DESCRIPTION
試合再開の掛け声と同時に、疲労を押し殺して前に出る青コーナーの選手。
当然だ。瀕死の相手を仕留める絶好のチャンスなのだ。
その表情は、絶対に回復させる隙を与えないという意図を感じさせる。
立ち上がった彼女もそれを見てガードを固める。
しかし、十分な力のないガードの隙間から、右ストレートが顔面を捉えた。
やはり、立った時点で試合を止めるべきだったか...
今からでも遅くはないと葛藤がさらに渦を巻く。
しかし彼女は何とかダメージを耐え抜き、持ちこたえた。
ガードで威力が多少軽減されたことと、相手も疲労によりパンチの威力が低下していることが功を奏したのだろう。
瀕死にも関わらず耐え抜いた相手に驚き、止めを刺そうとする手が一瞬動きを止める。
その隙をつき、彼女は相手の両腕を覆うようにしてクリンチし絶体絶命の状況からの延命を試みる。
2人はもつれるような足取りで背面のロープまで移動し、抱き合うようにして回復を図る。
お互いの乱れた呼吸を聞き合う2人。
ふと目の前の光景に息を呑み魅入ってしまう。
死力を尽くして戦う2人は、なぜこんなに美しいのだろう。
壊し合っているようで、お互いに求め合っているようにも見える。
もはや戦術も勝算もなく、ただ必死に戦う2人のボクサー。
いや、私は審判員として自分の役割を果たさなければならない。
これ以上2人を休ませてはならない。
「ブレイ...」
そう言いかけて2人の間に割って入ろうとした瞬間、彼女の大振りの左スイングが相手選手の右頬を打ち抜いた。
一瞬、ほんの一瞬だけ会場が静まり帰った。
ダウンから立ち上がったとはいえ、彼女はもう強打を打てる状況ではないはず。
観客もその一発が信じられないのだろう。
そしてすぐに会場のボルテージは最高潮に達した。
「倒せ!!」
「耐えろ!」
口々に発せられる歓声は音の塊となってリング中央へ感情のままぶつけられる。
相手選手が口から飛び出さんとするマウスピースを食い止めると同時に、前のめりにガクンと腰を落とす。
効いてしまったのは明らかで、視点も定まらずなんとか立っているのが精一杯なのだろう。
この状況は、パンチを貰った本人が一番予想していなかった筈だ。
そして彼女は、がら空きとなった相手の顔面めがけ、右でさらに追い打ちをかけるモーションに移った。
これは...
決まる。
その予想通り、口の端に加えていたマウスピースごと吹き飛ばし、渾身の右アッパーが相手選手の顎に炸裂した。
衝撃で飛沫となった汗と血が、私の肌にその温もりを伝える。
まるでその一発に込められた熱量を物語るように。
もはや考える間もなく、私の体は動いた。
半身を2人の間にねじこむようにして入れ、崩れ落ちそうな選手の体を片手で受け止めながら、もう片方の手で試合終了のジェスチャーを示した。
観客から見たら、逆転KOというこの上なく刺激的な結末。
巻き起こる大歓声とは裏腹に、私は無事に自分の役割を全うできたことに安堵していた。
右腕で支えている選手は、明らかに試合を続けられる状態ではない。
虚空を見つめ、失神しかけているのだろう。
もし止めなければ、二の矢三の矢がこの選手を襲い続けたかもしれない。
私がここで試合を止めたのは正しい判断のはずだ。
いや、それ以前に。
もしあの時、彼女が立ち上がった時点で試合を止めていたら....勝敗は逆だった。
あの時に見せた彼女の笑顔を反芻しながら、自分の裁量が、自分の判断が試合に与える影響の恐ろしさを痛感した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・一枚30分くらいで描けたらなぁ。。。(夢)
・主観視点のメリットは、足まで描かなくていいところです笑
・ご支援いただきありがとうございます。たぶん今年最後の投稿になると思います。pixivへの投稿も含め感じたのは、「このジャンル、好きな人かなり多くね?」の一言に尽きます。