「結局、また着ちゃうんだ・・・」
「だって・・・」
彼女は再び、ラッシュガードを身に纏っている。
先ずは手始めに、と。
僕たちは、館内で一番広い『大プール』から入ることにした。
「結構、人が居るんだもん」
「まあ、そうだね」
ナンパ男たちとの一悶着で時間を取ったこともあってか。
既に、プールは人で一杯になりつつあった。
“まだ泳げる”程度であるけど、全力で泳ぐのは憚られるレベル。
彼女が黒ビキニ姿を晒せば、途端に衆目を集めてしまうだろう。
「それに、私・・・“泳げない”の」
「え、でも・・・」
彼女はスイーッ、スイーッと平泳ぎで器用に泳いでいる。
「・・・あ、うん。えーっと、ね」
彼女は、言い方が正しくなかったと思ったようで。
「どういうこと?」
「見てて」
彼女は、僕の目の前で“実践”して見せてくれた。
水を漕いでいた両手足を止め、水に浮かべるように力を抜いて。
そのまま、“浮き”の姿勢を取ろうとする、も・・・。
ズブブブ・・・ドプンッ。
「ちょ・・・」
「ぷはぁっ」
彼女のは全身が水中に沈んだかと思うと、直ぐに顔を出す。
「はぁ、はぁ・・・ふぅ」
「だ、大丈夫?」
彼女は、呼吸を整えながら苦笑いを浮かべた。
彼女が言うには。
どうやっても、身体が沈んでしまうらしい。
今はラッシュガードに隠されて、着痩せして見えるけど。
その中には、ナンパ男程度なら軽く捻ってしまえる筋肉ボディが秘められている。
ボディビルダーみたいに脂肪を絞っていないとはいえ。
それでも、トータル『200kg』超な体重の内、筋肉が占める割合は少なくない。
筋肉質な人は水に浮かないって話は、確かに聞いた事があるけれど。
もし、足が付かないような深さだったら、何処までも沈んで行きそうな沈み方だった。
「水に沈むより先に、前に進むことは出来るのよ?」
「そう、なの?」
忍者が水の上を走る説明をしている・・・ように錯覚してしまう。
「ん-、あっちなら行けそう・・・かな」
彼女に促され、まだ人が少なそうな端っこに移動。
「見てて、ね?」
彼女は、数メートル離れた所から僕に向かって『バタ足』を始めた。
ドォンッ! バシャンッ! ブシャッァンッ!
比喩でなく、“水柱”が上がった。
「え、え、・・・うごぉっ!?」
“水柱が近付いて来た”かと思うと、僕は胸元をドォンッと押され・・・。
「・・・え? あ」
「う、っわぁぁっ!」
僕はまるで、水走りをする忍者の如く、プールの水面を吹っ飛んだ。
バシャンッ! バシャンッ!! バッシャァンッッ!!!
何度も水面をバウンドして、“水切り石”の気分まで味わうオマケ付き。
「ぷはぁっ!」
「だ、大丈夫っ?」
さっきとは逆に、今度は僕が彼女に心配されていた。
ざわ・・・ざわ・・・
ざわ・・・ざわ・・・
「何だ、何だ?」「ねぇ、何があったの?」
凄い音がしたせいか、人が少なかった筈の区画に人が集まり出す。
「い、いえ。な、何でもありません」
「す、すみません~」
僕と彼女は周囲に頭を下げると、居たたまれなくなり退散。
「こ、この辺なら、だ、大丈夫・・・かな」
「そ、そうだ、ね・・・」
二人揃って、水を漕ぎながら水中走りで離れた場所に移動。
「あ、痛ってて・・・っ!?」
僕は痛みを感じ、視線を落とす。
胸元には、奇麗な“紅葉型の斑点”が出来ていた。
「ご、ごめんなさい・・・」
彼女が済まなさそうに、シュンッと小さくなっていた。
人間の下半身は、太腿だけで全身の筋肉の六、七割ほど有ると言われる。
単純計算、彼女の下半身は、僕二人分の重さがある訳で。
泳ぐ事を考えた場合、沈まないようにするだけでなく、前に進む力も必要。
普段はセーブしているであろう、彼女の超筋力は発揮せざるを得ない状況になり・・・。
『200kg』超な彼女が魚雷になるぐらいのバタ足なんて、然もありなん。
そして、そんな魚雷を喰らって赤痣だけで済んだ僕は、良く無事だったと思う。
