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聖大帝歴769年のエストーヴァル諸邦連合国は、例年にない好天に恵まれた。
農村では作物の収穫にてんてこまい、漁村では毎日のように新鮮な魚が水揚げされ、それを求めて各地から隊商が押し寄せては仕入れを行い、同時に他国の名産品を売りに出す。
そうした珍品を求める貴族や元老議員の家臣が街の商店通りを巡って回り、大枚を叩く。
そんな光景は王都から馬車で二日の距離にあるここ、アトゥーデの街でも日常になっていた。
「今日もにぎわっていますね!」
人で込み合う中央通りを縫うように歩きながら、魔導士用のローブを羽織った少年が笑顔でそう言う。
「うん。この街は毎日がお祭り騒ぎだな」
それを聞き、彼のすぐ傍らを歩いていた長身の女性が相槌を打つ。
その表情からは、彼に対する慈しみが見て取れた。
彼女の名は、オリヴィア。
数年前まで隣国、バンシルベニアで王国騎士団に所属していた冒険者だ。
かつては白金色の甲冑に身を包み国王の儀仗役まで務めた彼女は、美しいブロンドの髪と、海のような碧色の瞳から、他の騎士や部下達のあこがれの的だった。
それが今では粗末な革のコートの下に胸当てと篭手、脛当てしかない軽鎧姿で、髪も無造作に結わいているだけ。
凋落した、とみられることもあるが、彼女に後悔はない。
むしろ、騎士団に所属していた頃よりも、彼女の心は穏やかで、そして充実感に満ち満ちていた。
それもこれも、身寄りのなかった傍らの少年、ノアのためだった。
魔族と人間との混血である彼は、生まれてすぐに人間の母に捨てられ孤児院で育った。
生まれつき膨大な魔力を持っていた彼は、ある日とある犯罪組織に身売り同然の形で引き取られ、調査と討伐にやって来た王国騎士団に保護され、世話役に任ぜられたオリヴィアは彼にもっと自由で安心した暮らしを与えたいと願い、騎士団を辞してこの国に移住し、以後は冒険者として生活を始めた。
エストーヴァル諸邦連合国は、その名の通りいくつかの国が集まって成立した共同国家であり、住民も多種多様な人種で構成されている。
魔族との混血であり、紫の髪と赤い瞳という稀有な身体特徴を持つノアも、この他民族国家でならそれほど周囲からの好奇の視線にさらされずに済むというのが、移住の大きな要因だった。
二人は街の中央通りを抜けて、街を守るための外壁に設けられた門へと辿り着く。
二人の姿を見た門兵が
「おう、オリヴィアにノアじゃないか」
と気さくに話しかけて来た。
「やぁ、アイバン。今日も精が出るな」
「アイバンさん、お勤めお疲れ様です」
「へへ、別に疲れるような仕事はしちゃいねえよ」
アイバンと呼ばれた中年の門兵は、柔らかな笑みを浮かべて応じる。
「お前らもこれから仕事か?」
「ああ。南の森の奥に、新しい迷宮が見つかったらしくて、冒険者組合からの調査依頼を受けた。なんでも、大昔に魔術を研究していた大魔導士『何某』の住居跡なんじゃないか、という話だ」
「『大魔導士オルフェン』ですね」
「オルフェンっていや、寝物語に出てくるあのオルフェンか?寝ずに研究を続けていたら、死霊になっちまった、つうやつか?」
「うん、それだ」
「噂ですけどね」
二人の話に、アイバンはふぅん、と鼻を鳴らして肩を竦めた。
「本当かどうかは知りやしねえが…まぁ、気を付けて行けよ」
彼のそんな言葉に、オリヴィアとノアは笑顔で頷く。
「あぁ、痛み入る」
「はい、明日の夜までには戻ってきます」
そう応じた二人は、足取り軽く門の外へと旅立って行き、ノアの言葉の通り、翌日の夕方彼らは帰還した。
そこで彼らの姿を見た門兵のアイバンは、自分の見ているものが信じられず、二度三度と目を擦って、眼前に立つ三人の姿を見つめる。
しかし、何をどう見ても、そこにはレオとそして、オリヴィアが二人立っているようにしか見えなかった。
