■ ある悩みを抱えたヒロインが、彼氏にお願いして自分を抑え込んでもらうお話です。拘束・SM・調教の要素を含みます。
■ 今回の話はリアル路線なので、極端なファンタジー要素は出てきません。あー、ヒロインの性質については……まあ、こういう人も広い世の中にはたぶんいるよねってことにしといてくださいーw-;
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その日、私の家に届いたものは、普通の人にはその真の用途がまるでわからないであろうものだった。
見た目は三角錐状の袋で、材質は革。いくつか横向きにベルトがかけられていて、それを締めることで絞ることが出来る。
底辺から頂点までの長さは一メートルもなく、頂点に当たる部分は完全な鋭角ではなくて、軽く丸く膨らんでいる状態にある。
わかる人にはこれだけでも何かわかるだろう。
それは――アームバインダーと呼ばれる拘束具だった。
ごくりと喉を鳴らしながら、私はそのアームバインダーを箱の中から持ち上げてみる。
思ったよりもずしりと来て、どきりと心臓が高鳴った。
「ほ、ほんとに届いちゃった……」
ついそんな風に呟いてしまう。自分で探して、採寸もして、そして注文もしたのだから届いて当然なのだけど、改めてその実物を前にしたいま、無性に緊張というか、不安が湧き上がるのを感じてしまう。
「……で、でもこれなら……!」
私は意を決してそれを丁寧に手入れし始めた。傷がないか、変な汚れがないか、肌を傷つけそうな尖りや荒れた部分がないかどうかを確かめていく。
入念にチェックするのは当たり前だ。
だって、このアームバインダーを身に着けるのは、私自身なのだから。
もちろん人に使うとしてもちゃんとチェックはしないといけないけれど、今回の場合はより慎重なチェックが必要だった。
なぜならそれを使ってもらう相手は、私がこれを使って欲しいということをまだ何も知らないからだ。
私は、至ってノーマルな――隠されていなければの話だけど――彼氏に、そのアームバインダーを使ってもらおうとしていた。
そうとだけ聞けば、私がとんでもない変態ドMであると思われるかもしれない。
けれど、違うのだ。そういうわけじゃない。
私は必要に迫られて、そのアームバインダーを使わなければならないのだった。
暴力ヒロイン、という言葉がある。
ひと昔前に一世を風靡した、漫画などの登場人物が持つ特徴の一つだ。
雑に説明すると、スカート捲りやらラッキースケベやらに過剰な暴力で応じるヒロインのことで、主に好意を寄せる主人公相手にその暴力は振るわれる。
自分でいうのはおかしな話だけど、私は分類するならその暴力ヒロインになってしまうのだ。
暴力的な理由はヒロインによって様々だけど、私の場合は恥ずかしさがマックスになった時に思わず手が出てしまうという状態だった。
ファーストキスの際に、恥ずかしさが振り切れてヘッドバッドを叩き込んでしまったのは、私の中で最悪の黒歴史になっている。
幸い、私の彼氏は武道の心得がある人で、直前に回避してくれたから事なきを得たけれど、まともに当たっていたら彼の前歯やら鼻の骨やらがへし折れていただろう。
デート中、手を繋いだ拍子に殴りかかってしまったことは数えきれない。彼が受け流してくれなければ、私は何度彼を病院送りにしてしまっていたことか。
私とてこんな暴力を振るいたくないのだけど、恥ずかしくなると頭がどうしようもなく沸騰して、冷静な判断も何もできなくなってしまうのだ。
彼とはすでに同棲もしていて、いいタイミングで結婚しようという話になっている。
ただ問題は、私の暴力癖が治まらないという点だった。
彼の存在に慣れて、恥ずかしく感じなくなれば大丈夫になると信じているのだけど、いまだに彼と手が触れあうだけでドキドキするし、キスしようものなら拳が出る。
彼に背後からしっかり抱き締めて貰うというのが限度で、正面から抱き着こうものならハグがベアハッグになってしまう。
そんなどうしようもない私の暴力癖を荒療治ででも治すため――アームバインダーを用意したのだ。
物理的に腕を封じれば、少なくとも殴りかかることはない。
その状態で彼との触れ合いに慣れてしまえばこちらのもの。
ちゃんと彼に大好きだと表現できるようになる、はず。
完璧な計画だった。
「――と、いうわけなの! これを使って私を拘束して!」
私がそう言って彼に、三也にお願いすると、いつも穏やかな笑みを絶やさない彼の目が点になった。
「…………えっと、本気? 奈留ちゃん」
「本気も本気よ! だってこのままじゃ、結婚式でキスも出来ないじゃない!」
それほど大きな式を挙げるつもりはなかったけれど、親や親しい友人を招待して小さな式を挙げるつもりはあった。というか挙げたい。
暴力癖のあるくせにと自分でも思うけれど、子供の頃からウェディングドレスに憧れがあって、絶対に式は挙げたいと思っていた。
ただ、今の自分のままだと、間違いなく式が惨劇の現場になってしまう。
白いドレスを返り血で汚したりなんかしたら、一生の思い出どころじゃなくなる。
「それは……まあ……うん。そうだけど……」
三也がものすごく歯切れ悪そうに私の言葉を肯定する。
私が悪いのに、気遣ってくれるところがすごく誠実で素晴らしい人だと思う。
「だからね……これで私の両腕を縛って、その上でイチャイチャさせて欲しいの! お願い三也! 私のためだと思って!」
私は彼に向かって頭を下げて懇願する。
