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窓の外は暗くなり始め、小雨が降っている。
会いたいと呼び出すのは彼女の方なのに、いつも私が待たされる。
遅れることを見越して先に頼んでいたコーヒーももうすぐ空になる。
スマホに目をやると、メッセージは「もうすぐ着きます!」で止まっている。
どうせ走っているのだろう。
ボクシング漬けの私にスマホが勧めてくるニュースは、最近の試合関連ばかりだ。
その中でも先日の新人王戦の記事が一際目を引いた。
ダブルノックアウト。。。へぇ、すごい試合だったんだな。。。
記事に夢中になりかけた時、喫茶店のドアベルがカランと音を立て、女性が慌ただしく入ってきた。
落ち着いた雰囲気の店内に似つかわしくなく、雨で濡れた肩で大きく息をしながら私を見つけるとにこっと笑って近づいてくる。
「遅いよ」
「えへへ。すみません病院が長引いちゃって」
「まぁいつもの事だからいいけど。何か飲む?」
「コーヒー以外でお願いしまッス。」
私を「先輩」と呼び屈託のない笑顔で話す彼女は、どこか憎めない。
人を惹きつける素質があるのだろう。
「あ、その試合凄かったっスよね!マジ興奮しました!」
他愛もない話をしながら、彼女は注文したオレンジジュースをものすごいスピードで飲み干した。
「さ、先輩行きましょ♪お楽しみはこれからっス」
私たちが会う時に行く場所は決まっている。
喫茶店を出て、私が傘をさすとすかさず彼女が肩を寄せてくる。
街灯が路面に反射する裏路地を少し歩き、ラブホテルに入る。
「よかった、空いてる部屋まだありますね」
彼女は慣れた手付きで手続きを済ませ、あっという間に部屋までたどり着く。
トップレスには慣れているが、こういう空間で2人だけになると
試合とはまた似て非なる興奮がこみ上げてくる。それは彼女も同じだろう。
ベッドに腰かけた私の前で、彼女は仁王立ちで着ているものを脱ぎ捨て、その艶体を露にする。
現役時代から少し筋肉は落ちただろうか。しかし引き締まった体と豊満なバストは当時のままだ。
「先輩」
私を押し倒し、舌を絡めキスをながら全身を愛撫してくる。
上着から、下着、そしてボトムス。破り捨てるように私の着ているものを順序よく剥ぎ取っていく。
「っ・・・シャワー・・・いいの?」
「・・んっ・・今日っは・・そのまま、したいっス」
彼女は常に攻めるのが好きらしい。溢れてくる欲望のまま、私の両胸を口で貪りながら下を指で愛撫し、獣のような目つきで私の表情を伺っている。
獣。そうだ。
荒々しいだけではなく、愛撫の技術の高さも凄まじい。
その手つきはまるで私の弱点を知り尽くしているようだ。
もう間もなくに強制的に絶頂まで押し上げられそうな予感が脳裏をよぎる。
快楽のあまり、腰が自然と反り返ってしまう。
「ふふ、先輩かわいい」
「っっぁ・・・あ・・・ぁイクっ・・いくっ・・あぁっ!!」
全身の力が一気に抜け、脳天から足先まで電流が走ったような衝撃に襲われる。
腰が小刻みに痙攣し、しばらく立てそうにない。
「先輩、早速1回目っスね♪ まだクリだけなのにぃ♪」
絶頂の後のぼんやりとした頭で天井の照明を見つめる。
あの時の光景に似ている。あの凄まじい敗北の時の。
波のようにおだやかに引いていく快楽を感じながら、私は彼女との試合を思い出していた。
私が初めて負けた試合。獣のような彼女との試合を。
当時公式9戦全勝だった私。それでも思いあがったり練習で手を抜いたりはしなかったように思う。もちろん彼女との試合も、やれるだけのことはやって望んだつもりだ。
彼女も当時7戦全勝のキャリアを持ち、二つ名で“黒豹”と呼ばれていたが、試合をするまでその理由はわからなかった。
試合開始直後から、彼女がバランスのとれたオーソドックスタイプの優秀なボクサーであることはすぐにわかった。
決定打は決めきれないものの、お互いにダメージだけが貯まる苦しい展開が5Rまで続いた。
そして第6R。
大振りの右を躱され、彼女の左がクリーンヒットした。
「ぶぇあっっ!?」
そのパンチの威力は、彼女の負っている疲労とダメージからは想像もできないほど強大なものだった。
なぜまだこんな力を?どうやって?どうして今になって?
