「水着が、見たい」
僕は恥ずかし気もなく、そう高らかに宣言した。
「えー、・・・嫌よ」
彼女は、僕の申し出を即断。
「・・・うぅ」
「・・・どうしたの?」
彼女が訝しげに、僕の顔を覗き込む。
「あ、頭がズキズキする・・・ぅ」
「もうっ。それ、ずるーい」
僕は、わざとらしく頭を痛がる演技をした。
先刻まで、『レッグレイズ』という腹筋運動をしていた。
・・・筈、だったんだけど。
『太腿リフトスルー』という投げ技で、天井目掛けて打ち上げられ。
『太腿万力プレス』という悶絶技で、頭を圧迫されて昏倒してしまい。
僕は今、彼女のムチッとした太腿を枕に、仰向けで介抱されていた。
いわゆる、『膝枕』という奴だ。
「膝枕、してあげてるじゃない」
「それは嬉しいんだけど・・・」
膝枕の体勢なんだけど、彼女は足を崩して伸ばしている。
「最初は、正座でやってたんだけど・・・」
ムチムチッとした感触は有っても、彼女の脚は凄まじい筋肉を秘めている。
「首がキツそうだったし・・・」
脹脛(ふくらはぎ)の隆起ですら、僕の太腿ぐらいの厚さがあって。
更にその上、『79cm』な太腿が載ると、それはもう高くなり過ぎて。
「それに、胸が載っちゃって息止まってたから・・・」
「・・・え?」
彼女の胸元には、メロン爆乳(バスト)がドンッと飛び出していて。
視界を奪う程の体積は、大玉メロンが胸元に付いているのと同義。
その豊満なバストが僕の顔に載っていたのに。
当の本人の僕自身に、意識が無かったなんて。
何て、勿体ない事をしたんだ・・・。
「もっかい、試してみてくれない?」
僕は下心から、ついオネダリ。
「・・・良いよ♪」
彼女は“それ”を見抜いた上で、含みのある笑みを浮かべた。
太腿に僕を載せたまま、器用に脚を組んで正座状態に移行。
「う、おぉっ!?」
僕の頭に急激な上昇負荷が掛かり、首がビキビキと悲鳴を上げる。
「・・・ぅぶっ!?」
そして、首の痛みを確認する前に、僕の顔面はズブゥッと埋もれてしまう。
正座した彼女の下胸と太腿の間には、僕の頭を収める程の空間が無かったのだ。
「・・・っ!?」
息が、出来なかった。
彼女のおっぱいの、柔らかい感触はあるものの。
それをジックリと味わう余裕なんてものは、皆無だった。
視界と呼吸を奪われると、人間は本当に何も出来ない。
僕は慌てて、床をパンパンッと叩いて降参のアピール。
「ぷっ、はっあぁっ・・・はぁ、はぁ」
彼女は直ぐに、元の脚を伸ばした状態に戻してくれて。
「ふふふっ」
してやったり、と悪戯っぽく笑った。
「でも、ね。“水着”って、『場所』じゃないよね」
彼女は改めて、話題を戻す。
『太腿技』の責めてものお詫びに、と。
僕に、『次のデート場所を決めて良い』って言ってくれたんだった。
「んー、と。じゃあ、海とかは?」
「まだ、海開きしてないんじゃないかな」
言われてみれば、そうか。
最近、春が短くて直ぐに暑くなるから勘違いしてしまうけど。
海水浴に出掛ける季節としては、まだ早い。
「じゃあ、“ここ”は?」
「スパ・・・、リゾート?」
僕が提案したのは、スパ施設。
いわゆる、プールと温泉が融合した大型レジャー施設だ。
「屋内だから、全天候型だし。どう、かな?」
「うーん。まあ、良いけど・・・」
彼女は渋々、といった感じ。
「じゃあ、『スパ』で良いのね?」
「うん? そうだよ」
何故、だろう。彼女は、念を押して来た。
「もし、『ホテル』って言われたら、どうしようかと思っちゃった」
「・・・あ」
僕は、シマッタと思った。
海水浴やプールより、『温泉』に一緒に入る方が背徳感があるというか。
端的に言って“エロい”、なんて思っていたのに。
むしろ、その発想自体が凄く子供染みていて。
ダイレクトに、“そういう場所”を指定しても良かったのか、と後悔。
「まあ、でも・・・」
と、思いきや。
「握った弱みで“そんな事”を強要して来るようなキミじゃないって、信じてた」
「そ、そうだよね・・・はは」
僕は内心、冷や汗を掻いていた。
後々の地雷になり兼ねない選択肢を神回避、といった所だろうか。
「水着だって、別に好感度は上がってないから・・・ね」
頭の後ろでモゴォッ、と彼女の太腿が厚みを増した。
床に置かれた太腿なのに、高さが上がって僕の首が辛くなる。
