Previous Post

勝てるはずなど無いとしても~あきらVSちかる~Part.1/Even if there’s no way I can win… Akira vs. Chikaru – Part 1

Next Post
勝てるはずなど無いとしても~あきらVSちかる~Part.1/Even if there’s no way I can win… Akira vs. Chikaru – Part 1
1 / 10
DESCRIPTION

■試合内容

泥沼の9連敗を喫してしまった凛香の情けない姿に、親友であるあきらは何やら思う所がある様で……


といった感じで、あきらが圧倒的格上のちかるに無謀な闘いを挑むお話になります。

ドミネーション多めです!!(盛大なネタバレ)



ちなみに今回の話なのですが、来月から予定されている「凛香VSあきら」の前日譚となっておりますので、堕ちた王者シリーズを楽しみにして頂いている紳士の方にもおすすめです。


挿絵は全6枚(Part1なので例のごとく回想絵や立ち絵多め)、SSは約9200文字です(pixiv換算で読了まで約18分)。

それでは対戦よろしくお願いします~。



■Content of the match

Seeing Rinka’s pitiful state after suffering a dismal nine-game losing streak, her best friend Akira seems to have something on her mind…


So, this story follows Akira as she recklessly challenges Chikaru, who is far superior to her.

There’s plenty of domination!! (Major spoiler)



By the way, this story serves as a prequel to the “Rinka vs. Akira” arc scheduled for next month, so I highly recommend it to all the gentlemen who have been looking forward to the “Fallen Champion” series.


There are a total of 6 illustrations +α including standing pictures and differences.(Since this is Part 1, as usual, there are plenty of flashback scenes and character portraits.)


Thank you for your support.


■まえがき

前回の凛香VSナギサのエピローグを含むので、もしまだ読んでない場合はそちらを先に読んで頂いた方がより楽しめるかもです!





■Foreword

This story includes the epilogue from the previous Rinka vs. Nagisa chapter, so if you haven’t read it yet, you might enjoy this one more if you read that first!




★最後にアンケートがあります。プラン内容の方針を決める要素になりますので、よければ皆さんのご意見を教えていただけると幸いです。

There is a survey at the end. This will be a factor in deciding the content, so if you would like to give us your opinion, please do so. (Japanese)


★For non-Japanese users★

Please take a moment to translate and read this short story on sites such as https://www.deepl.com/translator m(_ _)m


---

勝てるはずなど無いとしても~あきらVSちかる~Part.1

Even if there’s no way I can win… Akira vs. Chikaru – Part 1





──────────UBC特設地下会場、メディカルルーム──────────


無機質な機械音だけが静かに響く、薄暗い治療室。

あきらは、透明なメディカルポットの中で眠る親友の姿を、ガラス越しにただじっと見つめていた。




『ま……参りましたぁっ…………私のっ、負けっ……ですぅぅぅ…………!!!』


十数分前にリング上で響き渡った、余りにも惨めで情けない敗北宣言。

自らの意思で完全降伏の言葉を叫んだ元女王は、現在特殊な培養液に満たされたポットの中で、ピクリとも動かず治療を受けている。



「りっちゃん…………」


冷たいガラスの表面に触れ、心配そうな眼差しを向けながらも、あきらの胸中にはひどく複雑な感情が渦巻いていた。


以前は”公式戦無敗の王者”と呼ばれていたにも関わらず、今や”団体随一のジョバー”の名をほしいままにしてしまっている親友の、その余りにも情けない現状に対する、苛立ちにも似た失望感。


だが─────そんな薄暗い感情を容易く呑み込んでしまうほどに、あきらの心には彼女に対する深く、重い愛情が根付いていた。



(貴女は、一体どこまで…………)


