声やら拍手やらが入り混じっていてその恨み言葉はナツに聞こえる筈もないが、ステージ上でアヤを探すフリをしているナツは一瞬鈴音の方に視線を配せたかと思うと、片目を閉じて小さく舌を出してベぇと彼女を煽る仕草を取ってみせた。その舌出しは他の観客にバレないよう一瞬しかしなかったが、鈴音の目にはそれがしっかりと見えていたため増々怒りの感情を募らせる事となった。 「あいつらぁっっ!! 絶対に復讐してやるんだからっっ!! 覚えておきなさいっっ!!」  怒りの感情を露わにする鈴音に対して、その二つ隣では智恵理がまたブツブツと綾香達のイリュージョンに対して自分なりの見解を零している。 「成程……今度はスモークではなくスポットライトを消すという演出で観客の目を欺きましたか……。確かに……見ている側としてはカウントダウンの演出として見ているのでステージが暗くなることに疑いを持たない……。その隙に……アレを……こうして、こうしたと……。ふ~~む、流石ですねぇ……」  一体何に納得しているのか……そして、何を勉強しているのか理解が及ばないが……智恵理もこのショーを楽しんでいることだけは伝わって来る。  やがて、ナツが再びアシスタントのバニーガールを呼んで、ステージ上の綾香の着替えを片付けるよう指示を下す。すると……舞台袖から青いバニースーツを着た二人のアシスタントが再び現れる。  その二人は足早にステージに放られていたチャイナ服と下着を手に持つと、そそくさと舞台脇へと引っ込もうとする。  しかし、それに違和感を覚えた……という風な演技を交えたナツが二人を呼び止める仕草を取り彼女達を引き留める。  すると、ステージ中央だけを照らしていたスポットライトが……裏方である筈の彼女達に光を当て、観客達に最後のネタ晴らしを行う。  スポットライトが二人の顔を照らすと、彼女達がバニー服に着替えたアヤとミーシャである事に気付かされ……観客達は驚きと興奮で皆席を立ち歓声を上げ始める。 「ッっ!? あ、綾香に……紅葉ぃぃ!? あいつら……いつの間に!!」  一人ずつ姿を見せるのならまだしも、同じ場所から同時に二人が現れた……という事実に、あの悪態をついていた鈴音でさえ目を大きく見開かせ子供の様に驚いていたし……さすがの智恵理も意表を突かれたようで、口をあんぐりと開かせ茫然としながら素直に拍手を彼女達に送っていた。  麗華はそんな二人の様子を見つつ、驚いた熱を冷ますようにフゥと一呼吸を零す。  そして、改めて綾香と紅葉がお揃いのバニースーツを着て観客に手を振っている様子を見て……優しい目を浮かべる。  結城も、その麗華の満足げな表情を見て口元に笑みを浮かべ椅子の背もたれに背中を預ける。  鳴りやまない拍手と歓声と指笛の音……  観客は皆総立ちで興奮気味にステージの彼女達を称え、音と光がその賞賛を何倍にも膨らませ彼女達に届けていく。  それは、かつて紅葉が夢見た……理想のステージそのものだった。  彼女が夢見た……自分の目指すべき姿そのものだった。  今はもう……あの頃の紅葉とは違う。  イカサマによって恨みを晴らそうと盲目になっていた彼女とは違う。  怒りによって塗り潰されていた自身の純粋な夢は“彼女”の行動によってそれを思い出され……今ではその“彼女”と共に立派に夢を叶え堂々とした立ち振る舞いを見せてくれている。  その巡り会わせは奇跡と呼ぶべきか、運命だと括るべきか……  しかし、収まるべき所に収まるモノが収まったのだと……今では理解出来る。  麗華はショーを最後まで堪能し、ステージを埋め尽くす歓声と拍手を聞いて静かに目を閉じる。  そして、立ち上がり……ステージを背に歩き出す。  彼女が歩き出す方向には……ステージ程の煌びやかさも賞賛する拍手もない。  外へと出れば……夜の摩天楼に激しい雨が打ち付けられているだろうと想像できる。  自分達の進む道は……そんな雨の降りしきるネオン街こそ相応しいと、麗華は覚悟している。  常に雨は降り、時には轟雷を伴って歩む彼女の足を止めさせることだろう。  ……彼女はそれも覚悟している。  雨が止まないなら……少しでも雨の勢いが収まるよう自分達が行動すればいい……  そんな思いを胸に、麗華は眩しい程に明るいステージを後にするのだった……。  麗華の隣には不満そうな表情を浮かべる鈴音と、何やら楽しい事でもあったかのようににこやかな笑みを浮かべている智恵理……  そして…… 「……まぁ! 見て下さいまし! 雨が上がっておりますわよ! 珍しい事もあるものですわね……」 「ホントですね、これは珍しい……。お嬢は雨女ですから“こういう日”は基本的に土砂降りになる事が多いのに……」 「んまっ! 智恵理さん? それは言わない約束でしょ?」 「フフフ……。でも……こんなに清々しく晴れた街の夜空を見るのは久しぶりです……」 「でしょう? なんだか気分が良いですわね♪ 綾香さん達がわたくし達の門出を祝ってくれているようで……」 「はぁ? あの性悪女たちがこんな祝い方する訳ないでしょ! こんなもの偶然に決まってる!」 「……あら、鈴音ちゃんてば……少しはそのムスっとした顔を緩めたらよろしいのに……可愛げがありませんわよ?」 「お嬢~? “ちゃん”はやめてって……言いましたよね? あと、余計なお世話です!」 「は~~い、はい♥」 「ったく……っで? 次はどんな馬鹿がこの晴れた空に汚い雨を降らそうとしてるんです?」 「ウフフ♥ それは……着いてみてのお楽しみ……ですわ♪」 「そこへ……行くんでしょ? 今から……」 「えぇ……」 「それじゃあ……濡れないよう傘を持って行かないと……ですよね?」 「……勿論。その傘を用意して待ってくれている方がいらっしゃいますから……」 「……フン!」 「ね? どんな雨が降っても、貴方が差してくださいますわよね? わたくし達が濡れずに済む大きな傘を……」 「はぁ? 馬鹿も休み休み言え、傘ってのは自分で差すもんだろ! 人に差して貰おうなんて甘えんな!」 「まぁ! 辛辣なお言葉……。そうは言いつつも……いつも助けてくれるクセにぃ♥」 「……うぐっ!」 「頼りにしてますわよ♪ わたくしの……新しいパートナー?」 「へっ! いつか痛い目見せてやるからな! 覚えておけよ?」 「……は~い、はい♥ 楽しみにしておきますって♪」 「ぐぬぅぅ!」  夜のネオン街……  一層煌びやかに見えるそのネオンたちは、次なる目的地へと向かう“4人”を欺瞞に満ちた光で包んでいく。  光によって形作られた影達は、その怪しい光へと吸い込まれるかのように夜の街へと消えていく。  一際背の低い影は、その光を胡散臭げに睨みながら……  逆に背の高い影は、光の怪しさを楽しむように笑みを浮かべながら……  そして……寄り添う二つの影は、その手を握り合って欺瞞の光へと歩みを進めていく。  摩天楼に潜む……  偽りの光と雨を……屠る為に……  『ショーダウンⅡ ~華麗なる勝負師たち~』 ……FIN。
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POSTEDJul 21, 2025
ARCHIVEDJun 10, 2026