【獣人彼氏シリーズ】おまけ①狼、鹿、狐でダベる夜
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「すんません、急に呼び出したりして」
平日の夜、穏やかな人の入りで落ち着いた雰囲気の居酒屋に大学の先輩を呼んだ俺は、生ビールのジョッキをごつん、と合わせながら言った。
「構わないですよ。僕も研究の方が色々煮詰まってましたし」
ジョッキを傾けて、ごく、と一口飲み下した先輩は一重の涼しげな目を細めた。
「最近付き合い始めた人間の子と何かありました?」
「え"、…わかりますか」
「僕らの共通点、人間の恋人がいる獣人、でしょう」
常に冷静で理性的な鹿獣人の先輩には、何も隠せない。学部も年次も違う先輩とこうして飲むようになったのは、お互いが人間の恋人を持っているという共通点があったからだ。
「……こないだ満月の夜に、あいつ…俺の家に来て…」
「あらあらあらあらあら…」
理性が抑えられずに奏多をめちゃくちゃに抱いてしまった夜のことを思い出す。
先輩は面白そうに笑って、お通しのポテトサラダに手をつけている。
「それで…俺、あ、いや、もちろん満月の日は会えないってちゃんと前から話はしてたんですよ?なのにあのバカ…」
「すんごいの、シちゃったんですか?」
もぐもぐ…ごくん。お行儀のいい先輩は、口の中のものを飲み込んで箸を置いてから俺をまっすぐ見つめて言った。
「…すんごいの…。はい…すんごかったと思いますけど…」
「あらあらあらあら…はは、いいですね」
楽しそうに肩を揺らす先輩を恨めしそうに睨んでみるが、何枚も上手(うわて)な先輩は気にも留めてない。
「いいんですかね?俺らまだ…2ヶ月ですよ付き合い始めて。もうちょっとこう…」
「大切にしたかったですか?」
「…はい。そんな感じ…」
俺だって奏多に冷静で落ち着いてる彼氏だって思われてたはずだ。なのにあの夜全てうまくいかなくて、醜態を晒したと思う。
余裕のない顔も見られたし、呼吸だって隠せなかった。
ただでさえ射精時間長いのに、何回出しても足りなくて…奏多を孕ませることで頭がいっぱいになって、必死に腰振って。
「はぁ〜〜〜…」
思い出すだけで自己嫌悪に陥る。机に突っ伏してしばらく顔を上げられないでいる俺を、先輩はどんな目で見てるのか。先輩は今の恋人と長いと聞いた。こうして飲むようになって、先輩はいつも核心をついたことを言ってくれるから…今夜もすがる思いで誘ったわけだが。
「えー、向こうは種付け喜んでなかったんスか?」
「ん…まぁ、喜んで…たのかな…?むしろ最初からなんか『理性失って興奮してんの興味ある』とか言って乗り気で…」
「あらあらあらあら〜…」
「えっ」
ガバッと顔を上げると、先輩の隣にいつのまにか見覚えのあるツラが座ってる。
「こんばんは〜先輩がた⭐︎」
「てめぇ灯…この狐野郎どこで嗅ぎつけやがった…」
「こんばんは、灯くん」
神出鬼没、飄々としたこの男は学部の後輩で狐獣人だ。オレンジ色に染めた髪をふわふわ揺らしながら、軽いノリで俺たちの皿に手をつける。
「嗅ぎつけたなんてやですねー。ちょうど僕もあっちの席で飲んでたとこなんです〜」
「どうだか…」
「わっ、このモツ煮おいしー!」
はぁ。相談なんて雰囲気じゃなくなった。
腹の底では何考えてるかわからないこの男に、ペラペラ自分のことを話すのは苦手だった。人の腹の内を探るのがうまい奴なんだ。
「厚焼き卵も美味しいよ、食べな」
「静先輩ありがとうございます〜。わーほんとおいしー!で、悠牙先輩の話に戻りますけど」
「戻んなくていいわ。先輩、場所変えませんか」
テーブルに身を乗り出した灯は、吊り上がった大きな目で俺を捉えた。俺は本気で店を出ようと伝票に手を伸ばしたが、その前に灯が掻っ攫っていった。
「相手の〜…えーと、奏多さん!気持ちよかった〜って言ってました?」
「お前ほんとうるさいわ〜」
「えーでもそこが大事じゃないですか?奏多さんが嫌がってたのに妊娠確実中出しセックス強要しちゃったなら事件ですけど…」
「つーか名前で呼ぶなよ」
「だって奏多さん、僕の恋人と友達なんで。話は色々聞いてます」
「色々???」
ギロリと睨んでみたがコイツにも効かなそうだ。
灯は笑顔を崩さないまま、俺の分のししゃもも丸齧りした。
「こないだ獣人彼氏持ちの友達の集まりあったんですって。なんかポワ〜っとした感じで、満月の夜のこと語ってくれたみたいですよ」
「ポワ〜っと…ですって。よかったね悠牙くん」
先輩が胸の前でパチパチ〜と手を叩く。
「普段大切にされてるのわかってる分、嬉しかったんじゃないかなぁ」
「狼は一途ですもんね〜。ヒューヒュー」
「やめろ」
茶化す灯を睨みつけながら、ジョッキに口をつけた。
「灯、席戻らないならなんか頼め」
メニューを手渡しながら言うと、灯はにっこり笑った。
「ゴチです!」
「奢りじゃねーわ!…先輩は最近どうですか?」
ポコっと灯の頭を小突きながら先輩に視線をやれば、先輩は少しハッとして空になったジョッキを見つめていた。
「僕の方は…そうですねぇ…」
「あ〜鹿獣人は嫉妬深いんですよね?こないだ街中でデッカいツノぶっつけあってメス取り合いしてる鹿獣人見ましたよ!静先輩からはイメージできませんけど!…あ!店員さーん!生2つお願いします!悠牙先輩は?まだ残ってるね」
「まだいい」
灯が、手際よく先輩の前からジョッキを掻っ攫って店員に渡し、俺のジョッキの空き具合も見ながら注文をする。
頭がよく回って、気の利くヤツ。
先輩の、いつもの落ち着き由来ではない、どこか言い淀んだ雰囲気の間に、これは何かあったんだなと耳を澄ませる。
「まあ…恥ずかしながらちょっと色々あったよ…」
静先輩の言い分は、本編更新後お楽しみに…♡