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彼女は9カウント一杯まで使い、もがくように立ち上がった。
そして大きく肩で息をしながら、試合を止められないように精一杯の笑顔を見せた。
「まっすぐ歩いてみて」
足取りは重いが、彼女はゆっくりと歩みを進めて見せた。
「まだやれるか?」
「やれ・・・ます」
彼女はこちらの呼び掛けにも答え、自身の無事をアピールし、ファイティングポーズをとっている。
しかし・・・
彼女の両手は小刻みに震え、拳を構えるのがやっとの状態であることを物語っている。
片目は腫れが酷く、ほとんど視界を失っているだろう。
さらにその笑顔は彼女の強い意志にのみ支えられたフェイクであることは明らかで、風前の灯という形容がまさに相応しい。
一方的な試合展開であれば迷わずここで試合を止めている。
だが、もう一方のコーナーに目をやると、ダウンを奪った選手も消耗が激しいことが窺える。
しつこく食い下がってくる相手に手を焼き、ロープに両腕を預けながらコーナーマットにもたれるように疲労を回復させている。
足の踏ん張りがきかないのだろう。
その表情は、ここで試合を止めてくれと言わんばかりだ。
間違いなく、これは接戦だ。
しかし何かあってからでは遅い。
レフェリーは選手を保護しなければならない。
もう迷っている時間はない。
私の中で葛藤が渦巻く中、立ち上がった彼女の目に残る僅かな光が私を見据える。
その光は、嘆願か、勝利への執念か。
瀕死の体でも最後まで試合を諦めない意志の強さに、気圧される。
両陣営の観客の「続行」と「中止」の声援がリング中央で交差し、怒号となって反響する。
未だ葛藤が晴れないまま、会場の熱量に押されるように私は叫んだ。
「BOX!!」
→審判目線です。続きます(続くというか予告に近いです)。