南の森の奥に発見された迷宮は、冒険者組合によって、「オルフェンのねぐら」と称されることになった。
調査を行ったオリヴィア、ノアの二人による報告でさまざまな罠や魔法仕掛けの通路の存在が明確になり、まさに大魔導士オルフェンの遺構に違いない、と認定されたためだ。
二人はその功績によって、さらに上級の冒険者として登録され、多額の褒章も得た。
今後は他の冒険者達に対しても、調査の依頼が出ることになるだろう。
冒険者としての立身という意味では順調ではあったものの、当の本人たちはなんとも言えない心持ちであった。
その日も、朝食の雰囲気もまた、何とも言えないものだった。
小さな円卓に座って睨み合いながら食事をするオリヴィアと、その間に挟まれ、どうして良いか分からずにただオロオロするばかりのノアがいる。
迷宮の中で、不用意に罠を踏んだノアを庇ったオリヴィアは、ノアですら見たことのない魔法の直撃を浴び、気付けば二人に分身していたのだ。
魔族特有の赤い瞳で魔力を明確に読み取ることのできるノアが二人の体に纏わりついた見知らぬ魔力の痕跡を見出し、分身が魔法に依るものであることはすぐに読み解けた。
そして呪法ではなく魔法であるなら、長い期間効果は持続せず、時間が経てばもとに戻るだろう、とノアは見立てて、そのまま調査を終了して街に戻って来た。
しかし、そんなノアの見立ては的を外したのか、街に戻って数日が経過してもオリヴィア達は一向に一人に戻る気配を見せなかった。
「何だ、さっきからジロジロと。何か私に言いたいことでもあるのか?」
「ジロジロ見ているのはお前の方だろう?無粋なヤツめ」
「私とノアの生活に入り込んできたヤツに言われたくはないな」
「ノアと暮らしていたのは私だ。まがい物のクセに本物を気取ろうというのか?」
「まがい物こそお前の方だろう?さっさと消えてくれれば良いものを、面倒なことだ」
そう言い合った二人の視線が交錯し、普段なら平和なはずの食卓が、殺伐を通り越して殺気に満ち始める。
「あ、あの、オリヴィアさんたち、その…ここはひとつ穏やかにですね…?」
慌ててノアが口をはさむと、オリヴィア達は彼の困ったような表情を認めて、混み上がって来ていた怒りを飲み下し、
「ふん、あぁ、分かってる」
「ふん、もちろんだ、ノア」
と互いに視線を逸らせた。
ノアの前で争い事を起こすのは避けたい、しかし、今の状況がノアに気を使わせてしまっているのも事実だ。
どうにかして、現状を打破しなければならない、とオリヴィア達は逡巡する。
そして二人は、とある結論に導かれた。
「剣を研ぎ直しに出してくるから、ノアは先に家に戻ってくれ」
買い物の途中、オリヴィア達は彼にそう言って一旦別行動を取ることに成功した。
そんなオリヴィア達は、街外れの歓楽街に向かい、遊女達が客を取るために使われている宿の一室を借りる。
中には寝台があるくらいで、他に調度品もなければ、窓もない、殺風景な部屋だった。
「さて…覚悟は良いだろうな?」
「お前こそ、地に這いつくばる心構えは済ませてあるんだろうな?」
「這いつくばるのはお前の方だ、まがい物め」
「まがい物にまがい物呼ばわりされる謂れはない」
二人のオリヴィアは、そう言い合って互いを睨み付ける。
ノアとの安寧な生活を守るために目の前の「もう一人の自分」が邪魔の他のなにものでもないオリヴィア達は、雌雄を決するつもりでいた。
しかし、ノアの目の前で争えば、彼に心労を掛けてしまうし、仮に見えないところで決闘をして顔にケガでもして帰れば同じことだ。
どちらが「本物」でありどちらが「主たるオリヴィア」なのかを、相手を傷つけずに分からせるにはどうしたら良いか。
ここに来ることが、二人の出した結論だった。
「さぁ来い。手加減は期待するなよ…!」
一方のオリヴィアは着ていた服を脱ぎ捨てる。
「いいだろう、捻りつぶしてくれる…!」
それに応じる形でもう一人のオリヴィアも服を脱ぎ捨てた。