どれほど惨めな敗北を喫しようとも、どれだけ情けない姿を晒そうとも、あきらにとって凛香は誰よりも大切で、愛おしい親友であることに変わりはない。


だからこそ、”堕ちた王者”と呼ばれる程に落ちぶれてしまった今の彼女の姿を見るのが、どうしようもなく辛かった。



(このままじゃ…………間に合わないかも、しれない)


あきらはギュッと拳を握りしめる。

現在、プロスペクトリーグでは空白となった王座を巡るベルト争奪トーナメントの開催が迫っている。


今のスランプ状態の凛香がそこに出場したとしても、初戦で無様に散ってしまうのは火を見るより明らかだった。



(せめて、”アレ”さえ無ければ…………)


凛香の抱える致命的な弱点──────それは、『自身が明確に格上だと認識した相手を前にすると、心が折れて思考が停止してしまう』という悪癖。


その原因は、あきらには痛いほど分かっていた。


プロスペクトリーグの王者として絶好調だった頃、団体の興行上の都合でエリートリーグの王者との対戦や、無謀なハンデ戦、上位ランカーとのプロレスなどといった、明らかに勝ち目の薄い試合を闘わされ続けた結果、彼女の精神に「抗えない絶望」という呪いが深く刻み込まれてしまったのだと。




(アタシが……アタシが、なんとかしなきゃ…………)


