Previous Post

シルバー・バレット

Next Post
シルバー・バレット
1 / 4
DESCRIPTION

1993.10.31



銀の弾丸を打ち込まなければ。


この怒れる、美しい獅子を締めなければ。

黒い8オンスグローブに包まれた両拳を、胸の前に構えます。


痛々しく腫れた頬。血漿と唾液、体液に塗れたその表情。

私が壊した彼女の顔。

その奥に、まっすぐな瞳が爛々と輝いているのです。


私の手数にたいして、彼女の有効打は取るに足りないものでした。

しかしその数発だけで、私の顔面も少なくないダメージを受けていました。


特に5Rに受けたフック。

ガツンとした衝撃に世界が暗転し、人生初のダウンを喫しました。

歴史のある我がブランニュー家にとって、ダウンは恥ずべきこと。

ですが、これは私から彼女へ示せる、最大の敬意の一つとなったことでしょう。


マットに滴る夥しい鼻血。

マウスピース越しにズタズタになった口内。

あの血の苦い味は、試合後3日間消えませんでしたね。


まさに殺し合いのようなヒリヒリする打ち合い。

でも、ついにその時は来たのです。


最期のラッシュ。

残り30秒の打ち合いを制し、彼女の頬を砕いた瞬間。

彼女の腰が落ちた瞬間に、フィニッシュまでのフローが私の脳裏をイメージとして駆け抜けました。


自分でも驚くほどのインスピレーションです。

これが『ゾーンに入る』ということなのでしょうね。


2秒後の私は脳内のイメージ通り、再び恐ろしいフックを彼女の右頬に叩き込みました。

本当に恐ろしい手応えです。どの選手もこの1発を入れるだけでただの肉塊になる。

それを、これ以上ないほどの完成度で彼女へ叩き込んだのです。


しかし、彼女は倒れなかった。


後ろへよろめき、コーナーを背にして、彼女は拳をまだ構えたのです。その目は虚でしたが、私はその中に生きる闘志を確かに見い出しました。

あれを見逃していなかったら__。私の勝利はなかったかもしれません。


読み合い。

彼女のパンチを交わし、トドメとなるパンチ___

アッパーカットを顔面に叩き込みました。




恐ろしい銃声ともに私の弾丸が、彼女の脳天をぶち抜きます。


臀部と膝のバネを使った、私の持てる最高のパンチ。

満身創痍の人間に打ち込むべきではないでしょう。

並の人間であれば二度とリングに上がれなくなるだろう、それほどに恐ろしい行いでした。


でも、私は彼女にそれをすることを選びました。

そうでもしないと、彼女は倒せない。

それほどに恐ろしかったのです。


マットに倒れ込んだ彼女は、とうとうただの肉塊になりました。

私はその情熱的な瞳から闘気の光が消えていくのをぼーっと見下ろしていました。


(ミス・ブランニュー!  ニュートラルコーナーへ!)


そんなレフェリーの怒鳴り声も耳に入りませんでした。


私のシューズの爪先。その先で消える炎に。

拳に残る、彼女の顔の感触に。

たまらなく欲情しました。


私のものになったその支配感。

生物種としての優越感に、全身に快感が走りました。


そして、

ひどい罪悪感も。


普段の私に日記を残す習慣はありません。

強迫観念に突き動かされたのです。


夜ベッドで目を閉じる時。

あの瞬間が強い感情とともにフラッシュバックして。

ぐちゃぐちゃの心の行くまま、熱い体を慰めずにはいられないのです。


この鮮明な記憶が、文字となり、紙の表面に踊ることで。

色褪せていくことに期待しているのです。



↓ 差分






いつもご支援ありがとうございます!



tarupo789 PIXIV FANBOX 114 favs
VIEWS1
FILES4 files
POSTEDJul 15, 2024
ARCHIVEDJun 10, 2026