三也は私の暴力癖を受け入れてくれているけれど、いつか愛想をつかされてしまうのではないかという不安もある。
私はなんとしてでも、暴力癖を治さなければならない。
「……なんだか、奈留ちゃんの方が治っても、今度はこっちが変になりそう……」
三也が何か呟いていたけれど、頭を下げていた私にはよく聞こえなかった。
「何か言った?」
「ううん、何も。その……言いたいことも、やりたいこともわかったけど……えっと……」
まだ何か言い淀む三也。
私は覚悟を決めて三也に問いかける。
「なにかしら。気になることがあるなら、何でもいって」
「……その、腕を拘束しても、足とか頭とかは普通に出ちゃうんじゃないかなって」
そう言われると思っていた。
私は三也に見せていたアームバインダーを箱に戻し、別の道具も取り出す。
今回私の元に届いた拘束具は――実は、アームバインダーだけじゃない。
「そう言われると思って、足枷も準備してあるの! しっかりクッションが取り付けられている分厚いベルト型だから、本気で暴れても大丈夫! あと……」
さらに私は別の道具を取り出す。
「噛みついたり出来ないように、首と口とが一体になる拘束具も! これなら大丈夫のはず! 全部身に着けた状態の私を、三也は簡単にあしらえると思うし」
武道の心得がある三也だからこそ、いままでも大した怪我もせずにいられた。
いまでもそんな感じなのだから、拘束具を着けた状態ならより簡単に制圧してくれるはずだ。
三也は私に手渡された道具を、まじまじと興味深そうに眺めていた。
「……世の中って広いねぇ。……わかったよ。そこまで言うなら」
「決まりね! それじゃあさっそくやってみましょ!」
そう言った私は立ち上がって気を付けの姿勢になって、三也に背を向けて腕を背中側に回す。
私の糸を察した三也は、アームバインダーを手に取った。
「まずはこれからだね。……服は着たままでいいの?」
私はいま、ノースリーブのシャツに、短パンを履いている。家の中だから、かなりラフで露出度も高い格好だ。
三也の言葉に、裸で拘束される自分を想像してしまった私は、一気に頭が沸騰するのを感じた。
「……! と、ととと、当然でしょ! い、いきなり裸なんて……ッ、恥ずかしすぎるわよっ!」
目を瞑って叫びながら、気づいたときには拳を振るっていた。背中を向けていたはずなのに、我ながらなんてスムーズに攻撃に移ってしまっているのだろう。
三也は無我の境地で振るわれた私の拳を、絶妙にいなして躱していた。
「ごめんごめん。そうだね、段階を踏むべきだね!」
三也に武道の経験があって本当によかった。そうでなければ鼻血くらい噴出させていたかもしれない。
私は深呼吸をして気持ちを落ち着けて、改めて三也に背を向ける。
「ほ、ほら、早くしてよっ。また殴り掛かっちゃうから!」
我ながらめちゃくちゃなことを言っている自覚はあったけれど、三也はそんな私の無茶苦茶な言い分を聞いて、アームバインダーを持って私の後ろに立つ。
ドキドキする心臓がうるさい。恥ずかしさゲージが溜まっていくような感覚がする。
はやく拘束してもらわないと、また殴っちゃう。
「それじゃあ、いくよ」
「は、早くしなさいよっ」
確認を取ってくれる三也に対し、ついそんなことを言ってしまう。
我ながら本当に可愛くない彼女だと思う。
自分でそう考えて密かに落ち込んでしまう私に、三也はそれ以上は何も言わず、アームバインダーを装着させてくれた。
手の先からゆっくりと覆われていくのがわかる。上部な革で出来たそれはわずかな圧迫感を生じさせつつも、私の指先から手首、手首から腕先、肘、そして二の腕、と順に覆っていく。
「……っ」
三也が最後まで袋の縁を引き上げると、腕に密着するようにして、そのアームバインダーが肌に張り付いてくるのがわかる。
一応、アームバインダーの中には潤滑油が薄く塗布してあるので、それほど強い摩擦は生じていない。
でも、私の腕は肩の付け根までアームバインダーに覆われ、指先もまっすぐ伸ばして両手を揃えた状態で動かせなくなった。
「……手首のところから、締めていくよ」
三也の声が耳元でして、その吐息が微かに耳に触れる。
「~~~~っ!!」
ぼっ、という擬音が出る勢いで、顔が赤くなるのがわかる。
「なにすっ――あっ!!」
羞恥が限界に達して、反射的に手が出そうになったけど、私の腕はみしりと音を立てることしか出来なかった。
アームバインダーがその効果をいかんなく発揮して、私の腕の可動域を著しく狭めている。
「くぅう……っ!」
無理に動かそうとしたせいで、腕の付け根がミシミシと悲鳴を上げる。
痛いけれど、そうなることが目的だったのだから文句はない。
(や、やった……! 成功、ね……!)
暴力癖を強制的に抑え込むことに成功した私は、痛みに顔を顰めつつも、作戦の成功に喜びを感じていた。
そんな私に対し、三也は不安そうに尋ねてくる。
「奈留ちゃん……大丈夫?」
三也にしてみれば、私が急に痛がったように見えただろう。
私は三也を安心させるために、無理やり笑顔を浮かべて見せる。
「だ、大丈夫、よ。いいから、気にせず続けて……!」
まだアームバインダーは中途半端に身に着けている状態にある。
ここからさらに厳しく拘束してもらわなければならない。
その決意を受けて、三也は頷いてくれた。
「わかった……それじゃあ、アームバインダーのベルトを締めていくね」
その言葉と共に、三也は私のアームバインダーのベルトを一つずつ締めていく。
この時の私はまだ――拘束されるということを理解しきれていなかった。
つづく