もはやトーナメント開催まで残された時間は少ない。

親友がかつての輝きを取り戻す為に、自分には何が出来るだろうと考えた少女は、ある絶対的な強者と闘うことを決意する。



「…………待っててね、りっちゃん」


ガラス越しの愛しい親友へ向けて呟き、あきらは静かに、だが決して揺るがない覚悟を固めていった。






──────────2週間後、UBC特設地下会場、選手控室──────────


「ねぇ、あーちゃん……今からでも棄権した方が…………」


静まり返った控室に、凛香の弱々しく震える声が響いた。

試合用のバンテージを巻いている親友の背中を見つめる彼女の瞳には、隠しきれない深い不安の色が浮かんでいる。



「なに馬鹿なこと言ってんのよ…………そんな事より、ここ押さえてくれない?」


普段通りの表情を浮かべているあきらだが、傍目から見ても今回のマッチングには、余りにも絶望的な実力差が横たわっていた。



「だって…………相手は”あの”ちかるさんだよ!?」


”剛力銀姫(ごうりきぎんき)”ことちかるは現在ふたなりリーグの2位であり、次期王者と名高い圧倒的な強者。


対するあきらは現在プロスペクトリーグの4位であり、上位ランカーですらない。



「アンタの仇は討ってあげるから、安心して見てなさいって」


2位と4位。

数字だけで見れば、その差はわずかに思えるかもしれない。


だが、あきらは以前、同リーグ4位のメイサと闘ったことがある。

辛うじて勝ちを拾えたものの、その試合内容は序盤から一方的に滅多打ちにされ、幾度もキャンバスに沈められるという凄惨なものだった。


「仇討ちって…………」


メイサよりも遥か高みにいるちかると闘ったところで、まともな試合になるかすら怪しいと、凛香は考えている。



─────────それこそ、かつて自分が彼女と闘った時のように。




「ッッ…………」


ふいに、少女の脳裏にちかると闘った───正確には、為す術なく蹂躙されてしまった───時の残酷な記憶がフラッシュバックし、凛香はビクッと不自然に身体を強張らせた。


あの時はランキング2位同士の対決であり、下馬評では凛香が優勢と思われていた。だが、いざ蓋を開けてみれば、そこにあったのは絶望的なまでの実力差。


元王者の少女は手も足も出ず、鉄壁の肉体と理不尽な剛力の前にただ滅多打ちにされ続け、最後は3ラウンドで無様な失神失禁KO負けを喫してしまったのだった。





「まぁ確かに……アタシが闘っても、おそらく無様にKOされて終わりでしょうね」


バンテージの巻き具合を確認しながら、あきらは自らの置かれた絶望的な状況をあっさりと口にした。


「なら……っっ!!」


親友に傷ついてほしくない一心で、凛香が必死に言葉を続けようとした、その瞬間。


「アンタは何も言わないで…………最後まで、アタシの闘いを見てればいいの」


白く分厚いバンテージの先からスッと伸びたあきらの人差し指が、凛香の唇にそっと押し当てられ、その先の言葉を遮った。


「あーちゃん…………」


敗色濃厚な現実を前にしてもなお、凛として放たれた力強い言葉。

その紅色の瞳の中には、確かに強い覚悟が宿っていたのだが──────


「っっ…………!!」


唇に押し当てられたその細い指先が、強がりな言葉とは裏腹に、微かに、けれどはっきりと小刻みに震えていることに───────凛香は、気付いていた。






──────────UBC特設地下リング──────────


「皆様、大変長らくお待たせいたしました!! 本日のメインイベント……プロスペクトリーグ対ふたなりリーグのエキシビジョンマッチを開始いたします!!」


興奮した実況の声が会場の湿った空気を震わせていく。

スポットライトが青コーナーの入場ゲートを射抜くと、観客のボルテージは一気に最高潮に達した。


「まずは青コーナー……プロスペクトリーグ随一のカウンターの名手。

 本日は親友の無念を晴らすべく、圧倒的な格上に挑みます!! プロスペクトリーグ現在4位……”紅の返し刃(レッドリバーサル)”こと、あきら~~~~~!!!」




華やかなポニーテールを揺らし、凛とした表情で花道を歩む少女。

その紅い視線は真っ直ぐにリングを見つめていたが、シャドーを繰り返す指先は、僅かに強張っているようにも見えた。




「続きまして赤コーナー……今、ふたなりリーグで最も王座に近いと言われる彼女がやってきました! 圧倒的なフィジカルで数々の強者を沈めてきた、冷徹なる絶対強者!! ふたなりリーグ現在2位、”剛力銀姫”こと、ちかる~~~~~!!!」




地鳴りのような歓声の中、銀髪を靡かせたちかるが姿を現す。

感情の欠片すら映し出さない、冷徹なサファイアを思わせる深い蒼の瞳は、熱狂する観客を素通りし、ただ獲物を捉える捕食者のように鋭く光っていた。






二人の見目麗しい地下女子ボクサーがリング中央に歩み寄り、至近距離で視線を交錯させる。


張り詰めた緊張感の中、ちかるが僅かに口角を上げ、氷のように冷たい声で囁いた。



「親友の仇討ち、だっけ?……嫌いじゃないよ、そういうの」


そして一瞬言葉を切ると、彼女はあきらの全身を品定めするように眺めてから言葉を続ける。


「でも…………貴女じゃ無理じゃないかな?」


言い終わると同時に女は視線を会場の巨大スクリーンへと向けていく。

そこには、少女にとって余りにも無情な数字が映し出されていた。




中々お目にかかれないほど、オッズは圧倒的にちかるの優勢に偏っている。

あきらに賭けているのは、大穴狙いのギャンブラーか、ごく一部の熱狂的なファンのみ。


大多数の客はあきらの敗北を既定路線と考えており、むしろ、少女が『何ラウンドの間リングに立っていられるのか』ということの賭けさえ行われており──────当然の様に、一番人気は1ラウンドでのKOとなっていた。




「っ…………そんなの、やってみなきゃわからないでしょ!!」


あきらは負けじと強気に言い放ち、鋭い視線をちかるの瞳に突き刺していく。


だがその虚勢の裏側では、まだ試合が始まっていないにも関わらず心臓が早鐘を打ち鳴らしており、背中には冷たい汗が幾筋も伝っていた。


(この迫力……この人、アタシが闘った中で多分誰よりも…………)


目の前の女から放たれる、圧倒的な強者のオーラ。

間近でそれに晒された少女は、否が応でも理解させられてしまう─────ちかるは、自分がこれまで闘ってきたどの女よりも強い選手であるということを。



(でも、諦める訳にはいかない!! りっちゃんの為に、アタシは…………)


震える拳を強く握り込み、恐怖を無理やり闘志へと変換する。



(まずは……速攻で一発、ぶちかましてやる!!)