「だ、だって。君のカラダ、凄く綺麗でカッコいいから」
「ホントぉ?」
急拵(ごしら)えな褒め言葉だけど。
決して、嘘は言っていない。
男なら誰もが魅かれる、メロンバストな爆乳。
男でも羨むような、逞しい筋肉。
本当にそう思う、本心からの言葉。
「ま、いっか。そう言われて、悪い気はしないし♪」
『膝枕』で僕を見下ろす彼女は、ニッコリとほほ笑んでいた。
「それにー」
「それに?」
「実は、水着も買ってあったんだー」
「え、嘘。いつの間に・・・」
買い物デートの際、何度か別行動になった。
その時に、水着も買っていたって事かな。
「じゃあ・・・」
「だーめ♪」
彼女は察したのか即、ダメ出し。
「お披露目はその時に、ね」
「うん、わかった。楽しみにしてる」
僕たちは予定を合わせて後日、郊外にある超大型スパリゾートに向かった。
「凄く、混んでる・・・ね」
「うん。みんな、考える事は一緒なのかな」
入口から、更衣室から。
開場して少し経ったぐらいの時間なのに、既に多くの客で賑わっていた。
「じゃ、後でね」
「うん、更衣室を出た所で待ってる」
と言っても、男子な僕の着替えはあっという間。
ものの数分で、オーソドックスな短パン水着に着替完了。
更衣室を出た辺りで、立って待っていると。
色んな層のレジャー客が、どんどんと通り過ぎて行く。
家族連れやカップル、男同士に女子グループ。
ブーメランパンツなムキムキの人も居れば、スラッとしたモデル体型の人も。
「・・・・・」
僕は改めて、自分自身の身体を見遣る。
お世辞にも、逞しいとは言えない身体。
「僕も、鍛えた方が良いのかな」
ブーメランパンツが似合う男になりたい、とは思わないけど。
それでも、美人でスタイル抜群な彼女に釣り合う男になりたい、とは思う。
「おまたせー」
「ううん。待ってないよ」
程なくして、お待ちかねの彼女が更衣室から登場。
「・・・て、え?」
「どうしたの?」
驚く僕に、彼女は然(さ)も『何を驚いているの』と言わんばかり。
「“それ”、何?」
「何って・・・水着?」
何で、疑問形なんだろう。
・・・って。いや、そうじゃなくて。
彼女は、“上着”を羽織っていた。
「『ラッシュガード』、って言うらしいよ」
『ラッシュ』は、擦り傷。『ガード』はそのままの意味で、守る。
つまりは、身体を守る衣類ということになる。
「え、え。えぇ~~っ」
「ちょっとぉ。何、その反応ー」
彼女はプクーッ、と口を膨らませた。
「あ、いや。その、ごめん。似合ってる、よ?」
「何で、疑問形なの」
彼女が身に着けている、『ラッシュガード』。
話には聞いた事があるけど、見るのは初めて。
「デザインは、凄く可愛いと思う」
「“デザインは”、って何よー」
彼女を怒らせるつもりはない、けれど。
少しは、僕の落胆もわかって欲しいと思ってしまう。
「凄く、“着痩せ”してるね・・・」
「それ、褒めてるの?」
まさか、スパ施設に来てまで。
彼女の固有スキル、『着瘦せ』を見る事になるとは・・・。
パッと見、外で着るようなパーカーと違いがわからない。
しかも、冬物のダウンジャケットを思い浮かべるぐらい、ビッグなサイズ。
袖口は手首まで完全に覆っていて、いわゆる『萌え袖』状態。
丈も、膝上まで縦幅があって、『79cm』太腿は見る影もない。
本当に、そのままの意味で『上着』だった。
海水浴場なら、貝殻やプラスチックのゴミが転がっていたり。
屋外プールなら、紫外線対策も必要だろう。
そういった諸々から、身を守る意味はわかる。
だけど、スパ施設って温泉も在る訳で、そういう安全面はバッチリの筈。
「いや、だって・・・」
我ながら女々しい、とは思う。
でも、こういった屋内で上着を羽織る意味、を考えると。
もう、“体型隠し”ぐらいしか・・・。
「・・・あ、もしかして」
「わかって、くれた?」
彼女に視線を誘導された上で、僕は彼女の胸元を見た。
彼女が着ているラッシュガードは、かなり大きなサイズの為か。
筋肉ボディが、“多少モコモコする”程度には身体を覆い隠せている。
だけど、『126cm』で『Hカップ』という爆乳は。
それこそ、『上着』越しですら大きな膨らみになっていて。
彼氏の僕ですら、魅かれるように目線を置いてしまう程。
彼女の肉体を初めて見る男衆なら、言うまでもなく。
「チラチラ見られると、落ち着かないの」