朦朧とした頭に数多のクエスチョンが浮かぶ中、何とか必死に意識を繋ぎ止め、ダウンだけは免れようともがいた。
四肢はほとんどいうことをきかなかったが、右手でかろうじてでロープにしがみつき体を支えた。
ぼやけた視界の中で、彼女の表情が見えた。
あれは幻覚だったのだろうか。
瞳孔は獲物を前にした猛獣のようで、口の端から見えるマウスピースは牙となって私に襲いかかろうとしているように見えた。
私が大きく体勢を崩した分、彼女との距離も保たれたはずと
値踏みしたのも束の間。
彼女はその距離を驚異的な突進で一瞬にして縮めた。
後で試合映像も見たが、あれは疲労している状態のスピードとは思えないものだった。
そして彼女は獣のような表情のまま、私にフィニッシュブローを叩き込んだ。
またも恐ろしいほどの威力で。
マウスピースが宙を舞い、意識にさらに濃い霧がかかり平衡感覚が失われる中、背中とマットが接触する感覚を味わった。
それまでもダウンは経験してきたが、それとは比べ物にならないくらいの絶望的なダウン。
手を動かしたくても、首を持ち上げたくても、体から何一つ反応がない。
歪んだ視界の中で眩いばかりのライトの光が映る。私の無様な姿を晒されているようだった。、
もうダメだ。必死に支えてきた心が折れると同時に意識が遠のき、
微かに聞こえるゴングを最後に私は意識を失った。
試合後、私のことを心配して挨拶ついでに控室まで彼女が来てくれた。
「私の方が下なので、先輩って呼んでいいですか?
先輩と遊びに行きたいです!連絡先交換しましょ!」
リングを降りた彼女は黒豹から可愛げのある後輩へと変わっていた。
それから連絡を取り合い、お互いのジムにも顔を出すようになった。
しかし、あの試合の後、半年後に彼女は引退した。
正直ショックだった。実力もあり将来有望というのもあるが、
あれだけ私にボクシングが好きだと言っていた彼女が引退する理由がわからなかったから。
しかし引退という重い決断の理由に対し、他人がずけずけと踏み込んでいいものか。
モヤモヤが晴れない中、しばらくして彼女から会いたいと連絡があった。
何か彼女の力になれるなら是非と思い、すぐに会うことにした。
そこで彼女は、私と、性欲を発散したいことを包み隠さず話した。
引退関連の話を想像していたので、斜め上の依頼に正直拍子抜けした。
しかし彼女の真っ直ぐな人柄と(性欲への)情熱に負け、今日までこうして何回か会っている。
もちろん彼女と会うことで私も日々の欲求を発散できるので悪い話ではない。
しかし、彼女との関係を保っていることには、もう一つの理由がある。
それは、私がボクサーとしてどうしても晴らしたい一つの疑念。
あの試合での彼女の急変、あのパワー、そしてその後の引退。
薬物。ドーピング。
引退は、薬物により身体を壊してしまったからではないか。
彼女が今なお通院していることも、ドーピングの後遺症が理由と考えれば合点がいってしまう。
以前、コーチにあの試合について相談したことがある。
「憑依型と言って、リングに入った途端に人格が変わる選手も確かにいる。しかし試合中に急変することはまずないだろうな。
一方で強力な薬物の中には、試合中ごく短時間だけピークで別人のようになるものもあると聞く。
かわいい後輩がドーピングしていたかどうか気がかりなのもわかる。
だが今は済んだことより次の試合に集中することだ。」
済んだこと。割り切らないといけないのはわかってる。
しかし、どうしても本人から聞きたい。
拳を交えた大好きな後輩だからこそ、本当のことを言ってほしい。