圧倒的な絶望を前にしてなお、少女の紅い瞳に強い決意の炎が宿っていく。

そして試合開始を告げるゴングが、地下の静寂を切り裂いた。


カーン!!!






ゴングの残響が鳴り響く中、両者はリング中央へと歩み寄り、互いの健闘を祈るお決まりのグローブタッチが行われようとしていた。


(触れた瞬間……懐に潜り込んでやる!!)


この下馬評を逆手にとった奇襲を仕掛けるべく、あきらは密かに覚悟を固めていく。

そして互いのグローブがカツン、と軽い音を立てて触れ合った、その瞬間。


あきらは全力で飛び出した────────ただし、自身の後方へ向けて。



「お~っとあきら選手、機敏な動きで距離を取っていきました!!

 流石にちかる選手を相手にインファイトは厳しいと判断したのか!!?」



「ッッ…………!!!」


思考とは正反対の動きを取ってしまったことで、あきらは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていく。



拳を合わせる前までは、速攻を仕掛けるつもりだった。


だが、グローブ越しに伝わってきたちかるの気配─────名状しがたい程の絶対的な重圧を前に、ボクサーとしての本能が反応してしまい、気付けば身体が勝手に動いてしまっていた。


(くそっ…………なにビビってんのよアタシ!!)


闘う前からプレッシャーに屈し、無意識のうちに後退させられてしまった自分自身への激しい恥辱と怒りで、少女の頬が朱色に染まっていく。


「………………」


一方のちかるは、過剰に距離を取ったあきらを嘲笑うでもなく、ただ無表情のまま淡々と距離を詰めていった。






「あきら選手、見事なアウトボクシングでちかる選手を寄せ付けません!!」


1分以上の長い時間、あきらはちかるから逃げる様に距離を取り続けていた。


(距離を取ってもいずれ捕まるわ…………覚悟を決めなさい、アタシ!!)


だが、このまま続けた所で勝ち目がないと判断したあきらは自らの恐怖を振り払うように、踏み込んで左ジャブを放っていく。


「シッ!!」


そして、鋭く放たれたその紅い一撃を皮切りに、リング中央で激しいジャブの応酬が繰り広げられていった。




「激しい左の差し合い!!

 あきら、ちかる相手に一歩も譲らず食らいついております!!」


「っっ…………やぁっ!!!」

「………………」


互いに直接の被弾のないジャブの差し合い。


だが、ちかるが時折ジャブに混ぜ込んで放つ右の強打が空気を裂くたび、あきらの背筋にゾクゾクとした悪寒が走り抜けていく。


「ッッッ!!!」

(疾っっ…………それに、なんて重圧っ……!!)


今のところ躱せてはいる。


だが、一歩間違えればいつダウンを奪われてもおかしくないような危険地帯での攻防で、少女の体力と精神力は急速に削られつつあった。






ギリギリの攻防が続く中、あきらは決して集中力を切らさず、その一瞬を待ち続けていた。


そして─────ちかるが何気なく放った右ストレートの軌道を見切った瞬間、少女は決死の覚悟で懐へと踏み込んでいく。


(今だっ!! ここしかないっ!!!)


逃げ出したくなるような重圧をねじ伏せ、全身のバネを使って少女は渾身のカウンターを放つ。


「やぁぁぁっっ!!!」


自身の二つ名の由来ともなっているその紅い拳は、絶対強者の無防備な顔面をこれ以上ないほど完璧に捉えていった。


「ッッッ…………!!!」



「あきら選手の十八番、クロスカウンターが完璧に決まった~~~~!!!」


リングに乾いた破裂音が響き渡り、まさかの展開を前に実況や観客達のどよめきが会場を揺らす。


「あーちゃんナイスっ!!」


青コーナーで見守る凛香も、ガッツポーズをしながら興奮した笑みを浮かべていた。




(決まった!! 流石にこれは効いたハズ…………!!)