君は良いんだけどね、と補足してくれた。
「それに、ナンパもね」
胸をチラ見するだけ、ならまだしも。
声を掛けて来る輩も多いだろうということは、想像に難くない。
「そうだね。でも・・・」
幾ら、公共の場と言っても。
流石に、カップル相手にナンパして来るような輩なんて・・・。
「ねー、ねー」
「「?」」
僕たちは突然、背後から声を掛けられた。
「あのー、何か」
更衣室から出て直ぐ、そんなに離れていない辺りで話し込んでいたからか。
てっきり、出入口を塞いでいたかと思うも、そんな事もなく。
「キミたち、二人だけー?」
軽薄そうな、“如何にも”な男二人が。
明らかに、僕たち二人にロックオンした上で話し掛けて来た。
「そうです、けど」
僕は、男二人と彼女の間に割って入る形で答える。
「おー。そんな警戒しないでよー」
「そうだぜー。何もしないよ」
凄く、噓くさい。
金髪男とピアス男の、二人組。
両者共にブーメランパンツなのはまあ、良いとしても。
二人共、腕やら脚やらに『タトゥー』を入れていた。
ラッシュガードみたいな上着は、特に禁止されていないけど。
刺青、タトゥー、ボディペイントの類は、明確に禁止されている。
人間を見た目で判断してはいけない、と言うけど。
僕は常々、その格言には異を唱えたい、と思っている。
「何もしないって言うなら、僕たちは行きますね」
そう言って、彼女の手を取り。
そそくさと、その場を離れようとする・・・も。
「おい、待てよ」
「きゃっ」
金髪男が、彼女の手首を掴んで来た。
「ちょっと、何するんですか」
「何、って。折角だし、俺らと一緒に楽しもうぜ」
折角って。何が、どう折角なんだろうか。
「僕たち、二人で来てるので」
「だーかーら、二人だけだと寂しそうだから誘ってやってんじゃん」
何その、上から目線の恩着せがましい台詞。
有難迷惑にも、程がある。
「“ボクチャン”は、黙ってな」
僕は不意にドンッ、と押され。
「うっ」
と、後ろに蹌踉(よろ)めいてしまう。
「ねー、彼女の方はどうなのさー」
「そーそー。俺らと遊んだ方が楽しいって」
どれだけチャラくても、この二人組は僕より体格が良くて。
少し小突かれただけで、ヒョロガリな僕はフラ付く始末。
「ねぇ、アナタたち。ひょっとして、ナンパしてるの?」
「ナンパぁ?」
男たちの、トボけた返答。
「俺らは只、一緒に遊ぼうって言ってるだけだぜ?」
金髪男は悪びれもせず、そう言い切った。
「俺ら、人肌が恋しくてさぁ~」
ピアス男は、わざとらしく自分自身を抱き締めるポーズ。
「・・・そう。アナタたち、“人肌の温もりが足りていない”のね」
あれ? 何だろう・・・。何処か、既視感がある台詞。
何か、前に聞いた事があったような・・・。
「 そ! そうなんだよー」
まるで、鬼の首を取ったかのようにアピール。
「・・・わかった、わ」
「わかってくれて、嬉しいぜ」
ナンパ成立、と言わんばかりに男は“隅っこ”を見遣る。
更衣室の建屋の影、明らかに人が居ないであろう方向。
「ここで、良いわ」
しかし、彼女は移動を拒否。
「じゃあ、最初は俺からで良いかい?」
男たちは手慣れているのか。
成功した後の順番は、予め決めていたらしい。
「何、言ってるの? “一人で”なんて、却って難しいわ」
「二人同時、ってか!?」「ヒュー♪ マジかよ」
男たちは、まさかの展開に沸き立つ。
「だって。“アナタたち自身で温め合う”、のよ?」
「何、言っ・・・」
彼女はガバッ!と両手を大きく、広げて。
「・・・え、ちょ」
ガシィッ!!と男たちの肩を掴み。
男たちがお互いに向かい合うよう、強引に振り向かせる。
「ぐ、が・・・っ」「この女、何て力・・・だ」
僕を片手間で蹌踉(よろ)けさせるぐらいには、強いであろう男二人組。
しかし、彼女の腕力の前では、抵抗は全く無意味だった。
ビッターッ、ンッッ!!
「「うっ、ぶっ!!」」
ブーメランパンツの男二人が向かい合っての、まさかのキス。
「てめ・・・っ!」「この、放せっ!」
何とかは顔だけはズラして、キスは寸での所で回避するも。
首から下は、全く身動きが取れないで居る。
体格の良い男二人が、たった一人の女の子にされるが儘。
「こぉら、暴れないの」
男たちの肩は未だ、固く彼女の手で強く握られていて。
メキッ、メキキッ!