二人は一歩程の距離を取って互いに睨み合い、その直後には、剣術の立ち合いのような速度で互いに相手に突進する。
ふくよかな乳房が二人の体の間で衝突して形をひしゃげた。
しかし、二人はそれを意にも介さず、相手を抱き寄せるようにして乳房同士を押し付けていく。
「んくっ…はしたない垂れ乳だな…これで私を騙ろうなどとは!」
「んぐっ…貧相な乳の貴様からしたら…垂れているようにもみえるんだろうな?」
「くっ、ぐぅっ…そ、その貧相な乳に、お前の垂れ乳は押しつぶされているぞ?」
「んっ…くっ…ど、どうやら乳だけでなく頭の中までお粗末なようだな…!」
二人は相手の胸を押し返そうと、上半身をくねらせた。
動くほどにたわわの乳房が形を変え、時折先端同士が触れ合って、オリヴィアに微かな刺激を伝えてくる。
その快感で、オリヴィア達は自らの中心が徐々に熱を持ち始めていることに気付いていた。
鼓動が強く脈打ちはじめ、呼吸が浅くなってくる。
しかしそれでも二人の中に根付いた互いへの嫌悪は、微塵も薄らぐ感覚がない。
薄らぐどころか、どこまでも拮抗する力に、さらなる苛立ちを募らせてすらいた。
「くっ…この、いい加減にしろっ!」
「んくっ…お、お前こそ、諦めたらどうなんだ!?」
「偽物などに、ノアを渡すものか!」
「お前のようなヤツにこそ、ノアを任せてなどおけるか!」
二人は互いの体に回した腕を絞り上げながら、相手を引き倒そうと体を捩った。
二人は互いに振り回され、体勢を保とうとしてたたらを踏む。
しかし不意にそんな二人の脚がぶつかった。
戦闘に慣れた彼女達は、体勢を崩した瞬間には反射的に相手を押しのけて、地面に叩きつけられる寸前に受け身を取って衝撃を逃がす。
息を整えながら体を起こしてキッと互いを見やると、そこには開いた脚の間に濡れて光る秘所が顔をのぞかせていた。
「な、なんだそれは…?お前まさか、あの程度で欲情しているのか?」
「お、お前こそ…ずいぶんと物欲しそうにしているように見えるな?」
「自分のことを棚にあげてよく言う。ひれ伏して願えば弄ってやらんこともないぞ?」
「お前が弄って欲しいのだろう?それなら素直にそう頼むことだな」
自分自身が熱を帯び始めていることを隠しつつ、相手を煽ろうとするが、何を言っても同質の言葉で言い返される苛立ちに、オリヴィアの苛立ちはさらに高ぶる。
「それなら…ひれ伏したくなるようにしてやる…!」
そう言った一方のオリヴィアはその体勢のまま相手に近づくと、自分の腰をしたたかに相手の腰へと打ち付けた。
ゴツっという鈍い音とともに、打ち付けられたオリヴィアの体が揺さぶられる。
その一撃に、高ぶった苛立ちは怒りへと変容した。
「この…!調子に乗るなっ!!」
オリヴィアは仕返しとばかりに自分の腰を相手の腰に打ち付ける。
再び骨のぶつかる鈍い音がして、打ち付けられたオリヴィアの体が衝撃に揺れた。
「くっ…!許さん…!」
「叩き潰してやる…!」
激昂した二人は仰向けのまま上半身を起こし、脚を開いて互いの腰をぶつけ合い始めた。
薄い皮膚を隔てた恥骨同士がぶつかり合う鈍い音と、筋肉で引き締まった太ももや尻が弾ける音が室内に静寂をもたらす。
ぶつかり合った痛みに混じって下半身を貫く、膣口に響く衝撃と断続的に圧迫される陰核からの快感が、二人の意志とは正反対に体の中心の熱をいっそう高めていた。
互いの体がぶつかる攻撃的な音に、微かな水音が加わり始める。
「はぁっ、はぁっ、お、おい、お前の汚い汁を私に擦り付けるな」
「はぁっ、はぁっ、そ、それは自分の汁だろう、私はお前ほど濡らしてはいない」
「ふぅっ、くっ…お、お前のような変態と…くっ…お、同じにするな…!」
「ぐっ、はぁっ…こんなに濡らしているクセに…うくっ、よ、よくもそんなことが言えるな…!」
衝突音と水音の間隙が徐々に短くなっていく。
二人の呼吸は乱れ、全身に汗が噴き出していた。