まさかの大金星を予感させる展開に、あきらを含めて一瞬の期待が会場全体を包み込んでいたのだが────────



「…………ぇ?」


拳を振り抜いたままのあきらの口から、間抜けな声が漏れる。


自らの拳には、確かに大木を殴りつけたような硬い感触が残っていた。

だが目の前のちかるの首は微動だにせず、その顔には試合開始時と何一つ変わらない、彫刻のように美しく冷たい無表情が張り付いていたのだ。



「…………これで終わり?」


”剛力銀姫”と呼ばれているその女は、ただひたすらに退屈そうな、冷めきった蒼い瞳で少女を見下ろしている。



(嘘、でしょ……アタシの全力、なのに…………)


それは、どんな猛攻を受けるよりも残酷な絶望だった。


受け入れがたい現実を前にあきらの思考が完全にフリーズし、動きが止まった、その直後──────



「じゃあ、次は私の番ね」


無造作に振り上げられた漆黒のアッパーカットが、隙だらけとなった少女の顎先を的確に打ち抜いていった。



「ぐぴゅっっっっっ!!!!」


「あ~っとちかる選手、お返しとばかりに強烈なアッパーカット!!

 あきら選手の顔面を盛大に弾き飛ばしていったぁ~~~~~!!!」


無様な悲鳴を上げ、数センチ程ふわりと宙に浮いた少女の肉体。

親友には劣るものの、雌としての魅力に溢れた胸の果実はたわわに揺れ、自身の存在を激しく主張していく。



(ヤバッ、意識っ……トぶっ…………)


ダウンを避けるべく着地と同時に踏みとどまろうとするものの、既に足元が覚束ないのか、ふらふらと千鳥足でリングを彷徨ってしまっている。



「あ゙……ぅ、ゔゔっ…………」


もはや意識も朦朧としており、完全に無防備な姿を晒してしまっている少女。


そんな格好の獲物を見逃す訳もなく────────少女の白い腹に、漆黒の拳が深々と突き刺さっていった。


「おぶぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!」







「あ~っとあきら選手、わずか2発でダウンを奪われてしまったぁ!!!

 しかも、完全に悶絶してしまっております!!

 果たして立ち上がれるのかぁ!!?」


「お゙っ……あ゙っ…………あ゙え゙え゙え゙っっ………………」


脳内を迸る激痛を和らげるべく、グローブでお腹を押さえながらキャンバスの上でビクビクと痙攣を繰り返している少女。


胃袋を直接殴りつけられたせいか、口からは大量の涎が止めどなく溢れ出し、舌を突き出しながら幾度も情けない声でえずいてしまっていた。



(な、なに……この重さっ…………)


受けたパンチはたったの2発。


だがその拳には、プロスペクトリーグ随一の剛腕を誇るエリザベスの強打すらも明確に凌駕する、あきらのボクシング人生において未だかつて味わったことのない桁違いの威力が込められていた。




「あーちゃん!!!」


青コーナーから悲痛な叫び声が響く。

ロープを強く握りしめた凛香が、血の気が引いた真っ青な顔で、心配そうにキャンバスに沈む親友の姿を見つめていた。


(やっぱり……ちかるさん相手なんて無謀過ぎたんじゃ…………)




「4……………………5……………………6……………………」


無情なレフェリーのカウントが、熱狂する地下リングに響き渡る。


未だ少女の肉体は激痛に支配されており、並のボクサーであればそのまま試合が終わってしまってもおかしくない状況なのだが────────



(この程度でっ……負ける訳には…………!!!)