「じゃあ、さ。あれ、行かない?」
「あれ、って」
気分を変えようと僕はプール内に在る、“巨大建造物”を指差した。
レジャープールではお馴染みの、ウォータースライダーだ。
「あー、ひょっとして」
「へへ・・・っ」
彼女は、僕の目論見に気付いた模様。
だけど、胸の“紅葉痣”に免じて流してくれた。
「人は並んでる・・・けど」
「うん。回転は早そう」
屋外型プールの巨大スライダーには及ばないものの。
それでも、待機列に並ぶ為に真下まで来ると、かなりの大きさだった。
待機列が進む度に、「キャー」とか「わー」という声が聞こえて来る。
高台の発射口から、大きな浮き輪に座ったカップルたちが流れて行く。
そう、ここのウォータースライダーは二人一組で乗るアトラクションなのだ。
一人でも乗れるけど、そんな剛毅な者は一人も居ない。
大きな浮き輪には左右に二つずつ、二人乗りを想定した取ってが付いている。
前後に並んで座り、左右の取っ手を持って身体を保持するイメージ。
・・・とはいえ、だ。
大きいとは言っても、所詮は浮き輪。
人間二人が座れば当然、身体は密着する訳で・・・。
「でも、どっちが前に座るの?」
「・・・へ。あ、そういえば・・・」
二人用の浮き輪だけど、横に並んでは乗れない。
つまりは前後、縦に並ぶことになるんだけど・・・。
「・・・ま。ここは、私が後ろかな」
「え、良いの?」
背中一杯に、彼女のおっぱいやら太腿を味わうことになる。
身体前面に、彼女の背中やらお尻の感触を得るのもアリかとは思ったけど・・・。
「だって、潰れちゃうよ?」
「・・・あ」
ラッシュガードのお陰で、着痩せして見えはするものの。
その下には、『200kg』超の超絶ボディが秘められている。
ウォータースライダーを下ることでの『加速G』を受けたら、僕の身体は下手をすると・・・。
「次、だね」
高台の頂上で、やっと僕たちペアの順番が来る。
「私から、座るね」
係員さんに促され、彼女のが浮き輪の後ろ半分に陣取る。
座る、というよりは陣取る、って感じ。
脚を『V字』に開いて、僕の空間を作らないと人間二人が座れないぐらいには狭いのだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
僕は恐る恐る、彼女の股間にお尻を置いて行く。
ふよんっ。
「・・・おっ」
頭を後ろに倒すと、ラッシュガード越しでもハッキリとわかる、彼女の爆乳。
「・・・っ」
「・・・ぅっ!」
ギチィッ!と僕の腰に圧力が掛かり。
彼女のが太腿に力を籠めたのか、僕の下半身が完全に固定される。
「ちょ・・・」
全く、身動きが取れない。
まるで、ジェットコースターの固定レバーが下りた状態みたい。
いや、これから滑るんだから、それはそれで良いんだけど。
「じゃあ、行きますねー」
係員さんは、僕たちのやり取りを知ってか知らずか。
僕たちが身体を固定したと思い、両手で浮き輪をグンッと押した。
「う、おぉぉぉっ!」
「きゃー、ははははっ!」
正直、前に座って失敗したと思った。
ガチで、怖い。
高速でスライダーレーンを突き抜けて行く感覚は、ジェットコースター並み。
右に曲がり、左に曲がり。その度にレーンから浮き輪ごとハミ出しそうになる。
それも、その筈だった。
普通のカップルが男女で乗ったとして、せいぜい『150kg』程度。
下手をすると、僕たち二人は合わせて『200kg』台後半とかなり重い。
「うぉっ、ぉ!」
「きゃははっ」
彼女の前では決して口にしないけど、トータル『300kg』弱という重さは。
水流の中で、僕たちの身体を左右に大きく揺らし続けた。
「うぉわぁっ!?」
「きゃー♪」
ジェットコースター張りに高速スライダーを目視している僕にとっては、ひたすら恐怖で。
僕の後ろに居る彼女は、むしろ加速と左右への揺れを素のまま楽しんでいた。
ドッパァァンッ!!!