「・・・うぎ。い、痛てッ!」「う、があぁっ!?」
男たち二人の悲鳴。
空き缶ぐらいなら、一瞬でクシャッと潰してしまえる握力。
その握力で以って肩を掴まれれば、堪ったものではないだろう。
ミシッ、ミシシッ・・・。
「い、痛でででっ!!」「ちょ、やめ・・・ぎゃあぁっ!!」
今度は、男たちの胸元からあばら骨の軋む音が聞こえる。
チャラ男たちは、彼女の怪力でサンドイッチされ。
胸元がピッタリとくっ付いていて、全く隙間がない。
ミギョッ、メギ・・・。
「ぐ、ぎ、ぃ・・・」「が、あ、ぁ・・・」
男たちの身体が徐々、宙空に浮いて行く。
肩を持つ手に、更に力が入ったのか。
力瘤がモゴゴッと盛り上がり、男たちの背中を圧迫する。
ミギィッ! メギ、メギョッ!
「ねぇ、そのぐらいにしてあげた方が・・・」
「・・・え? あれ?」
二人組は男同士で抱き合ったまま、グッタリしている。
彼女の『怪力締め』を喰らった結果、泡を吹いてノびていた。
結局。
騒ぎを聞いたのか、係員さんが駆け付けて来て。
引き渡された男二人はそのまま、連行されて行った。
「ふぅ、一時はどうなる事かと思った」
どうやら、以前から評判の悪いナンパ師だったようで。
施設側も警戒していたらしい。これで、出禁確定かな。
「ねぇ、大丈夫?」
「ごめん。役に立たなくて・・・」
ナンパ師から彼女を守るどころか、逆に助けられる始末。
彼氏として、本当に恥ずかしい限り。
「うぅん。守ろうとしてくれて、嬉しかった」
そう言えば、前にも似たような事があった。
食事デートの帰り、路地裏での一件。
あの時の僕は、彼女と男二人の間に割って入る事が出来なかった。
「前よりも、“彼氏らしく”なったと思うよ」
「そう、かな・・・」
少し、照れ臭い。
「でも、また“抱き付く”のかと思っちゃった」
「前は“戒め”の抱擁だったけど、今回は“お仕置き”だから」
彼女自身、僕が突き飛ばれた事に立腹していたらしい。
「それに、“この格好”ではやらないよ」
路地裏の時は、私服だったけれど。
今もラッシュガードを着ているし、そんなに違いは・・・。
「これ着ててもナンパされちゃうなら、もう良っかな」
彼女はガバァッ!と、勢い良くラッシュガードを脱いだ。
「えへへ。どう、かな?」
「・・・っ!?」
僕は、上着の中に納まっていた彼女の肢体に、つい生唾を飲む。
「・・・・・」
彼女は何と、下にビキニ水着を身に着けていた。
しかも、色は『黒』。黒ビキニ。
「ちょっとぉー。何か、反応してよぉ」
彼女が前屈みになり、上目遣いで僕の反応を伺う。
ぷるんっ。
と、たわわなおっぱいが僕の眼前で揺れた。
「あ、あ・・・ごめん。その、何て言うか・・・」
彼女の肉体の余りの凄さに、目を放せない。
「凄く、良い」
初めて見る、彼女の全身の肉体。
「えー、何それ。何か、表現がエッチィ・・・」
「綺麗で、カッコいい」
背丈は、僕より少し高いぐらいなのに。
体重が、僕の三倍強とはとても思えない。
女性らしいボンッ・キュッ・ボンッ、なシルエットなんだけど。
ビキニ上(トップ)の紐が、窮屈そうに僧帽筋の急斜面を越えて首筋に通り。
布地全体が引っ張られて、メロン爆乳にボンレスハムのように食い込んでいる。
そのボリューム感のある上半身に対し、キュキュッと縊れたウェスト。
腹筋運動の成果なのか、ブロック状の腹筋は更に存在感を増していた。
ビキニ下(ボトム)も、僕のお尻周りよりも明らかに豊満で逞しい。
「っ♪ ありがと」
彼女がラッシュガードを着ていたのには、理由があって。
ナンパ対策なんてのは、あくまでオマケで。
本当は、いの一番。
一番最初に、僕に見せたかったから、らしい。
因みに、色が『黒』なのもちゃんと理由があった。
寒色系の黒は、収縮色で。
対象物を、実際よりも小さく見せる効果があって。
むしろ、こっちの方がナンパ対策と言える。
とはいえ、多少の収縮色を身に着けたからと言って。
そんな程度で覆い隠せる程、彼女の身体はヤワじゃなかった。
「もっと、頑張らないとなぁ」
見た目で“着痩せ”して、尚。
僕より遥かにボリューミーな、彼女。
僕自身、そんな彼女に相応しい彼氏にならないとな、と内心誓ったのだった。