あきらはカウント9でギリギリ立ち上がると、レフェリーに向かって震える腕を無理やり持ち上げ、ファイティングポーズを構えてみせた。



「まっ……まだ…………まだ、やれまずっ………………」


掠れた声で、必死に試合続行をアピールする。


膝は生まれたての小鹿のようにガクガクと震えており、腹部の激痛で顔は蒼白になっているものの、その紅い瞳にはしっかりと闘志の炎が宿っていた。



「ボックスッッ!!!」


レフェリーによる試合再開の合図が響く中、少女は一瞬だけリング下へ視線を落とし、愛しい親友の姿をちらりと横目に捉える。


(りっちゃん…………)


そして、心配そうに見つめる凛香の不安を払拭するように、あきらは口元から垂れる粘ついた唾液を乱暴に拭い去り、精一杯の強気な言葉を吐き出していく。


「おぇっ…………ま、まだまだ……試合はこれからよ!!」






「あきら選手、見事な根性で立ち上がりましたがダメージはまだ抜けてないか!?」


試合再開後、あきらはガクガクと震える足を踏みしめてちかるの動向を注視している。


だがちかるはすぐに間合いを詰めようとはせず、少し離れた距離でピタリと足を止め、ゆっくりと口を開いていった。


「貴女…………良いカウンター持ってるのね」


その顔には相変わらず感情の欠片も浮かんでいなかったが、声の響きには一切の嘲笑や煽りはなく、純粋な称賛の念が込められていた。



「えっ……あ、ありがとう…………」


返事はしたものの、予想外の言葉にあきらが僅かに眉をひそめた、その直後。


「それじゃ……私も、良いもの見せてあげる」


氷のような冷ややかな宣告と共に、ちかるの姿がフッとブレた。



「……ッ!!」

(来るっ! ガードを……!)


頭では分かっていても、まだダメージが残っている肉体はその圧倒的な踏み込みの速度に反応することが出来ず──────リングに、少女の無様な悲鳴が響き渡った。



「がふぅっっ……ぶひゅっっ……お゙ぇぇっっ…………ぐぷぅっっ!!!」


右ストレート、左フック、右ボディ、ショートアッパー。


息をつく暇も、防御の体勢を立て直す隙すら与えない、無呼吸状態から繰り出される鋭い拳の連撃が、少女の肉体へ容赦なく突き刺さっていく。



「出ましたっっ!!

 ちかる選手の代名詞、”銀姫の蹂躙”が炸裂~~~~~!!!」


”銀姫の蹂躙(シルヴァリー・ドミネーション)”。

大層な技名とは裏腹に、やっていることはただのラッシュである。


「あ゙ゔっっ……がひゅぅっっ……んぶぅぅっ……あ゙え゙え゙っっっっ!!!」


だが、UBCの中でもトップクラスの膂力を誇る女が放つその連撃は、決して名前に見劣りすることのない、凄まじい威力と迫力が込められていた。




「あーちゃん、早く逃げてっ! せめてガードを……ッッ!!」


必死に叫ぶ凛香だったが、無様に滅多打ちにされ、飛び散る汗と涙で顔をぐしゃぐしゃにしている親友の姿を見て、ふとその言葉を詰まらせてしまう。


(あーちゃんが……あの時の私みたいに…………)


手も足も出ず、圧倒的な暴力の前にただただ屈服させられていく絶望感。


かつて自分がちかると闘い、為す術なく蹂躙された時の惨めな記憶が、リング上でサンドバッグになっているあきらの姿とふいに重なって見えてしまったのだ。






「あきら選手、打たれるがまま~~~~~!!