ものの数分だったけど、体感的には永遠とも思える時間がやっと終わって。
僕たち二人は、広いプールに浮き輪ごと投げ出された。
「ふぅー、楽しかったー♪」
「・・・・・」
「あ、あれ?」
「・・・・・っ」
「ねぇ、どこー?」
「・・・っ!!」
「・・・あ」
彼女は、ようやく僕を“股の間に挟んだまま”だったことに気付いたようで。
「ちょ、大丈夫っ!?」
水中から、僕とスッと抱き上げてくれた。
「ぷはぁっ! はぁ、はぁっ・・・」
危うく、溺れる所だった。
まさか、彼女の太腿に挟まれたまま、水中に沈んで溺れる寸前だった。
「ご、ごめん・・・」
「はぁ、はぁ・・・だ、だいじょ・・・ぶ」
僕は息も絶え絶えに、何とかそう答えた。
「あ、あの。降ろして」
僕は彼女に抱き上げられた結果、完全にプールの水面から浮いている。
いわゆる、『高い高い』されている状態。
「おー、すげー」「何、あれ」
またしても、目立ってしまう。
決して小柄ではない中肉中背な僕を、彼女は軽やかに持ち上げてしまっている。
しかも、多分だけど、彼女は力を入れていないと思う。
着痩せして細く見える腕だけど、袖の中には『ハンドボール』な力瘤が眠っているのだ。
「あ、ごめん。えへへ・・・」
彼女が、苦笑いしながら僕を降ろそうとした、その時。
ぶるんっ。
「・・・ぇ」
彼女の胸元が突然、大きく揺れた。
勿論、未だラッシュガードは着たまま、なのに。
「・・・ぁ」
「ど、どうした・・・の?」
彼女は、視線がフラフラしている。
狼狽というか、明らかに動揺している感じ。
「水着の紐、外れちゃった・・・みたい」
「・・・え」
アニメや漫画のプール回にありがちな、“水着取れちゃった”的なイベント。
それをまさか、目の前で体験するとは思わなかった。
「でも、何で」
彼女は、上着で上半身をガッチリとホールドしている。
「え、っとね。いざ着てみたら、意外と水着がキツくて・・・」
思いの外、ウォータースライダーが楽しかったらしく。
『126cm(96H)』なメロン爆乳を支えるだけで、かなりの圧力が掛かる所に。
彼女の強力な背筋が動き捲ったせいか、紐が緩んでいて。
僕を持ち上げたことで、遂には紐が外れてしまったらしい。
「どうする? 更衣室まで戻る?」
とはいえ、ここから更衣室はかなり離れている。
「着けて、くれない・・・?」
「え、僕が? わ、わかった・・・」
ラッシュガードのお陰で、おっぱいポロリとはなっていないけど。
彼女は恥ずかし気に胸元を抑え、大きな身体を小さくしていた。
プールサイドにある観葉植物の木陰に移動して。
「脱ぐ、ね・・・」
周りに人が居ない事を確認して、彼女はスルスルと上着を脱ぐ。
「・・・っ。う、うん」
衆人環視ではないけど、少し移動すれば直ぐに人が居る空間だから、か。
何か凄く、悪い事をしてしまっているかのような気分になる。
彼女は器用に片手ずつ持ち替えて、ブラを抑えたままラッシュガードを脱いだ。
背中に回ると、確かにブラの紐が外れて逞しい広背筋が露わになっている。
「す、っご・・・」
僕はつい、感嘆の溜め息を漏らしてしまう。
項(うなじ)から、扇型に広がる僧帽筋。
そこから下方に向け、広背筋の立体的に盛り上がっている。
某漫画の“鬼の貌”とまでは言わないけど、ゴツゴツとした逞しい背中。
「・・・ん、ぐ」
紐を結ぼうとするも、中々上手く行かない。
「どうしたの?」
「これ。結構、ギリギリ・・・かも」
試着・・・したかどうかは、怪しいんだっけか。
それでも、特大サイズである筈の黒ビキニトップの紐は、かなりカツカツだった。
「やっぱり・・・」
「やっぱり?」
彼女はあれから、筋トレにハマってしまったらしく。
腕立て伏せに腹筋、レッグレイズ。
自宅でやれる筋トレは粗方、試したみたいで。
「お肉、付いちゃった・・・のかな」
「ど、どうだろ・・・」
僕は、お茶を濁すに留めた。
“肉”が何を指すかは、意見が分かれる所だけど。
少なくとも、おっぱいのサイズは変わっていないように見えた。
つまり、上半身を鍛えた事による、胸筋と背筋のビルドアップがあったに違いなく。
紐を縛る際の感触は、高い山にありそうな岩場のゴツゴツ感そのものだった。
「これ、どうする?」
一先ず、彼女の水着の再着衣に成功して。
僕が着るには絶対にブカブカになる特大サイズの、ラッシュガードが手に余り・・・。
「もう、いっか」
彼女は受け取ると、パレオみたいに腰に巻いてしまった。
「良い、の?」
「何か、面倒臭くなっちゃった」
目立つのが嫌、とは彼女の弁だったけど。
ここまで、もう既に何度も目立ってしまっている。
「せっかく遊びに来たのに、ビクビクと他人の目を気にするのも変だし」
そう言って胸を張ると、黒いビキニトップが窮屈そうに揺れる。
「そう、だね。確かに、そうかも」
むしろ堂々としている事で、チラチラ見て来る男たちは減ったように思う。
女性の胸元を見る、なんてのは後ろめたい行為なのは間違いなくて。
その当の本人の視界を前にして、それを面と向かってやれる人間なんて殆ど居ない。
「何かあったら、ちゃんと守ってね♪」
「う、うん」
どちらかというと、胸元より二の腕に視線が集まっている・・・ような気がする。
特大のメロン爆乳・・・より、更に大きいハンドボール力瘤。
彼女に何か不貞を働こうものなら、その腕力で以って、
グシャッ
と潰されてしまいそう。
というか、既にナンパ男二人が彼女の腕力の洗礼を受けている訳で。
彼女を守るのは勿論だけど、返り討ちに遭う未来の誰かを生み出さない為にも。
僕は彼女のラッシュガード代わりにならねば、と思うのだった。