それでも、鍛え上げられた鉄のように硬い意志で、互いを討ち果たすべく二人は腰をぶつけ合う。
そして次第に全身から力が抜け始め、腰がガクガクと震え始めた。
原因は疲労ではない。
彼女達の鉄の意志とは裏腹に、繰り返される刺激にさらされた二人の陰核と秘所が、肉体的な意味ですでに結界寸前の状態になっていたからだ。
それでも二人は、自身の肉体から精神をむしばむようなその快感に耐えつつ腰を振り続ける。
ノアとの生活の邪魔をし、穏やかな日々を壊した敵を叩き潰すこと。
彼女達の心には、そんな思いしか存在していなかった。
しかし、そのときは唐突に訪れた。
二人の腰が打ち合わされた瞬間、再三蜜月を繰り返していた秘所と 陰核が再びぶつかり、彼女達の意志に反して腰が砕ける。
同時に、得体の知れない快感が腹の底から沸き上がり、全身を駆け抜けるようにして脳へと上り詰めた。
ガクガクと体を震わせた二人は力を失って地面に崩れ落ちる。
二人の陰核から透明な液体が噴き出して、互いの体に降りかかった。
地面につぶれたように横たわりさらに体を痙攣させ続ける二人の瞳には、それでも怒りが色濃く灯っている。
「…よ、よくも…!」
「…私を汚してくれたな…!」
震える体を制御して、二人は尚も腰を打ち付け合う。
絶頂を迎えたばかりでその感覚を研ぎ澄ませていた秘所と陰核は数合と保たず、二人の体を再び絶頂が貫いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、このっ…」
「はぁ、はぁ、はぁ、クソっ…」
オリヴィア達はそれでも震える体を引き起こして戦い続ける。
二人の争いは、宿主が利用時間の終了を告げる鐘を鳴らすまで、延々と続いた。
バタン、と、静かに戸が閉まる音がした。
夕食の準備をしていたノアが顔を上げると、そこには少しやつれたような顔つきのオリヴィア達が居た。
「遅かったですね。研屋さん、混んでたんですか?」
「遅くなってすまないな」
「あぁ、珍しく何人も並んでいた」
ノアの問いに、オリヴィア達はそう答えて笑顔を見せた。
「そうでしたか、お疲れ様でした。もうお夕飯ができるので、座っててくださいね」
「あぁ、ありがたい」
「いつもすまないな」
オリヴィア達はノアに勧められるがまま、食卓の椅子に腰を下ろした。
ノアは手慣れた様子で棚から皿をいくつか取り出して、そこに煮込み汁や刻んだ野菜と肉の炒り物を次々と盛り付けていく。
「二人とも、ケンカしませんでしたか?」
「あぁ、いつでもどこでも突っかかってくる莫迦とは違うからな」
「気に入らないけど、堪えてはいたよ」
そう言った二人の視線が一瞬ぶつかる。
二人の瞳には、これまで以上の怒りがともっていた。
「それなら良かったです!ささ、ボクお腹空いちゃいましたし、食べましょう!」
「うん、いつも私のためにありがとうな、ノア」
「たまには私がノアをねぎらわないといけないな」
「そうだな、お前はノアの代わりに家事をしていろ。その間に私はノアと一緒に依頼を受けてくる」
「何を言っている?依頼なら一人で行け。その間に私がノアに手料理を振る舞う」
「なんだと…?」
「調子に乗るなよ…!」
「はいはい、二人とも、せっかく作ったご飯が冷めちゃいますから、もうやめてください!」
ノアは、苦笑いを浮かべながらもそう二人をいさめる。
彼の言葉を聞いて、オリヴィア達は互いに視線を外し、ノアの料理に意識を向けた。
そんな二人を眺めながらノアは、ひそかに満足感を抱いていた。
(それにしても、すごかったですね…もう少し煽ったら、今度はどんな決闘をみせてくれるんでしょうか…今から楽しみですね…♪)
迷宮で掛かった罠がノアの仕掛けたいたずらであることも、時間が経てばもとに戻るというノアの見立てが嘘だということも、先ほどの「決闘」を遠隔視魔法で覗き見られていたことも知らず、オリヴィア達はノアの料理に舌包みを打つ。
次こそは徹底的に相手を叩き潰す、そんな決心を胸に抱きながら。