 完全に防戦一方、いや……もはや、ただのサンドバッグ状態です!!!」


「がぴゅっっ…………ゔえ゙え゙っ…………お゙っ……ぶひゅぅぅぅぅ…………」


一撃一撃が必殺の威力を誇る漆黒の拳が、あきらの顔面を上下左右に無慈悲に弾き飛ばし、柔らかい生腹を容赦なく抉っていく。



(やばっ……これっ…………もうっ、ダメかもっ……………………)


視界が幾度となく白く明滅する中、反撃はおろか、もはや自分がどこを殴られているのかすら認識できないまま、少女はただボロ雑巾の様に蹂躙され続けていた。




(でもっ…………まだっ……アタシは、負ける訳にはっ…………)


そんな中、自身の闘う理由を思い浮かべながら、あきらはこの絶望的な状況でも諦めずに耐え続けようとしていたのだが──────


「がひゅっっっ…………」


無造作に振り上げられた漆黒のアッパーカットが、少女の顎先を完璧に打ち抜いた。



「ぁ…………んぁぁっ……………………」


そして脳髄を直接揺らされるような強烈な衝撃を受け、あきらの中で辛うじて張り詰めていた意識の糸が、プツンと無情にも断ち切られてしまう。



「あ~っと、あきら選手の身体が崩れ落ちていく~~~!!

 またしてもダウンしてしまうのか!!?」


だらりと脱力し、白目を剥きながら完全に失神してしまっている少女の肉体。


あとほんの数秒ほどでキャンバスを舐める事になるであろうその哀れな少女に対して──────



「これで…………終わりっ!!」


氷のように冷酷な呟きと共に、ちかるは右腕に恐ろしいまでの力を溜め込み────────渾身の右ストレートを、容赦なく振り抜いていった。



「がぴゅっっっっっっ!!!!!」


凄惨な打撃音がリングに響き渡り、あきらの身体がまるで交通事故にでも遭ったかのように、大きく後方へと吹き飛ばされていく。


そして肉体がキャンバスへと墜落する派手な音と共に、あきらはこのラウンド二度目となるダウンを喫したのだった。






「あきら、ちかるの剛腕を前に為す術なくダウンを奪われてしまったぁ!!!」


見目麗しい美少女の凄惨かつド派手なダウン劇に、観客たちは底知れぬ嗜虐心を刺激され、本日一番の熱気と歓声が会場を埋め尽くしていく。



「あーちゃんっ!!」


青コーナーから身を乗り出し、喉が裂けんばかりの悲痛な叫び声を上げる凛香。


だが、今のあきらの鼓膜には、愛しい想い人からの必死の呼びかけすらも全く届いていない。



「ぅ…………ぁ…………ぁぁ……………………」


まるで打ち捨てられたボロ人形の様に、あきらは焦点の合わない虚ろな瞳を宙に彷徨わせ、口から無様に涎を垂れ流しながら情けない呻き声を漏らし続けている。


もしこれが大学のサークルで行われるような試合であれば、既にタオルが投げ込まれているか、さもなくばレフェリーによって強制的にストップさせられていることが容易に想像できるほどの惨状であった。







「しかし、あきら選手…………どう見ても失神してしまっております!!

 これは大方の予想通り、1ラウンドKOとなってしまうのか~~~!!?」



愛する親友のため、自身では到底敵わない絶対的な強者へと挑んだ勇敢な少女。


だが、そこで待っていたのは彼女の予想を遥かに上回る残酷なまでの実力差であり──────彼我の力量差を見誤った代償を、少女は己の身体で容赦なく”解らされて”しまっていた。






【勝てるはずなど無いとしても~あきらVSちかる~】Part.2(Fin)へ続く_____




■あとがき

ここまでお読み頂き誠にありがとうございます!!

試合は決着へ向けてますます盛り上がっていきますので、是非お楽しみに~。


↓作中に出てきた凛香とちかるの試合




■Afterword

Thank you so much for reading this far!!

The match is heating up as we head toward the climax, so please stay tuned!


↓The match between Rinka and Chikaru featured in the story







HATE(ヘイト) PIXIV FANBOX 104 favs
VIEWS1
FILES10 files
POSTEDApr 21, 2026
ARCHIVEDApr 21, 2026