「先輩。・・・・先輩!」
「。。。あ、ごめん、少し考え事してた」
「もう~、一回イっただけでぼーっとしすぎですって。先輩は現役ボクサーなんだから私より体力あるはずでしょ?ほら続きしましょ♪」
今まで中々聞けなかった。選手にとって引退は重過ぎる決断だから。
でも今日こそは聞きたい。あなたと戦ったあの試合を、鮮明に思い出したから。
「じゃあ次は。。。」
「あのねっ!あの。。。聞きたいことがあるの」
彼女はきょとんとしながら動きを止めた。
「私との試合、覚えてる?あの時、あなたは本当に強かった。」
「えへへ、照れますね」
「でもね、私をKOしたラウンドでパワーもスピードも急に上がった気がしたの。
表情まで本物の肉食動物になったみたいに迫力が増して。。。私は正直怖いくらいだった。
もちろん負けて悔しい気持ちもあるけど、これは負け惜しみとかじゃなくて、その。。。正直に教えて欲しい」
疑念を晴らす決心がついた。
「ドーピング。。。してたの?」
一瞬、時間が止まった気がした。
直後、彼女は笑い出した。
「なぁんだ、そんなこと疑ってたんですか先輩。してないですよそんなこと。」
「で、でもあのあと引退しちゃったし病院も行ってるみたいだし。。。心配で。。」
「あたし、持病があるんです。テストステロン?が過剰に分泌されるとか何とか。男性ホルモンの一種っスね。
そうすると、性欲とか攻撃性がめちゃくちゃ高まるんです。病気というか体質といいうか。。。微妙なとこっスね。」
「え、そうなの?」
予想すらしていなかった答えについ声が大きくなった。
「発作で攻撃性が急に高まることもあって、先輩との試合中もそれが起きたんだと思います。
だけど一時的に攻撃性が上がっても無理した代償は後からちゃんと体にクるんです。
このままボクシング続けてたら体がもたないってことでドクターストップかかって、引退したっス。」
「そうなんだ。。。疑ってごめん。本当にごめんね。」
彼女の体の事情があったにも関わらず、一方的に疑った自分を心の底から申し訳ないと思った。
「いいっスよ別に。隠したかったわけじゃないですし。
そりゃ、欲求を発散してたボクシングを辞める時はさすがに落ち込みましたよ。
でもボクシング辞めて性欲が高まった分は、先輩とこうして定期的に発散させてもらってますしね。」
したたかで欲望に忠実な彼女らしい説明だ。私との情事があんなに激しいのは、ボクシングを辞めたからか。
「今も通院しながら治療中なんで、カフェインとか興奮しやすいものは控えてるんスよ。それでもまだ性欲マシマシっスけどね」
「ごめんね、失礼なのは承知で聞きたいんだけど。。。それはいつか完治するの?」
言い出してから、彼女の復帰を心のどこかで期待していることに気付いた。
彼女は嬉しそうにニヤリと笑って答える。
「。。。先輩、リングの上でまた私とヤリたいんでしょ?」
「。。。次は私が勝つからね」
考えを見透かされ、彼女のペースに載せられ少しムッとしてしまう。
「さぁ、どうでしょうねぇ?.でも」
「今日の“試合”はまだこれからっスよ?」
彼女の目が、黒豹のそれへと変貌した。あの時と同じ目だった。
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わかってます。長いです。
でもこんな奇怪な話でも、思いついたものをとりあえず形にしたくなってしまうんです。
ボクシングというより、性欲お化けの同性セフレの話やんって感じになってしまいました。
あと全然話変わりますが、岡崎体育のうっせぇわカバーで今さら死ぬほど笑いました。